説明

血糖値を降下させる物質の評価方法、スクリーニング方法及び製造方法

【課題】コスト的に有利であり、倫理的な問題が少ない、糖尿病の治療薬の正確で優れたスクリーニング方法、評価方法、製造方法を提供することにある。更には、かかる方法に好適に用いられる特定の状態にあるコスト的に有利で倫理的な問題が少ない動物を提供することにある。
【解決手段】被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させる工程、
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、上記被検物質を投与する工程、
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法に関するものであり、また、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法及びかかる物質を製造する方法に関するものである。更には、該方法に用いられる特定の状態にある動物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は慢性の高血糖状態の持続及び耐糖能の異常を示す疾患である。また、糖尿病は、重篤な合併症である様々な臓器障害(腎症、末梢神経障害、網膜症等)を引き起こす原因となることから、現在社会的問題となっている(非特許文献1)。
【0003】
糖尿病は、臨床病像から、大きくI型(インスリン依存性糖尿病:IDDM)とII型(インスリン非依存性糖尿病:NIDDM)の2つに分けられる。I型糖尿病は、膵臓ランゲルハンス島β細胞の破壊が原因となり、糖の取り込みや代謝の調節をする内分泌ホルモンであるインスリンが欠乏することにより引き起こされる疾患である。またII型糖尿病は、肥満等によるインスリン分泌量の低下及びインスリンに対する感受性の低下(インスリン抵抗性)を基礎とする疾患である。
【0004】
糖尿病の治療薬として、インスリン及びインスリン分泌を促進する薬剤の他、多糖類の分解を阻害することによりグルコースの吸収を抑制する薬剤、インスリン抵抗性改善薬等がある。近年、II型糖尿病の患者数は増加傾向にあり、またインスリン抵抗性の患者数が増えているにも関わらず、インスリン抵抗性改善薬は、副作用が起こりやすく、新たな治療薬の登場が望まれている。
【0005】
従来、糖尿病治療薬の薬効評価には、マウスやラット等が用いられてきた。しかし、多数の哺乳類を犠牲にすることは、動物支援の観点から問題があるとされるようになった。哺乳類を用いた動物実験には、動物実験等の国際原則である3R、Replacement(代替法の開発)、Reduction(動物数の削減)、Refinement(動物の苦痛の削減)に基づいて実験を行わなければならないとされている。すなわち、従来、病態モデルとして確立されているマウスをはじめとした哺乳類を薬物のスクリーニングとして用いることは、コストや倫理的な問題から不適であり、無脊椎動物を用いた簡便な薬効評価系の確立が望まれている。しかし、線虫やショウジョウバエのような小型無脊椎動物は、注射器を用いた定量的な薬物の血管内投与及び採血が困難であり、血糖値の測定や血糖値のコントロールが非常に困難である。
【0006】
そこで本発明者らは、哺乳類に代替し得る実験生物として、カイコガの幼虫に着目し、これまでにカイコガの幼虫等の自然免疫機構のみを有する生物、又はその培養細胞を利用して、ヒト等に感染する菌やウイルスに対する治療薬開発のための評価系の開発に取り組んできたが(特許文献1及び特許文献2)、カイコガの幼虫等の無脊椎動物が糖尿病の治療薬の評価系として利用できることは知られていなかった。
【0007】
従って、糖尿病の新たな治療薬が強く望まれているのにもかかわらず、コスト的問題や倫理的問題の少ない優れた評価方法やスクリーニング方法がないのが現状であった。
【特許文献1】WO2001/086287号公報
【特許文献2】WO2005/116269号公報
【非特許文献1】Catherine Carver, The Diabetes EDUCATOR (2006), vol.32, p.910〜p.916.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、コスト的に有利であり、倫理的な問題が少ない、長期間の飼育が不要、糖尿病の治療薬の正確で優れたスクリーニング方法、評価方法、製造方法を提供することにある。すなわち、ある物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを、コスト的に有利で倫理的な問題が少ない方法で正確に評価する方法、かかる物質をスクリーニングする方法及びかかる物質を製造する方法を提供することにあり、更には、かかる方法に好適に用いられる特定の状態にあるコスト的に有利で倫理的な問題が少ない動物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
無脊椎動物であるカイコガの幼虫(以下、「カイコ」と略記する)は、安価で、狭いスペースで大量の個体を飼育でき、倫理的な問題が少ないという利点をもつ。更に、カイコは動きが緩慢であり、適当なサイズを有しているので、注射器を用いた定量的な薬物の血管内投与が容易である。これまでの研究から、カイコは血糖値の恒常性を維持する機構を有しており、筋肉及び人の肝臓に相当する脂肪体に糖をグリコーゲンとして貯蔵することが報告されている。また、カイコは、ボンビキシンと呼ばれるインスリン様ペプチドホルモンを有している。ボンビキシンの下流には、インスリンシグナル伝達経路と同様に、MAPKシグナル伝達経路が存在する。
【0010】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、上記したように、カイコの有する実験動物としての優れた特性、また、血糖の調節機構が、評価用哺乳類や実際に治療の対象となるヒトと共通している点を見出し、また、カイコの血糖値や脂肪体中の糖濃度を上げられることを、実際に見出し、更に、その値を、インスリン、メトホルミン、及び、5-Aminoimidazole-4-Carboxamide Ribonucleoside(以下、「AICAR」と略記する)等の「既に人に対して効果が知られている糖尿病治療薬」によって下げられることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を上昇させる工程、
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、上記被検物質を投与する工程、
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法(以下、「態様1」とする)を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させる工程、
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、被検物質を投与する工程、
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程、
(d)上記被検物質の中から、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を低下させる物質を選択する工程。
を有することを特徴とする方法(以下、「態様2」とする)を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、ヒトの血糖値を降下させる薬剤を製造する方法であって、
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を上昇させる工程、
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、被検物質を投与する工程、
