説明

表示マークを備えた鏡およびその製造方法

【課題】
銀引きされた鏡のガラス裏面に視認性のよい表示マークを形成する。
【解決手段】
ガラス板の裏面に金属反射膜と樹脂保護膜の積層膜がこの順に被覆された鏡の樹脂保護膜に、レーザビームを所定形状に照射して積層膜を加熱蒸発により一括除去し、その後露出したガラス板裏面に樹脂を埋め込むことにより、ガラス板裏面に表示マークを備えた鏡とする。照射されたレーザビームのエネルギーの一部が金属反射膜に吸収され、その大部分がガラス板を透過するようにレーザの波長を選ぶがよく、波長が0.7〜1.2μmのパルスレーザを面積で50%重なるよう走査する。樹脂保護膜に含まれる着色顔料には鉄成分の顔料が含まれないことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の裏面に表示マークが付与された鏡およびその製造方法に関し、さらに詳述すればガラス板裏面に樹脂膜により裏止め塗布された金属反射膜が被覆された表示マーク付き鏡(反射ミラー)に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板の裏面に金属反射膜とその金属反射膜を保護する樹脂保護膜を被覆して、ガラスの表面側を反射鏡として用いる鏡は広く使用されている。そして金属反射膜がない部分のガラスの裏面上に図柄、マークなどの各種機能表示体を設け、ガラスの表側からそれを視認できるようにした表示機能付き鏡が知られている。
【0003】
このような表示機能を備えた鏡を製造する方法が、特開平7−136047号公報に開示されている。特開平7−136047号公報によれば、ガラス板の裏面に銀の反射層を銀鏡反応により、その反射層を樹脂保護層により覆うことにより鏡とし、得られた鏡のガラス板の表側からYAGレーザ光をガラスを通して銀の反射層に照射し、文字、記号、図形等の画像を備えた鏡を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平7−136047
【0004】
また、特開平8−154792号公報には、ガラス板の裏面の適当な場所に所定形状のマスキング膜を施し、その後このマスキング膜を含めてガラス板裏面に銀鏡膜、銅膜を成膜し、樹脂保護膜を積層被覆し、しかるのちマスキング膜を剥離して銀鏡膜が除去された透視部をつくり、透視部に文字、図柄を施した表示機能を備えた鏡の製造方法が開示されている。
【特許文献2】特開平8−154792
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開平7−136047号公報に記載されている鏡の製造方法では、表示機能を有する画像を書き込むには、銀の反射層の一部を加熱により、銀を酸化銀などの銀鏡面とは異なる物質に変質させる必要があり、画像は黒色もしくは茶色系の色調を呈するものである。また、加熱により銀層が凝縮して樹脂保護層がガラス面に露出すると、樹脂保護層に含有されている着色顔料により、黒色もしくは茶色系の表示マークになってしまう。このような色調は、見栄えが良くなく表示マークとしての視認性が小さいというデザインおよび表示機能の点で問題点があり、より見栄えの良い表示機能を備えた鏡が望まれていた。
【0006】
鏡の製造方法は、ガラス板の裏面に銀鏡反応による銀反射層の形成、銅保護膜の形成、樹脂保護膜(裏止め塗膜)の形成を大面積のガラス板に行って、鏡素板の半製品とし、半製品の鏡素板を所望のサイズに切断して鏡製品とする方法が採用されている。特開平8−154792号公報に記載の鏡の製造方法によれば、銀の反射層を形成する前にマスキング膜を形成する必要があり、鏡の製造工程の最終工程で表示機能を付与することができない。このため、寸法形状が種々ある表示マーク付きの鏡を多品種少量のスタイルで製造するには、工程管理等の労力が増大し、経済性よく表示マークを備えた鏡を製造するのに不都合があった。
【0007】
また、鏡の樹脂保護膜に所定形状の開口部を有するマスク材を用いてその上から微粒子を吹きつけ、塗膜と金属反射膜を所定形状に一括除去するサンドブラスト法が表示マークを備えた鏡を製造する方法として知られているが、金属反射膜を完全に除去するとガラス裏面が削られて凹凸を有するようになり、クリアーな表示マークが得られないという技術的問題点があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点を併せて解決することを目的になされたものであって、見栄えの良い表示マークを備えた鏡を経済性よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1は、ガラス板の裏面に金属反射膜と樹脂保護膜の積層膜がこの順に被覆された鏡の前記樹脂保護膜に、レーザビームを所定形状に照射して前記積層膜を加熱蒸発により一括除去し、その後露出した前記ガラス板の裏面に樹脂を埋め込むことを特徴とするガラス板の裏面に表示マークを備えた鏡を製造する方法である。
