説明

衣服の製造方法

【課題】 着色を衣服の開口の縁に至らせることのできる衣服の製造方法の提供
【解決手段】 生地の表にフィルム状装飾体を施して装飾領域を形成し、装飾領域の一部を含むように生地を線状に裁断して裁断筋を形成し、裁断筋の縁部を生地の裏側へ折って折片を形成することで生地に開口を形成し、スライダ、エレメント、およびテープ部からなるスライドファスナにおいてスライダおよびエレメントが開口から露出するようにテープ部を折片に重ねて縫着する衣服の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣行等に着用される衣服に関し、スライドファスナによって開閉される開口の近傍にフィルム状装飾体を施すようにした衣服の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
釣用の衣服などにポケットを設け、ポケットはその開口に縫着したスライドファスナで開閉するようにした構成が知られている。スライドファスナは、そのテープ部が衣服の生地に縫着される(例えば、下記特許文献1の図3〜5,図8参照)。
また、スライドファスナの周囲にはプリント(印刷)、溶着などの手法によって、開口の近傍や周囲に装飾のために着色を施すことがある。このような着色は衣服にスライドファスナを取付けた後に行われている。すなわち、衣服を構成する生地の一部を裁断して裁断筋を形成し、裁断筋の周囲端部を生地の裏側に折って折片を形成し、スライドファスナのエレメントおよびスライダが開口から露出するように折片にスライドファスナのテープ部を重ねて縫着して、その後に開口の周囲を囲むように着色を施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−138339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
開口の周囲に着色を施したときには、着色を開口の縁まで至らせることが美観上好ましい。しかしながら上記従来のスライドファスナの取付け方法では、折片にスライドファスナのテープ部を重ねて縫着した後に、開口の周囲に着色を施すから、装飾を開口の縁まで至らせることは、実質的には困難であった。
【0005】
そこで本発明は上記課題に鑑み、着色を衣服の開口の縁に至らせることのできる衣服の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の衣服の製造方法は、生地の表にフィルム状装飾体を施して装飾領域を形成し、該装飾領域の一部を含むように生地を線状に裁断して裁断筋を形成し、該裁断筋の縁部を生地の裏側へ折って折片を形成することで生地に開口を形成し、スライダ、エレメント、およびテープ部からなるスライドファスナにおいて前記スライダおよびエレメントが前記開口から露出するように前記テープ部を前記折片に重ねて縫着することを特徴としている。
【0007】
上記方法によれば、裁断筋の縁部を裏側に折るときには、すでに生地の表に装飾領域を形成しているから、折片を形成した際に着色を生地の折目まで達させることが可能であり、折片にスライドファスナのテープ部を重ねて縫着することで、装飾の着色を開口の縁に合致するように保持することができる。また、開口部に装飾領域と同色の着色が施された態様となって、見栄えを向上させられる。
【0008】
本発明の衣服の製造方法では、裁断筋を形成する際に、装飾領域内において生地を裁断することを特徴としている。
上記方法によれば、裁断筋の周囲に折片を形成して、折片にスライドファスナのテープ部を縫着することで、装飾の着色を開口の縁に合致するように保持することができる。
【0009】
本発明の衣服の製造方法では、裁断筋の両側端となる部位に設けた目印を基準にして裁断筋を裁断することを特徴としている。
この方法のように、目印を基準にして裁断筋を形成することで、裁断筋を位置ずれさせることなく形成することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、裁断筋の縁部を裏側に折るときには、すでに生地の表に装飾領域を設けているから、折片を形成してスライドファスナのテープ部を折片に重ねて縫着するという極めて容易な方法で装飾の着色を開口の縁に至らせることができ、スライドファスナの取付構造部分の見栄えを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を示すスライドファスナの取付構造部分を示す要部断面図
【図2】同じく製造途中の状態を示す断面図
【図3】同じく製造途中の状態を示す断面図
【図4】同じく装飾領域を覆うように身頃生地に補助生地を重ねた状態の平面図
【図5】同じく生地にスライドファスナを取付けた状態の平面図
