説明

表示装置

【課題】 高い吸着性を持ちながら、従来よりも取り扱いが容易な乾燥剤を用いた、エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置を提供する。
【解決手段】 基板と、前記基板上に設けられるエレクトロルミネッセンス素子と、接着剤を介して前記基板上に接着され、前記エレクトロルミネッセンス素子を覆う封止部材と、前記基板と前記封止部材とで囲まれる封止空間内に設けられる乾燥剤とを備え、前記乾燥剤は、例えば、ゼオライト等の多孔質の無機材料で構成される。また、前記ゼオライトは、直径が2.5Å以上、かつ、3.0Å以下の細孔を、50%以上含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に係わり、特に、有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence)素子を用いたエレクトロルミネッセンス表示装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子を用いたエレクトロルミネッセンス表示装置(以下、OLED表示装置という)が、CRTや、液晶表示装置に代わる次世代のフラットディスプレイ装置として注目されている。
このOLED表示装置は、液晶表示装置などの現行のフラットディスプレイ装置と比較して、(1)発光に必要な電圧が10V以下と低く、消費電力を小さくできる、(2)自発光型であるのでバックライトが不要である、(3)同じ自発光型のプラズマ表示装置のような真空構造が不要であり、軽量化、薄型化に適している、(4)応答時間が数μ秒と短く、視野角が170度以上と広い等の特徴を有している。(下記、非特許文献1参照)
前述したOLED表示装置は、陽極および陰極の形状により、単純マトリクス方式のOLED表示装置と、アクティブマトリクス方式のOLED表示装置とに大別されるが、その基本構造は同じである。
【0003】
図4は、OLED表示装置の基本構造を示す断面図である。
図4に示すように、OLED表示装置は、ガラス基板10上に、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極から成る陽極11、正孔輸送層12、発光層13、電子輸送層14、陰極15が、この順番で積層されて構成される。
陽極11と陰極15との間に電圧を印加すると、陽極11から注入された正孔と、陰極15から注入された電子とが発光層13の内部で再結合し、発光層13を形成する有機分子を励起して励起子が生じ、この励起子が放射失活する過程で発光層13から光が放たれ、この光が透明な陽極11からガラス基板10を介して外部へ放出されて発光する。
以下、正孔輸送層12、発光層13および電子輸送層14から成る多層膜を、OLED膜という。
単純マトリクス方式のOLED表示装置は、図4に示す陽極11と陰極15とを、OLED膜30を挟んで互いに直交する多数のストライプ電極で構成し、陽極11となる多数のストライプ電極と、陰極15となる多数のストライプ電極との交点の画素に駆動電圧を印加して画像を表示する。
また、アクティブマトリクス方式のOLED表示装置は、各画素毎に陽極11を形成し、この陽極11に、各画素毎に設けられる能動素子、例えば、TFT(薄膜トランジスタ;Thin Film Transistor)を介して駆動電圧を印加して画像を表示する。
【0004】
なお、本願発明に関連する先行技術文献としては以下のものがある。
【非特許文献1】「有機ELパネルの高精細化に向け回路の基本特許を取得」、日経エレクトロニクス、2000.4.24(no.768),pp.163〜170、2000年4月24日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したOLED表示装置では、陰極15は、Mg/Ag、LiF/Al、あるいは、Ca/Alなどで構成される。
そして、OLED膜および陰極15は、水、酸素、熱あるいは紫外線に対して耐性が低く、特に、水は、OLED膜に多大な影響を与えて、発光が阻害されて非発光となった、所謂、ダークスポットと言われる欠陥の最大の原因となる。
このため、信頼性の高いOLED表示装置を実現するためには、これらの要素が、前述のOLED膜および陰極15に侵入するのを防止する必要があり、そこで、従来のOLED表示装置にあっては、OLED表示装置の製作時に、封止部材で封止される封止空間内に、乾燥した不活性な気体(例えば、霜点(露点)−80℃以下の窒素ガス)を封入している。
この状態を、パネル化した後も保ちつづけることが必要であるが、接着剤21を介して、外気の水分子が封止空間内に侵入することが考えられる。
そこで、パネル化された後に外部より侵入した水分子を吸収して、封止空間内を、常時封止時の適切な乾燥状態に保つために乾燥剤が封入されている。
【0006】
従来のOLED表示装置においては、前述の乾燥剤として、高い吸湿力を持つ酸化バリウム(Ba0、BaO)が使用されていた。
しかしながら、酸化バリウムは、高い吸湿力を持つが故に、例えば、保存している場合でも空気中の水分子を吸着することがあるなど、取り扱いが困難であるという問題点があった。
前記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、高い吸着性を持ちながら、従来よりも取り扱いが容易な乾燥剤を用いた、エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置を提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記の通りである。