【0010】
請求項2は、請求項1において、前記照射されたレーザビームのエネルギーの一部が金属反射膜に吸収され、その大部分が前記ガラス板を透過することを特徴とする表示マークを備えた鏡の製造方法である。
【0011】
請求項3は、請求項1または2において、前記金属反射膜は、ガラス板側から銀膜と銅保護膜の積層膜であることを特徴とする表示示マークを備えた鏡の製造方法である。
【0012】
請求項4は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記レーザビームは、波長が0.7〜1.2μmのパルスレーザであることを特徴とする表示マークを備えた鏡の製造方法である。
【0013】
請求項5は、請求項4において、照射する前記パルスレーザの重なり度を面積で50%以上とすることを特徴とする表示マークを備えた鏡の製造方法である。
【0014】
請求項6は、請求項1〜5のいずれかにおいて、前記樹脂保護膜に着色顔料が含有されるとき、該着色顔料は鉄成分を含まない顔料であることを特徴とする表示マークを備えた鏡の製造方法である。
【0015】
請求項7は、ガラス板の裏面に金属反射膜と樹脂保護膜の積層膜がこの順に被覆され、前記積層膜がない部分のガラス板の裏面に前記ガラス板表面側から視認できる表示マークが形成された鏡であって、前記表示マークは、前記積層膜がレーザ照射により除去された部分のガラス裏面に樹脂が埋め込まれて形成されてなることを特徴とする表示マークを備えた鏡である。
【0016】
請求項8は、請求項7において、前記樹脂保護膜には、鉄系の顔料を含まない着色顔料を含むことを特徴とする表示マークを備えた鏡である。
【0017】
請求項9は、請求項8において、前記樹脂保護膜に含有する着色顔料の金属成分は、Ti、Zn、C、Cr、Cu、Co、Zr、Siの群から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする表示マークを備えた鏡である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表示マークを備えた鏡の製造方法は、レーザビームを樹脂保護膜に照射して積層膜を一括蒸発除去し、その後、ガラス板の裏面の露出部に樹脂を埋め込むので、表示マークを鏡素板から切り出した鏡半製品あるいは鏡製品の二次加工により必要に応じて形成することができる。これにより、表示マークの加工を必要により実施でき、多品種少量製造に適した表示マークを備えた鏡を製造できる。また、積層膜を一括除去するにあたりマスクや型を使用せずに行うことができ経済性がよい。
【0019】
また、照射するレーザビームのエネルギーの一部が金属反射膜に吸収され、その大部分がガラス板を透過するようにレーザの波長を選択することにより、ガラス板裏面の荒れを発生させることなく視認性のよい表示マークを形成することができる。
【0020】
また、レーザビームの照射位置を重なるようにして走査しながら照射することにより、積層膜の未蒸発による残渣が認められず、かつガラス板の微細クラックが生じずに積層膜を除去できる。これによりもとの鏡のガラス強度を低下させることなく、表示マークを備えた鏡にすることができる。
【0021】
また、レーザビームのパルス照射の重なり度を面積で50%以上とするので、積層膜の部分的な未蒸発による残渣が一層確実に生じないようにすることができる。
【0022】
また、樹脂保護膜に含有する着色顔料が鉄成分を含まない顔料とすることにより、レーザ照射による金属反射膜と樹脂保護膜の一括蒸発除去の際に、ガラス裏面に鉄化合物がガラス面に焼きつくことがない。これによりガラス裏面が黄色に変質する現象が抑制され、清潔感のある表示マークを形成することができる。
【0023】
本発明の表示マークを備えた鏡の表示マークは、ガラス裏面に塗布形成された金属反射膜と樹脂保護膜の積層膜が、ガラス裏面の荒れや微細クラックが発生することなく完全に除去され、その部分に樹脂が埋め込まれて形成されているので、明るく認識性が高い。また本発明の表示マークを備えた鏡は、積層膜の一括蒸発除去に際してガラス裏面がダメージを受けないので、もとの鏡のガラスと同等の機械的強度を有する。
【0024】
