説明

表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。

【課題】 金属酸化物超微粒子を高い効率で簡便に表面修飾し、金属酸化物微粒子の有する特徴を損なうことなく凝集を防止し、溶媒や樹脂中に均一分散させることができる表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一般式(1)
SiX(4−a) (1)
(式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基;Xは加水分解性基;aは1、2、または3である)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)一般式(2)
SiX (2)
(Xは加水分解性基である)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(B)を、金属酸化物微粒子と混合する、高度に表面修飾された金属酸化物微粒子の製造方法である。得られた表面修飾金属酸化物は、溶媒に透明かつ均一に分散し、得られた透明分散液は長期安定性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法および該製造方法により得られる表面修飾金属酸化物微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物微粒子は紫外線吸収剤、触媒、蛍光体、発光材料、色素増感太陽電池などに幅広く適用されている。特に粒子径が100nm以下の金属酸化物微粒子は、量子効果や大きな表面積による機能発現が期待でき、溶媒や樹脂中に分散させたり坦持させたりして使用されている。しかし一般にこれら小粒子径の金属酸化物微粒子は互いに凝集しやすく、溶媒や樹脂中に均一分散させることが困難である。
【0003】
金属酸化物微粒子が凝集すると、再度分散させることが非常に困難であり、また100nm以下のサイズに由来する機能が失われてしまう。特に量子効果は20nm以下の粒子において顕著であるが、凝集により紫外線吸収、蛍光・発光特性が失われる。また凝集により見かけの粒子径が大きくなることにより、溶媒や樹脂中で可視光線を散乱してしまうために透明性が失われる。
【0004】
また、金属酸化物微粒子を紫外線吸収剤として樹脂中に分散させて使用する場合、特に二酸化チタンや酸化亜鉛のように光触媒活性を有する金属酸化物については、光照射により基材樹脂を分解してしまうという問題があった。
金属酸化物微粒子の凝集を防止したり、光触媒活性をコントロールする方法として、種々の化合物で表面修飾する技術が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には表面が水酸化された半導体微粒子が、特許文献2には表面に電子供与性基が配列した半導体微粒子が、特許文献3には酸化亜鉛微粒子表面を0.2〜10重量%のカップリング剤で被覆処理する技術が、特許文献4には、平均粒子径10〜100nmの金属酸化物微粒子を非イオン性界面活性剤で分散安定化した後、アルコキシシランを用いてポリシロキサンを表面に形成させて改質する技術が、特許文献5には表面をシリカにより被覆された酸化亜鉛微粒子と疎水性付与剤で表面処理された酸化亜鉛微粒子についてそれぞれ記載されている。
【0006】
しかし、これらに記載された金属酸化物微粒子は、微粒子の安定性(凝集防止)に問題があり、微粒子分散液の保存中の吸収スペクトルの変化、溶媒あるいは樹脂中へ均一分散性の問題およびそれに起因する透明性の低下、光触媒活性による樹脂の分解等の問題があった。
【特許文献1】特開2004−51863号公報
【特許文献2】特開2004−243507号公報
【特許文献3】特開平8−59890公報
【特許文献4】特開2000−264632公報
【特許文献5】特開2004−59421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、酸化亜鉛超微粒子を高い効率で簡便に表面修飾し、酸化亜鉛微粒子の有する特徴を損なうことなく凝集を防止し、粒度分布が狭く(均一である)、溶媒や樹脂中に均一分散させることができる表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法および表面修飾金属酸化物微粒子を提供することである。さらに、金属の表面修飾により、光触媒活性を調節した金属酸化物微粒子を安価かつ簡便に製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の方法により目的とする表面修飾金属酸化物微粒子を得ることができる。
【0009】
1). 一般式(1)
SiX(4−a) (1)
であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)および一般式(2)
SiX (2)
(それぞれの式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基;Xは加水分解性基;aは1、2、または3であり、式(1)と式(2)のXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(B)を、金属酸化物微粒子と混合することを特徴とする、表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0010】
2). 加水分解性基含有シラン化合物(A)、加水分解性基含有シラン化合物(B)及び金属酸化物微粒子の混合が溶媒中であることを特徴とする1)記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0011】
