説明

血管新生および創傷治癒活性がある薬剤

本発明は、血管新生、創傷治癒および/または内皮細胞遊走を促進する、血管新生クリスタリンタンパク質の使用に関する。αAクリスタリンおよびβB2クリスタリンはこれらの方法において特定の用途を有する。クリスタリンは通常、単量体型である。典型的に、エラスターゼIなどのプロテアーゼ酵素によるタンパク質の部分的加水分解によって調製できる、トランケート型のβB2クリスタリンタンパク質が利用される。眼球組織からのクリスタリンタンパク質の精製方法についてもまた、述べられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生および/または創傷治癒を促進するための血管新生クリスタリンタンパク質の使用に関する。本発明はまた、血管新生クリスタリンタンパク質を含む組成物、およびクリスタリンタンパク質を精製する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
クリスタリンは高度に屈折性の水溶性タンパク質であり、代謝酵素およびストレス保護タンパク質と関連がある。クリスタリンは脊椎動物の眼水晶体の主要構成成分であり、タンパク質含量の90%までを構成することができる。哺乳類中に存在する3つのクラスのクリスタリン(α、β、およびγ)の進化的関係は明白に確立されている。
【0003】
2つのαクリスタリン遺伝子、αAおよびαB(それぞれ酸性および塩基性)があり、およそ60%の配列同一性を共有するタンパク質をコードする。αAおよびαBクリスタリンは、クリスタリンドメインとα−クリスタリン−HSPドメインとの2つのドメインを有する。2つのその他のドメイン、すなわちHSP20ドメインおよびIbpAドメインは、α−クリスタリン−HSPドメインと相同性を有する。αクリスタリンは熱ショックによって誘発でき、小型熱ショックタンパク質(sHSP)ファミリーのメンバーである。それらは分子シャペロンとして機能し、折り畳まれていないまたは誤って折り畳まれたタンパク質を大きな水溶性低分子量集合体中に保持する。これらの異種性集合体は、その中にαAおよびαBサブユニットが3:1の比率で存在する、αクリスタリンの30〜40個のサブユニットからなる。
【0004】
αクリスタリンは全ての動物界に存在するが、全ての生物に必ずしも存在するわけではない。αBクリスタリンのみがストレス誘導性であることが分かった。αAクリスタリンの発現は本質的に眼水晶体に限定され、いくつかのその他の組織には微量のみ見いだされる。このため、αAクリスタリンは本質的に眼水晶体特有のファミリーのメンバーである。αBクリスタリンはより広く発現され、特に脳、心臓、および筋肉に豊富である(Bloemendalら、2004年)。
【0005】
βクリスタリンはβ/γクリスタリンファミリーのメンバーである。βクリスタリンを含む少なくとも5つの異なるタンパク質がある。タンパク質のβ/γクリスタリンファミリーは、4つの非常に良く似た「グリークキー」モチーフに折り畳まれた2ドメインβ構造を含有する。βクリスタリンは、ホモ/ヘテロ二量体またはより高次の複合体を形成する。βクリスタリンオリゴマーの構造は、それらのN末端アーム間の相互作用を通じて安定化するようである。βB2クリスタリンは、XTALbgドメインの重複を含有する。少なくとも5つのγクリスタリンが、ウシおよびラットの水晶体中で同定されている。
【0006】
α、β、およびγクリスタリンは、脊椎動物眼水晶体の主要タンパク質構成要素であり、αクリスタリンが分子シャペロンならびに構造タンパク質の双方であるのに対し、βおよびγクリスタリンは構造タンパク質である(Bloemendalら、2004年)。豊富な水溶性クリスタリンなどの水晶体タンパク質は置き換えられないので、生物の生涯にわたって持ちこたえなくははならない。βB2クリスタリンは、眼水晶体中におけるクリスタリンの高い溶解性を保つのに必須であることが実証されている。創傷中に起きる生理学的条件の変化に際して、その他の組織中ではその発現は誘発されないように見える。
【0007】
タンパク質は、より長く隣接している残基の配列に及ぶ顕著な配列類似性が検出できれば、進化的に関連していると見なすことができる。このような相同的なタンパク質は、それに応じて、それぞれ配列同一性が約50%よりも高いまたは低い、ファミリーおよびスーパーファミリーに分類される。顕著なことにはαクリスタリンとβ/γクリスタリンは、ドメイン構造または配列相同性に関して近い構造的関係にない。
【0008】
歴史的にクリスタリンは、今やそれぞれの遺伝子配列の分析を通じて識別可能なクラスに対応する、形成されるオリゴマーのサイズによってα、β、およびγクラスに分類されてきた。αクリスタリン凝集体が600から180〜80kDaの範囲であり、βクリスタリン凝集体が200〜50kDaの範囲であるのに対し、γクリスタリンは単量体であってそれらの相対分子量は20〜25kDaの範囲である(Ajazら、1997年;Hejtmancikら、1997年)。βクリスタリンは凝集サイズが最も変化に富み、いくつかの特徴的な集合体クラスを形成する:βH(主として160〜200kDaの八量体)、βL1(主として70〜100kDaの四量体)およびβL2(主として46〜50kDaの二量体)(Hejtmancikら、1997年)。
【0009】
αA(酸性)およびαB(塩基性)の2種のαクリスタリンについて上の通り述べられているのに対し、7種に達するβクリスタリン、すなわち3種の塩基性B1、B2、B3と、3種の酸性A2、A3、A4と、βSと称される7番目の形態とが知られている。同様に数種のγクリスタリン(A、B、D、E、およびF)がある。ζ、λ、および熱ショックタンパク質(hsp)hspB1およびhspB8などのその他のクリスタリンについてもまた知られている。
【0010】
αA、βB2、およびβB3クリスタリンは、それらの最後から2番目のセリン残基においてリン酸化できる。クリスタリンタンパク質ではその他の多数の翻訳後修飾(PTM)が起きることが知られており、動物の生涯全体を通じてこれらのタンパク質は保持されるため、時が経つにつれて蓄積する。同定されたPTMとしては、メチル化、アセチル化、ホスホリル化、チロシンとトリプトファン残基の酸化、グリコシル化、グルタチオン、S−メチルシステイン共有結合が挙げられる。水晶体クリスタリン中で起きるPTMタイプのレビューは、Hoehenwarterら、(2006年)によって提供される。
【0011】
βクリスタリンは、全部ではないとしても大部分の脊椎動物種における豊富な水晶体タンパク質であり、網膜中のβB2クリスタリン発現をはじめとして、ヒヨコの眼および眼外の非水晶体組織中で報告されている(Headら、1991年)。さらに水晶体外βクリスタリンの発現が哺乳類で見つかっており、βB2クリスタリンはマウスおよびネコ神経網膜および色素網膜中、ならびにネコ虹彩中で発現されることが示されている(Dirksら、1998年)。水晶体に見られるよりも低いレベルで存在するもの、神経網膜中のβB2クリスタリンの出現および蓄積は、この組織の機能的成熟と同時に起きる(Headら、1995年)。βB2の発現はまた、ウシ精巣およびラット脳でも報告されている(Magaboら、2000年)。
【0012】
βB2の水晶体外発現は、水晶体中におけるその構造的役割に加えて、それが非水晶体組織中で代謝的役割を果たすかもしれないことを示唆する。可能な代謝機能と一致して、βB2はcAMP−依存キナーゼ(PKA)によってリン酸化される。意外にも、タンパク質の2つの形態がSDS−PAGEによって検出され、その1つのみがPKAによってリン酸化される(KantorowおよびHorwitz、1997年)。cAMPもPKAもなしの同一条件下における組み換えマウスβB2およびウシβB2のインキュベーションもまた、ホスホリル化をもたらした。この生体外自己ホスホリル化は、Mg2+に依存してセリン特異的である。βB2C末端アームの欠失は、自己ホスホリル化活性を無効にしないことが示されており、自己ホスホリル化には、PKAホスホリル化について同定された最後から2番目のC末端セリンとは異なるセリンが関与することが示唆される。
【0013】
以前の報告は、眼水晶体中のリン酸化βクリスタリンタンパク質を同定してβBpと命名した(Kleimanら、1998年)。このタンパク質は後にβB2クリスタリンと改名され、新しい皮質細胞中で合成される。水晶体核のβB2クリスタリンは、絶対濃度と総可溶性タンパク質画分に対するその比率との双方が、顕著に減少することが示された(McFall−Ngaiら、1986年)。核可溶性βB2クリスタリンの翻訳後変化は、βBp分子の見かけの分子量におけるおよそ3000ダルトンの段階的減少をもたらして、23kDaのタンパク質をもたらし、それはβB2クリスタリンについて報告された相対分子量と相関する。
【0014】
国際特許出願第PCT/US2004/014920号明細書(国際公開第2005/004894号パンフレット)は、「保護タンパク質」が関与する、細胞または組織損傷によって特徴づけられる病状の治療について述べている。保護タンパク質は本明細書中で、タンパク質の溶解性および/または安定性を改善する、αAクリスタリン、αBクリスタリン、γDクリスタリン、Sic A、p26、および高熱安定性クリスタリンなどの小型分子シャペロンタンパク質であると定義される。P26は、外殻鹹水エビの低分子量シャペロンタンパク質である。SicAは小型熱ショックタンパク質ファミリーの別のメンバーであり、サルモネラ(Salmonella)のIII型排出系のシャペロンタンパク質である。これらのシャペロンタンパク質は、損傷からその他のタンパク質を保護することにより作用し、立体構造変化および酵素的切断または消化からの分解を最小化することにより機能して、それによって細胞および組織の生存度を高めると述べられている。保護タンパク質の特性としては、創傷治癒の促進が挙げられると述べられている。
【0015】
国際特許出願第PCT/JP2004/00609号明細書(国際公開第2004/096277号パンフレット)は、眼球内血管新生疾患のための予防薬または治療薬の使用に関する。薬剤はクリスタリン阻害物質であると述べられており、βB2クリスタリンをコードする配列に相補的なヌクレオチド配列を有する、アンチセンスRNAオリゴヌクレオチドを含むことができる。特に高レベル酸素への網膜の曝露によって誘導される網膜の脈管構造内または周辺でβB2クリスタリンが発現される、動物モデルについて述べられている。高酸素条件はプロピルヒドロキシラーゼ活性がコラーゲン中でヒドロキシプロリンを形成するために重要であり、βB2クリスタリン発現の観察はタンパク質の構造的役割と一致する。
【0016】
あらゆる皮膚の破損は、原因にかかわらず外来性病原体に身体へのアクセスを与え、それは生命に関わるかもしれない重篤な感染症に温床と潜在部位を提供する。急性および非治癒慢性創傷の双方が、治療および健康管理システム双方の観点から、いまだに課題である。したがって集中的で高価な治療を必要とすることが多い、急性および慢性創傷のための改善された治療に対する継続する必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
大まかに述べると、本発明は特定の哺乳類のクリスタリンタンパク質が血管新生活性を有して、内皮細胞増殖および/または遊走を促進できるという驚くべき観察に端を発する。したがって1つ以上の形態にある本発明は、それだけに限らないが、創傷治療および創傷治癒促進にまで及ぶ。
【0018】
より詳しくは、本発明の一態様では、有効量の少なくとも1つの血管新生クリスタリンタンパク質で対象を治療するステップを含む、それを必要とする対象において血管新生を促進する方法が提供される。
【0019】
本発明の他の態様では、少なくとも1つの血管新生クリスタリンタンパク質によって対象を治療するステップを含む、それを必要とする対象において内皮細胞増殖および/または遊走を促進する方法が提供される。
【0020】
本発明により具現される方法に従って、あらゆる血管新生クリスタリンタンパク質を使用して、血管新生または内皮細胞増殖および/または遊走を促進できる。少なくともいくつかの形態では、血管新生クリスタリンタンパク質はαAクリスタリンタンパク質であり、またはαAクリスタリンまたはβB2クリスタリンの血管新生断片である。βB2クリスタリンは未変性(例えば未消化)では血管新生活性を有さないが、酵素的部分的消化によって提供されてもよいこのクリスタリンタンパク質のトランケート型は、血管新生を促進する(すなわち血管原性である)ことが意外にも分かった。エラスターゼおよびその他のプロテアーゼなどの酵素は創傷部位に存在し/放出され、したがって未変性βB2クリスタリンそれ自体は血管新生または創傷治癒に対する効果を有さないが、未変性タンパク質を投与して、創傷または治療部位で切断してタンパク質のトランケート型活性形態を放出できる。したがって未変性βB2クリスタリンは本発明の実施態様において有用性を有する。さらに血管新生および内皮細胞遊走は創傷治癒機序の重要な構成要素であり、血管新生活性があるβB2クリスタリンタンパク質はまた、ここで述べられているように創傷治癒および内皮細胞促進においても有用性を有する。
【0021】
したがって本発明の他の態様では、少なくとも1つのβB2クリスタリンタンパク質の有効量を対象に投与するステップを含む、対象において創傷を治療する方法が提供される。
【0022】
本発明の他の態様では、少なくとも1つのβB2クリスタリンタンパク質の有効量を対象に投与するステップを含む、対象において創傷治癒を促進する方法が提供される。
【0023】
他の態様では、薬学的に許容できるキャリアと共に、少なくとも1つのβB2クリスタリンタンパク質を含む、本発明で具現化される方法で使用するための医薬組成物が提供される。
【0024】
本発明の他の態様では、対象において血管新生を促進するための少なくとも1つのクリスタリンタンパク質の使用が提供される。
【0025】
本発明の他の態様では、対象において内皮細胞の増殖および/または遊走を促進するための少なくとも1つのクリスタリンタンパク質の使用が提供される。
【0026】
本発明の他の態様では、対象において創傷を治療し、または創傷治癒を促進するための少なくとも1つのβB2クリスタリンタンパク質の使用が提供される。
【0027】
クリスタリンタンパク質は、標的組織または創傷部位に直接投与できる。皮膚および開放創傷の治療のためには、クリスタリンタンパク質を許容可能なキャリア中で局所的に投与できる。
【0028】
さらに本発明は、クリスタリンタンパク質を精製する方法にまで及ぶ。したがって本発明の他の態様では、
(a)動物死体から得られる眼水晶体の水晶体シースを除去して、眼水晶体の残りの水晶体組織を残すステップと、
(b)水晶体組織からクリスタリンタンパク質を溶媒に溶解させる間、水晶体組織を水性溶媒に入れるステップと、
(c)溶媒からクリスタリンタンパク質を回収するステップと
を含む、少なくとも1つのクリスタリンタンパク質を精製する方法が提供される。
【0029】
少なくともいくつかの形態では、本方法は、溶媒からクリスタリンタンパク質を回収するのに先だって、溶媒から未溶解の水晶体組織を除去するステップをさらに含む。
【0030】
精製方法はまた、眼球をスライスして眼球に切り込みを入れ、眼球に圧力をかけて、眼球から切れ目を通じて水晶体を押し出すことにより、水晶体組織を提供するステップも含むことができる。水晶体シースは、常態では水晶体を溶媒に浸漬するのに先だって除去される。溶媒はまた酸性化して、水晶体組織からのクリスタリンタンパク質の溶出を助けることができる。したがって精製方法は、水晶体組織を初期所定間隔で溶媒中に入れた後に、溶媒のpHをpH5.0以下に低下させるステップをさらに含むことができる。クリスタリンタンパク質の溶出は、いかなるプロテアーゼも消化酵素も溶媒に添加しなくても起きることができる。すなわちその中に水晶体組織が入れられる溶媒は、このようないかなる酵素も含まないことができる。あらゆる適切なクロマトグラフィー技術を使用して、溶媒からクリスタリンタンパク質を回収できる。溶媒は典型的に水である。
【0031】
本発明の他の態様では、
(a)眼球をスライスして、眼球に少なくとも1つの切り込みを入れるステップと、
(b)眼球に圧力をかけて、眼球から切れ目を通じて水晶体を押し出すステップと、
(c)水晶体からクリスタリンタンパク質を溶媒に溶解させるステップと、
(d)クリスタリンタンパク質を溶媒から精製するステップと
を含む、動物死体眼球の水晶体から1つ以上のクリスタリンタンパク質を精製する方法が提供される。
【0032】
少なくともいくつかの形態では、切り込みは眼球の強膜と瞳孔の間に入れられる。水晶体除去に先だって眼球を動物死体から分離でき、または水晶体は眼球を死体の中に置いたままで眼球から除去できる。クリスタリンタンパク質は、(例えばC4 RP−HPLCカラム上での)クロマトグラフィー分離またはその他の適切な分離技術によって溶媒から精製できる。
【0033】
本発明に従って使用されるクリスタリンタンパク質は、例えばヒト、ウシ、ヒツジ、ブタまたはヤギのクリスタリンタンパク質など、無脊椎動物または哺乳類由来であることができる。少なくともいくつかの実施態様では、哺乳類のクリスタリンタンパク質が使用される。クリスタリンタンパク質は、典型的に単量体型である。単量体型は、クリスタリンタンパク質のトランケート型またはプロテアーゼ切断形態からなることができる。
【0034】
「クリスタリンタンパク質」という用語は、本発明の文脈で、天然クリスタリンタンパク質、ならびにタンパク質の血管新生および/または創傷治癒活性を本質的に保持する、血管新生変異型、トランケート型(例えば断片)、および修飾形態のタンパク質を包含する。特に適切なトランケート型としては、エラスターゼIまたはキモトリプシンなどの適切なプロテアーゼによるタンパク質の部分的消化によって提供できる、球形ドメインまたは1つ以上(典型的に全て)の「グリークキー」ドメインを含むものが挙げられる。
【0035】
「創傷治癒の加速または促進」「または血管新生促進」という語句は、ここでの用法では、クリスタリンタンパク質またはタンパク質の血管新生断片の投与によって、創傷治癒過程、血管新生またはその段階を増強することを指す。
【0036】
「タンパク質」という用語は、それが用いられる文脈が示すか特に断りのない限りここで「ペプチド」と同義的に使用される。
【0037】
本発明により具現化される方法によって治療される対象は、例えばウシ、ブタ、ヒツジまたはウマ科のメンバー、マウス、ウサギ、モルモット、ネコまたはイヌなどの臨床検査動物、または霊長類またはヒトなどの哺乳類であることができる。
【0038】
本明細書全体を通じて、「含む(comprise)」、あるいは「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などの活用形は、既述の要素、整数またはステップ、または一群の要素、整数またはステップの包含を暗示するが、あらゆるその他の要素、整数またはステップ、または一群の要素、整数またはステップの排除を暗示しないものと理解される。
【0039】
本明細書で言及される全ての公報は、その全体を参照によって本明細書に援用する。本明細書に包含されるあらゆる文献、行為、材料、装置、物品などの説明は、本発明に文脈を提供することのみを目的とする。これはこれらの事柄のいずれかまたは全てが先行技術の基礎の一部を形成すること、または本特許出願の優先日に先だってオーストラリアまたは別の場所に存在したような、本発明に関係した分野に一般的な知識であることを認めるものではない。
【0040】
本発明の特徴と利点は、添付の図面と共に、以下の非限定的実施態様の詳細な説明からさらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ウシ眼球のMLA008E2プロテオグリカン抽出物の内皮細胞遊走結果を示すグラフである。
【図2】ラット大動脈環血管新生アッセイにおける、(A)対照および(B)MLA008E2プロテオグリカン抽出物の内皮細胞遊走および増殖に対する効果を示す顕微鏡写真である。
【図3】抽出物MLA008E2による内皮細胞遊走活性を示すグラフである。
【図4A】17日間にわたり対照の創傷サイズと比較した治療創傷のサイズを示す写真である。
【図4B】上記試験期間中の創傷サイズの減少を示すグラフである。
【図5】ウシβB2クリスタリンタンパク質のアミノ酸配列である(配列番号1)。
【図6】1LのSephacryl 300 HRカラム上のウシクリスタリン抽出物(6mL)の溶出プロフィールである。ジグザグの線は導電率を表す。収集された画分をx軸上に示す。αAおよびBクリスタリン(画分20〜28)、βHクリスタリン(画分29〜33)、βL1(画分34〜41)、βL2(画分42〜45)、γS(画分46〜49)、およびγBC/DE(画分50〜56)。
【図7】1LのSephacryl 300 HRカラム上のpH5.0に調節されたウシクリスタリン抽出物(25mL)の溶出プロフィールである。収集された画分(18mL)をx軸上に示す。
【図8】DEAE Sepharoseから溶出されたウシクリスタリン画分のSDS PAGE分析である。レーン1:MWマーカー、レーン2:画分21〜34、レーン3:画分37〜47、レーン4:画分50〜60、レーン5:画分61〜77。
【図9】タンパク質に対する可能な翻訳後修飾を示す、βB2アミノ酸配列(配列番号1)である。
【図10】創傷治癒研究期間中のラットの平均体重増加を示すグラフである。A群:ビヒクル対照リン酸緩衝食塩水。B群:Wound Heal 1低タンパク質濃度(0.01mg/創傷)βB2クリスタリン。C群:Wound Heal 2高タンパク質濃度(0.1mg/創傷)βB2クリスタリン。D群:Wound Heal 3(1.0mg/mL)αBクリスタリン。E群:陽性対照アロエベラゲル(20mg/創傷)。
【図11】創傷治癒経過中の炎症反応を示すグラフである。
【図12】創傷治癒閉鎖速度の比較を示すグラフである。A群:ビヒクル対照リン酸緩衝食塩水。B群:Wound Heal 1低タンパク質濃度(0.01mg/創傷)βB2クリスタリン。C群:Wound Heal 2高タンパク質濃度(0.1mg/創傷)βB2クリスタリン。D群:Wound Heal 3(1.0mg/mL)αBクリスタリン。E群:陽性対照アロエベラゲル(20mg/創傷)。
【図13】様々なプロテアーゼを熱分解から保護する、ウシクリスタリン画分のシャペロン活性を示すグラフである。
【図14】ウシクリスタリンタンパク質の血管新生可能性を示すグラフである。サンプル7:ウシβB3クリスタリン(ウシクリスタリンを97〜99℃で3分間熱変性し、上清を遠心分離によって収集して調製される)。サンプル8:ウシαAクリスタリン。サンプル9:ウシαBクリスタリン。サンプル10:Wound Heal 1ウシβB2クリスタリン(Sephacryl 300 HRを使用して、pH5.3での分画によって調製された、画分40〜48)。サンプル11:Wound Heal 3ウシαBクリスタリン(DEAE Sepharose fast flow上で分画されたウシαクリスタリン抽出物、画分37〜47)。サンプル12:Wound Heal 2ウシβB2クリスタリン(100kDa保留Sephacryl 300 HRでの限外濾過によって調製された、画分40〜48)。