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程、
(d)上記被検物質の中から、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を低下させる物質を選択する工程、
(e)上記工程(d)で選択された物質と製薬上許容される担体を混合する工程、
を有することを特徴とする方法(以下、「態様3」とする)を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、糖(A)を摂取させることによって、その脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度が上昇した状態にあることを特徴とする、ヒトの血糖値を降下させる物質のスクリーニング用の無脊椎動物を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、糖(A)を摂取させることによって、その脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度が上昇した状態にあることを特徴とする、ヒトの血糖値を降下させる物質のスクリーニング用のカイコを提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安価でコスト的に有利で、また倫理的な問題がなく、飼育も容易な生物を用いて、薬理実験が容易で効率的で正確な、評価方法、スクリーニング方法、製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0018】
[態様1]
本発明の態様1は、被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、少なくとも、以下の工程(a)、(b)及び(c)を有するものである。
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を上昇させる工程
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、上記被検物質を投与する工程
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程
【0019】
本発明の態様1は、必要に応じて更にその他の工程を含んでいてもよい。以下、工程(a)、(b)、(c)について順に説明する。
【0020】
<工程(a)>
工程(a)においては、まず、無脊椎動物に糖(A)を摂取させる。無脊椎動物としては、昆虫綱、甲殻綱、ムカデ綱、クモ綱等の節足動物門に属するものが好ましく、鱗翅目、甲虫目、双翅目、膜翅目、直翅目、網翅目等の昆虫綱に属するものがより好ましい。昆虫綱に属するものとしては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。取り扱いの便宜性から、昆虫綱に属するものの幼虫であることが特に好ましい。
【0021】
かかる幼虫としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、具体的には、例えば、鱗翅目(ガ、チョウ等を含む)、甲虫目(カブトムシ等を含む)、双翅目(ハエを含む)、膜翅目(ゴキブリを含む)、直翅目(バッタを含む)、網翅目(ハチを含む)等に属するものの幼虫が好ましいものとして挙げられる。これらのうち、完全変態型昆虫の実質的に無毛の幼虫がより好ましい。完全変態型昆虫とは、卵、幼虫、蛹、成虫の成長過程を経る昆虫で、その多くが幼虫時は「いもむし」と呼ばれる栄養補給に特化した実質的に無毛で単純な形態をしており、その動きも緩慢であるため、完全変態型昆虫の幼虫は、薬剤等の注射が容易である点から実験動物として適している。
【0022】
更に、かかる幼虫としては、以下の点から、カイコが特に好ましい。
(1)入手が容易である。
(2)飼育する方法が既に確立されており、更に飼育に利便性がある。
(3)ヒト等の哺乳類の内臓・器官と類似する性質が、これまでの研究である程度分かっている。
(4)遺伝系統が確立されており、遺伝的均一性の維持ができている。
(5)比較的大型で、動きが緩慢であり、実質上無毛なので、定量的に注射できる等、薬物の投与が容易である。
(6)脂肪体を有しており、脂肪体を取り出して、含有する物質の定量が可能である。
(7)マウス、ラット等に比べると安価で、狭いスペースで多数の個体を飼育でき、倫理的な問題も少ない為、スクリーニング的な評価を行うことが容易である。
(8)被検物質が少量しかない場合でも評価を行うことができる。
(9)齢を揃える等、同じ状態の個体を揃えることが容易である。
(10)体液を採取して、糖、脂質、酵素等の成分を解析することが可能である。
【0023】
以上のうち、(5)以降は完全変態型昆虫の幼虫全般にいえる特色となっており、完全変態型昆虫の実質的に無毛の幼虫が実験動物として優れた特徴を持っていることは明らかである。
【0024】
上記幼虫は、糖(A)の摂取させやすさ、被検物質の投与のしやすさ、血液や脂肪体の採取のしやすさ等の観点から、大型の幼虫であることが好ましい。ここで「大型の幼虫」とは、体長が1cm以上である幼虫であり、好ましくは、1.5cm以上15cm以下であり、特に好ましくは、2cm以上5cm以下である。また、カイコ等の場合は、4齢〜5齢の幼虫が好ましく、5齢の幼虫が特に好ましい。
【0025】
また、本発明に用いられる無脊椎動物としては、一般に、血糖値の恒常性を維持する機構を有しているもの、血液中又は脂肪体中に糖を貯蔵する機能を有しているもの、又は、インスリン様ペプチドホルモンを有しているものが、ヒトの臨床との対応付けが可能であるという点で好ましい。また、インスリンシグナル伝達経路、MAPKシグナル伝達経路等の糖濃度制御機構を体内に有しているものが好ましい。また、注射器を用いて容易に被検薬物の水溶液の血液内投与が可能である無脊椎動物が、探索を容易にするという点で好ましい。一般に「いもむし」と呼ばれるチョウ、ガ、ハチ等の幼虫;カブトムシ、クワガタムシ等の幼虫等は、注射器を用いて容易に被検薬物の水溶液の血液内投与が可能であるという点で好ましい。また、体内に脂肪体を有しているものが、糖(A)により脂肪体中の糖(B)の濃度を上昇させることができる点で好ましい。
【0026】
糖(A)の摂取の方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、血液中への注射、飼料(餌)への添加等による経口摂取、腸内への注入等が挙げられ、簡便である点、及びヒトの臨床との対応という点で、腸管内部への注射、飼料(餌)への添加等による経口摂取が好ましい。
【0027】
糖(A)としては、その無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を上昇させるものであれば、糖(B)と同じものである必要はなく特に限定はないが、例えば、グルコース、ヘプトース、ヘキソース、ペントース、テトロース、トリオース等の単糖類;トレハロース、マルトース、ラクトース、スクロース、セロビオース、ニゲロース、ソホロース等の2糖類;フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等のオリゴ糖;デンプン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、グルコマンナン等の多糖類;デオキシ糖;ウロン酸等の糖の酸化生成物;ソルビット、アラビット等の糖アルコール等が挙げられる。このうち、グルコース、スクロース又はでんぷんが、カイコの血液中の糖(B)濃度を上昇させ、ヒト臨床との対応の点で特に好ましく、更に好ましくはグルコースである。これらは1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
