説明

表示画面用光学フィルター

【課題】クレイズフィルムを用いた光学フィルターにおいて、液晶ディスプレイの表示画面前面に取付けて横からの覗き見を防止することができ、取付けが容易で、取付けに際してデイスプレイの内部構造を変更する必要がなく、着脱が容易で、取外し後の表示画面に汚れが残らず、再使用を可能にする。
【解決手段】ディスプレイの表示画面前面に取付けて可視範囲をコントロールするための表示画面用光学フィルターであり、透明なプラスチックフィルムの表面に互いに平行な多数本のクレイズを形成してなるクレイズフィルムに、透明な柔軟性ポリマーからなる表面平滑で再剥離性と自己粘着性を有する自己粘着層を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表示画面用光学フィルターに関し、液晶ディスプレイの表示画面前面に取付けて視界を制御し、横からの覗き見を防止するために使用される。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の電子表示装置は、パソコン、ワープロ、コピー機、ファクシミリ等のOA機器の分野に限らず、キャッシュディスペンサー、ATM、ゲーム機、テレビ、時計、電話、工場内の制御装置等の広い分野で使用されているが、特にキャッシュディスペンサーやATMでは、またノートパソコンやモバイルでは、プライバシー保護のため隣からの覗き見を防止するための視界制御機能が要求される。
【0003】
上記の視界制御機能を付与するため、表示画面に可視角度調整フィルムと呼ばれる一種の光学フィルターを取付け、画像が正面からは明るく見えるが、側方からは暗くて見えないようにすることが行われている。そして、この可視角度調整フィルムとして、透明な合成樹脂フィルムの表面に多数本のクレイズを分子配列方向と平行に形成した、いわゆるクレイズフィルムが知られいる(特許文献1、特許文献2および特許文献3等参照)。
【0004】
上記の光学フィルターを表示画面上に固定するには、一般に感圧性の粘着剤が用いられている。この粘着剤は、固定力に関しては実用レベルにあるが、粘着時の作業性に劣り、空気溜まりが生じ易く、きれいに貼り付けることが難しいという問題があった。また、粘着力が強固であり、かつ経時変化により粘着力が増大するので、視界制御が不要になったり、光学フィルターが汚損したりして、その取外しが必要になったときに取り外しが困難であり、無理に剥がすと、表示画面の保護用ガラスやフィルムが破損したり、その表面に粘着剤が残って汚れたりするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−82607号公報
【特許文献2】特開平7−146403号公報
【特許文献3】特開平11−231108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記のクレイズフィルムを用いた光学フィルターにおいて、液晶ディスプレイの表示画面前面に取付けて横からの覗き見を防止することができ、しかも取付けが容易で、その取付けに際して上記デイスプレイの内部構造を変更する必要がなく、また表示画面を正面以外から見る必要が生じた場合は容易に取り外すことができ、取外し後の表示画面に汚れが残ることがなく、更にその後の再使用が可能な表示画面用光学フィルターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る表示画面用光学フィルターは、ディスプレイの表示画面前面に取付けて可視範囲をコントロールするための表示画面用光学フィルターであり、透明なプラスチックフィルムの表面に互いに平行な多数本のクレイズを形成してなるクレイズフィルムに、透明な柔軟性ポリマーからなる表面平滑で再剥離性と自己粘着性を有する自己粘着層を積層したことを特徴とする。
【0008】
上記の光学フィルターは、その自己粘着層を液晶ディスプレイの表示画面前面に当てて手で押さえることにより、自己粘着層と表示画面との間に気泡を入れることなく、自己粘着層の自己粘着力によって均一に取付けることができ、作業性が良好である。そして、この自己粘着層は、柔軟性ポリマーで平滑面に形成されていて自己粘着力と共に再剥離性を有するので、必要に応じて容易に剥離することができ、剥離の際に自己粘着層の一部が欠けることがなく、剥離後に同じ光学フィルターを再び上記の表示画面前面に固定して再使用することができる。したがって、貼着ミスがあっても貼り直しが可能であり、また剥離跡に自己粘着層の一部が付着して残ることがなく、表示画面が汚れない。