【図15】ウシクリスタリンタンパク質の血管新生可能性を示すグラフである。サンプル13:ヒツジβB2クリスタリン(C4カラム上でのRP HPLCによって調製された)。サンプル14:エラスターゼIで処理されたβB2クリスタリン。サンプル15:ウシβB2クリスタリン(C4カラム上でのRP HPLCによって調製された)。サンプル16:ヒツジαAクリスタリン。サンプル17:ヒツジαBクリスタリン。サンプル18:インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ。サンプル19:トリプトファンジオキシゲナーゼ。サンプル20:インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼおよびヒツジβB2クリスタリン。サンプル21:トリプトファンジオキシゲナーゼおよびヒツジαBクリスタリン。
【図16】ビヒクルのみの対照と比較した、正常な皮膚とエラスターゼIトランケート型のβB2クリスタリンで処置された創傷との間の移行帯中の毛細血管密度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
クリスタリンタンパク質の血管新生活性および/または内皮細胞増殖性または遊走可能性は、ここで述べられている、または当業者によって適切とされているアッセイおよび方法によって評価できる。クリスタリンタンパク質はあらゆる脊椎動物または哺乳類のクリスタリンであることができ、天然クリスタリン、または組み換えまたはその他の合成タンパク質であってもよい。ウシαAクリスタリンのアミノ酸配列は、例えばGenBank登録番号NP_776714 crystallin,alpha A[Bos taurus]によって提供される。αAクリスタリンのアミノ酸配列同一性は例えば種間で高度に保存され、ウシαAクリスタリンはマウス、ハムスター、およびラットαAクリスタリンと98%のアミノ酸配列同一性を有する(HayおよびPetrash、1987年)。ウシβB2クリスタリンのアミノ酸配列は、例えば(Genbank登録番号NM_174807 Bos taurus crystallin,beta B2(CRYBB2),mRNAによって提供される。
【0043】
天然クリスタリンタンパク質がそれから精製される動物は、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、霊長類、齧歯類またはその他の哺乳類種のメンバーであることができる。少なくともいくつかの形態では、クリスタリンタンパク質は、ウシまたはヒツジクリスタリンタンパク質である。典型的にクリスタリンタンパク質は、眼水晶体から精製される。ヒツジおよびウシ眼水晶体が特に適切である。
【0044】
組み換えクリスタリンタンパク質は、天然クリスタリンと同一のアミノ酸配列、または天然タンパク質と比較して1つ以上のアミノ酸の違いを有することができる。アミノ酸の変化は、1つ以上のアミノ酸付加、欠失および/または置換を含むことができる。天然クリスタリンタンパク質配列の修飾をもたらすアミノ酸の反転およびその他の突然変異変化もまた、包含される。さらに組み換えタンパク質は、遺伝コードによってコードされないアミノ酸またはアミノ酸を含むことができる。例えばL−アミノ酸でなくD−アミノ酸を利用して、生体内におけるタンパク質のエンドペプチダーゼ分解を阻害できる。
【0045】
アミノ酸の置換は、保存的または非保存的置換であることができる。保存的アミノ酸置換という用語は、アミノ酸残基をクリスタリンタンパク質の血管新生および/または創傷治癒活性に実質的に悪影響を及ぼさない同様の特性を有する別のアミノ酸で置き換えるという、通常受け入れられている意味で理解される。例えば保存的アミノ酸置換は、リジンなどの別の塩基性アミノ酸によるアルギニンなどの塩基性アミノ酸の置換を伴うことができる。同様に例えばシステイン残基をセリンで置換でき、または非極性アミノ酸をアラニンなどの別の非極性アミノ酸で置換してもよい。クリスタリンタンパク質アミノ酸配列中で置換または欠失を受け入れやすいアミノ酸は、近縁関係にあるクリスタリンタンパク質と配列比較して非保存アミノ酸を同定することによって、また通例の試行および十分に当業者の技術範囲内にある実験法によって判定されてもよい。修飾組み換えクリスタリンタンパク質は、宿主細胞中での核酸発現に際して、所望のアミノ酸変化が達成されるように、天然タンパク質をコードする核酸配列中にヌクレオチド変化を導入することで提供できる。
【0046】
本発明によって具現化される方法で有用な組み換えまたはその他の合成クリスタリンタンパク質は、約60%以上、そしてより通常では少なくとも約70%、80%、90%、95%、98%以上、または100%の天然クリスタリンとのアミノ酸配列同一性を有し、上に列挙した範囲内の全ての配列相同性およびその範囲は、明示的に包含される。比較目的で最適に位置合わせした際の配列中の各位置でアミノ酸を比較して、アミノ酸配列間の配列同一性を判定する。その位置のアミノ酸が同一であれば、配列はその位置で同一と見なされる。ギャップは、アミノ酸残基が片方の配列中に存在するが他方には存在しないアラインメント中の位置であり、非同一残基がある位置と見なされる。配列のアラインメントは、例えばNeedlemanおよびWunschアルゴリズム(NeedlemanおよびWunsch、1970年)などのあらゆる適切なプログラムまたはアルゴリズムを使用して実施してもよい。GAP挿入ペナルティーが50でGAP伸長ペナルティーが3のデフォルト採点マトリックスを使用して、Wisconsin Packageバージョン10.1(Genetics Computer Group,Madison,Wisconsin,United States)の一部であるGAPなどの標準ソフトウェアプログラムを使用して、コンピュータ補助配列アラインメントを好都合に実施できる。
【0047】
クリスタリンタンパク質はまた、化学的に合成できる。ここで述べられているようなクリスタリンタンパク質を組み込んだ融合タンパク質の提供および使用もまた、本発明に明示的に包含される。融合タンパク質をコードする核酸は、平滑末端化された末端およびオリゴヌクレオチドリンカー、スタッガード末端を提供する消化、および付着末端のライゲーションを必要に応じて用いることで、クリスタリンタンパク質をコードする別個のDNA断片と、例えばタンパク質の親油性特性を増強するための親油性アミノ酸配列とをつなぎ合わせて提供できる。ここで述べられているような組み換えおよび融合タンパク質を提供する技術は当業者に良く知られており、相互参照によってその内容全体を本明細書に援用する(例えばAusubelら(1994年)Current Protocols in Molecular Biology,USA,Vol.1および2,John Wiley & Sons,1992年;Sambrookら(1998年)Molecular cloning:A Laboratory Manual,Second Ed.,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York、および前述の改訂版と更新もまた参照されたい)。
【0048】
ここで述べられているような組み換えクリスタリンタンパク質および融合タンパク質の発現のために形質移入できる宿主細胞としては、大腸菌(E.coli)、バシラス(Bacillus)株(例えば枯草菌(B.subtilis))、ストレプトミセス(Streptomyces)およびシュードモナス(Pseudomonas)細菌株などの細菌と、サッカロミセス(Saccharomyces)およびピチア(Pichia)などの酵母と、昆虫細胞と、鳥類細胞と、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、COS、HeLa、HaRas、WI38、SW480、およびNIH3T3細胞などの哺乳類細胞とが挙げられる。宿主細胞は、必要に応じて、当該技術分野で既知のまたはここで述べられているような標準精製技術を使用して、発現された生成物および/または上清を宿主細胞から精製するのに先だって、(典型的に適切な発現ベクター中で)導入された核酸を発現させる条件下で、適切な培地中で培養される。
【0049】
ここで述べられているようなクリスタリンタンパク質はまた、溶解性、親油性特性、安定性、生物学的半減期を改善し、または例えば引き続く検出のための標識などとして機能する、1つ以上のタンパク様または非タンパク様部分をタンパク質にカップリングしても修飾できる。修飾はまた、構造的修飾をもたらす炭水化物部分の結合または化学反応などの翻訳後または合成後修飾(例えば1つ以上のアミノ酸残基のアルキル化またはアセチル化、または化学結合の形成を伴うその他の変化)に起因することができる。特にクリスタリンタンパク質は、メチル化、ホスホリル化、チロシンおよび/またはトリプトファン残基の酸化、グリコシル化、およびS−メチルシステイン共有結合からなる群から選択される、1つ以上の修飾を有することができる。
【0050】
さらにクリスタリンタンパク質をペグ化またはオルニチニル化して、それが生体内でプロテアーゼによる分解に対して抵抗性がより低くなるようにし、または腎臓を通じた循環からのそれらの排除を阻害してもよい。ペプチドのPEG化などの方法は当該技術分野で良く知られており、このような全ての修飾は明示的に包含される。
【0051】
クリスタリンタンパク質は、約16Da〜約32Daの範囲のサイズであることができる。特にαAクリスタリンタンパク質は、常態では約16Da〜約20Daの範囲のサイズであり、より通常には約18Da〜約20Daの範囲である。本発明によって具現化される1つ以上の方法で用いられるβB2クリスタリンタンパク質は、常態では約15Da〜約28Daの範囲、より通常には約20Da〜約25Daの範囲のサイズである。
【0052】
天然クリスタリンタンパク質のC末端およびN末端延長には、四次構造の安定化およびタンパク質集合体の形成が関与する。したがってこのようなC末端およびN末端延長を欠いているクリスタリンは、集合体を不十分に形成する。αクリスタリンは大型集合体を形成する。それらは熱ショックドメインを有し、βクリスタリンと同様に凝集形成に関与するN末端に延長を有する。クリスタリンタンパク質間の静電相互作用もまた、クリスタリン凝集形成に関与し、pH5未満におけるヒスチジン残基のイオン化は集合体を破壊できる。典型的に本発明によって具現化される方法で使用されるクリスタリンタンパク質は、単量体型である。クリスタリン単量体は、タンパク質の天然C末端および/またはN末端延長が除去されて、少なくともβB2クリスタリンの場合は、球形中央コアまたは「球形ドメインまたはグリークキーモチーフ」を残すように、抽出したクリスタリンタンパク質を(例えばエラスターゼまたはキモトリプシンによる部分的プロテアーゼ消化などにより)部分的に加水分解して調製できる。クリスタリンタンパク質の球形ドメインは、血管新生および/または内皮細胞増殖性または遊走可能性を示す。本発明によって具現化される方法で用いられるαAクリスタリンの断片は、常態ではクリスタリンおよびタンパク質の熱ショックドメインを含む。
【0053】
例としてβB2クリスタリンのN末端をエラスターゼIによって切断でき(すなわちASDHQTQA/GKPQPLNPKII(配列番号2)、切断点を「/」で示す)、タンパク質のC末端についても同様であり(RDMQWHQRGA/FHPSS(配列番号3))、本発明の1つ以上の実施態様で有用性があるトランケート型のβB2クリスタリンがもたらされる。特に使用してもよいトランケート型のβB2クリスタリンとしては、Swiss Prot登録番号P02522(UniProtKB/Swiss−Prot P02522(CRBB2_Bovin)のアミノ酸17〜191を含むドメイン;www.uniprot.org/uniprot/P02522)、およびSwiss Prot登録番号P02522のアミノ酸2〜200および10〜200からなり、またはそれを含むものが挙げられる。さらに血管新生βB2クリスタリンタンパク質は、Swiss Prot登録番号P02522のアミノ酸17〜56(グリークキー1)、57〜101(グリークキー2)、107〜148(グリークキー3)、および149〜191(グリークキー4)などのタンパク質の「グリークキー」ドメインの1つ以上(典型的に全て)を含むことができる。
【0054】
本発明の実施態様で有用な未変性およびトランケート型のクリスタリンタンパク質は、天然クリスタリンタンパク質中のアセチル、メチル、エチル、ホスホリル化、酸化、およびグリコシル化修飾などであるが、これに限定されるものではない翻訳後修飾を受けてもよい。例えば次のβB2クリスタリンのアミノ酸(例えばSwiss Prot登録番号P02522参照)を次のように修飾できる(AAはアミノ酸位置を示す):AA2 N−アセチルアラニン;AA42 N6−メチル化リジン;AA68 N6−メチル化リジン;AA76 N6−アセチルリジン;AA118ホスホスレオニン;AA121 N6−アセチルリジンまたはN6−メチル化リジン;AA11 N−(Glc);AA48 N−(Glc);AA68 N−(Glc);AA76 N−(Glc);AA101 N−(Glc);AA108 N−(Glc);AA120 N−(Glc);AA121 N−(Glc);AA140 N−(Glc);AA168 N−(Glc)、およびAA172 N−(Glc)。典型的に未変性(未消化)αAクリスタリンが、ここで述べられているような本発明の実施態様で使用される。最も通常にはαAクリスタリンタンパク質は無修飾であり、または少なくともリン酸化されていない(天然タンパク質のアルカリホスファターゼ処理によって達成されてもよい)。アルカリホスファターゼ活性に適切な条件としては、pHが約8.0〜9.8の範囲内にある適切な亜鉛、マグネシウムまたはカルシウム含有緩衝液が挙げられる。
【0055】
本発明の実施態様で使用するために、濾過およびクロマトグラフィー(例えばRP−HPLC)プロトコルをはじめとするが、これに限定されるものではないあらゆる適切な精製技術によって、クリスタリンタンパク質の部分的加水分解形態を精製できる。
【0056】
本発明に従って治療してもよい組織部位および創傷としては、急性および慢性創傷、電離放射線への曝露に起因する火傷をはじめとする火傷、薬傷、外科創傷、口腔内創傷、皮膚および筋肉外傷、開放皮膚創傷、糖尿病性足部潰瘍や糖尿病性腎障害足部潰瘍をはじめとする糖尿病性皮膚潰瘍、虚血性腎障害足部潰瘍をはじめとする虚血性組織、静脈鬱血性潰瘍、褥瘡、および低酸素組織が挙げられる。虚血性および低酸素組織の例としては、脳卒中に付随する虚血性心臓組織および低酸素組織が挙げられる。クリスタリンタンパク質投与によって創傷治癒が促進されてもよい条件としては、例えば組織低酸素症や反復性外傷によって、または糖尿病および血管疾患などの全身的原因によって治癒が損なわれまたは妨げられる、創傷治癒遅延の状況が挙げられる。
【0057】
本発明に従ったクリスタリンタンパク質によって、増殖および/または移動が誘発されてもよい内皮細胞タイプの例としては、ヒト臍帯静脈内皮細胞、ヒト微小血管内皮細胞、およびウシ大動脈内皮細胞が挙げられる。
【0058】
クリスタリンタンパク質は、単独で、または1つ以上のその他の治療薬と共に同時投与して、このような治療を必要とする対象に投与できる。例えばクリスタリンタンパク質は、血管新生および/または創傷治癒を促進するために従来法で使用される治療薬と合わせて同時投与できる。「同時投与される」とは、同一製剤中での、または同一または異なる経路による2つの異なる製剤中での同時投与、または同一または異なる経路による逐次投与を意味し、そこではクリスタリンタンパク質およびその他の治療薬は、重複する治療濃度域を示す。「逐次」投与とは、一方が他方の後に投与されることを意味する。クリスタリンタンパク質と共に同時投与されてもよいこのようなさらなる薬剤としては、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子−β(TGF−β)、血小板由来創傷治癒因子、インシュリン成長因子(IGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、抗炎症薬、および抗微生物剤が挙げられる。クリスタリンタンパク質と共に同時投与されてもよい、血管新生および/または創傷治癒を促進するために使用されるその他の治療薬のさらなる例としては、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)、トリプトファンジオキシゲナーゼ(TDO)、スフィンゴシン−1−リン酸(SIP)、N−アシルエタノールアミン、グレープフルーツ抽出物、およびアエシンや緑茶カテキンをはじめとするその他の植物化学物質、メラトニン、血管成長を支援するためのアルギニンおよびその他のアミノ酸が挙げられる。
【0059】
クリスタリンタンパク質は、一般にタンパク質および薬学的に許容できるキャリアを含む医薬組成物に調合される。適切な医薬組成物としては、内服用または外用のクリーム、ローション、軟膏、およびゲルなどの局所用として許容可能な剤形が挙げられる。局所的に許容可能な組成物は、製剤で含浸された包帯などによって、治療部位に直接塗布できる。クリスタリンタンパク質沈殿物を含むゲルが、特に適切である。ここで述べられているようなゲルおよびその他の医薬組成物はまた、カルシウムイオンおよび/または塩も含んでもよい。組成物中のカルシウムの存在は、創傷治癒を増強できる。
【0060】
ここで述べられているような医薬組成物にはまた、パラベンやクロロブタノールやソルビン酸などの1つ以上の保存料、コーンスターチまたはゼラチンなどのバインダー、増粘剤、乳化剤、界面活性剤、ゲル化剤、および典型的にこのような組成物中で使用されるその他の構成要素も組み込める。薬学的に許容できるキャリアとしては、あらゆる適切な従来法で知られている、局所的および生理学的に許容可能な溶媒、分散媒、等張製剤および溶液が挙げられる。薬学的活性物質のためのこのような成分および媒体の使用については、良く知られている。いずれかの従来の媒体または薬剤がクリスタリンタンパク質と不適合である場合を除き、その使用は明示的に包含される。
【0061】
本発明によって具現化される医薬組成物としては、ヒトまたは獣医学用途のための治療的組成物が挙げられる。典型的に医薬組成物は、組成物を創傷へ直接塗布するのに適したpHを有する。一般にpHは3.8を超え、通常約4以上である。ここで述べられているようなクリスタリンタンパク質沈殿物ゲルは、沈殿物が所望のpHを有するように、タンパク質および生理学的に許容可能な緩衝系を含有する溶液から沈殿できる。あるいは、あらゆる適切なpH調節剤をゲルに添加して、ゲルのpHを所望のpHに変更できる。
【0062】
本発明によって具現化される医薬組成物は、一般に組成物の少なくとも約0.001重量%〜約80%w/wまでのクリスタリンタンパク質を含有する。例えば医薬組成物は約0.05%、0.01%、0.1%、1%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80重量%のクリスタリンタンパク質を含有できる。組成物中のタンパク質量は、提案される投与様式を考慮して適切な有効投薬量が対象に送達されるような量とする。
【0063】
本発明の実施態様に従って投与されるクリスタリンタンパク質の投薬量は、タンパク質が予防または治療用途で投与されるかどうか、それに対してタンパク質を投与することが意図される疾患または病状、病状の重篤性、対象の性別および年齢、そして対象の体重および総体的な健康をはじめとする関連要素をはじめとするいくつかの要素に左右され、一般に認められた医学原理に従って判定できる。例えば低投薬量を最初に与えて、対象の反応評価に従って各投与時に引き続いて増大できる。同様に投与頻度を同じように判定でき、すなわち各投薬間の対象の応答を連続的にモニタリングして、望ましければ投与頻度を上げ、あるいは投与頻度を下げる。
【0064】
典型的にクリスタリンタンパク質は、約50mg/kg体重までの、好ましくは約5μg/kg〜約100μg/kg体重の範囲の投薬量で、本発明によって具現化される方法に従って投与される。局所塗布のためには、クリスタリンタンパク質は、約0.1μg〜100μg/cm−1の範囲の用量で組織または創傷部位に投与される。局所的に投与される用量は、約0.1、0.5、1.0、5.0、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100μg/cm−1であることができる。典型的にタンパク質は、治療される組織の1.0〜10.0μg/cm−1の範囲の投薬量で投与される。
【0065】
投与経路としては、局所的、呼吸マスク経由、静脈内、経口的、腹腔内、皮下、筋肉内、直腸、局所的、およびインプラントが挙げられるが、これに限定されるものではない。静脈内経路に関して、特に適切な経路は、治療される標的組織に供給する血管内への注射による。クリスタリンタンパク質はまた、例えば胸膜腔または腹膜腔などの腔内へ送達でき、または治療される組織内に直接注射できる。経口投与のためには、クリスタリンタンパク質はカプセル化でき、またはさもなければ胃を通過させて小腸内で放出させるために腸溶性で提供される。あらゆる適切なこのような腸溶性剤形、またはコーティングが利用できる。
【0066】
さらにクリスタリンタンパク質はまた、血管形成術またはその他の外科処置中に、血管形成術カテーテルなどのカテーテルのステントまたはバルーンの表面、または血管内壁に適用されるその他の手術用具の表面に被覆できる。例えばクリスタリンをこの様にしてゲルまたはあらゆるその他の適切な調合物の形態で血管壁に塗布して、創傷治癒および/または血管新生または治療部位への上皮細胞遊走を促進できる。
【0067】
本発明によって具現化される組成物で有用な適切な薬学的に許容できるキャリアおよび調合物は、例えばその内容全体を参照によって本明細書に援用する、Remington’s Pharmaceutical Science,15th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,United Statesなどの当業者に良く知られているハンドブックおよび教科書に見られる。
【0068】
本発明をいくつかの非限定的例に言及して、以下でさらに説明する。
【実施例】
【0069】
実施例1:内皮細胞遊走および増殖を促進する組織抽出物
1.1 プロテオグリカン単離の標的とされたウシ組織
いくつかのウシ組織をプロテオグリカン単離の標的にした。これらには、皮、関節軟骨、靱帯、骨、筋肉、鼻中隔、腎臓基底膜、眼球、および大動脈が含まれた。
【0070】
クリスタリンタンパク質を単離するのに使用された最初の手順は、機械的に組織を小片に破壊して、続いて水洗して水溶性タンパク質を除去し、4Mグアニジウム塩酸塩(HCl)または6M尿素で抽出することを伴った。次に粗製プロテオグリカン抽出物に、エラスターゼIによるタンパク質分解を施した。しかしトリプシン、キモトリプシンまたは生物活性を示す適切なサイズのペプチドを放出するあらゆるその他の適切なプロテアーゼもまた使用できる。内皮細胞の増殖および遊走を促進する能力について、消化物を試験した。活性を有するタンパク質またはペプチドを含有する抽出物を、イオン交換、ゲル濾過、RP−HPLCを使用して分画し、内皮細胞増殖および遊走アッセイを使用してスクリーニングして活性構成物を同定した。Nicosia R.FおよびOttinetti A.,1990年、およびBrownら,1996年によって述べられる手順の変法に基づいて、Wellington School of Medicine,Wellington,New ZealandのPaul Davis博士により提供された、血管新生の生体内大動脈環モデルを使用して、促進可能性を有するグリコペプチドを確認した。
【0071】
1.2 エラスターゼIによるウシ組織プロテオグリカン抽出物の消化
本研究で使用するために、表1で同定されるプロテオグリカン抽出物を調製した。
【0072】
【表1】

