表示体及びラベル付き物品
【課題】より高い偽造防止効果を実現する表示体を提供する。
【解決手段】表示体10は、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bから光透過層11の厚さ方向に凹状の回転放物線形状を呈する回折用の凹部12aを反対の面11bに沿い予め決められたピッチPでマトリクス状に配列し形成されるレリーフ構造部12を備え、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bで、レリーフ構造部12を除く箇所が平坦部DP3として構成され、この平坦部DP3及びレリーフ構造部12の表面には反射層13が形成されている。そして、反射層13aの法線方向の膜厚Taを反射層13bの法線方向の膜厚Tbの25%以上85%以下の範囲に設定する構成にした。
【解決手段】表示体10は、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bから光透過層11の厚さ方向に凹状の回転放物線形状を呈する回折用の凹部12aを反対の面11bに沿い予め決められたピッチPでマトリクス状に配列し形成されるレリーフ構造部12を備え、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bで、レリーフ構造部12を除く箇所が平坦部DP3として構成され、この平坦部DP3及びレリーフ構造部12の表面には反射層13が形成されている。そして、反射層13aの法線方向の膜厚Taを反射層13bの法線方向の膜厚Tbの25%以上85%以下の範囲に設定する構成にした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止機能を備えた表示体及び商品券、小切手、磁気カード、IC(identification)カード等の偽造対策が必要な表示体を用いたラベル付き物品に関する。
偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券及び株券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのために従来から、そのような物品にはその偽造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なラベルが貼り付けられている。
また、近年では、認証物品及び有価証券以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品に、認証物品及び有価証券に関して上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0003】
このような目的では、従来から、観察角度等に応じた色変化(カラーシフト)を生じるOVD(optical variable device)などが利用されている。OVDとしては、例えば、多層膜、ホログラム及び回折格子がある。
多層膜は、光学特性が異なるセラミックや金属を幾重にも積層した構造を有している。多層膜では、各層の光学的厚さを適宜設計することにより、或る波長の光に強め合う干渉を生じさせ、他の波長の光に弱め合う干渉を生じさせることができる。界面間の光路長は観察角度に応じて変化するので、観察角度を変化させると、強め合う干渉を生じる光の波長と弱め合う干渉を生じる光の波長とが変化する。このような原理で、多層膜は、観察角度に応じたカラーシフトを生じる。
【0004】
ホログラム及び回折格子などの回折構造は、例えば、微細な凹凸パターンからなるか、又は、縞状の屈折率分布が設けられた層からなる。回折構造は、白色光で照明すると、回折光を波長に応じて異なる角度で射出する。回折構造がカラーシフトを生じるのは、この分光作用などのためである。
このように、OVD、特に回折構造は、特徴的な視覚効果を有している。そして、回折構造を利用すると、立体画像や虹色に輝く特殊な装飾画像などの複雑な画像を表示させることができる。加えて、以下に説明するように、回折構造は、その製造に高度な技術を要する。
【0005】
ホログラムは、例えば、体積型ホログラムとレリーフ型ホログラムとに分類することができる。
体積型ホログラムの製造では、感光性樹脂等の記録材料からなる層に3次元的に干渉縞を記録する。体積型ホログラムとしては、リップマンホログラムが一般的に使用されている。
【0006】
レリーフ型ホログラムの製造に際しては、まず、レーザー光の干渉を利用した光学的撮影方法、又は電子線描画などにより、表面に微細な凹凸パターンが設けられた樹脂層を含んだ原版を作製する。次に、この原版から、電鋳等により金属製スタンパを作製する。その後、ポリエチレンテレフタレート(PET)等からなる基材の平坦部上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂等を塗布し、これに先の金属製スタンパを密着させる。この状態で熱や光を与えて樹脂を硬化させ、更に樹脂層から金属性スタンパを剥離することによりレリーフ型ホログラムを得る。
回折格子の製造は、例えば、レリーフ型ホログラムの製造について説明したのと同様の方法により行う。
【0007】
特許文献1には、回折格子を用いて立体画像を表示する表示体が記載されている。また、特許文献2には、画素構造を採用した表示体が記載されている。
回折格子に対する照明光の入射角を固定して回折格子を白色光で照明した場合、この回折格子が表示する色は、回折格子の格子定数、即ち、回折格子を構成している格子線の空間周波数と、観察方向が回折格子の法線に対してなす角度と、格子線が観察方向と回折格子の法線とに平行な平面に対してなす角度とによって決定される。従って、表示体を複数の画素で構成した場合、表示すべき画像の色から、各画素の回折格子に採用すべき構造を特定することができる。このような画素構造を採用すると、表示体の設計が容易になる。
【0008】
上記の通り、回折構造は、特徴的な視覚効果を提供することができ、その製造に高度な技術を要する。このため、偽造防止効果を期待して、回折構造を含んだ表示体を上述した物品に支持させることがある。また、上記の通り、回折構造は特徴的な視覚効果を提供し得るため、装飾材や絵本及びカタログ等の一般的な印刷物に利用されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5058992号明細書
【特許文献2】特開平6−82612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、回折構造はその製造に高度な技術を要するが、近年の微細構造の解析技術の向上や微細加工技術の普及に伴い、回折構造を含んだ表示体の偽造が可能となりつつある。即ち、回折構造を含んだ表示体の偽造防止効果は低下しつつある。
