説明

表示素子及びその製造方法

【課題】一対の対向する電極間に挟持された電解質組成物を備え、電気化学的な酸化還元反応を利用する表示素子であって、優れた駆動安定性と改善された応答速度及び電荷効率を有する表示素子とその製造方法を提供する。
【解決手段】透明電極と対向電極との間に、電気化学的な還元又は酸化によって着色と消色をする材料及び白色散乱粒子を含有する電解質組成物が配置された表示素子であって、当該電解質組成物が、その分散工程において、溶存酸素濃度が0.5mg/L以下となるまで不活性ガス存在下で脱気されたことを特徴とする表示素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示素子及びその製造方法に関する。更に詳しくは、溶存酸素濃度が極めて低い新規な電解質層組成物を用い、駆動安定性、応答速度及び電荷効率において優れた性能を有する電気化学的表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューターの動作速度の向上、ネットワークインフラの普及、データストレージの大容量化と低価格化に伴い、従来紙への印刷物で提供されたドキュメントや画像等の情報を、より簡便な電子情報として入手、電子情報を閲覧する機会が益々増大している。
【0003】
この様な電子情報の閲覧手段として、従来の液晶ディスプレイやCRT、また近年では、有機ELディスプレイ等の発光型が主として用いられているが、特に、電子情報がドキュメント情報の場合、比較的長時間にわたってこの閲覧手段を注視する必要があり、これらの行為は発光型のディスプレイの欠点として、フリッカーで目が疲労する、持ち運びに不便、読む姿勢が制限され静止画面に視線を合わせる必要が生じる、長時間読むと消費電力が嵩むといった欠点が生じることが知られている。
【0004】
これらの欠点を補う表示手段として、外光を利用し、像保持の為に電力を消費しない(メモリー性)反射型ディスプレイが知られているが、下記の理由で十分な性能を有しているとは言い難い。
【0005】
すなわち、反射型液晶等の偏光板を用いる方式は、反射率が約40%と低く白表示に難があり、また構成部材の作製に用いる製法の多くは簡便とは言い難い。また、ポリマー分散型液晶は高い電圧を必要とし、また有機物同士の屈折率差を利用しているため、得られる画像のコントラストが十分でない。
【0006】
これら上述の各方式の欠点を解消する表示方式として、金属塩化合物やエレクトロクロミック材料を用いて電気化学的な還元又は酸化によって着色及び消色する方式が知られている。この方式は、3V以下の低電圧で駆動が可能で、簡便なセル構成、コントラストに優れる等の利点があり、様々な方法が開示されている。
【0007】
このような反射型ディスプレイの課題として、電解質組成物中の溶存空気の問題が挙げられる。表示液中に空気が存在している場合、気泡が発生することで表示性能に不具合が発生したり、各種材料を劣化させたりする現象が存在する。そのため、電解質組成物の各材料をあらかじめ減圧脱気しておく方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
また、電解質中の溶解酸素をバブリングにより不活性ガスで置換することで上記課題を解決する方法が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0009】
ところで、金属塩化合物やエレクトロクロミック材料を用いて電気化学的な還元又は酸化によって着色又は消色する方式において電解質組成物中に酸化チタンのような白色散乱粒子を分散することによって、高いコントラストを得る方法は公知である。
【0010】
しかしながら、白色散乱粒子を透明電極と対向電極間のみで十分な遮蔽力を持つような高濃度で添加した電解質組成物の場合、通常の減圧脱気操作では十分に脱気した電解液を得ることは難しかった。即ち、白色散乱粒子凝集体内部に存在する空気塊は減圧脱気操作によっても十分に除去することができず残留するため、電極での酸化還元反応を阻害することで応答速度が低下したり電荷効率が低下したりするといった問題があった。
【特許文献1】特表2006−500635号公報
【特許文献2】特開2006−65207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述したような問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、一対の対向する電極間に挟持された電解質組成物を備え、電気化学的な酸化還元反応を利用する表示素子であって、優れた駆動安定性と改善された応答速度及び電荷効率を有する表示素子とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、電解質組成物中の白色散乱粒子凝集体内部に存在する空気塊に由来する酸素を、不活性ガス存在下で分散しながら脱気することにより、一定の濃度以下にすることで表示素子の駆動安定性等の性能を改善することができることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0014】
1.透明電極と対向電極との間に、電気化学的な還元又は酸化によって着色と消色をする材料及び白色散乱粒子を含有する電解質組成物が配置された表示素子であって、当該電解質組成物が、その分散工程において、溶存酸素濃度が0.5mg/L以下となるまで不活性ガス存在下で脱気されたことを特徴とする表示素子。
【0015】
2.前記電解質組成物が含有する白色散乱粒子の一次粒子径が、400nm以下であることを特徴とする前記1に記載の表示素子。
【0016】
3.前記1又は前記2に記載の表示素子を製造する表示素子の製造方法であって、不活性ガス存在下で電解質組成物を分散させながら脱気することで溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とする分散工程を有することを特徴とする表示素子の製造方法。
【0017】
4.前記電解質組成物の粘度が、シェアレート10s−1、50℃において、0.5〜50Pa・sであることを特徴とする前記3に記載の表示素子の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記手段により、一対の対向する電極間に挟持された電解質組成物を備え、電気化学的な酸化還元反応を利用する表示素子であって、優れた駆動安定性と改善された応答速度及び電荷効率を有する表示素子とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の表示素子は、透明電極と対向電極との間に、電気化学的な還元又は酸化によって着色と消色をする材料及び白色散乱粒子を含有する電解質組成物が配置された表示素子であって、当該電解質組成物が、その分散工程において、溶存酸素濃度が0.5mg/L以下となるまで不活性ガス存在下で脱気されたことを特徴とする。この特徴は、請求項1〜4に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0020】
本発明の実施態様としては、本発明の効果の観点から、前記電解質組成物が含有する白色散乱粒子の一次粒子径が、400nm以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の表示素子の製造方法としては、不活性ガス存在下で電解質組成物を分散させながら脱気することで溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とする分散工程を有する態様の製造方法であることが好ましい。当該製造方法の分散工程において、前記電解質組成物の粘度が、シェアレート10s−1、50℃において、0.5〜50Pa・sであることが好ましい。
【0022】
以下、本発明とその構成要素、及び、本発明を実施するための最良の形態・態様について詳細な説明をする。
【0023】
〔表示素子の基本構成〕
本発明の表示素子は、種々の態様の構成を採ることができるが、基本的構成としては、表示部には、対応する1つの対向電極が設けられている。表示部に近い対向電極の1つである電極を透明電極、他方を対向電極とする。透明電極はITO電極等であり、透明電極と対抗電極間には白色散乱粒子で形成された散乱層と、還元又は酸化によって着色又は消色する材料を含む電解質組成物が封止されている。
【0024】
〔白色散乱粒子〕
本発明で適用可能な白色散乱粒子としては、例えば、二酸化チタン(アナターゼ型あるいはルチル型)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムおよび水酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、アルカリ土類金属塩、タルク、カオリン、ゼオライト、酸性白土、ガラス、有機化合物としてポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、ポリアミド樹脂などが単体または複合混合で、または粒子中に屈折率を変化させるボイドを有する状態で使用されてもよい。
【0025】
これらの白色散乱粒子のうち、高温時の着色防止、屈折率に起因する素子の反射率の観点から、酸化チタンまたは酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
【0026】
以下には、特に詳しく酸化チタンの製造方法及び表面処理方法について説明する。
【0027】
酸化チタンの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。