さらに、樹脂保護膜に鉄系の顔料を含まない着色顔料を含む光遮蔽性保護膜とすることにより、ガラス裏面には未蒸発鉄分の残渣による表示マークの黄ばみ現象が生じることがないので、一層見栄えのよい表示マークを備えた鏡とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明の表示マークを備えた鏡の正面図である。ミラーのコーナー部に、透明樹脂からなる文字、図形、模様などからなる表示マークが形成されている。図2は、本発明の表示マークを備えた鏡の断面図である。ガラス板2の裏面(図で上側の面)に金属反射膜3が被覆され、この金属反射膜3は、ガラス板側から銀膜3a、銅保護膜3bの積層膜であり、さらに金属反射膜3を保護するために顔料が混入された光遮蔽性の樹脂保護膜4が裏止め塗布されている。金属反射膜3と樹脂保護膜4の積層膜の一部が所定形状でガラス板2の裏面が露出するまで除去されていて、その部分に透明樹脂5が埋め込まれている。この透明樹脂5が鏡のミラー面から見たとき表示マークとなる。
【0026】
本発明の表示マークを備える鏡に用いられるガラス板としては、窓ガラスとして用いられるソーダライムシリカ組成のフロートガラス板を挙げることができる。ガラス板の裏面(鏡としたときの金属反射膜が被覆される側の面)に被覆される金属反射膜は、反射率が高いことから銀膜やアルミニウム膜が好ましく、これらの金属膜を保護する密着性のよい金属膜(メタルバック)として通常銅が被覆される。銀膜と銅保護膜の総厚みは、通常100〜200nmに調整される。銀膜は、無電解メッキ法により膜状に析出させて形成したいわゆる銀鏡膜が通常用いられるが、真空蒸着などの他の方法で形成されていてもよい。銀膜と密着性が良く化学的により安定性が高い金属保護膜として、無電解メッキ法による銅が選ばれるが、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、錫、錫合金などの金属も金属保護膜として使用できる。
【0027】
本発明の鏡の金属反射膜には、裏止め塗膜として樹脂を主成分とする樹脂保護膜が被覆される。樹脂保護膜は裏止め塗膜ともいわれ、アルキッド系の樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変性エステル樹脂、ビスフェノール変性エポキシ樹脂、フェノール変性エポキシ樹脂等が用いられる。
【0028】
樹脂保護膜には樹脂保護膜に光遮光性を付与するために非水溶性の顔料が樹脂マトリックス中に分散混入される。樹脂中に混合される顔料としては、光明丹(鉛系)、弁柄(鉄系)、鉛シアナミド(鉛系)、炭酸カルシウム(カルシウム系)、酸化チタン(チタン系)、亜鉛華(Zn系)、黄鉛(鉛系)、酸化クロム(クロム系)、酸化鉄(鉄系)、群青(アルミニウム系)、カーボンブラック(炭素系)、鉄黒(鉄系)などの着色顔料、タルク(マグネシウム系)、マイカ(珪素系)、バライト(バリウム系)、ホワイトカーボン(珪素系)、紺ジョウ(鉄系)などの体質顔料が挙げられる。これらの顔料は、通常複数選ばれて混合され、樹脂成分1に対して、0.4〜4程度の範囲で含有される。
【0029】
本発明の鏡の製造方法において、レーザ光を照射して樹脂保護膜を加熱して蒸発逸散させる際に、鉄系の顔料は蒸発による除去が十分に行われず、ガラス面に焼き付いてガラス面を黄色に変質させる。この理由により明るい清潔感のある表示マークを形成するには鉄系の顔料は含まないことが好ましい。
【0030】
本発明の鏡の金属反射膜および顔料を含有する樹脂保護膜を所定形状に一括蒸発除去(スリ抜き加工)するために用いるレーザ光は、ガラスに表面荒れや微細クラックを発生させることなく、かつ金属反射膜及び樹脂保護膜を蒸発除去することが重要である。このために、照射するレーザ光は金属反射膜に吸収されて金属膜を溶融蒸発する作用を有するとともに、金属反射膜を蒸発したのちガラス面に達したレーザ光の大部分がガラスを透過し、ガラスを加熱する作用が小さく、もってガラスの局部的温度上昇を抑制することが重要である。このような観点から照射されるレーザ光は、金属膜に吸収されることと、そのエネルギーの多くがガラスを透過することが好ましい。本発明においては、照射するレーザ光の波長は0.7〜1.5μmの近赤外域の波長を発振するレーザ光がよく、具体的にはYAGレーザ(1.06μm)や半導体(LD)レーザ(約0.7μm)が好ましい。
【0031】
表1に、YAGレーザと炭酸ガスレーザのガラス、銀、銅に対する反射率、吸収率、透過率を示す。YAGレーザは銀および銅に吸収されるので、これらの金属はよく加熱される。一方、これら金属膜が加熱除去されてガラス面に達したレーザの大部分(表1で85%)は、ガラスを透過するので、ガラスの加熱を抑制しながら金属膜が加熱蒸発される。一方、炭酸ガスレーザは銀および銅に対して吸収されず、効果的にこれらの金属を加熱するには不向きであり、これらの金属を加熱昇温するには、大きなレーザエネルギーの照射が必要である。そして金属反射膜を除去後ガラスに到達したレーザは、ガラスに大部分(表1で80%)吸収されるので、ガラスの加熱(レーザ照射された部分の局部加熱)が行われやすく、熱歪みに抗しきれず微小クラックがガラス裏面に発生しやすい。
