説明

衣服

【課題】突条部による脱色の進み具合と脱色の仕方に変化を持たせ、風合いを高める。
【解決手段】摩擦によって脱色する易脱色性生地にて縫製されるジーパンを対象として、ジーパン本体2に取付けられる尻ポケット1の裏地4に、表地3側に向けて突出する突条部5を設ける。この突条部5は、リング状の線状体6を芯として、これを全長に亘って刺繍ステッチ7にて密に包被する状態で裏地4に縫着することによって二重構造に形成し、この突条部5に対応する表地部分の脱色の進み具合と脱色の仕方を、二種類の物性に応じて微妙に変化させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジーパンやジージャンのように使用に伴う摩擦によって表地がたとえば藍色から白色系統に脱色する易脱色生地によって形成される衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の衣服において、特許文献1に記載されているように、裏地に各種の模様や、文字、図形、記号等の標章を表す突条部を設け、この突条部に対応する表地部分が他の部分よりも強く摩擦されることで脱色度を高め、時間の経過とともに突条部に対応する標章を表面に浮かび上がらせるようにしたものが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3089235号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような衣服において、突条部による表地の脱色度(標章の出具合)は、着用者の摩擦運動の度合いを抜きにすると、突条部の硬さや太さ、表面形状等の物性によって左右される。たとえば、突条部が硬くて太ければ、表地の摩擦度合いも高くて脱色し易いため、標章が早くかつ鮮明に浮かび上がる。逆に、突条部が柔らかくて細ければ標章の出方が遅くてぼやけた感じになる。
【0005】
ここで、上記公知技術によると、突条部が軟質合成樹脂製等の線状体のみで形成されているため、脱色の進み具合(標章の出具合)が、線状体の単一の物性に応じたワンパターンとなる。
【0006】
つまり、浮かび上がる標章が、たとえばリング図形ならはじめから終わりまで単純なリング図形のまま変わらず、時間の経過に比例してその鮮明度が変化するに過ぎない。
【0007】
この点で、公知技術によると、標章の出具合が一元的で微妙さに欠け、風合いにおいて物足りない面があった。
【0008】
そこで本発明は、突条部による脱色度の進み具合と脱色の仕方に変化を持たせ、風合いを高めることができる衣服を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、摩擦によって脱色する易脱色性の表地と、この表地の裏側に取付けられた裏地とから成り、この裏地に設けられた突条部により、摩擦による表地の脱色度を高めて、時間の経過とともに突条部に対応する図形等の標章を表地表面側に浮かび上がらせるように構成される衣服において、裏地面に配置された線状体を全長に亘って刺繍ステッチにて密に包被する状態で裏地に縫着することにより、芯としての線状体が刺繍ステッチで覆われた二重構造の突条部を形成したものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、ウレタン樹脂等の強度と弾性に富む合成樹脂にて線状体を形成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、線状体を芯とし、これを刺繍ステッチで覆って二重構造の突条部を形成しているため、まず、軟らかい刺繍ステッチが表地側に加わる摩擦を受け止めることで表地が緩やかに、しかも単純な線状の輪郭ではなく、刺繍ステッチの模様(糸目)が反映された形(多数の細かな線で一つの輪郭が形成される形や、輪郭が一部途切れる形、輪郭
がぼやけた形等)で脱色する。
【0012】
ここで、刺繍ステッチを含む突条部も、表地に対する相対運動によって摩擦を受けるため、表面の刺繍ステッチが徐々に摩耗し、代わって芯である線状体が露出する。
【0013】
こうなると、表地に加わる摩擦力が刺繍ステッチの場合よりも強くなるため、線状体が露出する時点を折れ点として、以後、脱色度が高くなるとともに、浮かび上がる標章が、それまでの刺繍ステッチが反映されたものから線状模様へと変化する。
【0014】
つまり、刺繍ステッチと線状体の二種類の物性によって、脱色度が折れ線状に変化するとともに、浮かび上がる標章のパターンが微妙に変化する。
【0015】
こうして、標章の出具合が一元的でなく微妙に変わるため、公知技術にはない風合いが得られる。
【0016】
また、表面が刺繍ステッチで覆われているため、肌当たりが柔らかくて違和感や異物感がなく、着心地が良いものとなる。
【0017】
とくに請求項2の発明によると、芯(線状体)が柔軟でありながら強度と弾性に富むため、とくにジーパンのような活動的な衣服に適用した場合に、着用者の体形や動きにフィットし、着心地が一層良いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態にかかるジーパンを背面側から見た斜視図である。
【図2】図1のII−II線拡大断面図である。
【図3】同ジーパンの裏地に突条部を形成する過程を示す部分斜視図である。
【図4】突条部を形成した状態の裏地の部分斜視図である。
【図5】(イ)はリング図形が表れる前の状態、(ロ)(ハ)はリング図形が表れて変化する状況をそれぞれ示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を図1〜図5によって説明する。