摂取量としては、特に制限はなく、無脊椎動物の種類、摂取させる物質、摂取方法等に応じて適宜選択することができる。本発明において摂取させる物質を飼料(餌)に添加して与える場合の糖(A)の含有割合は、飼料(餌)と糖(A)の合計量に対して、糖(A)を1質量%〜20質量%が好ましく、5質量%〜18質量%がより好ましく、8質量%〜16質量%が特に好ましい。含有割合が少な過ぎる場合は、被検物質の効果を明確に確認できるまでに、脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させることができない場合があり、一方、多すぎる場合は、糖による血糖値上昇以外の障害を与える場合がある。
【0029】
また、摂取期間は、脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を充分に上昇させることができれば特に限定はないが、1分間〜10日間が好ましく、5分間〜1日間がより好ましく、30分間〜2時間が特に好ましい。
【0030】
特に、無脊椎動物として前述のカイコを用いた場合には、飼料(餌)としては、クワの葉、人工飼料(シルクメイト2S、日本農産工業社製)等が好ましく、このうち人工飼料を用いた時には、人工飼料に含まれている糖と糖(A)の合計量に対して、糖(A)を5質量%〜20質量%の割合で混合して含有させることが好ましく、8質量%〜16質量%の割合で含有させることが特に好ましい。また、摂取期間は5分間〜10時間が好ましく、30分間〜2時間が特に好ましい。
【0031】
工程(a)においては、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させることが必須である。糖(B)としては、糖(A)の摂取によって脂肪体中又は血液中の濃度が上昇し、被検物質が投与されたときに、その濃度の低下が測定できるものであれば特に限定はないが、例えば、グルコース、トレハロース等が挙げられる。また、糖(B)の定量方法によっては複数種類の糖の合計量が定量される場合があるが、その場合は、糖(B)は1種に限定されない。
【0032】
糖(B)の定量方法は特に限定はないが、例えば、全ての糖類の定量にはフェノール硫酸法、アンスロン硫酸法、カルバゾール硫酸法等;グルコースの定量にはグルコースオキシダーゼ法等が挙げられる。
【0033】
工程(a)で得られた「脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物」における「糖(B)の濃度の上昇の程度」は、被検物質の効果が確認できる程度に大きければ特に限定はないが、糖(A)を摂取させない通常のものに比較して、1.5倍〜100倍が好ましく、1.5倍〜8倍がより好ましく、1.5倍〜3倍が特に好ましい。「糖(B)の濃度の上昇の程度」が低すぎる場合は、被検物質の効果が確認できない場合がある。一方、上限については、上記範囲より高くできなかったり、また、必要性がなかったりする場合がある。また、必要以上に高くしようとすると、血糖値上昇以外の個体の障害が生じ、著しい場合には個体が死亡してしまう場合がある。
【0034】
具体的には、血液中の糖(B)の濃度の場合には、7mg/mL(μg/μL)〜200mg/mL(μg/μL)が好ましく、8mg/mL〜150mg/mLがより好ましく、10mg/mL〜100mg/mLが特に好ましい。また、脂肪体中の糖(B)の濃度の場合には、10ng/μg〜1,000,000ng/μgが好ましく、100ng/μg〜10,000ng/μgがより好ましく、1,000ng/μg〜20,000ng/μgが特に好ましい。濃度の測定方法と表現方法は実施例の方法による。
【0035】
本発明において、糖(A)を摂取させることによって、カイコ等の無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を上昇させ得ることが初めて分かった。しかも、マウス等の哺乳類に比較して定量的な扱いが容易である。すなわち、マウス等の哺乳類を評価動物とした場合には、飼料(餌)中の糖の含量割合、又は、糖を含む飼料(餌)の摂取期間を調節することにより、その個体の血液中の糖(B)の濃度をコントロールすることは容易ではない。これに対して、無脊椎動物、例えばカイコは、飼料(餌)に含まれる糖の含量割合、及び/又は、給餌時間(摂取期間)の調節により、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度をコントロールすることが容易である。この点でも、マウス等の哺乳類に比較して、例えばカイコ等の無脊椎動物は、評価動物として優れている。
【0036】
<工程(b)>
工程(b)では、上記工程(a)で得られた「脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物」に対して被検物質を投与する。
【0037】
被検物質を投与する方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、血液中への注射、飼料(餌)への添加等による経口摂取、腸内への注入等が挙げられる。簡便である点、ヒトの臨床との対応という点で、腸管内部への注射、経口摂取が好ましい。
【0038】
被検物質の投与量としては特に制限はなく、無脊椎動物の種類、投与する物質、投与方法等に応じて適宜選択することができる。また、ヒトでの体重当たりの投与量を、投与する無脊椎動物の重さに換算して投与することも好ましい。また、その換算値に所定の倍率を乗じた量を投与することも好ましい。また、被検物質は、生理食塩水、水等で希釈して投与させることも好ましい。
【0039】
被検物質の投与時期は特に限定はなく、工程(a)において糖(A)を摂取させ終えた直後、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度がほぼ最大値に達した時点、血液中の糖の濃度が正常値にまで回復してゆく時点等が挙げられるが、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度がほぼ最大値に達した時点が、実験結果の再現性を得るという点で好ましい。具体的には、例えば、「糖(A)を摂取させ終えた直後」から「糖(A)を摂取させ終えてから24時間経過後」の間が好ましく、「糖(A)を摂取させ終えた直後」から「糖(A)を摂取させ終えてから6時間経過後」までの間がより好ましく、「糖(A)を摂取させ終えた直後」が特に好ましい。
【0040】
また、投与期間は、被検物質による「脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度」の減少が測定できれば特に限定はないが、1回に全量投与、あるいは継続的な投与が簡便性の点で好ましい。
【0041】
<工程(c)>
工程(c)では、上記工程(b)で、被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する。測定試料の採取方法は脂肪体に関しては、解剖して採取することが好ましく、血液に関しては、切り傷を付けてそこから採取する方法が好ましい。
【0042】
糖(B)の濃度の測定方法としては、工程(a)の箇所で記載した方法と同様の方法が挙げられる。脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度の測定をする時期については特に限定はなく、工程(b)において被検物質が投与された直後から、被検物質による糖(B)の濃度の減少の効果が見られなくなるまでの期間から選択すればよい。具体的には、例えば、被検物質が投与された時点から1分〜1日が好ましく、30分〜10時間が特に好ましい。
【0043】