【0028】
一般的に酸化チタンを作製する方法としては、熱分解法(原料を加熱分解して微粒子を得る方法。)、噴霧乾燥法、火炎噴霧法、プラズマ法、気相反応法、凍結乾燥法、加熱ケロシン法、加熱石油法、沈殿法(共沈法)、加水分解法(塩水溶液法、アルコキシド法、ゾルゲル法)、水熱法(沈殿法、結晶化法、水熱分解法、水熱酸化法)などが挙げられる。これらの方法のうち、小粒径で均一組成の微粒子形成が可能であるという点で加水分解法、水熱合成法及び気相中での熱分解法が好ましい。
【0029】
さらに、本発明においては必要な遮蔽性を有する為に酸化チタンの粒径が適切な範囲にあり且つ、粒子径の分布が狭いことが求められるため、前記原料を、生産性を落とさない程度でなるべく希薄にして製造することが好ましい。また、製造条件によりやむを得ず大粒子が混入してしまう場合には、粒子の製造時や回収後に概知の分級装置を用いて大粒子を除去することもできる。分級方法としては、電気的に大粒子を除去する方法や、溶媒中に分散した粒子をろ過して大粒子を取り除く方法等があるが、特にエアロゾルを微分型電気移動度分級器( DMA:Differential Mobility Analyzer )で処理する方法が好ましく用いられる。
【0030】
<無機物による表面処理>
酸化チタン表面に無機物や有機物を表面処理し分散する媒体への親和性を持たせたり、表面活性サイトを被覆して耐久性を持たせたりすることは公知である。
【0031】
一般的な無機物として、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛などを含有する酸化物及び水酸化物が用いられており、酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素によって表面処理を行うことが耐候性の観点より特に望ましい。
【0032】
特に高密度シリカ層で表面を処理することにより結晶水の乖離が少なく粒子の安定性に優れる。また、有機物を表面処理する場合にあたって、均一に表面処理ができ、優れた分散性を有する酸化チタンを得ることができる。
【0033】
<有機物による表面処理>
酸化チタン外表面は有機物により修飾されていてもよい。ここでいう「有機物」とは、少なくとも一部に有機物を含む有機金属化合物も含む。
【0034】
表面修飾する方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、リン酸、硫酸、カルボン酸等の有機酸類を用いる方法や、カップリング剤等の表面処理剤による表面処理、ポリマーグラフト、メカノケミカルによる表面処理などが挙げられる。
【0035】
酸化チタンの表面修飾に用いられる表面処理剤としては、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、(ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール)などの多価アルコール類などが挙げられる。
【0036】
また、有機金属含有化合物としてシラン系カップリング剤を始め、シリコーンオイル、チタネート系、アルミネート系及びジルコネート系カップリング剤等も使用することができる。
【0037】
例えば、シラン系の表面処理剤として、ビニルシラザン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリメチルアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0038】
シリコーンオイル系処理剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルといったストレートシリコーンオイルやアミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、片末端反応性変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルを用いることができる。
【0039】
またこれらの処理剤はヘキサン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン水等で適宜希釈して用いても良い。
【0040】
表面処理剤による表面修飾の方法としては、湿式加熱法、湿式濾過法、乾式攪拌法、インテグルブレンド法、造粒法等が挙げられる。1000nm以下の粒子を表面改質する場合、乾式攪拌法が粒子凝集抑制の観点から好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
【0041】
これらの表面処理剤は1種類のみを用いても、複数種類を併用してもよい。さらに、用いる表面処理剤によって得られる表面修飾粒子の性状は異なることがあり、本発明に係る電解質組成物を得るにあたって用いる増粘剤など他材料との親和性を考慮して適切な表面修飾剤を選択することが必要である。
【0042】
表面修飾の割合は特に限定されるものではないが、分散性及びそれに起因する性能劣化の防止等の観点から、表面修飾後の白色散乱粒子に対して、表面処理剤の割合が0.05〜3質量%であることが好ましく、0.1〜1質量%であることがより好ましい。
【0043】
<白色散乱粒子の粒子径分布>
本発明に係る白色散乱粒子においては、遮蔽性の観点から、粒子径分布が0.1μm以上、1.5μm未満の範囲に極大値を有することが好ましい。
【0044】
本発明においては、特に一次粒子径が400nm以下の微粒子に含まれる微小な空気塊を効率よく脱気することができ、電解質組成物中の溶存酸素濃度を低下させることができる。
【0045】
具体的な測定方法として、測定対象の表面処理を行った白色散乱粒子を、不溶性の溶媒中に分散させた後、例えば、レーザー散乱式粒径分布測定器(例えば、SALD2200(島津製作所製)やマルバーン社製ゼータサイザー1000等などを用いて測定しても良いし、あるいは白色散乱粒子を直接、透過型電子顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡で観察し、得られた粒子画像から、粒径を求める方法等を用いることができる。この時、球換算の体積粒子径を、その白色散乱粒子の直径と定義する。
【0046】
〔分散及び脱気工程〕
本発明では、白色散乱粒子を分散させながら脱気することにより、白色散乱粒子の解凝集を促進し、表面及び、白色散乱粒子凝集体内に存在する微小な空気を脱気することができ、十分な遮蔽性と駆動安定性を両立し、また同時に改善された応答速度と電荷効率を有する表示素子を提供することができる。
【0047】
<不活性ガス>
本発明では、不活性ガス存在下で、電解質組成物を分散させながら脱気することで溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とすることを特徴とする。
【0048】
分散操作により白色散乱粒子表面及び凝集体内部の脱気が行われた後、電解質組成物中に不活性ガスを溶解させることで表示素子への影響がある空気及び酸素の再溶解を抑制することができる。不活性ガス存在下でない場合において、上記分散/脱気操作を行った場合、分散工程で巻き込む空気により電解質組成物中への空気及び酸素の再溶解が発生し優れた安定性を持つ電解質組成物を得られない恐れがある。例えば、不活性ガス存在下で分散させながら脱気することで溶存酸素濃度を1.0mg/L以下にすることができる。また、上記操作を行う上で電解質組成物を高温にすることで溶解空気及び酸素の溶解度を低くでき、効率よく脱気することができる。
【0049】
安定性に優れた電解質組成物を得る為には溶存酸素濃度が0.5mg/L以下であることが好ましく、0.1mg/L以下が更に好ましい。
【0050】
本発明に用いられる不活性ガスとは電解質組成物に対して化学的に不活性なガスであればどんなものでもよく、例えばアルゴン、ヘリウム及び窒素などが挙げられる。このうち、窒素ガスは常温で化学的不活性であり安価なことから好適である。
【0051】
<分散工程>
本発明に用いられる分散操作は、無機微粒子の凝集を解砕できる湿式処理における分散手法による。当該分散装置としては、高速攪拌型分散機やサンドミル、ビーズミルなどの媒体攪拌ミルが適用可能である。乾式処理による分散手法や超音波による分散操作では無機微粒子の解凝集が十分でなく、本発明の効果を十分に発揮できない恐れがある。
【0052】
高速攪拌型分散機とは、攪拌翼と壁面の剪断力を利用して無機微粒子の解凝集を行うもので、真空乳化機TKアジホモミクサーロボミクス(プライミクス株式会社社製)や薄膜旋回型高速攪拌機TKフィルミクス(プライミクス株式会社製)などが挙げられる。
【0053】
ビーズミルとは、容器内に媒体としてビーズを充填させ、ビーズを攪拌させながら微粒子と溶媒とを流し込み、これらを容器内でさらに攪拌させることにより凝集粒子をビーズにより粉砕させて、溶媒中に分散させる装置である。ビーズミルとしては、具体的に、スターミルZRS(アシザワファインテック株式会社製)、ウルトラアペックスミル(寿工業株式会社製)などが挙げられる。このような装置は、溶媒中に無機微粒子を十分分散させてから、ビーズのみを遠心分離させることによりスラリーを得ることができるようになっている。遠心分離によってビーズのみを分離させるので、より細かいビーズの使用が可能であり、微粒子をより一次粒子に近い体積平均粒子径まで解凝集させるようになっている。ここで、ビーズとしては、ガラス、アルミナ、スチール、ダイヤモンド、フリント石などを用いることができ、ジルコニア粉末(例えば、TZシリーズ(東ソー株式会社製)など)が好ましい。また、ビーズの粒子径としては0.03〜0.3mm程度のものが好ましい。