【0032】
【表1】

【0033】
樹脂保護膜中に無機顔料が含有されていても、樹脂保護膜のマトリックス成分は融点が低い有機樹脂であるので、樹脂保護膜は金属反射膜に比べて低温で分解除去されるが、樹脂中に含有する無機系の顔料は通常融点が高いので蒸発逸散させるには、さらに高温に加熱する必要がある。
【0034】
YAGレーザビームの樹脂保護膜上への照射は、走査と照射を繰り返してあるいは走査させながらワンパルス毎照射位置をずらして、所定形状に積層膜をスリ抜き加工する。それにはYAGレーザ発振器から出射したレーザビームをミラー等の光学系により方向を調整し、集光レンズやfθレンズやガルバノスキャンミラー等を備えたレーザビーム走査機構を用いて、XーY方向可動台に載置された鏡に照射する。
【0035】
レーザビームの走査は、隣り合う照射パルスの重なり度が面積で50%以上とすることにより、残渣物がない一括蒸発除去が確実にできる。加工スピードの低下を防止し、またガラス裏面のクラックなどのダメージの発生を防止する観点から、重なり度が75%以下とするのが好ましい。
【0036】
レーザビームの照射直径を100μmとし、レーザビームの送り速度(加工速度)を50〜100mm/秒、送りピッチを25〜50μm、照射エネルギー量を10m/J程度とすることにより、ガラスの微小クラックに基づく不透明化を生じさせることなく、積層膜を一括蒸発除去することができる。
【0037】
表示マークとなる積層膜除去部に埋め込む材料は、特に限定されないが透明樹脂が好ましい。所定形状に除去された部分に埋め込まれた樹脂は、ミラー面から見たとき、明るい視認性のよいマークになる。アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂など公知の樹脂が用いられ、必要により着色剤や蛍光物質や蓄光剤を練り込むことにより、着色あるいは光輝性の表示マークにすることができる。また、透明樹脂膜の裏側にLEDなどの照明光源を設置することにより発光タイプの表示マークにすることができる。
【実施例1】
【0038】
ガラス板裏面に銀膜と銅保護膜と樹脂保護膜がこの順に積層被覆された鏡(ハイミラー(社)製ミラー)の樹脂保護膜の表面に、ガラスの吸収率が11%である波長1.06μmのYAGレーザを照射して所定形状のパターンに積層膜の一括蒸発除去を、予備加工実験を踏まえて下記の加工条件で行った。
【0039】
加工条件
使用マスク:アルミニウムテープ
照射ビーム径:直径100μm
レーザ出力:6W
繰り返し周波数:5KHz
加工(ビーム走査)速度:100mm/秒
加工線(走査線)送りピッチ:50μm(レーザビームの重ね代50%)
【0040】
積層膜を一括蒸発除去したガラス面は透明であり、残渣物(加工残り)は認められなかった。また、除去部の周縁部はシャープであった。この加工部分に光重合型アクリル透明樹脂を埋め込んで硬化した。ミラー面から見た表示マークは透明感があり、良好なマークであった。このマークの背後に照明光源を設置したところ、光る表示マーク付きの鏡が得られた。
【0041】
比較例1
実施例1と同じ鏡に同じ所定形状のパターンの表示マークをガラスの吸収率が80%の炭酸ガスレーザを照射して積層膜の一括蒸発除去を、予備加工実験を踏まえて下記の加工条件で行った。
【0042】
加工条件
使用マスク:アルミニウムテープ
照射ビーム直径:400μm
レーザ出力:19W
繰り返し周波数:3kHz
加工速度:100mm/秒
加工線送りピッチ:200μm(レーザビームの重ね代50%)
【0043】
積層膜の一括蒸発除去を行うことができたが、積層膜の薄膜化および除去により、レーザが照射されたガラス面に微細なクラック集合体が形成され、透明なガラス面は得られなかった。このガラス面に実施例1と同じようにアクリル透明樹脂を埋め込んだが、透明感のある明るい表示は得られなかった。
【0044】
なお、ガラスのダメージを無くするために、レーザ出力を下げると積層膜の除去を完全に行うことができなくなった。炭酸ガスレーザの照射では、加工条件を種々変えて積層膜の一括蒸発除去を試みたが、ガラス面に微小クラックを生じさせないで除去を行うことは困難であった。
【実施例2】
【0045】
樹脂保護膜中の顔料成分が積層膜の一括除去に及ぼす影響を調べた。製造メーカの異なる三種の鏡を試験片として用意し、下記の加工条件で積層膜の一括蒸発除去を行い、その後アクリル樹脂による埋め込みを行って、30mm×30mmの大きさの表示マーク付きミラーのサンプルを製作した。また樹脂保護膜の成分元素分析を別に実施した。
