説明

表皮貼込み成形法及び表皮貼込み成形型

【課題】 表皮にシワが入らず、さらに薄肉化や破れが起らない表皮貼込み成形法を提供する。
【解決手段】 下型1と上型2の間に表皮5をセットし、次いで、型閉じしてキャビティCを形成した後、下型1から該キャビティCへ溶融樹脂gを供給して表皮一体品Mを成形する表皮貼込み成形法において、上面側で部分的に隆起させた面ブロック32を形成した枠体3上に表皮5を配設し、次いで、上型2の型閉め進行により上型2と該枠体3とで表皮5を挟着し、その後、該枠体3の上方付勢力に抗して上型2を下降させ、下型1のキャビティ面11に表皮5を覆着するようにして型閉じを行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、成形品の成形過程でその表面に表皮が一体的に貼り合わされる表皮貼込み成形法及び表皮貼込み成形型に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車の内装部品などでは、高級感を呈すべく合成樹脂の成形品表面に表皮が貼り合わされた表皮一体品が多用されている。こうした表皮一体品は、例えば図9,図10のような表皮貼込み成形型を用いて造られてきた。まず、表皮周縁に設けた孔71に固定ピン81を挿入して枠体8上に表皮7をセットする。該固定ピン81で表皮7にテンションを与えて、表皮7にシワが出ないようにする。次いで、上型91を下降させて下型92のキャビティ面に表皮7を覆着するようにして型閉じを行い、その後、下型92の通路93から溶融樹脂をキャビティCへ供給して表皮一体品Mを成形するのである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、上記製法では、表皮一体品Mにコーナ部(湾曲部を含む)や深絞りがあると、固定ピン81に規制され、ここを起点にシワが出来易くなっていた。また、深絞りのコーナ部では薄肉化が進み、さらに破れの不具合まで引き起こすようになっていた。
【0004】本発明は上記問題点を解決するもので、表皮にシワが入らず、さらに薄肉化や破れが起らない表皮貼込み成形法及び表皮貼込み成形型を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成すべく、請求項1に記載の本発明の要旨は、下型と上型の間に表皮をセットし、次いで、型閉じしてキャビティを形成した後、下型から該キャビティへ溶融樹脂を供給して表皮一体品を成形する表皮貼込み成形法において、上面側で部分的に隆起させた面ブロックを形成した枠体上に表皮を配設し、次いで、上型の型閉め進行により上型と該枠体とで表皮を挟着し、その後、該枠体の上方付勢力に抗して上型を下降させ、下型のキャビティ面に表皮を覆着するようにして型閉じを行い、該型閉じ過程で、前記上型と前記枠体との面接触で表皮を押えることにより、キャビティ面の覆着に伴ない、テンションを越える外力が働いたときに多少のズレ込みを起させ、さらに、前記面ブロックの設置部位はその周辺の表皮を他の部分よりより強固な面で挟んで保持することで、他部分より強いテンションを与え、他の部分のほうからそのテンションを緩和する力を働かせて表皮を包み込んでいくことを特徴とする表皮貼込み成形法にある。請求項2に記載の本発明の要旨は、凸形のキャビティ面に溶融樹脂が供給されるゲートを設けた下型(1)と、該下型キャビティ面がつくる凸形部分を開口させて前記キャビティ面を取り囲む盤状体からなる枠体(3)と、該枠体との対向面をフラット面にして、該枠体とで表皮周囲を挟着可能とし、且つ前記下型とでキャビティを形成する上型(2)と、を具備し、前記枠体は上下動可能にして下降に伴ない上方付勢力を受けるようにし、且つ該枠体上面の一部を面ブロックで隆起させ段差を設け、該段差によって該枠体と前記上型とで表皮を挟着する際にその領域の挟着力をその領域以外の枠体による挟着力より大にして、表皮にテンションを与えシワになりにくい構造としたことを特徴とする表皮貼込み成形型にある。
