説明

表示用繊維、その製造方法、およびそれを用いた表示用シート

【課題】コントラストが高く良好な画質を得ることができ、溶融紡糸法により容易に製造可能な、2色に色分けされた回転可能な表示素子を封入した表示用繊維およびそれを用いた表示用シートを提供する。
【解決手段】透明中空繊維内に、表面を少なくとも2色に色分けした、回転可能な表示素子が分散用液体とともに封入されている表示用繊維であって、前記表示素子が、分散用液体によって膨潤している表示用繊維。また、前記表示素子の形状は、球状、楕円体状、および柱片状から選ばれる一種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、携帯電話、モバイル端末などのディスプレイとして使用されるか、またはそれらから情報を取得して、独立して運搬できる表示体、例えば電子ペーパーや電子書籍閲覧機などにも使用できる表示用繊維、その製造方法およびそれを用いた表示用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピュータ・ネットワークの高度化、高速化による情報量の増大に伴い、さまざまな書類処理の電子化が進み、その分量も増加している。これらの電子情報は、一旦ディスプレイ上で表示されるが、ディスプレイ上で閲覧するためには多くの情報を姿勢が固定された状態で読み進めなければならず、疲労しやすい。そのため、自由な姿勢で書類を手にとって容易に全体を一覧することができるという理由から、多くの場合電子情報は紙に印刷されているのが現状である。ペーパーレス化への社会の要求が強い反面、実際は紙の使用量はむしろ増加している。このような実情から、ペーパーライクな視認性、低消費電力、薄型、およびフレキシブルといった特長を有する表示装置のニーズが増しており、これらのニーズに合わせた表示技術の研究、開発が盛んに行われている。
【0003】
その中で、いわゆる電子ペーパーと言われる繰り返し書き換え可能な表示技術の1つとして、半球ずつ色分けされた球状の表示素子を備えた表示ユニットにより構成される表示装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。この方法は、半球ずつ色分けされた粒子を表示媒体として用いるものである。すなわち図1に示すように、表示用回転粒子分散パネル5は、光学的に透明な板状の基体2中に、半球1a、1bずつ色分けされた粒子、すなわち、表示用回転粒子1が誘電性液体4で満たされた球状の空隙3に封入されたカプセル構造をもって、分散された状態の構造を有しており、その表裏面に、電極6と透明パネル7よりなる透明電極8を密着させ、電源9によって電界を印加し、それによって粒子の回転運動を起こさせ、画像を形成するものである。
また、前記と同様な装置で、粒子が円柱片状のものも開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
一般に、液体中の粒子は、粒子と液体との間で電荷の授受が行われ、電気二重層が形成され、粒子は正又は負に帯電する。表示用回転粒子は、その表面が少なくとも2つ以上の色の異なる領域を持つと共に、液体中での帯電特性が異なる2つの領域を持つように調整されている。このような粒子に電界を与えると、粒子にはその極方向を電界方向にそろえようとするトルクが働き、粒子はいずれかの半球面を一方向にそろえる。電界の方向を逆転すれば、粒子は反転し、表示の反射色が変化する。表示装置は、受光型であるため印刷物のように目になじみ易く、また、外光によるちらつきを原因とする目の疲労のない表示装置として期待されている。
【0005】
表示装置の製造法は、前記の表示用回転粒子を硬化前のエラストマーと混合し、薄いシート状に成形後熱硬化させる。次にこのエラストマーを、例えば有機溶媒、あるいは油のような誘電性液体中に浸す。この液体は可塑剤として働き、エラストマーを膨潤させる。このエラストマーはほぼ均質に膨潤するから各粒子の周囲に空隙が生じ、同時に空隙内は上記液体によって満たされ、粒子は、結果的にこの空隙内に液体を介して配置され、粒子は空隙内に自由に回転できるように支持される。図1に示すように、例えば半球面毎に色分けされた粒子が、球状の空隙3に誘電性液体4を介して封入されたエラストマーシートを得る。このエラストマーを対向する透明電極間に配置する。透明電極はインジュウム錫酸化物(ITO)等の透明導電膜から構成されている。
【0006】