【0073】
抽出したプロテオグリカンを秤量し、20mMのCaClを含有する1mLの10mM TrisHCl(pH8.0)に溶解した。ブタ膵臓エラスターゼ(PPE)タイプIE.C3.4.21.36(14.3mg/タンパク質/mL、6.0単位/mgおよび85.8単位/mL、1単位は標準条件下で25℃で転換される1μmolの基質(N−スクシニル−Ala−Ala−Ala−pNA)に対応する)を使用して、プロテオグリカン抽出物を加水分解した。1単位(10μL)のPPEを添加し、プロテオグリカン抽出物を37℃で48時間加水分解した。微量遠心管内で13200rpm、室温で1分間遠心分離して、固体材料を除去した上清を濾過して滅菌し、内皮細胞増殖および遊走について試験した。
【0074】
1.3 サンプルMLA−眼球−001Fの調製
17.6gのみじん切りウシ眼球を200mLの4MグアニジニウムHClによって室温で2日間抽出し、サンプルMLA−眼球−001Fを調製した。抽出物をWhatman#541濾紙を通して真空下で濾過した。濾液をdHOで透析し、使用時まで凍結乾燥した。使用に先だって、10mMの塩化カルシウムを含有する100mMのTris HCl(pH8.5)緩衝液中で凍結乾燥材料を再溶解し、エラスターゼIで消化した。MLA−眼球−001F製剤は、表1に示すようにMLA−008E2とコード化した。表1で同定されるその他のプロテオグリカンも同様にして抽出した。
【0075】
1.4 逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)
Phenomenex SecurityGuard C−12保護カラム付きPhenomenex Jupiter 4μ Proteo 90Å(250×4.06mm)(Phenomenex Corporate Headquarters(U.S.A.),Torrance,CA,United States)上のRP−HPLCによって、消化されたプロテオグリカン抽出物の分画を実施した。1mL/分の流速を使用して、ミリQ水中の0.1%TFAでカラムを平衡化した。緩衝液B(0.1%TFAを含有する70%アセトニトリルと30%ミリQ水)の勾配を次のように注入した。0分で0%B、5分で5%B、10分で10%B、25分で15%B、30分で20%B、35分で30%B、40分で60%B、50分で20%B、55分で0%B、および60分で0%B。吸光度は214nmでモニターした。
【0076】
1.5 ウシ大動脈内皮細胞の単離および調製
ウシ大動脈を地元の食肉処理場から入手し、両端をクランプした。細動脈を糸で縛った。無菌条件下において2%スクロース溶液で大動脈を洗浄し、汚染血液を除いた。PBS緩衝液中のトリプシンを添加して、30分間インキュベートした。内皮細胞懸濁液と細胞培養液(20%ウシ胎児血清、2%グルタミン、および抗生物質含有DMEM)とを1:1に混合した。960×gで10分間遠心分離して細胞を収集し、次に保存細胞アンプルを培養するのに先立って培地に懸濁した。5回の細胞継代培養後に、細胞を10%DMSO中で凍結し液体窒素内に保管した。細胞を蘇生させ、75cm培養フラスコ内の培地中で95%集密まで成長させた。次に使用するために細胞を収集した。
【0077】
1.6 内皮細胞増殖
ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)および10%ウシ胎児血清(FBS)中のウシ大動脈内皮細胞をウェルあたり0.8×10個含有する無菌の96ウェルプレートを調製して、24、48または72時間インキュベートした。サンプルは3つの異なる濃度(無希釈、10−2、および10−4)で、三連で調製した。試験抽出物を添加する前に、細胞を37℃、5%COで2時間付着させた。所望時間経過後、プレートを凍結し細胞を溶解して、Molecular Probes CyQuant細胞増殖キット(Invitrogen−Molecular Probes,Eugene,OR,United States)を使用して、製造業者の説明書に従って細胞数を読み取った。
【0078】
1.7 内皮細胞遊走
BD Bioscience血管新生細胞遊走アッセイ24ウェルプレート(BD Bioscience,Franklin Lakes,NJ,United States)を製造業者の説明書に従って使用した。遊走プレートは必要になるまで−18℃に保った。簡単に述べると、DMEMおよびHEPES(pH7.2)中でウシ大動脈内皮細胞を2×10細胞/mLに調製した。250μLの容積の細胞懸濁液(5×10細胞)を上のチャンバーに入れた。即座に、サンプル注入口を使用して底の各ウェルに750μLを入れた。1mLのDMEM含有HEPESに糖タンパク質抽出物を添加して、サンプルを調製した。プレートを37℃、5%CO雰囲気で、22±1時間インキュベートした。インキュベーションに続いて、上のチャンバーから培養液を注意深く取り出した。4μg/mLのハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中のカルセインAMを0.5mL/ウェル含有する第2のFalcon(商標)非TC処理24ウェルプレートに挿入物を移し、37℃、5%COで90分間インキュベートした。さらなる操作なしに励起/放射波長485/538nmで、最低読み取りを使用して、Thermolabsystems Fluoroskan Ascent蛍光性プレートリーダー内で、侵入された細胞の蛍光を読み取った。
【0079】
細胞を遊走後にカルセインAMで標識した。DMSOに1mg/mLを溶解して、カルセインAM原液を調製した。原液50μLを12.5mLのHBSSに添加した。
【0080】
1.8 ラット大動脈環血管新生アッセイ
ラット大動脈を切除して付着する脂肪および結合組織を取り去った後、およそ3mm幅の環に切断した。マルチウェル培養プレートのウェルの底にフィブリノーゲンを入れ、トロンビン作用によってゲル化させた。次に大動脈環を各ゲル上に重ねて、その上にフィブリンのさらなる層をのせた。抗生物質を添加したMCDB131培地(Sigma,United States)中で、フィブリノーゲンを調製した。次にフィブリンの二重層に、試験抽出物を含有するMCDB131培地を重ね合わせた。対照ウェルはHBSSを含有した。陰性対照としてフマギリン(20μg/mL)を三連でアッセイした。
【0081】
ゲルを3%CO/97%空気の雰囲気中37℃でインキュベートした。倒立顕微鏡を使用して環を調べ、それらの外辺部からの微小血管の成長を観察した。2日間毎にこれらのデジタル画像を撮影し、National Institute of Health(NIH)Image software(National Institutes of Health(NIH),Rockville Pike,Bethesda,Maryland,United States;http://rsb.info.nih.gov/nih−image)を使用して、環サイズに対する微小血管の成長程度を判定し、次に各ウェルについて微小血管の成長速度を判定した。各試験抽出物を三連でアッセイし、平均成長速度を計算した。
【0082】
2.結果および考察
プロテオグリカン抽出物を調製して、エラスターゼIで加水分解した。粗製抽出物は、最初に内皮細胞遊走または増殖を促進する能力について試験した。活性を示した抽出物を、RP−HPLCを使用して分画した。分離されたペプチドを再試験して、活性の原因であるペプチドを同定した。
【0083】
結果は、大部分のサンプルが、事実上血管新生促進効果を有さないことを示した。しかし抽出物MLA008E2による測定可能な血管新生促進が観察された。濃度125ng/mLのVEGFを陽性対照として使用した。アッセイ中に使用したFalconプレートを、バックグラウンド蛍光について試験した。この値は、最終読み取りから差し引かれた(すなわち結果−プレート空試験)。各ウェルについて9回の読み取りを実行し、平均して、高低の値をプロットした。結果を表2および図1にそれぞれ示す。MLA008E2による血管新生促進を示す大動脈環アッセイの例を図2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
MLA008E2の内皮細胞遊走性についてもまた試験した。簡単に述べると、無菌条件下で、総容積750μLの無血清DMEM中の10μLおよび50μLの抽出物の2つの異なる用量を使用して、プロテオグリカン抽出物MLA008E2を三連で試験した。結果を図3に示すが、これは遊走が用量依存様式で増大することを示し、抽出物中の内皮細胞遊走促進作用因子の存在が示唆される。
【0086】
さらなる研究は、続いて血管新生を調節する能力を有するペプチド/タンパク質源としての抽出物MLA008E2に着目する。
【0087】
実施例2:RP−HPLCまたはゲル濾過によるMLA008E2の分画
実施例1.4で述べられているように、MLA008E2の最初の分画は、Phenomenex SecurityGuard C−12保護カラム付き分析Phenomenex Jupiter 4μ Proteo 90Å(250×4.06mm)カラム上でのRP−HPLC分離を伴った。このカラムは、10kDaよりも小さいペプチドを結合するようにデザインされている。画分をプールして、内皮細胞遊走性(無血清培地中の5×10細胞/ウェルを5%CO中37℃で22±1時間遊走させた)および増殖活性について試験した。増殖アッセイでは、細胞空試験が増殖バックグラウンドレベルを提供した。10%FBSが陽性細胞増殖対照を提供した。1%FBSを含有するDMEM中でウェルあたり1×10細胞の初期播種密度を使用して、細胞増殖を72時間にわたり試験した。分子プローブCyQuantキットを使用して、製造業者の説明書に従って細胞数を定量化した。
【0088】
内皮細胞遊走を促進する可能性を有するとして、いくつかの画分が同定された。具体的には、画分11〜15、16〜20、21〜25、26〜30、および31〜35(合計40の画分)が、バックグラウンド遊走レベル(細胞および培地)と比較して、ウシ内皮細胞の遊走を促進する作用因子を含有するようであった。薄層クロマトグラフィー(TLC)分析によって、最初のグループ分けから、代表的なペプチドプロフィールを含有するようであった単一画分を選択した(画分12、13、17、22、24、26、31、および33)。内皮細胞遊走活性について、個々の画分を再試験した。画分12および33は内皮細胞遊走を増強する能力を有するようであった(発光が強いほど、遊走した細胞数がより多いことを示す)。画分12および33は、TSK2500カラム上でゲル濾過を使用してさらに分画した。
【0089】
複数ペプチドが画分12中に存在し、1つの主要ピークが画分33中に存在した。画分33中の未知の作用因子を分析した。簡単に述べると、UV/Vis分光分析および蛍光分光分析、プロトンおよび13C NMRおよびIRによって化合物を分析した。画分33の分析結果は、主要構成物がトリプトファンであったことを暗示した。内皮細胞遊走を促進する能力についてトリプトファンを試験したところ、意外にも細胞の遊走を促進できるようであった。理論に制限されるものではないが、内皮細胞と関連付けられている細胞遊走は、トリプトファンジオキシゲナーゼおよびインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼの双方によって誘発されるトリプトファンの分解に起因すると考えられる。これらの酵素はどちらも超酸化物を使用し、インドール環の切断を触媒してN−ホルミルキヌレニンを生じ、それらは酸素ラジカルを除去するので抗炎症性である。したがってトリプトファン分解は、血管新生の促進と、創傷中に存在する炎症細胞(例えば好中球)により誘発される炎症性損傷の低下の双方をもたらす。
【0090】
2.1 ゲル濾過によるMLA008E2画分12の分画
画分12をTSK2500ゲル濾過カラム上でさらに分画した。カラムをリン酸緩衝食塩水で平衡化し、100μLのサンプルを流速1mL/分でカラムに注入した。溶出プロフィールを280nmおよび214nmでモニターした。60分間にわたって1mLの画分を収集した。内皮細胞遊走を促進する能力について、得られた画分を再試験した。結果は決定的でなかった。したがってこれらのペプチド間の相乗作用が最初の観察を引き起こしたかもしれず、または効果をもたらすのにより高濃度のペプチドが必要であったと想定された。MLA008E2 RP−HPLC画分を1%FBS不在下で再試験した(無血清DMEM中の2×10個の細胞を37℃、5%CO中で22±1時間遊走させた)。
【0091】
2.2 血管新生アッセイ
実施例1.8で述べられているようなラット大動脈環アッセイ(生体外血管新生)と、ラット背部皮弁アッセイ(創傷治癒アッセイ)とを使用して、いくつかのMLA008E2画分の追加的分析を実施した。これらのアッセイ結果を表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
分析されたサンプルの最初のバッチは、画分MLA008E2#33(トリプトファンを含有する画分に相当する)中にいくらかの促進が存在することを示唆した。分析されたさらなるサンプルのバッチは、いくぶん類似した促進が抽出物MLA008E2 3−15中に存在することを示した。最初のバッチのMLA008E2#33とさらなるバッチのMLA008E2 16−29との間に類似したレベルの促進が、観察された。
【0094】
Wellington School of Medicine,Wellington,New ZealandのPaul Davis博士によって提供されるラット背面皮弁アッセイもまた用いて、血管新生を評価した(Mellinら、1992年参照)。簡潔には、25〜26週齢(平均25.3週齢)の6匹のオスLewisラットの背骨に沿って、肩甲骨間の背部表面に2つの直径8mmの皮膚全厚にわたる創傷を形成した。第1の創傷は頭蓋よりおよそ6.0cm遠位であり、第2の創傷は同一線に沿ってさらに2cm遠位であった。創傷形成に先だってケタミン(100mg/kg体重)およびキシラジン(5mg/kg体重)の注射(i.p.)で動物を麻酔した。回復後、0.05mg/kg体重でTemgisicを皮下注射した。
【0095】
各動物に4用量(各25μL用量)の試験抽出物MLA008E2 3−15を投与したが、これは1、3、5、7、および9日目に片方の創傷に局所的に塗布されるリン酸緩衝食塩水(PBS)(1μg/mL)中のMLA−KDJ 007に相当する。ペプチド溶液は濾過滅菌した。いくらかの物質がフィルター上に保持された。他方の創傷には25μLのPBSのみを塗布したので、各動物はそれ自身の対照創傷を有した。キャノンEOS 3000Nカメラ(F2.8マクロレンズ)およびフジProfessional 400NPHフィルムを使用して、各追加処置に先だって各創傷を撮影した。各撮影のプリントはデジタル記録して、NIH Image 1.63ソフトウェアを使用してこれらの画像から各創傷面積を計算した。これを17日目まで継続した。処置創傷と対照創傷の平均面積を各時点で計算し、対照創傷に対する処置創傷の平均サイズを計算した。結果を下の表4、および図4Aと4Bに示す。
【0096】
【表4】

