説明

血管細胞中の遺伝子の転写の調節

【課題】内皮及び平滑筋細胞などの血管細胞等での転写を調節し、転写因子を結合するための特異的な配列を有する二本鎖核酸によって、デコイのための適当な標的である転写因子の標的設定すること。
【解決手段】血管または心臓細胞における1個以上の遺伝子の転写を調節する方法であって、前記細胞を、転写因子AP-1および/またはC/EBPまたは関連転写 因子に配列特異的に結合できる1個以上の二本鎖核酸を含んでなる組成物と接触させる段階を含んでなる、方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【0001】
血管または心臓細胞における1以上の遺伝子の調節法であって、この細胞を、転写因子AP-1及び/またはC/EBPまたは関連転写因子に配列特異的に結合するこ とができる1以上の二本鎖核酸を含んでなる組成物と接触させる段階を含んでなる方法。
【従来の技術】
【0002】
冠状心臓疾患(CHD)は、先進諸国における死亡原因の主なものである。過去数十年間、冠状心臓疾患の治療を目的とした大動脈冠動脈静脈バイパス手術や経皮経管動脈形成術(PTCA)が行われることが多くなっており、これにより生存率や心疾患患者の生活の品質が実質的に向上した。
【0003】
これらの方法は数十年間に完全に確立されはしたが、治療を行った血管の回帰(relapse)または完全な閉塞の確率が高く、この合併症が手術後僅か数ヶ月以内 に現れることも多い。これは重大な医療上の問題であり、先進国の保険体系にとって経済的負担でもある。
【0004】
PTCAや冠動脈バイパス手術で見られる合併症の主な理由の一つは、血管壁の細胞の移動及び増殖が誘導されることであると思われる。この時期が悪く且つ望ましくない血管組織の増殖によりリモデリング過程が生じ、最終的に最終的に手術によって治療した血管の回帰や閉塞が再発する。
【0005】
治療した血管部分の手術後の回帰または閉塞を防止するために、最近用いられている方法は、ステント(stents)、すなわちPTCAの後に手術後の血管の形状及び直径を保持する目的で設計された管状構造の移植である。しかしながら、この方法も、血管壁に機械的歪が加わるため平滑筋細胞が過度に増殖し、移動する結果としてのイン・ステント再狭窄が発生することにより、複雑になっている。更に、手術の介在によるこれらの副作用を効率的に抑制することができない場合には、各種のアジュバント投薬療法を用いる幾つかの臨床的研究。
【0006】
治療不全の結果は、心筋血管の(再)閉塞であり、虚血性疾患を再発し、重症の場合には、心筋梗塞を引き起こす。これは、酸素供給が不十分なため心筋の部分での心筋細胞の大量死を引き起こし、その結果、収縮性のない瘢痕組織が残る。従って、心筋の虚血部分における血管成長の誘発及び/または心筋細胞の増殖の誘発により、MIの治療のための可能な治療法を提供することができる。
【0007】
身体におけるほとんどの細胞は、静止状態と呼ばれる細胞サイクルのG相に ある。ほとんど総ての静止体細胞は、まだ増殖する能力を有しており、誘発して多くの刺激によって細胞サイクルに再度入ることができ、刺激の最も重要なものは成長因子と損傷である。増殖とリモデリング過程は、主として転写の水準によって制御される。例えば、冠状血管形成及びステント移植の物理的ストレスにより、多数の遺伝子、極めて重要なものは、サイクリン、細胞サイクル特異的ホスファターゼ、細胞サイクル特異的転写因子、例えばサイクリンE、サイクリンA、サイクリンB、cdc25C、cdc25A、E2F-類の一員、並びに多数の代謝的に重 要な遺伝子、またはPCNA、ヒストン、dhfrのようなDNAの倍増に関与する遺伝子を誘発する。これらの因子は細胞サイクルに入るときに新たに合成されるが、増殖の第一段階に関与する多くの転写因子であるいわゆる直前遺伝子は既に細胞中に存在しており、所定の刺激によって活性化されるのであり、この種の公知のものはAP-1である。
【0008】
AP-1は、ロイシンジッパーモチーフを介して互いに相互作用するc-Jun及びc-Fosタンパク質(Curran and Franza (1988))からなるヘテロ二量体性転写因子である。ホモ二量体化し、それだけでDNAと結合するc-Junとは異なり、c-FosはDNAへの結合に特異的な配列については、c-Junとの相互作用によって変化する 。いずれのタンパク質も、JunB及びJunD(Jun関連)並びにFra1及びFosB(Fos関連)を包含する大きな種類のタンパク質の一員である(Curran and Vogt (1992) 転写調節(Transcriptional regulation), 797 (McKnight and Yamamoto) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。AP-1はコンセンサス配列TGACTCAモチーフに結合することができるが、これらの配列の多くの変異体はこの種類の構成員の様々なホモ及びヘテロ二量体によって強く結合することができる(Franza et al. (1988) Science 293, 1150; Rauscher et al. (1988) Genes Dev. 2, 1687; Risse et al (1989) EMBO J. 8, 3825; Yang-Yen et al. (1990) New Biol. 2, 351)。
【0009】
Fos及びJunの同時発現により、AP-1依存転写を劇的に相乗的活性化することができるが(Chiu et al. (1988) Cell 54, 541)、用いる細胞の種類によって実質 的な程度の実験上の変異性が見られた。従って、Fos及びJunの活性は、細胞の種類に特異的に発現することができ(Baichwal and Tjian (1990) Cell 63, 815)且つそれぞれの細胞の種類において、常在または誘導転写因子が遺伝子標的の選択及びFos-Junファミリーのヘテロ及びホモ二量体の転写作用に影響を与えること がある他のタンパク質によって影響を受けると思われる。AP-1のプロモーター及び細胞型特異性と一貫して、Fosはc-fosプロモーターの転写を活性化せず、むしろ抑制することが示された(Sassone-Corsi (1988) Cell 54, 553; Lucibello et al. (1989) Cell 59, 999)。従って、所定の細胞型では、AP-1が特異的プロモ ーターに対してどのような効果を有するかを予測することはできない。
【0010】
特異的転写因子による転写活性化を特異的に妨げる方法は、WO95/11687号明細書に開示されている。これは、シスエレメントデコイ(cis-element decoy)と呼ばれ、その特異的転写因子に対して結合側面を有する二本鎖DNA分 子で細胞を処理することにより、転写因子の活性化機能を妨げることができることを教示している。細胞への大きい数、優先的にはゲノム中の内在性プロモーターに含まれるずっと大きな数の転写因子結合部位の外部からの供給により、所定の転写因子の大半が内在性標的遺伝子よりはそれぞれのシスエレメントデコイに特異的に結合する状態が齎される。転写因子のその内在性結合部位への結合を阻害するこの方法は、スケルチング(squelching)とも呼ばれる。DNAデコイを用いる転写のスケルチングを用いて、転写因子E2F (Morishita et al. (1995) 92, 5855)を特異的に標的とするDNA断片を用いる細胞の増殖の阻害に成功した。
【0011】
全ヒト遺伝子の約50%が転写因子であることは、Human Genome Projectの一般に知られている結果を補外することによって推測される。生体の複雑さ及び多様性は、大部分が特異的細胞の型及び/または発生の特異的段階に対するある種の転写因子の発現の制限によって引き起こされることが知られている。一つの細胞の型において増殖に正の効果を有する転写因子は、別の細胞型または別の種では反対の効果を有することがある。従って、所定の転写因子デコイによる処理の効果は、種の間だけでなく、様々な組織、例えば静脈及び動脈の間、及び所定の組織の細胞型、例えば1種類の生体内の血管壁の内皮細胞および平滑筋細胞の間で も変動することがある。
【発明の概要】
【0012】
従って、本発明の目的の一つは、内皮及び平滑筋細胞などの血管細胞、または心臓細胞での転写を調節し、転写因子を結合するための特異的な配列を有する二本鎖核酸によって、デコイ(squelching)のための適当な標的である転写因子の標的設定(targeting)することである。好ましい転写因子標的は、増殖の誘発、及 び/または血管組織及び/または心筋組織のリモデリングに直接または間接的に関与している転写因子である。
【0013】
意外なことには、エンドセリン−1(ET-1)遺伝子は、静脈内皮細胞中のAP-1によって活性化されることを見出した。この活性化は、極めて極端な機械的ストレスによって引き起こされる。この刺激によって産生されるET-1ペプチドは、血管収縮及び成長促進に極めて有効である。ET-1の放出を平滑筋細胞の過剰成長並びにリモデリングと相関させた。従って、内皮細胞でのET-1遺伝子の活性化は、AP-1に対する結合部位を有する二本鎖DNAを導入することによってブロックすることができることを示すことができた。
