説明

衛生紙用柔軟剤

【課題】良好なしっとり感と肌触り感を付与することができ、かつ紙力の低下を抑制することができる衛生紙用柔軟剤の提供。
【解決手段】本発明の衛生紙用柔軟剤は、式(1)で表されるアルギニン誘導体(a)1〜30質量%、および多価アルコール(b)70〜99質量%からなる。


(R1、R2はそれぞれ水素原子またはヒドロキシプロピル基である。但し、R1およびR2が共に水素原子となる場合は除外され、R1およびR2の少なくとも1つはヒドロキシプロピル基である。R3は水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛生紙用柔軟剤に関し、より詳細には、良好なしっとり感と肌触り感を付与することができ、かつ紙力の低下を抑制することができる衛生紙用柔軟剤に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生紙、とりわけティシューペーパー、トイレットペーパーは、肌に直接触れて使用されるので、より良好な肌触り感が求められている。さらに近年では、ティシューの使用頻度が高い花粉症患者が増加していることから、肌触り感だけでなく、さらにしっとり感が良好なティシューペーパーがより求められるようになってきている。
【0003】
肌触り感およびしっとり感を向上させた紙として、特許文献1には多価アルコールや流動パラフィン等を含有する紙が開示され、特許文献2にはアミノ酸や多価アルコール等を含有する衛生紙用柔軟剤が開示されている。これらの方法では、しっとり感の向上は得られるものの、肌触り感の向上に関しては十分でない場合がある。また、肌触り感を向上させる方法として、特許文献3には多価アルコールのアルキレンオキシド付加体を含有する処理剤が開示されているが、肌触り感の向上は得られるものの、しっとり感に関しては十分でない場合がある。さらに、これらの方法では紙力が大きく低下するという問題がある。紙力の低下は、製造時に紙切れが発生するという操業性の低下、およびティシュー製品を一般消費者が使用する際に破れるという商品価値の低下を招くことになる。
【0004】
肌触り感を向上させ、かつ紙力を改善する方法として、特許文献4にはモノステアリルトリメチルアンモニウム塩とジグリセリンを含有するティシュペーパーが記載されている。しかしながら、この方法ではしっとり感と肌触り感の向上は得られるが、紙力低下の抑制においては必ずしも十分であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−156596号公報
【特許文献2】特開2002−146698号公報
【特許文献3】特開2004−84116号公報
【特許文献4】特開平7−109693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好なしっとり感と肌触り感を付与することができ、かつ紙力の低下を抑制することができる衛生紙用柔軟剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のアルギニン誘導体と多価アルコールを組み合わせた衛生紙用柔軟剤が上記目的を達成できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、式(1)で表されるアルギニン誘導体(a)1〜30質量%、および多価アルコール(b)70〜99質量%からなる衛生紙用柔軟剤である。
【0009】
【化1】

【0010】
(R1、R2はそれぞれ水素原子またはヒドロキシプロピル基である。但し、R1およびR2が共に水素原子となる場合は除外され、R1およびR2の少なくとも1つはヒドロキシプロピル基である。R3は水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムである。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の衛生紙用柔軟剤によれば、良好なしっとり感と肌触り感、さらに十分な紙力を有する衛生紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明の衛生紙用柔軟剤は、アルギニン誘導体(a)、および多価アルコール(b)からなる。
【0013】
〔アルギニン誘導体(a)〕
本発明に用いるアルギニン誘導体は下記の式(1)で表される。
【0014】
【化2】

