説明

衛生洗浄装置付き可搬型便器

【課題】手動ポンプ機構を用いて、洗浄水噴出ノズルに洗浄水を供給してその先端から噴出させることである。
【解決手段】衛生洗浄装置付き可搬型便器10は、筒部13と便座14を含む便槽と、手動操作レバー16と、洗浄水容器18と、ポンプ機構30と、洗浄水噴出ノズル20等を含んで構成され、手動操作レバー16の操作によって、ピストン軸を軸方向に移動させることができ、また洗浄水噴出ノズル20の位置を移動させることができる。ポンプ機構30は、シリンダ内を摺動するピストンによって容器側圧力室とノズル側圧力室に区分され、ピストンにはピストン逆止弁が、容器側圧力室と洗浄水容器18との間には容器側逆止弁、ノズル側圧力室と洗浄水噴出ノズル20との間にはノズル側逆止弁がそれぞれ設けられ、これらの逆止弁は、手動操作レバー16によるピストン軸の動きに合わせて作動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛生洗浄装置付き可搬型便器に係り、特に、可搬型便槽に取り付けられた洗浄水噴出ノズルから洗浄水を噴出させる衛生洗浄装置付き可搬型便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、便座に座った人の局部に向けて洗浄水を噴出させ、洗浄を行う衛生洗浄装置が広く用いられている。この衛生洗浄装置は、洗浄水を噴出するノズルに向けて適温の洗浄水を供給するものがその典型であり、そのために、衛生洗浄装置の内部に、外部の吸水系に接続された配管を設け、この配管中に加熱用の温水タンクや、開閉弁、ノズルからの洗浄水の水勢を調整するための流量調節弁等が取り付けられる。なお、流量調節弁は、手動式の摘み調整型の他に、リモートコントロールが可能なモータ駆動型のものが用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、局部に向けて洗浄水を噴出するノズル装置の流路系に設けられるモータ駆動の流量調節弁の弁開度の設定について、現在の弁開度が、予め設定された弁開度の上限と下限とからなる基準値に含まれているときは弁開度の変更を行わず、弁開度が基準値に含まれていないときには、ノズル装置への洗浄水の供給に先立って、基準値に弁開度を変更することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、洗浄水を噴出させて洗浄を行う洗浄用ノズルにおいて、洗浄水を噴射する噴射口の部位に対向する水路部材の外径を大きくして段差部を形成し、噴射口における流路の断面積を他の部位より小さくし、これにより、噴射口より噴出する洗浄水を霧状とすることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−42027号公報
【特許文献2】特開平7−11686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、衛生洗浄装置は広く用いられているが、これらは、住居のトイレに固定されたものである。これに対し、災害時等の非常時に設営される可搬型非常用トイレには、衛生洗浄装置が備えられていない。また、近年増加している介護施設においては、身体の動きの不自由な者のために、可搬型便槽が用いられることも多いが、これらには衛生洗浄装置が備えられていない。
【0007】
その理由の1つは、噴出ノズルに洗浄水を供給する問題があると考えられる。従来の衛生洗浄装置では、外部からの適当な水頭圧を有する市水が用いられ、また、必要があれば、適当な電動流量調整弁が用いられている。可搬型便槽等では、適当な水頭圧を有する市水を用いることが困難であることが多い。そこで、適当な水槽と、手動式のポンプを用いることが考えられる。
【0008】
手動式のポンプで周知の技術は、井戸から水をくみ上げる手押しポンプである。これは、逆止弁を有するピストンを、地下水に通じるパイプの上部に設けられたシリンダに沿って手動で上下させるものである。地表に向かってピストンを上げるときには逆止弁が閉じて、パイプ側を減圧し、これによって地下水を地表に向かって吸い上げ、つぎに地表に向かってピストンを押し下げると逆止弁が開き、吸い上げた水がピストンの上部にあふれ、大気圧に開放されて汲み出される。