また、回折構造を含んだ表示体の普及に伴い、回折構造が提供する視覚効果の特殊性は低下しつつある。
【0011】
本発明は、上記のような従来の問題を解決するためになされたもので、その目的は、偽造が困難であり、かつ特殊な視覚効果を実現できる表示体及びこれを用いたラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、表示体であって、光透過層と、前記光透過層の一方の面の一部に回折用の凹部及び凸部の何れか一方または両方を決められたピッチで配列形成してなるレリーフ構造部とを備え、前記一方の面で前記レリーフ構造部と共に平坦部を有し、前記レリーフ構造部の表面の少なくとも一部及び前記平坦部の少なくとも一部にこれらを覆う反射層がそれぞれ形成され、前記レリーフ構造部を覆う前記反射層の法線方向の膜厚が前記平坦部を覆う前記反射層の法線方向の膜厚の25%以上85%以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載の表示体であって、前記凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上500nm以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の表示体において、前記反射層を介して形成された樹脂層を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、ラベル付き物品であって、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、見易い正面からの観察時に、従来のホログラムや回折格子には見られない黒さまたは透明さを表現することができ、かつ、従来のホログラムや回折格子と組み合わせることにより、偽造防止効果と意匠性を高めるとともに、正面から大きく傾けて観察したときは絵柄、文字、記号等を表示することで真偽判定を容易にすることができる表示体及びラベル付き物品を提供できる。
なお、表示体とは、文字、絵、図柄等の情報を光強度の変化で提示し、目視や機械読み取りによって確認できるものである。
【0017】
そして、レリーフ構造部を覆う反射層の法線方向の膜厚を平坦部を覆う反射層の法線方向の膜厚の25%以上85%以下にすることで、レリーフ構造部の反射率を低く、または透過率を高くすることが可能となる。これにより、光透過層の同一面内で、前記平坦部が鏡面として振舞うことに対し、レリーフ構造部は黒または透明さを表現することが可能となる。
ここで、反射層の法線方向膜厚とは図1に示すように、レリーフ構造部の表面形状の各点に対する法線方向の反射層の厚みであり、黒とは可視光領域において正反射方向の反射率が20%以下の状態を示す。
【0018】
また、本発明によれば、凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上500nm以下の範囲に設定することで、レリーフ構造部による回折光角度を大きくでき、正面からの観察では平坦部の鏡面と、レリーフ構造部の黒さまたは透明さを観察することができ、大きな角度では、レリーフ構造部による回折光を観察することが可能となる。
また、本発明によれば、反射層を介して積層された樹脂層を備えることにより、レリーフ構造部を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部の一例を示す説明用斜視図である。
【図2】図1のA−A'線に沿うレリーフ構造部の断面図である。
【図3】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部である領域DP1を観察するときの説明図である。
【図4】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部以外の平坦部DP3を観察するときの説明図である。
【図5】本発明にかかる表示体の反射層における法線方向の膜厚と反射率/透過率との関係を示すグラフである。
【図6】本発明にかかる表示体の全体構成の一例を概略的に示す平面図である。
【図7】本発明にかかる表示体を偽造防止用又は識別用ラベルとして印刷物本体に取り付けてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。
【図8】本発明にかかる表示体を粘着層を介して印刷物本体に取り付け場合の一例を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部を構成する凹部(または凸部)の構造例を概略的に示す斜視図である。
【図10】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部を構成する凹部(または凸部)の別の構造例を概略的に示す斜視図である。
【図11】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部を構成する凹部(または凸部)の別の構造例を概略的に示す斜視図である。
【図12】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部を構成する凹部(または凸部)の別の構造例を概略的に示す斜視図である。
【図13】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部の他の例を示す説明用斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図1乃至図13を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
本実施の形態である表示体10は、図1及び図2に示すように、一定厚さの平板状の光透過層11を備え、この光透過層11の一方の面11aと反対の面11bの一部には、目視による真偽の判別を可能にするレリーフ構造部12が形成されている。
レリーフ構造部12は、観察する角度により明度及び彩度の低い色の表示と回折光射出の2つの機能を選択的に実現させるもので、図1及び図2に示すように、光透過層11の反対の面11bから光透過層11の厚さ方向に凹状の回転放物線形状を呈する凹部12aを反対の面11b(X−Y平面)に沿い予め決められたピッチPでマトリクス状に配列し形成することにより構成される。また、各凹部12aの反対の面11bからの深さがHである。
