説明

表面にミクロな構造を有する微細構造体

【課題】シリコンや金属からなる耐久性の高い鋳型を用い、光硬化のような高い生産性が得られる方法により製造可能な、安価で量産性に優れ、微細形状の寸法精度が高い微細構造体を提供。
【解決手段】1個の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合する単量体Xおよび単量体Xと混合した時に均一な液体となり2個以上の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合する単量体Yからなり単量体Xと単量体Yの重量比が90/10〜55/45の範囲にある重合体A、および単量体Xと単量体Yとからなる液体に溶解またはコロイド状に分散する重合体Bを主たる成分とする重合体組成物からなり、該重合体組成物の20℃〜25℃の何れかの温度における貯蔵弾性率が1〜1100MPaの範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂からなり表面に微細な溝やウェルなどの凹凸構造を有する微細構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路チップ等の表面にミクロなな凹凸を有する微細構造体について、シリコン、ガラス、樹脂などの様々な素材を用いたものが提案されている。
シリコンを用いた微細構造体では、シリコン単結晶から切り出されたシリコンウエハーをエッチングすることにより凹凸パターンを形成する方法が広く用いられている。
このような方法は、凹凸形状の精度が高い面では好ましいものの、原材料であるシリコンウエハーが高価であることや加工機・加工設備が極めて高価であること、加工時間が長いなどの問題がある。また、凹凸形状の精度は加工機や加工条件に左右されやすく、不良品の発生率が高いことがある。
【0003】
ガラス製の微細構造体は、基本的にはシリコン製の微細構造体と同様な課題を有しており、原材料・機械設備のコスト、加工時間、不良率などの問題は解決されていない。
【0004】
樹脂からなる微細構造体については、様々な樹脂を用いた検討がなされている。
PDMS(ポリジメチルシロキサン)を主成分としたものでは、反応基を導入したPDMSに硬化剤を混合したものを型に流し込んで、加熱・固化させることなどにより製造する方法が用いられる。
【0005】
このようなPDMS製の微細構造体は実験室レベルで比較的容易に作製できることから、これまでに多くの研究例があり、一部商品化されているものもある。
しかし、原材料が高価、硬化時間が長いなどの理由から、PDMS製の微細構造体においては、樹脂を用いることで期待される低価格、大量生産を実現することは困難である。
またこの構造体自体は、エラストマー状で柔軟なために精度を保つことが難しく、流路内で高圧に液体を流す場合には変形して漏れが発生するなどの問題が起こる。
【0006】
樹脂製の微細構造体には、アクリルやポリカーボネートなどの透明な硬質樹脂も使用される。レーザー加工機やマイクロ切削機などを用いて、これら樹脂からなる基板に凹凸パターンを形成させる方法で作製することが広く行われている。
これらの方法によれば単純なパターン構造は容易に作製できるものの、パターンが複雑化すればするほど加工時間が長くなり、結果として生産性は大きく低下する。また加工機が高価であるため、このような方法により低価格で量産性の高い微細構造体を作製することは困難である。
【0007】
樹脂を用いた微細構造体の製造においては、生産性の面で有利な射出成形も用いられている。ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィンなどを用い射出成形により微細構造体を作製することが行われているが、これら樹脂では微細な凹凸パターンの転写や製品の離型などに問題がある。すなわち、コーナー部分に樹脂が充填されなかったり、ウェルドラインが残ったり、離型時に変形したりして、設計した凹凸パターンを有する微細構造体を得るには至っていない。
【0008】
このような問題を解決するために、既に我々は新規な転写性に優れた樹脂組成物を発明した(特許文献1)。この発明によれば、ミクロな凹凸パターンが形成されたマイクロチップが得られることが分かっている。