【0009】
上記のクレイズフィルムでは、クレイズの部分で透過光の散乱が起こるので、フィルム面に対する光の入射角度によって光線透過率が変化する。クレイズに直交する平面内において、フィルム面に対し法線方向の射出方向では散乱が少ないため光線透過率が最大になって視野が最も明るくなり、射出方向がフィルム面の法線方向に対して水平方向に傾斜するにしたがって散乱が大きくなって光線透過率が低下し、視野が暗くなる。すなわち、視界制御性が発現する。したがって、クレイズフィルムのクレイズの方向が画面の上下方向と一致するように光学フィルターを固定すると、側方における画像の視認性が低下し、覗き見防止効果が発現する。また、クレイズの方向を画面の上下方向に対して45度傾斜させると、左右および上下の全方向において視認性を低下させることができる。
【0010】
上記クレイズフィルムの材料は、クレイズの形成が可能なプラスチックフィルムであれば任意であるが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニリデンフルオライドおよびこれらの変成体を挙げることができる。
【0011】
この発明のクレイズフィルムは、上記のプラスチックフィルムを用い、その表面に多数本のクレイズを互いに平行に形成して製造されるが、その製造方法は任意である。例えば、フィルム面に直線刃を押し付けてフィルムを折り曲げ、このフィルムを直線刃に直角の方向に移動させて屈曲部の外面にクレイズを間欠的に発生させる方法(特開平6−82607号公報、特開平7−146403号公報および特開平11−231108号公報等参照)、およびフィルムをガラス転移点以下の温度で冷延伸する方法等で製造することができる。
【0012】
なお、クレイズフィルムは、単層体または複層体のいずれでもよい。複層体を構成するポリマーは、異種または同種のいずれでもよく、この複層体は、クレイズを一方の層に発生させたもの、双方の層にまたがって発生させたもののいずれでもよい。また、クレイズフィルムの厚みも任意であるが、10〜500μm、特に20〜400μmが好ましく、10μm未満では視界制御性が十分でなくなり、かつ取扱い性が低下し、500μmを超えても取扱い性が低下する。また、クレイズの深さは任意であり、表面から裏面に達する深さでもよく、またピッチも任意であり、それぞれ市場の要求性能に応じて設定される。
【0013】
上記のクレイズフィルムは、そのクレイズに染料や顔料を浸透させることにより、クレイズ内壁を染料および/または顔料で着色することができる。その色は任意であるが、特に黒色に着色した場合は、正面からの画像の視認性が向上し、かつ視界制御性も向上する。なお、上記のクレイズフィルム以外に前記の自己粘着層や後記する基材フィルムに染料や顔料を配合することによっても、クレイズ内壁の着色よりは効果が劣るが、視界制御性を向上することができる。この場合の染料や顔料は、特に限定されないが、耐候性の点からフタロシアニン系のものが好ましい。
【0014】
前記の自己粘着層を構成する柔軟性ポリマーは、ゴム、エラストマーまたはプラストマーからなるものであり、ゴムとしては天然ゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムおよびウレタンゴム等が、またエラストマーとしてはポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーが、またプラストマーとしてはポリオレフィン系プラストマーがそれぞれ例示される。なお、これらの柔軟性ポリマーは、単体で用いてもよく、また2以上を混合して用いてもよい。
【0015】
上記の柔軟性ポリマーは、透明度を阻害しない範囲で各種の機能化剤や安定化剤等を含有することができる。そして、この発明の光学フィルターは、上記の柔軟性ポリマーからなる自己粘着層の自己粘着力を利用して表示画面の前面に貼着されるので、粘着助剤を配合することは不要であるが、この発明の目的を阻害しない範囲で粘着助剤を配合して粘着力を高めることができる。
【0016】