ところが、実際には、上記のような製造法、あるいは表示装置には種々の問題がある。すなわち、シートの成形後に熱硬化が必要であったり、誘電性液体に浸したりと複雑な工程を必要とする。また、図1に示すように、エラストマーの膨潤によって空隙3を形成するので、これに使用可能な液体の種類は制限される。さらに膨潤状態は温度に依存するので、各部一様の大きさでかつ優れた形状、すなわち一定の直径を有する球状の空隙3を得ることが難しい。このようなばらつきが原因で、目的の画像を再現性よく形成することができないという問題があった。すなわち、空隙が粒子に対して小さ過ぎたり、その形状が歪であったりした場合は、空隙内での粒子の自由な回転を阻害するため、外部電界の作用下で表示用回転粒子1が電気的異方性にしたがって回転し画像を形成する際、画像表示に必要なだけの回転(一般には180°)を得られない。一方、空隙が粒子に対して大き過ぎる場合は、画像の表示に関与する粒子部に対して、画像表示に関与しない液体部の比率が相対的に大きくなり、コントラストの高い良好な画像を得ることが難しくなる。
【0007】
そこで本発明者らは、上記表示装置の製造上、および品質上の問題点を克服するため、「球状、楕円体または柱片状の表示素子と、表示素子の単数、又は複数個を透明な中空繊維に封入した表示ユニットであり、該表示素子の表面には表示のための異なる色の領域を区分してあり、かつ該表示素子が帯電状態の異なる少なくとも二極に分極されており、かつ該中空繊維内部において、すべての表示素子が独立して回転可能であることを特徴とする表示ユニット」を提案してきた(例えば、特許文献4参照。)。図2には球状表示素子を封入した表示用繊維を示し、図3には円柱状表示素子を封入した表示用繊維を示す。
【0008】
上記構成によれば、表示ユニットが個々に独立しているため、塗工などの簡便な方法での製造が可能である。例えば、表示ユニットを液体中に分散させ、これをシート状支持体上に塗工することによる製造、あるいは網目状支持体上に広げ、液体を取り除くことによって表示ユニット同士を絡み合わせてシート状にすることによる製造が可能である。製造の際、表示ユニットを一定の方向に向けておけば、表示ユニットを平行に配置すること、それを直交(垂直)方向に積層すれば、格子状に表示領域を形成することも可能である。また、表示ユニットに表示素子や液体を封入する方式であるため、封入用の液体は任意に選定することができる。さらに液体を封入した透明な中空筒体の側面部(円周状面)は、図4に示すように、いわゆる凸レンズ効果により、内部の表示素子を実際より太く見せることができるので、表示領域全体に占める、見かけ上の表示素子の面積が大きくなり、結果として良好なコントラストを得ることが可能になる。
【0009】
表示ユニットとしての表示用中空繊維の作製法としては、例えば特許文献5のような溶融紡糸法を利用した製造法が開示されている。2色に色分けした球状表示素子を分散させた液体を封入した表示用繊維の作製には、図5に示すようなノズルを用意する。ノズル部1は、球状表示素子の分散液を押出す部分で、ノズル部2は、透明中空繊維用材料を押出す部分である。このようなノズルを使用して加熱しながら、透明中空繊維用材料と、球状表示素子分散液とを、同時に押出し、所定の径になるように延伸して表示用繊維を作製する。この方法によれば、エラストマーの膨潤による球状空隙の形成に比べ、高い精度で表示用中空繊維を形成することができる。これによって、表示素子の回転が阻害されることなく、良好な画像の形成が可能になる。
【0010】
しかしながら、上記のような表示ユニット、つまり2色に色分けされた回転可能な表示素子を封入した表示用中空繊維においては、見かけ上の表示素子の面積を大きくして十分なコントラストを得るために、表示素子のサイズ、すなわち球状表示素子の場合は球の直径、円柱状表示素子の場合は底面の直径が、中空繊維の内径に十分近い大きさであることが望ましい。ところが、そのような場合には表示素子の分散液を図5のノズル部1から押出す際に、表示素子のサイズが大きいために凝集してノズルが詰まってしまい、分散液が押出されず表示素子が内包されないという製造上の問題があった。
【0011】
また、上記のようなノズル部が詰まるトラブルを回避するために表示素子のサイズを十分に小さくした場合には、表示用中空繊維の径に対して表示素子の見かけ上の面積が小さいため、コントラストが悪化するという表示品質上の問題があった。さらに、表示素子が小さいため回転だけでなく繊維径方向への泳動も伴うため、印加した電圧に対する回転の効率が悪くなり、結果としてコントラストを得るための駆動電圧が高くなってしまうという問題もあった。