このように用いる樹脂を最適化することにより、射出成形によっても微細構造体が作製できるが、通常の射出成形においては過熱−冷却のプロセスが存在するため、熱収縮が微細形状の寸法精度に影響する。
【0009】
ミクロな構造の寸法精度を高めるためには、熱収縮が影響しない樹脂成形方法が必要であり、その例としては光硬化を利用した硬化性樹脂による成形が考えられる。このような成形においては、マスク露光による方法や鋳型に硬化性樹脂を流し込む方法などが用いられる。
【0010】
マスク露光による方法では、基板上に一定の厚さで塗布した光硬化性樹脂の上に、パターンに対応したマスクを載せ、その上から一定時間光を照射したのちに、未硬化樹脂を除去して凹凸構造が作製される(特許文献2を参照)。このような方法は既存技術を組み合わせただけなので、比較的容易に凹凸構造が得られるものの、作製できる構造が限られたり、微細構造ではその精度が低下するなどの問題がある。すなわちマスク露光では基板に任意の角度で立つ斜めの壁や深さの異なる穴などは通常は作製できない。また基板に垂直な壁についても、露光により構造を形成する際に樹脂中で光や化学反応が拡散することにより、壁の傾きが発生したり平面度が低下したりするので、高い寸法精度の構造を得ることは困難である。またこのようなマスク露光用に用いられる従来の樹脂では、無蛍光のものがほとんどなく、マイクロチップ等への使用では問題がある。
【0011】
鋳型に硬化性樹脂を流し込む方法では、微細な凹凸構造を表面に有する鋳型を用い、そこに光硬化性樹脂を流し込み、光照射して樹脂を硬化させることにより微細構造を作製する。用いる光硬化性樹脂は、硬化前の樹脂粘度を低く出来るために、一般には微細構造先端への樹脂充填は容易である。また構造形成後の冷却プロセスがなく、熱収縮や結晶化による体積変化がないために変形も発生しにくいので、この方法によれば鋳型の寸法精度を反映した高精度な微細構造を形成できる。
【0012】
このように鋳型に硬化性樹脂を流し込む方法では、高精度な微細形状の形成は容易であるが、問題の多くは硬化後の離型に見られる。すなわち、光硬化性樹脂の成分としてよく用いられるエポキシ系化合物やアクリル系化合物は、それらが接着剤としても使用されることから分かるように、鋳型の素材である金属、ガラス、シリコンとは密着性が高く、そのために離型時に微細構造体のミクロな構造が変形したり、破壊したり、型を破損したりする。
【0013】
このような問題を解決するために、これまで我々は光硬化性樹脂や鋳型を改良する検討をおこない、光硬化性樹脂を用いる新たな成形方法を考案してきた(特許文献3、4)。難接着性樹脂であるポリプロピレン系樹脂やシリコーンゴムを鋳型とした硬化性樹脂の成形方法を考案して上記離型の問題を解決したが、これらの鋳型では耐久性や精度に課題が残されているためにさらなる改良が望まれる。通常の金属、ガラス、シリコンなどからなる耐久性の高い鋳型を使用することができる光硬化性樹脂が必要であると考えられるが、現状では離型性などの成形性や、マイクロチップに求められる無蛍光性など物性の点で満足できるものは提供されていない。
【0014】
【特許文献1】特許第3867126号
【特許文献2】特開2003−66033号
【特許文献3】特開2006−346905号
【特許文献4】特開2007−253071号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は前記技術課題に鑑み、シリコンや金属からなる耐久性の高い鋳型を用い、光硬化のような高い生産性が得られる方法により製造可能な、安価で量産性に優れ、微細形状の寸法精度が高く、マイクロチップに適用できる無蛍光な素材からなる微細構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の微細構造体は、1個の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合する単量体Xおよび単量体Xと混合した時に均一な液体となり2個以上の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合する単量体Yからなり単量体Xと単量体Yの重量比が90/10〜55/45の範囲にある重合体A、および単量体Xと単量体Yとからなる液体に溶解またはコロイド状に分散する重合体Bを主たる成分とする重合体組成物からなり、該重合体組成物の20℃〜25℃の何れかの温度における貯蔵弾性率が1〜1100MPaの範囲にあり、表面にミクロな凹凸構造を有する。