【0009】
このように、周知の手動井戸ポンプでは、水を汲み上げることができる。しかしながら、汲み上げた水は大気圧に開放されるので、そのままの機構では、噴出ノズルから洗浄水を噴出させるのに適当な水頭圧を有する水を供給することができない。
【0010】
本発明の目的は、手動ポンプ機構を用いて、洗浄水噴出ノズルに洗浄水を供給してその先端から噴出させることを可能とする衛生洗浄装置付き可搬型便器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る衛生洗浄装置付き可搬型便器は、可搬型便槽に取り付けられた洗浄水噴出ノズルと、洗浄水容器と、シリンダ内を摺動するピストンによって2つの圧力室に区画され、一方の圧力室が洗浄水容器に接続される容器側圧力室で、他方の圧力室が洗浄水噴出ノズルに接続されるノズル側圧力室であるポンプ機構と、洗浄水容器と容器側圧力室との間に設けられ、容器側圧力室から洗浄水容器への逆流を防止する容器側逆止弁と、洗浄水噴出ノズルとノズル側圧力室との間に設けられ、大気圧に開放される洗浄水噴出ノズルからノズル側圧力室へ大気圧が連通することを防止するノズル側逆止弁と、ピストンに設けられるピストン逆止弁であって、容器側圧力室の圧力がノズル側圧力室の圧力より高いときには容器側圧力室とノズル側圧力室との間を連通し、容器側圧力室の圧力がノズル側圧力室の圧力より低いときにはノズル側圧力室と容器側圧力室との間を遮断するピストン逆止弁と、手動操作レバーの操作によってピストンをシリンダに対し移動させるピストン移動機構と、を有し、ピストン移動機構は、ピストンをノズル側圧力室側から容器側圧力室側に向かって移動させることで、容器側圧力室の圧力をノズル側圧力室の圧力より高くしてピストン逆止弁を連通させると共に、容器側逆止弁とノズル側逆止弁とを閉じさせ、容器側圧力室にある洗浄水をノズル側圧力室へ供給し、ピストンを容器側圧力室側からノズル側圧力室側に向かって移動させることで、容器側圧力室の圧力をノズル側圧力室の圧力より低くしてピストン逆止弁を遮断させると共に、容器側逆止弁とノズル側逆止弁とを開けさせて、洗浄水容器から容器側圧力室に洗浄水を導入すると共に、ノズル側圧力室の洗浄水を加圧して洗浄水噴出ノズルに供給して洗浄水を噴出させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る衛生洗浄装置付き可搬型便器において、ピストン移動機構に接続され、ピストンの移動に連動させて洗浄水噴出ノズルを移動させるノズル移動機構を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、衛生洗浄装置付き可搬型便器は、ポンプ機構のピストンによって区画される容器側圧力室とノズル側圧力室との間に設けられたピストン逆止弁と、洗浄水容器と容器側圧力室との間に設けられた容器側逆止弁と、洗浄水噴出ノズルとノズル側圧力室との間に設けられたノズル側逆止弁とを有する。ノズル逆止弁は、大気開放される洗浄水噴出ノズルとノズル側圧力室の間に設けられ、ノズル側圧力室が大気に開放されることを防ぐ機能を有する。
【0014】
そして、ピストンの移動に伴うこれら3つの逆止弁の作動は次のようである。すなわち、ピストンをノズル側圧力室側から容器側圧力室側に向かって移動させるときは、ピストン逆止弁が連通し、容器側逆止弁とノズル側逆止弁とは閉じる。これによって、ポンプ機構のシリンダ内は密閉空間となり、容器側圧力室にある洗浄水をノズル側圧力室へ移動させることができる。
【0015】
一方、ピストンを容器側圧力室側からノズル側圧力室側に向かって移動させるときは、ピストン逆止弁が遮断され、容器側逆止弁とノズル側逆止弁とは開く。これによって、ピストンの移動によって容器側圧力室の圧力が低くなるとともに、洗浄水容器から容器側圧力室に洗浄水が導入される。また、上記のように、ノズル側逆止弁はノズル側圧力室が大気開放されるのを防ぐように働くので、ピストンの移動によってノズル側圧力室の圧力が高くなり、加圧水を洗浄水噴出ノズルに供給して洗浄水を噴出させる。