【0015】
式中、R1、R2はそれぞれ水素原子またはヒドロキシプロピル基である。但し、R1およびR2が共に水素原子となる場合は除外され、R1およびR2の少なくとも1つはヒドロキシプロピル基である。肌触り感向上の理由から、R1およびR2がいずれもヒドロキシプロピル基であることがより好ましい。
【0016】
式中、R3は水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムである。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等が挙げられる。有機アンモニウムは有機アミン由来のアンモニウムであり、有機アミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等などのアルキルアミンが挙げられる。
本発明においては、これらアルギニン誘導体のうちから1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の上記式(1)で表されるアルギニン誘導体は、アルギニンとプロピレンオキシドを水溶媒中、無触媒で反応させることにより得ることができる。具体的には、所定濃度のアルギニン水溶液を調製し、pH無調整で、加温しながら、撹拌下、プロピレンオキシドを滴下しながら反応を行うことで、式(1)で表されるアルギニン誘導体が得られる。但し、R3がアルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムである場合、アルギニンとプロピレンオキシドとの反応の後、水酸化ナトリウム、アンモニア、有機アミン等のアルカリ剤と反応させることにより、式(1)で表されるアルギニン誘導体を得ることができる。また、得られたアルギニン誘導体を種々の有機酸や無機酸でpH調製をすることで、アルギニン誘導体の酸付加塩としてもよい。
【0018】
〔多価アルコール(b)〕
本発明に用いる多価アルコールとしては、2価以上で水溶性であれば特に限定はされない。具体的には、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。好ましくは、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトールである。これらは単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
〔衛生紙用柔軟剤〕
本発明の衛生紙用柔軟剤は、上記式(1)で表されるアルギニン誘導体(a)1〜30質量%、および多価アルコール(b)70〜99質量%からなり、アルギニン誘導体(a)および多価アルコール(b)の合計量が100質量%である。アルギニン誘導体(a)が1質量%未満であり、多価アルコール(b)が99質量%を超える場合には、良好な肌触りが得られないことがあり、さらに紙力の低下が大きくなることがある。また、アルギニン誘導体(a)が30質量%を超え、多価アルコール(b)が70質量%未満である場合には、十分なしっとり感が得られないことがある。好ましくは、アルギニン誘導体(a)が5〜25質量%、および多価アルコール(b)75〜95質量%である。
【0020】
本発明の衛生紙用柔軟剤は、取扱いを良くする等の目的のために、水等の溶媒を用いて、30〜90質量%に希釈して使用することができる。本発明の衛生紙用柔軟剤は、通常、衛生紙原紙に塗布される。具体的な塗布方法としては、転写印刷方式、コーター、スプレーなどが挙げられる。好ましくは転写印刷方式である。2枚重ねの加工が行われる衛生紙を製造する場合は、本発明の柔軟剤を衛生紙原紙に塗布後、2枚重ねの加工を行ってもよく、2枚重ね加工が行われた衛生紙原紙に本発明の柔軟剤を塗布してもよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。まず、本発明の実施例で用いるアルギニン誘導体1〜2の合成例を示す。
【0022】
〔合成例〕
アミン価が642であるL−アルギニンをイオン交換水に溶解し、オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内の空気を乾燥窒素で置換した。次にオートクレーブを加温し、滴下装置によりプロピレンオキシドを徐々に滴下し、滴下終了後、さらに撹拌した。なお、アルギニン誘導体1とアルギニン誘導体2とでは、滴下するプロピレンオキシドの量が異なる。
反応終了後、乾燥窒素でバブリングして未反応のプロピレンオキシドを除去し、オートクレーブから反応生成物を取り出した。反応生成物に対し、固形分濃度が35質量%になるようにイオン交換水を加え、アルギニン誘導体1〜2の水溶液を得た。アルギニン誘導体1〜2の35質量%水溶液のそれぞれのアミン価を測定し、表1に示した。なお、アミン価は、「医薬部外品原料規格2006(薬事日報社編) 別記II 規格各条」掲載の「L−アルギニン」の「定量法」に従って測定した。
【0023】
〔柔軟剤希釈液1の調製例〕
攪拌機、冷却管、温度計を備えた300mLの4つ口フラスコにイオン交換水76g、グリセリン87gおよびアルギニン誘導体1の35質量%水溶液を37g仕込み、50℃で30分撹拌し、柔軟剤成分が50質量%である柔軟剤希釈液1を得た。