【0054】
その中でも分散処理工程で脱気操作が同時に行える真空乳化機が望ましい。
【0055】
<脱気工程>
本発明における脱気工程は分散工程と同時に行うことを特徴とする。具体的な脱気操作として、減圧法、凍結脱気法、膜脱気法などが挙げられ、電解質組成物の物性によって適宜選択できる。本発明の電解質組成物は白色散乱粒子や増粘剤を含む可能性があり比較的高粘度となりやすく、また水分の混入が望ましくないなどの理由から減圧法が好ましく用いられる。
【0056】
<好適な粘度範囲>
本発明に係る電解質組成物は、シェアレート(「せん断速度」、「ずり速度」ともいう。)10s−1、50℃での粘度50℃で0.5〜50Pa・s範囲にある高粘度領域では本発明での効果が好ましく実現できる。
【0057】
通常電解質組成物を電極間に封止する場合において、真空注入方式及びODF(on−drop−fill)方式が用いられるが、シェアレート10s−1、50℃での粘度が0.5Pa・s以上の高粘度領域において本発明の脱気操作を行わない電解質組成物の場合、充填時に溶存空気の発泡により充填できない恐れがある。また、シェアレート10s−1、50℃での粘度50℃で50Pa・s以上の場合は上記充填方式での充填ができない恐れがある。
【0058】
このような高い粘度範囲を持つ電解質組成物において、本発明の脱気方法はより効率的に溶存酸素濃度を低下させることができる。
【0059】
〔着色または消色を繰り返す材料〕
本発明に係る「電気化学的な還元又は酸化によって着色と消色をする材料」とは、電気化学的な酸化反応及び還元反応の少なくとも一方により発色又は消色する機能(作用)をもつ化合物ないしそれを含む材料をいう。
【0060】
<金属塩化合物>
本発明に係る電気化学的な還元又は酸化によって発色又は消色する発色材料には、酸化還元に伴い溶解、析出を行うことで発色、消色を行う金属塩化合物を含む。ここでいう金属塩化合物とは、対向電極上の少なくとも1方の電極上で、該対向電極の駆動操作で、溶解・析出を行うことができる金属種を含む塩であれば、如何なる化合物であってもよい。好ましい金属種は、銀、ビスマス、銅、ニッケル、鉄、クロム、亜鉛等であり、好ましいのは銀、ビスマスである。銀塩化合物が特に好ましい。
【0061】
本発明に係る銀塩化合物とは、銀または、銀を化学構造中に含む化合物、例えば、酸化銀、硫化銀、金属銀、銀コロイド粒子、ハロゲン化銀、銀錯体化合物、銀イオン等の化合物の総称であり、固体状態や液体への可溶化状態や気体状態等の相の状態種、中性、アニオン性、カチオン性等の荷電状態種は、特に問わない。
【0062】
本発明に係る電解質組成物に含まれる金属イオン濃度は、0.2モル/kg≦[Metal]≦2.0モル/kgが好ましい。金属イオン濃度が0.2モル/kg以上であれば、十分な濃度の銀溶液となり所望の駆動速度を得ることができ、2モル/kg以下であれば析出を防止し、低温保存時での電解質組成物の安定性が向上する。
【0063】
<エレクトロクロミック化合物>
本発明に係る「電気化学的な還元又は酸化によって着色と消色をする材料」とは、電気化学的な酸化反応及び還元反応の少なくとも一方により発色又は消色する機能(作用)をもつエレクトロクミック(以下において、適宜、「EC」と略す。)化合物ないしそれを含む材料をいう。
【0064】
本発明に係るエレクトロクロミック化合物(EC化合物)としては、電気化学的な酸化反応及び還元反応の少なくとも一方により発色又は消色する機能(作用)を示す限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0065】
例えば、EC化合物として、酸化タングステン、酸化イリジウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化インジウム、酸化クロム、酸化マンガン、プルシアンブルー、窒化インジウム、窒化錫、窒化塩化ジルコニウム等の無機化合物に加え、有機金属錯体、導電性高分子化合物及び有機色素が従来知られている。
【0066】
エレクトロクロミック(EC)特性を示す有機金属錯体としては、例えば、金属−ビピリジル錯体、金属フェナントロリン錯体、金属−フタロシアニン錯体、希土類ジフタロシアニン錯体、フェロセン系色素などが挙げられる。
【0067】
EC特性を示す導電性高分子化合物としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリフェニレンジアミン、ポリベンジジン、ポリアミノフェノール、ポリビニルカルバゾール、ポリカルバゾール及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0068】
また、例えば特開2007−112957号公報に記載されているような、ビスターピリジン誘導体と金属イオンから成る高分子材料もEC特性を示す。
【0069】
EC特性を示す有機色素としては、ビオロゲン等ピリジニウム系化合物、フェノチアジン等アジン系色素、スチリル系色素、アントラキノン系色素、ピラゾリン系色素、フルオラン系色素、ドナー/アクセプター型化合物類(例えば、テトラシアノキノジメタン、テトラチアフルバレン)等が挙げられる。その他、酸化還元指示薬、pH指示薬として知られている化合物を用いることもできる。
【0070】
《色調によるEC化合物の分類》
本発明に係るエレクトロクロミック(EC)化合物を、色調変化の点で分類すると、下記3つのクラスに分けられる。
クラス1:酸化還元によりある特定の色から別の色に変化するEC化合物。
クラス2:酸化状態で実質無色であり、還元状態である特定の着色状態を示すEC化合物。
クラス3:還元状態で実質無色であり、酸化状態である特定の着色状態を示すEC化合物。
【0071】
本発明の表示素子においては、目的・用途により上記クラス1からクラス3のEC化合物を適宜選択することができる。
【0072】
[クラス1のEC化合物]
クラス1のEC化合物は、酸化還元によりある特定の色から別の色に変化するEC化合物であり、その取り得る酸化状態に於いて、二色以上の表示が可能な化合物である。
【0073】
クラス1に分類される化合物としては、例えばVは酸化状態から還元状態へ変化することで橙色から緑色に変化し、同様にRhは黄色から暗緑色に変化する。
【0074】
有機金属錯体の多くは、クラス1に分類され、ルテニウム(II)ビピリジン錯体、例えばトリス(5,5’−ジカルボキシルエチル−2,2’−ビピリジン)ルテニウム錯体は+2〜−4価の間で、順にオレンジ色から、紫、青、緑青色、褐色、赤錆色、赤へと変化する。希土類ジフタロシアニン類の多くも、このようなマルチカラー特性を示す。例えばルテチウムジフタロシアニンの場合、酸化に従い順次、紫色から青、緑、赤橙色へと変化する。
【0075】
また、導電性ポリマーもその多くはクラス1に分類される。例えばポリチオフェンは酸化状態から還元状態へ変化することで青から赤へと変化し、ポリピロールは褐色から黄色へと変化する。またポリアニリン等では、マルチカラー特性を示し酸化状態の紺色から順に青色、緑色、淡黄色へと変化する。
【0076】
クラス1に分類されるEC化合物は、単一の化合物で、多色表示が可能であると言うメリットを有するが、反面実質無色と言える状態を作れないと言う欠点を有する。
【0077】
[クラス2のEC化合物]
クラス2のEC化合物は、酸化状態で無色乃至は極淡色であり、還元状態である特定の着色状態を示す化合物である。
【0078】
クラス2に分類される無機化合物としては、下記化合物が挙げられ、各々還元状態でカッコ内に示した色を示す。WO(青)、MnO(青)、Nb(青)、TiO(青)等。
【0079】
クラス2に分類される有機金属錯体としては、例えばトリス(バソフェナントロリン)鉄(II)錯体が挙げられ、還元状態で赤色を示す。
【0080】
クラス2に分類される有機色素としては、特開昭62−71934号、特開2006−71765号各公報等に記載されている化合物、例えばテレフタル酸ジメチル(赤)、4,4’−ビフェニルカルボン酸ジエチル(黄色)、1,4−ジアセチルベンゼン(シアン)、或いは特開平1−230026号、特表2000−504764号各公報等に記載されているテトラゾリウム塩化合物等が挙げられる。
【0081】
クラス2に分類される色素として、最も代表的な色素は、ビオロゲン等ピリジニウム系化合物である。ビオロゲン系化合物は表示が鮮明であること、置換基を変えることなどにより色のバリエーションを持たせることが可能であることなどの長所を有しているため、有機色素の中では最も盛んに研究されている。発色は、還元で生じた有機ラジカルに基く。
【0082】
ビオロゲン等ピリジニウム系化合物としては、例えば特表2000−506629号公報を初めとして下記特許文献に記載されている化合物が挙げられる。
【0083】
特開平5−70455号、特開平5−170738号、特開2000−235198号、特開2001−114769号、特開2001−172293号、特開2001−181292号、特開2001−181293号、特表2001−510590号、特開2004−101729号、特開2006−154683号、特表2006−519222号、特開2007−31708号、特開2007−171781号、特開2007−219271号、特開2007−219272号、特開2007−279659号、特開2007−279570号、特開2007−279571号、特開2007−279572号各公報等。
【0084】
以下に、本発明に用いることができるビオロゲン等ピリジニウム化合物を例示するが、これらに限定されるものでは無い。
【0085】
【化1】