上記自己粘着層の自己粘着力は、柔軟性ポリマーからなる自己粘着層表面を平滑に形成することによって発生する。この場合の好ましい平均表面粗度(Ra)は0.12μm以下である。特に好ましいのは0.08μm以下であり、0.05μm以下が最も好ましい。この平均表面粗度(Ra)が0.12μmを超えると、自己粘着力が発生せず、この発明の光学フィルターを自己粘着層の自己粘着力で固定することが不可能になる。
【0017】
上記粘着層の表層のダイナミック硬度は、柔軟性ポリマーの種類、構造、配合(例えばフィラー、架橋助剤、粘着助剤、感圧性粘着剤等の配合)および架橋度(特に表層の架橋度)等によって制御されるが、その大きさは0.01〜20mN/25μm2であることが好ましい。特に0.02〜10mN/25μm2が好ましく、0.04〜5mN/25μm2が最も好ましい。このダイナミック硬度が、0.01mN/25μm2未満の場合は、剥離が困難になって前記の貼り直しを含むリペア性が低下し、反対に20mN/25μm2を超えると、固定力が不足する。
【0018】
上記自己粘着層表面の初期粘着力は、上記のダイナミック硬度と同様に自己粘着層を構成する柔軟性ポリマーの種類、これに添加される粘着助剤や感圧性粘着剤の種類や添加量等によって制御することができ、一般にはダイナミック硬度と反比例するが、その好ましい大きさは、29〜1960mN/25mmである。この初期粘着力が29mN/25mm未満の場合は、光学フィルターが表示画面から脱落し易くなり、反対に1960mN/25mmを超えると、前記のリペア性が低下する。
【0019】
上記の柔軟性ポリマーからなる自己粘着層は、前記クレイズフィルムの表裏の片面に柔軟性ポリマーを押出し法や塗工法によって積層する等、任意の方法で形成することができる。その厚みは、一般には5〜200μmが好ましい。そして、この自己粘着層は、クレイズフィルムに直接積層してもよく、またクレイズフィルムとの間に透明な基材フィルムを介在させて積層することで光学フィルターを補強し、その寸法安定性を向上させて取扱い易くすることができる。この基材フィルムの材料は任意であるが、透明性、寸法安定性および経済性等の点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。なお、基材フィルムの厚みは、一般には50〜250μmが好ましい。
【0020】
クレイズフィルムと自己粘着層との間に基材フィルムを介在させるには、(a)自己粘着層を積層した基材フィルムとクレイズフィルムとを両面粘着テープで貼り合わせる方法、(b)基材フィルムの片面に自己粘着層を積層し、反対面に感圧性粘着剤層を介してクレイズフィルムを積層する方法、(c)感圧性粘着剤が積層されたクレイズフィルムと、自己粘着層が積層された基材フィルムとを上記感圧性粘着剤を介して積層する方法、(d)基材フィルムの片面にクレイズフィルムを積層し、反対面に自己粘着層を積層する方法等を用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
上記のとおり、この発明の表示画面用光学フィルターは、クレイズフィルムを用いているため、液晶ディスプレイの表示画面前面に取付けることにより、横からの覗き見を防ぐことができ、かつ外部からの光の反射性が低下し、映り込みを防ぐことができる。そして、表示画面の前面に取付けるものであるから、ディスプレイの内部構造を変更する必要がなく、また自己粘着層の自己粘着力で取付けるので、作業性が良好で、かつ着脱が容易であり、必要に応じて剥離することができ、かつ剥離跡に汚れが残らず、剥離した場合は正面だけでなく、斜め方向からも表示画面を眺めることができて複数人が同時に眺めることが可能になる。
【0022】
特に請求項2に係る発明は、クレイズフィルムと自己粘着層との間に基材フィルムが介在するので、光学フィルターとしての剛性および寸法安定性が向上し、その取扱い性や作業性が良好になる。また、請求項3に係る発明は、クレイズを着色したものであるから、視界制御機能が向上する。また、請求項4に係る発明は、自己粘着層の表層ダイナミック硬度、平均表面粗度(Ra)および初期粘着力を限定したものであるから、自己粘着力および剥離性のバランスが良好となり、取扱い性および作業性が更に向上する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態1
ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニリデンフルオライド等のプラスチックからなる厚み10〜500μm、好ましくは20〜400μmの一軸延伸フィルムにその配向方向と平行に張力をかけ、かつ配向方向と平行にクレイジングエッジを当てて局所的な曲げ応力をかけながら、上記のフィルムをエッジの方向に対して垂直方向に滑らせることにより、配向方向と平行なクレイズを縦縞状に形成してクレイズフィルムとする。
【0024】
ポリエチレンテレフタレートからなる厚み50〜250μmの基材フィルムの片面にゴム、好ましくはシリコーン系ゴムからなる架橋性の柔軟性ポリマーを積層し、その上に任意のプラスチックからなる易剥離性のカバーフィルムを積層して該カバーフィルムの平滑表面を柔軟性ポリマー層の表面に転写する。次いで、架橋処理を施して柔軟性ポリマー層を架橋すると共に基材フィルムと一体化し、基材フィルムの片面に柔軟性ポリマーからなる厚み5〜200μm、平均表面粗度(Ra)0.12μm以下、表層のダイナミック硬度0.01〜20mN/25μm2、初期粘着力29〜1960mN/25mmの自己粘着層を形成する。そして、上記基材フィルムの反対側表面に感圧性接着剤によって前記クレイズフィルムの任意の片面を接着する。
【0025】
得られた積層体は、カバーフィルム、自己粘着層、基材フィルム、感圧性接着剤層およびクレイズフィルムの5層構造を備え、カバーフィルムが自己粘着層を保護している。そして、カバーフィルムは自己粘着層に対し易剥離性であるので、このカバーフィルムを剥離して自己粘着層を現わし、この自己粘着層を液晶ディスプレイの表示画面に当てて表面のクレイズフィルムを押さえることにより、自己粘着層、基材フィルム、感圧性接着剤層およびクレイズフィルムの4層からなる表示画面用光学フィルターが表示画面に固定され、表示画面に視界制御性が付与される。
【0026】
実施形態2
上記の実施形態1において、そのクレイズフィルムの表面に黒色染液を塗布し、クレイズに浸透させ、乾燥し、その他は実施形態1と同様にして黒色に着色された表示画面用光学フィルターを得る。この光学フィルターは、実施形態1と同様に使用することができるが、実施形態1に比べて視界制御性が向上する。
【0027】
実施形態3
上記の実施形態1において、基材フィルムおよび自己粘着層の少なくとも一方を染料または顔料で、好ましくはフタロシアン系顔料で着色し、その他は実施形態1と同様にして着色された表示画面用光学フィルターを得る。この光学フィルターは、実施形態1と同様に使用することができるが、実施形態1に比べて視界制御性が向上し、かつフアッション性が良好となる。
【0028】
実施形態4
上記の実施形態1において、架橋性の柔軟性ポリマーに代えて非架橋性の柔軟性ポリマー、例えば熱可塑性エラストマーを用い、実施形態1の架橋処理を省略し、その他は実施形態1と同様にして表示画面用光学フィルターを得る。なお、自己粘着層と接する基材フィルムの表面には、接着性向上のための処理、例えば活性線処理やアンダーコートをあらかじめ施すことができる。得られた実施形態4の光学フィルターは、実施形態1と同様に使用することができる。そして、この場合も、実施形態2や実施形態3と同様にクレイズフィルム、基材フィルムまたは自己粘着層を着色し、視界制御性を向上することができる。
【実施例】
【0029】
種々の表示画面用光学フィルターを試作し、その性能を比較した。なお、自己粘着層の初期接着力、表層ダイナミック硬度および平均表面粗度(Ra)は、下記によって測定した。
1.初期粘着力JIS−Z−0237に準拠し、ステンレス鋼板に貼合わせ、その20分後に剥離角度180度、引張り速度300mm/分で測定した。
2.表層ダイナミック硬度島津製作所製の島津ダイナミック超微小硬度計DUH202型を用い、試験モード:モード3(軟質材料試験)、圧子の種類:115、試験荷重:1.97mN、負荷速度:0.0142mN/秒、保持時間:5秒の条件で測定した。試料はスライドガラス上にエポキシ接着剤で固定し、測定台にセットした。本測定法で評価されるダイナミック硬度は、試料の表面からの深さによって異なる測定値が得られる。この発明では、表面から3μmの深さの測定値を表層硬度とした。
3.平均表面粗度(Ra)