3). 加水分解性基含有シラン化合物(A)および加水分解性基含有シラン化合物(B)を溶媒中、40〜400℃の温度および/または0.1〜60MPaの圧力条件で金属酸化物微粒子と混合することを特徴とする、1)または2)記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0012】
4). 炭素数1〜18の有機基Rがメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシルメチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、ビニル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−イソシアネートプロピル基、3−アクリロキシプロピル基、3−アミノプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、アリル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基からなる群より選ばれる1種以上の有機基である、1)〜3)いずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0013】
5). 加水分解性基Xがアルコキシ基である、1)〜4)いずれかに記載の表面修飾金属酸化微粒子の製造方法。
【0014】
6). 金属酸化物1モルに対して、加水分解性基含有シラン化合物(A)と(B)とを併せて0.1〜5モル使用する、1)〜5)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0015】
7). 加水分解性基含有シラン化合物(A)と(B)とのモル比が、(A):(B)=1:0.05〜1:20の範囲である、1)〜6)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0016】
8). 混合する時の温度が50〜300℃であることを特徴とする、1)〜7)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0017】
9). 混合する時の圧力が0.2〜50MPaであることを特徴とする、1)〜8)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0018】
10). 金属酸化物微粒子の数平均粒子径が0.5〜20nmである、1)〜9)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0019】
11). 溶媒がアルコールである、2)〜10)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0020】
12). 金属酸化物微粒子が酸化亜鉛微粒子である、1)〜11)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0021】
13). アルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸金属塩化合物を混合して得られる金属酸化物微粒子を用いることを特徴とする、1)〜12)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0022】
14). アルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸金属塩化合物を混合して得られる金属酸化物微粒子を単離することなくシラン化合物(A)および(B)と混合することを特徴とする、13)記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【0023】
15). 一般式(1)
SiX(4−a) (1)
であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)および一般式(2)
SiX (2)
(それぞれの式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基;Xは加水分解性基;aは1、2、または3であり、式(1)と式(2)のXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(B)を溶媒中、金属酸化物微粒子と混合することを特徴とする、1)〜14)のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法により得られた表面修飾金属酸化物微粒子。
【発明の効果】
【0024】
本発明の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法は、金属酸化物微粒子と一般式(1)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)および一般式(2)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(B)を併用して処理を行うことを特徴とするものであり、好ましくは溶媒中、さらには温度および/または圧力を制御した条件で反応させるものである。この方法により、金属酸化物微粒子の表面修飾を高効率で実施することができ、従来法と比較して表面修飾金属酸化物微粒子を短時間、高収率、簡便かつ安価に製造することができる。
【0025】