【図6】同じく装飾領域を形成するためのフィルム状の装飾体の形状を表す単体平面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。本発明の衣服の製造方法は、釣用ウェアなどに好適に用いられる。
図1はスライドファスナの取付構造部分を示す要部断面図、図2および図3は同じく製造途中の状態を示す断面図、図4は装飾領域を覆うように身頃生地に補助生地を重ねた状態の平面図、図5は生地にスライドファスナを取付けた状態の平面図、図6は装飾領域を形成するためのフィルム状の装飾体の形状を表す単体平面図である。
【0013】
まず図1に基づいて、スライドファスナ1の取付け部分周辺の全体構造を説明する。
これは、開口3を形成するよう身頃生地2の身頃側折片13と、これの裏側に補助生地4の補強側折片14とが、縫着部11を介して一体化された状態で重ねられ、かつ補助生地4の裏側にスライドファスナ1のテープ部5が重ねられ、縫着部10によって身頃側折片13、補強側折片14およびテープ部5が一体化され、身頃生地2および補助生地4の開口3からスライドファスナ1のスライダ6およびエレメント7が露出するようにスライドファスナ1が設けられている。
補助生地4の幅方向外側端部4aはテープ部5の幅方向外側端部5aに対して外側に延びている。
【0014】
身頃生地2の表面には、フィルム状装飾体25がプリント(印刷)により施されて、図5の格子線で示す装飾領域26が形成されている。
この装飾領域26は、開口3の外周を囲繞するように、しかも開口3の縁3aにまで至っている。この場合、装飾領域26は、身頃生地2の裏側に折返される身頃側折片13の表面にも施されていることで、開口3の縁3aにまで至っている。
【0015】
フィルム状装飾体25は、開口3の外周を囲繞すべく略長方形に形成されている。図6に示すように、その幅方向中心には、長さ方向に沿って切欠かれた細長の裁断用の目印27が形成されている。目印27の長さ方向両端部には、円状部28が目印27に連続して形成されている。
【0016】
前述したように、身頃生地2および補助生地4の開口3側には、それぞれ前記身頃側折片13、補強側折片14が形成されている。身頃側折片13および補強側折片14は、それぞれ身頃生地2および補助生地4の同位置に形成された線状の裁断部15,16(図2参照)から折返して形成されており、身頃生地2においては裏側に折返して身頃側折片13が形成され、補助生地4においては表側に折返して補強側折片14が形成されている。そして身頃側折片13および補強側折片14は、縫着部11によって一体化されている。
身頃生地2、補助生地4、およびテープ部5を開口3の幅方向外側で一体化する縫着部10の位置は、縫着部11にほぼ一致している。
図1において、符号20はスライドファスナ1のスライダ6を移動することで開口3が開閉するポケットである。ポケット20を構成する生地は、補助生地4の幅方向外側端部に縫着されている。
【0017】
上記構成のスライドファスナ1の取付構造では、装飾領域26が、身頃生地2の裏側に折返される身頃側折片13の表面にも施されていることで、開口3の縁3aにまで至っている。このため、スライドファスナ1の取付構造部分の見栄えが良好になる。
【0018】
また、上記構成のスライドファスナ1の取付構造では、身頃生地2および補助生地4の開口3からスライドファスナ1のスライダ6およびエレメント7が露出している。
したがって、スライドファスナ1のスライダ6を移動させてスライドファスナ1を開閉させると、スライダ6の側面が開口3の縁部に接触して擦れたり、あるいは衣服の装着者の手指が開口3の縁部に接触して擦れたりする状態が発生する。
【0019】
しかしながら、この構成では、身頃側折片13および補強側折片14は縫着部10,11によって一体化された状態で、身頃生地2においては裏側に折返して身頃側折片13が形成され、補助生地4においては表側に折返して補強側折片14が形成されている。
このため、身頃側折片13および補強側折片14の生地端13a,14a(裁断部15,16)はスライダ6に対して幅方向外側にあって、身頃生地2および補助生地4によって挟まれて身頃生地2および補助生地4に覆われた状態にある。このため、スライダ6に接触することがなく、スライダ6の移動によって開口3周辺の生地端13a,14aがほつれることがない。さらに身頃生地2、補助生地4、およびテープ部5の三者は縫着部10によって確実に一体化されている。したがって、開口3の縁部でのほつれが生じるのを防止できるとともに、スライドファスナ1周りの強度を長期にわたって確保することができる。
【0020】
上記構成のスライドファスナ1の取付構造を有する衣服は、例えば次のような手順で容易に製造することができる。