【0017】
重合体Aを構成する単量体Xは、1個の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合するモノマーであれば特に制限は無く、ビニルモノマー類、(メタ)アクリレート類、アクリルアミド類などを使用することができる。単量体Xは1種類のモノマーでも良く、2種類以上のモノマーを混合したものでも良い。
【0018】
単量体Xは、微細構造体を製造する際の生産性を高める観点からは重合速度が速いことが好ましく、このような単量体としては(メタ)アクリロイル基の化学構造を有する単量体が好ましい。また単量体Xは、蛍光の観点からは芳香族化合物でないのが好ましい。以上のような単量体Xとしては、アルキル基、シクロアルキル基がエステル部分に結合した(メタ)アクリレートが挙げられる。このような単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ノニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ノニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。
【0019】
重合体Aを構成する単量体Yは、単量体Xと混合したした時に均一な液体となり2個以上の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合するモノマーであれば特に制限は無いが、蛍光の観点からは芳香族化合物でないのが好ましい。このような単量体Yの例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,10−デカンジオール、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。単量体Yは1種類のモノマーでも良く、2種類以上のモノマーを混合したものでも良い。
【0020】
重合体Aを構成する単量体Xと単量体Yの重量比は、90/10〜55/45の範囲にある。本発明では、樹脂の粘接着力を低下させること、および樹脂に弾性を付与することにより微細構造体成形時の離型の問題を解決している。一般に樹脂を架橋することによりその粘接着力を低下させることが可能であることが知られているので、架橋剤として単量体Yを加えた。しかし単量体Yの割合が多くなりすぎると、樹脂の弾性が失われて硬くなりすぎるため、本発明における単量体Xと単量体Yの重量比は、90/10〜55/45の範囲にある。
【0021】
重合体Bは、単量体Xと単量体Yとからなる液体に溶解またはコロイド状に分散する重合体であれば特に制限は無く、ポリ(メタ)アクリレート類、ビニル系ポリマー類、ジエン系ポリマー類、縮合系ポリマー類などを自由に使用することができる。
【0022】
重合体組成物中の重合体Aと重合体Bの割合には特に制限はないが、微細構造体を成形する際に、重合体Bの量が少ないと収縮が大きくなり寸法精度が低下し、重合体Bの量が多いと単量体X/単量体Y/重合体Bが主成分である光硬化性樹脂の粘度が高くなりすぎて成形時に問題が発生するので、重合体Aと重合体Bの重量比は93/7〜65/35の範囲にあるのが好ましい。
【0023】
重合体組成物は、前記のとおり離型のために弾性が必要なので、20℃〜25℃の何れかの温度における貯蔵弾性率が1〜1100MPaの範囲にあることが好ましく、5〜800MPaの範囲にあることがより好ましい。単量体X、単量体Yおよび重合体Bの各々は前記のとおり特に限定されないが、これら3成分の組合せは重合体組成物の貯蔵弾性率が前記の範囲になるように選択されなければならない。
【0024】
本発明の単量体Xは、それを重合した重合体のガラス転移温度が20℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。前記のとおり本発明の重合体組成物は弾性を有することが必要なため、主要な成分の1つである単量体Xは、その重合体が室温付近でゴム状態であるのが良い。
【0025】
本発明の単量体Xは少なくとも式(1)により表される化学構造を有する単量体を含有するのが好ましい。
【化1】


(式(1)中、mは2〜4の整数、nは1〜10の整数、RはCHまたはH)