【0014】
従って、本発明の方法は、内皮または心臓細胞における少なくとも1個の遺伝子の転写の調節であって、前記細胞を、転写因子AP-1及び/または関連転写因子に配列特異的に結合することができる1以上の二本鎖核酸を含んでなる組成物と接触させる段階を含んでなる方法である。この方法は、特に血管の一部または血管切片である内皮細胞上で用いられる。典型的には、この方法を、in vivoで血 管上で、または移植の前後にまたはin vivoでまたは移植の前にex vivoで血管切片上で用いることができる。好ましくは、心臓細胞は、心筋細胞または線維芽細胞である。
【0015】
本発明のもう一つの予想外の結果は、機械的ストレスを加えた後の頸部大動脈の平滑筋細胞におけるET-1の活性化にCCAAT/エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)が関与していることを見出したことであった。様々な組織における転 写因子の前記の特異的効果と調和して、AP-1はこの細胞型でのET-1遺伝子の活性化には関与しなかった。C/EBP特異的二本鎖核酸が平滑筋細胞に導入されたとき には、ET-1遺伝子の活性化をブロックすることができた。
【0016】
C/EBPは、各種の組織での正常な細胞分化および機能にとって重要な転写因子 の種類である(Lekstrom-Himes and Xanthopoulos (1996) J. Biol. Chem., 44, 28645に記載)。二量体化時にDNAにだけ結合するC/EBPは少なくとも6種類 ある(Cao et al. (1991) Genes Dev. 5, 1538)。C/EBP類のものは、特に肝臓に おけるそれらの役割について検討されており、肝臓の損傷の後の急性の相応答(acute phase response)に関与することが知られている(肝臓疾患の進行(Progress in Liver Diseases) (Popper and Schaffner) Vol. 9, 89, W.B. Saunders Co., フィラデルフィアのFey et al. (1990)に記載されている)。C/EBP類は、炎 症反応において主要な役割を果たしていることも示されており、C/EBP結合モチ ーフは、インターロイキン−6(IL−6)、IL−1β、および腫瘍壊死因子α(INFα)のような炎症性サイトカイン、並びにIL−8およびIL−12のよ うな他のサイトカインのプロモーター中に認められている(Matsusaka et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. 90, 10193; Plevy et al. (1997) Mol. Cell Biol. 17, 4572)。血管組織の成長およびリモデリングを促進することが知られている因子であるET-1の転写活性化におけるC/EBPの関与は、血管細胞中の他の適当 な転写因子標的を目指している。
【0017】
従って、本発明のもう一つの方法は、血管または心臓細胞における1以上の遺伝子の転写の調節であって、前記細胞を、転写因子C/EBPまたは関連転写因子に 配列特異的に結合することができる1以上の二本鎖核酸を含んでなる組成物と接触させる段階を含んでなる方法である。
【発明の具体的説明】
【0018】
個々の転写因子は、プロモーターをある程度まで独立して活性化できることが多いが、このプロモーターの完全な活性化は2個以上の転写因子による相乗的活性化によって変化することが知られている(Sauer et al. (1995) Science 270, 1783)。従って、単一の転写因子に対して標的設定した二本鎖核酸によるよりも 強力なプロモーターの調節を行うには、本発明の方法を、C/EBPと特異的に結合 し、更に転写因子AP-1に配列特異的に結合できる1個以上の二本鎖核酸をも含んでなる1個以上の配列を含んでなる組成物を用いて行うことも考えられる。この組合せによれば、例えばAP-1およびC/EBP結合部位を含むプロモーターの転写を 一層強力に調節することができ、または同時に2個以上のプロモーターに独立して作用することができる。
【0019】
血管細胞について本発明の方法を用いるときには、好ましい標的は平滑筋細胞(SMC)または内皮細胞であり、心臓細胞については、好ましい標的は心筋細胞または線維芽細胞である。これらの細胞は、例えば動物またはヒトの血管においてin situで直接処理され、または自家または異種血管移植片の一部であるこ とができる。これらの移植片、例えば動脈または静脈バイパス移植片は、本発明の方法のex vivoでの応用による移植の前、または本発明の方法のin vivoでの応用による移植の後に処理することができる。好ましい態様では、処理を施した血管は冠状または末梢動脈または動静脈瘻(例えば、ブレーシャー−チミーノフィステル)であり、血管移植片は動脈または静脈バイパス移植片、または生物学的またはプロテーゼ動静脈シャントである。
【0020】
外科的処置や病理学的過程によって引起される閉塞を防止するためには、血管細胞の増殖または移動に関与する遺伝子の発現を特異的に調節することが考えられる。この調節は、AP-1、C/EBPまたは関連タンパク質の結合のスケルチングに よる前記遺伝子のプロモーターに対する直接的効果であることができ、または血管細胞の増殖または移動に関与する遺伝子をそれ自身が調節する転写因子の調節を妨げることによる間接的効果であることができる。増殖や移動に関与する遺伝子としては、サイクリン、サイクリン依存性キナーゼ、アポトーシス阻害剤のような細胞内で活性なタンパク質をコードする遺伝子、およびメタロプロテイナーゼ、コラゲナーゼ、または成長因子のような細胞外に分泌され、従って細胞外で活性なタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。特に、1個の血管細胞によって分泌される成長因子は、多数の他の血管細胞の成長および移動を刺激することができる。従って、標的設定した細胞の外側で作用する遺伝子の調節は、本発明にとって特に重要である。
【0021】
転写因子AP-1、C/EBPまたは関連転写因子の結合を阻害するのに用いられる核 酸の配列は、5'-CGCTTGATGACTCAGCCGGAA-3'(AP-1について)または5'-TGCAGATTGCGCAATTG-3'(C/EBPについて)のような多くのプロモーターのAP-1またはC/EBP部位の配列から誘導されるコンセンサス配列であるか、または転写調節の目的で標的設定される特定のプロモーターまたはエンハンサー中のAP-1またはC/EBP部 位と同じとなる。前記において指摘したように、AP-1およびC/EBPは、ヘテロま たはホモ二量体化することができる密接に関連した転写因子の種類のものである(Roman et al. (1990) Genes Dev. 4, 1404; Cao et al. (1991) Genes Dev. 5, 1538)。様々な真のAP-1またはC/EBP結合部位を様々な親和性で認識すると思わ れる多数の可能なヘテロ二量体がある。従って、様々なプロモーターに含まれる若干異なるAP-1またはC/EBP結合部位を、AP-1、C/EBPまたは関連転写因子のある種のヘテロまたはホモ二量体だけによって結合することができる(Akiro et al. (1990) EMBO J. 9, 1897, Risse et al. (1989)同上文献)。従って、プロモーター特異的に設計した核酸を用いることにより、その特定のプロモーターの制御に関与する転写因子の標的設定したスケルチングを行うことができる。プロモーターが、よく見られるように、AP-1および/またはC/EBP結合部位の2個以上の型(version)を含む場合には、総ての結合部位の配列を表す核酸を同時に用いることができる。同様に、コンセンサス転写因子結合部位の若干異なる型を含む1個以上の二本鎖核酸を、同時に用いることもできる。
【0022】
AP-1、C/EBPまたは関連転写因子に対する核酸配列の結合の親和性は、電気泳 動移動度シフト分析法(EMSA)を用いて決定することができる(Sambrook et al. (1989) 分子クローニング(Molecular cloning), Cold Spring Harbor Laboratory Press; Krzesz et al. (1999) FEBS Lett. 453, 191)。この分析法は、 本発明の方法での使用または結合部位の最適長さの決定を目的とする核酸の品質管理に適している。これは、AP-1、C/EBPまたは関連転写因子によって結合され る他の配列の同定にも用いられる。新規な結合配列の単離を目的とするこのようなEMSAに最も適しているものは、数回交互継続するPCR増幅およびEMSAによる選択に用いられるAP-1、C/EBPまたは関連転写因子の精製または組換え 発現型である(Thiesen and Bach (1990) Nucleic Acids Res. 18, 3203)。