【0006】請求項1,2の発明のごとく、上型と枠体との面接触による挟着で表皮貼込み成形を行うと、限界力を越えた外力が加わった際、表皮にズレが生じ、表皮の薄肉化や破れが起ることはない。そして、上型と面ブロックのところを一段高くした枠体とで表皮を挟着して表皮貼込み成形を行うと、表皮はこの面ブロックの部分で強いテンションがかかって貼り込まれるので、成形される表皮一体品にシワができにくくなる。
【0007】
【実施形態】以下、本発明に係る表皮貼込み成形法及び表皮貼込み成形型の実施形態について詳述する。図1〜図6は本発明の表皮貼込み成形法及び表皮貼込み成形型の一形態で、図1は型開き状態にある表皮貼込み成形型の断面説明図、図2は図1の下型及び枠体の平面図、図3R>3〜図5は表皮貼込み成形過程を示す断面説明図、図6は枠体周りの部分拡大図である。
【0008】(1)表皮貼込み成形型表皮貼込み成形型は、下型1と上型2と枠体3とを主要構成要素とする。下型1は、凸形のキャビティ面11を形成した雄型で、固定側金型になっている。該下型内に射出成形機や押出成形機などから送り込まれる溶融樹脂gが通る通路12を形成し、そのキャビティ面11には該溶融樹脂gをキャビティへ供給できるようゲートが設けられる(図1)。溶融樹脂gは表皮一体品Mの成形品Gを造る原料になり、その材料にはABS樹脂,ポリプロピレン,ポリエチレン,塩化ビニル樹脂等が用いられる。符号6は成形を終えた表皮一体品Mを突出すエジェクタピンを示す。上記凸形キャビティ面周囲の下型台座14には複数本の可動軸41(ここでは4本)が設けられ、この可動軸上端に枠体3を固着する。
【0009】上型2は、下型1との間に枠体3を配して、下型1に対向して配置される可動型である。上型2は凹形のキャビティ面21をもつ雌型となる。上型2の枠体3との対向面22は、面圧で表皮5を押さえつけて枠体3とで表皮周囲を挟着可能とすべく、フラット面が形成される。そして、上型2が枠体3を押えつけながら下降し、型閉じ状態になったとき、上型2と下型1とでキャビティCをつくる(図4)。尚、本実施形態では、上型2のキャビティ面21にアンダーカットができるため、上型下部にスライドコア23を設けている。
【0010】枠体3は、下型キャビティ面11がつくる凸形部分を開口Oさせて、該キャビティ面11を取り囲む盤状体としている(図1,図2)。尚、図1は図2のIV−IV線断面図である。前記可動軸41に圧縮コイルバネ42を嵌挿させて、該可動軸上端に枠体3が水平状態で支えられる。該枠体3は、可動軸41によって上下動可能となり、そして、圧縮コイルバネ42が介在することで下降に伴ない上方付勢力を受ける構成にある。
【0011】前記枠体3の上面は、表皮5が載るところが平らに形成される。枠体3の上に貼込みに使用される表皮5が配設され、上型2が下降して該枠体3と上型2とで表皮5を挟着できるようにするためである。ただし、枠体上面の一部は面ブロック32で隆起させ段差が設けられる。具体的には、表皮貼込み成形する表皮一体品Mのコーナ部や高低差の大きな深絞り部分等の領域を一段高くしたフラット面にしている。面ブロック32を枠体3の基部31に固着して、該面ブロック32のところを一段高くした平らな面を形成する。尚、枠体基部31と面ブロック32は別物として、これらを接着等で一体固着してもよいし、或いは両者を最初から一体形成したものでも構わない。面ブロック32がつくる段差によって、枠体3と上型2とで表皮5を挟着する際にその領域の挟着力がその領域以外の枠体による挟着力より大になり、表皮5にテンションを与えシワになりにくい構造となる。面ブロック32は本実施形態のような段差にせず、なだらかなスロープを設けて隆起させた段差状とするのでもよい。
【0012】上述のごとく、枠体上面の一部だけに面ブロック32を形成するのは、もし枠体上面を全域に亘って平らにしてしまうと、枠体3と上型2の全面で表皮5を挟着することになり、絞り率の大きい所で薄肉化による破れが発生しやすくなるからである。尚、表皮5に与えるテンションをコントロールしたい場合は、図7のように面ブロック32をいくつか分割するとよい。各面ブロック32a〜32eの高さを変えることによって微妙なテンション調整も可能になるからである。
【0013】本実施形態で用いられる表皮5には、塩化ビニル樹脂,ポリプロピレン,ファブリック等の表皮層51に、ポリプロピレンの発泡品やソリッド、或いは不織布等のシート状クッション材52を裏打ちしたものが挙げられる。
