説明

表面修飾ナノダイヤモンド及びその製造法

【課題】 水や極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性に優れた高分散性の表面修飾ナノダイヤモンドを得る。
【解決手段】 本発明の表面修飾ナノダイヤモンドは、表面が、下記式(1)
−X−R (1)
[式中、Xは、単結合、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示し、Rはポリグリセリル基を示す]
で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている。Xは単結合であってもよい。また、Xは−NH−であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面修飾されたナノダイヤモンドとその製造法に関する。この表面修飾されたナノダイヤモンドは、CMP(Chemical Mechanical Polishing :化学機械研磨)向け研磨剤やドレッサー用材料、燃料電池向け耐腐食性電極メッキ材料、切削工具などの高硬度表面コ−ティング層形成材料、高耐熱・高熱伝導材料など、工学応用分野で利用できる。
【背景技術】
【0002】
ナノダイヤモンドは、ダイヤモンド固有の性質に加え、平均粒径が小さく、比表面積が大きいという特徴を有する。さらに、比較的安価であり、入手も容易である。
【0003】
ナノダイヤモンドは、爆発法や高温高圧法によって製造される。爆発法は、トリニトロトルエンおよびヘキソーゲンを爆発させることにより、ナノサイズのダイヤモンドを得る方法である。この方法で得られるナノダイヤモンドは、水への溶解性は高いが、アモルファスカーボンやグラファイトなどの他の炭素質の混入が多く、また表面化学修飾が難しいという問題を有する。一方、高温高圧法は、例えば、密閉された高圧容器内で、鉄やコバルト等の金属の存在下、原料グラファイト粉末を1〜10GPaの高圧および800〜2000℃の高温に保持し、ダイヤモンドに直接相転移させる方法である。この方法で得られるナノダイヤモンドは、アモルファスカーボンやグラファイトなどの他の炭素質の混入が少なく、粒径も揃っているが、水や有機溶媒への溶解性、分散性、分散安定性が低いという問題がある。そのため、ナノダイヤモンドの用途開発はさほど進んでいない。
【0004】
水や有機溶媒に対する溶解性、分散性を向上させるため、ナノダイヤモンドの表面を化学修飾する試みがなされている(特許文献1〜3参照)。しかし、水或いは極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性は必ずしも十分なものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−238411号公報
【特許文献2】特開2008−303104号公報
【特許文献3】特開2008−150250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、水や極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性に優れた高分散性の表面修飾ナノダイヤモンドと、その製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究した結果、ナノダイヤモンドの表面を、ポリグリセリン鎖を含む特定の基で修飾すると、水や極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性が著しく向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、表面が、下記式(1)
−X−R (1)
[式中、Xは、単結合、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示し、Rはポリグリセリル基を示す]
で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを提供する。
【0009】
Xとしては、単結合、又は−NH−であるのが好ましい。
【0010】
本発明は、また、ナノダイヤモンド、又は表面が、下記式(2)
−X1−H (2)
[式中、X1は、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示す]
で表される基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドに、グリシドールを開環付加重合させて、表面が、下記式(1)
−X−R (1)
[式中、Xは、単結合、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示し、Rはポリグリセリル基を示す]
で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを得ることを特徴とする表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法を提供する。
【0011】
上記製造方法において、ナノダイヤモンドにグリシドールを開環付加重合させて、表面にポリグリセリル基が結合した表面修飾ナノダイヤモンドを得てもよい。
