表示体及びラベル付き物品
【課題】より高い偽造防止効果を発揮する表示体を提供する。
【解決手段】表示体10は、光透過性のレリーフ構造形成層11を備え、レリーフ構造形成層11は、光透過性基材111と、光透過性基材111の一方の面に設けられた光透過性樹脂層112と、光透過性樹脂層112の表面に形成された隠蔽情報表示部200を含み、隠蔽情報表示部200は、光透過性樹脂層112の表面に凹部PRを可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部IF1と、この第1界面部IF1内で隠蔽情報パターンに合わせて凹部PRを部分的に除去し、もしくは凹部PRの大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成されている。
【解決手段】表示体10は、光透過性のレリーフ構造形成層11を備え、レリーフ構造形成層11は、光透過性基材111と、光透過性基材111の一方の面に設けられた光透過性樹脂層112と、光透過性樹脂層112の表面に形成された隠蔽情報表示部200を含み、隠蔽情報表示部200は、光透過性樹脂層112の表面に凹部PRを可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部IF1と、この第1界面部IF1内で隠蔽情報パターンに合わせて凹部PRを部分的に除去し、もしくは凹部PRの大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止機能を備えた表示体及び商品券、小切手、磁気カード、IC(identification)カード等の偽造対策が必要な隠蔽情報を有する表示体及びその表示体を用いたラベル付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードやICカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物と異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
この種の表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版を母型として、そこから複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び2には、回折格子を形成するために、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光することが記載されている。また、非特許文献1には、二光束干渉を利用して回折格子を形成することが記載されている。
【0004】
レリーフ型回折格子の製造では、通常、このようにして得られた原版を用い、電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。
次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリカーボネート又はポリエステルからなる透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子を得る。
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した印刷物を得る。
【0005】
先の説明から明らかなように、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【0006】
そこで、偽造防止用途で用いられる表示体では、さらに偽造防止効果を向上させるために、一般にマイクロ文字と呼称される、肉眼での視認が困難、もしくは不可能な微小な文字等を表示体の一部に形成することが行われている。マイクロ文字は表示体全体の意匠性を損ねることなく付与でき、また構造が微小であることから、より高度な加工技術が要求される。
マイクロ文字の大きさとしては、表示体が貼付されている印刷物等の使用者が真偽判定できるように、肉眼での認識がかろうじて可能な300μmから1000μm程度の大きさのものから、ルーペや光学顕微鏡等での拡大観察によって真偽判定を行うことを想定した、肉眼では認識が不可能な300μm以下の大きさのものまで様々である。
また、マイクロ文字の構造としては、文字の内部と外部で構造の高さが異なっているのもの(特許文献3参照)や、文字の内部にレリーフ型回折格子を構成したもの等がある。
文字の内外で構造の高さが異なっているものは、加工が比較的容易であり、光学的な作用もほとんど生じないため、肉眼で観察した際の隠蔽効果は高いが、顕微鏡などで拡大観察した際にも文字の内部と外部の境界が鮮明ではないので、文字情報の読み取りが困難であったり、真偽判定が難しくなる場合がある。
【0007】
一方、回折格子によって構成されたマイクロ文字は、より高い加工精度が要求されることから偽造防止効果が比較的高いものの、肉眼で観察した際に回折光が輝くことでその場所に特別な構造が形成されていることが認識されやすく、十分な隠蔽効果を得ることができない。また、マイクロ文字からの回折光が表示体全体の意匠性を損ねてしまうおそれもある。
また、偽造防止対策が必要な物品の多くでマイクロ文字を含む表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、このような表示体では十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【特許文献3】特開2007−309960号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】辻内順平著、「ホログラフィー」、丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のような従来の問題を解決したものであり、その目的は、より高い偽造防止効果を達成できる表示体及びこれを用いたラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、表示体であって、光透過性のレリーフ構造形成層を備え、前記レリーフ構造形成層は、光透過性基材と、前記光透過性基材の一方の面に設けられた光透過性樹脂層と、前記光透過性樹脂層の表面に形成された隠蔽情報表示部を含み、前記隠蔽情報表示部は、前記光透過性樹脂層の表面に凹部及び凸部の何れか一方または両方を可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部と、前記第1界面部内で前記隠蔽情報表示部に表示される情報パターンに合わせて前記凹部及び凸部の何れか一方または両方を部分的に除去し、もしくは前記凹部及び凸部の何れか一方または両方の大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の表示体において、前記レリーフ構造形成層は、前記第1界面部と異なる反射特性を有する第2界面部を含んでいることを特徴とすることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2記載の表示体において、前記第2界面部は回折格子、光散乱構造及び平坦部の何れかで構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1乃至3に何れか1項記載の表示体において、前記凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上460nm未満であることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1乃至4に何れか1項記載の表示体において、前記凹部の深さまたは前記凸部の高さが0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1乃至5に何れか1項記載の表示体において、前記凹部及び凸部の平面視形状の大きさ及び前記凹部の深さまたは前記凸部の高さの少なくとも1つが異なることを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1乃至6に何れか1項記載の表示体において、前記第1界面部の表面の少なくとも一部が反射層により被覆されていることを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明は、ラベル付き物品であって、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至7の何れか1項記載の表示体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レリーフ構造形成層の光透過性樹脂層の表面に形成された隠蔽情報表示部を、光透過性樹脂層の表面に凹部及び凸部の何れか一方または両方を可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部と、第1界面部内で隠蔽情報表示部に表示される情報パターンに合わせて凹部及び凸部の何れか一方または両方を部分的に除去し、もしくは凹部及び凸部の何れか一方または両方の大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成し、これによって、文字や数字、記号、2次元コード等の読み取り可能な極めて微小な隠蔽情報を構成するようにしたので、肉眼で表示体を観察した際には微小隠蔽情報の隠蔽効果が高く、且つ、高倍率な光学顕微鏡等で拡大観察した際にのみその隠蔽情報を確認することが可能な表示体を実現できる。これにより、表示体もしくは表示体が貼付されるなどして備えられた物品の真偽判定を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の低反射性界面部を有する表示体の一例を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う表示体の拡大断面図である。