このため得られる表面修飾金属酸化物微粒子は長期安定性に優れ、粒度分布が狭く、溶媒や樹脂中へ容易に均一分散させることが可能となり、透明性の高い材料を得ることができ、量子効果に由来する紫外線吸収、フォトルミネッセンス、エレクトロルミネッセンス、光発電などが高いレベルで発現可能である。また高効率で表面修飾されることにより、金属酸化物微粒子の有する光触媒活性をコントロールすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法は、金属酸化物微粒子と一般式(1)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)および一般式(2)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(B)を併用して処理を行うことを特徴とするものであり、好ましくは、溶媒中、温度および/または圧力を制御した条件で反応させるものである。以下に本発明の製造方法を詳細に説明する。
【0027】
本発明において金属酸化物微粒子としては特に限定されないが、実用性に優れる点で酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ロジウム、酸化ニッケル、酸化パラジウム、酸化銅、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ユーロピウム、酸化ディスプロシウム、酸化インジウムスズ、チタン酸バリウム、コバルト酸リチウムが好ましい。
【0028】
紫外線吸収、高屈折率、導電性、高誘電率、光触媒活性などの特性を有する点で酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化インジウムスズ、チタン酸バリウム、コバルト酸リチウムがより好ましく、入手性の点で酸化亜鉛がもっとも好ましい。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。また他の元素を若干量含む、いわゆるドーピングされたものであってもよい。
【0029】
本発明において使用する金属酸化物微粒子の粒子径としては限定されないが、サイズに由来する量子効果が顕著である点および樹脂中に分散させた際の透明性に優れる点で、数平均粒子径で0.5〜20nmの範囲が好ましく、1〜10nmの範囲がより好ましい。
【0030】
表面修飾剤として一般式(1)
SiX(4−a) (1)
であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)および一般式(2)
SiX (2)
(それぞれの式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基;Xは加水分解性基;aは1、2、または3であり、式(1)と式(2)のXは同一でも異なっていてもよい。)
であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(B)である。
【0031】
一般式(1)において、炭素数1〜18の1価の有機基Rとしては限定されないが、炭素数1〜10の1価の有機基が好ましく、具体的には入手性および価格の点でメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシルメチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、ビニル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−イソシアネートプロピル基、3−アクリロキシプロピル基、3−アミノプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、アリル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基が好ましく、特にメチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシルメチル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、ビニル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−アクリロキシプロピル基、アリル基がより好ましい。
【0032】
これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。またaが2以上の場合、1分子中の複数のRは同一でも異なっていてもよい。
【0033】
一般式(1)、(2)において加水分解性基Xとしては特に限定されず、アルコキシ基、オキシム基、オキシカルボニル基、ハロゲン原子、水素原子などを挙げることができるが、金属酸化物微粒子表面を修飾する際の反応がマイルドである点でアルコキシ基、オキシム基、オキシカルボニル基が好ましく、入手性および価格の点でアルコキシ基がより好ましく、炭素数3以下のアルコキシ基がさらに好ましい。さらには一般式(1)と一般式(2)のXは異なるのが好ましく、それぞれ炭素数3以下のアルコキシ基で互いに異なるのが好ましい。中でも一般式(1)のXの加水分解性が一般式(2)の加水分解性より高いものが好ましい。
【0034】
具体的には一般式(1)Xのアルコキシ基の炭素数が一般式(2)のXのアルコキシ基の炭素数より小さいものを用いるのが好ましい。
また一般式(1)においてaは1、2、または3をあらわすが、入手性および価格の点でaは1または2であることが好ましい。
【0035】
本発明で使用する一般式(1)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0036】