【0012】
また、ナノダイヤモンドを水素化する工程、得られた水素化ナノダイヤモンドをアミノ化する工程、及び得られたアミノ化ナノダイヤモンドにグリシドールを開環付加重合させる工程を経ることにより、表面がポリグリセリルアミノ基により修飾された表面修飾ナノダイヤモンドを得てもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面修飾ナノダイヤモンドは、従来のナノダイヤモンドと異なって、水或いは極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性が大幅に向上しており、取り扱い性が格段に向上するだけでなく、水又は極性有機溶媒に安定して溶解又は分散させた状態で各種目的に使用したり、水又は極性有機溶媒中でナノダイヤモンドに対して各種化学的反応や各種物理的反応を行ったりすることが可能となる。このことによって、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)向け研磨剤やドレッサー用材料、燃料電池向け耐腐食性電極メッキ材料、切削工具などの高硬度表面コーティング層形成材料、高耐熱・高熱伝導材料など、工学応用分野で好適に利用し得るナノダイヤモンド材料の提供が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の表面修飾ナノダイヤモンドは、表面が、前記式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている。式(1)中、Xは、単結合、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示し、Rはポリグリセリル基を示す。以下、本発明の表面修飾ナノダイヤモンドを「ND−X−R」と表す場合がある。ここで、NDはナノダイヤモンドを示す。
【0015】
Rで示されるポリグリセリル基の数平均重合度nは、目的とする高分散性が得られる範囲である限り特に制限は無いが、数平均重合度nが小さすぎると、ナノダイヤモンド粒子間相互の反発力が不足するため粒子の凝集を防ぐ効果が損なわれ、溶媒への安定な分散状態の維持には適さなくなる。また、数平均重合度nが大きすぎると、ナノダイヤモンド粒子間でポリグリセリン高分子鎖同士が絡み合いを起こして同様に粒子の凝集を起こしやすくなるほか、ダイヤモンド材料としての特性が希釈されてしまうことになるので好ましくない。したがって、ポリグリセリル基の数平均重合度nとしては、好ましくは1〜100、より好ましくは2〜40、さらに好ましくは3〜20である。なお、ここでいう数平均重合度nとは、原料ナノダイヤモンドの表面官能基1に対し結合したポリグリセリン鎖を構成するグリシドール単位の数で定義され、該原料ナノダイヤモンドの表面官能基数は原料ナノダイヤモンドの元素分析値測定または酸価の測定、およびそれら両方を組み合わせて測定することにより求めることができる。
【0016】
前記Xとしては、特に、単結合、−NH−であるのが好ましい。
【0017】
本発明の表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法では、ナノダイヤモンド、又は表面が、前記式(2)で表される基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドに、グリシドールを開環付加重合させて、表面が、前記式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを得る。式(2)中、X1は、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示す。
【0018】
ナノダイヤモンド(ND)に修飾基を導入するにあたっては、該修飾基に対応する反応剤を直接反応させてもよいが、一旦NDを水素気流中、400〜1000℃に加熱して還元し、水素化ナノダイヤモンド(ND−H)とし(特開2007−238411号公報参照)、これに該修飾基に対応する反応剤を反応させるのが、修飾基の導入率などの点で好ましい。
【0019】
原料として用いるナノダイヤモンド(ND)や水素化ナノダイヤモンド(ND−H)の平均粒子径は、通常3〜200nmであり、より好ましくは7〜100nm、特に好ましくは10〜40nmである。原料ナノダイヤモンドの粒子径を選択することにより、目的に適した粒子径の表面修飾ナノダイヤモンドを得ることができる。グラファイトからナノダイヤモンドを製造する製造法や製造条件により、また製造後の分級操作条件により、さまざまな粒子径のものを得ることができ、既存のメーカーから各種製造法によるさまざまな粒子径のものを入手できる。
【0020】
[ND−NH−Rの製造]
表面が前記式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドのうち、Xが−NH−である表面修飾ナノダイヤモンドは、水素化ナノダイヤモンド(ND−H)にアミノ基を導入し、アミノ化ナノダイヤモンド(ND−NH2)とした後、通常の方法でグリシドールを開環重合させることにより得られる。
【0021】