身頃生地2となる生地(以下、単に身頃生地2という)における、ポケット20を形成する部位に、フィルム状装飾体25をプリントにより施し、続いて図4に示すように、フィルム状装飾体25を覆うように補助生地4となる生地(以下、単に補助生地4という)を身頃生地2に重ねる。なお、補助生地4は、例えば矩形に形成したものを用いる。補助生地4はフィルム状装飾体25よりも大きな面積に設定された矩形に形成されている。
【0021】
補助生地4には、フィルム状装飾体25に設けた目印27あるいは少なくとも円状部28が作業者に見えるようにスリットあるいは穴(切欠)などを形成しておく。続いて、フィルム状装飾体25の目印27および円状部28を囲むように身頃生地2および補助生地4を縫着して縫着部11を形成する。
続いて、フィルム状装飾体25を、一方の円状部28から他方の円状部28へ向けて目印27を裁断することで、身頃生地2を裁断する。
【0022】
このとき、フィルム状装飾体25は身頃生地2にプリントされているから、目印27を裁断することでこの目印27と同じ位置の身頃生地2、さらには身頃生地2のフィルム状装飾体25を覆う補助生地4を裁断することが可能である。
また、円状部28を含む目印27を裁断することで、開口3となる線状の裁断部15,16を所定の長さにわたってゆがむことなく、しかも裁断部15と裁断部16とが位置ずれしないように正確に裁断することが可能である。
【0023】
次に、補助生地4をその外周部側(幅方向外側端部4a側)から裁断部16、裁断部15に通して、補助生地4を身頃生地2の裏側へ反転させる(図2の矢印参照)。このようにすることで、裁断部15,16がほぼ縫着部11まで広げられて開口3が形成される。
【0024】
次に、スライドファスナ1のスライダ6およびエレメント7が開口3から露出するようにテープ部5を補助生地4に重ねて、身頃側折片13および補強側折片14の生地端13a,14aに対する幅方向内側で、身頃生地2、補助生地4およびテープ部5の三者を一体化するよう縫着して縫着部10を形成する。
【0025】
上述のようにしてスライドファスナ1の取付構造を製造することにより、装飾領域26が、身頃生地2の裏側に折返される身頃側折片13の表面にも施されている状態とすることができ、スライドファスナ1の取付構造部分の見栄えを良好にすることが実現できる。
さらに、フィルム状装飾体25には裁断用の目印27を設けており、目印27を目安に裁断することで、目印27と同じ位置の身頃生地2、さらには身頃生地2のフィルム状装飾体25を覆う補助生地4を裁断することができる。
そして、円状部28を含む目印27を裁断することで、開口3となる線状の裁断部15,16を所定の長さにわたってゆがむことなく、しかも裁断部15と裁断部16とが位置ずれしないように正確に裁断することができるから、品質のよい取付構造が得られる。
【0026】
上記実施形態では、フィルム状装飾体25の目印27は、フィルム状装飾体25の一部を切欠くことで形成しているが、これに限定されるものではなく、要するに裁断方向にブレ等がないような目印が設けられていればよい。例えば、フィルム状装飾体25に異なる色の着色を施すことで目印とすることもできる。
【符号の説明】
【0027】
1…スライドファスナ、2…身頃生地、3…開口、4…補助生地、5…テープ部、6…スライダ、7…エレメント、10,11…縫着部、13…身頃側折片、13a,14a…生地端、14…補強側折片、15,16…裁断部、25…フィルム状装飾体、26…装飾領域、27…目印、28…円状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地の表にフィルム状装飾体を施して装飾領域を形成し、該装飾領域の一部を含むように生地を線状に裁断して裁断筋を形成し、該裁断筋の縁部を生地の裏側へ折って折片を形成することで生地に開口を形成し、スライダ、エレメント、およびテープ部からなるスライドファスナにおいて前記スライダおよびエレメントが前記開口から露出するように前記テープ部を前記折片に重ねて縫着することを特徴とする衣服の製造方法。
【請求項2】
裁断筋を形成する際に、装飾領域内において生地を裁断することを特徴とする衣服の製造方法。
【請求項3】
裁断筋の両側端となる部位に設けた目印を基準にして裁断筋を裁断することを特徴とする衣服の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−84828(P2011−84828A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237062(P2009−237062)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】