糖(B)の濃度の測定に際しては、被検物質を投与していない、「同様に脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させた無脊椎動物」を対照として用いることが好ましい。対照には、例えば、生理食塩水を同量だけを投与することが好ましい。対照に比較して、被検物質を投与したもので、糖(B)の濃度がどれくらい減少していたかによって、被検物質を評価する。
【0044】
無脊椎動物としてカイコを用い、被検物質としてインスリン、メトホルミン、AICARを用いたところ、何れも、糖(B)の濃度の減少が見られた。態様1は、コスト的、倫理的に問題なく、ある物質にヒトの血糖値を降下させる作用があるか否かを評価できる方法である。更に、I型糖尿病に有効な物質のみならず、インスリン分泌低下によらないII型糖尿病に有効な物質の評価にも適用可能である。
【0045】
[態様2]
本発明の態様2は、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程(a)、(b)、(c)及び(d)を有するものである。
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させる工程
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、被検物質を投与する工程
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程
(d)上記被検物質の中から、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を低下させる物質を選択する工程
【0046】
本発明の態様2は、必要に応じて更にその他の工程を含んでいてもよい。工程(a)、(b)及び(c)については、上記態様1と同様である。
【0047】
<工程(d)>
工程(d)において、上記工程(a)、(b)及び(c)によって使用された被検物質の中から、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を低下させる物質を選択する。対照に比較して、被検物質を投与したもので、糖(B)の濃度がどれくらいまでに減少した場合に有意差と判定してその被検物質を選択するかについては、用いた無脊椎動物の数にも依存し特に限定はないが、通常、対照の糖(B)の濃度の95%以下〜80%以下である。カイコを用いた場合、インスリンで60%にまで減少(実施例4)、メトホルミンで70%にまで減少(実施例5)した。
【0048】
1条件に用いる無脊椎動物の数については特に限定はないが、1個〜200個が好ましく、2個〜10個が特に好ましい。この範囲であると、薬学的にも統計学的にも正しい選択が可能である。
【0049】
態様2のスクリーニング方法によって、コスト的に有利に、倫理的にも問題がない方法で、糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。更に、ヒトにおけるI型糖尿病の治療薬に限定されず、インスリン分泌低下によらないII型糖尿病の治療薬のスクリーニングが可能である。すなわち、II型糖尿病の病態であるインスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニングが可能である。
【0050】
[態様3]
本発明の態様3は、ヒトの血糖値を降下させる薬剤を製造する方法であって、以下の工程(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)を有するものである。
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させる工程
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、被検物質を投与する工程
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程
(d)上記被検物質の中から、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を低下させる物質を選択する工程
(e)上記工程(d)で選択された物質と製薬上許容される担体を混合する工程
【0051】
本発明の態様3は、必要に応じて更にその他の工程を含んでいてもよい。工程(a)、(b)、(c)及び(d)については、上記態様2と同様である。
【0052】
<工程(e)>
工程(e)は、上記工程(d)で選択された物質と製薬上許容される担体とを混合する工程である。
【0053】
本発明の、評価する方法、スクリーニングする方法によって見出された「ヒトの血糖値を降下させる物質」は、それを含有させて薬剤が製造される。該薬剤の剤型については特に限定はないが、経口投与のための製剤としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、舌下剤等が挙げられ、また、非経口投与のための製剤としては、注射剤、経皮吸収剤、吸入剤、坐剤等が挙げられる。
【0054】
製剤化に際しては、製薬上許容される担体を混合することが可能である。担体の種類及び組成は、投与経路や投与方法によって適宜決定することができる。例えば、液状担体としては、水、アルコール、食用油等を用いることができる。固体担体としては、リジン等のアミノ酸類、シクロデキストリン等の多糖類、ステアリン酸マグネシウム等の有機酸塩類、ヒドロキシルプロピルセルロース等のセルロース誘導体等を用いることができる。
【0055】
上記工程(d)で選択された物質には、更に、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、希釈剤、緩衝剤、着色剤、着香剤等の各種医薬用添加剤を配合することができる。注射剤の場合には適当な担体と共に滅菌処理を行なって薬剤とする。
【0056】
<作用>
本発明において、例えば、カイコの脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を上昇させることができ、更に、糖(B)の濃度を低下させる物質が、ヒト等の哺乳類と共通していることによって、ヒトの血糖値を降下させる物質が、評価、スクリーニングできた作用・原理は明らかではなく、また、本発明は、かかる作用・原理の範囲に限定されるわけではないが、以下のことが考えられる。すなわち、カイコは血糖値の恒常性を維持する機構を有しており、筋肉及び人の肝臓に相当する脂肪体に糖を貯蔵でき、また、インスリン様ペプチドホルモンであるボンビキシンを有しており、ボンビキシンの下流には、ヒトの場合と同様なMAPKシグナル伝達経路を含むインスリンシグナル伝達経路が存在する。また、組み換え型ヒトインスリンがPI3キナーゼの活性化を介して、カイコの脂肪体の糖の取り込みを亢進させる作用を有する。更に、インスリンシグナル伝達経路以外の経路であるAMPキナーゼの活性化により、カイコの血糖値は低下する。すなわち、カイコにはヒトの血糖調節機構と同様な機構があるために、本発明の前記効果が表れたと考えられる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<カイコの種類、飼育条件>
カイコの受精卵(交雑種Hu・Yo x Tukuba・Ne)は、愛媛蚕種株式会社から購入した。孵化した幼虫は室温で人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社製)を与えて5齢幼虫まで育てた。飼育容器は卵から2齢幼虫までを角型2号シャーレ(栄研器材製)、それ以降をディスポーザブルのプラスチック製フードパック(フードパックFD 大深、中央化学株式会社製)を用いた。飼育温度は27℃とした。
【0059】
