説明

衣類

【課題】伸縮性を有する布地の特性を損なうことのない衣類を提供する。
【解決手段】少なくとも一の方向に伸長性を有する布地が縫合部で縫合されている衣類であって、前記縫合部の該一の方向における伸長時の長さL1が、前記布地の該一の方向における伸長時の長さL2に対しL1≧L2の関係を有することを特徴とする衣類により解決する。すなわち、少なくとも一の方向に伸長性を有する布地が縫合部で縫合されている衣類であって、縫合部は屈曲部分を含んでおり、所定区間内における縫合部に沿った縫合全長が、当該区間において該一の方向に該布地が最も伸長した場合の長さと同じかそれ以上となっている衣類を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類に関し、具体的には、着脱が容易であるとともに、使用時の使用感が良好な衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、伸縮性を有する布地を使用した衣類が多く市販されている。本明細書において、「伸縮性」とは、外力によりその力の方向に伸びる性質をいう。伸縮性を有する布地を使用した衣類は装着感が良好で、着脱も容易とされている。例えば、着用者の頭部を通過しやすくするために、衿部の芯地として周方向に伸縮する素材を使用した衣類が開示されている(特許文献1)。
【0003】
ここで、例えば上衣は通常、前身頃、後身頃、袖、袖身頃等、複数のパターンからなる。これらを一つの衣類として完成させるためには、各パターンを縫合糸で縫合する。縫合糸により縫合された部分は縫合部が形成されるが、この縫合部は、各パターンを縫合するという性質上、パターンに沿って、直線的に形成されているのが一般的である。
【特許文献1】特開2002−275715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の衣類では、伸縮性を有する布地を使用しても、縫合部が形成された部分は布地の伸長が制限されていた。例えば、上衣を装着するため袖に手を通したり袖を捲り上げたりする際にきつく感じたり、装着後に体を動かした際に布地のひきつりを感じるなど、伸縮性を有する布地の特性を活かせていなかった。
具体的に説明する。図8に、伸縮性を有する布地で構成された従来の上衣の袖部100を示す。ここで、図8(a)は袖部100の正面図であり、図8(b)は(a)に記載した袖部100の展開図である。図8(a)に示すように、この袖部100には袖端部縫合部110と袖下部縫合部112が形成されている。この袖下部縫合部112を解くと、図8(b)に示すように展開する。
【0005】
図8(a)及び(b)に示すように、従来の上衣の袖部100の袖端部縫合部110は、袖の折りしろ(図示せず)に沿って、袖の縁部114とほぼ平行に、かつ、直線状に形成されていた。このような袖端部縫合部110は、伸縮性を有する糸を使用しない限り、上衣の使用時における布地の伸長が袖端部縫合部110の長さLに制限される。即ち、袖部100の使用時における布地の伸長方向をXとすると、袖部100の布地は使用時にX方向に伸長する力が働くが、袖端部縫合部110は伸長しないため、伸縮性を有する布地が本来有する特性を活かすことができないという問題があった。
【0006】
従って、本発明は、伸縮性を有する布地の特性を損なうことのない衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は検討の結果、布地を縫合糸の伸張性に応じて縫合部と布地との関係を規定することにより、布地の伸縮性を損なわない衣類を得ることができるとの知見を得た。
【0008】
本発明の衣類はこのような知見に基づくものであり、少なくとも一の方向に伸長性を有する布地が縫合部で縫合されている衣類であって、前記縫合部の該一の方向における伸長時の長さL1が、前記布地の該一の方向における伸長時の長さL2に対しL1≧L2の関係を有することを特徴とする衣類を提供するものである。
【0009】
このような構成により、布地の伸長時の長さに対する縫合部の伸長時の長さが同じか上回っていることになるので、衣類の使用時における布地の伸長を妨げることがない衣類を提供することができる。
【0010】
上記発明の好ましい態様は以下の通りである。
前記縫合部は、屈曲部分を含んでいることが好ましい。屈曲部分を有することで、布地の一の方向における伸長時の長さよりも、縫合部の一の方向における伸長時の長さを長くすることができる。屈曲部分は、複数の屈曲部を含むものでも(例えば波形形状または鋸歯形状)、単一の屈曲を含むものでもよい。また縫合部の全長に亘って屈曲している必要はなく、縫合部の一部区間において屈曲部分を有するものであってもよい。
【0011】
また、本発明は、少なくとも一の方向に伸長性を有する布地が縫合部で縫合されている衣類であって、縫合部は屈曲部分を含んでおり、所定区間内における縫合部に沿った縫合全長が、当該区間において該一の方向に該布地が最も伸長した場合の長さと同じかそれ以上である、衣類を提供するものである。
【0012】