【図3】図1及び図2に示した表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に示す表示体の第1界面部の構造の平面図である。
【図5】本発明の表示体に適用した低反射性界面部の一例を概略的に示す平面図である。
【図6】本発明の表示体に適用した低反射性界面部の別の一例を概略的に示す平面図である。
【図7】電子ビーム露光装置等の加工機により感光性レジストにビームを照射して複数の凹部を得る工程を概略的に示す説明図である。
【図8】現像処理後の図7に示す感光性レジストが塗布された基板の表面の様子を示す斜視図である。
【図9】電子ビーム露光装置等の加工機により感光性レジストにビームを照射して複数の凸部を得る工程を概略的に示す説明図である。
【図10】現像処理後の図9に示す感光性レジストが塗布された基板の表面の様子を示す斜視図である。
【図11】本発明にかかる表示体を具備するラベル付き物品(ICカード)の一形態を示す説明用平面図である。
【図12】図11のB−B線に沿う説明用断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
図1に示す表示体10は、レリーフ構造形成層11と反射層13とを積層した積層体を含んで構成される。具体的には、図1及び図2に示すように、レリーフ構造形成層11側を前面側とし、反射層13側を背面側としている。そして、レリーフ構造形成層11は光透過性基材111と光透過性樹脂層112とを積層したものから構成され、光透過性樹脂層112の表面には隠蔽情報表示部200が形成されている(ここに示す隠蔽情報表示部200は後述する第1表示部DA1に相当する)。隠蔽情報表示部200は、光透過性樹脂層112の表面に凹部(及び凸部の何れか一方または両方)PRを可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部IF1と、図5及び図6に示すように、第1界面部IF1内で隠蔽情報表示部200に表示される情報パターンに合わせて凹部(及び凸部の何れか一方または両方)PRを部分的に除去し、もしくは凹部(及び凸部の何れか一方または両方)PRの大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成されている。
【0020】
さらに詳しくは、レリーフ構造形成層11は、複数の界面部、すなわち低反射性の第1界面部IF1及び第1界面部IF1と異なる構造または反射特性の第2界面部IF2を含んでいる。第1界面部IF1は、複数の凸部PRが決められた一定のピッチp(図3参照)、例えば可視光の最短波長未満の平均中心間距離でx−y方向にマトリクス状に配列して形成することで低反射性の界面部が構成される。また、第2界面部IF2は、例えば第1界面部IF1のような微細構造を有しない平坦部から構成される。
【0021】
以下、この表示体10のうち、第1界面部IF1及び第2界面部IF2に対応した部分を、それぞれ、第1表示部DA1乃至第2表示部DA2と呼ぶ。
レリーフ構造形成層11の低反射性の第1界面部IF1は、レリーフ構造形成層11の一方の面に、複数の凸部PRを可視光の最短波長未満の平均中心間距離でマトリクス状に配列することで形成される。さらに、レリーフ構造形成層11は、第1界面部IF1と異なる構造または反射特性の第2界面部IF2を含む。
レリーフ構造形成層11の材料としては、例えば、ポリカーボネート及びポリエステルなどの光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の面に凸部が設けられたレリーフ構造形成層11を形成することができる。
【0022】
図2には、一例として、光透過性基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成されたレリーフ構造形成層11を示している。光透過性基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである。光透過性樹脂層112は、光透過性基材111上に形成された層である。
図2に示すレリーフ構造形成層11は、例えば、光透過性基材111上に熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜に原版を押し当てながら樹脂を硬化させることにより得ることができる。
【0023】
次に、複数の凸部が可視光の最短波長未満の平均中心間距離で配置されている低反射性界面部、すなわち第1界面部IF1について、図3を参照して説明する。
図3は、図1及び図2に示す表示体10の低反射性の第1界面部IF1に採用可能な構造の一例を示すもので、第1界面部IF1は、凸部PRが格子状に配置されている低反射界面部を表している。また、図4は、図3に示す第1界面部IF1を平面視した状態を表している。
【0024】
図3に示す低反射性の第1界面部IF1には、可視光の最短波長未満の平均中心間距離で配置された複数の凸部PRが設けられている。ここでの平均中心間距離とは、隣接して配置されている凸部PR間の平均距離を意味するものである。図3に示す例では、凸部PRは、互いに略直交するx方向とy方向とに格子状に配列しているが、凸部PRはそれとは異なる方向に交差するような格子状の配列であってもよく、また、格子状の配列は曲線であっても、蛇行していてもよい。
また、図3に示す低反射性の第1界面部IF1において、凸部PRは格子状に配列されていることから、周期性を伴うことで所謂回折格子と同様の機能を有する。低反射性の第1界面部IF1は凸部PRが形成している周期構造によって、溝(即ち、格子線)を破線で示すように配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する(図4参照)。
【0025】
次に、図3及び図4に示す低反射性の第1界面部IF1が有している視覚効果について説明する。
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式(1)から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
この等式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、透過光又は正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0026】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、且つ90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
また、法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。
従って、格子定数dが波長λと比較してより大きい場合、上記等式を満足する波長λ及び入射角αが存在する。即ち、この場合、観察者は、上記等式を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
これに対し、格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、上記等式を満足する入射角αは存在しない。従って、この場合、観察者は、回折光を観察することができない。
【0027】
以上の説明から明らかなように、格子定数d(中心間距離)が可視光の最短波長未満である低反射性の第1界面部IF1は、法線方向に回折光を射出しない。それゆえ、法線方向から観察した場合、第1表示部DA1は回折による分光色を表示しない。
可視光の最短波長未満とは具体的には、例えば460nm未満程度の長さであるが、それを超える長さ、例えば500nm程度の平均中心間距離で構成された凸部から成る低反射性の第1界面部IF1であっても、法線方向に射出される回折光は極めて限定的であり、その光量はわずかである。
また、各凸部PRは、微細な構造でありながら、テーパ形状を有している。そのため、このような構造を採用した場合、凸部PRの中心間距離が可視光の最短波長と比較してより短ければ、低反射性の第1界面部IF1の領域は、表示体10の厚さ方向に連続的に変化した屈折率を有していると見なすことができる。そのため、どの角度から観察しても、第1界面部IF1の正反射光の反射率は小さい。さらに、図3に示すような複数の凹部が格子状に配置されている格子状の低反射性の第1界面部IF1を用いた場合であっても、法線方向に回折光を射出することはほとんどない。