【0086】
【化2】

【0087】
[クラス3のEC化合物]
クラス3のEC化合物は、還元状態で無色乃至は極淡色であり、酸化状態である特定の着色状態を示す化合物である。
【0088】
クラス3に分類される無機化合物としては、例えば酸化イリジウム(暗青色)、プルシアンブルー(青)等が挙げられる(各々酸化状態でカッコ内に示した色を示す)。
【0089】
クラス3に分類される導電性ポリマーとしては、例は少ないが、例えば特開平6−263846に記載のフェニルエーテル系化合物が上げられる。
【0090】
クラス3に分類される色素としては多数の色素が知られているが、スチリル系色素、フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、アクリジン等のアジン系色素、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール等のアゾール系色素等が好ましい。
【0091】
以下に、本発明に用いることができるスチリル系色素、及びアジン系色素、アゾール系色素を例示するが、これらに限定されるものでは無い。
【0092】
【化3】

【0093】
【化4】

【0094】
本発明の好ましい態様においては、前記EC色素と共に電気化学的な酸化還元反応により可逆的に溶解析出する金属塩を併用し、黒表示、白表示及び黒以外の着色表示の3色以上の多色表示を行う。この場合、該金属塩が還元されて黒表示を行う為、EC色素としては酸化により発色するクラス3のEC化合物が好ましく、特に発色の多様性、低駆動電圧、メモリー性等の点でアゾール系色素が好ましい。本発明において、最も好ましい色素は下記一般式(L)で表される化合物である。
【0095】
以下、本発明に係る前記一般式(L)で表されるエレクトロクロミック化合物について説明する。
【0096】
【化5】

【0097】
前記一般式(L)において、Rlは置換もしくは無置換のアリール基を表し、Rl、Rlは各々水素原子または置換基を表す。Xは>N−Rl、酸素原子または硫黄原子を表し、Rlは水素原子、または置換基を表す。
【0098】
Rlが置換基を有するアリール基を表す場合、置換基としては特に制限は無く、例えば以下のような置換基が挙げられる。
【0099】
アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、グリシジル基、アクリレート基、メタクリレート基、芳香族基(例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等)、複素環基(例えば、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、ピロリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、セレナゾリル基、スリホラニル基、ピペリジニル基、ピラゾリル基、テトラゾリル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、エタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基、ヘキサンスルホンアミド基、シクロヘキサンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、ウレタン基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、フェニルウレイド基、2−ピリジルウレイド基等)、アシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基、ピリジノイル基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、メチルウレイド基等)、スルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、フェニルスルフォニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、アニリノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ホスホノ基(例えば、ホスホノエチル基、ホスホノプロピル基、ホスホノオキシエチル基)等を挙げることができる。また、これらの基はさらにこれらの基で置換されていてもよい。
【0100】
Rlとしては、置換もしくは無置換のフェニル基が好ましく、更に好ましくは置換もしくは無置換の2−ヒドロキシフェニル基または4−ヒドロキシフェニル基である。
【0101】
R1,Rlで表される置換基としては特に制限は無く、前記Rlのアリール基上への置換基として例示した置換基等が挙げられる。好ましくはRl,Rlは置換基を有しても良い、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族基、複素環基である。Rl,Rlは互いに連結して、環構造を形成しても良い。Rl,Rlの組み合わせとしては、双方共に置換基を有しても良いフェニル基、複素環基である場合、若しくは何れか一方が置換基を有しても良いフェニル基、複素環基であり、他方が置換基を有しても良いアルキル基の組み合わせである。
【0102】
Xとして好ましくは、>N−Rl4である。Rl4として好ましくは、水素原子、アルキル基、芳香族基、複素環基、アシル基であり、より好ましくは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜10のアリール基、アシル基である。
【0103】
本発明の表示素子においては、本発明に係る一般式(L)で表される化合物が、電極表面と化学吸着または物理吸着する基を有していることが好ましい。本発明に係る化学吸着とは、電極表面との化学結合による比較的強い吸着状態であり、本発明に係る物理吸着とは、電極表面と吸着物質との間に働くファンデルワールス力による比較的弱い吸着状態である。本発明に係る吸着性基は、化学吸着性の基である方が好ましく、化学吸着する吸着性基としては、−COOH、−P=O(OH)、−OP=O(OH)及び−Si(OR)(Rは、アルキル基を表す)が好ましい。
【0104】
一般式(L)で表されるアゾール色素の中でも、特に下記一般式(L2)で表されるイミダゾール系色素が特に好ましい。
【0105】
【化6】

【0106】
一般式(L2)において、Rl21、Rl22は脂肪族基、脂肪族オキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、アシル基、スルホンアミド基、スルファモイル基を表し、R123は芳香族基若しくは芳香族複素環基を表し、Rl24は水素原子、脂肪族基、芳香族基、芳香族複素環基を表し、RL25は水素原子、脂肪族基、芳香族基、アシル基を表す。これらRl21からRl25で表される基は、更に任意の置換基で置換されていても良い。但しRl21からRl25で表される基の少なくとも1つは、その部分構造として−COOH、−P=O(OH)、−OP=O(OH)及び−Si(OR)(Rは、アルキル基を表す。)を有する。
【0107】
一般式Rl21,Rl22で表される基としては、アルキル基(特に分岐アルキル基)、シクロアルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基が好ましい。Rl23としては置換若しくは無置換のフェニル基、5員もしくは6員環複素環基(例えばチエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基等)が好ましい。Rl24としては置換若しくは無置換の、フェニル基、5員もしくは6員環複素環基、アルキル基が好ましい。Rl25としては特に水素原子若しくはアリール基が好ましい。
【0108】
また一般式(L2)を電極上に固定する際、これらRl21からRl25で示される基の少なくともひとつに、部分構造として、−P=O(OH)、−Si(OR)(Rは、アルキル基を表す)を有することが好ましく、特にRl23若しくはRl24で示される基の部分構造として−Si(OR)(Rは、アルキル基を表す)を有することが好ましい。
【0109】
以下に、一般式(L2)で表されるEC色素の具体的化合物例、及び一般式(L2)には該当しないが、一般式(L)に含まれるEC色素の具体例を示すが、本発明はこれら例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0110】
一般式(L2)で表される化合物
【0111】
【化7】