小坂研究所製SE200型表面粗さ計を用い、縦倍率:1000、横倍率:20、カットオフ:0.08mm、測定長:8mm、測定速度:0.1mm/分の条件で測定した。
【0030】
実施例1
縦方向に一軸延伸したポリプロピレン系フィルム(厚み25μm)に縦方向に張力をかけ、このフィルムにクレイジング処理刃を縦方向に当てて局所的な曲げ応力をかけながら、上記のフィルムを横方向に摺動させることにより、フィルムに縦方向のクレイズを縦縞状に、かつフィルムの表裏両面にまたがる深さに形成してクレイズフィルムを製造した。
【0031】
ポリエチレンテレフタレートからなる厚み188μmの基材フィルムの片面にアクリル系ポリマーからなる感圧性の強粘着タイプの粘着剤を25μmの厚みに積層し、この粘着剤の積層面に、ポリエチレンテレフタレートからなり、あらかじめ易接着処理が施された厚み25μmのカバーフィルムAの易接着処理面を重ねて積層した。得られた基材フィルム・粘着剤層・カバーフィルムA積層体の基材フィルム表面に、市販の高透明度型低硬度(硬度:10度)シリコーンゴムコンパウンドを100μmの厚みに塗工し、再剥離性と自己粘着性を備えた自己粘着層を形成し、自己粘着層・基材フィルム・粘着剤層・カバーフィルムA積層体を得た。
【0032】
上記の積層体に、ポリエチレンテレフタレートからなり、あらかじめ易接着処理を施された厚み30μmのカバーフィルムBを、その易接着処理面が上記積層体の自己粘着層と接するように重ねて積層した。得られたカバーフィルムB・自己粘着層・基材フィルム・粘着剤層・カバーフィルムA積層体を電子線照射装置に導入し、シリコーンゴムからなる自己粘着層を架橋し、かつ基材フィルムと一体化した。
【0033】
得られた5層構造の積層体において、カバーフィルムAおよびカバーフィルムBは、いずれも容易に剥離可能である。自己粘着層側のカバーフィルムBを剥離し、自己粘着層の特性を評価したところ、平均表面粗度(Ra)は0.04μm、表層ダイナミック硬度は0.09mN/μm2、初期粘着力は240mN/25mmであった。
【0034】
次いで、上記積層体の粘着剤層側カバーフィルムAを剥離し、現われた粘着剤層に前記のクレイズフィルムを重ねて接着することにより、実施例1の表示画面用光学フィルターを得た。この表示画面用光学フィルターを液晶表示画面の形状に対応する長方形に切断した。その際、クレイズフィルムのクレイズの方向を液晶表示画面の横辺に対して90度の角度に設定した。そして、上記の光学フィルターを、裏面の自己粘着層側カバーフィルムBを剥離しながら、自己粘着層の自己粘着力で表示画面に貼り付けた。
【0035】
この光学フィルターは、画面を正面から眺めたときの画像の視認性は高いが、横から眺めたときの視認性は低くなり、眺める方向が表示画面の法線方向に対し水平にほぼ60度を超えると、上記の画像が見難くなった。すなわち、覗き見防止を可能にする視界制御機能を備えていた。また、光学フィルターがクレイズフィルムで形成されるため、外部からの光の反射性が低下し、映り込みを防ぐ機能も備えていた。
【0036】
また、上記の光学フィルターは、裏面に柔軟性ポリマーからなる自己粘着層を備えているため、表示画面に対し粘着剤や接着剤を用いないで貼着することができる。しかも、自己粘着層の表面にカバーフィルムBを設けたので、カバーフィルムBを剥離しながら上記の自己粘着層を表示画面に接触させるのみで自己粘着が進行して貼着が容易に行われ、かつ光学フィルターと表示画面の表面との間に介在する空気が自己粘着力で押し出され、空気の噛み込みが生じない。
【0037】
また、上記実施例1の光学フィルターは、自己粘着層の初期粘着力が請求項4の要件を満たすので、固定力に優れると共に、表示画面等に貼着した後の剥離も容易で、弱い力で剥離することができ、感圧粘着剤による粘着と異なり、剥離後における表示画面の表面汚れが皆無であった。そして、剥離後の光学フィルターにおいて、自己粘着層の初期粘着力は貼着前と変わらず、貼着と剥離を20回繰り返しても同様であり、リペア性に優れていた。
【0038】
比較例1
上記実施例1のクレイズフィルムに代えて一軸延伸のポリプロピレン系フィルムを未処理で使用し、その他は実施例1と同様にして表示画面用光学フィルターを製造した。得られた比較例1の光学フィルターは、視界制御性を有せず、覗き見を防ぐことができなかった。
【0039】
比較例2