【0012】
【特許文献1】米国特許第4126854号明細書(第1図)
【特許文献2】特開平1−282589号公報(第6頁、第1図)
【特許文献3】特開2000−89260号公報(第2−3頁、第3図)
【特許文献4】特開2002−202536号公報(第6頁、第1図)
【特許文献5】特開2005−227613号公報(第2−5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記製造上および表示品質上の問題を解決し、溶融紡糸法により容易に製造可能な、2色に色分けされた回転可能な表示素子を封入した表示用繊維およびそれを用いた表示用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、中空繊維の内径に対して十分小さいサイズの表示素子の分散液を、透明中空繊維用材料と同時に押出し、ノズルが詰まることなく表示用繊維を作製したのち、内包された表示素子を、中空繊維の内径と略同一のサイズになるまで自然に膨潤させることにより、良好な表示性能を有する表示用繊維が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明は下記の態様を包含する。
(1)透明中空繊維内に、表面を少なくとも2色に色分けした、回転可能な表示素子が分散用液体とともに封入されている表示用繊維であって、前記表示素子が、分散用液体によって膨潤していることを特徴とする表示用繊維。
(2)前記表示素子の形状が、球状、楕円体状、および柱片状から選ばれる一種である(1)項に記載の表示用繊維。
(3)前記表示素子の主成分が架橋ポリマーである(1)項または(2)に記載の表示用繊維。
(4)前記表示用繊維が、透明中空繊維用材料、および表示素子を含む分散用液体を、ノズルから同時に押出して作製された(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の表示用繊維。
【0016】
(5)透明中空繊維用材料、および表示素子を含む分散用液体を、ノズルから同時に押出して表示用繊維を形成した後、前記表示素子を分散用液体によって膨潤させることを特徴とする表示用繊維の製造方法。
(6)(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載の表示用繊維を、シート状に並べたことを特徴とする表示用シート。
(7)前記表示用繊維を、互いに接着して、シート状にした(6)項に記載の表示用シート。
(8)前記表示用繊維を、該表示用繊維と交差するように連結用の繊維を配置して製織し、シート状にした(6)項に記載の表示用シート。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、表面を少なくとも2色に色分けした、回転可能な表示素子が分散用液体とともに封入されている表示用繊維を、簡便な方法により製造することができる。また、本発明の表示用繊維からなる表示用シートは良好な表示性能をもち、フレキシブルでペーパーライクな表示装置として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の表示用繊維は、透明中空繊維内に、表面を少なくとも2色に色分けした回転可能な表示素子が、表示素子の分散用液体とともに封入され、かつ前記表示素子が分散用液体によって膨潤していることを特徴とするものである。表示素子としては、その表面が2種以上の異なる色の領域に区分けされ、中空筒体状の透明中空繊維内で、表示素子が独立して回転可能であることが必要である。表示素子の形状としては、例えば、球状、楕円体状、および柱片状等が挙げられ、柱片状としては、円柱状、あるいは四角柱片、六角柱片などの角柱片状でもよい。これらの中でも、球状、楕円体状、または円柱状の表示素子が好ましく使用される。
【0019】
(表示用繊維およびその製法)
図5および図6は本発明の表示用繊維の製造方法、および得られた表示用繊維を示す説明図である。例えば、中空繊維内に、2色に色分けした球状表示素子(単に、2色粒子とも言う。)を分散させた液体を封入する場合は、図5に示すようなノズルを用意する。ノズル部1は、2色粒子の分散液を押出す部分で、ノズル部2は、透明中空繊維用材料を押出す部分であり、ノズル部1とノズル部2は、一般に同軸のノズルである。このようなノズルを使用して加熱しながら、透明中空繊維用材料と、2色粒子分散液とを、同時に押出し、所定の径になるように延伸して中空繊維を作製する。なお、表示素子の形状が楕円体状や柱片状の場合でも同様の方法で作製することができる。