【0028】
従って、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、表示部DA1は暗く見える。典型的には、表示部DA1は暗灰色又は黒色に見える。なお、ここで、「暗灰色」とは、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が460nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。また、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が460nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、表示部DA1は、例えば暗灰色又は黒色印刷層の如く見える。
【0029】
本実施の形態における低反射性の第1界面部IF1では、複数の凸部の中心間距離が小さくなるのに伴って明度及び彩度が低下し、より黒い表示が可能となり、中心間距離が大きくなるのに伴って、やや輝度が上昇し、暗灰色に知覚される。
また、本実施の形態における低反射性の第1界面部IF1では、複数の凸部の高さが大きい方がより黒い表示が可能となり、高さが小さくなるのに伴って輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるようになる。典型的には高さは中心間距離の1/2以上とすることが望ましい。具体的には、例えば中心間距離が380nmであった場合、高さを190nm以上とすることで暗灰色の表示が可能となり、380nm以上の高さとすることでより黒い表示が可能となる。中心間距離と比較してはるかに高い構造にすると十分な黒さが得られ、且つ、高精度な製造技術が必要となることから、より一層偽造防止効果を向上させることができる。
なお、ここで、本実施の形態における凸部の高さとは、レリーフ構造形成層11と反射層13との界面から凸部の頂部までの高低差を意味する。
【0030】
ここで、例えばレリーフ構造形成層の一方の面に、400nmの平均中心間距離によって、図3のように互いに略直交するx方向とy方向とに複数の凹部がマトリクス状に配列されている場合、1cm角の低反射性の第1界面部IF1には6億個以上の凹部が存在することになる。このように非常に多くの凹部が面内に存在しているので、個々の凹部の形状は厳密に同一でなくても反射防止(抑制)効果を発揮することができる。また、いくつかの凹部が存在しておらず空隙ができていたり、平面視形状の大きさや深さが異なる凹部が混在していたとしても反射防止(抑制)効果にはほとんど影響を与えない。
【0031】
図5は、本発明の一態様に係る低反射性の第1界面部IF1に採用可能な構造の他の例を示すもので、第1界面部IF1は、複数の凸部PRを互いに略直交するx方向とy方向とに、例えば撮像素子における画素構造のように行列状にマトリクス状に配列し、さらに、部分的に凸部PRが存在しない平坦部FRを設けることにより構成される。この凸部PRの有無により、「GENUINE」という隠蔽文字を表示することができる。
図5に示す例では、凸部PRの中心間距離を400nmと仮定すると、「GENUINE」の文字高さは2μm程度であり、非常に小さな文字を形成できることになる。
【0032】
従来から、紙幣や商品券などの有価証券には券面にインキよってマイクロ文字が印刷されており、回折格子を用いた表示体でも回折格子を文字状に形成するなどして印刷によるマイクロ文字と同様の隠蔽情報の付与を行っているが、それらは小さなものであっても文字高さが50μm程度であり、肉眼による観察やルーペ等の簡便な拡大観察手段によってその存在が認識できるものであった。
これに対して、本発明により実現される微小隠蔽情報は数μmを下回る文字高さでの表示が可能であり、従来のマイクロ文字と比較して情報の隠蔽効果が極めて高い。本発明により実現される微小隠蔽情報はあらかじめそれが形成されている位置を把握している正規の製造者でなければ発見、確認が困難であり、また、低反射性の第1界面部IF1を観察するためには高倍率での観察が可能な光学顕微鏡等の専用の機器が必要となる。また、仮に微小隠蔽情報が読み取られたとしても、その偽造は極めて困難である。
【0033】
本発明により実現される微小隠蔽情報は、製造者等の特定の当事者が真贋判定を実施するために表示体の一部に設ける使用法が一般的であり、そのような用途の場合、微小隠蔽情報は非当事者による発見をより困難とするために小さいほど良い。低反射性界面部に設けられる凸部の個々の平面視形状の大きさ(幅)が200〜460nm程度である場合、情報として読み取り可能な文字や記号等を表示するためには図5または図6のように凸部が文字や記号の高さ方向に5個程度必要であることから、文字高さは2μm程度となる。また、凸部の平面視形状の大きさを小さくすることでより小さな微小隠蔽画像の表示が可能となるが、微小化に伴い製造が困難となるので、文字高さの下限は0.5μm程度となる。
【0034】
図6は、本発明の一態様に係る低反射性の第1界面部IF1に採用可能な構造のさらに他の例を示すもので、複数の凸部PRを互いに略直交するx方向とy方向とに、例えば撮像素子における画素構造のように行列状にマトリクス状に配列し、さらに、部分的に平面視形状の大きさや高さが変化している凸部SRを設けることにより構成される。
このように大きさが異なる凸部SRが微小隠蔽情報を表現するように配置されることでも、低反射性の第1界面部IF1を観察した際にその情報を読み取ることが可能となる。
【0035】
なお、本発明において、低反射性第1界面部IF1に形成される凸部の平均中心間距離は200nm以上460nm未満とすることが好ましい。低反射性の第1界面部IF1に形成される凸部は、黒色の表示を行うために可視光の最短波長(460nm)未満の平均中心間距離で配置しているが、平均中心間距離が200nm未満であると原版の加工や複製品の転写成形が困難になる。
【0036】
本発明の低反射性の第1界面部IF1に用いられる複数の凸部の形状としては、図3に示されるようなテーパ形状を用いることができるが、これに限定されるものではない。テーパ形状としては、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は截頭円錐及び截頭角錐などの截頭錐体形状を挙げることができる。また、低反射性の第1界面部IF1に形成される複数の凸部の側面形状としては、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。
なお、テーパ形状は、原版からの複製品のレリーフ構造形成層11の取り外しを容易にし、生産性を向上する効果をも有する。
【0037】
次に、図2に示す第2界面部IF2について説明する。
第2界面部IF2は、例えば回折格子や光散乱構造を有する面から構成され、平坦面であってもよい。表示体に複数の第2界面部IF2を設け、それぞれに回折格子形成面や光散乱構造形成面や平坦面等を設けることで、それらを画像構成要素として、表示画像を形成する。第2界面部IF2に回折格子形成面を設けることで回折格子による分光によって虹色に輝く光学効果が得ることができ、また、光散乱構造形成面を設けた場合には、光の散乱効果によって白色または白濁色の表示が可能となる。
平坦面とした場合には特別な光学効果は得ることができないが、他の光学効果を有する他の界面部との差によって画像を構成することができる。これらの構造を設けた第2界面部IF2と、第1界面部IF1を組み合わせることによって肉眼で観察することができる画像や意匠を表示することができる。
【0038】
第1界面部IF1及び第2界面部IF2を有するレリーフ構造形成層の原版を作製するには電子ビーム露光装置や、レーザー露光装置、集束イオンビーム(FIB)加工機等の数十〜数nmに細く絞ったビームを走査することが可能な加工機を用いるのが良い。それらの装置は、感光性レジストが塗布された基板表面にビームを走査させることでビームが照射された部分だけ感光性レジストを化学的に変化させることができる。その後、基板に対し現像処理を施すことで微細凹凸構造を得ることができる。
【0039】
図3や図5,図6に示したような複数の凸部がマトリクス状に配列されてなる低反射性の第1界面部IF1を得るには、図7のようにXYステージ20上に載置された感光性レジストが塗布された基板21上に、微小な矩形や円形の形状にビーム22を走査して感光性レジストを部分的に露光する方法がある。
このような方法で露光を行った後、現像処理を施した基板は図8のように露光部分が凹部NRとなる構造が得られる。この基板から電鋳等の転写成形手段により、金属製の型を作製することで、複数の凸部PRから成る低反射性の第1界面部IF1を含むレリーフ構造成層を有する原版を得ることができる。
【0040】
また、図9のように基板21上に格子状にビーム22を走査させることで、現像後の基板21は図10のように複数の凸部PRが形成された構造となる。