単量体Xが式(1)の構造を有する単量体を含有することにより、微細構造体に親水性を付与できるため、該微細構造体をバイオチップ等として医学、生化学、生物学分野などでより好適に使用できるようになる。親水性を付与するためには、単量体Xは式(1)の構造を有する単量体を20重量%以上含有するのがより好ましい。式(1)の構造を有する単量体の例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−メトキシプロピルアクリレート、4−メトキシブチルアクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−メトキシプロピルメタクリレート、4−メトキシブチルメタクリレート、水酸基末端ポリエチレングリコールモノアクリレート、水酸基末端ポリエチレングリコールモノメタクリレート、メチル基末端ポリエチレングリコールモノアクリレート、メチル基末端ポリエチレングリコールモノメタクリレートなどが挙げられる。
【0026】
本発明の重合体Bはコア・シェル型の高分子微粒子からなるのが好ましい。このような重合体Bを使用することにより、本発明の単量体X、単量体Y、重合体Bを主たる成分とする光硬化性樹脂は、粘度の上昇が抑えられ取扱いが容易となる。さらに本発明の重合体Bのコア・シェル型高分子微粒子は、伸張した歪100%の状態における発生応力が100MPa以下であるのが好ましく、20MPa以下であるのがより好ましい。前記のとおり微細構造体を構成する重合体組成物には、離型性を向上するために弾性を付与することが必要なため、重合体Bは柔軟であることが好ましい。
【0027】
該コアシェル粒子の粒子径には特に制限が無いが、製造方法としては乳化重合を使用しやすいことを考慮すると、粒子径は0.01〜10μmの範囲にあるものが使用しやすい。
該コアシェル粒子のシェルに使用される高分子は特に制限は無いが、製造方法として乳化重合を使用しやすいことや蛍光の発生を考慮すると、ポリメチルメタクリレートのような(メタ)アクリレート重合体およびその共重合体、ポリ酢酸ビニルおよびその共重合体などが挙げられる。
該コアシェル粒子のコアに使用される高分子は特に制限は無いが、製造方法として乳化重合を使用しやすいことや蛍光の発生を考慮すると、ポリブチルアクリレートのような(メタ)アクリレート重合体およびその共重合体、ポリ酢酸ビニルおよびその共重合体などが挙げられる。
【0028】
該コアシェル型の高分子微粒子は、形状を保持するために、少なくともコア部分が架橋されているのが好ましい。これにより重合体Bは微細構造体を構成する重合体組成物の中で安定に分散相を形成し、柔軟な場合には弾性体として良好に機能することができる。架橋を形成する単量体については特に制限が無く、ジビニルモノマー類、ジ(メタ)アクリレート類、アリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
本発明の微細構造体は、表面に有する微細構造の凹凸形状が1つ又は複数の凹部及び/又は凸部からなり、凹部深さないし凸部突出高さが0.1μm〜500μmの範囲にあり、凹部開口幅ないし凸部突出幅または凹部ないし凸部の接円直径が0.1μm〜500μmの範囲にあり、凹部深さないし凸部突出高さと凹部開口幅ないし凸部突出幅または凹部ないし凸部の接円直径との比が1/100〜10/1である。
本発明の微細構造体は、細胞、細菌、タンパク質、DNAなどを扱うバイオ用途、オプティカルデバイスなどとしての光学用途、ラボ・オン・チップなどとしての分析・合成用途などへ適用できることを考慮し、前記の寸法範囲を表示した。
【0030】
本発明の微細構造体は、前記の単量体X、単量体Y、重合体Bを主成分とする光硬化性樹脂を鋳型に流し込み光重合により固化して作製することが好ましい。本発明においては、高い生産性や寸法精度が得られる方法で微細構造体を提供することを目的とするため、鋳型を用いる光重合による作製が好ましい。
【0031】
本発明の微細構造体の作製に使用する光硬化性樹脂には光重合開始剤を添加してもよい。光重合開始剤については特に制限はなく、ベンゾインエーテル系、ケタール系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系などの光重合開始剤から自由に選択して用いることができる。