【0016】
このように、3つの逆止弁の相互作用により、洗浄水を洗浄水容器からシリンダの容器側圧力室内に汲み上げ、汲み上げた洗浄水をノズル側圧力室に移し、ノズル側圧力室の洗浄水を加圧して、洗浄水噴出ノズルに供給することができる。したがって、手動ポンプを用いて、洗浄水噴出ノズルに洗浄水を供給してその先端から噴出させることが可能となる。
【0017】
また、ピストン移動機構に接続され、ピストンの移動に連動させて洗浄水噴出ノズルを移動させるノズル移動機構を有するので、例えば、通常は、洗浄水噴出ノズルを退避させ、洗浄の必要なときに洗浄水噴出ノズルを移動させて洗浄水を噴出させるものとすることができ、便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、可搬型便器は、手で持ち運べる程度の大きさとして説明するが、それ以外の大きさでもよく、例えば、扉付きボックス型の非常用トイレの内部に設置されるものであってもよい。
【0019】
図1は、衛生洗浄装置付き可搬型便器10の構成を示す斜視図である。この衛生洗浄装置付き可搬型便器10は、便槽12と、手動操作レバー16と、洗浄水容器18と、ポンプ機構30と、洗浄水噴出ノズル20とを含んで構成される。
【0020】
便槽12は、上部に開口を有する筒部13と、筒部13の開口部に設けられ、略U字型の平面形状を有する便座14とを含んで構成される。筒部13と便座14とは別体で構成して組み立てて便槽12とすることもでき、筒部13と便座14とを一体化して便槽12としてもよい。便槽12の全体の大きさは、大人が腰を掛けることができる程度のもので、例えば、高さを約40cmから約50cm程度、筒部13の外形直径を約40cmから約60cm程度のものとすることができる。かかる便槽12は、適当な金属材料またはプラスチック材料または木材を成形加工して得ることができる。例えば、内容積20,000cc(20リットル)程度の適当な大きさのドラム缶を加工して筒部13を製作し、その上に適当な板材で作られた便座14を置くことで、便槽12を得ることができる。便槽12の内部には、例えば、適当な防水性のある使い捨て便袋等を置くことができる。
【0021】
洗浄水容器18は、洗浄水を収容する容器で、例えば、内容積2,000cc程度の適当な大きさのプラスチック瓶を用いることができる。洗浄水容器18は適当な取付具を用いて、便槽12に着脱自在に取り付けられる。洗浄水容器18は、開閉自在の蓋を有し、必要なときにその蓋を外して洗浄水を補充することができる。また、洗浄水容器18の中を大気圧とするために、適当な大気連通穴を設けることが好ましい。なお、便槽12の高さは、上記のように約50cm程度しかなく、洗浄水噴出ノズル20は便槽12のかなり高い位置に配置されるので、洗浄水噴出ノズル20に対する洗浄水容器18の中の洗浄水の水頭圧はほとんどないか、むしろマイナスとなることがある。この場合でも、後述するポンプ機構30の機能により、洗浄水噴出ノズル20に加圧水を供給することができる。
【0022】
洗浄水噴出ノズル20は、細長い管の先端の流路を狭くして、その管に加圧水を流すことで、先端から流速の速い細い水流を噴出させるものである。例えば、直径が約5mm、内径が約3mmから約4mm程度の金属管の先端をつぶして、先端開口部の大きさを直径で約1mmから約2mm程度としたものを用いることができる。金属管は、例えばステンレス鋼、あるいは銅を材料とするもの等を用いることができる。
【0023】
図2は、衛生洗浄装置付き可搬型便器10のさらに詳細な構成を説明するための正面図である。ただし、洗浄水噴出ノズル20の周辺部分は、一部破断図として示してある。図2に示されるように、洗浄水容器18とポンプ機構30とは、可撓性の容器側チューブ22によって接続され、洗浄水噴出ノズル20とポンプ機構30とは可撓性のノズル側チューブ24によって接続される。容器側チューブ22、ノズル側チューブ24は、例えば、適当な太さのプラスチックチューブ等を用いることができる。
【0024】