【0046】
加工条件
レーザビーム照射径:100μm
レーザ出力:3〜45Wで変更
繰り返し周波数:5KHz
ステージ送り速度:50mm/秒
重ね送りピッチ:10〜50μm変更(重ね代50〜90%)
【0047】
サンプル1については、6Wおよび22Wで、重ね送りピッチを選ぶことにより積層膜の除去ができ、アクリル透明樹脂を除去部分に埋め込むことにより、クリアーな表示マーク付き鏡とすることができた。しかしながらサンプル2、3については、積層膜を完全に除去ができなかった。そのため積層膜を除去するためにレーザ光源の出力をアップして加工してほぼ積層膜を除去したところ、ガラス面に固着した黄色付着物が見られた。また、ガラス面は摺りガラス状に表面が荒れて透視性が確保されていなかった。この原因を調べるために樹脂保護膜の成分元素を分析したところ、サンプル2と3にはサンプル1に含まれない鉄系の顔料が含まれていることが判明した(表2)。弁柄などの鉄系の顔料は、レーザ照射により蒸発除去しにくく、ガラス面と融着し易い鉄酸化物が形成するため、加工性を劣化させると推定された。このことから、本発明を実施する鏡の樹脂保護膜の顔料としては鉄系の顔料が含まれないことが好ましい。
【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の表示マーク付き鏡は、洗面鏡台や壁掛の鏡さらに手鏡などに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の表示マークを備えた鏡の正面図である。
【図2】図2は、本発明の表示マークを備えた鏡の断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1:鏡
2:ガラス板
3:金属反射膜
3a:銀膜
3b:銅保護膜
4:樹脂保護膜
5:樹脂(表示マーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の裏面に金属反射膜と樹脂保護膜の積層膜がこの順に被覆された鏡の前記樹脂保護膜に、レーザビームを所定形状に照射して前記積層膜を加熱蒸発により一括除去し、その後露出した前記ガラス板裏面に樹脂を埋め込むことを特徴とするガラス板裏面に表示マークを備えた鏡の製造方法。
【請求項2】
前記照射されたレーザビームのエネルギーの一部が金属反射膜に吸収され、その大部分が前記ガラス板を透過することを特徴とする請求項1に記載の表示マークを備えた鏡の製造方法。
【請求項3】
前記金属反射膜は、ガラス板側から銀膜と銅保護膜の積層膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示マークを備えた鏡の製造方法。
【請求項4】
前記レーザビームは、波長が0.7〜1.2μmのパルスレーザであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表示マークを備えた鏡の製造方法。
【請求項5】
照射する前記パルスレーザの重なり度を面積で50%以上とすることを特徴とする請求項4に記載の表示マークを備えた鏡の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂保護膜に着色顔料が含有されるとき、該着色顔料は鉄成分を含まない顔料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表示マークを備えた鏡の製造方法。
【請求項7】
ガラス板の裏面に金属反射膜と樹脂保護膜の積層膜がこの順に被覆され、前記積層膜がない部分のガラス板の裏面に前記ガラス板表面側から視認できる表示マークが形成された鏡であって、前記表示マークは、前記積層膜がレーザ照射により除去された部分のガラス裏面に樹脂が埋め込まれて形成されてなる表示マークを備えた鏡。
【請求項8】
前記樹脂保護膜には、鉄系の顔料を含まない着色顔料を含むことを特徴とする請求項8に記載の表示マークを備えた鏡。
【請求項9】
前記樹脂保護膜に含有する着色顔料の金属成分は、Ti、Zn、C、Cr、Cu、Co、Zr、Siの群から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項8に記載の表示マークを備えた鏡。

【図1】
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【図2】
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