本発明で使用する一般式(2)で表される加水分解性基含有シラン化合物(B)の具体例としては、特に限定はされないがテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランを挙げることができる。
【0037】
本発明において使用する加水分解性シラン化合物は、金属酸化物1モルに対して、加水分解性基含有シラン化合物(A)と(B)とを併せて0.1〜5モル使用することが好ましく、経済的な観点から0.5〜3モル使用するのが好ましく、特に1〜3モル使用することが特に好ましい。
【0038】
本発明において特に限定はされないが、生成物の物性を調整するうえで、加水分解性基含有シラン化合物(A)と(B)とのモル比(A):(B)=1:0.05〜1:20であることが好ましく、さらには1:0.05〜1:1、特には1:0.08〜1:0.5であることが好ましい。
【0039】
本発明において金属酸化物微粒子と表面修飾剤を反応させる際の条件は特に限定されないが、溶媒中が好ましく、反応温度は40〜400℃、さらには50〜300℃、特には100〜200℃が好ましい。反応圧力は効率と経済性の兼ね合いから0.1〜60MPa、さらには0.2〜50MPa、特には0.3〜2MPaが好ましい。
【0040】
反応温度と反応圧力を上記範囲を組み合わせて、40〜400℃かつ0.1〜60MPaであることが好ましい。反応温度はさらに反応温度は効率と経済性の兼ね合いから50〜300℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。反応圧力は効率と経済性の兼ね合いからさらに0.2〜50MPaが好ましく、0.3〜2MPaがより好ましい。これら条件においても溶媒中であることが好ましい。
【0041】
本発明において溶媒を用いる場合、その溶媒には特に限定はないが、反応が効率よく進行する点で金属酸化物微粒子と表面修飾剤の両方を分散あるいは溶解させることができる溶媒が好ましく、入手性および安全性の点でアルコールがより好ましい。またアルコールは脂肪族アルコールがさらに好ましく、経済性および入手性から炭素数3以下のアルコールが特に好ましく、具体的にはメタノールであることが好ましい。
【0042】
金属酸化物微粒子の調製方法としては限定されず、気相法、液相法など一般的に知られている方法を採用することができる。なかでも粒子径や粒子径分布のコントロールが容易である点で液相法が好ましく、経済性の点でアルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸金属塩化合物とを反応させる方法がより好ましい。
【0043】
このとき使用するアルコールとしては限定されないが、容易に再利用できる点で沸点100℃以下のアルコールが好ましく、炭素数3以下の脂肪族アルコールがより好ましい。ここで使用する溶媒としては、金属酸化物微粒子と表面修飾剤とを反応させる際の溶媒と同一であるものが、アルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸金属塩とを反応させて金属酸化物微粒子を製造し、単離することなく表面修飾剤と反応させて工程を簡略化できることが可能となる点で好ましい。
【0044】
上記アルカリ金属水酸化物としては限定されないが、入手性と反応性の点でNaOHあるいはKOHが好ましい。上記カルボン酸金属塩としては限定されず酢酸金属塩、プロピオン酸金属塩、ラウリル酸金属塩、オレイン酸金属塩、アジピン酸金属塩、ヒドロキシ酢酸金属塩などを挙げることができる。これらは水和物であってもよく、無水物であってもよい。入手性および経済性の点で酢酸金属塩および酢酸金属塩二水和物が好ましい。
【0045】
アルカリ金属水酸化物とカルボン酸金属塩とを反応させる際、反応が効率よく進行する点でまずアルカリ金属水酸化物のアルコール溶液を調製しておき、そこにカルボン酸金属塩を添加する方法が好ましい。カルボン酸金属塩は単体で加えてもよく、アルコール溶液として加えてもよいが、反応がスムーズに進行する点でアルコール溶液として加えることが好ましい。カルボン酸金属塩の濃度については特に限定されないが、添加後の濃度で0.01〜0.5mol/Lであることが好ましく、特に0.1〜0.3mol/Lであることがより好ましい。
【0046】
濃度が低すぎると得られる金属酸化物微粒子の量が少ないため経済的でなく、濃度が高すぎると金属酸化物微粒子同士の凝集が起こりやすくなる。アルカリ金属水酸化物の使用量としては特に限定されないが、金属酸化物微粒子の収率および純度の点で、カルボン酸金属塩に1モルに対して1.0〜4.0モルとなる範囲が好ましく、1.5〜2.5モルとなる範囲がより好ましい。
【0047】
反応温度は特に限定されないが、経済性と金属酸化物微粒子の品質の点で0〜80℃が好ましく、20〜60℃の範囲がより好ましい。反応時間については特に限定されないが、以下に示すように反応液の見かけ上の変化から決定することができる。アルカリ金属水酸化物のアルコール溶液にカルボン酸金属塩を添加すると、最初は白色の濁りが生じるがしばらくすると無色透明となる。そのまま攪拌を続けると再び濁りが生じる。
【0048】
この無色透明段階の後に表れる濁りは金属酸化物微粒子同士の凝集に起因するものであるため、反応液が無色透明の状態で次の反応に移るのが好ましい。濃度や反応温度に左右されるため一概に言うことは困難であるが、一般的に3分〜5時間の範囲が好ましく、5分から3時間の範囲がより好ましい。
水酸化カリウムと酢酸亜鉛二水和物を反応させる際、反応が効率よく進行するよう二つの試薬をメタノール溶液として調整しておくことが好ましい。
【0049】