前記実施例1では、基材フィルムの片面に自己粘着層を積層し、他面にアクリル系の粘着剤層を積層したが、自己粘着層を省略し、基材フィルムの両面にアクリル系の粘着剤層を積層し、その他は実施例1と同様にして比較例2の表示画面用光学フィルターを製造した。得られた比較例2の光学フィルターは、表示画面に貼着する際の作業性が劣り、界面に空気を入れずにきれいに貼り付けることができなかった。また、粘着剤層の粘着力が強いため、貼着後の剥離が困難で、表示画面用光学フィルターとしての取扱い性が劣っていた。
【0040】
実施例2
前記実施例1のクレイズフィルムに、クレイズと直交する方向の張力を加えながら黒色の染液を塗布し、ロールでプレスして上記染液をクレーズに浸透させ、乾燥して着色タイプのクレーズフィルムを製造した。また、実施例1の基材フィルムおよびシリコーンゴムコンパウンドの各厚みを50μmに変更し、その他は実施例1と同様にして実施例2の表示画面用光学フィルターを製造した。
【0041】
得られた実施例2の表示画面用光学フィルターは、着色タイプのクレイズフィルムを用いたので、視界制御機能が実施例1よりも優れており、眺める方向が表示画面の法線方向に対し水平にほぼ45度を超えたとき、画像が見え難くなった。また、総厚みが150μmと薄いため、モバイル等のペンタッチ入力用の表示画面用光学フィルターとして実用的であった。
【0042】
実施例3
実施例1の自己粘着層用シリコーンゴムコンパウンドにフタロシアニン系の青色顔料とカーボンブラックを配合して青色に着色する以外は、実施例1と同様にして実施例3の表示画面用光学フィルターを得た。この光学フィルターは、実施例1の光学フィルターよりも視界制御機能が優れており、眺める方向が表示画面の法線方向に対し水平にほぼ45度を超えたとき、画像が見え難くなった。また、青色に着色されているため、フアッション性も良好であった。
【0043】
実施例4〜6
前記の実施例2において、自己粘着層用のシリコーンゴムコンパウンドに代えて高伸度型ウレタンゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマーおよび50度シリコーンゴムの3種の柔軟性ポリマーを使用し、その他は実施例2と同様にして実施例4〜6の表示画面用光学フィルターを得た。ただし、高伸度型ウレタンゴムおよびオレフィン系熱可塑性エラストマーについては、架橋処理を省略した。得られた光学フィルターにおける自己粘着層の特性は、下記の表1に示すとおり、実施例2と同等の特性を備え、覗き見防止用として実用性の高い光学フィルターであった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイの表示画面前面に取付けて可視範囲をコントロールするための表示画面用光学フィルターであり、透明なプラスチックフィルムの表面に互いに平行な多数本のクレイズを形成してなるクレイズフィルムに、透明な柔軟性ポリマーからなる表面平滑で再剥離性と自己粘着性を有する自己粘着層を積層したことを特徴とする表示画面用光学フィルター。
【請求項2】
クレイズフィルムと自己粘着層との間に基材フィルムが介在する請求項1記載の表示画面用光学フィルター。
【請求項3】
クレイズフィルムのクレイズ内壁が染料および/または顔料で着色されている請求項1または2に記載の表示画面用光学フィルター。
【請求項4】
自己粘着層の表層ダイナミック硬度が0.01〜20mN/25μm2、自己粘着層表面の平均表面粗度(Ra)が0.12μm以下、自己粘着層表面の初期粘着力が29〜1960mN/25mmである請求項1ないし3のいずれかに記載の表示画面用光学フィルター。

【公開番号】特開2011−150353(P2011−150353A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32693(P2011−32693)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【分割の表示】特願2001−135665(P2001−135665)の分割
【原出願日】平成13年5月7日(2001.5.7)
【出願人】(591005006)クレハエラストマー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】