【0023】
前記で述べたように、AP-1、C/EBPまたは関連転写因子の結合部位を含む遺伝 子は、本発明の方法の適当な標的並びに間接的に作用を受ける遺伝子である。血管組織の増殖および/またはリモデリング並びに他の病理学的過程に関与するタンパク質をコードする遺伝子は、エンドセリン遺伝子類、マクロファージ走化性(MCP)遺伝子類、および酸化窒素シンターゼ(NOS)遺伝子類であり、血管細胞に特に重要なこれらの遺伝子の例は、プレプロ−エンドセリン−1遺伝子、MCP −1遺伝子および誘導NOS遺伝子である。
【0024】
プロモーターまたはエンハンサー領域にAP-1結合部位を含むことが知られており、従って本発明の方法による特異的スケルチングのための推定標的である遺伝子は、例えばプレプロ−エンドセリン−1遺伝子、エンドセリンレセプターB遺伝子、誘導NOS(iNOS)遺伝子、E−セレクチン遺伝子、単球走化性タンパク質 −1(MCP−1)遺伝子、細胞間接着分子−1(ICAM−1)遺伝子、および インターロイキン−8(Il−8)遺伝子である。
【0025】
プロモーターまたはエンハンサー領域にC/EBP結合部位を含むことが知られて おり、従って本発明の方法による特異的スケルチングのための推定標的である遺伝子は、例えばプレプロ−エンドセリン−1遺伝子、エンドセリンレセプターB遺伝子、iNOS遺伝子、E−セレクチン遺伝子、細胞間接着分子−1(ICAM−1)遺伝子、Il−8遺伝子、およびIl−6である。
【0026】
本発明の方法は、遺伝子または遺伝子類が活性化されるようなやり方で遺伝子または遺伝子類の転写を調節する。活性化は、本発明では、転写速度が二本鎖核酸を含んでなる組成物で処理していない細胞と比較して増加することを意味する。このような増加は、例えばノーザンブロット法(Sambrook et al. (1989)前記 引用文献)またはRT−PCR(Sambrook et al. (1989)前記引用文献)によって 検出することができる。典型的には、このような増加は、少なくとも2倍であり、更に好ましくは少なくとも5倍であり、少なくとも20倍であり、最も好ましくは少なくとも100倍の増加である。例えば、AP-1および/またはC/EBPまたは関連転写因子が特定の遺伝子に対して転写リプレッサーとして働き、従ってこのリプレッサーのスケルチングによって抑制がなくなる場合に、活性化が行われる。抑制がなくなることは必ずしも活性化と同一視することはできないが、幾つかのプロモーターについて、リプレッサーの結合がなくなることは活性化に十分であることが知られている(Zwicker et al. (1995) EMBO J. 14, 4514)。
【0027】
本発明の方法は、遺伝子または遺伝子類が活性化を喪失しまたは抑制されるようなやり方でも遺伝子または遺伝子類の転写を調節する。抑制は、本発明では、転写速度が二本鎖核酸を含んでなる組成物で処理していない細胞と比較して減少することを意味する。このような増加は、例えばノーザンブロット法(Sambrook et al. (1989)前記引用文献)またはRT−PCR(Sambrook et al. (1989)前記 引用文献)によって検出することができる。典型的には、このような減少は、少 なくとも2倍であり、更に好ましくは少なくとも5倍であり、少なくとも20倍であり、最も好ましくは少なくとも100倍の減少である。例えば、AP-1および/ま たはC/EBPまたは関連転写因子が特定の遺伝子に対して転写リプレッサーとして 働き、従ってこのアクチベーターのスケルチングによって活性化が喪失しまたは抑制される場合に、活性化の喪失または抑制が行われる。
【0028】
本発明のもう一つの態様では、調節により、一方の遺伝子または遺伝子類が活性化され、同時に別の遺伝子または遺伝子類が活性化を喪失しまたは抑制される。個々の遺伝子に対する差別的な効果は、例えばノーザンブロット法(Sambrook et al. (1989)前記引用文献)またはRT−PCR(Sambrook et al. (1989)前記 引用文献)並びにDNAチップアレイ法(米国特許第5,837,466号明細書 )によって容易に観察することができる。
【0029】
本発明の方法に用いる二本鎖核酸は、好ましい態様では、AP-1および/またはC/EBPまたは関連転写因子に特異的に結合する配列の1個以上のコピーを含んで なる。合成核酸は、典型的には長さが高々100 bpであるので、選択される特異的転写因子認識部位の長さによって1〜10個までの完全転写因子結合部位を含んでなることができる。PCRなどの酵素法によって増幅されまたは適当な原核または真核性宿主で増殖する核酸は、それぞれの転写因子結合部位を少なくとも約10個のコピー、好ましくは少なくとも約30個のコピー、少なくとも約100個のコピ ー、または少なくとも約300個のコピーを含む。
【0030】
本発明の方法に用いる二本鎖核酸は、例えばベクターまたはオリゴヌクレオチドである。好ましい態様では、ベクターはプラスミドベクターであり、特に常染色体的に複製することができ(Wohlgemuth et al. (1996) Gene Ther. 6, 503-12)、これにより導入される二本鎖核酸の安定性を増加することができるプラスミ ドベクターである。二本鎖オリゴヌクレオチドの長さは、典型的には約10〜100 bp、好ましくは約20〜60 bp、最も好ましくは30〜40 bpとなるように選択される。
【0031】
オリゴヌクレオチドは、エンドおよびエキソヌクレアーゼ、特に細胞中のDNアーゼおよびRNアーゼによって速やかに分解されやすい。従って、細胞中での核酸の高濃度を長時間保持するため、核酸を改質して分解に対して安定にする。典型的には、このような安定化は、1個以上の改質した介在ヌクレオチド(internucleotide)リン酸残基の導入によってまたは1個以上の「デホスホ」介在ヌク レオチドの導入によって行うことができる。
【0032】
良好に安定化した核酸は、総てのヌクレオチド一にこのような介在ヌクレオチドを必ずしも含まない。異なる改質を核酸に導入し、生成する二本鎖核酸を通常のEMSA分析法を用いてAP-1、C/EBPまたは関連タンパク質に対する配列特異 的結合について試験することが考えられる。この分析法により、核酸の結合定数を決定し、改質によって親和性が変化したかどうかを決定することができる。十分な結合を示す改質核酸を選択することができるが、十分な結合とは、未改質核酸の結合の少なくとも約50%、または少なくとも約75%、最も好ましくは約100 %を意味する。
【0033】
十分な結合を示している核酸を、これが細胞中で未改質核酸より安定であるかどうかを試験する。用いたin vitroアッセイ系では、本発明の方法を用いて改質核酸を細胞中に導入する。次いで、トランスフェクション細胞を様々な時点で取り出し、ノーザンブロット法(Sambrook et al. (1989)前記)、サザンブロット法(Sambrook et al. (1989)前記)、PCR(Sambrook et al. (1989)前記)、RT−PCR(Sambrook et al. (1989)前記)、またはDNAチップアレイ法(米国特許第5,837,466号明細書)によって残存核酸の量を分析することができる。良好に改質した核酸であれば、細胞中の半減期は少なくとも48時間であり、更に好ましくは少なくとも約4日間であり、最も好ましくは少なくとも約14日間である。
【0034】
適当な改質した介在ヌクレオチドは、Uhlmann and Peyman ((1990) Chem. Rev. 90, 544)に概説されている。本発明の方法で用いる核酸に含まれることがある改質した介在ヌクレオチドリン酸残基および/または「デホスホ」ブリッジは、例えばメチルホスホネート、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホル−アミデート、ホスフェートエステルであり、「デホスホ」介在ヌクレオチド類似体は、例えばシロキサンブリッジ、カーボネートブリッジ、カルボキシメチルエステルブリッジ、アセトアミデートブリッジ、および/またはチオエーテルブリッジを含む。この種の改質により、本発明の方法で用いられる組成物の貯蔵寿命が向上するとも考えられる。
【0035】
本発明のもう一つの態様は、核酸の半減期を増加する構造的特性を核酸に導入することによる核酸の安定化である。米国特許第5,683,985号明細書には、ヘアピンやダンベルDNAなどの構造が開示されている。改質した介在ヌクレオチドホスフェート残基および/または「デホスホ」ブリッジをこれらの構造と共に同時に導入することも考えられる。生成する核酸を、結合および安定性について前記した分析系で試験することができる。
【0036】
二本鎖核酸を含んでなる組成物を、血管細胞または心臓細胞と接触させる。この接触の意図は、AP-1および/またはC/EBPまたは関連転写因子に結合する二本 鎖核酸を細胞中、特に細胞の核へ移行させることである。従って、核酸改質物および/または添加物、または膜の透過を増加することが知られている助剤も、本発明で用いようとするものである(Uhlmann and Peyman (1990) Chem Rev. 90, 544)。