また該光硬化性樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、モノマー、ポリマー、無機フィラーなどを自由に配合しても良い。
光重合に用いる光照射装置については特に制限が無く、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV放電管などを装備した装置を自由に用いることができる。
光硬化性樹脂の硬化は、重合性の観点から窒素雰囲気中で行なうのがより好ましい。
【0032】
本発明の微細構造体は、微細構造体の微細構造を有しない面に、ガラス、プラスチック、金属からなるプレートを貼付したことを特徴とする微細構造体複合プレートとすることができる。
微細構造体複合プレートとすることで、微細構造体が強度的に補強されたり、スキャナーなどの分析装置で利用しやすくなったりして、利便性が向上する。
【0033】
微細構造体にプレートを貼付する方法としては特に制限はなく、微細構造体作製後に接着剤でプレートを貼り付ける方法などを自由に使用できる。また、微細構造体の作製時において、鋳型の上に光硬化性樹脂をのせ、その上にプレートをのせて光硬化した後に離型し、微細構造体とプレートとが一体になった微細構造体複合プレートを作製しても良い。なお、その際に用いるプレートを、光硬化性樹脂との接着が良好となるように、モノマーや重合性二重結合を持ったシランカップリング剤で表面処理するとより好ましい。
【0034】
本発明の微細構造体および微細構造体複合プレートを用い、マイクロ流路チップ、マイクロチャネルチップ、マイクロウェルアレイチップ、および細胞培養プレートとして使用することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の微細な構造を有する樹脂成形体は、弾性、非粘着性を有する素材を使用することにより寸法や形状の精度が高い微細構造を有しているので、本発明を利用することにより、今まで樹脂では提供困難であった正確な形状を有するマイクロ流路やマイクロウェルなどからなるマイクロチップ等を提供できるようになる。本発明の微細な構造を有する樹脂成形体は親水性にも優れるので、医学、生化学、生物学分野などでバイオチップ、細胞培養プレート等としてより好適に使用できる。また本発明の微細な構造を有する樹脂成形体は、寸法や形状の精度が高いことを利用し光学部品などとしても好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の微細構造体の作製に、原材料として以下のものを使用した。
1個の重合性二重結合を有する単量体として、和光純薬工業製のn−ブチルアクリレート(重合体のガラス転移温度:−50℃)、2−メトキシエチルアクリレート(重合体のガラス転移温度:−50℃)、日本化成製の4−ビドロキシブチルアクリレート(重合体のガラス転移温度:−30℃)、日本油脂製のメチル基末端ポリエチレングリコールモノメタクリレートであるブレンマーPME−100(ポリエチレングリコール部分の重合度が約2)およびPME−200(ポリエチレングリコール部分の重合度が約4)を使用した。
2個以上の重合性二重結合を有する単量体として、日本油脂製のジエチレングリコールジメタクリレートであるブレンマーPDE−100、ワコーケミカル製のジメタクリル酸1,6−ヘキサンジオールおよび和光純薬工業製のメタクリル酸アリルを使用した。
重合体として、クラレ製のパラペットSA-NW201(コア・シェル型高分子微粒子で、歪100%の発生応力11MPa)を使用した。
光重合開始剤として、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製の光重合開始剤Ciba DAROCUR 1173(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン)を使用した。
【実施例1】
【0037】