また、光透過層11の反対の面11bで、レリーフ構造部12を除く箇所が平坦部DP3として構成され、この平坦部DP3及びレリーフ構造部12の表面には反射層13が形成されている。さらに、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bには反射層13を介して樹脂層15が設けられている。
反射層13は、一方の面11aから入射し凹部12aとの界面及び平坦部DP3の界面を透過した照明光を一方の面11a側へ反射させるためのものである。
また、図2において、Taはレリーフ構造部12を覆う反射層13aの法線方向の膜厚を表し、Tbは平坦部DP3を覆う反射層13bの法線方向の膜厚を表している。そして、反射層13aの法線方向の膜厚Taは反射層13bの法線方向の膜厚Tbの25%以上85%以下の範囲に設定されている。
なお、本発明においては、反射層13を平坦部DP3の全域及びレリーフ構造部12の表面の全域に設ける必要がなく、平坦部DP3の一部及びレリーフ構造部12の表面の一部に設けるようにしてもよい。
【0022】
光透過層11は1つの層から構成されても良いし、複数の層により構成されていても良い。
また、光透過層11を構成する材料も特に指定するものではなく、可視光において光を透過すればよく、透明樹脂などの材料を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂を使用し、金型を用いた転写により凹部12aを形成できる。
また、反射層13としては、例えば、アルミや銀、金またはそれらの合金などを使うことができ、蒸着やスパッタリング等の方法で形成できる。
【0023】
上記のように構成された表示体10において、まず、図3に示すように、レリーフ構造部12を有する領域DP1の観察時では、レリーフ構造部12の凹部12aを反射層13aで覆うことで、反射層13aの断面積が大きくなり、光の吸収が大きくなる。さらに、反射層13aの法線方向の膜厚Taを薄くすることで、より、透過率を上げ、また反射率を下げることが可能となる。
したがって、観察者VW1が表示体10のレリーフ構造部12を有する領域DP1を正面で観察した場合、光源LSから照明光LIの正反射光LR1が小さくなり、黒色乃至灰色を表現することができる。また、レリーフ構造部12の中心間距離、すなわちピッチPが200nm以上500nm以下にすることにより、レリーフ構造部12による回折光LD1が表示体10の正面方向に発生せず、正面方向に対し、大きな角度に回折光が発生するので、観察者VW2が正面から大きく傾けて観察したときのみ、回折光による絵柄、文字、記号等を表示することが可能になる。
また、図4に示すように、観察者VW1が表示体10の平坦部DP3を正面で観察した場合、平坦部DP3は反射層13bの法線方向の膜厚Tbが厚く鏡として振る舞うため、光源LSから照明光LIの正反射光LR1は大きく明るく観察することができ、観察者VW2が正面から大きく傾けて観察したときは暗くなる。
【0024】
次に、反射層13aと13bの法線方向の膜厚の違いによるレリーフ構造部の反射率、透過率の変化について図5を参照して説明する。
この図5は、図1及び図2に示している回転放物線形状の凹部12a(深さHが400nm、中心間距離であるピッチPが300nm)、回転放物線形状の凹部12a(深さHが400nm、中心間距離であるピッチP400nm)、平坦部DP3のそれぞれが正方格子状に設けられたアルミニウム(Al)からなる反射層13について、FDTD(finite difference time domain)法による垂直入射の反射率、透過率シミュレーションを光の波長532nmで行うことによって得られたデータを示している。
【0025】
このシミュレーション結果より、平坦部DP3の反射層13の法線方向の膜厚が40nmまでは、反射率は膜厚と共に増加し、透過率は減少する。膜厚が40nm以上は反射率、透過率共に、一定となる。
また、凹部12aからなるレリーフ構造部では、膜厚が10nmまでは、0に近い反射率を示し、膜厚が10nm以上では、膜厚の増加と共に、反射率も増加し、膜厚が60nm程度で飽和する。透過率も、平坦部DP3よりも緩やかに減少することがわかる。
以上のように、本発明の表示体は、凹部12aからなるレリーフ構造部の形状だけでなく、被覆する反射層の法線方向の膜厚を変化させることにより、反射率、透過率を制御することが可能となる。このため、偽造する場合は、前記凹凸構造の形状だけでなく、反射層の膜厚の解析も行わなければならないため、偽造防止効果を高めることができる。
【0026】
次に、本発明に係る表示体及びこれを用いた物品の具体的な実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図6において、DP1は回転放物線形状の凹部12a(深さHが400nm、中心間距離であるピッチPが300nm)で構成された領域であり、DP2は回転放物線形状の凹部12a(深さHが400nm、中心間距離であるピッチPが400nm)で構成された領域である。DP3は反対の面11bの一部からなる平坦部である。また、表示体10の反射層13は全面にAl蒸着後、マスク印刷後のエッチング処理等により、領域DP1では、その法線方向の膜厚Taが40nmt、領域DP2では、その法線方向の膜厚Taが70nmt、平坦部DP3では、その法線方向の膜厚Tbが100nmtとなるようにAlで被覆されている。
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金及びそれらの合金などの金属材料また、金属インクからなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過性とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、すなわち、誘電体多層膜を使用してもよい。但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち光透過層と接触しているものの屈折率は、光透過層の屈折率とは異なっている必要がある。
【0027】
本実施の形態に示す表示体10を図4と同様に光源LSからの照明光LI角度を30度とし、観察者VW1が正反射方向で観察した場合、領域DP1、DP2からの反射光は弱く(図4の場合より)、鏡面となる平坦部DP3からの反射光は、領域DP1、DP2に対して高い反射率を有するため、コントラストの高い画像が表示される。また、領域DP1、DP2は反射率の違いにより認識することが可能である。
次に、観察者VW1が正面から大きく傾けて観察した場合(観察角度70度)、領域DP1からは青い回折光LD1(波長432nm)が、また、領域DP2からは黄色い回折光LD1(波長576nm)を観察することができ、領域DP1とDP2を識別することが可能となる。また、平坦部DP3は暗くなる。以上の特殊な視覚効果を有することで、偽造防止効果を高め、また、表示体の審議判定も容易に行うことが可能となる。