【0097】
上から示されるように、創傷治癒速度は試験創傷において、同一期間の対照創傷と比較して7〜9日目の間に劇的に加速された。さらに対照創傷よりも早く完全な創傷閉鎖が達成された。より早い閉鎖速度は、創傷治癒カスケードに沿ったいくつかの点で創傷治癒過程が促進され、より早い創傷閉鎖につながったことを示唆する。
【0098】
2.3 MLA008E2から誘導される促進特性がある化合物の分析
活性を有する抽出物中に存在するペプチド/タンパク質の分子量をゲル濾過によって推定した。TSK2500ゲル濾過カラムをリン酸緩衝食塩水で平衡化し、100μLのサンプルを流速1mL/分でカラムに注入した。溶出プロフィールを214nmでモニターした。60分間にわたって1mLの画分を収集した。既知の相対分子量のタンパク質、ペプチド、およびアミノ酸を同一条件下で試験してカラムを較正した。結果を表5に示す。
【0099】
【表5】

【0100】
促進可能性がある画分MLA008E2 3−15およびMLA008E2 19−29の双方の中の分子量約27kDaのタンパク質は、このタンパク質が観察された血管新生促進の原因であるかもしれないことを示唆する。引き続いてN末端配列分析を行って、このタンパク質を同定した。
【0101】
2.4 N末端配列分析
27kDaタンパク質のサンプルを得るために抽出物に分取SDS−PAGEを施し、27kDaタンパク質をN末端配列分析のために切り取った。N末端はブロックされていることが分かった。N末端ブロッキングを克服するために、27kDaタンパク質のさらなるサンプルを調製して、37℃で一晩トリプシンで消化した。得られたペプチドをC18 Vyadacカラム(Vyadac Company(Herperia,CA,United States)に装入し、0〜100%B(60%アセトニトリル+0.1%TFA)の1時間の勾配からピークを収集した。これらのペプチドのN末端を引き続いて配列決定した。
【0102】
2.5 βB2クリスタリンの同定
同定されたメジャーおよびマイナー配列を下に示す。
【0103】
【表6】

【0104】
配列LYENPN(配列番号4)を使用し、NCBIタンパク質データベースツール「Search for short,nearly exact matches」を使用して検索を実施した。この6個のアミノ酸コードは、最初の2つのアミノ酸(残基1および2)の多義性のために用いられた。1回目の検索からはいくつかのβクリスタリンタンパク質およびダイニンタンパク質との相同性がもたらされた。哺乳類種に限定した2回目の検索からは、哺乳類のβB3およびβB2クリスタリン、ならびにダイニンとの相同性がもたらされた。
【0105】
クリスタリンおよびダイニンタンパク質のさらなる分析からは、目的の抽出物の未知タンパク質がβB2クリスタリンであることが実証された。ウシ眼球から抽出されたままではそのN末端はアセチル化されており、したがってブロックされており、配列LYENPN(配列番号4)に先行する2つのアミノ酸はITであった。またN末端からI(リジンK)のトリプシン切断部位が配列中に存在し、配列決定されたペプチドを放出できるようにする(図5参照)(配列番号1)。さらにダイニンは非常に大きなタンパク質(474610Da)であり、一致する配列に先立つ配列はNVであった。この配列に先立つトリプシン切断部位はなかった。完全配列ITLYENPN(配列番号5)もまた使用してNCBIデータベースを検索し、βB2クリスタリンとしてのアイデンティティを確認した。ウシβB2クリスタリンアミノ酸配列を図5(配列番号1)に記載する。
【0106】
実施例3:ウシ眼球からのβB2クリスタリンの精製および創傷治癒活性のアセスメント
Sephacryl 300HR上でのゲル濾過クロマトグラフィー、およびいくつかの公称分画分子量膜を使用した限外濾過が関与する、2つの異なるアプローチを使用して、βB2クリスタリンを部分的に精製した。DEAE Sepharose fast flow上でのイオン交換クロマトグラフィーによって、αBクリスタリンを精製した。
【0107】
3.1 ウシ眼水晶体クリスタリンの抽出
新鮮なウシ眼球を食肉処理場から得て即座に処理した。眼水晶体を得るために、メスを使用して強膜と瞳孔の間に2〜3cmの切り込みを入れた。瞳孔の上を親指で押して、水晶体を眼球から取り出した。このアプローチを使用して、望ましくない付着組織が最小限の無傷の水晶体を回収した。あるいは、角膜の中心を通る切り込みを入れることで、水晶体を眼球から除去した。この切り込みは水晶体内に達して水晶体シースを切り開き、角膜の直径に及んだ。これは眼球を両側から穏やかに圧搾することで、水晶体シースおよびその他の物質を含まない水晶体を眼球から除去できるようにした。水晶体シースの除去は、可溶性クリスタリンタンパク質を蒸留水で単に撹拌または混合して抽出する際に、30分以内に可溶化させるために必須であった。さもなければ水晶体からのクリスタリンの抽出には、10容積(w/v)の蒸留水、または1mM DTTおよび150mM NaClを含有する100mMリン酸緩衝液(pH6.8)のどちらかの中で、一晩4℃で撹拌することが必要であった。水晶体はこの間に緩慢に溶解した。不溶性膜結合タンパク質は、50000rpmで30分の超遠心によって高度に可溶性のクリスタリンから分離された。水溶性水晶体クリスタリンを含有する上清は、Sephacryl 300 HRを含有する1Lカラム上でのゲル濾過クロマトグラフィーによってさらに分画された。ゲル濾過はいくつかの異なる条件を使用して実施した。カラムは、蒸留水中で、または1mM DTTおよび150 mM NaClを含有する100mMリン酸緩衝液(pH6.8)の抽出緩衝液を使用して作動させた。流速は1mL/分であり18mLの画分が収集された。慣例的に25mLの45mg/mL眼水晶体抽出物をカラムに装入した。タンパク質溶出をモニターするインライン導電率モニタリング付きの214nmおよび280nmに設定したQuadTec検出器を使用して、BIORAD Biologicクロマトグラフィーシステムを使用して、カラムを4℃で作動させた。
【0108】
3.2 クリスタリンタンパク質の精製
ウシクリスタリン抽出物の典型的な溶出プロフィールを図6に示す。溶出を1mL/分で実施し、タンパク質は214nm(三角形)および280nmでモニターした。抽出物は、不溶性物質を除去する超遠心の後、典型的に約45mg/mLのタンパク質を含有した。様々な哺乳類のクリスタリンタンパク質の分離に起因するピークは、相対分子量およびイムノブロット分析によって、そして溶出プロフィールとクリスタリンタンパク質に関する文献で以前述べられているプロフィールとを比較することで、溶出プロフィール中で識別された。溶出ピークは、以前HerbrinkおよびBloemendal(1974年)によって、ゲル濾過クロマトグラフィーの下で分離することが示された、画分α、βH、βL1、βL2、γS、およびγBC/DEを表すと同定された。それぞれの画分の相対タンパク質濃度を表6に概説した。
【0109】
【表7】