【0020】
なお、ここでは繊維という言葉を使っており、繊維という名称は、一般に、直径が数百μm以下の細くて長いという形態に対して与えられた名称であるが、本発明では、特に繊維の直径について限定するものではない。用途に応じて適宜選択され、10〜500μm程度の径が表示用として好ましく使用される。
【0021】
前記表示用繊維の製造方法において、表示素子分散液を封入する際には、表示素子がノズルにおいて詰まることが無いように、表示素子のサイズを中空繊維の内径に対して十分に小さくする必要がある。その場合、製造直後の表示用繊維は、図6aのようになる。この状態では、表示用繊維の径に対して表示素子の見かけ上の面積が小さいため、コントラストが不足するという表示品質上の問題が生じる。また、表示素子が小さいため回転だけでなく繊維径方向への泳動も伴うため、印加した電圧に対する回転の効率が悪くなり、結果として駆動電圧が高くなってしまうという問題も発生する。
【0022】
そこで本発明では、図6aのように、中空繊維の内径に対して十分に小さい表示素子を中空繊維に封入した後、中空繊維の内径と略同一のサイズになるまで、分散用液体中で表示素子を徐々に膨潤させて、図6bのような表示用繊維とすることを特徴とするものである。表示素子が、中空繊維中で膨潤することにより、表示素子の見かけ上の面積が大きくなり、良好な表示品質を得ることができる。
【0023】
本発明における表示素子は、表示素子分散液が表示用繊維に封入された後、そのサイズ、すなわち球状表示素子の場合は球の直径、円柱状表示素子の場合は底面の直径が、中空繊維の内径と略同一になるまで徐々に膨潤する。つまり、表示素子分散液が調製されてから、表示用繊維内部に封入されるまでの短い時間では、表示素子は分散用液体によって膨潤せず、そのためノズルが詰まることもなく繊維内部に封入される。一旦表示素子が中空繊維内部に封入された後、シート化され、表示素子としてデバイス化されるまで、一定の時間が経過した後、表示素子はそのサイズが中空繊維の内径と略同一のサイズになるまで徐々に膨潤する。膨潤前後での表示素子のサイズの変化率は、1.1〜5.0程度が好ましく、より好ましくは1.5〜3.5程度である。なお、ここでサイズの変化率とは次式で定義される。
〔サイズの変化率〕=(膨潤後の表示素子のサイズ)/(膨潤前の表示素子のサイズ)
ここで「サイズ」とは、球状表示素子の場合は球の直径、円柱状表示素子の場合は底面の直径を示し、表示素子を顕微鏡で観察することにより容易に測定される。「膨潤後」とは表示素子が分散用液体によって膨潤して、一定時間が経過後、それ以上サイズが大きくならなくなった時点を示し、「膨潤前」とは表示素子を分散用液体に分散させた直後で、まだ膨潤が始まっていない時点を示す。本発明では、膨潤後の表示素子のサイズは中空繊維の内径と略同一であることが好ましい。表示素子の膨潤前のサイズについては、一概には言えないが、1〜400μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。
【0024】
本発明において使用可能な表示素子の製造方法について例示する。
2色に色分けした着色粒子の製造方法としては(1)色の異なる2種類の硬化性樹脂組成物を結合させて粒子化する方法(特開平6−226875号公報)、(2)光透過性粒子表面に、金属、カーボンブラックなどを蒸着、塗布する方法(特開平11−85067号公報)、(3)感光材料からなる粒子を用い、露光、現像、定着により色分けする方法(特開平11−85069号公報)、(4)表裏で色の異なる2つの組成物を貼合し、粒子になるように加工する方法(特開平1−282589号公報、特開2002−99005号公報等)、(5)色の異なる2種類の液体を空気中で接触させ、反応液に浸し固化させる方法(特開2004−199022号公報)、(6)マイクロチャンネル内に連続的に形成された、色の異なる2種類の液体からなる層流を、別の液流によりせん断して液滴を形成し、さらに固化させて粒子化する方法(特開2004−197083号公報)などの公知の方法を用いることができる。
【0025】
また、色分けした円柱状表示素子も、前記2色粒子の製造方法に準じた類似の方法により製造することができる。例えば、前記(1)の方法では、色の異なる2種類の部分からなる繊維(サイドバイサイド繊維)を形成したのち、回転刃や直線刃などの固体刃、またはレーザー光を用いて細かく切断することにより円柱状表示素子が製造可能であるし、前記(2)や(3)の方法においては粒子の代わりに円柱体を用いればよい。