【0112】
【化8】

【0113】
【化9】

【0114】
【化10】

【0115】
【化11】

【0116】
一般式(L)で表される化合物
【0117】
【化12】

【0118】
【化13】

【0119】
【化14】

【0120】
【化15】

【0121】
【化16】

【0122】
【化17】

【0123】
〔発色材料及び白色散乱粒子以外の電解質組成物〕
本発明でいう「電解質」とは、一般に、水などの溶媒に溶けて溶液がイオン伝導性を示す物質(以下、「狭義の電解質」という。)をいうが、本発明の説明においては、狭義の電解質に電解質、非電解質を問わず他の金属、化合物等を含有させた混合物を電解質(「広義の電解質」)という。
【0124】
[支持電解質]
本発明において用いられる支持電解質としては、電気化学の分野又は電池の分野で通常使用される塩類、酸類、アルカリ類が使用できる。
【0125】
塩類としては、特に制限はなく、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩;4級アンモニウム塩;環状4級アンモニウム塩;4級ホスホニウム塩などが使用できる。
【0126】
塩類の具体例としては、ハロゲンイオン、SCN、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを有するLi塩、Na塩、あるいはK塩が挙げられる。
【0127】
また、ハロゲンイオン、SCN、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを有する4級アンモニウム塩、具体的には、(CHNBF、(CNBF、(n−CNBF、(CNBr、(CNClO、(n−CNClO、CH(C2H5)3NBF4、(CH3)2(C2H5)2NBF4、(CH3)4NSO3CF、(CNSOCF、(n−CNSOCF、さらには、下記式で表される化合物が挙げられる。
【0128】
また、ハロゲンイオン、SCN、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを有するホスホニウム塩、具体的には、(CHPBF、(CPBF、(CPBF、(CPBF等が挙げられる。また、これらの混合物も好適に用いることができる。
【0129】
本発明に用いられる支持電解質としては4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級スピロアンモニウム塩が好ましい。また対アニオンとしてはClO、BF、CFSO、(CSO、PFが好ましく、特にBFが好ましい。
【0130】
電解質塩の使用量は任意であるが、一般的には、電解質塩は溶媒中に上限としては20M以下、好ましくは10M以下、さらに好ましくは5M以下存在していることが望ましく、下限としては通常0.01M以上、好ましくは0.05M以上、さらに好ましくは0.1M以上存在していることが望ましい。
【0131】
固体電解質の場合には、電子伝導性やイオン伝導性を示す以下の化合物を電解質中に含むことができる。
【0132】
パーフルオロスルフォン酸を含むフッ化ビニル系高分子、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、トリフェニルアミン類、ポリビニルカルバゾール類、ポリメチルフェニルシラン類、CuS、AgS、CuSe、AgCrSe等のカルコゲニド、CaF、PbF、SrF、LaF、TlSn、CeF等の含F化合物、LiSO、LiSiO、LiPO等のLi塩、ZrO、CaO、Cd、HfO、Y、Nb、WO、Bi、AgBr、AgI、CuCl、CuBr、CuBr、CuI、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiAlF、AgSBr、CNHAg、RbCu16Cl13、RbCuCl10、LiN、LiNI、LiNBr等の化合物が挙げられる。
【0133】
<イオン性液体>
また、本発明に係る電解質組成物にはイオン性液体を含んでもよい。イオン性液体は、常温溶融塩とも言われ、融点が100℃以下の塩である。この塩は同数のカチオンとアニオンから構成されており、分子構造によって融点が室温以下の物質も数多く存在し、これらは溶媒をまったく加えなくても室温で液体状態である。イオン性液体は、強い静電的な相互作用をもっているため蒸気圧がほとんどないことが大きな特徴であり、高温でも蒸発がなく揮発しない。
【0134】
本発明に用いるイオン性液体としては、一般的に研究・報告されている物質ならばどのようなものでも構わない。特に有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造がある。
【0135】
本発明で用いるイオン性液体とは、式Qで表され、20〜100℃、好ましくは20〜80℃、より好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは20〜40℃、特に20℃で液体として存在する塩のことを指し、粘度(25℃)は、常温で融体である限り特に制限されないが、好ましくは1〜200mPa・sである。さらに、式中Q+で表されるカチオン成分はオニウムカチオンが好ましく、さらに好ましくはアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、スルホニウムカチオン及びホスホニウムカチオンである。
【0136】
上述のイオン性液体について具体的に詳述すると、上式中のQとしては、R、R、R、R=CR、R=CR[ここで、RからRは、互いに独立して、水素、飽和または不飽和の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜11のアラルキル基、R−X−(R−Y−)−(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rは炭素数4以下のアルキレン基、XおよびYは酸素原子または硫黄原子、nは0〜10の整数を示す。)を表し、これらの基は、置換基を有していても良い。]から成る群から選択されるアンモニウムおよび/またはホスホニウムイオン、R=CR−R−RC=N、R−R−S、R=CR−R−RC=P(ここで、R、RおよびRは、前記で定義したものと同じであり、そしてRは、炭素数1〜6のアルキレンまたはフェニレン基を表し、これらの基は置換基を有していても良い。)から成る群から選択される第四級アンモニウムおよび/またはホスホニウムイオン、さらには下記一般式で表される窒素、硫黄および燐原子から選ばれる原子を1、2または3個含む窒素、硫黄および燐原子含有複素環から誘導されるアンモニウムイオン、スルホニウムイオンまたはホスホニウムイオンなどを挙げることができる。
【0137】
【化18】