手動操作レバー16は、例えば便座14に設けられた回転部15を中心に揺動回転できる棒材で、操作のための握り部と回転部15と回転部15との間の接続部35においてポンプ機構30のピストン軸36の一端が回転自在に接続される。これにより、手動操作レバー16を押し下げあるいは引き上げることで、ピストン軸36を軸方向に移動させることができる。したがって、手動操作レバー16と回転部15と、接続部35とは、ピストン移動機構を構成する。
【0025】
また、手動操作レバー16の握り部と反対側の先端部には、洗浄水噴出ノズル20の後端部分が接続される接続部17が設けられる。これによって、手動操作レバー16を押し下げあるいは引き上げることで、洗浄水噴出ノズル20の位置を移動させることができる。例えば、通常は、洗浄水噴出ノズル20の位置を退避位置、すなわち、筒部13の内壁近くの位置とし、必要なときに、筒部13の中央部近くに移動させ、その位置を洗浄水噴出位置とすることができる。したがって、手動操作レバー16と回転部15と、洗浄水噴出ノズル20との接続部17とは、ノズル移動機構を構成する。
【0026】
このように、手動操作レバー16にピストン軸36と洗浄水噴出ノズル20とを接続して、ピストン移動機構とノズル移動機構とを構成することで、手動操作レバー16の1つの操作で、ピストン軸36と洗浄水噴出ノズル20とを連動して移動させることができる。なお、上記で説明した構成以外の機構を用いて、ピストン移動機構とノズル移動機構とを構成してもよい。例えば、適当なリンク機構等を用いて、ピストン軸36と洗浄水噴出ノズル20とを連動して移動させるものとしてもよい。かかる手動操作レバー16等の機構部品は、適当な金属材料あるいはプラスチック材料を所定の形状に成形加工したものを用いることができる。
【0027】
図3は、ポンプ機構30の構成を示す断面図である。ポンプ機構30は、シリンダ32と、シリンダ32内を摺動可能で、ピストン逆止弁60を備えるピストン50と、ピストン50に固定されるピストン軸36とを含んで構成される。
【0028】
シリンダ32は、一方側に開口を有する円筒状の筒部33と、筒部33の開口をふさぐ蓋部34を含んで構成され、筒部33と蓋部34とは、洗浄水が漏れないように、適当なシール部材を用いてしっかりと固定される。したがって、シリンダ32は、筒部33と蓋部34とが固定されたときに、ピストン軸36を支持する2つの支持穴と、洗浄水容器18に接続される洗浄水入口37と、洗浄水噴出ノズル20に接続される洗浄水出口39とを除いて、外部に洗浄水が漏れないように密閉された円筒状の内部空間を有する。なお、シリンダ32の筒部33の筒状内壁面は、ピストン50の外周が摺動する面となるので、滑らかに表面加工される。
【0029】
ピストン50は、概略円盤状の形状を有し、その中心にはピストン軸36が固定される。そして、円盤状の外周面は滑らかに表面加工され、その外径は、シリンダ32の円筒状の密閉内部空間における内壁の摺動面の内径より僅かに小さく設定される。そして、ピストン軸36に固定されたピストン50は、シリンダ32が組み立てられる前に、筒部33のピストン軸支持穴にピストン軸36の一方端が挿入され、ピストン50の外周面を筒部33の内壁面にはめこみ、ピストン軸36の他方端を蓋部34のピストン軸支持穴に挿入し、蓋部34を筒部33にしっかりと固定することで、ピストン50がシリンダ32の内部に配置される。
【0030】
シリンダ32の中にピストン50が配置されることで、シリンダ32の内部空間は、ピストン50の前後で2つの圧力室に区分される。この2つの圧力室を区別して、洗浄水入口37を介して洗浄水容器18の側に接続される方を容器側圧力室42、洗浄水出口39を介して洗浄水噴出ノズル20の側に接続される方をノズル側圧力室44と呼ぶことにする。
【0031】
シリンダ32の洗浄水入口37には、容器側チューブ22との間に容器側逆止弁38が設けられる。容器側逆止弁38は、容器側圧力室42から洗浄水容器18への洗浄水の逆流を防止する機能を有する逆止弁である。すなわち、容器側圧力室42の圧力が洗浄水容器18の圧力より低いときには、逆止弁が開き、洗浄水容器18から容器側圧力室42に洗浄水が流れ込むことができるが、容器側圧力室42の圧力が洗浄水容器18の圧力より高いときには、逆止弁が閉じ、容器側圧力室42から洗浄水容器18へ洗浄水が流れ込むことができない。かかる容器側逆止弁としては、一般的に水道配管等で用いられる逆止弁を用いることができる。