【0037】
本発明による組成物は、好ましい態様では、本質的に核酸と緩衝剤だけを含んでなる。この方法は、高濃度の二本鎖核酸を用いて、核酸を細胞中に効率的に吸収し、最終的に核における核酸を高濃度とすることができる。核酸の適当な濃度は、少なくとも1μMであり、更に優先的には10μMであり、最も好ましくは50μMであり、これに1種類以上の適当な緩衝剤を加えたものである。このような緩 衝剤の一例は、144.3ミリモル/lのNa、4.0ミリモル/lのK、138.6ミリモル/lのCl、1.7ミリモル/lのCa2+、1.0ミリモル/lのMg2+、0.4ミリモル/lの HPO2−、19.9ミリモル/lのHCO、10.0ミリモル/lのD−グルコースを含 むTyrode溶液である。
【0038】
本発明のもう一つの態様において、組成物は、少なくとも1個の添加剤および/または助剤をも含んでなる。脂質、カチオン性脂質、ポリマー、核酸アプタマー(aptamers)、ペプチドおよびタンパク質のような添加剤および/または助剤は、核酸の細胞中への移行を増加させ、組成物を細胞のサブセットのみに標的設定し、細胞内部での核酸の分解を防止し、適用前の核酸組成物の保存を容易にし、および/または細胞の核への移行を向上させることを目的としている。
【0039】
核酸の細胞中への移行を増加させる助剤は、例えば細胞の核への核酸の移行を容易にするDNAまたは合成ペプチド−DNA分子に結合しているタンパク質またはペプチドであることができる(Schwartiz et al. (1999) Gene Therapy 6, 282; Branden et al. (1999) Nature Biotechnology 17, 784)。助剤としては、 細胞の細胞質への核酸の放出を容易にする分子(Planck et al. (1994) J. Biol. Chem. 269, 12918; Kichler et al. (1997) Bioconjug. Chem. 8, 213)、また は例えばリポソーム(Uhlmann and Peyman (1990) 前記引用文献)。
【0040】
組成物を細胞のサブセットに対して特異的に標的設定するため、助剤を選択して、標的細胞のタンパク質、優先的には細胞の外側に露出したタンパク質またはタンパク質ドメインを認識させることができる。特異的標的設定は、細胞の特異的認識として記載することもできる。この認識を行うのに適当な助剤には、少なくとも2種類ある。助剤の一方の種類は、細胞膜の細胞外側部に位置するタンパク質またはタンパク質ドメインを優先的に認識する抗体または抗体断片を含んでなる。内皮細胞のこのような膜構造に対する抗体は、例えばBurrows et al. ((1994) Pharmac. Ther. 64, 155), Huges et al. ((1989) Cancer Res. 49, 6214)およびMaruyama et al. ((1990) Proc. Nat. Aca. Sci. 87, 5744)によって報告された。用いようとする抗体は、平滑筋の膜構造に対するものであり、例えば
− 抗体10F3 (Printseva et al. (1987) Exp. Cell Res. 169, 85
− アクチンに対する抗体(Desmoliere et al. (1988) Comptes Reudus des Seances de la Soc. de Biol et de ses Filiales 182, 391)
− アンギオテンシンIIレセプターに対する抗体(Butcher et al. (1993) BBRA 196, 1280
− 成長因子のレセプターに対する抗体(Reviews in Mendelsohn (1988) Prog. All. 45, 147; Sato et al. (1989) J. Nat. Canc. Inst. 81, 1600, Hynes et al. (1994) BBA 1198, 165)であるか、または例えば
− EGFレセプター(Fan et al. (1993) Cancer Res. 53, 4322; Bender et al. (1992) Cancer Res. 52, 121; Aboud-Pirak et al. (1988) J. Nat. Cancer Inst. 80, 1605)
− PDGFレセプター(Yu et al. (1994) J. Biol. Chem. 269, 10668; Kelly et al. (1991) 266, 8987)
− FGFレセプター(Vanhalteswaran et al. (1991) J. Cell Biol. 115, 418, Zhan et al. (1994) J. Biol. Chem. 269, 20221)
に対する抗体である。
【0041】
他の種類の助剤は、細胞表面レセプターに高親和性で結合しているリガンドである。このようなリガンドは、前記レセプターの天然のリガンドであるか、またはこれより高い親和性を有する改質リガンドであることができる。典型的には、このようなリガンドは、所定の膜レセプターに結合することが知られているペプチドである。更に、組合せペプチドライブラリーのスクリーニングにおいて目的とするレセプターを用いて新規なペプチドリガンドを単離することもである(Lu, Z. et al. (1995) Biotechnol. 13, 366; 米国特許第5,635,182号明細 書;Koivunen, E. et al. (1999) J. Nucl. Med. 40, 883)。
【0042】
前記リガンドによって標的設定することができる内皮細胞上で発現した膜レセプターとしては、例えばPDGF、bFGF、VEGFおよびTGFβが挙げら れる(Pusztain et al. (1993) J. Pathol. 169, 191)。更に、このリガンドとしては、増殖/移動内皮細胞に結合する接着分子も挙げられる。この種の接着分子、例えばSLex、LFA−1、MAC−1、LECAM−1、またはVLA−4は、既に報告されている(Augstein-Voss et al. (1992) J. Cell Biol. 119, 483; Pauli et al. (1990) Cancer Metast. Rev. 9, 175; Honn et al. Cancder Metast. Rev. 11, 353に概説されている)。しかしながら、このリガンドはペプチドリガンドに限定されず、標的細胞の細胞表面を特異的に認識する核酸−アプタマーであることもできる(Hicke, B.J. et al. (1996) J. Clin. Invest. 98, 2688)。
【0043】
前記リガンドによって標的設定することができる平滑筋細胞で発現する膜レセプターとしては、例えばPDGF、EGF、TGFα、FGF、エンドセリンA 、およびTGFβ(Pusztain et al. (1993) J. Pathol. 169, 191; Harris (1991)Current Opin. Biotechnol. 2, 260に概説されている)。
【0044】
細胞内で核酸を安定化する添加剤は、例えばカチオン性ポリマー、ポリ−L−リシンまたはポリエチレンイミンのような核酸濃縮物質である。
【0045】
本発明の方法に用いられる組成物は、注射、カテーテル、トロカール、投射プルロニックゲル(projectiles pluronic gels)、薬剤徐放性ポリマー、コーティ ングを施したステント、または局部的通路を設ける任意の他の装置によって優先的に局部的に適用される。本発明の方法に用いる組成物のex vivo適用も局部的 通路を設ける。
【0046】
本発明のもう一つの態様は、血管疾患、好ましくは血管増殖性疾患の治療法であって、血管細胞を1個以上の遺伝子の転写を調節するのに十分な量の前記組成物と接触させる段階を含んでなる方法である。この方法を用いて治療を行うことが考えられる疾患としては、例えば再狭窄、動脈または静脈バイパス移植片の内膜肥厚(intimal hyperplasia)、移植片血管症および肥大が挙げられる。また、 この方法は、例えばPTCA、PTA、バイパス手術、または動静脈シャントの適用のような血管疾患でよく用いられる治療の補助両方として用いることもできる。本発明の範囲としては、冠状心疾患および心筋梗塞のような血管疾患の結果であることが知られている疾患が挙げられる。
【0047】
本発明の方法は、in vitro法として用いることも目的としている。例えば、AP-1および/またはC/EBPまたは関連タンパク質による血管細胞で調節される遺伝 子を同定することができるin vitroスクリーニング法。このような方法は、前記細胞を、転写因子AP-1、および/またはC/EBPまたは関連タンパク質と配列特異 的に結合することができる1個以上の二本鎖核酸を含んでなる組成物とin vitro接触させることを含んでいる。次いで、数千の遺伝子の転写レベルを、例えば米国特許第5,837,466号明細書に記載のDNA−チップアレイ法を用いて、組成物を加えておよび加えずに、同時に観察し、比較することができた。