【0110】
ゲル濾過カラムから得られた、全てのクリスタリンタンパク質を含有する6つの画分をSDS PAGE分析によって分析した。
【0111】
クリスタリンβB2は、全てのβ画分(βH、βL1、およびβL2)中に存在した。βH画分からのβB2クリスタリンの回収を、pHシフトを通じて試みた。pHを6.8から5.3に低下させてβB2クリスタリン表面のヒスチジン残基をイオン化させた。これはβHクリスタリン凝集の解離、および46〜48kDaのβB2クリスタリン二量体の形成をもたらすことが示唆されており、それらはゲル濾過によって分離することができる。溶出プロフィールを図7に示す。溶出は1ml/分で実施され、タンパク質は214nm(三角形)および280nmであった。
【0112】
画分42中の最大吸光度でβB2二量体を溶出した。このタンパク質を含有する画分をプールして、透析し凍結乾燥した。βH画分はαクリスタリンを含有するようであり、それはpH5.3でのゲル濾過を使用して、二量体βB2クリスタリンから容易に分離された。酢酸を使用してpHを調節したところ、沈殿物は形成されなかった。この画分をプールしてβB2クリスタリンを含有することを確認し、下で製剤「Wound Heal 1」と称する。
【0113】
氷酢酸を使用して抽出物のpHを8.6から5.0に調節し、粗製ウシクリスタリン抽出物を同様に分画したところ、白色沈殿物が形成し遠心分離によって除去された。ペレットを0.1Mホウ酸塩緩衝液にpH9.0で溶解した。ウエスタンブロット分析からは、αクリスタリンが、pH5.0で形成されたタンパク質沈殿物中に存在することが示唆された。βB2クリスタリンの存在は検出できなかった。
【0114】
3.3 ウシβB2クリスタリン精製のための限外濾過
上の所見に基づいて、βB2クリスタリン精製のための限外濾過分離技術を考案した。スケールアップに対応できる方法でウシクリスタリンを分画するために、一連の限外濾過膜を評価した。βB2クリスタリンの精製は、βB2クリスタリンとその他のクリスタリンタンパク質との分子間相互作用を利用する方法を使用して実施した。
【0115】
全ての水溶性クリスタリンを含有するウシクリスタリン抽出物は、水晶体組織から蒸留水で抽出して最初に調製され、抽出物はpH約6.8を有し、最初は4℃で70psiの圧力セル内で300kDaの公称分画分子量膜(NMWCO)を使用した、蒸留水中での分画がそれに続いた。膜上に形成したゲルは、主にαクリスタリンおよびβクリスタリンから構成された。ゲルを収集し、一部を水に溶解してゲル濾過クロマトグラフィーによって分析し、残りのゲル材料をペトリ皿内に4℃で保存した。γクリスタリンはこのゲルには存在しないようであった。
【0116】
上で概説したのと同一条件下で100kDaのNMWCO膜を使用して、300kDaの濾液のさらなる分画を実施した。濃縮水は有意水準のβB2クリスタリン(23166Da)およびβA3クリスタリン(25131Da)を含有するようであり、それをSephacryl 300HRカラム上でのゲル濾過によってさらに精製した。ゲル濾過は、蒸留水で中性pHに平衡化されたカラムに25mLの抽出物を装入して達成された。流速は1mL/分で、18mLの画分を収集し、それをBIORAD QuadTec検出器を使用して214nmおよび280nmでタンパク質含量についてモニターした。βクリスタリン画分をダイアフィルター処理し、次に凍結乾燥して製剤「Wound Heal 2」と称される第2のサンプルを生成し、創傷治癒分析について試験した。存在するタンパク質の大部分はβB2クリスタリンであった。βB2クリスタリンとβA3クリスタリンの間に少量の二量体があるβB2クリスタリンの二量体は、画分42におけるピークで溶出することが観察され、それはこのカラムを使用して溶出されたウシクリスタリン抽出物のβL2画分に相当した。
【0117】
100kDa濾液のさらなる分画は、50kDaのNMWCO膜を使用して達成された。50kDaのNMWCO膜の使用によって、二量体および三量体βクリスタリンから単量体γクリスタリンの分離ができたことは明らかであった。30kDaのNMWCO膜を使用してγクリスタリンのさらなる濃縮を達成し、5kDaのNMWCO膜を使用して低分子量ペプチドの収集もまた実施した。ウシクリスタリン抽出物の分画については下のスキーム1で概説した。高分子量αクリスタリンは、基本的に、300kDaのNMWCO膜を使用して、本質的にβクリスタリンから分離された。βクリスタリンが100kDaおよび50kDaのNMWCO膜を使用して分画されたのに対し、γクリスタリンはそれぞれ30kDaおよび5kDaのNMWCO膜を使用して分離され濃縮された。全ての分画ステップは、上述のように4℃で70psiの圧力セルを使用して実施された。SDS PAGE分析を実施して、これらの様々な画分中に存在するタンパク質プロフィールを観察した。
【0118】
300kDaの濃縮水は、主にαAクリスタリンおよびBクリスタリン、およびβクリスタリンを含有した。この膜を使用して濃縮された高分子量非クリスタリンタンパク質もまた観察されたが、そのアイデンティティは未知である。300kDa濾液、100kDa濃縮水、および50kDa濃縮水は、主にβクリスタリンを含有した。50kDa濾液、30kDa濃縮水、30kDa濾液、および5kDa濃縮水は、様々なサイズのγクリスタリンタンパク質を含有した。
【0119】
画分中に存在したγクリスタリンは、50kDaよりも低い分子量を有する。αクリスタリンタンパク質は、主に300kDa濃縮水中に存在した。βクリスタリンは、300kDaと50kDaの間の画分に位置した。
【化1】

【0120】
3.4 ウシαBクリスタリンの精製
αBクリスタリンを単離するために、変性条件下でDEAE Sepharose fast flowを使用して、粗製ウシクリスタリン抽出物を分画した。DEAE Sepharose fast flowを含有するカラム(3×33cm)(Pharmacia XK−26カラム、GE Healthcare DEAE Sepharose fast flowイオン交換樹脂を含有する)を5mM Tris HCl(pH7.6)、6M尿素、0.01%DTTで平衡化した。50mM Tris HCl(pH7.6)、6M尿素、0.01%DTTを使用して勾配溶出を実施し、35mM Tris HCl(pH7.6)、6M尿素、0.01%DTT、1M NaClを使用して溶出を完了した。BIORAD QuadTec検出器を使用して、214nmおよび280nmでタンパク質吸光度をモニターした。6mLの画分を収集した。50mLの5mg/mLウシクリスタリンを流速1mL/分で装入した。
【0121】
カラムからの対称的ピーク下の画分をプールして、12,000Daの公称分画分子量膜を使用して、蒸留水を少なくとも3回取り替えて、4℃で2日間にわたり透析し、尿素を除去した。サンプルを凍結乾燥し、SDS PAGE分析を使用して分析した(図8)。ウエスタンブロットおよびMS分析によって、画分37〜47はウシαBクリスタリンを含有することが示された。精製されたαBクリスタリンを下で「Wound Heal 3」と称する。
【0122】
3.5 Wound Heal製剤の分析
SDS PAGEおよびウエスタンブロット分析を実施して、Wound Heal 1、Wound Heal 2、およびWound Heal 3製剤中のβB2クリスタリンおよびαBクリスタリンの濃縮度を評価した。αAクリスタリン、αBクリスタリン、およびβB2クリスタリンの存在を知るためのアッセイでは、これらの各抗原に対してそれぞれ特異的な一次抗体を利用した。3つの製剤は、αAクリスタリンを含まないようであった。Wound Heal 1およびWound Heal 2がβB2クリスタリンを含有したのに対し、Wound Heal 3はαBクリスタリンを含有した。
【0123】
Wound Heal製剤(1〜3)の質量分光光度計(MS)分析もまた行った。上述したように、クリスタリンタンパク質は翻訳後修飾できる。翻訳後修飾の詳細な一覧表は、Hoehenwarterら、2006年によるレビュー論文にある。
【0124】
βB2クリスタリン(23168 Da)はWound Heal 1中に観察された。MS結果から、約22664Daの質量を有する別のタンパク質が存在するようである。Wound Heal 2製剤のMS分析では、2つのタンパク質、すなわちβB2クリスタリン(23167 Da)およびβA3クリスタリン(25061 Da)が検出された。ウシβB2クリスタリンについて同定されたいくつかの翻訳後の修飾のために、このタンパク質の質量範囲はかなり様々になり得る。23095のピークがアセチルアラニンの喪失の結果かもしれないのに対して、23335のピークは図9に示されるような完全修飾形態かもしれない(配列番号9)。
【0125】
Wound Heal 3製剤のMS分析からの最も近い一致はαBクリスタリンであり、これはまたウエスタンブロット分析によっても検出された。
【0126】
3.6 創傷治癒アッセイ
30匹のオスLewisラットを以下の表7に概略を説明するように、6匹ずつの5群に分けた。ラットは年齢および体重を一致させた。研究全体を通じて、ラットに齧歯類飼料と水を自由摂取させた。
【0127】
【表8】

【0128】
試験開始前に動物を2日間秤量し、体重を最小から最大にグループ分けした。次に群平均が可能な限り同様になるように、5×5ラテン方格を使用して体重に基づいて動物を無作為に群に割り当てた。
【0129】
ラットは手術後に1匹ずつ収容した。摂食量は測定しなかった。1日量約4mlのゼリーを1日目から投与して、水分補給を助けた。
【0130】
創傷形成のおよそ30分前に、各動物の頸基部にTemgesicを皮下注射した(0.075mg/kg体重)。酸素中3%のハロタンを使用して各動物を麻酔した。ひとたびペダル反射が消失したら、電気バリカンを使用して頭蓋基部から後肢領域にかけて動物を剪毛した。70%エタノール中の0.5%クロルヘキシジンを使用して、各ラットの皮膚を消毒した。各動物で頭蓋基部から股関節上部までの距離を測定し、脊髄軸に沿って頭蓋基部の6cm下に黒色フェルトペンで創傷位置を標識した。
【0131】
無菌技術を使用して、この位置に無菌の12mm生検パンチを使用して全厚の切り込みを入れた。あらゆる出血は綿棒を使用して除去した。パンチが乾燥しており、残骸(例えば皮膚、毛)が創傷に入らないように注意を払った。各創傷は皮膚表面に直角に形成し、生検パンチが皮膚のみを切断し、筋肉組織のより深い層に突き抜けないことを確実にするよう注意を払った。F2.8マクロレンズ付きキャノンデジタルEOS 20Dカメラを使用して各創傷を撮影した後、Gilson Microman CP 100ポジティブディスプレイスメントピペットを使用して、サンプルのアリコートをA、B、D、およびE群のラットの創傷に塗布した。生検パンチの内側を無菌食塩水に浸した綿棒で拭って、あらゆる組織液および/または残骸を除去した。次にパンチを次の動物で使用する前に70%エタノールに浸した。
【0132】
各動物の全身状態を創傷形成後5日間にわたり注意深くモニターした。必要ならば動物に追加的なTemgesicを術後に投与した。2から7日目は動物に紙タオルを与えた。創傷が乾燥した場合にのみ、紙タオルからかんな屑に変更した。
【0133】
1、3、5、7、および9日目に、全ての動物に対照または試験薬剤を合計5回局所塗布した。1日目以降の投与および撮影のためには、動物を麻酔せずに拘束した。
【0134】
研究終了時創傷が治癒したら、CO吸入と頸椎脱臼によって動物を安楽死させた。隣接する皮膚、筋膜、および筋肉組織を含めた創傷部位全体を切除して、組織学的および免疫組織化学的検査のためにホルマリン中で固定した。ホルマリンに入れて24時間以内に、創傷をパラフィン蝋に包埋して3μm厚さの切片を切り出し、ポリ−L−リジン被覆スライドガラスに付着させて脱蝋し、組織学的検査のためにヘマトキシリン、エオジン、およびヴァン・ギーソン染色液で染色した。その他の切片は、免疫組織化学的検査のために使用した。
【0135】
体重を1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、および23日目に測定し、各動物について元の体重(1日目)からの偏差を計算した。同日に、F2.8マクロレンズ付きキャノンデジタルEos 20Dを使用して写真を撮影した。写真をダウンロードし、NIH Image J 1.633uソフトウェア(National Institutes of Health(NIH),Rockville Pike,Bethesda,Maryland,United States;http://rsb.info.nih.gov/nih−image)を使用して、創傷面積を測定した。レーザースペックル画像もまた、空間写真と同時に撮影した。動物を1日おきに、創傷閉鎖速度の写真記録を行った際に、秤量した。
【0136】
視覚的観察から、各創傷の発赤および腫脹を個々に評点した。これらは次のような0〜3の尺度で評点した。
0=発赤または腫脹なし
1=軽微な発赤/腫脹
2=顕著な発赤/腫脹
3=大規模な発赤/腫脹
【0137】
記述統計を評価した。予備t検定は、異常値が結果に顕著に影響を及ぼすかどうかを調べた。収集した全てのデータ点について、主要分析を実施した。予備分析は、t検定を使用して対照創傷のみに対して行った。一変量ANOVAを使用して、処置と対照との差異および処置からのサンプルを評価した。別のANOVAは、処置サンプルのみを使用して用量反応があったかどうかを評価した。正規性仮説はスチューデント化残渣上でq−qプロットを使用して試験され、分散の不均一性はLeveneの検定を使用して試験された。Mac OSXのためのSPSS 11を仮説検定および統計学的分析のために使用した。
【0138】
創傷の結果として、ラットには即時の体重低下があった(図10)。これは3日目に最も明白であった。その後、全てのラットは着実な増大を示した。創傷がPBSキャリアで処置されたラットは最大低下を示した。それらは3日目に開始体重の7.0%を失った。しかしそれらは着実に回復して、その他の4群のいずれよりも早い速度で、体重が増加した。11日目までにはこれらのラットの平均重量は開始体重に戻り、研究の終わりまでにはそれらは試験開始時よりもおよそ5.0%重かった。処置された4群は全て、最初にほぼ同一の体重減少を示した(5.4%〜5.7%)。次にそれらは元の体重に戻った。より低用量の試験抽出物を塗布されたものは(B群、毎回0.01mgの塗布;C群、毎回0.1mgの塗布)、ほぼ同一の増加速度を示した。B群は14日目までにそれらの創傷前体重に戻り、C群は15日目までに復帰した。したがってそれらの復帰速度は未処置対照よりも遅かった。最高用量を塗布されたラット(D群、毎回1.0mgの塗布)は、わずかにより速い速度で体重が増加したようであった。それらは12日目までに開始体重に戻った。
【0139】
創傷をアロエベラで処置することは、αBクリスタリン抽出物と同様の効果を有するようであった。これらのラットの平均体重は、12日目までには開始体重に戻り、研究の終わりまでには開始時よりも平均して4.3%重かった。
【0140】
処置結果としての創傷の炎症性反応を評点し、結果を図11に要約する。
【0141】
各研究日に、各創傷に炎症性スコアを割り当てた。創傷形成に続き、全群によって即時の顕著な炎症反応があったことが注目される。増加が最小だったのはキャリアのみを与えられた対照群であった。βB2クリスタリン抽出物を与えられた群は、いくらかより大きい初期反応を示した。αBクリスタリンを与えられた群、そしてまたアロエベラを塗布された群による反応もまた、反応増大を示した。しかし3日目以降、全ての群が残る研究期間にわたり炎症の着実な低下を示した。例外は炎症スコアが5日目に最高値に達した後、低下したキャリア対照群であった。結果はクリスタリン抽出物およびアロエベラが、より迅速に抗炎症反応を生じたことを示唆する。アロエベラで処置された創傷は、最も迅速な炎症低下を示すようであった。対照的に、用量レベルにかかわらず、炎症性スコア低下に対するクリスタリン抽出物の効果はわずかであった。異なる処置群の創傷面積を表8および図12に示す。
【0142】
【表9】