【0138】
式中RおよびRはこの上で定義した通りであり、Zは、N、N=C、S、PあるいはP=Cを含む4〜10員環を構成しうる原子を指し、この構成する原子には置換基を有していても良い。
【0139】
上述の中でRからRの具体的な例はとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの直鎖又は分枝を有するアルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどのシクロアルキル基、無置換あるいはハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、水酸基、低級アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ)、カルボキシル基、アセチル基、プロパノイル基、チオール基、低級アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオ)、アミノ基、低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基などの置換基を1〜3個有するフェニル、ナフチル、トルイル、キシリル等のアリール基、ベンジルなどのアラルキル基などを挙げることができる。また、R5の具体的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル基などのアルキル基などが挙げられ、R6としてはメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基などのアルキレン基などを挙げることができる。さらにR7の具体的な例はとしては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのアルキレン基、フェニレンなどのフェニレン基などを挙げることができる。
【0140】
また、式中のA−で表される対アニオンとしては、ヘキサフルオロ燐酸塩、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、ヘキサフルオロヒ酸塩、フルオロスルホン酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、硝酸塩、アルキルスルホン酸塩、フッ化アルキルスルホン酸塩または水素硫酸塩を表す。
【0141】
さらに、国際公開第95/18456号パンフレット、特開平8−259543号、特開2001−243995号各公報、電気化学第65巻11号923頁(1997年)、欧州特許第718288号明細書、J.Electrochem.Soc.,Vol.143,No.10,3099(1996)、Inorg.Chem.1996,35,1168〜1178等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩なども本発明に応じては適時選択して用いることができる。
【0142】
<固体化>
電解質組成物の安定性の確保や外部への流出を抑制する為、化学架橋剤により硬化させる方法(特開2007−163865号公報)や、光重合組成物(特開2007−141658号公報)を用いる方法なども好適に適用される。
【0143】
<増粘剤>
本発明の表示素子においては、電解質組成物に増粘剤を使用することができる。例えば、ゼラチン、アラビアゴム、ポリ(ビニルアルコール)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルキレングリコール)、カゼイン、デンプン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリル酸)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メタクリル酸)、コポリ(スチレン−無水マレイン酸)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、コポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(ビニルアセタール)類(例えば、ポリ(ビニルホルマール)及びポリ(ビニルブチラール))、ポリ(エステル)類、ポリ(ウレタン)類、フェノキシ樹脂、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(エポキシド)類、ポリ(カーボネート)類、ポリ(ビニルアセテート)、セルロースエステル類、ポリ(アミド)類、疎水性透明バインダとして、ポリビニルブチラール、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリウレタン等が挙げられる。
【0144】
これらの増粘剤は2種以上を併用して用いてもよい。また、特開昭64−13546号公報の71〜75頁に記載の化合物を挙げることができる。これらの中で好ましく用いられる化合物は、各種添加剤との相溶性と白色散乱粒子の分散安定性向上の観点から、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ヒドロキシプロピルセルロース類、ポリアルキレングリコール類、ポリビニルアセタール類である。
【0145】
<その他の添加剤>
本発明の表示素子の構成層には、保護層、フィルター層、ハレーション防止層、クロスオーバー光カット層、バッキング層等の補助層を挙げることができ、これらの補助層中には、各種の化学増感剤、貴金属増感剤、感光色素、強色増感剤、カプラー、高沸点溶剤、カブリ防止剤、安定剤、現像抑制剤、漂白促進剤、定着促進剤、混色防止剤、ホルマリンスカベンジャー、色調剤、硬膜剤、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、スベリ剤、紫外線吸収剤、イラジエーション防止染料、フィルター光吸収染料、防ばい剤、ポリマーラテックス、重金属、帯電防止剤、マット剤等を、必要に応じて含有させることができる。
【0146】
上述したこれらの添加剤は、より詳しくは、リサーチ・ディスクロージャー(以下、「RD」と略す。)第176巻Item/17643(1978年12月)、同184巻Item/18431(1979年8月)、同187巻Item/18716(1979年11月)及び同308巻Item/308119(1989年12月)に記載されている。
【0147】
これら三つのリサーチ・ディスクロージャーに示されている化合物種類と記載箇所を以下に掲載した。
【0148】
添加剤 RD17643 RD18716 RD308119
頁 分類 頁 分類 頁 分類
化学増感剤 23 III 648右上 96 III
増感色素 23 IV 648〜649 996〜8 IV
減感色素 23 IV 998 IV
染料 25〜26 VIII 649〜650 1003 VIII
現像促進剤 29 XXI 648右上
カブリ抑制剤・安定剤
24 IV 649右上 1006〜7 VI
増白剤 24 V 998 V
硬膜剤 26 X 651左 1004〜5 X
界面活性剤 26〜7 XI 650右 1005〜6 XI
帯電防止剤 27 XII 650右 1006〜7 XIII
可塑剤 27 XII 650右 1006 XII
スベリ剤 27 XII
マット剤 28 XVI 650右 1008〜9 XVI
バインダー 26 XXII 1003〜4 IX
支持体 28 XVII 1009 XVII
〔基板〕
本発明で用いることのできる基板としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリカーボネート類、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンジナフタレンジカルボキシラート、ポリエチレンナフタレート類、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアセタール類、ポリスチレン等の合成プラスチックフィルムも好ましく使用できる。また、シンジオタクチック構造ポリスチレン類も好ましい。これらは、例えば、特開昭62−117708号、特開平1−46912号、同1−178505号の各公報に記載されている方法により得ることができる。更に、ステンレス等の金属製基盤や、バライタ紙、及びレジンコート紙等の紙支持体ならびに上記プラスチックフィルムに反射層を設けた支持体、特開昭62−253195号(29〜31頁)に支持体として記載されたものが挙げられる。RDNo.17643の28頁、同No.18716の647頁右欄から648頁左欄及び同No.307105の879頁に記載されたものも好ましく使用できる。これらの支持体には、米国特許第4,141,735号明細書のようにTg以下の熱処理を施すことで、巻き癖をつきにくくしたものを用いることができる。また、これらの支持体表面を支持体と他の構成層との接着の向上を目的に表面処理を行っても良い。本発明では、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理を表面処理として用いることができる。更に公知技術第5号(1991年3月22日アズテック有限会社発行)の44〜149頁に記載の支持体を用いることもできる。更にRDNo.308119の1009頁やプロダクト・ライセシング・インデックス、第92巻P108の「Supports」の項に記載されているものが挙げられる。その他に、ガラス基板や、ガラスを練りこんだエポキシ樹脂を用いることができる。
【0149】
〔透明電極〕
本発明に係る透明電極としては、透明で電気を通じるものであれば特に制限はない。例えば、Indium Tin Oxide(ITO:インジウム錫酸化物)、Indium Zinc Oxide(IZO:インジウム亜鉛酸化物)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム、酸化亜鉛、白金、金、銀、ロジウム、銅、クロム、炭素、アルミニウム、シリコン、アモルファスシリコン、BSO(Bismuth Silicon Oxide)等が挙げられる。電極をこのように形成するには、例えば、基板上にITO膜をスパッタリング法等でマスク蒸着するか、ITO膜を全面形成した後、フォトリソグラフィ法でパターニングすればよい。表面抵抗値としては、10Ω/□以下が好ましく、1Ω/□以下がより好ましい。透明電極の厚さは、特に制限はないが、0.1〜20μmであるのが一般的である。上記抵抗値を達成する為に、低抵抗な金属部材からなるバスバーや集電グリッドなどを透明導電性基板上に形成させ、透明導電膜の抵抗を補う構成も好適に使用できる。集電グリッドの形成法としては、例えば、銀粒子ペーストをスクリーン印刷で基板上に塗布し焼成して集電グリッドとする方法が最も一般的ではあるが、もう少し精巧なグリッドを形成させる技術として、銅箔をエッチングして集電グリッドとする技術なども本発明に適用できる。
【0150】
集電グリッドは、細線からなるパターン上に、電解メッキまたは無電解メッキによって導電性金属をメッキした構成で作製することでパターンが形成することもできる。導電性の高い金属でメッキ被覆することで、集電グリッドの低抵抗化と高開口率を両立することができる。パターンを形成する方法としては、特に限定されず、例えば、印刷法、エッチング法などを挙げることができる。
【0151】
銀細線を印刷方式で形成する場合には、印刷用インクに含まれる金属成分の種類、量、サイズ、形状などを調整することにより、細線部の形状や導電性を調整することが可能となる。細線を印刷で行う場合、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷方式を用いることができる。中でも、グラビア印刷及びインクジェット印刷は、細かいパターンを連続的に形成しやすいという観点で特に好ましく用いることができる。
【0152】
集電グリッドは、種々の従来公知の金属や金属酸化物等からなる無機系導電性材料、ポリマー系導電性材料、無機有機複合型の導電性材料、カーボン系材料、またはこれらを任意に混合した導電性材料などで被覆されていてもよい。被覆層を形成することで電解質からの腐食を抑制できる。
【0153】
〔対向電極〕
対向電極は、電気を通じるものであれば、特に制限されず用いることができる。
【0154】
前記透明電極と同じ材料に加え、白金、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、チタン、ビスマスなどの金属およびそれらの合金、カーボン等、透明性を有しない材料でも好ましく用いることができる。
【0155】
〔表示素子のその他の構成要素〕
本発明の表示素子には、必要に応じて、シール剤、柱状構造物、スペーサー粒子を用いることができる。
【0156】
シール剤は外に漏れないように封入するためのものであり封止剤とも呼ばれ、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エン−チオール系樹脂、シリコン系樹脂、変性ポリマー樹脂等の、熱硬化型、光硬化型、湿気硬化型、嫌気硬化型等の硬化タイプを用いることができる。