【0048】
本発明のもう一つの態様は、転写因子AP-1、または配列番号5、または配列:5'CTGTTGGTGACTAATAACACA3'(デザインしたAP-1);5'CTGTGGGTGACTAATCACACA3'(デザインしたAP-1);5'GTGCTGACTCAGCAC3'(デザインしたAP-1);5'CGCTTAGTGACTAAGCG3'(デザインしたAP-1);5'TGTGCTGACTCAGCACA3'(デザインしたAP-1);5'TTGTGCTGACTCAGCACAA3'(デザインしたAP-1);5'TCGCTTAGTGACTAAGCGA3'(デザインしたAP-1);5'TGCTGACTCATGAGTCAGCA3'(デザインしたAP-1);5'TGCTGACTAATTAGTCAGCA3'(デザインしたAP-1);5'GTCGCTTAGTGACTAAGCGAC3'(デザインしたAP-1);5'CTTGTGCTGACTCAGCACAAG3'(デザインしたAP-1);5'TTGCTGACTCATGAGTCAGCAA3'(デザインしたAP-1)を有する配列番号9〜20の配列の一 つを有する関連転写因子に配列特異的に結合することができる二本鎖核酸である。
【0049】
本発明のもう一つの態様は、転写因子C/EBP、または配列番号6、または配列 :GCTTGTGCGGGAATAAATAG3'(デザインしたC/EBP);5'AGGAATAATGGAATGCCCTG3' (デザインしたC/EBP);5'GACATTGCGCAATGTC3'(デザインしたC/EBP);5'AGCATTGGCCAATGCT3'(デザインしたC/EBP);5'CGACATTGCGCAATGTCG3'(デザインし たC/EBP);5'AGGCATTGGCCAATGCCT3'(デザインしたC/EBP);5'ACGACATTGCGCAATGTCGT3'(デザインしたC/EBP);5'TAGGCATTGGCCAATGCCTA3'(デザインしたC/EBP);5'CTGTTGCGCAATTGCGCAACAG3'(デザインしたC/EBP);5'GACTTGCGCAATTGCGCAAGTC3'(デザインしたC/EBP)を有する配列番号21〜30の配列の一つを有する関連転写因子に配列特異的に結合することができる二本鎖核酸である。
【0050】
本発明の二本鎖核酸は、長さが12〜22ヌクレオチドである。所定の核酸の最適長さは、転写因子に対する結合および細胞中への吸収が最適になるように選択される。典型的には、12 bpより短い二本鎖核酸は、その標的タンパク質にごく弱 く結合し、22 bpより長いものは強く結合するが、細胞による吸収の効率は低い 。結合力はEMSAによって測定することができ、二本鎖核酸の取込みは、ノーザンブロット法(Sambrook et al. (1989)前記引用文献)、サザンブロット法(Sambrook et al. (1989)前記引用文献)、PCR(Sambrook et al. (1989)前記引 用文献)、RT−PCR(Sambrook et al. (1989)前記引用文献)、またはDN Aチップアレイ(米国特許第5,837,466号明細書)法によって分析することができる。本発明の核酸は、前記の方法で安定化することができる。
【0051】
本発明の好ましい態様は、パリンドローム結合部位を含み、それにより短い二本鎖核酸に少なくとも2個の転写因子結合部位を含んでなる核酸である。この方法でデザインされた二本鎖核酸は、AP-1、および/またはC/EBPまたは関連転写 因子への結合の統計的確率が高くなる。パリンドローム結合配列のデザインを容易にするため、パリンドロームコア配列(AP-1:TGACおよびC/EBP:GCA A)の一方の側のミスマッチを許容することができる。好ましくは、コア配列を核酸の中央に置き、AP-1および/またはC/EBPまたは関連転写因子への結合を最 適にすることができる。
【0052】
本発明の核酸は、細胞中に速やかにインターナリゼーションされる。十分な取込みは、AP-1および/またはC/EBPまたは関連転写因子によって調節することが できる遺伝子または遺伝子類の調節を特徴とする。本発明の二本鎖核酸は、細胞との接触の約2時間後に、更に好ましくは約1時間後に、約30分後、約10分後、最も好ましくは約2分後に、遺伝子または遺伝子類の転写を調節する。このような実験で用いられる典型的な組成物は、二本鎖核酸を10μM/l含んでなる。
【0053】
下記の図および例は、単に例示を意味するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0054】
図1:様々な管内圧で6時間灌流したウサギ頸動脈(RbCA)またはウサギ頸静脈(RbJV)の単離切片中のppET-1 mRNA存在量に対する(A)内皮除去、(B,E)Ro 31-8220 (0.1μモル/l)、(C,F) ハービマイシンA(0.1μモル/l)、および(D)アクチ ノマイシンD(0.1μモル/l)の効果。代表的なRT−PCR分析では、異なる動物からの切片を用いる少なくとも4つの追加実験で、類似の知見を得た。
【0055】
図2:20 mmHgで灌流したRbJVの内皮が完全な切片における(A) AP-1および(B) C/EBPの核トランスロケーション中の経時増加。代表的EMSA分析では、少なくとも2つの追加実験で類似の結果を得た。
【0056】
図3:様々な管内圧で6時間灌流したRbCAまたはRbJVの内皮が完全な切片中のppET-1 mRNA存在量に対する(B,D) C/EBPmut、(C) GATA-2、および(D) C/EBPに対する特異的デコイ−オリゴデソキシヌクレオチド(dODN)の効果。(E,F) 静止条件下で6時間インキュベーションしまたは伸展したPAEC(一次培養)中のppET-1 mRNA存在量に対する(E) Ro 31-8220 (0.1μモル/l)およびハービマイシンA(0.9μモル/l)の効果。代表的なRT−PCR分析では、異なる動物の切片または細胞を用いる少なくとも2つの追加実験で、類似の知見を得た。
【0057】
図4:様々な管内圧で6時間灌流したRbCA(C)またはRbJV(A,B)の単離切片中の(A,C) ppET-1 mRNA存在量(n=3〜5)および(B)血管内ET−1ペプチド(n=3)に対するAP-1およびC/EBP単独または組合わせたものに対する特異的デコ イODNの効果。*0または2mmHgに対してP<0.05、#20〜160 mmHgに対してP <0.05、+ 20 mmHgおよびC/EBP dODNに対してP<0.05。
【0058】
図5:(A,B)様々なdODNの(A)非存在または(B)存在下で静止条件下で6時間イ ンキュベーションしまたは伸展した培養PAEC中の様々なラットppET-1プロモーター−ルシフェラーゼ構築物(星印は、AP-1反応要素なしの-168 bp構築物を 表す)の発現(+印によって表示;n=3〜7,2回測定)。(C) SV40/β−ガ ラクトシダーゼ発現ベクターと、同様なトランスフェクション効率の指標としての様々なラットppET-1プロモーター−ルシフェラーゼ構築物で同時トランスフェクションした培養PAEC中のβ−ガラクトシダーゼ活性(n=3〜7、2回測定)。
【0059】
図6:更に様々なプロモーター構築物の長さを示すラットppET-1遺伝子のプロモーター中の推定転写因子結合部位の略図。
【実施例】
【0060】

1. In situモデル
雄のニュージーランド白ウサギ(2.1±0.1 kg体重、n=47)をペントバルビタール(60 mg/kg i.v.; Sigma-Aldrich、 ダイセンホーフェン、ドイツ)で麻酔して、瀉血した。左右の総頸動脈(RbCA)並びに外頸静脈(RbJV)を切開し、外膜の脂肪および結合組織を洗浄し、半分に切断した。切片を特別にデザインした四位灌流チャンバー(four-position perfusion chamber)に設置して、可動カニューレ によって元の長さ(20.6±0.3 mm)に伸展した。その直径をビデオ顕微鏡(Visitron Instruments、ミュンヘン、ドイツ)によって連続的に観察した。切片の内腔 と周りの組織浴(tissue baths)を、組成が144.3ミリモル/lNa+、4.0ミリモル/lK+、138.6ミリモル/lCl−、1.7ミリモル/lCa2+、1.0ミリモル/lMg 2+、0.4ミリモル/lHPO42−、19.9ミリモル/lHCO3−、10.0ミリモル/lD−グルコースである加温(37℃)して酸素付加した(内腔:75%N、20%O、5%CO、PO2=140 mmHg、PCO2=15〜20 mmHg、pH7.4;浴:95%CO、5%O、PO2>300 mmHg、PCO2=13〜38 mmHg、pH7.4)Tyrode液でそれぞれ灌流した。灌流には、IPCローラーポンプ(Ismatec, ベルトハイム、ドイツ)を用い、1.33 Hzの頻度で送液した。30分間の平衡時間の後、切片を調節可能 な後負荷装置(Hugo Sachs Elektronik, マルヒ、ドイツ)を用いて、2,90ま たは160 mmHgで3〜12時間灌流した。