前記の1個の重合性二重結合を有する単量体、2個以上の重合性二重結合を有する単量体、重合体、光重合開始剤の中から図1の実施例1に記載したものを選択し、図1の重量部でガラス製サンプル管に量り取って混合したのち、重合体が溶解して均一に分散するまで室温の暗所で攪拌した。次に図2に示すように、鋳型(図2の1で、シリコン基板をドライエッチングして作製したもので、図中の上面に型となる微細構造を有する)の上に前記の混合物からなる光硬化性樹脂(図2の2)を置き、さらにその上からガラスプレート(図2の3で、使用直前まで3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製)に12時間以上浸漬した)をのせて光硬化性樹脂が鋳型上面全体に広がるようにした。このようにして用意した鋳型、光硬化性樹脂、ガラスプレートを窒素雰囲気中に置き、図3のようにしてスライドガラス上面からの高さが2cmのところに紫外線ランプ(アズワン株式会社製 LUV−16、22W)を置いて30分間紫外線照射したのちに、鋳型を外してガラスプレート上に微細構造体を得た。
鋳型としてスタンパ1(ライン&スペース作製用のスタンパで、幅1μm、深さ3μmの溝が1μmの間隔で並んだ構造をを作製できる)を使用し、上記のようにして得られた微細構造体1aの凹凸構造を、パターン面の上から走査型電子顕微鏡観察した結果を図4に示す。この成形体においては、パターン面の溝と樹脂の境界のエッジ部分での樹脂の未充填や変形などが全く認められず、全体としてもスタンパ構造を忠実に転写した微細構造が認められた。
鋳型としてスタンパ2(ウェルアレイ作製用のスタンパで、直径12μm、深さ15μmの穴が25μmの間隔で正方格子状に並んだ構造を作製できる)を使用し、上記のようにして得られた微細構造体1bの凹凸構造を、パターン面の上から光学微鏡観察した結果を図5に示す。この成形体においては、穴入り口付近での樹脂未充填や変形などが全く認められず、全体としてもスタンパ構造を忠実に転写した微細構造が認められた。
本実施例で使用した前記光硬化性樹脂を用い、25mm×5mm×1mmの短冊状試料を光硬化により作製して、貯蔵弾性率を測定した。貯蔵弾性率をメトラー製DMA861を用いて、周波数10Hz、22℃で動的粘弾性測定して求めたところ、その値は160MPaであった。
(実施例2〜12)
【0038】
前記の1個の重合性二重結合を有する単量体、2個以上の重合性二重結合を有する単量体、重合体、光重合開始剤の中から図1の実施例2〜12に記載したものを選択し、図1に記載した重量部で、実施例1と同様にして光硬化性樹脂を調製して微細構造体を成形した。鋳型として前記スタンパ1およびスタンパ2を用い実施例2〜12の条件で作製した微細構造体2a〜12aおよび微細構造体2b〜12bについて、実施例1と同様にして顕微鏡観察したところ、全ての微細構造体について図4および図5と同様な構造が観察され、スタンパ構造を忠実に転写した微細構造を確認した。
実施例2〜12の光硬化性樹脂を用い、実施例1と同様にして貯蔵弾性率を測定したところ、図1に示した値が得られた。
(比較例1)
【0039】
前記の1個の重合性二重結合を有する単量体、2個以上の重合性二重結合を有する単量体、重合体、光重合開始剤の中から図1の比較例1に記載したものを選択し、図1に記載した重量部で、実施例1と同様にして光硬化性樹脂を調製して微細構造体の成形を試みた。しかし本比較例の2個以上の重合性二重結合を有する単量体の配合量では、硬化した樹脂の粘着性が極めて高く、紫外線照射後の離型過程において微細構造体から鋳型(前記のスタンパ2)を外すことが不可能であり、外すために過剰に力を加えるとシリコン製の鋳型が割れて微細構造体を得ることはできなかった。
(比較例2)
【0040】
前記の1個の重合性二重結合を有する単量体、2個以上の重合性二重結合を有する単量体、重合体、光重合開始剤の中から図1の比較例2に記載したものを選択し、図1に記載した重量部で、実施例1と同様にして光硬化性樹脂を調製して微細構造体を成形した。鋳型として前記スタンパ2と同様な凹凸構造を有するスタンパ3を用いて作製した微細構造体c1について、実施例1と同様にして光学顕微鏡観察した結果を図6に示す。図6より本比較例の微細構造体では、形成された穴の周囲に異常な構造が認められ、このような構造は離型の際に鋳型との摩擦で樹脂が削られたことにより生成したことが推定された。本比較例における2個以上の重合性二重結合を有する単量体の配合量では架橋が多すぎて、得られる樹脂が脆くなったためにこのような異常な構造が生成したことが予想される。
(比較例3)
【0041】