【0028】
(実施の形態2)
図7は、偽造防止用又は識別用ラベルを物品に取り付けてなるラベル付き物品の一例を示すもので、ラベル付き物品の一例として、印刷物を描いている。この印刷物は、ID(identification)カードであって、印刷物本体20を含んでいる。
印刷物本体20は、基材210を含んでいる。基材210は、例えば、プラスチックからなる。基材210上には、印刷層220が形成されている。基材210の印刷層220が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層30を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着層30または接着層を介して貼りつけることにより、基材210に固定する。
この印刷物は、表示体10を含んでいる。それ故、この印刷物の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物20は、表示体10に加えて、印刷層220を更に含んでいるため、これを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0029】
なお、図7には、表示体10を含んだ印刷物としてIDカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びIC(Integrated Circuit)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物20は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物20は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0030】
また、図7に示す印刷物20では、表示体10を基材40に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。即ち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
これらのラベル付き物品の製造には、例えば、粘着ラベル又は転写箔を利用することができる。
【0031】
(実施の形態3)
図8は、粘着ラベルの一例を概略的に示すものであり、この粘着ラベルは、上述した表示体10と粘着層30とを含んでいる。粘着層30は、表示体10の表示面と反対の裏面を覆うように設けられており、この粘着層30を介して図示省略の印刷物本体に接着できるようになっている。また、このような粘着層30を有する粘着ラベルは、表示体10への接着側と反対の粘着層30の面は、これを剥離可能に覆う剥離紙を更に含んでいてもよい。
上述した表示体10には、様々な変形が可能である。例えば、先の表示体10は、二次元的に配列した回転放物線形状の凹部12aからなるレリーフ構造部を含んだ表示部として、2つの表示部の領域DP1及びDP2のみを含んでいるが、表示体10は、このような表示部を3つ以上含んでいてもよい。また、レリーフ構造部12として一次元的に配列した回折格子でもよい。
また、ここでは、凹部12aが回転放物線形状の凹部12aである例を説明したが、それらレリーフ構造部の形状は回転放物線形状の凹部に限られない。
【0032】
(実施の形態4)
レリーフ構造部12を構成する凹部12aは、図9に示すような円筒状、図10に示すような截頭円錐筒状、図11に示すような四角錐筒状、図12に示すような半楕円筒状でもよい。また、上記円筒状、截頭円錐筒状、四角錐筒状、半楕円筒状を呈する凹部を組合わせた形状のもの、またはこれらを変形させた形状を有していてもよい。
【0033】
(実施の形態5)
この発明にかかる表示体10のレリーフ構造部12は、上記実施の形態で述べたような凹部12aから構成されるものに限定されない。例えば、図13に示すように、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bに、この反対の面11bから一方の面11aと反対の方向に突出する凸状の回転放物線形状を呈する回折用の凸部12bを反対の面11bに沿い決められたピッチでマトリクス状に配列して形成する。これにより、レリーフ構造部12を構成する。そして、光透過層11の反対の面11bで、レリーフ構造部12の表面及び平坦部DP3には、上記図1および図2に示す表示体と同様な膜厚の反射層(図示せず)が形成されている。さらに、光透過層11の一方の面11aと反対の面11b側には反射層を介して樹脂層15が設けられている。
このような凸部12bからなるレリーフ構造部12を用いて表示体10を構成した場合も、上記図1および図2に示す表示体と同様な作用効果を得ることができる。
また、凸部12bは、上記図9乃至図12に示す場合と逆の形状である凸状の円柱状、截頭円錐柱状、四角錐柱状、半楕円柱状を呈する凸部を組合わせた形状のもの、またはこれらを変形させた形状を有していてもよい。
【0034】
なお、上記の実施の形態では、表示体10のレリーフ構造部12を凹部12aまたは凸部12bの何れかで構成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bに凹部12a及び凸部12bの何れか一方または両方を予め決められたピッチで配列形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
10…表示体、11…光透過層、11a…一方の面、11b…他の面(平坦部)、12…レリーフ構造部、12a…凹部、12b…凸部、13…反射層、13a…凹凸構造を覆う反射層、13b…平坦部を覆う反射層、20…印刷物本体、30…粘着層、210…基材、220…印刷層、DP1…レリーフ構造部の領域、DP2…凹部12aの領域、DP3…平坦部、LD1…回折光、LR1…反射光、LS…光源、LI…照明光、LT…裏面からの光、LT1…透過光、P…中心間距離、Ta…レリーフ構造部を覆う反射層の法線方向の膜厚、Tb…平坦部を覆う反射層の法線方向の膜厚、VW1…観察者、VW2…観察者。
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止機能を備えた表示体及び商品券、小切手、磁気カード、IC(identification)カード等の偽造対策が必要な表示体を用いたラベル付き物品に関する。
偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証物品並びに商品券及び株券などの有価証券には、偽造が困難であることが望まれる。そのために従来から、そのような物品にはその偽造を抑止すべく、偽造又は模造が困難であると共に、偽造品や模造品との区別が容易なラベルが貼り付けられている。