【0061】
2. 細胞培養
内皮細胞を、Hepes-Tyrode液中1U/mLジスパーゼ(dispase)を用いて37℃で7 分間処理することによりブタ大動脈から単離し、10 U/mLニスタチン、50 U/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン、5ミリモル/L Hepes、5ミリモル/L TESおよび20%ウシ胎児血清を含むDMEM/Ham F12 (1:1, v/v)中でゼラチンをコー ティングした60 mmの培養皿で培養した(0.1 MHCl中2mg/mLゼラチン、周囲 温度で30分間)。これを、0.5%トリプシン/0.2%EDTA(w/v)を用いて1回培養し、これもゼラチンをコーティングしておいたBioFlexTM Collagen I型の6穴プレート(Flexcell, ヒルズボロー、ノースカロライナ、米国)に播種した。これを、典型的な玉石形態学(cobblestone morphology)、von Willebrand因子(vWF)についての陽性免疫染色、および平滑筋α−アクチンについての陰性免疫 染色(Krzesz et al. (1999) 453, 191)によって同定した。
【0062】
3. RT−PCR分析
凍結切片を、液体窒素下にて乳鉢と乳棒を用いて細分化した。総RNAをQuiagen RNeasyキット(Quiagen, ヒルデン、ドイツ)を用いて単離した後、製造業者の指示により総容積20μl中で最大3μgRNAおよび200 UのSuperscriptTM II 逆転写酵素(Gibco Life Technologies, カールスルーエ、ドイツ)を用いてcDNA合成を行った。cDNAの規格化のため、生成するcDNA溶液5μl(約75 ng cDNA)およびそれぞれのプライマー(Gibco) 20ピコモルを、総容積が50μl 中1U Taq DNAポリメラーゼ(Gibco)と共に伸張因子1(EF−1)PCRに用いた。伸張因子−1(EF−1)は、PCRの標準として用いた。PCR生成物を、0.1%エチジウムブロミドを含む1.5%アガロースゲルで分離し、バンドの強度をデンシトメーターで測定し、CCD−カメラ装置およびScanaltytics (Billerica, マサチューセッツ、米国)製One-Dscan Gel 分析ソフトウェアを用いるこ とによって次のPCRのcDNA容積を調節した。
【0063】
総てのPCR反応は、Hybaid OmnEサーモサイクラー(AWG, ハイデルベルク、 ドイツ)中それぞれのプライマー対について個々に行った。PAECからのcDNAについての個々のPCR条件は下記の通りであった。ppET-1 生成物サイズ432 bp、30サイクル、アニーリング温度53℃(前進プライマー)5'GGAGCTCCAGAAACAGCTGTC3', (復帰プライマー)5'CTGCTGATAAATACACTTCTTTCC3'(ラットppET-1遺伝子、GenBank登録番号M64711のヌクレオチド配列233〜664に相当);EF-2 218 bp, 22サイクル、58℃、5'GACATCACCAAGGGTGTGCAG3', 5'GCGGTCAGCACAATGGCATA3' (1990-2207, ヒトEF-2, Z11692)。
【0064】
4. 血管内ET-1濃度
ET-1を、Hisaki et al. (1994) Am. J. Physiol. 266, 422; Moreau et al. (1997) Circulation 96, 1593に記載の方法で秤量切片から抽出し、その濃度をELISAキット(Amersham, フライブルク、ドイツ)を用いて測定した。
【0065】
5. レポーター遺伝子分析
PCRによって増幅したラットppET-1プロモーターの部分配列を、CMVプロモーターの摘出の後、ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV TK Luc+の多重クローニング領域のSma-1制限部位に平滑末端クローニングした(Paul et al. (1995) 25, 683)。CMVプロモーターを含むおよび含まないpCMV TK Luc+構築物を、コン トロールとして用いた。-168 bp構築物でのAP-1およびGATA部位の位置指定 突然変異誘発は、TransformerTM Site Directed Mutagenesisキット(Clontech, ハイデルベルク、ドイツ)を用いて行った。トランスフェクションの有効性を推定するための同時トランスフェクションは、SV40/β−ガラクトシダーゼ発現ベ クターpUC19 (Paul et al. (1995)前記引用文献)を用いて行った。
【0066】
トランスフェクションのために、40%コンフルエントなブタ大動脈内皮細胞を1.5μgのプラスミドDNAおよび15μgのEffecteneTM (Qiagen, ヒルデン、ドイツ)と共に6時間インキュベーションした後、培地を取り換え、細胞が80%コンフルエントとなるまで(通常18〜24時間後)培養した。次に、これを静止状態でインキュベーションし、Flexercell FX-3000コンピューター化した伸展装置中で0.5 Hzで20%周期的緊張に6時間暴露した。細胞溶解生成物中のルシフェラーゼおよびβ−ガラクトシダーゼ活性を相当する化学発光および光度分析キット(Promega, マンハイム、ドイツ)を用いて測定し、そのタンパク質含量に基づいて規格化した。トランスフェクション効率を、細胞をβ−ガラクトシダーゼ基質、o−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシドを用いて染色することによって光学顕微鏡レベルで測定した(Lim and Cha (1989) Biotechniques 7, 576)。
【0067】
6. 電気泳動移動度シフト分析(EMSA)
核抽出物の調製、および[32P]−標識二本鎖コンセンサスオリゴヌクレオチド(Santa Cruz Biotechnology, ハイデルベルク、ドイツ)、非変性ポリアクリル アミドゲル電気泳動、オートラジオグラフィーおよびスーパーシフトは、文献記載の方法で行った(Krzesz et al. (1999) 前記引用文献)。下記の一本鎖配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた(コア配列に下線を施している):AP-1,5' CGCTTGATGACTCAGCCGGAA 3'; C/EBP,5' TGCAGATTGCGCAATCTGCA 3'。
【0068】
7. デコイ−オリゴデオキシヌクレオチド(dODN)技術
二本鎖dODNを、文献記載の方法によって相補的一本鎖ホスホロチオエートに結合したオリゴデオキシヌクレオチド(Eurogentec, ケルン、ドイツ)から調製した(Krzesz et al. (1999)前記)。頸動脈または頸静脈切片の内腔に二本鎖dODNを含む媒質を満たし、またはdODNを培養したPAECと共に10μMの濃度で4時間予備 インキュベーションし、条件はEMSAおよびRT−PCR分析に基づいて前もって最適化しておいた。その後、dODN含有培地を、灌流(切片)で洗浄し、または新鮮な培地(PAEC)に取り換えた。dODNの一本鎖配列は、下記の通りであった(下線を施した文字は、ホスホロチオエートと結合した塩基を表す): AP-1,5'CGCTTGATGACTCAGCCGGAA 3'; C/EBP,5' TGCAGATTGCGCAATCTGCA 3'; C/EBPmut ,5' TGCAGAGACTAGTCTCTGCA 3'; GATA-2,5' CACTTGATAACAGAAAGTGATAACTCT 3' 。
【0069】
8. 統計学的分析
特に断らない限り、図および本文の総てのデータは、様々な動物からの切片または細胞を用いるn回の実験の平均値±SEMとして表している。統計学的評価は 、P値<0.05を統計学的に有意と考え、片側データについてStudentsのt−検定によって行った。
【0070】
9. プレプロET-1mRNA発現
RbCAを160 mmHgに加圧し、RbJVを20 mmHgに加圧すると、最大にまで膨張し、 外径の平均増加率はそれぞれ208および274%となった。ハウスキーピングリファレンス遺伝子EF−1のmRNAレベルは、灌流圧におけるこれらの変化によって変わらず、灌流切片からのECの有意な喪失は認められなかった。灌流圧を2または90から160 mmHgまで(RbCA)、または0または5から20 mmHgまで(RbJV)上昇さ せたところ、ppET-1 mRNAおよび血管内ET-1のいずれにおいても顕著に増加した (図1、3および4)。この恐らくは変形によって誘導されるppET-1発現は、切片の裸出の後に著しく減少したので、内皮に限定された(図1a)。RbJVをSrc類に特異的なチロシンキナーゼインヒビター(Banes et al. (1995) 73, 349; Birukov et al. (1997) 81, 895)であるハービマイシンA(0.1μモル/l,図1c) ではなく、タンパク質キナーゼC(PKC)インヒビター(Wilkinson et al. (1993) Biochem. J. 295, 335)である Ro 31-8220 (0.1μモル/l,図1b)で前処理したところ、ppET-1の基本および圧力依存発現のいずれもが強力に阻害された。対照的に、Ro 31-8220はRbCA(図1e)では効果は見られず、変形によって誘導されるppET-1発現の増加は、切片をハービマイシンAに暴露した後には実質的になくなった(図1f)。アクチノマイシンD(1μモル/l)でRNA合成をブロックすると、ppET-1 mRNAの圧力によって誘導される増加はなくなり(図1d)、いず れの型の血管でも血管内ET-1はなくなった。