水酸化カリウムのアルコール溶液に酢酸亜鉛二水和物のアルコール溶液を添加すると、最初は白色の濁りが生じるがしばらくすると無色透明となる。そのまま攪拌を続けると再び濁りが生じる。この無色透明段階の後に表れる濁りは金属酸化物微粒子同士の凝集に起因するものであるため、反応液が無色透明の状態で次の反応に移るのが好ましい。
【0050】
本発明において金属酸化物微粒子と表面修飾剤とを反応させて得られる表面修飾金属酸化物微粒子は、溶媒中そのまま分散液として使用してもよく、溶媒を除去して単離して使用してもよい。溶媒を除去する方法としては限定されず、ろ過、遠心分離、蒸留など一般的に知られている方法を適用できる。さらに単離された表面修飾金属酸化物微粒子は水やアルコールなどの溶媒で洗浄してもよく、その後乾燥させてもよい。
【0051】
いったん乾燥させた場合でも、本発明の製造方法により得られる金属酸化物微粒子は効率よくかつ強固に表面修飾されているために凝集することがなく、溶媒や樹脂中へ均一分散させることが可能である。
【0052】
本発明の製造方法で得られる表面修飾金属酸化物微粒子は熱安定化剤、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤、抗菌剤、フォトルミネッセンス材料、エレクトロルミネッセンス材料などとして使用することができる。特に合成樹脂に均一分散させた場合、従来品と比較して透明性が高く、自動車用材料、建築材料、光学材料、ディスプレイ、フィルム、シートなど応用範囲が広い。
【0053】
これらの用途に合う金属酸化物として、特に限定はされないが、透明性、バンドギャップ、光触媒活性等の特性から亜鉛酸化物が好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例を記載する。
【0055】
表面修飾金属酸化物微粒子中の金属酸化物の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置;(株)島津製作所製)により求めた。
【0056】
透過型電子顕微鏡(TEM)観察はJEM−1200EX((株)日本電子製)を用いて実施した。
【0057】
(製造例1)
3Lの4つ口フラスコにKOH44.9gとメタノール1.6Lとを入れて攪拌し、完全に溶解させた。別の容器に酢酸亜鉛二水和物87.8gをとり、メタノール0.4Lを加えて溶解させた。この酢酸亜鉛のメタノール溶液をKOHのメタノール溶液に加え、35℃で10分間攪拌することにより透明な酸化亜鉛微粒子のメタノール分散液を得た。この分散液中の酸化亜鉛微粒子の濃度は0.2mol/Lである。またTEM観察により酸化亜鉛微粒子の数平均粒子径が3nmであることを確認した。
【0058】
(実施例1)
製造例1で合成した酸化亜鉛微粒子のメタノール分散液200mL(酸化亜鉛0.04モル含有)をオートクレーブ(容量300mL;(株)耐圧硝子工業製)に入れ、デシルトリメトキシシラン22.1g(LS−5258;(株)信越化学工業製;酸化亜鉛1モルに対して2.1モルに相当)テトラエトキシシラン2.75g((株)多摩化学製;酸化亜鉛1モルに対して0.33モルに相当)を加え、120℃で2時間加熱した。
【0059】
このときの反応圧は0.5MPaであった。反応液が2層に分離していたため上澄み液を取り除き、沈殿物にヘキサン50mLを加えた。少量の不溶物をろ過により除去した後、ヘキサン溶液から溶媒を留去し、80℃で10時間減圧乾燥させることにより、テトラエトキシシラン、デシルトリメトキシシランで表面修飾された酸化亜鉛微粒子9.63gを高粘度の無色透明液体として得た。ICP測定の結果酸化亜鉛の含有量は20.0wt%であった。
【0060】
また、上澄み液を遠心分離後、メタノール層を除去、粘性のある液体を得た。この溶液を水で洗浄した後、溶媒をエバポレーターで除去した。得られた溶液を80℃で10時間減圧乾燥させることにより、テトラエトキシシラン、デシルトリメトキシシランで表面修飾された酸化亜鉛微粒子7.91gを低粘度の無色透明液体として得た。ICP測定の結果酸化亜鉛の含有量は3.1wt%であった。
【0061】
この2種類の表面修飾酸化亜鉛微粒子は、いずれもイソプロパノール/ヘキサン=1/5の溶液に分散し(150mg/mL)、室温で3ヶ月以上放置しても無色透明液体として安定に存在することを目視により確認した。
【0062】
(比較例1)
製造例1で合成した酸化亜鉛微粒子のメタノール分散液200mL(酸化亜鉛0.04モル含有)をオートクレーブ(容量300mL;(株)耐圧硝子工業製)に入れ、テトラエトキシシラン(2.75g;酸化亜鉛1モルに対して0.33モルに相当;(株)多摩化学製)を加え、120℃で2時間加熱した。このときの反応圧は0.5MPaであった。
【0063】
反応液から上澄み液を取り除き白色固体成分をメタノールで洗浄した。得られた白色固体を80℃で10時間減圧乾燥させることにより、テトラエトキシシランで表面修飾された酸化亜鉛微粒子4.12gを白色固体として得た。ICP測定の結果から、酸化亜鉛の含有量は51.8wt%であった。この表面修飾酸化亜鉛微粒子をヘキサンに溶解させたところ、全く分散せず、目視において凝集塊が確認された。
【0064】
本願発明に係る実施例1で合成した表面修飾金属微粒子は、凝集塊は確認できず、透明かつ均一に分散していることを目視により確認した。以上の結果から、加水分解性シラン化合物(A)と加水分解性シラン化合物(B)を併用する本願発明の製造法で得られた金属酸化物微粒子は、溶媒に対する親和性、分散性及びその安定性が良好であることがわかる。また、比較例では生じていた凝集体が確認できなかったことから本願発明により得られる金属酸化物微粒子は粒度分布が狭い(均一である)ことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