【0032】
また、シリンダ32の洗浄水出口39には、ノズル側チューブ24との間にノズル側逆止弁40が設けられる。ノズル側逆止弁40は、大気圧に開放される洗浄水噴出ノズル20からノズル側圧力室44へ大気圧が連通することを防止する機能を有する逆止弁である。すなわち、ノズル側圧力室44の圧力が洗浄水噴出ノズル20の圧力、つまり大気圧より高いときには、逆止弁が開き、ノズル側圧力室44から洗浄水噴出ノズル20へ加圧水を供給することができるが、ノズル側圧力室44の圧力が洗浄水噴出ノズル20の圧力である大気圧より低いときには、逆止弁が閉じ、ノズル側圧力室44は、洗浄水噴出ノズル20の大気圧から遮断される。
【0033】
ピストン50の構成を、図4と図5を用いて説明する。図4は、図3においてA部として示したピストン50の要部の拡大図である。また、図5は、図3においてB−B線として示された線に沿った断面側面図である。
【0034】
ピストン50は、ピストン本体52と、ピストン逆止弁60を含んで構成される。ピストン本体52は、中心にピストン軸36が挿入される中心穴を有する円板で、ピストン逆止弁60を配置するための段付貫通ネジ穴58を有している。段付貫通ネジ穴58は、図5において、洗浄水連通穴74、位置決めネジ68として示されるように、ピストン本体52の中心穴から同じ半径上で、等間隔に複数個配置される。図5の例では、3個の段付貫通ネジ穴58が配置されているが、これ以外の数であってもよい。ピストン50は、ピストン軸36に対し、適当な止輪具54,55によって、軸方向の移動が固定される。また、ピストン50が筒部33の内壁面を摺動するときに、ピストン50の両側の圧力室の間が流体的に連通しないように、ピストン50の外周面には、適当なシール部材56が配置される。シール部材56としては、適当なシールリング等を用いることができる。
【0035】
ピストン逆止弁60は、容器側圧力室42の圧力がノズル側圧力室44の圧力より高いときには容器側圧力室42とノズル側圧力室44との間を連通し、容器側圧力室42の圧力がノズル側圧力室44の圧力より低いときにはノズル側圧力室44と容器側圧力室42との間を遮断する機能を有する逆止弁である。ピストン逆止弁60は、ピストン本体52の段付貫通ネジ穴58を利用して、上記のように、3箇所配置される。
【0036】
ピストン逆止弁60は、外径の大きい頭部と外径の小さい軸部とからなる弁体62と、弁体62の軸部に接触する押板64と、弁体62の頭部に一方端が接触し、弁体62を容器側圧力室42の側に付勢する付勢バネ66と、付勢バネ66の他方端の位置を固定するための位置決めネジ68を含んで構成される。
【0037】
弁体62は、図3に示されるように、頭部がノズル側圧力室44側に、軸部が容器側圧力室42側に向き、頭部と軸部との間の段差が、段付貫通ネジ穴58の段付部で支持される。また、中立状態においては、弁体62の軸部は、段付貫通ネジ穴58から突き出して、上記のように、軸部の先端が押板64の一方側の面に接触する。かかる弁体62は、金属製またはプラスチック製の水道配管等に用いられる段付逆止弁体を用いることができる。
【0038】
押板64は、ピストン本体52とほぼ同じ外径の円板で、容器側圧力室42の圧力を弁体62に伝達する機能を有する。押板64は、図5に示すように、複数の洗浄水連通穴72を有する。これにより、容器側圧力室42の洗浄水は、押板64に妨げられることなく、ピストン本体52のピストン逆止弁60側に流れることができる。図5では、洗浄水連通穴72は12個示されているが、これ以外の数であってもよい。
【0039】
また、押板64は、適当な止輪具70によって、ピストン軸36に対し、容器側圧力室42の側への移動を規制される。止輪具70は、押板64の容器側圧力室の側の片面のみに設けられる。したがって、押板64は、ノズル側圧力室44の側への移動は自由にできる。これにより、容器側圧力室42の圧力がノズル側圧力室44より適当に高いときに、押板64はピストン軸36の軸方向に沿って移動し、弁体62をノズル側圧力室44の側に押すことができる。