【0071】
結果: ET-1遺伝子は、ECの圧力依存変形に応じてde novo発現する。
【0072】
10. 転写因子の活性化
AP-1およびC/EBPオリゴを用いるEMSAでは、RbJVを20 mmHgの管内圧に暴露すると(それぞれの転写因子についてn=3〜9)、活性が一過性(すなわち、30〜60分間)で有意に(2または3倍)増加した。この核トランスロケーションは、スーパーシフト分析によれば、主としてβ−およびδ−イソフォームからなるAP-1(図2a)およびC/EBP(図2b)の場合に最も顕著であり、再現性が高かっ た。更に、核抽出物中のAP-1の存在量は、基本条件下およびRbJVのRo 31-8220で前処理した後、高灌流圧の存在下では大幅に減少した(20 mmHgで1時間灌流し た後のコントロールの247±3から146±13%まで)。RbCAでは、AP-1およびC/EBPについて実質的に同じ結果が得られ、更に、C/EBPβおよびδの圧力によって誘 導される活性化もハービマイシンAによってブロックされた。
【0073】
結果:管内圧の増加の後、AP-1およびC/EBPは、RbJVおよびRbCAの抽出物では結 合活性の増加を示す。
【0074】
11. AP-1およびC/EBPの役割
AP-1およびC/EBP dODNは、拡散的ではあるが顕著な効果を示した。例えば、RbJVでは、AP-1 dODNは、圧力依存性をなくしたが、基本ppET-1 mRNA(図4a)およびET-1ペプチド存在量(図4b)はなくならなかった。一方、C/EBP dODNは、 基本および圧力依存性ppET-1発現を同程度まで顕著に高めた(図4aおよび4b)。対照的に、突然変異dODNでは、このような効果は見られず、dODN法の特異性を増強した(図3b)。AP-1とC/EBP dODNとの組合せは、ppET-1発現に対する後者の 強力な効果を著しく後退させた(図4aおよびb)。
【0075】
RbJVの場合とは異なり、C/EBPmut dODNではなくC/EBPは、RbCAにおける圧力 によって誘導されるppET-1発現の増加を、基本レベル(図4c)には影響を与えずになくした。これらの切片では、AP-1 dODNは、RbJVにおけるGATA-2 dODNとppET-1発現を若干減少した(図3c)。
【0076】
結果: 圧力に応答するppET-1誘導はRbJVではAP-1 dODNによって、またRbCAではC/EBP ODNによって阻害することができる。
【0077】
12. ラットppET-1プロモーターの伸展反応
PAECを、様々なラットppET-1プロモーター−ルシフェラーゼ構築物で一過性にトランスフェクションした。これらの細胞は、Ro 31-8220(図3e)およびハービマイシンA(図3f)のいずれによっても減衰する効果である、遙かに高水準のppET-1mRNAおよびET-1ペプチドを周期的緊張に応答して発現するので、これらの細胞を選択した。β−ガラクトシダーゼ染色およびβ−ガラクトシダーゼ活性の測定により、トランスフェクション効果は約15%であると推定された。総てのトランスフェクションしたプロモーター構築体(-98, -168, -350, -590, -729, -1070, -1250および-1329 bp)を静止条件下で程度は異なるがPAECによって発現し、 周期的緊張に6時間暴露したときに、-98 bp構築体を除き、ルシフェラーゼ活性が著しく増加した(図5a)。二重トランスフェクション細胞における酵素の活性は比較的均一であると思われるので(図5c)、個々のプロモーター構築体の間のルシフェラーゼ活性の明らかな差は、β−ガラクトシダーゼトランスフェクション効力の差によるものではないのである。
【0078】
完全長のプロモーター構築体は、伸展PAECにおいて最高の活性を示した(静止条件下でCMVによって得られる遺伝子のルシフェラーゼ活性の約40%)。最短伸展を生じる構築体は-168 bp断片であり、その発現水準は完全長のプロモータ ー構築体の発現水準の約半分であった(図5aおよびb)。-110〜-100 bpの部位の単一AP-1結合部位の欠失すると、伸展応答性がなくなった(図5a)。この構築体でトランスフェクションしたPAECをAP-1 dODN(それぞれ63および93%阻害、図5b)0.1μモル/lのRo 31-8220で前処理して、PKCの活性をブロックすると( 基本ルシフェラーゼ活性がなくなり、伸展によって誘導されるルシフェラーゼ活性が84%減少)、同様な効果が得られた。対照的に、GATA-2コンセンサスdODNは、-168 bp構築体でトランスフェクションしたPAECにおける基本および伸展によ り誘導されるルシフェラーゼ活性をそれぞれ28および31%しか減少しなかった。更に、完全長プロモーター構築体の基本および刺激発現はいずれも、AP-1 dODNに暴露した後には明らかに阻害された(それぞれ58および74%)。
【0079】
C/EBP dODNは、-590, -729または-1250 bp構築体でトランスフェクションしたPAECにおけるルシフェラーゼ活性に有意な効果はなかったが、-1070 bp構築体でトランスフェクションしたPAECでの伸展依存ルシフェラーゼ活性を有意に向上させた(図5b)。
【0080】
結果: PAECにおけるppET-1プロモーターの伸展応答性は、AP-1によって変化する。ppET-1プロモーター活性化はAP-1 dODNによって阻害することができるが、C/EBP dODNによって阻害することはできない。
【0081】
13. ウサギでの介在静脈移植片のトランスフェクション
ウサギの外頸静脈と総頸動脈を用いる動脈−静脈移植の後の新内膜傷害形成(neointimal lesion formation)に対するAP-1デコイの効果を特定するには、in vivoモデルの設定が考えられる。この実験モデルでは、手術が成功し移植片の開通する割合が約75%であることが予想される。従って、8匹のウサギは、体型測定分析に十分なデータを得るために用い、もう一つの組の6匹は、静脈切片への効率的なデコイ送達を示すために用いる。
【0082】
ニュージーランド白ウサギ(3〜4kg)で静脈内で通常麻酔を誘導した後、ハロタンを用いて標準的な吸入麻酔を行う。垂直首切開を行って、外頸助脈と同側総頸動脈を露出させる。外傷法を用いて4cmの静脈切片を得て、これを局所用パパベリンで処理し、ヘパリン添加リンゲル溶液中に保管する。静脈切片のトランスフェクションは、次のようにして行う。小さなカテーテルを静脈切片に押し込み、切片を水で洗浄してリンゲル溶液を除く。血管を基部で連結した後、デコイ溶液を静脈中に注入して、静脈の拡張を防止する。第二の結紮による末端制御の後、デコイ溶液を30分間の滞留時間でインキュベーションし、十分なトランスフェクション率を得る。インキュベーション時間中に、同側頸動脈を切開して、動員する。この動脈切片を鉗子で分割し、トランスフェクションした静脈切片を逆にし、標準的縫合を用いて末端−末端式にして頸動脈に挿入する。鉗子を除いた後、止血を行い、傷口を閉じる。コントロール群の動物には、AP-1活性に何ら影響のない混合デコイを投与する。
【0083】
効率検討を行う実験は、2日後に終了し、電気泳動移動度シフト分析法(EMSA)を行い、標的設定した転写因子(AP-1)の効率的スケルチングを明らかにする。デコイ処理の生物学的効果は、標準的コンピューター化形態計測によるトランスフェクションの4週間後に明らかにする。
【0084】
14. 損傷のある頸動脈のトランスフェクションによる再狭窄の抑制
PTA後のウサギの頸動脈における新内膜傷害形成(neointimal lesion formation)に対するC/EBPデコイの効果を特定するには、再狭窄のin vivoモデルの設定が考えられる。
【0085】
成熟したニュージーランド白ウサギ(3〜4 kg)を用いる。数匹の動物に、バル ーン損傷前の2週間1%コレステロールを含む飼料を与え、トランスフェクションした血管を得るまでその飼料を与え続ける。バルーン損傷は、13.に記載の方 法で麻酔を誘導した後に行う。垂直首切開の後、右総頸助脈を切開して、周囲の組織を除き、側枝を連結する。ウサギに、頸動脈をクランプする前に、ヘパリン(10 U/kg)の静脈内注射により全身にヘパリン付加を行う。2 French Fogarty塞 栓切除カテーテルを外頸動脈の支脈に導入し、総頸動脈の中央部分で膨張させた後、分岐まで引き戻す。この処置を3回繰返すと、内皮が完全に露出する。次いで、通常の食塩水を満たした注入カテーテルを動脈に押し込み、頸動脈を洗浄する。基部制御を行った後、デコイ溶液を注入し、30分間の滞留時間でインキュベーションする。カテーテルの導入に用いた側枝をリチゲーション(litigation)の後に総頸動脈に血流を再開させ、止血を行い、傷口を閉じる。