水素化ナノダイヤモンド(ND−H)へのアミノ基の導入は、例えば、ND−Hをアンモニア気流中300〜800℃に加熱することで得られる。また、アンモニアと反応させる前に塩素気流中でND−Hを塩素化した後に、アンモニアと反応させることも可能である(特開2007−238411号公報参照)。
【0022】
アミノ化ナノダイヤモンド(ND−NH2)とグリシドールの反応は、例えば不活性ガス雰囲気下でグリシドール及び触媒を添加し、50〜100℃に加熱する方法が挙げられる。触媒としては、酸性触媒でも塩基性触媒でもよい。酸性触媒としては、好ましくはトリフルオロホウ素エーテラート、酢酸、りん酸等が挙げられ、塩基性触媒としては、好ましくはトリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
【0023】
グリシドールの開環重合条件に関しては、S. R SandlerらのJ. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., Vol. 4, 1253(1966)や、E. J. VanderbergのJ. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., vol. 23, 915(1985)、またG. R. NewcomeらのDendritic Macromolecules: Concepts, Syntheses, Perspectives, VCH, Weinheim(1996)等を適宜参照できる。
【0024】
[ND−O−Rの製造]
表面が前記式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドのうち、Xが−O−である表面修飾ナノダイヤモンド(ND−O−R)は、水素化ナノダイヤモンド(ND−H)に水酸基を導入し、水酸化ナノダイヤモンド(ND−OH)とした後、前記と同様の方法でグリシドールを開環重合させることによって得られる。
【0025】
ND−Hへの水酸基の導入は、例えば、ND−Hを酢酸中、過酸化ベンゾイルを加えた後加熱することでエステル化し、これを通常の方法により酸又はアルカリで加水分解することにより得られる。
【0026】
[ND−COO−Rの製造]
表面が前記式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドのうち、Xが−COO−である表面修飾ナノダイヤモンド(ND−COO−R)は以下の方法により得ることができる。すなわち、グラファイトを原料として爆発法あるいは製造されたナノダイヤモンド表面には本来、製造の際の副反応によりカルボン酸基が存在していることが知られており、これを利用して前記と同様の方法で直接グリシドールを開環重合させることにより得ることが可能である。また、ナノダイヤモンド表面に存在する不飽和基を酸化することにより新たにカルボン酸基を形成せしめ、これにグリシドールを開環重合させることにより得ることもできる。例えば、ナノダイヤモンドを塩化メチレン等の適切な分散媒に分散させた上でオゾン発生装置により発生させたオゾンを導入して酸化開裂させてアルデヒド基を生成せしめ、該アルデヒド基をさらに空気酸化することによりカルボン酸基とし、これに前記と同様の方法でグリシドールを開環重合させることにより得ることができる。
【0027】
[ND−S−Rの製造]
表面が前記式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドのうち、Xが−S−である表面修飾ナノダイヤモンド(ND−S−R)は以下の方法により得ることができる。すなわち、水素化ナノダイヤモンド(ND−H)表面に紫外線(254nm)を照射してラジカルを発生させ、該ラジカルを適切なアルキルメルカプタンやジアルキルジスルフィドにより捕捉することによりナノダイヤモンド表面にアルキルチオ基を導入し、適切な脱保護試薬でアルキル基を除去することによりND−SHとし、これに前記と同様の方法でグリシドールを開環重合させることにより得られる。例えばイソプロパノールに分散させたナノダイヤモンドに254nmの紫外線を照射しつつビス(4−メトキシベンジル)ジスルフィドを反応させて4−メトキシベンジルチオ基を導入した後、トリメチルシリルブロミド−TFA混合液でメトキシベンジル基を除去することにより、チオール基とし、これに前記と同様の方法でグリシドールを開環重合させることにより得られる。
【0028】
[ND−PH(=O)O−Rの製造]
表面が前記式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドのうち、Xが−PH(=O)O−である表面修飾ナノダイヤモンド(ND−PH(=O)O−R)は以下の方法により得ることができる。すなわち、水素化ナノダイヤモンド(ND−H)表面に紫外線(254nm)を照射してラジカルを発生させ、該ラジカルを適切なリン化合物により捕捉することによりナノダイヤモンド表面にホスフィン酸基を導入し、これに前記と同様の方法でグリシドールを開環重合させることにより得られる。例えばイソプロパノールに分散させたナノダイヤモンドに254nmの紫外線を照射しつつ次亜リン酸を反応させてホスフィン酸基を導入した後、これに前記と同様の方法でグリシドールを開環重合させることにより得られる。
【0029】
[ND−Rの製造]