【0157】
柱状構造物は、基板間の強い自己保持性(強度)を付与し、例えば、格子配列等の所定のパターンに一定の間隔で配列された、円柱状体、四角柱状体、楕円柱状体、台形柱状体等の柱状構造物を挙げることができる。また、所定間隔で配置されたストライプ状のものでもよい。この柱状構造物はランダムな配列ではなく、等間隔な配列、間隔が徐々に変化する配列、所定の配置パターンが一定の周期で繰り返される配列等、基板の間隔を適切に保持でき、且つ、画像表示を妨げないように考慮された配列であることが好ましい。柱状構造物は表示素子の表示領域に占める面積の割合が1〜40%であれば、表示素子として実用上十分な強度が得られる。
【0158】
一対の基板間には、該基板間のギャップを均一に保持するためのスペーサーが設けられていてもよい。このスペーサーとしては、樹脂製または無機酸化物製の球体を例示できる。また、表面に熱可塑性の樹脂がコーティングしてある固着スペーサーも好適に用いられる。基板間のギャップを均一に保持するために柱状構造物のみを設けてもよいが、スペーサー及び柱状構造物をいずれも設けてもよいし、柱状構造物に代えて、スペーサーのみをスペース保持部材として使用してもよい。スペーサーの直径は柱状構造物を形成する場合はその高さ以下、好ましくは当該高さに等しい。柱状構造物を形成しない場合はスペーサーの直径がセルギャップの厚さに相当する。
【0159】
〔表示素子駆動方法〕
本発明の表示素子の透明状態及び着色状態の制御方法は、エレクトロクロミック化合物の酸化還元電位や銀イオンの析出過電圧を基に決められることが好ましい。またエレクトロクロミック化合物の酸化還元電位と銀イオンの析出過電圧を適切に設定することにより、黒を含む2色以上の発色を制御することもできる。
【0160】
この場合の制御方法の一例としては、一般式(A)で表される化合物の酸化還元電位より貴な電圧を印加することで、一般式(A)で表される化合物を酸化し黒以外の着色状態を示し、一般式(A)で表される化合物の酸化還元電位と銀化合物の析出過電圧の間の電圧を印加することで一般式(A)で表される化合物を還元し白色状態に戻し、銀化合物の析出過電圧より卑な電圧を印加することで銀を電極上に析出させ黒色状態を示し、析出した銀の酸化電位と一般式(A)で表される化合物の酸化還元電位の間の電圧を印加することで析出した銀を溶解して消色する方法が挙げられる。
【0161】
一般式(A):R−SM
式中、Rは、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基を表す。Mは、水素原子、金属原子、又はアンモニウムを表わす。
【0162】
ここで、アルキル基とは、炭素数1〜30の、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル基を意味する。また、アリール基とは、フェニル基やナフチル基のような、単環もしくは縮合環の、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を意味する。また、ヘテロ環基とは、ヘテロ原子を少なくとも1つ含有する、芳香族もしくは非芳香族の、単環もしくは縮合環の、置換もしくは無置換のヘテロ環基を意味する。
【0163】
ここで置換基とは、例えばメルカプト基、(アルキル,アリール,またはヘテロ環)チオ基、(アルキル,アリール,またはヘテロ環)ジチオ基、(アルキルまたはアリール)スルホニル基、(アルキルまたはアリール)スルフィニル基、スルホ基またはその塩、スルファモイル基、N−アシルスルファモイル基、N−スルホニルスルファモイル基またはその塩、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)、アルキル基(直鎖、分岐、環状のアルキル基で、ビシクロアルキル基や活性メチン基を含む)、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基(置換する位置は問わない)、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、カルバモイル基、N−ヒドロキシカルバモイル基、N−アシルカルバモイル基、N−スルホニルカルバモイル基、N−カルバモイルカルバモイル基、チオカルバモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、カルバゾイル基、カルボキシ基またはその塩、オキサリル基、オキサモイル基、シアノ基、カルボンイミドイル基(Carbonimidoyl基)、ホルミル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基(エチレンオキシ基もしくはプロピレンオキシ基単位を繰り返し含む基を含む)、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルオキシ基、カルバモイルオキシ基、スルホニルオキシ基、アミノ基、(アルキル,アリール,またはヘテロ環)アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ウレイド基、チオウレイド基、N−ヒドロキシウレイド基、イミド基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、セミカルバジド基、チオセミカルバジド基、ヒドラジノ基、アンモニオ基、オキサモイルアミノ基、N−(アルキルもしくはアリール)スルホニルウレイド基、N−アシルウレイド基、N−アシルスルファモイルアミノ基、ヒドロキシアミノ基、ニトロ基、4級化された窒素原子を含むヘテロ環基(例えばピリジニオ基、イミダゾリオ基、キノリニオ基、イソキノリニオ基)、イソシアノ基、イミノ基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基等が挙げられる。なおここで活性メチン基とは2つの電子求引性基で置換されたメチン基を意味し、ここに電子求引性基とはアシル基、アルコシキカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、カルボンイミドイル基(Carbonimidoyl基)を意味する。ここで2つの電子求引性基は互いに結合して環状構造をとっていてもよい。また塩とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、重金属などの陽イオンや、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンなどの有機の陽イオンを意味する。
【0164】
これらの置換基は、これらの置換基でさらに置換されていてもよい。
【0165】
本発明の表示素子の駆動操作は、単純マトリックス駆動であっても、アクティブマトリック駆動であってもよい。本発明でいう単純マトリックス駆動とは、複数の正極を含む正極ラインと複数の負極を含む負極ラインとが対向する形で互いのラインが垂直方向に交差した回路に、順次電流を印加する駆動方法のことをいう。単純マトリックス駆動を用いることにより、回路構成や駆動ICを簡略化でき安価に製造できるメリットがある。アクティブマトリックス駆動は、走査線、データライン、電流供給ラインが碁盤目状に形成され、各碁盤目に設けられたTFT回路により駆動させる方式である。画素毎にスイッチングが行えるので、階調やメモリー機能などのメリットがあり、例えば、特開2004−29327号公報の図5に記載されている回路を用いることができる。
【0166】
〔商品適用〕
本発明の表示素子は、電子書籍分野、IDカード関連分野、公共関連分野、交通関連分野、放送関連分野、決済関連分野、流通物流関連分野等に用いることができる。具体的には、ドア用のキー、学生証、社員証、各種会員カード、コンビニストアー用カード、デパート用カード、自動販売機用カード、ガソリンステーション用カード、地下鉄や鉄道用のカード、バスカード、キャッシュカード、クレジットカード、ハイウェーカード、運転免許証、病院の診察カード、電子カルテ、健康保険証、住民基本台帳、パスポート、電子ブック等が挙げられる。
【実施例】
【0167】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0168】
実施例1
《表示素子EP−101の作製》(発色材料=銀塩方式)
〔透明電極の作製〕
ガラス基板上にスパッタ装置を用いて厚さ1000nm ピッチ140μm 電極幅130μmのITO層を形成し透明電極とした。
【0169】
〔対向電極の作製〕
ガラス基板上にナミックス社製金属有機化合物XE109−7をスクリーン印刷装置用いて塗布後、150℃10min乾燥させた後250℃で1時間(1h)焼成することでピッチ140μm 電極幅130μmの多孔質Ag層を形成し対向電極とした。
【0170】
〔電解質組成物S−101の作製〕
石原産業株式会社製酸化チタンCR95(280nm)30部、デンカ株式会社製ポリビニルブチラール#3000−1 10部、γ−ブチロラクトン35部、ヨウ化カリウム16部、ヨウ化銀24部を加えた後、室温で3時間(3h)攪拌することで電解質組成物S−101を作製した。
【0171】
〔分散/脱気操作〕
得られた電解質組成物S−101を不活性ガスである窒素ガス(純度99.99%)存在下において、プライミクス株式会社製真空乳化機TKアジホモミクサーを用いて分散/脱気操作を行った。攪拌翼の回転数 6000rpmで攪拌/分散操作を行いながら、日本ビュッヒ株式会社製ダイヤフラムポンプ V710を用いて、20Torrで1時間(1h)、真空脱気操作を行った。操作時のジャケット温度は50℃であった。
【0172】
〔表示素子の作製〕
透明電極上及び対向電極を積水化学社製スペーサー粒子Sp−220とオレフィン系封止材シール材で封止した後、真空注入方式で電解質液S−101封入することで表示素子EP−101を作製した。
【0173】
《表示素子EP−102の作製》
〔分散/脱気操作〕
電解質組成物S−101を不活性ガスである窒素ガス(純度99.99%)存在下において、日本ビュッヒ株式会社製ダイヤフラムポンプ V710を用いて、20Torrで1時間(1h)、真空脱気操作を行った以外は表示素子EP−101と同様に作製した。
【0174】
《表示素子EP−103の作製》
〔分散/脱気操作〕
電解質組成物S−101を耐圧フラスコ中に入れ、不活性ガスである窒素ガス(純度99.99%)を200ml/minでフローしながら、超音波振動子付恒温槽内で振動をあてながら日本ビュッヒ株式会社製ダイヤフラムポンプ V710を用いて20Torrで1時間(1h)、真空脱気操作を行った以外は表示素子EP−101と同様に作製した。
【0175】
《表示素子EP−104の作製》
〔電解質組成物S−102の作製〕
富士チタン工業株式会社製酸化チタンTA−500(450nm)30部、デンカ株式会社製ポリビニルブチラール#3000−1 10部、γ−ブチロラクトン35部、ヨウ化カリウム16部、ヨウ化銀24部を加えた後、室温で3時間(3h)攪拌することで電解質組成物S−102を作製した。
【0176】
それ以外は表示素子EP−103と同様に作製した。
【0177】
《表示素子EP−105の作製》
〔電解質組成物S−103の作製〕
石原産業株式会社製酸化チタンCR95(280nm)30部、デンカ株式会社製ポリビニルブチラール#3000−1 1部、γ−ブチロラクトン35部、ヨウ化カリウム16部、ヨウ化銀24部を加えた後、室温で3時間(3h)攪拌することで電解質組成物S−103を作製した。
【0178】
それ以外は表示素子EP−103と同様に作製した。
【0179】
《表示素子EP−106の作製》
〔電解質組成物S−104の作製〕
石原産業株式会社製酸化チタンCR95(280nm)30部、デンカ株式会社製ポリビニルブチラール#6000−CS 20部、γ−ブチロラクトン35部、ヨウ化カリウム16部、ヨウ化銀24部を加えた後、室温で3時間(3h)攪拌することで電解質組成物S−104を作製した。
【0180】
それ以外は表示素子EP−103と同様に作製した。
【0181】
《表示素子EP−107の作製》
電解質組成物をS−101からS−102に変更した以外は表示素子EP−101と同様に作製した。
【0182】
《表示素子EP−108の作製》
電解質組成物をS−101からS−103に変更した以外は表示素子EP−101と同様に作製した。
【0183】
《表示素子EP−109の作製》
電解質組成物をS−101からS−104に変更した以外は表示素子EP−101と同様に作製した。
【0184】
《表示素子EP−110の作製》(発色材料=EC方式)
〔電解質組成物S−105の作製〕
5mMの過塩素酸リチウム、石原産業株式会社製酸化チタンCR95(280nm)30部、ポリエチレングリコール(M.W.500,000)を4部、γ−ブチロラクトン65部に、0.2Mの(特開2008−52172号公報21p記載の)例示化合物110を溶解させて電解質組成物S105を調製した。
【0185】
それ以外はEP−101と同様にして表示素子110を作製した。
【0186】
【化19】