【0086】
前記の時間間隔で、ウサギを再度麻酔し、血管切片を得る。dODN処理の効率検討を行う実験動物も麻酔し、血管切片を得る。効率検討を行う実験は2日後に終了し、EMSAを行い、標的設定した転写因子(C/EBP)の効率的「デコイイング(decoying)」を明らかにする。デコイ処理の生物学的効果は、標準的コンピュー ター化形態計測によるトランスフェクションの4週間後に明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】様々な管内圧で6時間灌流したウサギ頸動脈(RbCA)またはウサギ頸静脈(RbJV)の単離切片中のppET-1 mRNA存在量に対する(A)内皮除去、(B,E)Ro 31-8220 (0.1μモル/l)、(C,F) ハービマイシンA(0.1μモル/l)、および(D)アクチノマイ シンD(0.1μモル/l)の効果を示す図である。代表的なRT−PCR分析では、異なる動物からの切片を用いる少なくとも4つの追加実験で、類似の知見を得た。
【図2】20 mmHgで灌流したRbJVの内皮が完全な切片における(A) AP-1および(B) C/EBPの核トランスロケーション中の経時増加、を示す図である。代表的EMSA分析では、少なくとも2つの追加実験で類似の結果を得た。
【図3】様々な管内圧で6時間灌流したRbCAまたはRbJVの内皮が完全な切片中のppET-1 mRNA存在量に対する(B,D) C/EBPmut、(C) GATA-2、および(D) C/EBPに対する特異的デコイ−オリゴデソキシヌクレオチド(dODN)の効果、を示す図である。(E,F) 静止条件下で6時間インキュベーションしまたは伸展したPAEC(一次培養)中のppET-1 mRNA存在量に対する(E) Ro 31-8220 (0.1μモル/l)およびハービマイシンA(0.9μモル/l)の効果、を示す図である。代表的なRT−PCR分析では、異なる動物の切片または細胞を用いる少なくとも2つの追加実験で、類似の知見を得た。
【図4】様々な管内圧で6時間灌流したRbCA(C)またはRbJV(A,B)の単離切片中の(A,C) ppET-1 mRNA存在量(n=3〜5)および(B)血管内ET−1ペプチド(n=3)に対するAP-1およびC/EBP単独または組合わせたものに対する特異的デコイODNの効果、を示す図である。 *0または2mmHgに対してP<0.05、#20〜160 mmHgに対してP<0.05、+ 20 mmHgおよびC/EBP dODNに対してP<0.05。
【図5】(A,B)様々なdODNの(A)非存在または(B)存在下で静止条件下で6時間インキュ ベーションしまたは伸展した培養PAEC中の様々なラットppET-1プロモーター−ルシフェラーゼ構築物(星印は、AP-1反応要素なしの-168 bp構築物を表す) の発現(+印によって表示;n=3〜7,2回測定)を示す図である。(C) SV40/β−ガラクトシダーゼ発現ベクターと、同様なトランスフェクション効率の指 標としての様々なラットppET-1プロモーター−ルシフェラーゼ構築物で同時トランスフェクションした培養PAEC中のβ−ガラクトシダーゼ活性(n=3〜7、2回測定)、を示す図である。
【図6】更に様々なプロモーター構築物の長さを示すラットppET-1遺伝子のプロモーター中の推定転写因子結合部位の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内皮または心臓細胞における少なくとも1個の遺伝子の転写を調節する方法であって、
前記細胞を、転写因子AP-1または関連転写因子に配列特異的に結合できる1個以上の二本鎖核酸を含んでなる組成物と接触させる
段階を含んでなる、方法。
【請求項2】
内皮細胞が血管または血管移植片の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血管移植片を、in vivoまたはex vivoで前記組成物と接触させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
血管または心臓細胞における1個以上の遺伝子の転写を調節する方法であって、
前記細胞を、転写因子C/EBPまたは関連転写因子に配列特異的に結合できる1 個以上の二本鎖核酸を含んでなる組成物と接触させる
段階を含んでなる、方法。
【請求項5】
組成物が転写因子AP-1と配列特異的に結合できる二本鎖核酸をも含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
血管細胞が平滑筋(SMC)または内皮細胞である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
細胞が血管または血管移植片の一部である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
血管が冠状または末梢動脈である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子または遺伝子類が前記細胞の増殖または移動を調節する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記調節遺伝子が、エンドセリン遺伝子、マクロファージ走化性タンパク質(MCP)遺伝子、および酸化窒素シンターゼ(NOS)遺伝子からなる群から選択 される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
エンドセリン遺伝子が、エンドセリン−1遺伝子であり、MCP遺伝子がMCP−1遺伝子であり、NOS遺伝子が誘導NOS遺伝子である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
調節によって、前記遺伝子または遺伝子類が活性化される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
調節によって、前記遺伝子または遺伝子類が活性化を喪失しまたは抑制される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
二本鎖核酸が、AP-1またはC/EBPに特異的に結合する配列の1個以上のコピー を含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
二本鎖核酸がベクターまたはオリゴヌクレオチドである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
オリゴヌクレオチドまたはベクターが安定化されている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
組成物が更に、少なくとも1個の緩衝剤を含んでなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
組成物が更に、1個以上の適当な添加剤または助剤を含んでなる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
血管疾患の治療法であって、
血管細胞を請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物と、1個以上の遺伝子の転写を調節するのに十分な量で接触させる
段階を含んでなる、方法。
【請求項20】
転写因子AP-1または配列番号5または9〜20の配列の1つを有する関連転写因子に配列特異的に結合できる二本鎖核酸。
【請求項21】
転写因子C/EBPまたは配列番号6または21〜30の配列の1つを有する関連 転写因子に配列特異的に結合できる二本鎖核酸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−135603(P2007−135603A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38432(P2007−38432)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【分割の表示】特願平11−261035の分割
【原出願日】平成11年9月14日(1999.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1999年3月14日〜3月17日 開催の「Abstracts of the 78th Annual Meeting」において文書をもって発表
【出願人】(502393855)アボンテック、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】AVONTEC GMBH
【Fターム(参考)】