以下の実施例で用いる通常飼料給餌に用いる飼料は、人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社製)であり、グルコース添加飼料給餌に用いる飼料は、人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社製)に所定の質量比でD−グルコースを混合して調製したものである。本実施例において、「絶食群(以下、適宜「St」と記載することもある)」とは、所定期間中全く餌を給餌しなかったカイコ群であり、「通常飼料給餌群(以下、適宜「ND」と記載することもある)」とは、人工飼料シルクメイト2Sを所定期間給餌したカイコ群であり、「グルコース添加飼料給餌群(以下、適宜「GD」と記載することもある)」とは、所定の質量比でグルコースを混合した飼料を所定期間給餌したカイコ群のことである。
【0060】
<試薬>
以下の実施例で用いる「組み換え型インスリン」は、インスリン(Sigma社製)を0.1%の酢酸を含む生理食塩水(0.9%NaCl)に溶解して用いた。メトホルミン(1,1−Dimethylbiguanide Hydrochloride、和光純薬社製)は、生理食塩水に溶解して用いた。ワートマニン(wortmanin)はCALBIOCHEMより購入したものをDMSOに溶解して用いた。
【0061】
<血液中の糖濃度の測定方法>
カイコの血液中の糖濃度(以下、「血糖値」と略記する)の測定方法は以下の通りである。カイコの血液は、第一腹肢に切り傷をつけた所から、約100μL採取し、タンパク質を沈殿させるために、9倍量の0.6N過塩素酸と混合した。3000rpmで10分間遠心分離し、体液抽出液(hemolymph extract)(上清)を得た。
【0062】
血糖値はフェノール硫酸法(Hodge et al)により定量した。上記体液抽出液を蒸留水で10倍希釈したもの100μLと、5%(w/v)フェノール水溶液100μLとを混合し、濃硫酸500μLを加えて激しく撹拌した。室温で20分間静置した後、490nmの吸光度を測定した。グルコース水溶液を標準糖溶液として血糖値を算出した。単位「mg/mL」の分母はカイコの血液の体積である。
【0063】
<血液中のグルコース濃度の測定方法>
カイコの血液中のグルコース濃度は、通常のグルコースオキシダーゼ法に従い定量した。上記の血液中の糖濃度の測定と同様にして、体液抽出液(hemolymph extract)(上清)を得た後、蒸留水で適当な濃度に希釈したもの20μLに、酵素反応液(0.12M Na−phosphate buffer(pH7.4)、4units/mL of glucose oxidase、3units/mL of peroxidase、9mM o−dianisidine)400μLとを混合し、室温で40分放置した。その後、70%濃硫酸100μLを加えて激しく撹拌し、530nmにおける吸光度を測定した。グルコース水溶液を標準糖溶液として、グルコース濃度を算出した。単位「mg/mL」の分母は、カイコの体液抽出液の体積である。
【0064】
<脂肪体中の糖濃度の測定方法>
カイコの脂肪体中の糖濃度の測定方法は、以下の通りである。カイコの脂肪体は、ハサミで体腔を開いてピンセットにより取り出し、生理食塩水中で洗った後、終濃度30%(w/v)となるように水酸化カリウム(KOH)を加え、100℃にて5分間熱処理した。更にエチルアルコールを終濃度60%(v/v)となるまで加え、煮沸して糖を沈殿させ、4℃で一晩静置した後、遠心(3000rpm、15分)により集め、定量した。糖濃度の測定方法は、上記血液中の糖濃度の測定方法と同様である。単位「μg/mg」(又は「mg/g」)の分母はカイコの脂肪体の質量である。
【0065】
<脂肪体の糖取り込み量の測定方法>
絶食させた5齢2日目のカイコを背側から解剖し、脂肪体を摘出した。摘出した脂肪体はInsect saline(130mMNaCl/5mM KCl/1mM CaCl)で洗浄した後、質量を測定し、ペニシリン、ストレプトマイシン及びグルコースを添加したGrace’s insect medium200μL中で27℃において馴染ませた。ワートマニン(wortmanin)を用いた実験においては、同時に培地中にワートマニンを加えた。30分間の前培養の後、培地にインスリン(3mg/mL)50μLを添加し、27℃で引き続き培養を続けた。培養後、上記方法で脂肪体抽出液を調製し、脂肪体中の糖濃度の測定を行い、脂肪体の質量当たりの糖取り込み量を算出した。単位「μg/mg」の分母はカイコの脂肪体の質量である。
【0066】
<脂肪体のリン酸化Akt量の測定方法>
カイコから摘出した脂肪体を、Insect saline(130mMNaCl/5mM KCl/1mM CaCl)で洗浄した後、ペニシリン、ストレプトマイシンを添加したGrace’s insect medium200μL中で27℃において馴染ませた。ワートマニン(wortmanin)を用いた実験においては、同時に培地中にワートマニンを加えた。30分間の前培養の後、培地にインスリン(3mg/mL)を50μL添加し、27℃で1時間培養した。脂肪体をInsect saline(130mMNaCl/5mMKCl/1mMCaCl)で洗浄した後、NP−40 lysis buffer(10mMTris/HCl(pH=7.5)、150mMNaCl、0.5mM EDTA、1mM DTT(ジチオスレイトール)、1%NP−40、10mMNaF、1mMNaVO)250μLの溶液と混合し、20秒間、超音波処理した。その後、TCA沈殿を行い、タンパク質をSDS電気泳動し、PVDFメンブレンに移行させた。抗Akt抗体及び抗リン酸化Akt抗体を用いてウエスタンブロットを行い、脂肪体のリン酸化Akt量(リン酸化Akt量/全Akt量)を測定した。
【0067】
<被検物質の投与の方法>
実施例4、実施例5及び実施例9において、5齢1日目のカイコの第5体節の模様部に、被検物質をそれぞれ所定量含む0.05mLの生理食塩水を注射した。また、対照としては、それぞれ同量である0.05mLの生理食塩水のみを注射した。注射筒(1mL)と注射針(27Gx3/4)はテルモ株式会社製を使用した。
【0068】
実施例1
カイコに糖を含む餌を摂取させることにより、カイコの血糖値が上昇するか否かを検討した。5齢1日目のカイコを、「絶食群」、「通常飼料給餌群」、「15%(w/w)グルコース添加飼料給餌群」に分け、それぞれ10匹に対し、27℃で、15%(w/w)のグルコースを含む餌を1日間及び3日間与えた。その後、血糖値(hemolymph sugar)(mg/mL)及び脂肪体中の糖濃度(μg/mg)を測定した。その結果を、それぞれ図1(A)及び図1(B)に示す。
【0069】
図1(A)から分かるように、給餌開始後1日目及び3日目のカイコの何れにおいても、グルコース添加飼料給餌群では、通常飼料給餌群と比べて約3倍高い血糖値を示した。なお、絶食群の血糖値は、通常飼料給餌群の約1/2であった。
【0070】
また、図1(B)から分かるように、給餌開始後1日目のカイコの脂肪体中の糖濃度において、グルコース添加飼料給餌群では、通常飼料給餌群と比べて約2倍高い値を示した。なお、絶食群の糖濃度は、通常飼料給餌群の1/10以下であった。
【0071】
従って、以上から、グルコース添加飼料をカイコに与えることにより、カイコの血糖値及び脂肪体の糖濃度が上昇することが分かった。これらの結果より、カイコにおいても、ヒトと同様に、血糖値の増加により、脂肪体中に糖が取り込まれて貯蔵されることが示唆された。
【0072】
実施例2
5齢1日目のカイコに対し、それぞれ、3匹ずつに、グルコース33%(w/w)を含む餌(33%Glucose Diet)を摂取させたときの血糖値の経時的推移を調べた。すなわち、給餌開始前、給餌開始30分後、60分後、180分後のカイコの血糖値をそれぞれ同様にして測定した。結果を図2に示す。
【0073】
図2から分かるように、給餌開始30分後では、給餌開始前の約2倍、給餌開始60分後及び180分後では何れも、給餌開始前の約3倍に血糖値が上昇していた。以上の結果は、カイコにおいても、哺乳類と同様に、糖の経口摂取により血糖値が速やかに上昇することを示している。なお、この範囲の時間経過では、通常飼料給餌群(Normal Diet)と絶食群(Stavation)では、血糖値の変化はみられなかった。