【0026】
本発明の表示用繊維において、表示素子を分散用液体によって膨潤させる必要があるため、表示素子を構成する材料としては、架橋ポリマー、すなわち架橋構造が導入されたポリマーが好ましく用いられる。ポリマー成分としては、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリウレア樹脂、アクリルアミド樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(塩ビ樹脂)、セルロース及びセルロース誘導体、キチン・キトサンおよびそれらの誘導体、アルギン酸系樹脂などを使用することができる。これらポリマーから構成される表示素子に架橋構造を導入させるには、ポリマー形成の重合過程において任意の公知の方法を用いることができる。例えば、架橋剤として多官能性モノマーまたはオリゴマーを用いる方法、電子線や紫外線などの活性エネルギー線を照射する方法などがある。
【0027】
前記架橋構造の導入において、架橋剤の量を増減させる、あるいは活性エネルギー線の照射量を調節することにより、ポリマーの架橋度を変化させることができ、この架橋度に応じて膨潤の度合い(膨潤度)が決まる。一般的には架橋度が大きくなると膨潤度は小さくなる。従って本発明では、表示素子の製造過程において架橋度の調整を任意に行うことにより、膨潤度を制御することができ、その結果、中空繊維の内径と略同一のサイズになるまで表示素子を膨潤させることが可能である。
【0028】
表示素子を色分けするために用いる着色剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、鉛白、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミウムオレンジ、チタンイエロー、紺青、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン、コバルトバイオレット、酸化鉄、フッ化マグネシウム、カーボンブラック、マンガンフェライトブラック、コバルトフェライトブラック、銅粉、アルミニウム粉、アゾ系、ビスアゾ系、トリアゾ系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系、スチルベン系、フェロシアン化合物、酸化コバルト化合物、フタロシアニン化合物、イソインドリノン化合物、モリブテン化合物、ランプブラック、デュポンオイルレッド、オリエントオイルレッド、ローズベンガル、キノリンイエロー、クロームイエロー、ウルトラマリンブルー、アニリンブルー、マラカイトグリーンオキサレート等が使用できる。
【0029】
本発明では、表示用繊維により構成されるシートに電界を印加し、表示用繊維に内包された、2色に色分けされた表示素子を回転させることにより表示を行う。従って、表示素子の表面の帯電状態を異なる二極に分極する必要があり、そのために帯電制御剤が用いられる。帯電制御剤としては、例えば、正帯電用として、ニグロシン系、四級アンモニウム塩化物、トリフェニルメタン系等が、負帯電用としてモノアゾ系染料のCr錯体、CrやZnのサリチル酸塩などの各顔料や染料などが挙げられる。
【0030】
色分けした粒子や円柱体等の表示素子を分散する液体(分散用液体)としては、一般に、シリコーン系オイル、脂肪族炭化水素系オイル、芳香族炭化水素系オイル、脂環式炭化水素系オイル、ハロゲン化炭化水素系オイル、各種エステル類、またはその他の種々の油等を単独、または適宜混合したものが使われ、表示素子の材質等に合わせて適宜選択して使用される。これらの中でも、脂肪族炭化水素系オイル、特にパラフィン系オイル(ノルマルパラフィン、イソパラフィン)は、架橋ポリマーを膨潤させ易く、特に好ましく用いられる。例えば、イソパラフィンとしてアイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM(いずれもエクソンモービル(株)製)やIPソルベント1620、2028、2835(いずれも出光興産(株)製)などが用いられる。
【0031】
前述のように、本発明の表示用繊維は、中空繊維中の表示素子が分散用液体によって膨潤していることを特徴とする。本発明に用いられる表示素子の、分散用液体に対する膨潤度は1.1〜130程度が好ましく、さらに好ましくは1.3〜45程度である。一般に膨潤度とは、膨潤前後の体積変化率を表わす。すなわち、膨潤度は次式で定義される。