【0143】
A群(対照−PBS処置)中の創傷治癒速度は、予期されたとおりであった。7〜11日目が最速相であった治癒パターンもまた予期されたとおりであった。
【0144】
最低用量のβB2クリスタリン(投与あたり0.01mg)で処置された創傷(B群)は、最初の7日間にわたり参照群よりもわずかにより早い治癒速度を示した。7日目以降は、群の治癒速度は対照群と非常に良く似ていた。妥当なことに、この群の試験抽出物の用量レベルは非常に低かった。
【0145】
C群中のラット(投与あたり0.1mgのβB2クリスタリンを与えた)の平均治癒速度は、最初の9日間にわたり対照群(A群)よりも高かった。その後、2群の速度はほぼ同一であった。この群では最初の11日間の閉鎖速度が、より低い用量(B群)を与えられた群よりもわずかにより早いことは注目に値し、可能な用量反応が示唆された。
【0146】
しかしD群(αBクリスタリン)が塗布された場合は、治癒速度はかなり低下し、この群の治癒速度はキャリアのみを与えられた群よりも低かった。すなわち1kgあたり1mgの用量は、治癒速度を阻害した。3日目には創傷は、緩衝食塩水のみを与えられたラットの創傷よりも8.8%大きかった。それらは7日目には7.7%大きく、11日目には28.7%大きかった。創傷がほぼ治癒した最後の数日間になってはじめて、D群は対照群と同様の治癒速度を有した。この結果は、高濃度のαBクリスタリンが治癒にとって拮抗性であるかもしれないことを示唆する。
【0147】
アロエベラゲル(E群)で処置された創傷は、食塩水(A群)で処置されたものとほぼ同一の治癒速度を示した。これは実験期間全体に当てはまった。したがって陽性対照の効果は明白でなかった。このアロエベラゲル効果の欠如について、明らかな理由はない。
【0148】
23日目の創傷治癒完了時に、創傷あたり20mgで試験された陽性対照アロエベラゲルを含めて、試験されたサンプルのいずれでも創傷閉鎖の明らかな促進はなかった。この理由は、治療的範囲から外れた投薬量に関係するかもしれない。しかし研究5日目には統計学的に有意な効果があり、Wound Heal 1(B群:βB2クリスタリン低用量、p=0.045)、およびWound Heal 2(C群:βB2クリスタリン高用量、p=0.008)では創傷面積が有意により小さかった。これは創傷治癒の促進が、治癒カスケードの初期段階で観察されたことを示唆する。5日目にはまた、βB2クリスタリン(C群)とαBクリスタリン(D群)の間に統計学的有意差があった(p=0.012)。5日目には濃度効果が明白なようであり、より低濃度のβB2クリスタリン(B群)の平均創傷面積が122.7±14.7mmであったのに対し、より高濃度(C群)の平均創傷面積は112.7±10mmであった。したがって未変性のβB2クリスタリン投与から、いくらかの創傷治癒活性が明らかであった。
【0149】
βB2クリスタリンのホスホリル化状態の分析を、31PNMRを使用して実施した。ピークは検出されず、タンパク質がリン酸化されていないことが示唆された。これは蛍光性ホスホタンパク質染色を使用して確認され(データ示さず)、βB2クリスタリンが、5日目前後の創傷治癒カスケード初期段階で創傷治癒において生物活性を有し、それは血管新生を促進するその能力に起因する可能性が高いことがさらに示唆された。
【0150】
βB2クリスタリンはより高いタンパク質濃度では、二量体およびより高次の集合体を形成するので、このアッセイでは低濃度のWound Heal 1を使用した。Wound Heal 2はより高濃度のβB2クリスタリンを含有したので、この抽出物中に存在する別のタンパク質βA3クリスタリンと共に二量体を形成するかもしれない。βB2クリスタリンの活性は予期されたよりも低く、5日目にその他の処置と比較して創傷面積のわずかな減少があったのみである。βB2含有製剤で最初に観察された劇的な創傷治癒効果の欠如が観察されたのは、タンパク質のC末端およびN末端を切断することで単量体型タンパク質を発生させる、エラスターゼIによるβB2クリスタリン処置の欠如に起因するようであった。
【0151】
実施例4:調製されたウシクリスタリン画分の分析
クリスタリンタンパク質の機能特性を調査するために、研究を行った。実施例3で述べたようにして、Sephacryl 300HR上でゲル濾過クロマトグラフィーを使用してウシクリスタリンタンパク質の分画を実施した。この技術を使用して、αクリスタリンならびにβH、βL、およびβL2、γSおよびγBC/DEとして同定された画分を分離した。次に生物学的活性を評価するために、画分を以下の研究で使用した。
【0152】
4.1 クリスタリンのプロテアーゼ阻害活性
エラスターゼI活性を阻害する能力について、ウシクリスタリン画分を試験した。簡単に述べると、粗製ウシクリスタリン抽出物およびαA/Bクリスタリン画分で、わずかなエラスターゼ阻害が観察された。βクリスタリン画分(全てβB2クリスタリンを含有するβH、L1およびL2)中には、活性は検出されなかった。γSクリスタリンは、その他の画分と比べてかなりのエラスターゼ阻害活性を有することが示された。これらの結果も先と同様にαおよびβクリスタリンの間の違いを実証し、クリスタリンタンパク質のプロテアーゼ阻害活性が、βB2クリスタリンとは異なってシャペロン活性もまた有することが示されている、γSクリスタリンおよびαAおよびBクリスタリンに、限定されることを示唆する。
【0153】
4.2 シャペロン活性
プロテアーゼエラスターゼI、トリプシン、およびキモトリプシンを熱変性から保護する能力について、ウシクリスタリン画分を試験した。簡単に述べると、クリスタリン画分の存在または不在下において、沸騰水浴内で30秒間プロテアーゼを加熱した。結果を図13に示す。
【0154】
対照は加熱前のプロテアーゼ活性を実証し、熱変性対照(HD)は水浴内での加熱後に残ったプロテアーゼ活性を実証した。エラスターゼIをWound Heal 3と混合した際にはシャペロン活性が観察されたが、Wound Heal 1またはWound Heal 2製剤との混合では観察されなかった。サンプルをトリプシンまたはキモトリプシンで処理した場合は、事実上シャペロン活性は観察されなかった。SP Sepharose fast flowによって単離されたαBクリスタリンおよびαAクリスタリンは、どちらもエラスターゼIを熱不活性化から保護できた。αBクリスタリンは、エラスターゼIを熱変性から保護する上で最も活性が高いようであった。βクリスタリン含有画分のいずれにおいても活性は観察されず、βクリスタリンが分子シャペロンとして機能せず、熱媒介変性からエラスターゼIを保護できないことが実証された。βB3クリスタリンとは対照的に、βB2クリスタリンは熱処理に対して不安定であることが分かった。
【0155】
4.3 血管新生の促進
4つの別々の試験を実施して、クリスタリン製剤の血管新生効果を判定した。各サンプルを三連でアッセイした。陽性対照(VEGF)およびPBSを含有するビヒクル対照もまた、三連でアッセイした。(平均からの)標準偏差百分率を評価して、ばらつきが20%を超えることが分かった場合は異常値を除去した。予備統計的有意性を独立スチューデントt検定によってα<0.05で評価した。平均+/−標準誤差のグラフ表示を判定した。
【0156】
第1の研究は、実施例3.2で述べられているようなゲル濾過分析によって調製されたウシ画分の血管新生可能性を調査した。この実施例で述べられているように、α画分はαAおよびαBクリスタリンを含有し、βH画分は全てのβクリスタリンを含有し、βL1画分はβクリスタリンの細分画および高含量のβB2クリスタリンおよびβB3クリスタリンを含有し、βL2画分はβB2クリスタリンおよびβA3クリスタリンのみを含有した。
【0157】
第2の研究は、精製されたクリスタリンタンパク質の血管新生可能性を調査した。簡単に述べると、βB3クリスタリンが加熱によって調製されて(97〜99℃で3分間、上清を遠心分離によって収集)、本質的に均質であった。αAクリスタリンおよびαBクリスタリンのサンプルは上述のようにイオン交換クロマトグラフィーによって調製され、これもまた本質的に均質であった。Wound Heal 1〜3製剤もまた、本研究で試験した。
【0158】
第3の研究は、ヒツジクリスタリンタンパク質の血管新生可能性をそれらのウシ同等物と比較して調査した。実施例5で下述するようにC4カラムを使用してRP HPLCによって、ウシおよびヒツジクリスタリンタンパク質の双方を精製して本質的に均質にした。均質性はSDS−PAGEによって確認した。未変性(すなわち未消化)βB2クリスタリンとエラスターゼI消化βB2クリスタリンとで血管新生可能性を比較して、βB2クリスタリンに対するエラスターゼI処置の効果もまた調査した。エラスターゼI処置によってクリスタリンタンパク質のN末端およびC末端延長が放出され、単量体である球形タンパク質が残った。
【0159】
最後の研究では、ヒツジβB2クリスタリンを単独でまたはインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)と組み合わせて試験し、ヒツジαBクリスタリンを単独でまたはトリプトファンジオキシゲナーゼ(TDO)と組み合わせて試験した。
【0160】
簡単に述べると、各研究において1匹のLewisラットを安楽死させ、その大動脈を10mLのMCBD−131培地を含有する15mL Falconチューブに移して氷上で保存した。10mLの氷冷MCDB−131を含有する92×17mmペトリ皿に大動脈を移した後に、オリンパスSZ−60解剖顕微鏡の下で外側脂肪組織を除去した。これは光ファイバー光源を用いて行った。次に大動脈をサイズおよそ2mmの連続環に切断した。微小ハサミとピンセットを用いて、個々の環の外側から結合組織を除去した。清浄な環を別個のペトリ皿内で無菌のMCDB−131培地内に保存した。環を97%空気/3%CO雰囲気内37℃で一晩予備インキュベートした。
【0161】
ゲルサンドイッチを調製するために、75mgのフィブリノーゲンを25mLのMCDB−131培地に添加して、ロッカーローラー上で5分間穏やかに振盪した。3mlのMCDB−131/フィブリノーゲン溶液を15mL Falconチューブに入れて、10μLのトロンビンをそれに続け、直ちに混合した。このフィブリノーゲン−トロンビン溶液の0.4mL容積を24ウェルプレート上の各ウェルに、一度に6ウェルずつ添加した。次に大動脈環を固化中のゲルにのせ、穏やかにゲル内に押し込んで45分間置いた。次に各環が0.4mLのゲルで覆われるように、これらのステップを繰り返した。ゲルを放置して室温で固化させた。5mLのMCDB−131中で試験サンプルを100μg/mLに希釈し、1.5mLの各サンプルを3つの適切なウェルのそれぞれに入れた。次にプレートを恒温器(37℃、97%空気/3%CO)に入れた。
【0162】
倒立顕微鏡を使用して、ウェル内の汚染徴候(真菌成長または培地の黄変)について培養プレートを毎日検査した。それらの外辺部からの微小血管の成長についてもまた観察した。OLYMPUS CK−12顕微鏡に装着したPixera PVC−100Cデジタルカメラを使用して、各ウェルのデジタル写真を接種後7日後に撮影し、マッキントッシュコンピュータに保存した。低倍率視野(すなわち20×、640×480ピクセルPICT)で十分であった。PICTは、NIH Image内での視覚化および測定のためにグレースケールに変換できる。グレースケール画像はJ 1.32 Imageソフトウェアを用いて、NIH Imageプログラムで開くことができる。
【0163】
微小血管成長速度判定を判定する際は、NIH imageソフトウェア中のシェイプツールを使用して環の周囲を描画し、各環周囲の微小血管成長が占める面積および各大動脈環の面積を測定した。この測定を繰り返し、2回目は毛細管周囲を描画した。典型的に、内的および外的毛細血管成長、および内面および外面大動脈環面積の4つの測定を行った。次に各ウェルについて微小血管成長面積と大動脈環面積との比率を計算し、三連の各サンプルについて平均値および標準偏差(SD)を判定した。
【0164】
個々の各ウェルのデジタル撮影に続いて、各ウェルを摘出して10%ホルマリン中で固定した。ホルマリン中で24時間以内に、各環を除去してパラフィンに包埋した。3μm厚さの切片を切り出してポリ−L−リジン被覆スライドガラスに付着させ、脱蝋してプロテアーゼXIV(Tris緩衝食塩水中の0.5mg/mL)で37℃で10分予備消化した。いくつかの抗体は加工によって損なわれた免疫反応性を「埋め合わせる」ために、ホルマリン固定パラフィン包埋組織および細胞学的製剤のHeat Induced Epitope Retrieval(HIER)を必要とした。クエン酸緩衝液(pH6.0)を使用した場合に、改善された免疫染色結果が得られた。HIER中には組織スライドをクエン酸緩衝液に浸し、ホットプレートまたはその他の適切な熱源により沸騰させた(>95℃)。
【0165】
HIER処置は次のステップからなった。固定され包埋された組織切片をHistoGrip(商標)(Zymed(登録商標)カタログ番号00−8050)シランまたはポリ−L−リジンを使用して、スライドガラスに付着させた。固定化切片をキシレン中で脱パラフィンして段階的アルコール中で再水和し、続けて、脱イオン水中、次にPBS中で洗浄した。内在性ペルオキシダーゼを0.5%過酸化水素で10分間ブロックし、続けて、PBS中でのさらに洗浄した。スライドをスライドラックに入れて、500mLのクエン酸緩衝液の使用液を含有するILガラスビーカー(Pyrex)中に沈めた。ビーカーをホットプレートにのせて沸騰するまで溶液を加熱し、15分間沸騰させた。加熱後、スライドを収容するビーカーをホットプレートから除去して25分間放冷した。次にスライドをPBSで洗浄し、必要ならばアビジン/ビオチンブロックを実施した。免疫染色に先だって、一般タンパク質をブロックするステップもまた実施した。
【0166】
次にInnogenex IHCキットを使用して製造業者(Affinity Bioreagents,Inc,Golden,CO,USA)の説明書に従って、上のように調製されたスライドを一次抗体と共にインキュベートし、二次抗体と共にインキュベートし、洗浄して、ストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼと共にインキュベートし、洗浄して、DAB色素源と共にインキュベートし、洗浄して、マイアーのヘマトキシリンで対比染色し、洗浄してマウントした。
【0167】
スライドは、ビメンチンについては1:20希釈およびCD−31については11:10希釈でそれぞれ使用される一次抗体によって特異的に染色された。染色によって、内皮細胞と全ての遊走細胞との比率が計算できるようになった。
【0168】
4.4 結果と考察
ウシクリスタリン凝集体の血管新生効果を調査する第1の研究では、いずれのサンプルも血管新生を促進しなかった。妥当なことに、VEGFは30μg/mlではいかなる血管新生促進も生じることなく、実際にはそれは統計学的に有意ではなかったが15.08%阻害性であった。これはいくぶん意外であり、そのため第2の研究ではより高濃度のVEGFを使用した。しかし対照ウェル内の微小血管成長レベル(9.640±0.263SEM)は予期されたようであったので、実験条件は満足できるものであったと考えられる。
【0169】
試験されたクリスタリン凝集体の6個のサンプルは、例えばホスホリル化およびアセチル化およびプロテアーゼ分解生成物をはじめとする翻訳後修飾などのクリスタリンタンパク質の全ての異なる形態を含有した。αクリスタリンが高分子量クラスター(600〜800kDa)であったのに対し、βクリスタリンはサイズが200〜40kDaにわたる四量体、三量体、および二量体であることが分かった。サイズは、分画で使用されたSepharcyl 300 HRカラムの較正、SDS PAGE分析によって、および文献で報告されている既知のサイズ範囲から求められた。γクリスタリンは、サイズ範囲が20〜30kDaの単量体であった。
【0170】
ウシクリスタリンタンパク質の効果に着目する第2の研究、および結果を表9に示す。
【0171】
【表10】

【0172】
上のように、βB2クリスタリンは200μg/mLの濃度で微小血管成長に21.83%の増大を促した。αAクリスタリンの200μg/mL溶液もまた、8.26%促進性であることが分かった。その他のいずれの試験サンプルも微小血管成長に対して、血管新生効果を示さなかった。50μg/mLのVEGFはわずかな促進を生じたが、これは統計学的に有意でなかった。対照ウェル内の成長(9.894±1.076SEM)は、先と同様に実験条件が満足できるものであったことを示唆した。
【0173】
第3の研究はヒツジクリスタリンタンパク質の血管新生活性を対応するウシクリスタリンタンパク質と比較し、結果は表10に示される。
【0174】
【表11】

【0175】
ウシおよびヒツジαAクリスタリンのどちらも血管原性であることが示された。ヒツジαAクリスタリンは、ウシαAクリスタリンよりも高活性であった。しかし後者はヒツジαAクリスタリンの半分の濃度で試験された。したがって活性の差は、投薬量効果に起因するかもしれない。興味深いことに、未変性のウシおよびヒツジβB2クリスタリンが血管原性でなかったのに対し、エラスターゼI処理ヒツジβB2クリスタリンは血管新生を促進した。この結果は、単量体形態のトランケート型(すなわちN末端およびC末端部分を欠く)のタンパク質が、血管新生促進に関してより高活性であることを示唆する。ヒツジαBクリスタリンはこの研究では血管原性でなかった。
【0176】
第4の研究は、トリプトファン加水分解酵素IDOおよびTDOと組み合わせた、クリスタリンタンパク質の効果に着目し、結果は表11に示される。
【0177】
【表12】