【0040】
付勢バネ66は、弁体62を容器側圧力室42の側に適当な押付力で押し付け、容器側圧力室の圧力とノズル側圧力室の圧力との間の圧力差である差圧と、この押付力のバランスで、弁体62をピストン本体52から離しあるいは密着させることで、ピストン逆止弁60を開閉する機能を有する。付勢バネ66は、弁体62の頭部と、位置決めネジ68との間に配置される。したがって、段付貫通ネジ穴58に対する位置決めネジ68のねじ込み量を調整することで、付勢バネ66の押付力を加減することができる。かかる付勢バネ66は、その間を洗浄水が流れることができる適当なコイルバネを用いることができる。
【0041】
位置決めネジ68は、段付貫通ネジ穴58のネジ部にねじ込まれるネジで、上記のように付勢バネ66の押付力を加減する機能を有する。また、位置決めネジ68は、その中央部に洗浄水連通穴74が設けられる。これにより、ピストン逆止弁60が開いたときに、容器側圧力室42からノズル側圧力室44に洗浄水が流れることができる。
【0042】
上記構成の衛生洗浄装置付き可搬型便器10の作用に付いて図6から図8を用いて説明する。図6から図8は、それぞれ、手動操作レバー16の操作によってピストン軸36が中立位置、引戻位置、押し位置にあるときの、ポンプ機構30の各要素の様子を示す図である。なお、これらの図において、ポンプ機構30における要素は、作用の説明に必要なものを中心として模式的に示してあり、図3、図4よりも省略した内容となっている。
【0043】
図6は、ピストン軸36が中立状態の場合のポンプ機構30の様子を示す図で、衛生洗浄装置付き可搬型便器10が使用されていない状態に相当する。図6に示されるように、ピストン50は、シリンダ32の軸方向のほぼ中間位置にあり、容器側圧力室42、ノズル側圧力室44のいずれにも洗浄水が満たされている。
【0044】
衛生洗浄装置付き可搬型便器10の初期状態は、もちろん洗浄水がまだシリンダ32の中に導入されておらず、容器側圧力室42、ノズル側圧力室44のいずれも大気圧のままであるが、手動操作レバー16の操作によってピストン軸36を、図7で説明する引戻位置と図8で説明する押し位置との間で適当な回数、往復させることで、シリンダ32の中に洗浄水が導入され、図6の状態となることができる。もちろん、衛生洗浄装置付き可搬型便器10が使用されて、放置された状態が、図7で説明する引戻位置あるいは図8で説明する押し位置である場合もある。その状態は図7、図8でそれぞれ説明することにして、一般的には、衛生洗浄装置付き可搬型便器10が使用される直前の状態は、図6の中立位置にあるものとすることができる。
【0045】
図7、図8は、衛生洗浄装置付き可搬型便器10を使用するときの手動操作レバー16の操作によるピストン軸36の位置と、それに伴う各要素の状態を説明する図である。衛生洗浄装置付き可搬型便器10を使用するときは、第1段階として、図7に示すようにピストン軸36を中立状態から引戻位置にし、第2段階として、図8に示すようにピストン軸36を引戻位置から押し位置にする。
【0046】
図7は、ピストン軸36を中立状態から引戻位置にした状態を示す図である。ここで、引戻位置とは、ピストン軸36を容器側圧力室42の方へ移動させた位置をいう。この状態においては、ピストン50が容器側圧力室42の方へ移動する。これによって、容器側圧力室42の容積が減少し、ノズル側圧力室44の容積が増加するので、相対的に容器側圧力室42の圧力がノズル側圧力室44の圧力より高くなる。したがって、押板64がノズル側圧力室44側のほうに移動し、弁体を押すことで、ピストン逆止弁60が開く。一方、容器側逆止弁38は、容器側圧力室42の圧力が高くなることで閉じ、また、ノズル側逆止弁40は、ノズル側圧力室44の圧力が低下することで閉じる。つまり、シリンダ32の内部空間は外部から遮断されることになる。
【0047】