図7及び図9に示した微細凹凸構造を得る方法では、ビームが照射された部分の感光性レジストが現像後に溶解する、所謂ポジ型レジストの特性について例を示したが、ビームが照射されたところのみが現像後に溶解せずに残留する、所謂ネガ型の感光性レジストもある。この場合は図7及び図9でビームを照射しなかった部分にビームを照射することでポジ型レジストとは凹凸が逆転した構造を得ることが可能である。
ここで、このような加工方法で微細凹凸形状を作製する際に、任意にビームの走査の有無を制御することで、図5に示したように前記低反射性界面部内において、凸部PRが部分的に存在していない平坦部を設けることができ、文字や数字、記号、2次元バーコード等の微小隠蔽情報を表現できるようになる。
また、ビームの照射エネルギー量や照射時間を任意に調整することで、凸部PRの平面視形状の大きさや高さ、または凹部NPの平面視形状の大きさや深さを変えることができ、凸部又は凹部の形状の変化によって文字や数字、記号、2次元バーコード等の微小隠蔽情報を表現できるようになる。
【0041】
本発明の実施の形態に用いられる反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、レリーフ構造形成層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうちレリーフ構造形成層11と接触しているものの屈折率は、レリーフ構造形成層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0042】
レリーフ構造形成層11及び反射層13の一方は、省略することができる。ここで、反射層のみからなる表示体とは、レリーフ構造形成層として金属層、誘電体層、誘電体多層膜を用いたものを意味する。ただし、表示体10がレリーフ構造形成層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、それらの一方のみを含んでいる場合と比較して、先の界面の損傷を生じ難く、表示体10に視認性がより優れた像を表示させることができる。
また、反射層13は、複数の界面部の一部又は全部に被覆させてもよく、この反射層13の分布を用いて、例えば、反射層の存在する領域の輪郭を用いて、図柄を表現することもできる。さらに、反射層13は、レリーフ構造形成層11全面に被膜させてもよい。
【0043】
本発明における表示体は、接着剤層、樹脂層等の他の層を更に積層してもよい。
また、本発明における接着剤層は、例えば、反射層を被覆するように設ける。表示体がレリーフ構造形成層及び反射層の双方を含んでいる場合、通常、反射層の表面の形状は、レリーフ構造形成層と反射層との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けることで、反射層表面の露出を防止することができるため、先の界面の凸部又は凹部の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
また、レリーフ構造形成層側を背面側とし且つ反射層側を前面側とする場合、接着層は、レリーフ構造形成層上に形成する。
【0044】
本発明における樹脂層は、レリーフ構造形成層及び反射層の積層体に対して前面側に設けることができる。
レリーフ構造形成層側を前面側とし、反射層側を背面側とする場合、複数の界面部が設けられていないレリーフ構造形成層上を樹脂層によって被覆することで、レリーフ構造形成層の損傷を抑制することができる。また、レリーフ構造形成層側を背面側とし、反射層側を前面側とする場合、反射層を樹脂層によって被覆することで、反射層の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凸部又は凹部の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
また、本発明における表示体は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物や物品に貼り付けて使用することができる。表示体は微細な凹凸構造により光反射防止機能を備えた微小隠蔽画像を有することから偽造又は模造が困難であり、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0045】
次に、本発明にかかる表示体を偽造防止用又は識別用ラベルとして印刷物本体に取り付けてなるラベル付き物品について、図11及び図12を参照して説明する。
図11および図12において、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、ID(identification)カードであって、基材50を含んでいる。基材50は、例えば、プラスチックからなる。基材50の一方の面には凹部30aが設けられており、この凹部30aにICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込み及び/又はICに記録された情報の読出しが可能である。
また、基材50上には、印刷層40が形成されている。基材50の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材50に固定する。
【0046】
印刷物100は、上述した第1界面部および第2界面部を有する表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0047】
また、図11及び図12では、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限定されるものではない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びIDカードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
また、図11及び図12に示す印刷物100では、表示体10を基材50に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【0048】
また、上記の実施の形態では、表示体10の第1界面部IF1を凹部NRまたは凸部PRの何れかで構成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、凹部NR及び凸部PRの何れか一方または両方を予め決められたピッチで配列形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10…表示体、11…レリーフ構造形成層、13…反射層、20…XYステージ、21…感光性レジストが塗布された基板、22…ビーム、30…ICチップ、40…印刷層、50…基材、100…印刷物、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、DA1…第1表示部、DA2…第2表示部、IF1…第1界面部、IF2…第2界面部、PR…凸部、NR…凹部、FR…平坦部、SR…凸部より小さい形状の凸部、200…隠蔽情報表示部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止機能を備えた表示体及び商品券、小切手、磁気カード、IC(identification)カード等の偽造対策が必要な隠蔽情報を有する表示体及びその表示体を用いたラベル付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードやICカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物と異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
この種の表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版を母型として、そこから複製することにより得られる。例えば、特許文献1及び2には、回折格子を形成するために、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光することが記載されている。また、非特許文献1には、二光束干渉を利用して回折格子を形成することが記載されている。
【0004】
レリーフ型回折格子の製造では、通常、このようにして得られた原版を用い、電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。
次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリカーボネート又はポリエステルからなる透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子を得る。
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した印刷物を得る。
【0005】
先の説明から明らかなように、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【0006】