【0178】
IDOおよびTDO双方はどちらも促進性であり、IDOはTDOよりも高活性であった。これらの研究結果を図14および図15に図示する。
【0179】
要約すれば、精製されたクリスタリンを使用するとより高い活性が明らかであり、クリスタリンが結合して高分子量集合体になると、その生物学的効果がいくぶん低下するかもしれないことが示唆される。108%活性のウシαAクリスタリンおよび121%活性のWound Heal 2、ウシβB2クリスタリンの2つのサンプルは、血管新生を促進する能力を実証した。VEGFは50ng/mLで107%活性を有した。これは統計学的に有意でなく、このモデル系では血管新生の促進においてβB2クリスタリンタンパク質がVEGFよりも高活性であることが示唆された。
【0180】
これらの研究は、ラット大動脈環血管新生アッセイにおいてクリスタリン凝集体が低い生物学的活性を有することを実証した。しかし集合体をさらに精製すると、βB2クリスタリンおよびヒツジβB2クリスタリンのエラスターゼI切断産物、およびウシおよびヒツジαAクリスタリンの双方が、微小血管成長に好ましい効果を有することが実証された。
【0181】
実施例5:ヒツジβB2クリスタリンの調製
所望のタンパク質を精製する単純で効率的な工程を使用して、ヒツジβB2クリスタリンの精製を実施した。改善された方法は、ゲル濾過クロマトグラフィーの実施を不要にする。
【0182】
ヒツジ眼球を採取して上の実施例3.1で述べられているようにして水晶体を除去した。蒸留水を使用して水晶体を抽出した。4℃で30分間混合した後に、水晶体の外層が溶解した。水晶体抽出物を遠心分離して、氷酢酸でpHを4.5に調節した。pH調節中に沈殿は形成されなかった。分取用C4 HPLCカラムへの装入に先だって、0.45ミクロンフィルターを通して抽出物を濾過した。ヒツジβB2クリスタリンを含有する単一ピークが回収された。プロトコルの修正を使用して、ヒツジβB2クリスタリンを単離するのに要する溶出時間が成功裏に短縮された。2回の分取操作から100mgの精製ヒツジβB2が単離された。ヒツジ水晶体からのβB2クリスタリンの収率は、分取用HPLCカラムに装入されたタンパク質の8%であった。これは水晶体の湿潤重量の2.7%に一致する。ヒツジ水晶体は34%のタンパク質を含有した。
【0183】
5.1 ヒツジ眼水晶体クリスタリンの抽出
ヒツジ眼球を地元の食肉処理場から入手し、即座に処理した(1時間以内)。メスを使用して、眼球の様々な位置に1〜2cmの切り込みを入れた。回収した6個の水晶体を200mLの蒸留水で洗浄し、残留する水晶体シースを除去した。水を200mLの新鮮な蒸留水に入れ換えて、20容積中4℃で30分間撹拌した。この時間後、固い水晶体核は原形を保ち処理からはずされた。水晶体外層は溶解して、濁った白色溶液が得られ、これを10℃、30000rpmで30分間遠心分離し、または10℃において5000rpmで30分間により清澄化した。RP−HPLCを使用して水溶性水晶体クリスタリンを含有する上清をさらに分画し、ヒツジ眼球からのβB2クリスタリンの可能な収率を判定した。
【0184】
5.2 分取RP−HPLC
分取RP−HPLCプロトコルは分析法から適応させた。簡単に述べると、Phenomenex Jupiter C4 300A 10um 250×21.2、カタログ番号00G−4168−P0、およびSecurityGuardカートリッジC4−300A 15×21.2 Jupiter(シリアル番号38833−1)を使用して、RP−HPLCによってヒツジβB2クリスタリンを単離した。カラムはdHO中の0.1%TFAおよび0.1%TFA含有10%アセトニトリルによって流速25mL/分で、平衡化した。緩衝液B(0.1%TFA含有100%アセトニトリル)の勾配は次のように注入した。0分で10%B、10分で30%B、70分40%B、90分60%B、95分98%B、および100分10%。吸光度は280、214、235、330、および450nmでモニターした。43秒毎に18mLの画分を収集した。装入容積は50mL(9.57mg/mL)であった。
【0185】
以下の修正勾配条件下で、処理時間が短縮された。0分で10%B、10分で30%B、15分で31%B、20分で40%、25分で60%B、30分で98%B、および32分で10%。吸光度を280、214、235、330、および450nmでモニターした。この場合もまた流速は25mL/分であり、18mLの画分を収集した。装入容積は80mL(9.57mg/mL)であって。
【0186】
5.3 ウシβB2クリスタリンの単離
ヒツジβB2クリスタリンを含有するピークは、Phenomenex Jupiter C4 300Aカラムを使用したRP−HPLC分取プロトコルにより、その他の水溶性クリスタリンタンパク質から容易に分離された。実施例5.2で述べられている短縮プロトコルを使用して、ヒツジβB2クリスタリンを精製した。
【0187】
ヒツジβB2クリスタリンを含有するピークが再度分離された。SDS PAGE分析によって単一バンドが観察され、非還元性条件下でヒツジβB2二量体の存在が観察された。ヒツジβB2クリスタリンのMS/MS分析は、対応するウシβB2クリスタリンタンパク質との配列相同性を有する単一タンパク質を明らかにした。双方の操作からヒツジβB2クリスタリンを含有する画分18および19をプールして、真空下で濃縮しアセトニトリルを除去して、次に凍結乾燥して白色の綿毛状タンパク質粉末を生成した。100mgのタンパク質が得られた。HPLC操作は32分以内に完了した。
【0188】
5.4 ヒツジβB2クリスタリンの収率
合計6個のヒツジ水晶体を収集した(4.69g)。これを200mLの水で抽出し、次にこの抽出物の152mLを遠心分離した(45mLは処理しなかった、22.5%)。遠心分離後、130mLを実施例5.2で述べられているように分取用HPLCカラムに装入した。100mgの精製タンパク質を得た。様々なヒツジ眼球組織重量およびβB2の収率は、表12および表13に示すように判定された。
【0189】
【表13】

【0190】
【表14】

【0191】
カラムからの収量は、ヒツジβB2クリスタリンがカラムに装入されたタンパク質のおよそ8%を構成することを実証した。全ての抽出物が処理されたなら、さらに22mgのヒツジβB2クリスタリンが得られたことが予期できる。
【0192】
5.5 ヒツジβB2クリスタリンとウシβB2クリスタリンとの配列相同性の比較
ウシβB2クリスタリンのアミノ酸配列に対応するヒツジβB2クリスタリンについて、いくつかのペプチドが同定され配列決定された。精製されたヒツジβB2クリスタリンをトリプシン加水分解し、生じた断片のMS/MS分析を行った。LTQ−FTMSを使用して得られた配列を使用してタンパク質データベースを検索した。得られた唯一の肯定的結果は、対応するウシタンパク質、βB2クリスタリンであった。相同性領域は、Profoundおよび配列アラインメントツールを使用して同定した。配列中にオーバーレイが得られなかった6つの領域があった。カバレッジは51.9%であった。しかしこれらの結果は、単離されたヒツジタンパク質が、ウシタンパク質とかなりの配列類似性を有するヒツジβB2クリスタリンであることを確かに確認した。
【0193】
実施例6:ヒツジβB2クリスタリン創傷治癒製剤
6.1 ヒツジβB2クリスタリンの調製
本質的に実施例5.1で述べられているようにして、ヒツジ眼球を収集して即座に処理した。簡単に述べると、メスを使用して角膜を横切って2〜3cmの切り込みを入れた。ブレードを除去しながら眼球の両側をつまんで水晶体を眼球から押し出し、1分あたり約12個の眼球が処理できた。水晶体を4℃において20容積(w/v)の蒸留水中で一晩撹拌した。水晶体はこの時間内に緩慢に溶解した。濁った白色溶液が得られ、それをセライト(セライト545 34967−0025、Acros Fine Chemicals,Belgium)を通して濾過した。酢酸を使用して水溶性水晶体クリスタリンを含有する上清のpHを3.5に調節し、実施例5.2で述べられているようにRP−HPLCを使用してβB2クリスタリンを精製した。
【0194】
6.2 βB2クリスタリンタンパク質酸性沈殿ゲル
酸性条件下において塩溶液の存在下で自然発生的に沈殿するタンパク質の能力を利用して、ヒツジβB2クリスタリンのタンパク質ゲル沈殿物を調製した。
【0195】
透明なβB2クリスタリン酸性ゲルを以下のようにして調製した。実施例6.1で述べられているような分取RP−HPLCによって精製された未変性ヒツジβB2クリスタリンを85mg/mL〜100mg/mLで蒸留水に溶解した。タンパク質が完全に溶解した後に、pH約1.4〜1.7の透明な酸性ゲルの形成が明らかであった。エラスターゼIトランケート型のRP−HPLC精製ヒツジβB2クリスタリンをその最大溶解度(20mg/mL)で溶解すると、それは自然発生的に透明ゲルを形成できなかった。簡単に述べるとヒツジβB2クリスタリンのエラスターゼIトランケート型は、実施例6.1.で述べられているようなRP−HPLCによって調製された。トランケート型は、1:100の酵素対基質比のエラスターゼI(Worthington Biochemical Corporation、カタログ番号2280(5.05μ/mgおよび27.2mg/mL)バッチ番号38A10174)を使用して、精製されたβB2クリスタリンを消化して調製された。βB2クリスタリンの部分的加水分解は、10mMのCaClを含有する10mM Tris HCl(pH8.0)中で、10〜50mg/mLの精製βB2クリスタリンと0.1〜0.5mg/mLのエラスターゼとを1〜8時間混合して達成された。反応が完了したらトランケート型βB2クリスタリンをRP−HPLCで精製した。未修飾形態の滞留時間は、約15分間からトランケート型の10分間にシフトして、タンパク質の修飾が示唆された。SDS PAGE分析もまたタンパク質の相対分子量のシフトを実証した。10分で溶出したタンパク質ピークを収集して、溶媒を真空下で除去した。次にタンパク質溶液を凍結乾燥した。凍結乾燥トランケート型タンパク質を有機ゲルと5mg/gゲルで混合し、ラットの創傷に毎日創傷あたり300μLで塗布した。あるいは、凍結乾燥タンパク質を蒸留水に10〜20mg/mLで溶解し濾過滅菌して、塩溶液に予浸したガーゼを覆うのに使用した。タンパク質被覆ガーゼを風乾させた。最終滅菌は、包装後に酸化エチレンガスまたはγ照射を使用して達成できた。生成物は創傷への塗布に先だってPBS水和を必要とする。
【0196】
6.3 カルシウム塩を用いて調合されたβB2クリスタリンタンパク質沈殿物ゲル
カルシウムは、ケラチノサイトの増殖および分化調節因子として重要な役割を果たし、制御因子として皮膚の創傷治癒を助ける。実験モデルはまた、カルシウムの管理が創傷管理も改善することを提案し(Lansdown、2002年)、アルギン酸カルシウム包帯が、正常な創傷治癒のいくつかの細胞的機構を改善することが示されている(Doyleら、1996年)。油性水酸化カルシウム懸濁液はまた、非外科的歯周治療後に口腔創傷に局所的に塗布すると、歯周創傷治癒を改善することが示されている(Kasajら、2006年)。さらにβクリスタリンは、規定の化学量論比と中程度の親和性で二価のカルシウムイオンと結合することが報告されている(Sharmaら、1989年)。最近の研究(JobbyおよびSharma、2007年)では、βB2クリスタリンはカルシウムイオンと特異的に結合することが示されている。
【0197】
創傷への塗布により適したより高いpHのβB2クリスタリンゲルを提供するために、未変性βB2クリスタリンをカルシウム塩と共に調合して、最終pH約4.0〜5.0のタンパク質沈殿ゲルを得た。簡単に述べると、実施例6.1で述べられているように調製された0.5gの精製未変性ヒツジβB2クリスタリンを5mLの蒸留水に溶解した。これはpHが約1.5の透明ゲル様混合物をもたらした。これを10mM(最終)Ca(OH)および100mM(最終)CaClと混合して、タンパク質の沈殿を得た。次に溶液を遠心分離して、ペレットと上清を分離した。ペレット(0.11g)を3mLの蒸留水に溶解して、4℃で保存した。上清は依然として最初のタンパク質含量の75%を含有したので、それを凍結乾燥して重量0.43gの綿毛状の白色粉末を得た。この凍結乾燥粉末をペレット溶液と混合し、pH4.0のpH値を有するゲル様生成物を得た。ゲルの最終濃度は100mg/mLであった。このゲルを下の実施例8で述べる、遅延創傷治癒モデルで使用した。
【0198】
6.4 トランケート型βB2クリスタリン(有機ゲル)配合物
ミリスチン酸イソプロピルおよびステアリン酸マグネシウムを含有する無水有機ゲル(INCI Magnate(商標)、Johnson & Wilkins Limited)と、実施例6.2で述べられているように調製されたRP−HPLC精製ヒツジエラスターゼIトランケート型βB2クリスタリンとを5mg/mLの濃度で混合した。凍結乾燥タンパク質を有機ゲル中に均等に混合して、滑らかなペーストを形成した。このペーストを下の実施例7で述べる5日間創傷治癒研究において使用した。
【0199】
実施例7:ラットにおける5日間創傷治癒研究
各群6匹ずつの5つの処置群に割り当てた30匹のオスのSprague−Dawleyラットを使用して、創傷治癒研究を実施した。処置群は次のとおりであった。
A群−ビヒクル対照(有機ゲル)
B群−エラスターゼI処理ヒツジβB2クリスタリン(トランケート型)(有機ゲル中5mg/g)
C群−ヒツジαAクリスタリン(有機ゲル中2.6mg/g)
D群−ウシインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)(有機ゲル中10mg/g)
E群−陽性対照(グレープフルーツ果皮抽出物)(有機ゲル中1mg/g)
【0200】
全てのクロマトグラフィー手順は、インライン導電率モニタリングと共に、214および280nmに設定したQuadTec検出器付きBIORAD Biologicシステムを使用して、4℃で実施した。
【0201】
ウシIDOは上述されているようにしてウシ心臓組織から調製した(Shimizuら、1978年)。カチオン交換SP樹脂(BioRad)を以下の条件で使用した。樹脂を10mMのKHPO(pH6.4)を使用して平衡化した。次に10mLのウシ心臓抽出物(25gの凍結心臓を125mLの10mM KHPO(pH6.4)で抽出して調製された)をカラムに装入した。カラムを200mLの平衡緩衝液で洗浄し、続いて、200mL容積の平衡緩衝液中の0〜1MのNaClからの勾配溶出を行った。6mLの画分を収集して、IDO活性について試験した。活性を含有する画分をプールして透析し(10〜12kDaのNMWCO)、次に凍結乾燥した。凍結乾燥タンパク質をウシIDOまたはウシ心臓酵素と称する。凍結乾燥タンパク質粉末を10mg/mLで有機ゲルと混合した。
【0202】
100mMリン酸緩衝液(pH6.2)を使用して平衡化して作動されるSephacryl 300HR上でのゲル濾過クロマトグラフィーと、RP−HPLCとの組み合わせを使用して、実施例6.1で概説した標準プロトコルを使用してヒツジαAクリスタリンを調製した。装入材料はSephacryl 300HRカラムからのαAおよびαB画分であった。精製ヒツジαAクリスタリンは、MS分析およびSDS PAGE分析によって確認した。
【0203】
陽性対照(グレープフルーツ果皮抽出物)は、ラット大動脈環アッセイ(血管形成モデル系)によって判定された血流を促進するその能力のために選択された。大動脈環モデルによる判定で類似した活性様式がある化合物間において、比較を行った。
【0204】
使用した動物創傷モデルは、本質的に実施例3.6で述べられているようであった。簡単に述べると、創傷形成のおよそ30分前に、各動物の鼠径窩にTemgesicを皮下注射した(0.075mg/kg体重)。酸素中の3%ハロタンを使用して動物を麻酔し、ひとたびペダル反射が消失したら、電気バリカンを使用して頭蓋基部から後肢領域にかけて各動物を剪毛した。70%エタノール中の0.5%クロルヘキシジンを使用して、皮膚を消毒した。各動物で頭蓋基部から股関節上部までの距離を測定し、脊髄軸に沿って頭蓋基部から6cm下に創傷位置を黒色フェルトペンで標識した。無菌技術を使用して、無菌の12mm生検パンチを使用して、穏やかな旋回で全厚の切り込みを入れた。パンチは乾燥しており、残骸(例えば皮膚、毛)が創傷に入らないように注意を払った。各創傷は皮膚表面に直角に形成し、生検パンチは皮膚のみを切断し、筋肉組織のより深い層に突き抜けなかった。F2.8マクロレンズ付きキャノンデジタルEOS 20Dカメラを使用して創傷を撮影した後、Gilson Microman CP 100ポジティブディスプレイスメントピペットを使用して、対照または試験βB2クリスタリン(100μlアリコート)を創傷に塗布した。生検パンチの内側を無菌食塩水に浸した綿棒で拭って、あらゆる組織液および/または残骸を除去した。次にパンチを次の動物で使用する前に70%エタノールに浸した。創傷形成後、毎日各動物の状態を注意深くモニターした。ラットには毎日、新しい紙タオルを床材として与えた。全ての動物は1、2、および3日目に、対照または試験化合物を合計3回局所塗布された。毎日各創傷を撮影した。
【0205】
研究終了時、CO吸入と頸椎脱臼によって動物を安楽死させた。隣接する皮膚、筋膜、および筋肉組織を含めた創傷部位全体を切除して、それぞれ長手方向に二分した。各群の動物1、2、および3からの左側部分を4%緩衝ホルマリン中で24時間固定してから、70%エタノールに移した。動物1、2、および3からの右側部分は、さらなるタンパク質分析のために凍結保存した。各群の動物4、5、および6からの左右双方の部分は、4%緩衝液ホルマリン中で固定した。創傷面積の分析および創傷の組織学的分析を行った。
【0206】
創傷を毎日撮影し、NIH imageを使用して画像を分析し創傷面積を計算した。記述統計を評価した。予備t検定は、異常値が結果に顕著に影響を及ぼすかどうかを調べた。収集した全てのデータ点について、主要分析を実施した。予備分析は、t検定を使用して対照創傷のみに対して行った。一変量ANOVAを使用して、処置と対照との差異および処置からのサンプルを評価した。別のANOVAは、処置サンプルのみを使用して用量反応があったかどうかを評価した。正規性仮説はスチューデント化残渣上でq−qプロットを使用して試験され、分散の不均一性はLeveneの検定を使用して試験された。Mac OSXのためのSPSS 11を仮説検定および統計学的分析のために使用した。
【0207】
隣接する皮膚、筋膜、および筋肉組織を含めた創傷部位全体を切除して、組織学的検査のためにホルマリン中で固定した。ホルマリンに入れて24時間以内に、創傷をパラフィン蝋に包埋して3μm厚さの切片を切り出し、ポリ−L−リジン被覆スライドガラスに付着させて脱蝋し、組織学的検査のためにヘマトキシリンおよびエオジンで染色した。
【0208】
ヘマトキシリンおよびエオジン染色されたスライドを低倍率でデジタル撮影した(2.5×対象)。切片はかなり大きかったために、各組織切片全体を記録するのに6〜12枚の写真が必要であった。連続する写真間に十分な重なりを含めて、後日、写真を重ね合わせて合成画像が形成できるようにした。各切片は解剖学的に類似しており、血清凝塊、好中球残骸、および散在する細菌コロニーで覆われた潰瘍性創傷側面にある、毛が生えた細長い2本の皮膚からなった。この血清細胞性外皮のより深くには線維血管性肉芽組織の層があり、それは典型的に、表在性の細胞密度の高い緻密層と、不定性に毛細血管網を含有するより深いより疎性の層とに重層化されていた。いずれの場合も、潰瘍は皮下筋肉層に貫通していた。傷の異なる部分を炎症細胞および血管数について分析した。
【0209】
トランケート型のβB2クリスタリンは、5日間創傷治癒研究全体にわたり、有機ゲルビヒクルの陰性対照およびグレープフルーツ陽性対照と比較して、最大治癒反応を有することが分かった。5日目のトランケート型のヒツジβB2クリスタリンの創傷面積は、表14に示すように83.7±3.4と比較して69.9±4.4であった。
【0210】
【表15】