SiX(4−a) (1)
であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)および一般式(2)
SiX (2)
(それぞれの式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基;Xは加水分解性基;aは1、2、または3であり、式(1)と式(2)のXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(B)を、金属酸化物微粒子と混合することを特徴とする、表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項2】
加水分解性基含有シラン化合物(A)、加水分解性基含有シラン化合物(B)及び金属酸化物微粒子の混合が溶媒中であることを特徴とする請求項1記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
加水分解性基含有シラン化合物(A)および加水分解性基含有シラン化合物(B)を溶媒中、40〜400℃の温度および/または0.1〜60MPaの圧力条件で金属酸化物微粒子と混合することを特徴とする、請求項1または2記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項4】
炭素数1〜18の有機基Rがメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシルメチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、ビニル基、3−メタクリロキシプロピル基、3−イソシアネートプロピル基、3−アクリロキシプロピル基、3−アミノプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、アリル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基からなる群より選ばれる1種以上の有機基である、請求項1〜3いずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項5】
加水分解性基Xがアルコキシ基である、請求項1〜4いずれかに記載の表面修飾金属酸化微粒子の製造方法。
【請求項6】
金属酸化物1モルに対して、加水分解性基含有シラン化合物(A)と(B)とを併せて0.1〜5モル使用する、請求項1〜5のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項7】
加水分解性基含有シラン化合物(A)と(B)とのモル比が、(A):(B)=1:0.05〜1:20の範囲である、請求項1〜6のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項8】
混合する時の温度が50〜300℃であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項9】
混合する時の圧力が0.2〜50MPaであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項10】
金属酸化物微粒子の数平均粒子径が0.5〜20nmである、請求項1〜9のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項11】
溶媒がアルコールである、請求項2〜10のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項12】
金属酸化物微粒子が酸化亜鉛微粒子である、請求項1〜11のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項13】
アルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸金属塩化合物を混合して得られる金属酸化物微粒子を用いることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項14】
アルコール溶媒中アルカリ金属水酸化物とカルボン酸金属塩化合物を混合して得られる金属酸化物微粒子を単離することなくシラン化合物(A)および(B)と混合することを特徴とする、請求項13記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項15】
一般式(1)
SiX(4−a) (1)
であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(A)および一般式(2)
SiX (2)
(それぞれの式中、Rは炭素数1〜18の1価の有機基;Xは加水分解性基;aは1、2、または3であり、式(1)と式(2)のXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)であらわされる加水分解性基含有シラン化合物(B)を溶媒中、金属酸化物微粒子と混合することを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の表面修飾金属酸化物微粒子の製造方法により得られた表面修飾金属酸化物微粒子。

【公開番号】特開2009−73699(P2009−73699A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244678(P2007−244678)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】