前記の2個以上の重合性二重結合を有する単量体、重合体、光重合開始剤の中から図1の比較例3に記載したものを選択し、1個の重合性二重結合を有する単量体としてメチルメタクリレート(クラレ製、重合体のガラス転移温度:120℃)を用い、図1に記載した重量部で、実施例1と同様にして光硬化性樹脂を調製して微細構造体の成形を試みた。しかし本比較例ではメチルメタクリレートを使用したため、硬化した樹脂の剛性が極めて高く、紫外線照射後の離型過程において微細構造体から鋳型(前記のスタンパ2と同様な凹凸構造を有するスタンパ4)を外すことが不可能であり、外すために過剰に力を加えるとシリコン製の鋳型が割れて微細構造体を得ることはできなかった。
本比較例の光硬化性樹脂を用い、実施例1と同様にして貯蔵弾性率を測定したところ、図1に示したように極めて高い値が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により提供される表面にミクロな凹凸構造を有する微細構造体は、その構造精度の高さや親水性などの素材特性を活かし、マイクロ流路チップ、マイクロチャネルチップ、マイクロウェルアレイチップ、細胞培養プレートなどとして分析、検査、診断、合成用途等に広く利用することができる。また構造精度の高さから、光学部品やマイクロマシン部品等としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例および比較例に用いた材料とその配合、および作製した成形体の貯蔵弾性率を示す。
【図2】微細構造体の成形方法の一部を示した工程図である。
【図3】微細構造体の成形方法の一部を示した工程図である。
【図4】実施例1の微細構造体を走査型電子顕微鏡観察した結果の写真である。
【図5】実施例1の微細構造体を光学顕微鏡観察した結果の写真である。
【図6】比較例2の微細構造体を光学顕微鏡観察した結果の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合する単量体Xおよび単量体Xと混合した時に均一な液体となり2個以上の重合性二重結合を有しフリーラジカル重合により重合する単量体Yからなり単量体Xと単量体Yの重量比が90/10〜55/45の範囲にある重合体A、および単量体Xと単量体Yとからなる液体に溶解またはコロイド状に分散する重合体Bを主たる成分とする重合体組成物からなり、該重合体組成物の20℃〜25℃の何れかの温度における貯蔵弾性率が1〜1100MPaの範囲にあり、表面にミクロな凹凸構造を有する微細構造体。
【請求項2】
単量体Xがそれを重合した重合体のガラス転移温度が20℃以下であることを特徴とする請求項1の微細構造体。
【請求項3】
単量体Xが少なくとも式(1)により表される化学構造を有する単量体を含有することを特徴とする請求項1〜2の微細構造体。
【化1】


(式(1)中、mは2〜4の整数、nは1〜10の整数、RはCHまたはH)
【請求項4】
重合体Bがコア・シェル型の高分子微粒子からなることを特徴とする請求項1〜3の微細構造体。
【請求項5】
表面に有する微細構造の凹凸形状が1つ又は複数の凹部及び/又は凸部からなり、凹部深さないし凸部突出高さが0.1μm〜500μmの範囲にあり、凹部開口幅ないし凸部突出幅または凹部ないし凸部の接円直径が0.1μm〜500μmの範囲にあり、凹部深さないし凸部突出高さと凹部開口幅ないし凸部突出幅または凹部ないし凸部の接円直径との比が1/100〜10/1であることを特徴とする請求項1〜4の微細構造体。
【請求項6】
請求項1〜4の単量体X、単量体Y、重合体Bを主成分とする光硬化性樹脂を鋳型に流し込み光重合により固化して作製することを特徴とする請求項1〜5の微細構造体。
【請求項7】
請求項1〜6の微細構造体の微細構造を有しない面に、ガラス、プラスチック、金属からなるプレートを貼付したことを特徴とする微細構造体複合プレート。
【請求項8】
請求項1〜7の微細構造体および微細構造体複合プレートを用いたマイクロ流路チップ、マイクロチャネルチップ、マイクロウェルアレイチップおよび細胞培養プレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−30010(P2009−30010A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331266(P2007−331266)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】