説明

表面に二酸化チタン被膜を形成したチタン材の切削片

【課題】光触媒効果にて水中及び空気中の汚れや雑菌などを効率よく除去することが出来る安価な部材の提供。
【解決手段】チタン材を切削して出来る切削片1を材料とし、これを不活性雰囲気内で加熱し、その後冷却することで表面に二酸化チタン被膜5を形成しているチタン材の切削片。この二酸化チタン被膜5は二酸化チタンの粉末を接着剤にて固着して形成するものではなく、切削片1の表面を酸化することで作られる被膜であり、後で剥離したり、脱落することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチタン材を切削することにより発生する切削片を利用し、この表面に二酸化チタン被膜を形成した切削片に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンの粉末は光触媒として色々なところで利用されている。例えば、ガラス、セメント、壁紙、石こうボード、石材、プラスチックなどの表面に二酸化チタン含有塗膜を形成するならば、汚れが付着しても、太陽光が当ることで該汚れは分解される。又、空気中の汚れや雑菌を分解したり、水中の汚れや雑菌を分解する為にも光触媒効果が利用されている。
【0003】
二酸化チタンはそれ自体が光半導体であり、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光、例えば紫外線で照射されると伝導帯には電子が集積し、価電子帯には正孔が生じる。この集積電子及び正孔によって生じる電子移動に基づく酸化還元作用により大気中の有機物を分解し、殺菌効果を示すという光触媒活性が工業的に利用されている。
【0004】
ところで、二酸化チタン層を基材の表面に形成させる事はなかなか困難である。従来行われている方法は一つには純チタン板状体の表面を空気酸化または陽極酸化して二酸化チタン膜を形成することが出来る。しかし、この酸化方法が難しい割に良好な機能が得られにくい。又、基材表面に二酸化チタンを蒸着させたり、プラズマ溶射を行う方法も知られているが、何れもコストが高く、しかも基材の種類によって適用する事が出来ない。
【0005】
また、二酸化チタン粉末をバインダーと呼ばれる樹脂や接着剤を介して基材に接着する試みもなされているが、二酸化チタンの光触媒作用によりバインダーが酸化分解され、数カ月の後には基材から脱落してしまいといった問題が発生する。勿論、樹脂や接着剤などにて二酸化チタン表面を覆ってしまうことから、光触媒作用は必然的に低下する。
【0006】
特開2004−267977号に係る「水質浄化装置」は、閉鎖水域の水面に浮揚する水中ポンプにより水処理接触材層及び光触媒層を通して水を噴出する水質浄化装置であり、水中ポンプの吸水により、ため池内の水は水処理接触材層及び光触媒層を通って吸引されるため、水処理接触材層にて水中の汚濁物質が接触材に付着した微生物により分解され、そして光触媒層により、微生物で分解できなかった難分解性有機物が、光媒体の強力な酸化作用にて分解されるように成っている。
【0007】
特開2006−110470号に係る「水質浄化剤」は、長期間に亘る安定した消臭・吸着能力を発現し得るのであり、又、観賞魚用水槽などの水槽、水族館、料理店や魚介類販売店などの生簀、堀、観賞池などの池又は金魚鉢における淡水中或いは海水中に投入するだけで、アオコなどの微細な藍藻(ランソウ)類や緑藻類更に珪藻や苔類又は細菌更に微生物に対する対策が極めて簡単に行えるのであり、従って、水を浄化して透明度を向上させることができる。
そこで、この水質浄化剤は、多孔質担体の表面部に、特定且つ特異な手段により、光触媒の被膜を形成・担持させた構造としている。
【0008】
このように、水質を浄化する為に光触媒効果が利用されている。勿論、水質浄化には昔から活性炭が利用され、該活性炭が備えている無数の微細孔に不純物が侵入して付着することで、水に含まれる不純物が取り除かれる。
【特許文献1】特開2004−267977号に係る「水質浄化装置」
【特許文献2】特開2006−110470号に係る「水質浄化剤」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、二酸化チタン粉末は光触媒作用として非常に効果があるが、上記のごとき問題がある。本発明が解決しようとする課題は製作が簡単で、コストが安くなるように、表面に二酸化チタン被膜を形成したチタン材の切削片を提供する。本発明はこのチタン材の切削片を用いて水中や空気中の汚れ及び不純物を除去する訳であるが、その具体的な適用分野は限定しないことにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はチタン材の切削片を使用し、この表面に二酸化チタン被膜を形成するものである。該切削片は旋盤などの工作機械を用いてチタン材を切削することで作られ、これを不活性雰囲気内で加熱し、その後、冷却するならば、切削片の表面には二酸化チタン被膜が形成される。すなわち、光触媒特性を備えた切削片が得られる。ここで、上記切削片の形状、大きさなどは限定しないことにする。
【発明の効果】
【0011】
チタン材を切削して作られる切削片は、一般に異形断面の螺旋状となり、その表面は細かい凹凸形状を成している。そして、切削片の稜線は鋭利な鋸刃形状突起と成っているが、表面の細かい凹凸化により、二酸化チタン被膜の表面積は大きく、大気中及び水中に於ける紫外線や超音波を捕捉できる接触効率が向上する。従来の二酸化チタン被膜は、平滑な純チタンや他の基材表面に塗布・焼成などの方法が採られているが、剥離脱落する虞がある。
【0012】