【0187】
《表示素子EP−111の作製》
分散/脱気操作をEP103と同様にした以外は表示素子EP−110と同様に作製した。
【0188】
《各特性値の測定及び評価》
(白色散乱粒子の粒子径)
白色散乱粒子を直接、透過型電子顕微鏡で観察し、得られた粒子画像から、粒径を求めた。この時、球換算の体積粒子径を、その白色散乱粒子の直径と定義する。
【0189】
(粘度)
各電解質組成物についてHAAKE社製レオメーターレオストレス RS600を用いてシェアレート10s−1、50℃における粘度を測定した。
【0190】
(酸素濃度)
飯島電子工業株式会社製溶存酸素濃度測定器 B−506を用いて脱気操作後の電解質組成物中の酸素濃度を測定した。
【0191】
(駆動安定性)
各表示素子について、公知のパッシブマトリックス回路を用いて、駆動実験を行った。はじめに、黒表示で550nmでの反射率が10%となる駆動条件を求め、この条件で白表示(白化)と黒表示(黒化)を1000回駆動させた後、再度白化させ、顕微鏡による目視評価を下記基準にしたがって行った。(但し、EP−110及びEP−111についてはエレクトロクロミック色素の最大吸収波長の反射率が30%になる条件とした。)
○:気泡発生なし
△:微量の気泡発生
×:気泡発生なし
(応答速度)
各表示素子について、公知のパッシブマトリックス回路を用いて、駆動前の白地に対して550nmでの反射率が10%となる時間を計測し、応答時間を算出した。(但し、EP−110及びEP−111についてはエレクトロクロミック色素の最大吸収波長の反射率が30%になる条件とした。)
(電荷効率)
各表示素子について、公知のパッシブマトリックス回路を用いて、駆動実験を行った。はじめに、黒表示で550nmでの反射率が10%となる駆動条件を求め、この条件で流れた電流量より電荷効率を求めた。(但し、EP−110及びEP−111についてはエレクトロクロミック色素の最大吸収波長の反射率が30%になる条件とした。)
以上より得られた結果を表1に示す。
【0192】
【表1】

【0193】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明で規定する脱気操作を行った電解質組成物を用いて作製された表示素子は、比較例に対し優れた駆動安定性を有し、且つ応答速度と電荷効率の優れた表示素子を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極と対向電極との間に、電気化学的な還元又は酸化によって着色と消色をする材料及び白色散乱粒子を含有する電解質組成物が配置された表示素子であって、当該電解質組成物が、その分散工程において、溶存酸素濃度が0.5mg/L以下となるまで不活性ガス存在下で脱気されたことを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記電解質組成物が含有する白色散乱粒子の一次粒子径が、400nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の表示素子を製造する表示素子の製造方法であって、不活性ガス存在下で電解質組成物を分散させながら脱気することで溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とする分散工程を有することを特徴とする表示素子の製造方法。
【請求項4】
前記電解質組成物の粘度が、シェアレート10s−1、50℃において、0.5〜50Pa・sであることを特徴とする請求項3に記載の表示素子の製造方法。

【公開番号】特開2010−145904(P2010−145904A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325201(P2008−325201)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】