〔膨潤度〕=(膨潤後の表示素子の体積)/(膨潤前の表示素子の体積)
【0032】
膨潤前後の表示素子の体積は、顕微鏡で観察することにより求めることができ、また、表示素子および溶媒の比重が既知であれば、膨潤前後の質量変化または膨潤後の表示素子の溶媒含有率などからも求めることができる。また、すでに述べたように「膨潤後」とは表示素子を溶媒に分散させた後、一定時間が経過して、それ以上サイズが大きくならなくなった時点を指す。特に規定されるものではないが、一般的には表示素子を溶媒に分散させてから24時間後を「膨潤後」として膨潤度を求めればよい。なお、一概には言えないが、膨潤度の値は、すでに定義した「表示素子のサイズの変化率」の値の3乗に近い値となる。
【0033】
表示用繊維を形成する樹脂としては、特に限定するものではないが、透明度が高いものが好ましい。具体例としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アミド系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、アクリル系樹脂、ABS系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は紡糸方法によって適宜選択して使用され、例えば溶融紡糸法の場合には、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アミド系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂が好ましく使用される。
【0034】
(表示用シート及びその製法)
図7は、本発明に係る表示用繊維シートの一実施形態を示す平面図であり、本発明を限定するものではない。例えば、図7aにおいて、本発明の表示用繊維1をシート状に加工する方法として、複数の表示用繊維1を並べて接着し、シート化する方法を示す。
表示用繊維をシート状に接着加工するには、例えば、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系等の接着剤を塗布し、束ねてシート化する。あるいは表示用繊維同士を接触させ、加熱することより繊維を熱融着させることにより、容易にシート化することが可能である。
【0035】
また図7bにおいて、複数の表示用繊維1を、この表示用繊維と交差するように連結用の繊維2を配置して製織し、シート状にした表示用シートを示す。例えば、表示用繊維1を経糸とし、この経糸の略垂直方向から連結用の緯糸2を通して織り、シート化する方法などが挙げられる。適宜、経糸と緯糸を入れ替えて、表示用繊維を緯糸とし、経糸として連結用の繊維を用いて製織し、シート化することも可能である。また、経糸と緯糸の両方に表示用繊維を用いて製織し、シート化してもよい。
【0036】
表示用シートにおいて、表示部分の有効面積を大きくするには、表示用繊維1を形成する繊維の直径を大きくし、連結用の繊維2の直径を小さくするか、あるいは、表示用繊維1の間隔を狭くして、連結用の繊維2の間隔を広くするのがよい。但し、連結用の繊維2の直径を小さくし過ぎたり、間隔を過度に広くすると、表示用シートの強度が不十分となるおそれがあり、表示面積とシート強度のバランスには注意する必要がある。
【0037】
表示部の面積割合、シート強度等の点から、繊維の直径(外径)は10μm以上が好ましく、50〜200μmがより好ましい。一方、連結用繊維の直径は50μm以下が好ましく、10〜40μmがより好ましい。製織された表示用繊維シートにおいて、繊維の間隔は20μm以下が好ましく、1〜15μmがより好ましい。また、連結用繊維の間隔は50μm以上が好ましく、50〜500μmがより好ましい。
【0038】
連結用の繊維材料としては、ポリエステル、アクリル、ナイロン、セルロース、ウレタン、ポリエチレン、絹などの公知の繊維材料を使用することが可能である。
【0039】
(表示装置及びその製法)
繊維シートの各部に、例えば電界を与える装置を配置することで、情報の記入・消去・書換えが可能となる。電界を与える装置としては、公知の手段を適用できる。例えば、シート上下に電極版を設置した構造や、繊維上に直接電極を形成した構造、などがある。繊維シートに電極板を設置する場合には、上側の電極板の材質として、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂等の樹脂フィルム、あるいはガラス、石英等の無機材料のような耐熱性の高い材料を用いることができる。電極には、パターニング可能な導電性材料で、透明であればどのような材料を用いてもよい。一方、下側に設置する電極板は、特に透明性を必要としないので、金属など不透明な電極材料を用いても構わない。