そこで、偽造防止用途で用いられる表示体では、さらに偽造防止効果を向上させるために、一般にマイクロ文字と呼称される、肉眼での視認が困難、もしくは不可能な微小な文字等を表示体の一部に形成することが行われている。マイクロ文字は表示体全体の意匠性を損ねることなく付与でき、また構造が微小であることから、より高度な加工技術が要求される。
マイクロ文字の大きさとしては、表示体が貼付されている印刷物等の使用者が真偽判定できるように、肉眼での認識がかろうじて可能な300μmから1000μm程度の大きさのものから、ルーペや光学顕微鏡等での拡大観察によって真偽判定を行うことを想定した、肉眼では認識が不可能な300μm以下の大きさのものまで様々である。
また、マイクロ文字の構造としては、文字の内部と外部で構造の高さが異なっているのもの(特許文献3参照)や、文字の内部にレリーフ型回折格子を構成したもの等がある。
文字の内外で構造の高さが異なっているものは、加工が比較的容易であり、光学的な作用もほとんど生じないため、肉眼で観察した際の隠蔽効果は高いが、顕微鏡などで拡大観察した際にも文字の内部と外部の境界が鮮明ではないので、文字情報の読み取りが困難であったり、真偽判定が難しくなる場合がある。
【0007】
一方、回折格子によって構成されたマイクロ文字は、より高い加工精度が要求されることから偽造防止効果が比較的高いものの、肉眼で観察した際に回折光が輝くことでその場所に特別な構造が形成されていることが認識されやすく、十分な隠蔽効果を得ることができない。また、マイクロ文字からの回折光が表示体全体の意匠性を損ねてしまうおそれもある。
また、偽造防止対策が必要な物品の多くでマイクロ文字を含む表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、このような表示体では十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】米国特許第5058992号明細書
【特許文献3】特開2007−309960号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】辻内順平著、「ホログラフィー」、丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のような従来の問題を解決したものであり、その目的は、より高い偽造防止効果を達成できる表示体及びこれを用いたラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、表示体であって、光透過性のレリーフ構造形成層を備え、前記レリーフ構造形成層は、光透過性基材と、前記光透過性基材の一方の面に設けられた光透過性樹脂層と、前記光透過性樹脂層の表面に形成された隠蔽情報表示部を含み、前記隠蔽情報表示部は、前記光透過性樹脂層の表面に凹部及び凸部の何れか一方または両方を可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部と、前記第1界面部内で前記隠蔽情報表示部に表示される情報パターンに合わせて前記凹部及び凸部の何れか一方または両方を部分的に除去し、もしくは前記凹部及び凸部の何れか一方または両方の大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の表示体において、前記レリーフ構造形成層は、前記第1界面部と異なる反射特性を有する第2界面部を含んでいることを特徴とすることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2記載の表示体において、前記第2界面部は回折格子、光散乱構造及び平坦部の何れかで構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1乃至3に何れか1項記載の表示体において、前記凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上460nm未満であることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1乃至4に何れか1項記載の表示体において、前記凹部の深さまたは前記凸部の高さが0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1乃至5に何れか1項記載の表示体において、前記凹部及び凸部の平面視形状の大きさ及び前記凹部の深さまたは前記凸部の高さの少なくとも1つが異なることを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1乃至6に何れか1項記載の表示体において、前記第1界面部の表面の少なくとも一部が反射層により被覆されていることを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明は、ラベル付き物品であって、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至7の何れか1項記載の表示体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レリーフ構造形成層の光透過性樹脂層の表面に形成された隠蔽情報表示部を、光透過性樹脂層の表面に凹部及び凸部の何れか一方または両方を可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部と、第1界面部内で隠蔽情報表示部に表示される情報パターンに合わせて凹部及び凸部の何れか一方または両方を部分的に除去し、もしくは凹部及び凸部の何れか一方または両方の大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成し、これによって、文字や数字、記号、2次元コード等の読み取り可能な極めて微小な隠蔽情報を構成するようにしたので、肉眼で表示体を観察した際には微小隠蔽情報の隠蔽効果が高く、且つ、高倍率な光学顕微鏡等で拡大観察した際にのみその隠蔽情報を確認することが可能な表示体を実現できる。これにより、表示体もしくは表示体が貼付されるなどして備えられた物品の真偽判定を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の低反射性界面部を有する表示体の一例を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う表示体の拡大断面図である。
【図3】図1及び図2に示した表示体の第1界面部に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に示す表示体の第1界面部の構造の平面図である。
【図5】本発明の表示体に適用した低反射性界面部の一例を概略的に示す平面図である。
【図6】本発明の表示体に適用した低反射性界面部の別の一例を概略的に示す平面図である。
【図7】電子ビーム露光装置等の加工機により感光性レジストにビームを照射して複数の凹部を得る工程を概略的に示す説明図である。
【図8】現像処理後の図7に示す感光性レジストが塗布された基板の表面の様子を示す斜視図である。
【図9】電子ビーム露光装置等の加工機により感光性レジストにビームを照射して複数の凸部を得る工程を概略的に示す説明図である。
【図10】現像処理後の図9に示す感光性レジストが塗布された基板の表面の様子を示す斜視図である。
【図11】本発明にかかる表示体を具備するラベル付き物品(ICカード)の一形態を示す説明用平面図である。
【図12】図11のB−B線に沿う説明用断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
図1に示す表示体10は、レリーフ構造形成層11と反射層13とを積層した積層体を含んで構成される。具体的には、図1及び図2に示すように、レリーフ構造形成層11側を前面側とし、反射層13側を背面側としている。そして、レリーフ構造形成層11は光透過性基材111と光透過性樹脂層112とを積層したものから構成され、光透過性樹脂層112の表面には隠蔽情報表示部200が形成されている(ここに示す隠蔽情報表示部200は後述する第1表示部DA1に相当する)。隠蔽情報表示部200は、光透過性樹脂層112の表面に凹部(及び凸部の何れか一方または両方)PRを可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部IF1と、図5及び図6に示すように、第1界面部IF1内で隠蔽情報表示部200に表示される情報パターンに合わせて凹部(及び凸部の何れか一方または両方)PRを部分的に除去し、もしくは凹部(及び凸部の何れか一方または両方)PRの大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成されている。
【0020】