【0211】
図17に示されるように、正常皮膚と創傷の間の帯域である移行帯内の毛細血管密度の分析は、エラスターゼIトランケート型のβB2クリスタリンについて、ビヒクルのみの対照と比較して、血管密度の統計学的に有意な増大を実証した。
【0212】
全処置群において、創傷外部では毛細血管格付け1が観察された。しかしエラスターゼIトランケート型βB2クリスタリン処置群では、ビヒクル対照の表面細胞での5.5および深部細胞での3.3(合計8.8、A群)とそれぞれ比較して、表面細胞では格付け6.2、深部細胞では4.0(合計10.2、B群)が得られた。αAクリスタリン(C群)およびインドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ(D群)を使用した他の2つの処置は、それぞれ9.2および8.5の総毛細血管数を有した。
【0213】
5日目に行われた組織学的分析は、創傷移行帯の炎症細胞プロフィール(すなわちマクロファージ、好中球、好酸球、肥満細胞、および形質細胞)が、全ての試験物質について同様であったことを明らかにした。リンパ球数は、全ての試験化合物とビヒクル対照との間で統計学的に有意に異なり(p<0.01)、ビヒクルのみの対照と比較して試験製剤中で細菌負荷のレベルがより高かったことが示唆された。これが対照と比較して、試験群のより高い好中球含量をもたらしたかもしれない。
【0214】
実施例8:遅延創傷治癒研究
8.1 虚血性創傷治癒動物モデル
Chenら(1999年)によって以前述べられているモデルに基づく虚血性遅延治癒モデルを使用した。動物の背部中央の切除創傷の両側に2つの切開創傷(双茎皮弁)を作ることで、虚血を引き起こした。より詳しくは、週齢および体重を一致させたオスのSprague−Dawleyラットを筋肉内ケタミン塩酸塩(100mg/kg体重)で麻酔した。それぞれの背部の毛を刈り込んで、10×4cmの透明長方形テンプレートを使用して、背中の試験領域の輪郭を描いた。無菌条件下で、無菌12mm生検パンチを使用して、穏やかな旋回で全厚の切り込みを入れた。あらゆる出血は綿棒を使用して除去した。パンチが乾燥しており、残骸(例えば皮膚、毛)が創傷に入らないように注意を払った。各創傷は皮膚表面に直角に形成した。虚血性群では切除創傷を上のように形成した。さらにメスを使用して、切除創傷の両側、長手方向に、創傷の上下端から1cmずつ伸びる(長さ約3cm)全厚の切り込みを2本入れた。これらの創傷は、切除創傷の両側から約1.5cm側方に位置した。ひとたび止血が達成されたら、創傷皮弁を持ち上げて、外科用ハサミを使用して、膜および創傷床の底にあるあらゆる血管を切断した。切開は3本の結節縫合(4−0 Novafil、モノフィラメントポリブテステル、非吸収性縫合糸、Tyco、カタログ番号4402−33)を使用して、長さに沿って等距離点で閉鎖した。止血が再度達成されたら、創傷を撮影した。撮影後、Gilson Microman CP100 & CP1000ポジティブディスプレイスメントピペットを使用して、試験サンプル(100μlの未変性ヒツジβB2クリスタリンおよび100μlのMedifill II(商標)(実施例8.2参照))を塗布した。生検パンチの内側を無菌食塩水に浸した綿棒で拭って、あらゆる組織液および/または残骸を除去した。パンチを次の動物で使用する前に70%エタノールに浸した。創傷形成後、各動物の病状を厳密にモニターした。創傷形成の2および3日目には、各動物に新しいタオルを床材として与えた。通常は研究の5から7日目の間に、創傷が乾燥し、かんな屑によって悪影響を受けなくなった場合にのみ、紙タオルからかんな屑に変更した。対照群は切除創傷のみからなった。創傷閉鎖速度を31日間にわたり測定した。
【0215】
結果は、21日間の研究期間全体にわたり、対照と比べて創傷閉鎖速度の著しい低下を明らかに実証し、したがってこの遅延創傷治癒モデルの妥当性が確認された。スチューデントt検定を使用した統計学的分析は、1日目以降、試験全体を通じて常に創傷閉鎖の遅延がp:α<0.05で有意であったことを示した。
【0216】
虚血性と正常な創傷の間の創傷閉鎖の遅延は、研究の初期13日目まではおよそ4日間であった。この時点で、虚血性創傷は対照動物の創傷のおよそ2倍の大きさであった。15日目までには、正常な創傷動物では元の創傷面積のおよそ10%の百分率であった。虚血性創傷はこの閉鎖レベルには27日目まで達せず、遅延がさらに8日間伸びたことが示唆された。この結果は、組織虚血が創傷閉鎖に顕著な遅延を引き起こすことを示唆した。創傷の毛づくろいは、全ての処置群で明らかであった。毛づくろいもまた、治癒速度を低下させることができる創傷感染の可能性を増大させるかもしれない。
【0217】
8.2 比較研究
実施例8.1で述べられている虚血性遅延創傷治癒ラットモデルを使用して、創傷治癒に特効性のある、三重らせん分子形態のタイプIウシコラーゲンを含有する創傷治癒コラーゲンゲルである、市販のMedifill II(商標)タイプIウシコラーゲン(BioCore Medical Technologies,Inc.Silver Spring,MD,United States)と比較して、未変性βB2クリスタリンの創傷治癒上の利点を評価した。コラーゲン原線維の改善された表面積/密度は、創面に接触するコラーゲンのレベルを増大させる。
【0218】
未変性βB2クリスタリンタンパク質は、未修飾形態が未変性βB2クリスタリンタンパク質を高濃度に含有するゲルを形成する能力のために、実施例6.2で述べられているRP−HPLC精製エラスターゼIトランケート型に優先して選ばれた。ヒト慢性創傷は、血管新生促進性トランケート型タンパク質形成につながる、未変性βB2クリスタリンを加水分解する能力を有する(ヒト好中球エラスターゼをはじめとする)高レベルのプロテアーゼを示す。
【0219】
簡単に述べると、上の実施例6.2で述べられるようなタンパク質沈殿ゲルに調合された未変性ヒツジβB2クリスタリンタンパク質、または(陽性対照として)Medifill II(登録商標)コラーゲンゲルを1、3、5、7、および9日目に、オスのSprague−Dawleyラットの虚血性創傷に塗布した。結果は元の創傷面積の平均百分率として表される。対照群は未処置虚血性創傷がある動物からなった。3群は全て各10匹のラットを含んだ(N=10)。
【0220】
研究の最初の5日間では、βB2クリスタリンタンパク質ゲル処置群における治癒速度の低レベルの改善が実証されたが、これは統計学的に有意でなかった。7日目までには、3処置の全てが同様の創傷面積を有した。7日目から31日目の研究の終わりまでは、Medifill(商標)ゲル処置群が対照虚血性創傷と本質的に同一の経路をたどり、それが創傷の治癒速度に真の利点も不利益もないことが示唆された。未変性βB2クリスタリンゲルは、9〜27日目にかけて対照虚血性創傷と比較して閉鎖速度を低下させるようであったが、これもまた有意ではなかった。27日目には未変性βB2クリスタリンゲル群の動物の1匹がその創傷を損傷し、過度の毛繕いに伴って、創傷が感染して創傷面積がはるかにより大きくなった。この動物は27日目に処分することが決定された。その結果、この処置群の平均結果は、29日目に急激に低下した。これは創傷面積平均に対する、単一動物からの劇的な影響であった。この動物におけるの感染の存在は、治癒にさらなる遅延を引き起こすこともあり得たので、この動物の実験からの除去は正当化され、この動物は異常値であると見なされた。虚血性対照群と比較して、Medifill II(商標)ゲルおよび未変性βB2クリスタリンゲル処置群の結果に有意差はなかった。この研究から導かれた結論は、Medifill II(商標)ゲルおよび未変性βB2クリスタリンゲルのどちらも虚血性創傷治癒において、同様のレベルの利点を提供するということである。
【0221】
元の創傷面積の平均百分率が、未処置対照と比較して、実験経過全体を通じて同様であったことから、Medifill(商標)ゲルからはわずかな利点しか得られないようであった。しかし対照的に、未変性βB2クリスタリンゲルは、処置の最初の5日間にわたって虚血性対照創傷に優るいくらかの利点を示した。試験の残りの期間中、試験の31日目まで、対照虚血性創傷と比較してさらなる利点は観察されなかった。31日目にはβB2クリスタリンタンパク質の元の創傷面積の平均百分率は、虚血性対照創傷よりも小さかった。妥当なことに、βB2クリスタリンを加水分解するプロテアーゼは、最初の72時間以内に起きる創傷治癒の炎症段階に存在するため、未変性タンパク質からのトランケート型のβB2クリスタリンの生成は、このモデルにおいては創傷治癒のより初期の段階に限定されたかもしれない。ヒトの非治癒創傷は長期の炎症期を有して高レベルのプロテアーゼを示すので、未修飾形態のβB2クリスタリンの投与は、これらの状況下でより大きな利点を有するかもしれない。
【0222】
実施例9:創傷包帯用ガーゼの調製
以下のようにして布帛材料ガーゼまたはモスリンをRP−HPLC精製未変性またはエラスターゼI処理ヒツジβB2クリスタリンで被覆した。
【0223】
布帛材料を塩溶液(2M硫酸アンモニウムを含有する10mM酢酸(pH3.5)であるが、上述のようにカルシウム塩をはじめとするいくつかの異なる塩が使用できる)に入れた。布帛を塩溶液から取り出して、本質的に過剰な水を含まなくなるまで濾紙で吸い取った。2層の濾紙の間で吸い取って、材料からはいかなる追加的な水も除去できなくなった。次に布帛を精製βB2クリスタリンの酸性溶液(10〜50mg/mL)に入れた。
【0224】
10mM酢酸(pH3.5)中で、βB2クリスタリンのトランケート型を調製した。pH値は2.0〜5.0の範囲であることができる。試験したβB2クリスタリンタンパク質濃度は、布帛を効果的に覆うことが分かった。電子顕微鏡で示されるように、βB2クリスタリンは約10秒以内に白色タンパク質沈殿物で布帛表面を覆う。未修飾形態のβB2クリスタリンもまた同一条件下で、あらかじめ浸漬した布帛の表面を覆う能力を実証した。
【0225】
βB2クリスタリンで絆創膏またはその他の材料が被覆できる能力は、有効量のタンパク質を創傷部位に送達するのを助けるかもしれない。未変性およびエラスターゼI処理トランケート型βB2クリスタリンは、どちらも布帛材料ガーゼおよびムスリンを被覆することが分かった。塩濃度、タンパク質濃度、および布帛、ガーゼまたはその他の適切な基材がβB2クリスタリンタンパク質溶液と接する時間を変更することで、被覆レベルを制御してもよい。次に被覆材料を後の使用のために乾燥し、滅菌してもよい(例えばγ照射)。スポンジ材料もまた、上のプロトコルを使用してヒツジβB2クリスタリンタンパク質で被覆したが、スポンジをβB2クリスタリンタンパク質溶液に入れる前に、圧搾して過剰な液体を除去した。このタイプの創傷包帯は、高レベルの浸出液を生じる創傷で使用するのに適するかもしれない。
【0226】
いくつかの実施態様に言及して本発明について述べられているが、多数の変形および/または修正が可能であることが当業者には理解されるであろう。このような全ての変形および/または修正は、明示的に包含される。したがって本実施態様は、全ての点で例示的であり限定的でないと見なされる。
【0227】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のβB2クリスタリンタンパク質またはタンパク質の血管新生断片を対象に投与するステップを含む、それを必要とする対象において創傷を治療し、または血管新生を促進する方法。
【請求項2】
βB2クリスタリンタンパク質がβB2クリスタリンの修飾形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
βB2クリスタリンタンパク質がβB2クリスタリンの血管新生断片である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
血管新生断片がβB2クリスタリンの1つ以上のグリークキードメインを含むか、またはそれからなる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
血管新生断片がβB2クリスタリンのエラスターゼ切断によって得られる断片である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
βB2クリスタリンタンパク質が眼水晶体クリスタリンタンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
クリスタリンタンパク質がウシまたはヒツジクリスタリンタンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
クリスタリンタンパク質または血管新生断片が局所的に許容可能な組成物中にあり、組成物が創傷に局所的に投与される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
対象の皮膚において創傷を治療し、または血管新生を促進する方法である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
対象を有効量の少なくとも1つの血管新生クリスタリンタンパク質またはタンパク質の血管新生断片で治療するステップを含む、それを必要とする対象において創傷を治療し、および/または血管新生を促進する方法。
【請求項11】
αAクリスタリンおよびβB2クリスタリンからなる群から選択される有効量のクリスタリンタンパク質を対象に投与するステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
クリスタリンタンパク質がαAクリスタリンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
クリスタリンタンパク質がβB2クリスタリンまたはβB2クリスタリンの血管新生断片である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
クリスタリンタンパク質がタンパク質の修飾形態である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
クリスタリンタンパク質がβB2クリスタリンの血管新生断片である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
血管新生断片がβB2クリスタリンの1つ以上のグリークキードメインを含むか、またはそれからなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
対象を有効量の少なくとも1つの血管新生クリスタリンタンパク質またはタンパク質の血管新生断片で治療するステップを含む、それを必要とする対象において内皮細胞増殖および/または遊走を促進する方法。
【請求項18】
薬学的に許容できるキャリアと共に、少なくとも1つのβB2クリスタリンタンパク質またはクリスタリンタンパク質の血管新生断片を含む、対象において創傷を治療し、または血管新生、内皮細胞増殖および/または遊走を促進する医薬組成物。
【請求項19】
カルシウムイオンおよび/または塩をさらに含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
βB2クリスタリンタンパク質沈殿物を含むゲルである、請求項18または19に記載の組成物。
【請求項21】
(a)動物死体から得られる眼水晶体の水晶体シースを除去して、眼水晶体の残りの水晶体組織を残すステップと、
(b)水晶体組織からクリスタリンタンパク質を溶媒に溶解させる間、水晶体組織を水性溶媒に入れるステップと、
(c)溶媒からクリスタリンタンパク質を回収するステップと
を含む、少なくとも1つのクリスタリンタンパク質を精製する方法。
【請求項22】
眼球をスライスして眼球に切り込みを入れ、眼球に圧力をかけて、眼球から切れ目を通じて水晶体を押し出すことにより、水晶体組織を提供するステップを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項23】
水晶体組織を初期所定間隔で溶媒中に入れた後に、溶媒のpHをpH5.0以下に低下させるステップをさらに含む、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
クリスタリンタンパク質が溶媒中に添加されるプロテアーゼまたは消化酵素の不在下で溶解する、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
溶媒が水である、請求項21〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
(a)眼球をスライスして、眼球に少なくとも1つの切り込みを入れるステップと、
(b)眼球に圧力をかけて、眼球から切れ目を通じて水晶体を押し出すステップと、
(c)水晶体からクリスタリンタンパク質を溶媒に溶解させるステップと、
(d)クリスタリンタンパク質を溶媒から精製するステップと
を含む、動物死体眼球の水晶体から1つ以上のクリスタリンタンパク質を精製する方法。
【請求項27】
切り込みが眼球の強膜と瞳孔との間に入れられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
切り込みが角膜を通して入れられる、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
クリスタリンタンパク質がクロマトグラフィー分離によって溶媒から精製される、請求項26〜28のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−538020(P2010−538020A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523239(P2010−523239)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001319
【国際公開番号】WO2009/029991
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(598147776)ミート アンド ライブストック オーストラリア リミテッド (2)
【出願人】(510061586)インダストリアル リサーチ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】