また、近年では、認証物品及び有価証券以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品に、認証物品及び有価証券に関して上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0003】
このような目的では、従来から、観察角度等に応じた色変化(カラーシフト)を生じるOVD(optical variable device)などが利用されている。OVDとしては、例えば、多層膜、ホログラム及び回折格子がある。
多層膜は、光学特性が異なるセラミックや金属を幾重にも積層した構造を有している。多層膜では、各層の光学的厚さを適宜設計することにより、或る波長の光に強め合う干渉を生じさせ、他の波長の光に弱め合う干渉を生じさせることができる。界面間の光路長は観察角度に応じて変化するので、観察角度を変化させると、強め合う干渉を生じる光の波長と弱め合う干渉を生じる光の波長とが変化する。このような原理で、多層膜は、観察角度に応じたカラーシフトを生じる。
【0004】
ホログラム及び回折格子などの回折構造は、例えば、微細な凹凸パターンからなるか、又は、縞状の屈折率分布が設けられた層からなる。回折構造は、白色光で照明すると、回折光を波長に応じて異なる角度で射出する。回折構造がカラーシフトを生じるのは、この分光作用などのためである。
このように、OVD、特に回折構造は、特徴的な視覚効果を有している。そして、回折構造を利用すると、立体画像や虹色に輝く特殊な装飾画像などの複雑な画像を表示させることができる。加えて、以下に説明するように、回折構造は、その製造に高度な技術を要する。
【0005】
ホログラムは、例えば、体積型ホログラムとレリーフ型ホログラムとに分類することができる。
体積型ホログラムの製造では、感光性樹脂等の記録材料からなる層に3次元的に干渉縞を記録する。体積型ホログラムとしては、リップマンホログラムが一般的に使用されている。
【0006】
レリーフ型ホログラムの製造に際しては、まず、レーザー光の干渉を利用した光学的撮影方法、又は電子線描画などにより、表面に微細な凹凸パターンが設けられた樹脂層を含んだ原版を作製する。次に、この原版から、電鋳等により金属製スタンパを作製する。その後、ポリエチレンテレフタレート(PET)等からなる基材の平坦部上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂等を塗布し、これに先の金属製スタンパを密着させる。この状態で熱や光を与えて樹脂を硬化させ、更に樹脂層から金属性スタンパを剥離することによりレリーフ型ホログラムを得る。
回折格子の製造は、例えば、レリーフ型ホログラムの製造について説明したのと同様の方法により行う。
【0007】
特許文献1には、回折格子を用いて立体画像を表示する表示体が記載されている。また、特許文献2には、画素構造を採用した表示体が記載されている。
回折格子に対する照明光の入射角を固定して回折格子を白色光で照明した場合、この回折格子が表示する色は、回折格子の格子定数、即ち、回折格子を構成している格子線の空間周波数と、観察方向が回折格子の法線に対してなす角度と、格子線が観察方向と回折格子の法線とに平行な平面に対してなす角度とによって決定される。従って、表示体を複数の画素で構成した場合、表示すべき画像の色から、各画素の回折格子に採用すべき構造を特定することができる。このような画素構造を採用すると、表示体の設計が容易になる。
【0008】
上記の通り、回折構造は、特徴的な視覚効果を提供することができ、その製造に高度な技術を要する。このため、偽造防止効果を期待して、回折構造を含んだ表示体を上述した物品に支持させることがある。また、上記の通り、回折構造は特徴的な視覚効果を提供し得るため、装飾材や絵本及びカタログ等の一般的な印刷物に利用されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5058992号明細書
【特許文献2】特開平6−82612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、回折構造はその製造に高度な技術を要するが、近年の微細構造の解析技術の向上や微細加工技術の普及に伴い、回折構造を含んだ表示体の偽造が可能となりつつある。即ち、回折構造を含んだ表示体の偽造防止効果は低下しつつある。
また、回折構造を含んだ表示体の普及に伴い、回折構造が提供する視覚効果の特殊性は低下しつつある。
【0011】
本発明は、上記のような従来の問題を解決するためになされたもので、その目的は、偽造が困難であり、かつ特殊な視覚効果を実現できる表示体及びこれを用いたラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、表示体であって、光透過層と、前記光透過層の一方の面の一部に回折用の凹部及び凸部の何れか一方または両方を決められたピッチで配列形成してなるレリーフ構造部とを備え、前記一方の面で前記レリーフ構造部と共に平坦部を有し、前記レリーフ構造部の表面の少なくとも一部及び前記平坦部の少なくとも一部にこれらを覆う反射層がそれぞれ形成され、前記レリーフ構造部を覆う前記反射層の法線方向の膜厚が前記平坦部を覆う前記反射層の法線方向の膜厚の25%以上85%以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載の表示体であって、前記凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上500nm以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の表示体において、前記反射層を介して形成された樹脂層を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、ラベル付き物品であって、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、見易い正面からの観察時に、従来のホログラムや回折格子には見られない黒さまたは透明さを表現することができ、かつ、従来のホログラムや回折格子と組み合わせることにより、偽造防止効果と意匠性を高めるとともに、正面から大きく傾けて観察したときは絵柄、文字、記号等を表示することで真偽判定を容易にすることができる表示体及びラベル付き物品を提供できる。
なお、表示体とは、文字、絵、図柄等の情報を光強度の変化で提示し、目視や機械読み取りによって確認できるものである。