本発明は、基板と、前記基板上に設けられるエレクトロルミネッセンス素子と、接着剤を介して前記基板上に接着され、前記エレクトロルミネッセンス素子を覆う封止部材と、前記基板と前記封止部材とで囲まれる封止空間内に設けられる乾燥剤とを備える表示装置に適用される。
本発明においては、前記乾燥剤として、例えば、ゼオライトなどの多孔質の無機材料で構成される。
また、本発明では、前記ゼオライトが、直径が2.5Å以上の細孔を、50%以上含むことを特徴する。
また、一般に、前記基板と前記封止部材とで囲まれる封止空間内には、乾燥した窒素ガスが封止されるが、この場合には、前記ゼオライトが、直径が2.5Å以上、かつ、3.0Å以下の細孔を、50%以上含むことを特徴する。
ゼオライトは、多孔質の無機材料であり、水分子を吸着したゼオライトは、加熱することにより元の状態(水分子を吸着する前の状態)に戻すことが可能であるので、保存時に水分子を吸着したとしても、表示装置に組み込む際に加熱処理を施すことで、元の状態に戻すことができるので、乾燥剤として酸化バリウムを使用する場合に比べて、取り扱いが容易となる。
【発明の効果】
【0008】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記の通りである。
本発明によれば、高い吸着性を持ちながら、従来よりも取り扱いが容易な乾燥剤を用いた、エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
なお、実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
〈本発明が適用されるOLED表示装置の基本構造〉
図1は、本発明が適用されるOLED表示装置の基本構造を示す要部断面図である。
図1に示すOLED表示装置は、表示面となるガラス基板10と、このガラス基板10上に、接着剤21で接着シールされる封止部材20とで構成される。なお、接着剤21は紫外線硬化樹脂、または熱硬化樹脂で構成される。
ガラス基板10には、陽極11、OLED膜30、および陰極15が形成され、前述したように、OLED膜30は、正孔輸送層12、発光層13および電子輸送層14から成る多層膜で形成される。
発光層13で発光した光は、図1に矢印で示すように、ガラス基板10側に放出される。
また、封止部材20は、ガラス、あるいは、ステンレスなどの金属で構成され、図1に示すように、封止部材20の一部に凹部22が形成され、この凹部内には、テープ25によって、乾燥剤23が固定、収納されている。
【0010】
図2は、図1に示すOLED表示装置を封止部材20側から見た裏面図、図3は、図1に示すOLED表示装置の側面を示す側面図である。
図2、図3に示すように、封止部材20は、各OLED膜30を囲むように、設けられ、前記凹部22は、封止部材20の略中央部に設けられる。
なお、図3において、16は取り出し電極であり、陽極11が、ガラス基板10上を封止部材20の外側まで延長された部分である。
また、封止部材20と、ガラス基枚10とで囲まれた封止空間26には、乾燥し、かつ不活性な気体(例えば、窒素ガス)が封入されている。
なお、図1に示すOLED表示装置は、単純マトリクス方式のOLED表示装置であり、陽極11となる多数のストライプ電極と、陰極15となる多数のストライプ電極とが、OLED膜30を挟んで直交するように形成される。
但し、図1では、陽極11となる多数のストライプ電極、陰極15となる多数のストライプ電極の図示は省略している。
【0011】
〈従来のOLED表示装置の乾燥剤の材料〉
前述したように、OLED膜30および陰極15は、水、酸素、熱あるいは紫外線に対して耐性が低く、特に、水は、OLED膜30に多大な影響を与えて、発光が阻害されて非発光となった、所謂、ダークスポットと言われる欠陥の最大の原因となる。
このため、信頼性の高いOLED表示装置を実現するためには、水分子が、前述のOLED膜30、および陰極15に侵入するのを防止する必要があり、そこで、従来のOLED表示装置にあっては、OLED表示装置の製作時に、封止部材20で封止される封止空間26内に、乾燥した不活性な気体(例えば、霜点(露点)−80℃以下の窒素ガス)を封入している。
この状態を、パネル化した後も保ちつづけることが必要であるが、接着剤21を介して、外気の水分子が封止空間内に侵入することが考えられる。
そこで、パネル化された後に外部より侵入した水分子を吸収して、封止空間26内を、常時封止時の適切な乾燥状態に保つために乾燥剤23が封入される。
【0012】
この乾燥剤23として、従来は、酸化バリウムが使用されている。
OLED表示装置の製作時において、封止空間26内に封入される乾燥した不活性な気体として、霜点(露点)−80°C以下の窒素ガスが封入されている。
霜点(露点)−80°Cにおける飽和水蒸気圧は、0.00041mmHg[水分量として、6.1×10−4g/m、但し、25°C,1atm(条件は、以下同じ。)]であり、大気圧である窒素ガスとの圧力比は、5.39×10−7となり極めて低い。この状態を、パネル化した後も保ち続けることが必要である。
従来、乾燥剤23として使用されている酸化バリウムは、水分量として、7×10−14g/mが実現でき、初期の乾燥状態を保てることが分かる。
しかし、酸化バリウムは、高い吸湿力を持つが故に、取り扱いが困難であり、例えば、保存している場合でも、酸化バリウムが空気中の水分子を吸着するので、取り扱いが困難であるという問題点があった。
さらに、酸化バリウムは、水分を吸着すると体積が大きく増加し、そのため、酸化バリウムを、封止部材20の一部に形成された凹部22内に固定、収納するためのテープ25が剥がれてしまい、酸化バリウムが、封止空間26内に飛散するという問題点もあった。
【0013】
〈本発明の実施の形態のOLED表示装置の特徴〉