【0014】(2)表皮貼込み成形法表皮貼込み成形法は、前述の成形型を使用して以下のごとく行われる。まず、成形品Gに被着できる大きさに裁断した表皮5を、下型1と上型2の間に位置する枠体上にセットする(図1,図2)。枠体3の上面はフラットであるが、面ブロック32のところは高さα分だけ持ち上がった状態になる。上面側で部分的に隆起する面ブロック32を形成した枠体上に表皮5が配設される。面ブロック32の基部31からの高さαは例えば0.5mm〜3.0mmの範囲にあり、具体的な高さは成形品Gのコーナ部,湾曲部や深絞りの状況に応じて決定される。必要に応じて、面ブロック32にスペーサを入れて高さ調整が施される。
【0015】次いで、上型2を下降させ型閉めを進行させる(図3)。この型閉め進行に伴ない、上型2は枠体3とで表皮5を挟着し、枠体3の上方付勢力に抗してさらなる上型2の下降で、表皮5はテンションがかかった状態となる。そうして、下型1のキャビティ面11に表皮5を覆着していくが、型閉じが進む過程で、コイルバネ42の力で表皮5に所定のテンションを与えながら凸形の下型キャビティ面11にうまく覆着していくことになる。上型2と枠体3とが面接触で表皮5を押えているので、テンションを越える外力が働いたときは、キャビティ面11の覆着に伴なって多少のズレ込みが起り、表皮5の薄肉化や破れが回避される。また、従来のような固定ピン81で表皮5を止めて表皮の動きを規制するのでなく、面で表皮5を押えるのでシワができにくくなる。しかも、シワの発生し易い部位には面ブロック32が設置されているので、この周辺の表皮5を他の部分よりより強力な面で挟んで保持することになり、シワになろうとする起点をなくすことができる。シワの発生は、例えば成形品に図8のような凸形状があるところでは、該凸形状を包み込むときの表皮がよって、重なったものと考えられる。図8中、線分a,bとでは表皮5の展開率に差があるので、その差分が余ってシワが発生すると想定される。本実施形態では、こうしたシワをつくり易い凸形状部分を包み込む際に、面ブロック32を設置して表皮5を最大限伸ばしてやることにより、シワの発生を解消する。具体的には、シワができ易い角部等について面ブロック32で表皮5に加わる面圧調整を行う。斯る圧力調整によって、角部に他部分より強いテンションを与えることになり、角部のテンションが高くなるだけでなく、一般部(他の部分)のほうからそのテンションを緩和する作用(図2における表皮5の矢印の流れ)が働いて、シワや破れもなく角部を表皮5で包み込んでいく。こうして、型閉じが完了すると、上型2と下型1とでキャビティCが形成され、且つ、下型1のキャビティ面11に表皮5がうまく覆着される(図4)。この型閉じが完了した段階においては、表皮層51とクッション材52をもつ表皮厚みt1 が当初2.45mmあったものでも、上型2と面ブロック32で挟着された箇所ではその表皮厚みt2 が約0.45mm程度までになっている(図6)。
【0016】続いて、通路12,ゲート13を利用してキャビティCへ溶融樹脂gを供給する。キャビティCへ供給される溶融樹脂圧により、表皮5はキャビティ面21へ押圧され張った状態となる(図5)。ここでも、固定ピンで表皮5を規制しているのと違い、上型2と枠体3とが面接触で表皮5を押えているので、表皮5が膨らんでキャビティ面21へ密着するに伴ない、圧縮されたコイルバネ42の弾撥力を越えた範囲では按配よく表皮5のキャビティ内への多少のズレ込みが起こる。従って、表皮の薄肉化や破れは生じない。かくのごとくして、キャビティC内へ充填された溶融樹脂gは、その後、表皮5に覆着された状態で冷却固化して、所望の表皮一体品Mとなる。尚、本実施形態の溶融樹脂gが冷却固化してできる成形品Gの板厚は2〜3mm程度である。
【0017】(3)効果このように構成した表皮貼込み成形法及び表皮貼込み成形型によれば、成形品Gのコーナ部やその近傍等で強く押えておかねばならない所を、枠体3に面ブロック32を形成して所定のテンションを保ちながら、下型キャビティ面11さらには溶融樹脂層を覆うので、表皮一体品Mの表皮5にシワができにくくなる。そして、表皮5を張るテンションの度合はコイルバネ42の強弱選定により簡単に調整できる。さらに、枠体3と上型2との面圧で表皮5を押えているので、下型1への覆着に伴ない表皮5の多少のズレが容認され、深絞りのコーナ部等でも表皮5の薄肉化や破れが起ることはない。