【0017】
そして、レリーフ構造部を覆う反射層の法線方向の膜厚を平坦部を覆う反射層の法線方向の膜厚の25%以上85%以下にすることで、レリーフ構造部の反射率を低く、または透過率を高くすることが可能となる。これにより、光透過層の同一面内で、前記平坦部が鏡面として振舞うことに対し、レリーフ構造部は黒または透明さを表現することが可能となる。
ここで、反射層の法線方向膜厚とは図1に示すように、レリーフ構造部の表面形状の各点に対する法線方向の反射層の厚みであり、黒とは可視光領域において正反射方向の反射率が20%以下の状態を示す。
【0018】
また、本発明によれば、凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上500nm以下の範囲に設定することで、レリーフ構造部による回折光角度を大きくでき、正面からの観察では平坦部の鏡面と、レリーフ構造部の黒さまたは透明さを観察することができ、大きな角度では、レリーフ構造部による回折光を観察することが可能となる。
また、本発明によれば、反射層を介して積層された樹脂層を備えることにより、レリーフ構造部を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部の一例を示す説明用斜視図である。
【図2】図1のA−A'線に沿うレリーフ構造部の断面図である。
【図3】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部である領域DP1を観察するときの説明図である。
【図4】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部以外の平坦部DP3を観察するときの説明図である。
【図5】本発明にかかる表示体の反射層における法線方向の膜厚と反射率/透過率との関係を示すグラフである。
【図6】本発明にかかる表示体の全体構成の一例を概略的に示す平面図である。
【図7】本発明にかかる表示体を偽造防止用又は識別用ラベルとして印刷物本体に取り付けてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。
【図8】本発明にかかる表示体を粘着層を介して印刷物本体に取り付け場合の一例を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部を構成する凹部(または凸部)の構造例を概略的に示す斜視図である。
【図10】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部を構成する凹部(または凸部)の別の構造例を概略的に示す斜視図である。
【図11】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部を構成する凹部(または凸部)の別の構造例を概略的に示す斜視図である。
【図12】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部を構成する凹部(または凸部)の別の構造例を概略的に示す斜視図である。
【図13】本発明にかかる表示体のレリーフ構造部の他の例を示す説明用斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図1乃至図13を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
本実施の形態である表示体10は、図1及び図2に示すように、一定厚さの平板状の光透過層11を備え、この光透過層11の一方の面11aと反対の面11bの一部には、目視による真偽の判別を可能にするレリーフ構造部12が形成されている。
レリーフ構造部12は、観察する角度により明度及び彩度の低い色の表示と回折光射出の2つの機能を選択的に実現させるもので、図1及び図2に示すように、光透過層11の反対の面11bから光透過層11の厚さ方向に凹状の回転放物線形状を呈する凹部12aを反対の面11b(X−Y平面)に沿い予め決められたピッチPでマトリクス状に配列し形成することにより構成される。また、各凹部12aの反対の面11bからの深さがHである。
また、光透過層11の反対の面11bで、レリーフ構造部12を除く箇所が平坦部DP3として構成され、この平坦部DP3及びレリーフ構造部12の表面には反射層13が形成されている。さらに、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bには反射層13を介して樹脂層15が設けられている。
反射層13は、一方の面11aから入射し凹部12aとの界面及び平坦部DP3の界面を透過した照明光を一方の面11a側へ反射させるためのものである。
また、図2において、Taはレリーフ構造部12を覆う反射層13aの法線方向の膜厚を表し、Tbは平坦部DP3を覆う反射層13bの法線方向の膜厚を表している。そして、反射層13aの法線方向の膜厚Taは反射層13bの法線方向の膜厚Tbの25%以上85%以下の範囲に設定されている。
なお、本発明においては、反射層13を平坦部DP3の全域及びレリーフ構造部12の表面の全域に設ける必要がなく、平坦部DP3の一部及びレリーフ構造部12の表面の一部に設けるようにしてもよい。
【0022】
光透過層11は1つの層から構成されても良いし、複数の層により構成されていても良い。
また、光透過層11を構成する材料も特に指定するものではなく、可視光において光を透過すればよく、透明樹脂などの材料を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂を使用し、金型を用いた転写により凹部12aを形成できる。
また、反射層13としては、例えば、アルミや銀、金またはそれらの合金などを使うことができ、蒸着やスパッタリング等の方法で形成できる。
【0023】
上記のように構成された表示体10において、まず、図3に示すように、レリーフ構造部12を有する領域DP1の観察時では、レリーフ構造部12の凹部12aを反射層13aで覆うことで、反射層13aの断面積が大きくなり、光の吸収が大きくなる。さらに、反射層13aの法線方向の膜厚Taを薄くすることで、より、透過率を上げ、また反射率を下げることが可能となる。
したがって、観察者VW1が表示体10のレリーフ構造部12を有する領域DP1を正面で観察した場合、光源LSから照明光LIの正反射光LR1が小さくなり、黒色乃至灰色を表現することができる。また、レリーフ構造部12の中心間距離、すなわちピッチPが200nm以上500nm以下にすることにより、レリーフ構造部12による回折光LD1が表示体10の正面方向に発生せず、正面方向に対し、大きな角度に回折光が発生するので、観察者VW2が正面から大きく傾けて観察したときのみ、回折光による絵柄、文字、記号等を表示することが可能になる。