【0040】
本発明の表示装置を用いればカラー表示も可能である。異なる表示色を示す表示用繊維を用いるか、あるいはシート上下どちらかに着色層を設けることにより、カラー表示を行う。例えば、(1)イエロー色と白色を表示する繊維、(2)マゼンタ色と白色を表示する繊維、(3)シアン色と白色を表示する繊維、の3種類を規則的な順番で配列し、画素毎に適宜発色させることでカラー表示を行うことができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、実施例中の「%」および「部」は、すべて「質量%」および「質量部」を意味する。
【0042】
実施例1
(1)2色に色分けされた球状表示素子(2色粒子)の製造方法
重合性単量体1として、イソボルニルアクリレート100部に、架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレート1部、および着色剤としてカーボンブラック(商品名:MA−100、三菱化学製)1部を、サンドミルを用いて分散させ、熱重合開始剤としてクミルパーオキシネオデカネート0.5部を溶解させ、着色連続相用反応性溶液A−1とした。
【0043】
次に、重合性単量体2として、ブチルアクリレート100部に、架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレート1部、および着色剤として酸化チタン(商品名:R−550、石原産業製)1部を、サンドミルを用いて分散させ、熱重合開始剤としてクミルパーオキシネオデカネート0.5部を溶解させ、着色連続相用反応性溶液A−2とした。
また、イオン交換水100部に88%ケン化ポリビニルアルコール1部を溶解させたものを水性の流動媒体Bとした。
【0044】
使用する実験装置は、単量体同士の混合として、図8の装置を用いてA−1およびA−2を合流させ、次に、3本の流路が交差したマイクロチャンネルの真ん中の第1マイクロチャンネルから、A溶液を(1ml/hr)で、その両側の第3および第4マイクロチャンネルを30(ml/hr)で流れる流動媒体B中に吐出させ、その後、管内径0.5mmのPTFEチューブに流しながら、90℃温水浴中を通し重合を行なった。以上の操作により黒色/白色の粒子径のそろったポリマー微粒子が得られた。その粒子径は50μmであった。
【0045】
(2)球状表示素子(2色粒子)分散液の調製
前記作製した球状表示素子(黒/白2色粒子)を10%濃度になるように脂肪族炭化水素系オイル(商品名:アイソパーG、エクソンモービル製)に分散した。
【0046】
(3)表示用繊維の作製
図5に示すようなノズルを用い、黒/白2色粒子分散液と透明中空繊維材料であるポリプロピレンを用いて、内径が100μmになるように押出し成型し、黒/白表示用繊維を得た。この時点では表示素子はまだ膨潤しておらず、表示素子の直径が中空繊維の内径の0.5倍と、十分に小さかったために、ノズルで表示素子が詰まることなく、表示素子分散液を中空繊維内部に良好に封入することができた。
【0047】
(4)表示用繊維のシート化
前記により作製された表示用繊維を複数本、それぞれの両端をヒートシールにより封止したのち、並列に並べて接着剤(商品名:セメダインスーパーX、セメダイン(株)製)で接着させ、表示用シートを作製した。球状表示素子をアイソパーGに分散させてから約24時間後には、表示素子の直径が中空繊維の内径と略同一になるまで膨潤しており、サイズの変化率は1.7、膨潤度は4.9であった。
【0048】
(5)表示装置の作製、および表示品質評価
得られた表示用シートをITO電極で挟み込み、表示装置を作製した。評価方法として、上電極を正、下電極を負にすることにより前面黒表示、上電極を負、下電極を正にすることにより全面白表示になった。表示素子の直径が中空繊維の内径と略同一になるまで膨潤しており、シートの全面積に占める表示素子の割合は75%と高く、その結果、コントラスト比は10:1と良好であった。
ここで「コントラスト比」は、マクベス濃度計により測定した、黒表示時の画像濃度と、白表示時の画像濃度の比であり、「シートの全面積に占める表示素子の割合」は、顕微鏡により観察される、シート表面のある一定面積を占める部分において、表示素子が存在する面積の割合である。