【0074】
実施例3
餌に含まれる糖の含有割合を変化させて、カイコの血糖値の変動を調べた。すなわち、5齢1日目のカイコを、「通常飼料給餌群」、「8%(w/w)グルコース添加飼料給餌群」、「16%(w/w)グルコース添加飼料給餌群」、「33%(w/w)グルコース添加飼料給餌群」に分けて、それぞれ3匹ずつを27℃で飼育し、給餌開始後60分後に血糖値を測定した。結果を図3に示す。同様にして給餌開始後180分後の血糖値を測定した。結果を図9に示す。
【0075】
図3、図9から分かるように、各群の平均血糖値は、グルコース含量を33%としても飽和せずに餌のグルコースの含量割合に依存して上昇した。
【0076】
実施例4
実施例1〜3及び実施例7〜9で、カイコを高血糖状態にする条件が見出された。次に、臨床において用いられる血糖降下薬が、高血糖状態のカイコの血糖値を低下させるか否かを検討した。5齢1日目のカイコ(体重1±0.1g)に、16%(w/w)グルコース添加飼料を与え、27℃で60分間飼育後、それぞれ3匹ずつ、血液中に「生理食塩水0.05mLを投与」及び「組み換え型ヒトインスリン0.36mgを含有する0.05mLの生理食塩水溶液を投与」し、投与から6時間後に血液を採取し、糖濃度の定量を行った。結果を図4に示す。
【0077】
図4から分かるように、インスリン投与群の血糖値は、生理食塩水投与群の血糖値と比べて、約6割まで低下していた。このことから、組み換え型ヒトインスリンは、カイコの血糖値を低下させる作用を有することが示された。
【0078】
実施例5
臨床において用いられる、ヒトの血糖降下薬であるメトホルミンが、高血糖状態のカイコの血糖値を低下させるか否かを検討した。メトホルミンは、解糖の促進を作用機序とするビグアナイド系の血糖降下薬として知られているものである。すなわち、実施例4において、「組み換え型ヒトインスリン0.36mg/生理食塩水0.05mL」の代わりに、「メトホルミン0.1mg/生理食塩水0.05mL」を投与した以外は、実施例4と同様の操作をし、その後、糖濃度の定量を行った。結果を図5に示す。
【0079】
図5から分かるように、メトホルミン投与群の血糖値は、生理食塩水投与群の血糖値と比べて、約7割まで低下していた。このことから、メトホルミンはカイコの血糖値を低下させる作用を有することが示された。
【0080】
なお、投与したメトホルミン量(100mg/g)は、ヒトの1日最高投与量(12.5mg/g)の約10倍の量であった。メトホルミンはインスリンとは異なる作用機構により血糖値を下げる薬剤である。従って、カイコを用いた方法は、I型糖尿病ばかりでなく、インスリン分泌低下によらないII型糖尿病に有効な治療薬の評価、スクリーニング、製造にも有効であることが分かった。
【0081】
実施例6
次に、インスリンのカイコの血糖値降下作用のED50値の算出を試みた。5齢1日目のカイコに9%(w/w)グルコース添加飼料を与え、27℃で60分間飼育後、生理食塩水、及び組み換え型ヒトインスリン(0.005mg〜0.5mg)を投与し、6時間後に血液を採取し、血中の糖濃度を定量した。3%(w/w)グルコース添加飼料群の血糖値まで低下したときを100%とした相対的な血糖値降下率のグラフを図6に示す。
【0082】
図6から分かるように、インスリンによるカイコの血糖降下作用のED50値は、0.015mg/gであった。臨床において、1日にヒトに投与されるインスリン量は、0.14〜3.53mgである。算出されたED50値は、体重60kgのヒトに対する1日投与量の1000倍程度であった。
【0083】
実施例7
5齢1日目のカイコに対し、それぞれ、3匹ずつに、グルコース15%(w/w)を含む餌を摂取させたときの血糖値及びカイコの血液中のグルコース濃度の経時的推移を調べた。すなわち、給餌開始前、給餌開始30分後、60分後、180分後のカイコの血糖値及びカイコの血液中のグルコース濃度をそれぞれ同様にして測定した。結果を図7に示す。次に、カイコに27℃で60分間グルコース12%(w/w)を含む餌を摂取させた後、絶食させたときのカイコの血糖値の経時的推移を調べた。すなわち、給餌前、給餌開始1時間後(絶食開始0時間後)、絶食開始2時間後、5時間後、8時間後のカイコの血糖値をそれぞれ同様にして測定した。結果を図8に示す。
【0084】
図7(a)から分かるように、給餌開始30分後では、給餌開始前の約2倍、給餌開始60分後及び180分後では、給餌開始前の約3倍以上、約6倍以上に血糖値が上昇していた。15%グルコース添加飼料給餌群においても同様に、速やかに血液中のグルコース濃度が上昇していた(図7(b))。以上の結果は、カイコにおいても、哺乳類と同様に、糖の経口摂取により血糖値及び血液中のグルコース濃度が速やかに上昇することを示している。なお、この範囲の時間経過では、通常飼料給餌群(Normal Diet)と絶食群(Stavation)では、血糖値及び血液中のグルコース濃度の変化はみられなかった。また、図8から分かるように、絶食開始2時間後からカイコの血糖値が低下し始めた。これの結果は、カイコが哺乳類と同様に糖の過剰摂取により血糖値が上昇し、時間の経過に伴い減少することを示唆している。
【0085】
実施例8
5齢1日目のカイコ、それぞれ3匹ずつに、通常飼料又は5%、10%、15%、30%(w/w)グルコース添加飼料をそれぞれ与え、27℃で3日間飼育後のカイコの体長、体重、血糖値を測定した。また、5齢1日目のカイコに同条件下、何も飼料を与えないで飼育後、同様にして体長、体重、血糖値を測定した。結果を図10に示す。
【0086】
図10より、各グルコース添加飼料給餌群(5%、10%、15%、30%GD)は、通常飼料給餌群(Normal Diet;ND)より何れも体長が短く、体重が軽かった(図10(a)〜(c))。このときの血糖値は、グルコースの添加量により上昇していた(図10(d))。また、カイコにグルコース溶液を注射することによっても、同様の成長阻害が起こることがわかった(データ示さず)。これらの結果より、カイコは血糖値の上昇により、成長が阻害されることを示唆している。
【0087】
実施例9
5齢1日目のカイコ(体重1±0.1g)に、12%(w/w)グルコース添加飼料を与え、27℃で60分間飼育後、それぞれ3匹ずつ、血液中に「生理食塩水0.05mLを投与」又は「組み換え型ヒトインスリン0.36mgを含有する0.05mLの生理食塩水溶液を投与」し、投与から1時間後、3時間後、6時間後に血液を採取し、血糖値を測定した。更に、5齢1日目のカイコに、12%(w/w)グルコース添加飼料を与え、27℃で60分間飼育後、それぞれ3匹ずつ、血液中に「組み換え型ヒトインスリン(0.005mg〜0.5mg)を含有する0.05mLの生理食塩水溶液を投与」し、6時間後に血液を採取し、血糖値を測定した。図11(b)における単位「μg/g」の分母はカイコの体重である。結果を図11に示す。
【0088】
次に、5齢1日目のカイコ、それぞれ3匹ずつから脂肪体を摘出し、1質量%グルコースを添加したGrace’s mediumに生理食塩水又は組み換え型ヒトインスリン0.7mgを投与し、27℃3時間培養後、摘出した脂肪体のリン酸化Akt量及び糖取り込み量を測定した。また、5齢1日目のカイコから摘出した脂肪体をワートマニン(wortmanin)処理したものも同様にしてグルコースを添加し、組み換え型ヒトインスリンを投与して培養し、脂肪体のリン酸化Akt量及び脂肪体質量当たりの糖取り込み量を測定した。更に、脂肪体のリン酸化Akt量を定性的に確認するため、抗Akt抗体、及び抗リン酸化Akt抗体を用いてそれぞれのサンプルについて測定を行った。結果を図11に示す。
【0089】