また本発明の衣類の縫製方法は、少なくとも一の方向に伸長性を有する布地を複数提供するステップと、前記複数の布地を縫合部にて縫合するステップと、を備え、前記縫合するステップでは、前記縫合部の該一の方向における伸長時の長さL1が、前記布地の該一の方向における伸長時の長さL2に対しL1≧L2の関係を有するように縫合することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、衣類の縫製方法であって、少なくとも一の方向に伸長性を有する布地を複数提供するステップと、前記複数の布地を縫合部にて縫合するステップと、を備え、ここで上記縫合するステップでは、所定区間内における前記縫合部に沿った縫合全長が、当該区間において該一の方向に該布地が最も伸長した場合の長さと同じかそれ以上となるように、前記縫合部に屈曲部分を含めて縫合することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る衣類は、衣類の装着時に布地が伸長しても縫合部の長さによって布地の伸長が制限されないため、伸縮性を有する布地の伸びを最大限に活かすことができる。従って、衣類の着脱が容易となるとともに、衣類の使用時の使用感を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態の一例として、上衣の袖部1の端部に形成された袖端部縫合部10を示したものである。布地は少なくとも一の方向(図面X方向)に伸張性を有している。図1に示すように、袖端部縫合部10は、緩やかな3つの湾曲部を備えたV字型に形成されている。図1(a)は非伸長時(リラックス時)の袖部1を示し、図1(b)は伸長時、即ち、上衣の使用時に布地がX方向に伸長して広がった状態の袖部1を示している。
【0016】
布地の長さは、袖端部縫合部10の始点10aと終点10bとを直線で結んだときの長さとする。図1(a)に示す状態のとき、非伸長時の布地の長さL3と袖端部縫合部10の長さL1は、L1>L3の関係を有する。即ち、布地の非伸長時は、布地の長さL2よりも袖端部縫合部10の長さL1の方が長い。
【0017】
図1(b)に示す状態のとき、袖端部縫合部10の長さL1と伸長時の布地の長さL2は、L1≧L2の関係を有する。即ち、布地の伸長時は、伸長した布地の長さL2と袖端部縫合部10の長さL1が同じであるか、布地の長さL2よりも袖端部縫合部10の長さL1の方が長い。
【0018】
このように、布地の伸長時を想定して予め縫合部の長さを長めに規定することにより、縫合糸に伸縮性の糸を用いなくても伸縮性を有する布地の伸びを有効に活かすことができる衣類を提供することができる。
【0019】
なお、縫合糸に伸縮性を有する糸を用いて袖端部縫合部10を形成することもできる。伸縮性の糸とは、例えば、20%以上の伸び率を有する糸を挙げることができる。伸縮性の糸を用いることにより、布地の伸びを更に容易にすることができる。また、伸縮性を有する糸を用いて袖端部縫合部10を形成した場合は、図1(a)に示す状態のとき、即ち、布地の非伸長状態であっても、袖端部縫合部10の長さL1と布地との関係をL1≧L2とすることができる。
【0020】
図2〜図5は本発明の実施形態に係る衣類の袖部における種々のバリエーションを示すものである。
図2は、袖端部縫合部11を波状に形成した例である。図2に示すように、縫合部は、複数の屈曲部からなり、個々の屈曲部の曲率が大きい緩やかな波形形状(正弦波形状等)にすることが可能である。このような縫合部形状とすれば、縫合部に審美性を持たせることができる。なお、縫合部の波形形状に規則的な振幅や周期を持たせる必要はない。
【0021】
図3は、袖端部縫合部12をジグザグ形状にした例である。図3に示すように、縫合部は、複数の屈曲部からなり、屈曲部が鋭角をなす鋸歯形状にすることが可能である。このような縫合部形状も、縫合部に審美性を与えることができる。また上記と同様に、縫合部の鋸歯形状に規則的な振幅や周期を持たせる必要はない。
【0022】
図4は、袖端部縫合部13をV字形状にした例である。図4に示すように、縫合部は、単一の屈曲部を有するように形成してもよい。このような縫合部形状も、縫合部に審美性を与えることができる。また、屈曲部の曲率を大きくして図2のような緩やかな屈曲とすることも可能である。
【0023】
図5は、袖端部縫合部14の一部にV字形状の切り込みを入れた例である。図5に示すように、縫合部の全長に亘って屈曲部を設ける必要はなく、一部のみに屈曲部を設けるように形成してもよい。このような縫合部形状も、縫合部に審美性を与えることができる。また、屈曲部の曲率を大きくして図2のような緩やかな屈曲としたり、図3のような波形形状としたり、図4のような鋸歯形状としたりしてもよい。
【0024】
上記バリエーションは一例を示したものであり、いずれの例も、縫合部の一の方向における伸長時の長さL1が、布地の一の方向における伸長時の長さL2に対しL1≧L2の関係を満たすものであればよい。
【0025】
図6は、本発明の他の実施形態を示す図である。図6(a)は上衣6の正面図であり、図6(b)は上衣6の背面図である。なお、上衣6は少なくとも一の方向に伸張性を有する布地で構成されている。
【0026】
図6に示すように、袖付け縫合部24は、その始点24aから終点24bにかけて、緩やかなS字形状に形成されている。このとき、袖付け縫合部24に沿った縫合全長は、袖付け縫合部24の始点24aから終点24bまでの区間において、Xで示す方向に布地が最も伸長した場合の長さと同じかそれ以上となっている。これにより、布地の伸び方向Xに対するゆとりができ、上衣6の装着感を向上させることができる。
【0027】