【0049】
実施例2
実施例1と同様の方法で表示用繊維を得た。この表示用繊維を経糸に、直径20μmのナイロン繊維を緯糸にして平織して、表示用シートを作製した。経糸の間隔は20μm、緯糸の間隔は100μmにした。
得られた表示用シートをITO電極で挟み込み、表示装置を作製した。実施例1と同様の評価方法を行ったところ、同様に全面黒表示および白表示を示した。実施例1と同様に表示素子が膨潤していたため、シートの全面積に占める表示素子の割合は70%と高く、コントラスト比は8:1と良好であった。
【0050】
比較例1
実施例1の球状表示素子の分散液の調製において、脂肪族炭化水素系オイルの代わりにシリコーンオイル(商品名:KF−96L−2CS、信越化学工業製)を使用した以外は、実施例1と同様にして表示装置を作製し、評価を行った。
表示素子はシリコーンオイル中では膨潤せず、表示素子分散液が中空繊維に封入された後も膨潤しなかった。サイズの変化率は1.0で、膨潤度は1.0であった。その結果、シートの全面積に占める表示素子の割合は45%と低く、コントラスト比も3:1と低くなり、良好な表示は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、溶融紡糸法を用いた簡便な方法により、色分けされた回転可能な表示素子を封入した表示用繊維およびそれを用いた表示用シートが製造可能となった。本発明の表示用シートは良好な表示品質を示し、パソコン、携帯電話、モバイル端末などのディスプレイとして使用されるか、またはそれらから情報を取得して、独立して運搬できる表示体、例えば電子ペーパーや電子書籍閲覧機などにも利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】回転粒子を用いた、従来公知の表示装置の模式図。
【図2】本発明の球状表示素子(2色粒子)を内包した表示用繊維の模式図。
【図3】本発明の円柱状表示素子を内包した表示用繊維の模式図。
【図4】本発明の表示用繊維の断面模式図(短手方向断面)。
【図5】本発明の表示素子を内包した表示用繊維の製造方法の一例。
【図6】本発明の球状表示素子(2色粒子)を内包した表示用繊維の製造過程における断面模式図(長手方向断面)。(a)製造直後、表示素子膨潤前、(b)表示素子膨潤後。
【図7】本発明の表示用繊維シートの構成例を示す平面模式図。(a)表示用繊維同士を接着してシート化、(b)表示用繊維を緯糸とし、連結用経糸で製織。
【図8】従来公知の2色粒子の製造方法に用いられるマイクロチャンネル装置の模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明中空繊維内に、表面を少なくとも2色に色分けした、回転可能な表示素子が分散用液体とともに封入されている表示用繊維であって、前記表示素子が、分散用液体によって膨潤していることを特徴とする表示用繊維。
【請求項2】
前記表示素子の形状が、球状、楕円体状、および柱片状から選ばれる一種である請求項1に記載の表示用繊維。
【請求項3】
前記表示素子の主成分が架橋ポリマーである請求項1または2に記載の表示用繊維。
【請求項4】
前記表示用繊維が、透明中空繊維用材料、および表示素子を含む分散用液体を、ノズルから同時に押出して作製された請求項1〜3のいずれかに記載の表示用繊維。
【請求項5】
透明中空繊維用材料、および表示素子を含む分散用液体を、ノズルから同時に押出して表示用繊維を形成した後、前記表示素子を分散用液体によって膨潤させることを特徴とする表示用繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の表示用繊維を、シート状に並べたことを特徴とする表示用シート。
【請求項7】
前記表示用繊維を、互いに接着して、シート状にした請求項6に記載の表示用シート。
【請求項8】
前記表示用繊維を、該表示用繊維と交差するように連結用の繊維を配置して製織し、シート状にした請求項6に記載の表示用シート。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−108491(P2007−108491A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300065(P2005−300065)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】