本発明の二酸化チタン被膜は母材であるチタン材表面を酸化して作られる為に強固で安定する。そして、切削片の表面に二酸化チタン被膜を形成する方法は、手軽でコスト的には非常に安くなる。すなわち、切削片は細くて薄いために、瞬時に加熱され、又冷却も短時間で行うことが出来ることから、製作コストは安くなり、材料である切削片そのものが特別に作らなくても安価に得られる。
【実施例】
【0013】
図1はチタン材の切削片1を表している具体例である。この切削片1は旋盤にて切削された切削片1であり、螺旋状を成している。螺旋の直径D及びピッチPは切削されるチタン材の直径及びバイト(工具)の送り速度、切込み深さなどによって変化する。本発明では切削片1の直径DやピッチP、及び切削片の形状・太さ(厚さ、幅)に関しては限定しない。
【0014】
図2は図1のA部拡大図である。切削片1はほぼ一定断面を成してチタン材から削り出されるが、その表面2は細かい凹凸面3を呈し、稜線4は鋭利な鋸刃形状と成っている。従って、切削片1の実質的な表面積は見掛けの表面積に比べて非常に大きくなっている。本発明はチタン材を切削することにより発生する切削片1を用いてその表面2に二酸化チタン被膜を形成している。
【0015】
図3は切削片1の断面拡大図を表している。同図の切削片1の断面は概略平行四辺形を成しているが、切削片1の表面には薄い二酸化チタン被膜5が形成している。この二酸化チタン被膜5は二酸化チタンの粉末を接着剤にて固着して形成するものではなく、切削片1の表面を酸化することで作られる被膜であり、後で剥離したり、脱落することはない。
【0016】
ところで、本発明では、上記に二酸化チタン被膜5を形成する作業工程は特に限定しないが、1例を挙げると次の通りである。
(1)チタン材の切削
丸棒のチタン材を切削することで螺旋状に連続した切削片1が発生する。勿論、切削片1の形状は必ずしも長い螺旋状に限るものではない。そして、前記したように、切削片1の外径D、ピッチP、太さは自由である。
(2)洗浄工程
チタン材を切削する場合、一般には切削油が使用される。これは、工具であるバイトを冷却する為であり、又切削される切削片1とバイト間の摩擦を低減する為でもある。ここで、切削油にも色々あるが特に限定はせず、切削片1の表面2には使用する切削油が必然的に付着する為に、この切削油は洗い落とされる。勿論、切削油を用いないでチタン材を切削する場合には、この洗浄工程を省くこともある。
(3)不活性雰囲気内で加熱処理
洗浄された切削片1は不活性雰囲気内で加熱される。加熱温度は450℃以上とし、好ましくは600℃以上がよい。螺旋状の細くて薄い切削片1は瞬時に加熱される為に、加熱に要する熱エネルギーは少なくて済む。
(4)冷却工程
加熱された切削片1は冷却されるが、この場合も、細くて薄い螺旋状の切削片1は短時間で冷却される。冷却されることで、酸素と結び付いて酸化され、切削片1の表面2は二酸化チタン5にて被覆される。すなわち、表面2には二酸化チタン被膜5が形成される。
【0017】
図4は本発明の二酸化チタン被膜5を形成した切削片1(同図の■)と二酸化チタン被膜5を有さない切削片1(同図の◆)とのメチレンブルー透過率比較を表している。この比較テストでの条件は次の通りである。
【0018】
処理液量・・・・・・50リットル
循環流量・・・・・・31リットル/分
メチレンブルー濃度・0.5g/50リットル
UVランプ照射・・・15W
経過時間が30分までは両者に大きな違いはないが、30分を過ぎると二酸化チタン被膜5を形成した切削片1の場合は、光触媒の効果を発揮して透過率は向上する。180分を過ぎると約20%の開きが生じる。同図から明らかなように、螺旋状のチタン製切削片1は、表面2には細かい凹凸面3が形成されており、そのままでも透過率を向上させる効果は備わっている。
【0019】
図5は(財)北陸保健衛生研究所にて測定した殺菌(大腸菌群)の減少効果を示している。テスト条件は次の通りである。
【0020】
処理液量・・・・・・300リットル
循環流量・・・・・・31リットル/分
UVランプ照射・・・15W
超音波照射
最初、1ミリリットルの水中に30000個の大腸菌群が存在しているが、時間の経過と共に大腸菌群の個数は減少し、180分が経過すれば0〜2になる。すなわち、二酸化チタン被膜を形成した切削片1を配置して処理液を循環させることで、大腸菌群は死滅する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】チタン材を切削した螺旋状切削片の具体例。
【図2】図1のA部拡大図。
【図3】切削片の断面拡大図。
【図4】メチレンブルー透過率を示している。
【図5】大腸菌群個数の減少効果を示している。
【符号の説明】
【0022】
1 切削片
2 表面
3 凹凸面
4 稜線
5 二酸化チタン被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒効果にて水中及び空気中の汚れや雑菌などを除去することが出来る部材であって、チタン材を切削して出来る切削片を材料とし、これを不活性雰囲気内で加熱し、その後冷却することで表面に二酸化チタン被膜を形成したことを特徴とするチタン材の切削片。
【請求項2】
切削片の形状が螺旋状であると共に、表面は細かい凹凸面とし、この凹凸面に二酸化チタン被膜を形成した請求項1記載のチタン材の切削片。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−22849(P2009−22849A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186906(P2007−186906)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(593196609)株式会社 オノモリ (3)
【Fターム(参考)】