図11(a)及び(b)から分かるように、インスリン投与群の血糖値は生理食塩水投与群と比べて、約6割まで低下することが判明した(図11(a))。また、ヒトインスリンの投与量に依存してカイコの血糖値は低下した(図11(b))。これらの結果は、組み換え型ヒトインスリンがカイコの血糖値を低下させる作用を有することを示唆している。
【0090】
図11(c)及び(d)から分かるように、摘出した脂肪体を用いたin vitroの組織培養液に組み換え型ヒトインスリンを添加することにより、脂肪体のリン酸化Akt量が増加した。また、組み換え型ヒトインスリンの添加により、脂肪体質量当たりの糖取り込み量も増加した(図11(e))。更に、この組み換え型ヒトインスリンによるAktのリン酸化及び脂肪体の糖取り込み量の増加は、PI3キナーゼの阻害剤であるwortmanin処理により抑圧されることが分かった(図11(c)〜(e))。これらの結果より、組み換え型ヒトインスリンがPI3キナーゼの活性化を介して、カイコの脂肪体の糖の取り込みを亢進させる作用を有することを示唆している。したがって、組み換え型ヒトインスリンによるカイコの血糖降下作用は、ヒトにおける作用と同様のメカニズムであると考えられる。
【0091】
実施例10
5齢1日目のカイコ、それぞれ3匹ずつに、12%(w/w)グルコース添加飼料を与え、27℃60分間飼育後、「生理食塩水1mLのみ」又は「AICAR4mg/生理食塩水1mL」を投与し、6時間後に血液を採取し、血糖値を測定した。また、5齢1日目のカイコの脂肪体を摘出し、500μMのAICARを50μL加え、6時間処理後、脂肪体中のAMPK活性を、AMPKの人工基質であるSAMSペプチドにγ32P−ATPのリン酸を付加する反応を用いて測定した。結果を図12に示す。
【0092】
図12(a)から分かるように、AICAR投与群のカイコの血糖値は、生理食塩水のみ投与群と比較して低下していた(図12(a))。この結果より、AMPキナーゼの活性化剤であるAICARがカイコに対して血糖降下作用を示すことが分かった。また、摘出した脂肪体をAICARで処理することにより、AMPK活性が増強することがわかった(図12(b))。以上より、投与したAICARは、ヒトと同様のメカニズムでカイコの脂肪体に作用し、AMPK活性を促進させることを示唆している。
【0093】
一方、グリベンクラミドの注射では、カイコの血糖値の降下は見られなかった(データ示さず)。SU剤の一種であるグリベンクラミドは、膵臓のβ細胞のSUレセプターと結合して、インスリンの放出を促進する薬剤である。カイコにおいては、膵臓と同様の機能をする臓器が確認されていない。グリベンクラミドの投与によりカイコの血糖値が低下しなかったことは、カイコには、哺乳類の膵臓のβ細胞様の細胞が存在しないことが原因の一つであると考えられる。したがって、カイコを用いた場合には、グリベンクラミドのようなインスリン放出促進作用を有する薬剤の評価は行えないと考えられる。
【0094】
実施例11
5齢1日目のカイコ、それぞれ3匹ずつに、通常飼料(Normal Diet;ND)、12%(w/w)グルコース添加飼料(Glucose Diet;GD)及び12%(w/w)グルコース添加飼料(Glucose Diet;GD)と、組み換え型ヒトインスリン3.5mg/mLを50μL、12時間ごとに5回注射し、27℃4日間飼育後、カイコの体長、体重を測定した。結果を図13に示す。
【0095】
12%グルコース添加飼料(GD)を4日間給餌したカイコは、通常飼料(ND)給餌群のカイコより、体長が小さく、体重が減少しており、成長の阻害が観察された(図13(b)〜(d))。12%グルコース添加飼料(GD)及び組み換え型ヒトインスリンを12時間ごとに5回注射した場合は、組み換え型ヒトインスリンを注射しないものより、体長の増大と、体重の増加が認められた(図13(a)〜(d))。この結果は、高血糖状態によるカイコの成長阻害が組み換え型ヒトインスリンによる血糖値の低下により回復することを示唆している。
【0096】
実施例1〜実施例11によって、カイコの血糖値は飼料に添加した糖(A)の濃度及び給餌時間に依存して上昇すること、及び高血糖状態のカイコに血糖降下薬であるインスリン、メトホルミン、AICARを投与することにより、カイコの血糖値が低下することが明らかになった。任意に選んだ「ヒトに効果がある上記3物質」で、特定状態のカイコの血糖値が低下することが明らかになったことにより、本発明の方法は、少なくともヒトの血糖値を降下させる可能性がある全ての薬剤の評価・スクリーニング方法として、充分に確立しているものである。
【0097】
血糖値の上昇により引き起こされたカイコの成長阻害が、ヒトインスリンの血糖降下作用により回復した。糖尿病マウスモデルでは、長期間の飼育により尿毒症や足の麻痺がおこることが知られているが、高血糖によるカイコの成長阻害は、数日で観察可能であり、このことからも、ヒトの血糖値を降下させる物質を、簡便に評価・スクリーニングする方法(血糖降下薬の簡便な評価・スクリーニング方法)として適している。
【0098】
マウス等の哺乳類では、餌中の糖含有量、及び糖を含む餌の給餌時間を調節することにより個体の血糖値をコントロールすることは困難である。これに対して、カイコは、餌に含まれる糖濃度、及び給餌時間の調節により、血糖値をコントロールすることが容易であることが分かった。また、カイコの血液を採取し、血糖値を定量することは、実施例記載のように極めて容易である。よって、カイコはヒト等の血糖値の降下作用を示す物質をスクリーニングする上で、有用なツールとなることが分かった。
【0099】
臨床では、食後の血糖値が健常人の2倍以上であると高血糖状態であると判断される。今回、餌に含まれる糖濃度、及び給餌時間の調節により、カイコを高血糖状態(通常の餌を給餌した場合の2倍の血糖値)にする条件を見出した(実施例2(図2)、実施例3(図3))。臨床において、血糖降下薬として用いられる組み換え型ヒトインスリン又はメトホルミン、AICARの投与(注射)により、高血糖状態のカイコの血糖値が低下すること、及びインスリンによる血糖降下作用は、カイコとヒトで同程度であることから、カイコを用いて、ヒトの血糖降下薬の評価、スクリーニングができると考えられる。このカイコを用いた血糖降下薬の評価方法、スクリーニング方法及び製造方法を用いて、カイコの血糖降下活性を指標に、ヒトに対する血糖降下薬の探索及び製造が可能である。
【0100】
培養細胞系を用いて血糖降下薬の候補となる化合物をスクリーニングする方法が糖尿病治療薬の開発手法として一般的に行われている。しかしながら、一般に培養細胞系で効果を示すほとんどの化合物は、動物個体では血糖降下作用を示さない。その理由は、培養細胞系では、個体における薬物動態を反映できないためである。そのため、動物個体を用いた評価系の利用は必須である。しかし、マウス、ラット等の哺乳類の個体を用いた場合、多くの化合物をスクリーニングするときに、飼育スペース、飼育費用、並びに動物愛護の観点からの問題がある。カイコは、哺乳類を用いた場合と比べ、これらの問題を抑えることが可能である。よって、カイコ個体を用いた、血糖降下薬のスクリーニング系は有用であると考えられる。
【0101】
上記したカイコを用いたあらゆる結果については、前記した「完全変態型昆虫の幼虫」、「体内に脂肪体を有している幼虫」、「昆虫綱に属する動物」等の無脊椎動物全般においても、同様の又は類似の結果が得られると考えることは常識であり、本発明の技術的範囲は単に「カイコ」には限定されないことは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の方法は、安価で倫理的な問題がなく、飼育も容易な無脊椎動物を用いて、薬理実験が容易で効率的な方法であり、ヒトの血糖値を降下させる物質を評価、スクリーニングし、製造する方法として広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】5齢1日目のカイコに15%(w/w)グルコースを含む餌を1日間及び3日間与えたカイコにおける、血糖値又は糖濃度を表すグラフである(実施例1)。(A):血液(hemolymph)中の血糖値 (B):脂肪体中の糖濃度