表面が前記式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドのうち、Xが単結合である表面修飾ナノダイヤモンド(ND−R)は、直接NDとグリシドールを、上記と同様の方法で反応させることにより得られる。NDは本来的に製造過程で生じるカルボキシル基、水酸基を有しており、これとグリシドールを反応させることにより、ND−Rを得ることができる。
【0030】
生成した、表面が式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドは、反応終了後、濃縮、沈殿、遠心分離、濾過、抽出、洗浄、乾燥等の分離精製手段、またはこれらの分離精製手段を2以上組み合わせることにより精製できる。
【0031】
表面が式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドにおいて、化学修飾基の導入量は、目的とする高分散性が得られる範囲である限り特に制限は無いが、ナノダイヤモンド構造部分100重量部に対して、ポリグリセリン鎖を含む化学修飾部分が、好ましくは4〜750重量部、より好ましくは9〜380重量部、さらに好ましくは13〜150重量部である。導入量が少なすぎるとナノダイヤモンド表面のポリグリセリン鎖を含む化学修飾基による被覆量が不足するため粒子の凝集を防ぐ効果が損なわれ、溶媒への安定な分散状態の維持には適さなくなる。また、あまり導入量が多いとダイヤモンド材料としての特性が希釈されてしまうことになるので好ましくない。表面に導入されたポリグリセリン鎖を含む化学修飾部分とナノダイヤモンド構造部分の比は示差熱天秤分析装置(TG−DTA)を用いて表面修飾ナノダイヤモンドの熱処理時の重量変化、又は元素分析によるCHNO組成比により求めることができる。
【0032】
こうして得られる、表面が式(1)で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドは、水や極性有機溶媒に対する溶解性又は分散性、分散安定性に優れており、CMP向け研磨剤やドレッサー用材料、燃料電池向け耐腐食性電極メッキ材料、切削工具などの高硬度表面コーティング層形成材料、高耐熱・高熱伝導材料など、工学応用分野で使用できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0034】
実施例1
<乾燥NDの調製>
Small, vol.4(No.12), p2154(2008)記載の方法により製造された平均粒子径30nmのナノダイヤモンドND30は、トーメイダイヤ(株)より入手した。このND30(60mg)を30mLのナス型フラスコに入れ、50℃で30分間高減圧下(0.09mmHg)で乾燥し、44.6mgの黒色粉末を得た。このものの表面に存在する酸性官能基量として酸価を測定したところ、60.5KOHmg/gであった。
<表面官能基へのPGL(ポリグリセリン)修飾基の導入>
ガラス製反応器に上記乾燥ND30(5.00mg)を入れ、アルゴン雰囲気下にピリジン2.5μL、引き続いてグリシドール200μLを添加した後、70℃で3時間撹拌した。反応液をメタノール:クロロホルム(1:3)混合液にあけ、遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)して上澄みを除き、沈殿物へのメタノール:クロロホルム(1:1)混合液の添加、撹拌分散と遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)を2回繰り返して上澄み液を除き、沈殿物にメタノールを加えて撹拌分散し、4度目の遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)を行って黒色沈殿を得、再度メタノールに分散してポアサイズ100μmのメンブランフィルターでろ過して乾燥し、5.77mgの固形物を得た。この物質の拡散反射IRスペクトルを測定したところ、2926cm-1付近のナノダイヤモンド骨格由来のピークおよび3396cm-1付近にポリグリセリル基の水酸基由来、また1085cm-1付近にポリグリセリル基のエーテル結合由来の各ピーク成分が観測された。元素分析の結果は、C:79.39%、H:2.43%、N:0.3%、O:17.74%であり、これより、元のND30に対し29.5重量%のポリグリセリン鎖が導入されたことが判明し、酸性官能基あたりのポリグリセリン鎖の平均重合度を求めると、3.7量体であった。
【0035】
実施例2
実施例1で得られた生成物を0.25mg/mLの濃度で純水に超音波照射下に分散させ、ポアサイズ100nmのメンブランフィルターを用いて濾過して無色透明なろ液を得た。メンブランフィルター上にろ別された未分散黒色固形物を1mLの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、重量を測定することにより、無色透明ろ液中には0.17mg/mLが分散されていることが判明した。この均一な分散液を室温で1ヶ月間放置したが沈殿は生じず分散状態は安定であった。
【0036】
実施例3