図7は、図6に示す袖付け縫合部24の変形例を示す図である。図7に示すように、袖付け縫合部28は、図6に記載した上衣6の袖下(腋)部分において、袖部22の前部22aと身頃20の前部20aとを縫合しつつ、袖下(腋)部分で袖下縫合部26に向かって図面上方に向かって湾曲し、袖下縫合部26の端部に至る縫合部28aと、袖下縫合部26から図面下方に向かって湾曲し、袖部22の後部22bと身頃20の後部20bとを縫合する縫合部28bとからなる。これにより、布地の伸び方向Xに対するゆとりができ、装着感を更に向上させることができる。
【0028】
本発明は伸縮性を有する布地を用いた種々の衣類に適用することができる。伸縮性を有する布地に縫合部が形成された衣類の具体例としては、例えば、トレーナー(スウェットも含む)、Tシャツ、パンツ、セーター、手袋、靴下、リストバンド、下着(アンダーウェア)、帽子、ネックウォーマー、寝袋等を挙げることができる。
【0029】
[実施例]
本発明に係る上衣につき、袖端部の伸縮性についての実施例に基づく評価を行った。実施例サンプルは、図1(a)に示したように、緩やかな3つの湾曲部を備えた略V字型の袖端部縫合部10が形成された袖部1を使用した。なお、袖部1は、袖端部縫合部10の長さL1、非伸長時の布地の長さL3及び伸長時の布地の長さL2の関係が、L1>L3かつL1≧L2の関係を満たしているものを使用した。
【0030】
試験方法は、まず、非伸長時の布地の長さL3を測定した後、袖端部縫合部10の始点10aと終点10bを把持し、X方向に左右に引っ張り、最大伸長時の布地の長さL2を測定した。そして、下記の式により布地の伸長率を求めた。
伸長率(%)=(L2−L3)/L3×100
【0031】
なお、比較例として、図8(b)に示す袖端部縫合部110が形成された袖部100を使用して、上記と同様の要領で布地の伸長率を求めた。
【0032】
【表1】

表1から明らかなように、本発明の縫製方法によって縫製された衣類は、従来の縫製による衣類(比較例)に比べて著しく伸長率が伸びていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態の一例として、上衣の袖部1の端部に形成された袖端部縫合部10を示したものである。
【図2】本発明の他の実施形態として、袖端部縫合部11を波状に形成した例である。
【図3】本発明の他の実施形態として、袖端部縫合部12をジグザグ形状にした例である。
【図4】本発明の他の実施形態として、袖端部縫合部13をV字形状にした例である。
【図5】本発明の他の実施形態として、袖端部縫合部14の一部にV字形状の切り込みを入れた例である。
【図6】本発明を袖付け縫合部24に適用した例を示す図である。
【図7】図6に示す袖付け縫合部24の変形例を示す図である。
【図8】伸縮性を有する布地で構成された従来の上衣の袖部100を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1:袖部、10:袖端部縫合部、6:上衣、20:身頃、22:袖部、24:袖付け縫合部、26:袖下縫合部、28:袖下縫合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一の方向に伸長性を有する布地が縫合部で縫合されている衣類であって、
前記縫合部の該一の方向における伸長時の長さL1が、
前記布地の該一の方向における伸長時の長さL2に対し、L1≧L2の関係を有することを特徴とする衣類。
【請求項2】
少なくとも一の方向に伸長性を有する布地が縫合部で縫合されている衣類であって、
前記縫合部は、屈曲部分を含んでおり、
所定区間内における前記縫合部に沿った縫合全長が、当該区間において該一の方向に該布地が最も伸長した場合の長さと同じかそれ以上である、衣類。
【請求項3】
前記縫合部は、屈曲部分を含んでいる、請求項1または2に記載の衣類。
【請求項4】
前記縫合部は、波形形状または鋸歯形状である、請求項3に記載の衣類。
【請求項5】
衣類の縫製方法であって、
少なくとも一の方向に伸長性を有する布地を複数提供するステップと、
前記複数の布地を縫合部にて縫合するステップと、を備え、
前記縫合するステップでは、
前記縫合部の該一の方向における伸長時の長さL1が、
前記布地の該一の方向における伸長時の長さL2に対しL1≧L2の関係を有するように縫合することを特徴とする衣類の縫製方法。
【請求項6】
衣類の縫製方法であって、
少なくとも一の方向に伸長性を有する布地を複数提供するステップと、
前記複数の布地を縫合部にて縫合するステップと、を備え、
前記縫合するステップでは、
所定区間内における前記縫合部に沿った縫合全長が、当該区間において該一の方向に該布地が最も伸長した場合の長さと同じかそれ以上となるように、前記縫合部に屈曲部分を含めて縫合することを特徴とする衣類の縫製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−114566(P2009−114566A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286734(P2007−286734)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(391008146)株式会社モンベル (19)
【Fターム(参考)】