したがって、洗浄水容器18、洗浄水噴出ノズル20の状態は何も変化せず、シリンダ32の内部で、洗浄水が移動する。すなわち、中立状態において容器側圧力室42にあった洗浄水は、開いたピストン逆止弁60を通って、ノズル側圧力室へ移動する。これによって、容積の大きなノズル側圧力室44の中に十分な洗浄水が供給される。
【0048】
図8は、ピストン軸36を引戻位置から押し位置にした状態を示す図である。ここで、押し位置とは、ピストン軸36をノズル側圧力室44の方へ移動させた位置をいう。この状態においては、ピストン50がノズル側圧力室44の方へ移動する。これによって、ノズル側圧力室44の容積が減少し、容器側圧力室42の容積が増加するので、相対的に容器側圧力室42の圧力がノズル側圧力室44の圧力より低くなり、別の見方では、ノズル側圧力室44の圧力が容器側圧力室42の圧力より高くなる。したがって、ピストン逆止弁60は閉じる。一方、容器側逆止弁38は、容器側圧力室42の圧力が低くなることで開き、また、ノズル側逆止弁40は、ノズル側圧力室44の圧力が高くなることで開く。つまり、シリンダ32の内部空間は外部に連通することになる。
【0049】
したがって、容器側圧力室42においては、容器側逆止弁38が開くことで、容器側圧力室42に洗浄水が洗浄水容器18から流れ込む。ただし、ピストン逆止弁60は閉じているので、流れ込んだ洗浄水は、ノズル側圧力室44には流れない。これによって、容積の大きくなった容器側圧力室42に十分な量の洗浄水が満たされる。
【0050】
一方、ノズル側圧力室44においては、ピストン逆止弁60が閉じているため、ノズル側圧力室44の容積の減少に伴い、洗浄水が加圧される。そして、開いているノズル側逆止弁40を通って洗浄水噴出ノズル20に加圧された洗浄水が供給される。細いノズル側チューブをこの加圧洗浄水が流れることによって、ノズル側逆止弁40が開いていても、ノズル側圧力室44は大気圧に開放されることがない。これによって、加圧された洗浄水が洗浄水噴出ノズル20に供給され、洗浄水噴出ノズル20の先端の狭くなった開口部によって流速が加速され、洗浄水を噴出させることができる。
【0051】
このように、押し位置においては、ピストン逆止弁60が閉じると共に、容器側逆止弁38が開くことで、洗浄水容器18から洗浄水が容器側圧力室42に導入される。また、一方では、ピストン逆止弁60が閉じると共に、ノズル側逆止弁40が開くことで、ノズル側圧力室44の洗浄水を加圧しながら、洗浄水噴出ノズル20に加圧された洗浄水を供給できる。すなわち、押し位置では、この2つの作用が、同時並行的に行われることになる。
【0052】
このようにして、手動操作レバーの操作によって、ピストン逆止弁が開くときは容器側逆止弁及びノズル側逆止弁を閉じ、ピストン逆止弁が閉じるときは容器側逆止弁及びノズル側逆止弁を開くように作動させることで、手動ポンプ機構を用いながら、加圧市水を用いることなく、また電動ポンプや特別な流量調整弁等を用いることなく、簡単な構成で、可搬型便器において洗浄水を噴出させることができる。
【0053】
衛生洗浄装置付き可搬型便器においては、衛生洗浄装置を可搬型とするために洗浄水を噴出させる加圧源が必要となる。上記構成においては、逆止弁の作用とピストン・シリンダ機構とを組合せて、洗浄に用いる水を加圧しているので、洗浄水を加圧するための特別な外部駆動源、例えばモータ等の電気的駆動源を必要としない。また、上記構成は、機構を用いているが、ゼンマイ等の機械的エネルギを蓄える手段も必要としない。このように、上記構成によれば、モータ等の電気的駆動源を要せず、また、ゼンマイ等の機械的エネルギ蓄積手段を要せず、衛生洗浄装置を可搬型とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る実施の形態において、衛生洗浄装置付き可搬型便器の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、衛生洗浄装置付き可搬型便器のさらに詳細な構成を説明するための正面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、ポンプ機構の構成を示す断面図である。
【図4】図3においてA部として示したピストンの要部の拡大図である。