さらに詳しくは、レリーフ構造形成層11は、複数の界面部、すなわち低反射性の第1界面部IF1及び第1界面部IF1と異なる構造または反射特性の第2界面部IF2を含んでいる。第1界面部IF1は、複数の凸部PRが決められた一定のピッチp(図3参照)、例えば可視光の最短波長未満の平均中心間距離でx−y方向にマトリクス状に配列して形成することで低反射性の界面部が構成される。また、第2界面部IF2は、例えば第1界面部IF1のような微細構造を有しない平坦部から構成される。
【0021】
以下、この表示体10のうち、第1界面部IF1及び第2界面部IF2に対応した部分を、それぞれ、第1表示部DA1乃至第2表示部DA2と呼ぶ。
レリーフ構造形成層11の低反射性の第1界面部IF1は、レリーフ構造形成層11の一方の面に、複数の凸部PRを可視光の最短波長未満の平均中心間距離でマトリクス状に配列することで形成される。さらに、レリーフ構造形成層11は、第1界面部IF1と異なる構造または反射特性の第2界面部IF2を含む。
レリーフ構造形成層11の材料としては、例えば、ポリカーボネート及びポリエステルなどの光透過性を有する樹脂を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用すると、原版を用いた転写により、一方の面に凸部が設けられたレリーフ構造形成層11を形成することができる。
【0022】
図2には、一例として、光透過性基材111と光透過性樹脂層112との積層体で構成されたレリーフ構造形成層11を示している。光透過性基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートである。光透過性樹脂層112は、光透過性基材111上に形成された層である。
図2に示すレリーフ構造形成層11は、例えば、光透過性基材111上に熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂を塗布し、この塗膜に原版を押し当てながら樹脂を硬化させることにより得ることができる。
【0023】
次に、複数の凸部が可視光の最短波長未満の平均中心間距離で配置されている低反射性界面部、すなわち第1界面部IF1について、図3を参照して説明する。
図3は、図1及び図2に示す表示体10の低反射性の第1界面部IF1に採用可能な構造の一例を示すもので、第1界面部IF1は、凸部PRが格子状に配置されている低反射界面部を表している。また、図4は、図3に示す第1界面部IF1を平面視した状態を表している。
【0024】
図3に示す低反射性の第1界面部IF1には、可視光の最短波長未満の平均中心間距離で配置された複数の凸部PRが設けられている。ここでの平均中心間距離とは、隣接して配置されている凸部PR間の平均距離を意味するものである。図3に示す例では、凸部PRは、互いに略直交するx方向とy方向とに格子状に配列しているが、凸部PRはそれとは異なる方向に交差するような格子状の配列であってもよく、また、格子状の配列は曲線であっても、蛇行していてもよい。
また、図3に示す低反射性の第1界面部IF1において、凸部PRは格子状に配列されていることから、周期性を伴うことで所謂回折格子と同様の機能を有する。低反射性の第1界面部IF1は凸部PRが形成している周期構造によって、溝(即ち、格子線)を破線で示すように配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する(図4参照)。
【0025】
次に、図3及び図4に示す低反射性の第1界面部IF1が有している視覚効果について説明する。
回折格子に照明光源を用いて照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式(1)から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
この等式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、透過光又は正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0026】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、且つ90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
また、法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。
従って、格子定数dが波長λと比較してより大きい場合、上記等式を満足する波長λ及び入射角αが存在する。即ち、この場合、観察者は、上記等式を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
これに対し、格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、上記等式を満足する入射角αは存在しない。従って、この場合、観察者は、回折光を観察することができない。
【0027】
以上の説明から明らかなように、格子定数d(中心間距離)が可視光の最短波長未満である低反射性の第1界面部IF1は、法線方向に回折光を射出しない。それゆえ、法線方向から観察した場合、第1表示部DA1は回折による分光色を表示しない。
可視光の最短波長未満とは具体的には、例えば460nm未満程度の長さであるが、それを超える長さ、例えば500nm程度の平均中心間距離で構成された凸部から成る低反射性の第1界面部IF1であっても、法線方向に射出される回折光は極めて限定的であり、その光量はわずかである。
また、各凸部PRは、微細な構造でありながら、テーパ形状を有している。そのため、このような構造を採用した場合、凸部PRの中心間距離が可視光の最短波長と比較してより短ければ、低反射性の第1界面部IF1の領域は、表示体10の厚さ方向に連続的に変化した屈折率を有していると見なすことができる。そのため、どの角度から観察しても、第1界面部IF1の正反射光の反射率は小さい。さらに、図3に示すような複数の凹部が格子状に配置されている格子状の低反射性の第1界面部IF1を用いた場合であっても、法線方向に回折光を射出することはほとんどない。
【0028】
従って、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、表示部DA1は暗く見える。典型的には、表示部DA1は暗灰色又は黒色に見える。なお、ここで、「暗灰色」とは、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が460nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。また、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が460nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、表示部DA1は、例えば暗灰色又は黒色印刷層の如く見える。
【0029】
本実施の形態における低反射性の第1界面部IF1では、複数の凸部の中心間距離が小さくなるのに伴って明度及び彩度が低下し、より黒い表示が可能となり、中心間距離が大きくなるのに伴って、やや輝度が上昇し、暗灰色に知覚される。
また、本実施の形態における低反射性の第1界面部IF1では、複数の凸部の高さが大きい方がより黒い表示が可能となり、高さが小さくなるのに伴って輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるようになる。典型的には高さは中心間距離の1/2以上とすることが望ましい。具体的には、例えば中心間距離が380nmであった場合、高さを190nm以上とすることで暗灰色の表示が可能となり、380nm以上の高さとすることでより黒い表示が可能となる。中心間距離と比較してはるかに高い構造にすると十分な黒さが得られ、且つ、高精度な製造技術が必要となることから、より一層偽造防止効果を向上させることができる。
なお、ここで、本実施の形態における凸部の高さとは、レリーフ構造形成層11と反射層13との界面から凸部の頂部までの高低差を意味する。
【0030】
ここで、例えばレリーフ構造形成層の一方の面に、400nmの平均中心間距離によって、図3のように互いに略直交するx方向とy方向とに複数の凹部がマトリクス状に配列されている場合、1cm角の低反射性の第1界面部IF1には6億個以上の凹部が存在することになる。このように非常に多くの凹部が面内に存在しているので、個々の凹部の形状は厳密に同一でなくても反射防止(抑制)効果を発揮することができる。また、いくつかの凹部が存在しておらず空隙ができていたり、平面視形状の大きさや深さが異なる凹部が混在していたとしても反射防止(抑制)効果にはほとんど影響を与えない。
【0031】
図5は、本発明の一態様に係る低反射性の第1界面部IF1に採用可能な構造の他の例を示すもので、第1界面部IF1は、複数の凸部PRを互いに略直交するx方向とy方向とに、例えば撮像素子における画素構造のように行列状にマトリクス状に配列し、さらに、部分的に凸部PRが存在しない平坦部FRを設けることにより構成される。この凸部PRの有無により、「GENUINE」という隠蔽文字を表示することができる。