【0018】尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。下型1,上型2,枠体3,表皮5等の形状,大きさ,材質等は用途に応じて適宜選択できる。
【0019】
【発明の効果】以上のごとく、本発明の表皮貼込み成形法及び表皮貼込み成形型は、表皮一体品にシワをつくらず、また成形過程で表皮の薄肉化や破れの不具合を引き起こさないなど優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表皮貼込み成形型の一形態で、型開き状態にあるその断面説明図である。
【図2】図1の下型及び枠体の平面図である。
【図3】表皮貼込み成形過程を示す断面説明図である。
【図4】表皮貼込み成形過程を示す断面説明図である。
【図5】表皮貼込み成形過程を示す断面説明図である。
【図6】枠体周りの部分拡大断面図である。
【図7】他形態の表皮貼込み成形型の部分平面図である。
【図8】成形品の凸形状周りの表皮のシワ発生状況の説明斜視図である。
【図9】従来技術の断面説明図である。
【図10】従来技術の断面説明図である。
【符号の説明】
1 下型
11 キャビティ面
13 ゲート
2 上型
22 対向面
3 枠体
32 面ブロック
5 表皮
g 溶融樹脂
C キャビティ
M 表皮一体品

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下型と上型の間に表皮をセットし、次いで、型閉じしてキャビティを形成した後、下型から該キャビティへ溶融樹脂を供給して表皮一体品を成形する表皮貼込み成形法において、上面側で部分的に隆起させた面ブロックを形成した枠体上に表皮を配設し、次いで、上型の型閉め進行により上型と該枠体とで表皮を挟着し、その後、該枠体の上方付勢力に抗して上型を下降させ、下型のキャビティ面に表皮を覆着するようにして型閉じを行い、該型閉じ過程で、前記上型と前記枠体との面接触で表皮を押えることにより、キャビティ面の覆着に伴ない、テンションを越える外力が働いたときに多少のズレ込みを起させ、さらに、前記面ブロックの設置部位はその周辺の表皮を他の部分よりより強固な面で挟んで保持することで、他部分より強いテンションを与え、他の部分のほうからそのテンションを緩和する力を働かせて表皮を包み込んでいくことを特徴とする表皮貼込み成形法。
【請求項2】 凸形のキャビティ面に溶融樹脂が供給されるゲートを設けた下型(1)と、該下型キャビティ面がつくる凸形部分を開口させて前記キャビティ面を取り囲む盤状体からなる枠体(3)と、該枠体との対向面をフラット面にして、該枠体とで表皮周囲を挟着可能とし、且つ前記下型とでキャビティを形成する上型(2)と、を具備し、前記枠体は上下動可能にして下降に伴ない上方付勢力を受けるようにし、且つ該枠体上面の一部を面ブロックで隆起させ段差を設け、該段差によって該枠体と前記上型とで表皮を挟着する際にその領域の挟着力をその領域以外の枠体による挟着力より大にして、表皮にテンションを与えシワになりにくい構造としたことを特徴とする表皮貼込み成形型。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【特許番号】第2934621号
【登録日】平成11年(1999)5月28日
【発行日】平成11年(1999)8月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−116196
【出願日】平成10年(1998)4月9日
【審査請求日】平成10年(1998)5月26日
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【参考文献】
【文献】特開 平8−156023(JP,A)
【文献】特開 平10−95021(JP,A)
【文献】特開 平7−308928(JP,A)
【文献】実開 平4−71216(JP,U)
【文献】実開 平6−36818(JP,U)