実施例1の生成物を0.5mg/mLの濃度で水、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドにそれぞれ超音波照射下に分散させ、ポアサイズ100nmのメンブランフィルターを用いて濾過して無色透明なろ液を得た。メンブランフィルター上にろ別された未分散黒色固形物を1mLの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、重量を測定することにより、無色透明ろ液中には水分散では0.26mg/mL、ジメチルホルムアミドでは0.22mg/mL、ジメチルスルホキシドでは0.27mg/mLが分散されていることが判明した。この均一分散液を室温で1ヶ月間放置したが沈殿は生じず分散状態は安定であることが確認された。
【0037】
実施例4
実施例1の生成物を0.25mg/mLの濃度でリン酸緩衝液に超音波照射下に分散させ、ポアサイズ100nmのメンブランフィルターを用いて濾過して無色透明なろ液を得た。メンブランフィルター上にろ別された未分散黒色固形物を1mLの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、重量を測定することにより、リン酸緩衝液中には0.16mg/mLが分散されていることが判明した。この均一分散溶液を室温で1ヶ月間放置したが沈殿は生じず分散状態は安定であった。
【0038】
実施例5
<乾燥NDの調製>
平均粒子径4nmのナノダイヤモンドND4(製品名「ナノアマンド(登録商標)B」(株)ナノ炭素研究所製)を実施例1と同様の条件で乾燥して黒色粉末を得た。
<表面官能基へのPGL修飾基の導入>
ガラス製反応器に上記乾燥ND4(5.00mg)を入れ、アルゴン雰囲気下にピリジン2.5μL、引き続いてグリシドール1.2mLをそれぞれ添加した後、70℃で3時間撹拌した。反応液をメタノール:クロロホルム(1:5)混合液にあけ、遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)して上澄みを除き、沈殿物へのメタノール:クロロホルム(1:3)混合液の添加、撹拌分散と遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)を行い上澄み液を除き、沈殿物へのメタノール:クロロホルム(1:1)混合液の添加、撹拌分散と遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)を2回繰り返して上澄み液を除き、沈殿物にメタノールを加えて撹拌分散し、5度目の遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)を行って黒色沈殿を得、再度メタノールに分散してポアサイズ100μmのメンブランフィルターでろ過し、5.14mgの黒褐色固形物を得た。この物質の拡散反射IRスペクトルを測定したところ、2920cm-1付近のナノダイヤモンド骨格由来のピークおよび3380cm-1付近にポリグリセリル基の水酸基由来、また1130cm-1付近にポリグリセリル基のエーテル結合由来の各ピーク成分が観測された。元素分析の結果は、C:87.02%、H:1.97%、N:2.24%、O:8.82%であり、これより、元のND30に対し9.7重量%のポリグリセリン鎖が導入されたことが判明し、また原料ND4の酸価が31.9KOHmg/gであったことから酸性官能基あたりのポリグリセリン鎖の平均重合度を求めると、2.3量体であった。
【0039】
実施例6
実施例5で得られた生成物を0.25mg/mLの濃度で純水に超音波照射下に分散させ、ポアサイズ100nmのメンブランフィルターを用いて濾過して無色透明なろ液を得た。メンブランフィルター上にろ別された未分散黒色固形物を1mLの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、重量を測定することにより、無色透明ろ液中には0.19mg/mLが分散されていることが判明した。この均一な分散液を室温で1ヶ月間放置したが沈殿は生じず分散状態は安定であった。
【0040】
実施例7
<アミノ基で表面修飾されたナノダイヤモンドの製造>
水素化ナノダイヤモンド(ND−H;平均粒子径:30nm)(ND−30H)(トーメイダイヤ(株)製)50mgを電気管状炉内に静置、該管状炉内を300℃とした上で塩素ガスを流速40mL毎分で3時間流通させた。引き続いて450℃に昇温してアンモニアガスを流速40mL毎分で流通させた。該管状炉内の温度を450℃に保ち、3時間反応させ、アミノ基で表面修飾されたナノダイヤモンド(ND30−NH2)50mgを得た。元素分析の結果、C:96.79%、H:0.79%、Nは0.80%であることが判明した。
<表面アミノ基修飾ナノダイヤモンド(ND30−NH2)へのポリグリセリル基修飾反応>
原料である表面アミノ基修飾ナノダイヤモンド(ND30−NH2)は予め実施例1と同様に、50℃で30分間高減圧下(0.09mmHg)で乾燥してから反応に用いた。