図5に示す例では、凸部PRの中心間距離を400nmと仮定すると、「GENUINE」の文字高さは2μm程度であり、非常に小さな文字を形成できることになる。
【0032】
従来から、紙幣や商品券などの有価証券には券面にインキよってマイクロ文字が印刷されており、回折格子を用いた表示体でも回折格子を文字状に形成するなどして印刷によるマイクロ文字と同様の隠蔽情報の付与を行っているが、それらは小さなものであっても文字高さが50μm程度であり、肉眼による観察やルーペ等の簡便な拡大観察手段によってその存在が認識できるものであった。
これに対して、本発明により実現される微小隠蔽情報は数μmを下回る文字高さでの表示が可能であり、従来のマイクロ文字と比較して情報の隠蔽効果が極めて高い。本発明により実現される微小隠蔽情報はあらかじめそれが形成されている位置を把握している正規の製造者でなければ発見、確認が困難であり、また、低反射性の第1界面部IF1を観察するためには高倍率での観察が可能な光学顕微鏡等の専用の機器が必要となる。また、仮に微小隠蔽情報が読み取られたとしても、その偽造は極めて困難である。
【0033】
本発明により実現される微小隠蔽情報は、製造者等の特定の当事者が真贋判定を実施するために表示体の一部に設ける使用法が一般的であり、そのような用途の場合、微小隠蔽情報は非当事者による発見をより困難とするために小さいほど良い。低反射性界面部に設けられる凸部の個々の平面視形状の大きさ(幅)が200〜460nm程度である場合、情報として読み取り可能な文字や記号等を表示するためには図5または図6のように凸部が文字や記号の高さ方向に5個程度必要であることから、文字高さは2μm程度となる。また、凸部の平面視形状の大きさを小さくすることでより小さな微小隠蔽画像の表示が可能となるが、微小化に伴い製造が困難となるので、文字高さの下限は0.5μm程度となる。
【0034】
図6は、本発明の一態様に係る低反射性の第1界面部IF1に採用可能な構造のさらに他の例を示すもので、複数の凸部PRを互いに略直交するx方向とy方向とに、例えば撮像素子における画素構造のように行列状にマトリクス状に配列し、さらに、部分的に平面視形状の大きさや高さが変化している凸部SRを設けることにより構成される。
このように大きさが異なる凸部SRが微小隠蔽情報を表現するように配置されることでも、低反射性の第1界面部IF1を観察した際にその情報を読み取ることが可能となる。
【0035】
なお、本発明において、低反射性第1界面部IF1に形成される凸部の平均中心間距離は200nm以上460nm未満とすることが好ましい。低反射性の第1界面部IF1に形成される凸部は、黒色の表示を行うために可視光の最短波長(460nm)未満の平均中心間距離で配置しているが、平均中心間距離が200nm未満であると原版の加工や複製品の転写成形が困難になる。
【0036】
本発明の低反射性の第1界面部IF1に用いられる複数の凸部の形状としては、図3に示されるようなテーパ形状を用いることができるが、これに限定されるものではない。テーパ形状としては、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は截頭円錐及び截頭角錐などの截頭錐体形状を挙げることができる。また、低反射性の第1界面部IF1に形成される複数の凸部の側面形状としては、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。
なお、テーパ形状は、原版からの複製品のレリーフ構造形成層11の取り外しを容易にし、生産性を向上する効果をも有する。
【0037】
次に、図2に示す第2界面部IF2について説明する。
第2界面部IF2は、例えば回折格子や光散乱構造を有する面から構成され、平坦面であってもよい。表示体に複数の第2界面部IF2を設け、それぞれに回折格子形成面や光散乱構造形成面や平坦面等を設けることで、それらを画像構成要素として、表示画像を形成する。第2界面部IF2に回折格子形成面を設けることで回折格子による分光によって虹色に輝く光学効果が得ることができ、また、光散乱構造形成面を設けた場合には、光の散乱効果によって白色または白濁色の表示が可能となる。
平坦面とした場合には特別な光学効果は得ることができないが、他の光学効果を有する他の界面部との差によって画像を構成することができる。これらの構造を設けた第2界面部IF2と、第1界面部IF1を組み合わせることによって肉眼で観察することができる画像や意匠を表示することができる。
【0038】
第1界面部IF1及び第2界面部IF2を有するレリーフ構造形成層の原版を作製するには電子ビーム露光装置や、レーザー露光装置、集束イオンビーム(FIB)加工機等の数十〜数nmに細く絞ったビームを走査することが可能な加工機を用いるのが良い。それらの装置は、感光性レジストが塗布された基板表面にビームを走査させることでビームが照射された部分だけ感光性レジストを化学的に変化させることができる。その後、基板に対し現像処理を施すことで微細凹凸構造を得ることができる。
【0039】
図3や図5,図6に示したような複数の凸部がマトリクス状に配列されてなる低反射性の第1界面部IF1を得るには、図7のようにXYステージ20上に載置された感光性レジストが塗布された基板21上に、微小な矩形や円形の形状にビーム22を走査して感光性レジストを部分的に露光する方法がある。
このような方法で露光を行った後、現像処理を施した基板は図8のように露光部分が凹部NRとなる構造が得られる。この基板から電鋳等の転写成形手段により、金属製の型を作製することで、複数の凸部PRから成る低反射性の第1界面部IF1を含むレリーフ構造成層を有する原版を得ることができる。
【0040】
また、図9のように基板21上に格子状にビーム22を走査させることで、現像後の基板21は図10のように複数の凸部PRが形成された構造となる。
図7及び図9に示した微細凹凸構造を得る方法では、ビームが照射された部分の感光性レジストが現像後に溶解する、所謂ポジ型レジストの特性について例を示したが、ビームが照射されたところのみが現像後に溶解せずに残留する、所謂ネガ型の感光性レジストもある。この場合は図7及び図9でビームを照射しなかった部分にビームを照射することでポジ型レジストとは凹凸が逆転した構造を得ることが可能である。
ここで、このような加工方法で微細凹凸形状を作製する際に、任意にビームの走査の有無を制御することで、図5に示したように前記低反射性界面部内において、凸部PRが部分的に存在していない平坦部を設けることができ、文字や数字、記号、2次元バーコード等の微小隠蔽情報を表現できるようになる。
また、ビームの照射エネルギー量や照射時間を任意に調整することで、凸部PRの平面視形状の大きさや高さ、または凹部NPの平面視形状の大きさや深さを変えることができ、凸部又は凹部の形状の変化によって文字や数字、記号、2次元バーコード等の微小隠蔽情報を表現できるようになる。
【0041】
本発明の実施の形態に用いられる反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、レリーフ構造形成層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうちレリーフ構造形成層11と接触しているものの屈折率は、レリーフ構造形成層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0042】
レリーフ構造形成層11及び反射層13の一方は、省略することができる。ここで、反射層のみからなる表示体とは、レリーフ構造形成層として金属層、誘電体層、誘電体多層膜を用いたものを意味する。ただし、表示体10がレリーフ構造形成層11及び反射層13の双方を含んでいる場合、それらの一方のみを含んでいる場合と比較して、先の界面の損傷を生じ難く、表示体10に視認性がより優れた像を表示させることができる。
また、反射層13は、複数の界面部の一部又は全部に被覆させてもよく、この反射層13の分布を用いて、例えば、反射層の存在する領域の輪郭を用いて、図柄を表現することもできる。さらに、反射層13は、レリーフ構造形成層11全面に被膜させてもよい。
【0043】
本発明における表示体は、接着剤層、樹脂層等の他の層を更に積層してもよい。
また、本発明における接着剤層は、例えば、反射層を被覆するように設ける。表示体がレリーフ構造形成層及び反射層の双方を含んでいる場合、通常、反射層の表面の形状は、レリーフ構造形成層と反射層との界面の形状とほぼ等しい。接着剤層を設けることで、反射層表面の露出を防止することができるため、先の界面の凸部又は凹部の、偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
また、レリーフ構造形成層側を背面側とし且つ反射層側を前面側とする場合、接着層は、レリーフ構造形成層上に形成する。
【0044】
本発明における樹脂層は、レリーフ構造形成層及び反射層の積層体に対して前面側に設けることができる。