本実施の形態のOLED表示装置は、前述の乾燥剤23として、多孔質の無機材料である、ゼオライトを用いたことを特徴とする。
ゼオライトは、多孔質の無機材料であり、水分子を吸着したゼオライトは、加熱することにより元の状態(水分子を吸着する前の状態)に戻すことが可能である。
そのため、保存時に水分子を吸着したとしても、表示装置に組み込む際に加熱処理を施すことで、元の状態に戻すことができるので、乾燥剤として酸化バリウムを使用する場合に比べて、取り扱いが容易となる。
これにより、高い吸着性を持ちながら、従来よりも取り扱いが容易な乾燥剤を用いた、エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置を提供することが可能となる。
また、ゼオライトは、細孔内に水分を吸着するので、水分を吸着しても体積増加が、酸化バリウムよりも小さく、そのため、封止部材20の一部に形成された凹部22内に固定、収納するためのテープ25が剥がれることもない。
【0014】
適切な孔径を持ったゼオライトでは、空気中の水分量として、1×10−4g/mという極めて低い湿度の状態を保つことが知られている。
しかし、ゼオライトは、孔に気体の分子を吸着させることによって、周囲の気体分子を減少させる。したがって、水分子以外の気体分子を吸着する可能性がある。
本実施の形態では、封止空間26内には、窒素ガスが封入されており、乾燥剤23としてのゼオライトには、窒素ガスは吸着せず、水分子のみを吸着させることが必要である。この制御は、ゼオライトの孔の大きさを適切に選択することによって実現することができる。
水分子の大きさは、2.8Åであり、窒素分子の大きさは、3.0Åである。 このように、水分子の大きさが、窒素分子より小さいことから、有効細孔径が2.5Å以上、かつ、3.0Å以下の細孔を、50%以上含むゼオライトを用いることによって、主に、水分子はゼオライトに吸着され、窒素分子は吸着されない状態を満たすことが可能となる。
なお、封止空間26内に、窒素ガスを封入しない場合には、有効細孔径が2.5Å以上の細孔を、50%以上含むゼオライトを用いることによって、効率的に水分子をゼオライトに吸着させることが可能となる。
【0015】
また、前述の説明では、OLED膜30が、正孔輸送層12、発光層13、および電子輸送層14の多層膜で形成される場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、このOLED膜30として、正孔輸送層12と発光層13の機能を持つ膜と電子輸送層14との2層、あるいは、正孔輸送層12と、発光層13と電子輸送層14の機能を持つ膜と電子輸送層14との2層から成るものであってもよい。
また、前述の説明では、本発明を、単純マトリクス方式のOLED表示装置に適用した実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、アクティブマトリクス方式のOLED表示装置に適用可能であることはいうまでもない。
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用されるOLED表示装置の基本構造を示す要部断面図である。
【図2】図1に示すOLED表示装置を封止部材側から見た裏面図である。
【図3】図1に示すOLED表示装置の側面を示す側面図である。
【図4】OLED表示装置の基本構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0017】
10…ガラス基板、11…陽極、12…正孔輸送層、13…発光層、14…電子輸送層、15…陰極、16…取り出し電極、20…封止部材、21…接着剤、22…凹部、23…乾燥剤、25…テープ、26…封止空間、30…OLED膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられるエレクトロルミネッセンス素子と、
接着剤を介して前記基板上に接着され、前記エレクトロルミネッセンス素子を覆う封止部材と、
前記基板と前記封止部材とで囲まれる封止空間内に設けられる乾燥剤とを備え、
前記乾燥剤は、多孔質の無機材料で構成されることを特徴する表示装置。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に設けられるエレクトロルミネッセンス素子と、
接着剤を介して前記基板上に接着され、前記エレクトロルミネッセンス素子を覆う封止部材と、
前記基板と前記封止部材とで囲まれる封止空間内に設けられる乾燥剤とを備え、
前記乾燥剤は、ゼオライトであることを特徴する表示装置。
【請求項3】
前記ゼオライトは、直径が2.5Å以上の細孔を、50%以上含むことを特徴する請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記基板と前記封止部材とで囲まれる封止空間内に封止される乾燥した窒素ガスを備え、
前記ゼオライトは、直径が2.5Å以上、かつ、3.0Å以下の細孔を、50%以上含むことを特徴する請求項2に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−318931(P2006−318931A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200661(P2006−200661)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【分割の表示】特願2001−357289(P2001−357289)の分割
【原出願日】平成13年11月22日(2001.11.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】