【図5】図3においてB−B線として示された線に沿った断面側面図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、ピストン軸が中立位置にあるときのポンプ機構の各要素の様子を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、ピストン軸が引戻位置にあるときのポンプ機構の各要素の様子を示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、ピストン軸が押し位置にあるときのポンプ機構の各要素の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10 衛生洗浄装置付き可搬型便器、12 便槽、13 (便槽の)筒部、14 便座、15 回転部、16 手動操作レバー、17,35 接続部、18 洗浄水容器、20 洗浄水噴出ノズル、22 容器側チューブ、24 ノズル側チューブ、30 ポンプ機構、32 シリンダ、33 (シリンダの)筒部、34 蓋部、36 ピストン軸、37 洗浄水入口、38 容器側逆止弁、39 洗浄水出口、40 ノズル側逆止弁、42 容器側圧力室、44 ノズル側圧力室、50 ピストン、52 ピストン本体、54,55,70 止輪具、56 シール部材、58 段付貫通ネジ穴、60 ピストン逆止弁、62 弁体、64 押板、66 付勢バネ、68 位置決めネジ、72,74 洗浄水連通穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬型便槽に取り付けられた洗浄水噴出ノズルと、
洗浄水容器と、
シリンダ内を摺動するピストンによって2つの圧力室に区画され、一方の圧力室が洗浄水容器に接続される容器側圧力室で、他方の圧力室が洗浄水噴出ノズルに接続されるノズル側圧力室であるポンプ機構と、
洗浄水容器と容器側圧力室との間に設けられ、容器側圧力室から洗浄水容器への逆流を防止する容器側逆止弁と、
洗浄水噴出ノズルとノズル側圧力室との間に設けられ、大気圧に開放される洗浄水噴出ノズルからノズル側圧力室へ大気圧が連通することを防止するノズル側逆止弁と、
ピストンに設けられるピストン逆止弁であって、容器側圧力室の圧力がノズル側圧力室の圧力より高いときには容器側圧力室とノズル側圧力室との間を連通し、容器側圧力室の圧力がノズル側圧力室の圧力より低いときにはノズル側圧力室と容器側圧力室との間を遮断するピストン逆止弁と、
手動操作レバーの操作によってピストンをシリンダに対し移動させるピストン移動機構と、
を有し、
ピストン移動機構は、
ピストンをノズル側圧力室側から容器側圧力室側に向かって移動させることで、容器側圧力室の圧力をノズル側圧力室の圧力より高くしてピストン逆止弁を連通させると共に、容器側逆止弁とノズル側逆止弁とを閉じさせ、容器側圧力室にある洗浄水をノズル側圧力室へ供給し、
ピストンを容器側圧力室側からノズル側圧力室側に向かって移動させることで、容器側圧力室の圧力をノズル側圧力室の圧力より低くしてピストン逆止弁を遮断させると共に、容器側逆止弁とノズル側逆止弁とを開けさせて、洗浄水容器から容器側圧力室に洗浄水を導入すると共に、ノズル側圧力室の洗浄水を加圧して洗浄水噴出ノズルに供給して洗浄水を噴出させることを特徴とする衛生洗浄装置付き可搬型便器。
【請求項2】
請求項1に記載の衛生洗浄装置付き可搬型便器において、
ピストン移動機構に接続され、ピストンの移動に連動させて洗浄水噴出ノズルを移動させるノズル移動機構を有することを特徴とする衛生洗浄装置付き可搬型便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−115551(P2008−115551A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297471(P2006−297471)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(599118447)株式会社フジエ (5)
【Fターム(参考)】