また、図4に示すように、観察者VW1が表示体10の平坦部DP3を正面で観察した場合、平坦部DP3は反射層13bの法線方向の膜厚Tbが厚く鏡として振る舞うため、光源LSから照明光LIの正反射光LR1は大きく明るく観察することができ、観察者VW2が正面から大きく傾けて観察したときは暗くなる。
【0024】
次に、反射層13aと13bの法線方向の膜厚の違いによるレリーフ構造部の反射率、透過率の変化について図5を参照して説明する。
この図5は、図1及び図2に示している回転放物線形状の凹部12a(深さHが400nm、中心間距離であるピッチPが300nm)、回転放物線形状の凹部12a(深さHが400nm、中心間距離であるピッチP400nm)、平坦部DP3のそれぞれが正方格子状に設けられたアルミニウム(Al)からなる反射層13について、FDTD(finite difference time domain)法による垂直入射の反射率、透過率シミュレーションを光の波長532nmで行うことによって得られたデータを示している。
【0025】
このシミュレーション結果より、平坦部DP3の反射層13の法線方向の膜厚が40nmまでは、反射率は膜厚と共に増加し、透過率は減少する。膜厚が40nm以上は反射率、透過率共に、一定となる。
また、凹部12aからなるレリーフ構造部では、膜厚が10nmまでは、0に近い反射率を示し、膜厚が10nm以上では、膜厚の増加と共に、反射率も増加し、膜厚が60nm程度で飽和する。透過率も、平坦部DP3よりも緩やかに減少することがわかる。
以上のように、本発明の表示体は、凹部12aからなるレリーフ構造部の形状だけでなく、被覆する反射層の法線方向の膜厚を変化させることにより、反射率、透過率を制御することが可能となる。このため、偽造する場合は、前記凹凸構造の形状だけでなく、反射層の膜厚の解析も行わなければならないため、偽造防止効果を高めることができる。
【0026】
次に、本発明に係る表示体及びこれを用いた物品の具体的な実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図6において、DP1は回転放物線形状の凹部12a(深さHが400nm、中心間距離であるピッチPが300nm)で構成された領域であり、DP2は回転放物線形状の凹部12a(深さHが400nm、中心間距離であるピッチPが400nm)で構成された領域である。DP3は反対の面11bの一部からなる平坦部である。また、表示体10の反射層13は全面にAl蒸着後、マスク印刷後のエッチング処理等により、領域DP1では、その法線方向の膜厚Taが40nmt、領域DP2では、その法線方向の膜厚Taが70nmt、平坦部DP3では、その法線方向の膜厚Tbが100nmtとなるようにAlで被覆されている。
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金及びそれらの合金などの金属材料また、金属インクからなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、光透過性とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、すなわち、誘電体多層膜を使用してもよい。但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち光透過層と接触しているものの屈折率は、光透過層の屈折率とは異なっている必要がある。
【0027】
本実施の形態に示す表示体10を図4と同様に光源LSからの照明光LI角度を30度とし、観察者VW1が正反射方向で観察した場合、領域DP1、DP2からの反射光は弱く(図4の場合より)、鏡面となる平坦部DP3からの反射光は、領域DP1、DP2に対して高い反射率を有するため、コントラストの高い画像が表示される。また、領域DP1、DP2は反射率の違いにより認識することが可能である。
次に、観察者VW1が正面から大きく傾けて観察した場合(観察角度70度)、領域DP1からは青い回折光LD1(波長432nm)が、また、領域DP2からは黄色い回折光LD1(波長576nm)を観察することができ、領域DP1とDP2を識別することが可能となる。また、平坦部DP3は暗くなる。以上の特殊な視覚効果を有することで、偽造防止効果を高め、また、表示体の審議判定も容易に行うことが可能となる。
【0028】
(実施の形態2)
図7は、偽造防止用又は識別用ラベルを物品に取り付けてなるラベル付き物品の一例を示すもので、ラベル付き物品の一例として、印刷物を描いている。この印刷物は、ID(identification)カードであって、印刷物本体20を含んでいる。
印刷物本体20は、基材210を含んでいる。基材210は、例えば、プラスチックからなる。基材210上には、印刷層220が形成されている。基材210の印刷層220が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層30を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着層30または接着層を介して貼りつけることにより、基材210に固定する。
この印刷物は、表示体10を含んでいる。それ故、この印刷物の偽造又は模造は困難である。また、この印刷物は、表示体10を含んでいるので、真正品であるかが不明の物品を真正品と非真正品との間で判別することも容易である。しかも、この印刷物20は、表示体10に加えて、印刷層220を更に含んでいるため、これを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0029】
なお、図7には、表示体10を含んだ印刷物としてIDカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びIC(Integrated Circuit)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物20は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物20は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0030】
また、図7に示す印刷物20では、表示体10を基材40に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。即ち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