【0020】
実施形態では、デニム染めによるジーパンの尻ポケットに標章を表す場合を例にとっている。
【0021】
ポケット1は、図1,2に示すようにジーパン本体2と同じ易脱色性の生地から成る表地3の裏側に、薄手の裏地4がその周縁部で縫着されて形成され、全体が両サイドと下辺部でジーパン本体2に縫着される。
【0022】
裏地4には突条部5が表地3側に突出する状態で設けられ、前記公知技術と同様に、着用中に、この突条部5に対応する表地部分が他の部分よりも強く摩擦されることによって脱色し、標章として浮かび上がるように構成されている。図例では、突条部5が丸リング状に形成されている。
【0023】
突条部5は、図2〜図4に示すように裏地面に配置された線状体6を全長に亘って刺繍ステッチ7にて密に包被する状態で裏地4に縫着することにより、芯としての線状体6が刺繍ステッチ7で覆われた二重構造に形成されている。
【0024】
芯となる線状体6は、着用者の体形や動きにフィットし得るだけの柔軟性を持ちながら、刺繍ステッチ7よりは高い強度と弾性を備え、腰の強い材料(たとえばウレタン樹脂)によってリング状に形成されている。
【0025】
刺繍ステッチ7には、綿糸、絹糸等の柔らかくて肌当たりの良い糸が用いられ、裏地4の表面に配置された線状体6に隙間無く巻き付けるように刺繍縫いされる。
【0026】
この構成によると、突条部5に対応する表地部分の脱色により、図5(ロ)(ハ)に示すように時間の経過とともに突条部5に対応するリング図形8,8´がポケット表側に浮
かび上がる。
【0027】
詳述すると、まず、軟らかい刺繍ステッチ7が表地側に加わる摩擦を受け止めるため、表地3が緩やかに、しかも公知技術の場合のような単純な線状の輪郭ではなく、刺繍ステッチ7の模様(以下、ステッチ模様という)が反映された形で脱色する。
【0028】
しかも、部位によって摩擦の大きさが異なるため、たとえばある部位は濃いステッチ模様、ある部位は薄いステッチ模様として脱色する。
【0029】
図5(ロ)はこの脱色によってステッチ模様(濃度差を省略して示す)を持つリング図形8が表れた状態を示す。
【0030】
ここで、刺繍ステッチ7を含む突条部5も、表地に対する相対運動によって摩擦を受けるため、表面の刺繍ステッチ7が徐々に摩耗し、摩滅後、代わって芯である線状体6が露出する。
【0031】
こうなると、表地3に加わる摩擦力が、それまでの刺繍ステッチ7の場合よりも強くなるため、線状体6が露出した時点を折れ点として、以後、脱色度が高くなるとともに、図5(ロ)に示すステッチ模様を持つリング図形8が、図5(ハ)に示す単なる太線状のリング図形8´へと変化する。
【0032】
こうして、刺繍ステッチ7と線状体6の異なる二種類の物性(硬さ、太さ、表面形状等)の違いによって、脱色度が折れ線状に変化するとともに、浮かび上がる標章のパターンが微妙に変化し、公知技術にはない風合いが得られる。
【0033】
また、表面が刺繍ステッチ7で覆われているため、肌当たりが柔らかくて違和感や異物感がなく、着心地が良いものとなる。とくに、この実施形態のように、芯(線状体6)が柔軟でありながら強度と弾性に富むため、ジーパンのような活動的な衣服に適用した場合に、着用者の体形や動きによりフィットし、着心地が一層良いものとなる。
【0034】
ところで、突条部5は、丸リング状に限らず、他の幾何学図形やハート形その他任意の形状としてもよいし、図形以外のもの(文字や記号等)としてもよい。
【0035】
また、本発明は、尻ポケットに限らず、ジーパン本体の胸ポケット、サイドポケット等にも適用できるし、ポケットに限らずひざや肘、太もも、衿等の他の部位にも適用することができる。
【0036】
なお、胸ポケットのように体の動きに沿って変形する必要性が低い部位に適用する場合、芯となる線状体6として硬質材料を用いてもよい。
【0037】
また、ジーパンに限らずジージャンにも適用できるし、ジーンズ以外の易脱色性生地を表地として用いたズボン、ジャケット等に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ポケット
2 ジーパン本体
3 表地
4 裏地
5 突条部
6 線状体
7 刺繍ステッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦によって脱色する易脱色性の表地と、この表地の裏側に取付けられた裏地とから成り、この裏地に設けられた突条部により、摩擦による表地の脱色度を高めて、時間の経過とともに突条部に対応する図形等の標章を表地表面側に浮かび上がらせるように構成される衣服において、裏地面に配置された線状体を全長に亘って刺繍ステッチにて密に包被する状態で裏地に縫着することにより、芯としての線状体が刺繍ステッチで覆われた二重構造の突条部を形成したことを特徴とする衣服。
【請求項2】
ウレタン樹脂等の強度と弾性に富む合成樹脂にて線状体を形成したことを特徴とする請求項1記載の衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−63927(P2011−63927A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262125(P2010−262125)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3140797号
【原出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(505213194)有限会社サムライ (1)
【Fターム(参考)】