【0024】
〔柔軟剤希釈液2〜7の調製例〕
表2に示す化合物を表2に示す割合で用いて、柔軟剤希釈液1の調製例と同様の操作を行い、柔軟剤成分が50質量%である柔軟剤希釈液2〜7を得た。
【0025】
〔柔軟紙の調製〕
柔軟剤希釈液1をハンドスプレーにてティシューペーパー1枚(市販されている2枚1組を1枚とする)に有効分換算で約20質量%になるように噴霧し、柔軟剤希釈液1を塗布したティシューペーパーを合計30枚用意した。噴霧前後のティシューの質量差から求めた柔軟剤希釈液1の平均塗布量は噴霧前のティシュー重量に対して40. 6質量%(有効分換算で20. 3質量%)であった。同様に、柔軟剤希釈液2〜7についても、それぞれの希釈液をティシューペーパー1枚に噴霧し、噴霧したティシューペーパーを合計30枚ずつ用意し、各希釈液について有効分換算で平均塗布量を求め、その結果を表2に記載した。各柔軟剤が塗布されたティシューを室温23℃、湿度30%の恒温恒湿室で48時間保管した後に以下の評価を行った。
【0026】
〔肌触り感およびしっとり感の評価〕
調湿したティシュー3枚を重ねて女性評価者が片手で握り、肌触り感およびしっとり感についてそれぞれ以下の評価基準に従い官能評価を行った。評価者10人の評価値合計を求めて、評価値合計が20点以上であり、かつ1点をつけた評価者がいないものをそれぞれ良好である(○)と評価し、それ以外を不良(×)と評価した。その結果を表2に記載した。
【0027】
(肌触り感官能評価)(評価値)
・肌触りが非常によい:3点
・肌触りがよい: 2点
・肌触りがよくない: 1点
【0028】
(しっとり感官能評価) (評価値)
・非常にしっとりしている:3点
・しっとりしている: 2点
・しっとりしていない: 1点
【0029】
〔紙力の評価〕
調湿したティシューを120×15mmに裁断し、引張圧縮試験機((株)今田製作所製SV−201−0−SH)を用いて紙の繊維方向の引張り強度を測定した。各例で5回測定を行って平均を求め、その平均値を表2に記載した。柔軟剤塗布前のティシューの引張り強度(2. 2N)に対して紙力低下が25%以下(1. 7N以上)である場合を紙力良好(○)と評価し、紙力低下が25%を超える(1. 7N未満)場合を紙力不十分(×)と評価した。
【0030】
(引張り強度)紙力低下が25%以下(1. 7N以上):紙力良好(○)
紙力低下が25%を超える(1. 7N未満):紙力不十分(×)
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、実施例1〜3の衛生紙用柔軟剤を用いることにより、いずれも良好なしっとり感、肌触り感および十分な引張り強度を有するティシューペーパーを得ることができる。特に、式(1)におけるR1およびR2がいずれもヒドロキシプロピル基であるアルギニン誘導体2を含有する実施例2,3の評価が良好である。
【0034】
これに対して比較例1では、本発明のアルギニン誘導体を用いず、グリセリンのみを塗布しているので、肌触り感が不十分であり、紙力の低下も大きい。比較例2は、本発明のアルギニン誘導体を用いずにアルギニンを用いているので、肌触り感が不十分であり、紙力の低下も大きい。比較例3は、本発明のアルギニン誘導体を用いずに多価アルコールのアルキレンオキシド付加体を用いているので、肌触り感が多少改善されているものの、しっとり感が不十分であり、紙力の低下も大きい。さらに、比較例4は、本発明のアルギニン誘導体を用いているものの、アルギニン誘導体と多価アルコール(グリセリン)との質量比が本発明の規定範囲を超えているので、肌触り感およびしっとり感が共に不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の衛生紙用柔軟剤によれば、紙に良好なしっとり感および肌触り感を付与することが可能であり、かつ紙力の低下を抑制することができるので、この柔軟剤を用いると、十分なしっとり感、肌触り感および紙力を有する紙を得ることができる。したがって、本発明の衛生紙用柔軟剤は、ティシューペーパー、トイレットペーパー、ペーパーナプキン、ペーパータオル、生理用紙、おむつ用紙などのような衛生紙に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるアルギニン誘導体(a)1〜30質量%、および多価アルコール(b)70〜99質量%からなる衛生紙用柔軟剤。
【化1】

(R1、R2はそれぞれ水素原子またはヒドロキシプロピル基である。但し、R1およびR2が共に水素原子となる場合は除外され、R1およびR2の少なくとも1つはヒドロキシプロピル基である。R3は水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムである。)

【公開番号】特開2011−202318(P2011−202318A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71492(P2010−71492)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】