【図2】グルコース33%(w/w)を含む餌を摂取させたときの血糖値の経時的推移(time course)を表すグラフである(実施例2)。上から、「33%(w/w)グルコース添加飼料給餌群」、「通常飼料給餌群」、「絶食群」である。
【図3】餌に含有されるグルコース量を変化させたときの、給餌開始後60分後の血糖値を示すグラフである(実施例3)。
【図4】インスリンによる高血糖状態のカイコの血糖値の低下作用を示すグラフである(実施例4)。左から、「通常飼料給餌群に生理食塩水を投与」、「16%(w/w)グルコース添加飼料を与え60分後に生理食塩水を投与」「16%(w/w)グルコース添加飼料を与え60分後にインスリンを投与」である。
【図5】メトホルミンによる高血糖状態のカイコの血糖値の低下作用を示すグラフである(実施例5)。左から、「通常飼料給餌群に生理食塩水を投与」、「16%(w/w)グルコース添加飼料を与え60分後に生理食塩水を投与」「16%(w/w)グルコース添加飼料を与え60分後にメトホルミンを投与」である。
【図6】インスリンのカイコの血糖値降下作用におけるED50値の算出に用いたグラフである(実施例6)。
【図7】グルコース15%(w/w)を含む餌を摂取させたときの血糖値及び血液中のグルコース濃度の経時的推移を表すグラフである(実施例7)。(a):血糖値 (b):血液中のグルコース濃度
【図8】カイコにグルコース12%(w/w)を含む餌を摂取させた後、絶食させたときのカイコの血糖値の経時的推移を表すグラフである(実施例7)。
【図9】餌に含有されるグルコース量を変化させたときの、給餌開始後180分後の血糖値を示すグラフである(実施例3)。
【図10】カイコに、通常飼料又は5%、10%、15%、30%(w/w)グルコース添加飼料をそれぞれ与え又は何も与えずに飼育後のカイコの体長、体重、血糖値を表すものである(実施例8)。(a):カイコの状態を示す写真 (b):体重 (c):体長 (d):血糖値
【図11】(a)カイコに、グルコース添加飼料及び「生理食塩水」又は「組み換え型ヒトインスリン」を投与後の血糖値の経時的推移を表すグラフである(実施例9)。 (b)カイコに、グルコース添加飼料を与えた後に各量の組み換え型ヒトインスリンを投与したときの血糖値を表すグラフである(実施例9)。 (c)抗Akt抗体及び抗リン酸化Akt抗体を用いてウエスタンブロットを行った結果を示すものである。 (d)カイコから摘出した脂肪体のリン酸化Aktの量を表すグラフである(実施例9)。 (e)カイコから摘出した脂肪体の糖取り込み量を表すグラフである(実施例9)。
【図12】AICAR投与によるカイコの血糖値及びAMPK活性の変化を示すグラフである(実施例10)。(a):血糖値 (b):AMPK活性
【図13】組み換え型ヒトインスリン注射によるカイコの体重及び体長の変化を表すものである(実施例11)。(a):実施例概要 (b):カイコの状態を示す写真 (c):体重 (d):体長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させる工程、
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、上記被検物質を投与する工程、
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させる工程、
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、被検物質を投与する工程、
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程、
(d)上記被検物質の中から、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を低下させる物質を選択する工程、
を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
ヒトの血糖値を降下させる薬剤を製造する方法であって、
(a)無脊椎動物に糖(A)を摂取させることによって、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)濃度を上昇させる工程、
(b)上記工程(a)で得られた、脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が上昇した無脊椎動物に、被検物質を投与する工程、
(c)上記被検物質が投与された無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を測定する工程、
(d)上記被検物質の中から、該無脊椎動物の脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度を低下させる物質を選択する工程、
(e)上記工程(d)で選択された物質と製薬上許容される担体を混合する工程、
を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
該無脊椎動物が節足動物門に属するものである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の方法。
【請求項5】
該無脊椎動物が昆虫類に属するものである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の方法。
【請求項6】
該無脊椎動物が完全変態型昆虫の実質的に無毛の幼虫である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の方法。
【請求項7】
該無脊椎動物がカイコガの幼虫である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の方法。
【請求項8】
無脊椎動物に摂取させる糖(A)が、グルコース、スクロース、オリゴ糖、グリコーゲン又はでんぷんである請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の方法。
【請求項9】
糖(A)を摂取させることによって、その脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が、糖(A)を摂取させない通常のものに比較して、1.5倍以上高い状態にあることを特徴とする、ヒトの血糖値を降下させる物質のスクリーニング用の無脊椎動物。
【請求項10】
糖(A)を摂取させることによって、その脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が、糖(A)を摂取させない通常のものに比較して、1.5倍以上高い状態にあることを特徴とする、ヒトの血糖値を降下させる物質のスクリーニング用の完全変態型昆虫の実質的に無毛の幼虫。
【請求項11】
糖(A)を摂取させることによって、その脂肪体中又は血液中の糖(B)の濃度が、糖(A)を摂取させない通常のものに比較して、1.5倍以上高い状態にあることを特徴とする、ヒトの血糖値を降下させる物質のスクリーニング用のカイコガの幼虫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−58500(P2009−58500A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178397(P2008−178397)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(501481492)株式会社ゲノム創薬研究所 (25)
【Fターム(参考)】