ガラス製反応器に上記乾燥ND30−NH2(5.00mg)を入れ、超音波洗浄器(45kHz)により室温で5分間超音波処理して均一な分散液とした後、アルゴン雰囲気下にピリジン2.5μL、引き続いてグリシドール1.2mLをそれぞれ添加した後、70℃で3時間攪拌した。反応液をメタノール:クロロホルム(1:3)混合液にあけ、遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)して上澄みを除き、沈殿物へのメタノール:クロロホルム(1:1)混合液の添加、撹拌分散と遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)を2回繰り返して上澄み液を除き、沈殿物にメタノールを加えて撹拌分散し、4度目の遠心分離(15000rpm、10分間、20℃)を行って黒色沈殿を得、再度メタノールに分散してポアサイズ100μmのメンブランフィルターでろ過し、2.86mgの黒色固形物を得た。
この物質の拡散反射IRスペクトルを測定したところ、2868cm-1付近のナノダイヤモンド骨格由来のピークおよび3365cm-1付近にポリグリセリル基の水酸基由来、また1095cm-1付近にポリグリセリル基のエーテル結合由来の各ピーク成分が観測された。元素分析の結果は、C:88.7%、H:2.3%、N:0.7%、O:8.51%であり、これより、元のND30−NH2に対し24重量%のポリグリセリン鎖が導入されたことが判明し、またアミノ基あたりのポリグリセリン鎖の平均重合度を求めると、5.6量体であった。
【0041】
実施例8
実施例7で得られた生成物を0.25mg/mLの濃度で純水に超音波照射下に分散させ、ポアサイズ100nmのメンブランフィルターを用いて濾過して無色透明なろ液を得た。メンブランフィルター上にろ別された未分散黒色固形物を1mLの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、重量を測定することにより、無色透明ろ液中には0.20mg/mLが分散されていることが判明した。この均一な分散液を室温で1ヶ月間放置したが沈殿は生じず分散状態は安定であった。
【0042】
評価試験
ND30−H、ND30−NH2、実施例7で得られたポリグリセリル基導入ND30−NH2各10.0mgをそれぞれバイアル瓶にとり、各1mLの純水を加え、2分間、超音波照射を行った後、1週間放置した。その後、ポアサイズ100nmのメンブランフィルターを用いて濾過した。メンブランフィルター上にろ別された未分散固形物を1mLの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、重量を測定することにより、純水中に安定的に分散された量を求めたところ、以下の表1の結果が得られ、ポリグリセリル基の導入されたナノダイヤモンドの分散性が顕著に向上することが明らかとなった。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が、下記式(1)
−X−R (1)
[式中、Xは、単結合、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示し、Rはポリグリセリル基を示す]
で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項2】
Xが単結合である請求項1記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項3】
Xが−NH−である請求項1記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項4】
ナノダイヤモンド、又は表面が、下記式(2)
−X1−H (2)
[式中、X1は、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示す]
で表される基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドに、グリシドールを開環付加重合させて、表面が、下記式(1)
−X−R (1)
[式中、Xは、単結合、−NH−、−O−、−COO−、−PH(=O)O−又は−S−を示し、Rはポリグリセリル基を示す]
で表されるポリグリセリン鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを得ることを特徴とする表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項5】
ナノダイヤモンドにグリシドールを開環付加重合させて、表面にポリグリセリル基が結合した表面修飾ナノダイヤモンドを得る請求項4記載の表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
【請求項6】
ナノダイヤモンドを水素化する工程、得られた水素化ナノダイヤモンドをアミノ化する工程、及び得られたアミノ化ナノダイヤモンドにグリシドールを開環付加重合させる工程を経ることにより、表面がポリグリセリルアミノ基により修飾された表面修飾ナノダイヤモンドを得る請求項4記載の表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。

【公開番号】特開2010−248023(P2010−248023A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97495(P2009−97495)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】