レリーフ構造形成層側を前面側とし、反射層側を背面側とする場合、複数の界面部が設けられていないレリーフ構造形成層上を樹脂層によって被覆することで、レリーフ構造形成層の損傷を抑制することができる。また、レリーフ構造形成層側を背面側とし、反射層側を前面側とする場合、反射層を樹脂層によって被覆することで、反射層の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凸部又は凹部の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
また、本発明における表示体は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物や物品に貼り付けて使用することができる。表示体は微細な凹凸構造により光反射防止機能を備えた微小隠蔽画像を有することから偽造又は模造が困難であり、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0045】
次に、本発明にかかる表示体を偽造防止用又は識別用ラベルとして印刷物本体に取り付けてなるラベル付き物品について、図11及び図12を参照して説明する。
図11および図12において、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、ID(identification)カードであって、基材50を含んでいる。基材50は、例えば、プラスチックからなる。基材50の一方の面には凹部30aが設けられており、この凹部30aにICチップ30が嵌め込まれている。ICチップ30の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込み及び/又はICに記録された情報の読出しが可能である。
また、基材50上には、印刷層40が形成されている。基材50の印刷層40が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材50に固定する。
【0046】
印刷物100は、上述した第1界面部および第2界面部を有する表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ30及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0047】
また、図11及び図12では、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限定されるものではない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びIDカードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
また、図11及び図12に示す印刷物100では、表示体10を基材50に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【0048】
また、上記の実施の形態では、表示体10の第1界面部IF1を凹部NRまたは凸部PRの何れかで構成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、凹部NR及び凸部PRの何れか一方または両方を予め決められたピッチで配列形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10…表示体、11…レリーフ構造形成層、13…反射層、20…XYステージ、21…感光性レジストが塗布された基板、22…ビーム、30…ICチップ、40…印刷層、50…基材、100…印刷物、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、DA1…第1表示部、DA2…第2表示部、IF1…第1界面部、IF2…第2界面部、PR…凸部、NR…凹部、FR…平坦部、SR…凸部より小さい形状の凸部、200…隠蔽情報表示部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性のレリーフ構造形成層を備え、
前記レリーフ構造形成層は、光透過性基材と、前記光透過性基材の一方の面に設けられた光透過性樹脂層と、前記光透過性樹脂層の表面に形成された隠蔽情報表示部を含み、
前記隠蔽情報表示部は、前記光透過性樹脂層の表面に凹部及び凸部の何れか一方または両方を可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部と、前記第1界面部内で前記隠蔽情報表示部に表示される情報パターンに合わせて前記凹部及び凸部の何れか一方または両方を部分的に除去し、もしくは前記凹部及び凸部の何れか一方または両方の大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成されている、
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記レリーフ構造形成層は、前記第1界面部と異なる反射特性を有する第2界面部を含んでいることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記第2界面部は回折格子、光散乱構造及び平坦部の何れかで構成されていることを特徴とする請求項2記載の表示体。
【請求項4】
前記凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上460nm未満であることを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の表示体。
【請求項5】
前記凹部の深さまたは前記凸部の高さが0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の表示体。
【請求項6】
前記凹部及び凸部の平面視形状の大きさ及び前記凹部の深さまたは前記凸部の高さの少なくとも1つが異なることを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載の表示体。
【請求項7】
前記第1界面部の表面の少なくとも一部が反射層により被覆されていることを特徴とする請求項1乃至6に何れか1項記載の表示体。
【請求項8】
基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至7に何れか1項記載の表示体を備える、
ことを特徴とするラベル付き物品。
【請求項1】
光透過性のレリーフ構造形成層を備え、
前記レリーフ構造形成層は、光透過性基材と、前記光透過性基材の一方の面に設けられた光透過性樹脂層と、前記光透過性樹脂層の表面に形成された隠蔽情報表示部を含み、
前記隠蔽情報表示部は、前記光透過性樹脂層の表面に凹部及び凸部の何れか一方または両方を可視光の最短波長未満のピッチで配列形成してなる低反射性の第1界面部と、前記第1界面部内で前記隠蔽情報表示部に表示される情報パターンに合わせて前記凹部及び凸部の何れか一方または両方を部分的に除去し、もしくは前記凹部及び凸部の何れか一方または両方の大きさを部分的に変えることで形成される隠蔽情報とから構成されている、
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記レリーフ構造形成層は、前記第1界面部と異なる反射特性を有する第2界面部を含んでいることを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記第2界面部は回折格子、光散乱構造及び平坦部の何れかで構成されていることを特徴とする請求項2記載の表示体。
【請求項4】
前記凹部同士または凸部同士または凹部と凸部のピッチが200nm以上460nm未満であることを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の表示体。
【請求項5】
前記凹部の深さまたは前記凸部の高さが0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の表示体。
【請求項6】
前記凹部及び凸部の平面視形状の大きさ及び前記凹部の深さまたは前記凸部の高さの少なくとも1つが異なることを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載の表示体。
【請求項7】
前記第1界面部の表面の少なくとも一部が反射層により被覆されていることを特徴とする請求項1乃至6に何れか1項記載の表示体。
【請求項8】
基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至7に何れか1項記載の表示体を備える、
ことを特徴とするラベル付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−31420(P2011−31420A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177616(P2009−177616)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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