これらのラベル付き物品の製造には、例えば、粘着ラベル又は転写箔を利用することができる。
【0031】
(実施の形態3)
図8は、粘着ラベルの一例を概略的に示すものであり、この粘着ラベルは、上述した表示体10と粘着層30とを含んでいる。粘着層30は、表示体10の表示面と反対の裏面を覆うように設けられており、この粘着層30を介して図示省略の印刷物本体に接着できるようになっている。また、このような粘着層30を有する粘着ラベルは、表示体10への接着側と反対の粘着層30の面は、これを剥離可能に覆う剥離紙を更に含んでいてもよい。
上述した表示体10には、様々な変形が可能である。例えば、先の表示体10は、二次元的に配列した回転放物線形状の凹部12aからなるレリーフ構造部を含んだ表示部として、2つの表示部の領域DP1及びDP2のみを含んでいるが、表示体10は、このような表示部を3つ以上含んでいてもよい。また、レリーフ構造部12として一次元的に配列した回折格子でもよい。
また、ここでは、凹部12aが回転放物線形状の凹部12aである例を説明したが、それらレリーフ構造部の形状は回転放物線形状の凹部に限られない。
【0032】
(実施の形態4)
レリーフ構造部12を構成する凹部12aは、図9に示すような円筒状、図10に示すような截頭円錐筒状、図11に示すような四角錐筒状、図12に示すような半楕円筒状でもよい。また、上記円筒状、截頭円錐筒状、四角錐筒状、半楕円筒状を呈する凹部を組合わせた形状のもの、またはこれらを変形させた形状を有していてもよい。
【0033】
(実施の形態5)
この発明にかかる表示体10のレリーフ構造部12は、上記実施の形態で述べたような凹部12aから構成されるものに限定されない。例えば、図13に示すように、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bに、この反対の面11bから一方の面11aと反対の方向に突出する凸状の回転放物線形状を呈する回折用の凸部12bを反対の面11bに沿い決められたピッチでマトリクス状に配列して形成する。これにより、レリーフ構造部12を構成する。そして、光透過層11の反対の面11bで、レリーフ構造部12の表面及び平坦部DP3には、上記図1および図2に示す表示体と同様な膜厚の反射層(図示せず)が形成されている。さらに、光透過層11の一方の面11aと反対の面11b側には反射層を介して樹脂層15が設けられている。
このような凸部12bからなるレリーフ構造部12を用いて表示体10を構成した場合も、上記図1および図2に示す表示体と同様な作用効果を得ることができる。
また、凸部12bは、上記図9乃至図12に示す場合と逆の形状である凸状の円柱状、截頭円錐柱状、四角錐柱状、半楕円柱状を呈する凸部を組合わせた形状のもの、またはこれらを変形させた形状を有していてもよい。
【0034】
なお、上記の実施の形態では、表示体10のレリーフ構造部12を凹部12aまたは凸部12bの何れかで構成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、光透過層11の一方の面11aと反対の面11bに凹部12a及び凸部12bの何れか一方または両方を予め決められたピッチで配列形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
10…表示体、11…光透過層、11a…一方の面、11b…他の面(平坦部)、12…レリーフ構造部、12a…凹部、12b…凸部、13…反射層、13a…凹凸構造を覆う反射層、13b…平坦部を覆う反射層、20…印刷物本体、30…粘着層、210…基材、220…印刷層、DP1…レリーフ構造部の領域、DP2…凹部12aの領域、DP3…平坦部、LD1…回折光、LR1…反射光、LS…光源、LI…照明光、LT…裏面からの光、LT1…透過光、P…中心間距離、Ta…レリーフ構造部を覆う反射層の法線方向の膜厚、Tb…平坦部を覆う反射層の法線方向の膜厚、VW1…観察者、VW2…観察者。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過層と、
前記光透過層の一方の面の一部に回折用の凹部及び凸部の何れか一方または両方を決められたピッチで配列形成してなるレリーフ構造部とを備え、
前記一方の面で前記レリーフ構造部と共に平坦部を有し、
前記レリーフ構造部の表面の少なくとも一部及び前記平坦部の少なくとも一部にこれらを覆う光反射層がそれぞれ形成され、
前記レリーフ構造部を覆う前記反射層の法線方向の膜厚が前記平坦部を覆う前記反射層の法線方向の膜厚の25%以上85%以下である、
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記反射層を介して形成された樹脂層を備えることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。
【請求項4】
基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体を備える、
ことを特徴とするラベル付き物品。
【請求項1】
光透過層と、
前記光透過層の一方の面の一部に回折用の凹部及び凸部の何れか一方または両方を決められたピッチで配列形成してなるレリーフ構造部とを備え、
前記一方の面で前記レリーフ構造部と共に平坦部を有し、
前記レリーフ構造部の表面の少なくとも一部及び前記平坦部の少なくとも一部にこれらを覆う光反射層がそれぞれ形成され、
前記レリーフ構造部を覆う前記反射層の法線方向の膜厚が前記平坦部を覆う前記反射層の法線方向の膜厚の25%以上85%以下である、
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記反射層を介して形成された樹脂層を備えることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。
【請求項4】
基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示体を備える、
ことを特徴とするラベル付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−286722(P2010−286722A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141410(P2009−141410)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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