説明

表面処理が施された無機顔料の製造方法及び係る無機顔料を用いた記録媒体の製造方法

【課題】 塗工液の粘度上昇を抑制し、熱湿滲みを抑制すると共に、耐オゾン性及び発色性に優れた記録媒体の提供
【解決手段】 無機顔料が液媒体に分散された無機顔料分散液のpH(α)と複合化合物が液媒体に分散された複合化合物分散液のpH(β)との差(β−α)が1.5以下となるようにpHを調整するpH調整工程と、無機顔料分散液と前記複合化合物分散液とを混合して得られる混合液を加熱することにより、前記無機顔料分散液の表面を前記複合化合物で処理する表面処理工程とを含むことを特徴とする表面処理が施された無機顔料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理が施された無機顔料の製造方法及び係る無機顔料を用いた記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク受容層を有する記録媒体には、インクの定着性、画像の鮮明性、耐オゾン性等の種々の物性が求められている。特許文献1には、印字物の耐オゾン性を高めると共に、印字物を高温多湿環境下に保存した際の画像の滲み(以下、熱湿滲みともいう)を低減することを目的とした、アミノ基を有するシランカップリング剤とジルコニウム化合物とを反応することによって得られる複合化合物を含む記録媒体に関する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の記録媒体について本発明者等が検討したところ、印字物の耐オゾン性の向上と、印字物の熱湿滲みの低減とが不十分である場合があった。また、特許文献1に記載の複合化合物と無機顔料とを混合して記録媒体に用いる塗工液を作成しようとすると、混合物の粘度が上昇しすぎてしまい、係る塗工液を用いて得られる記録媒体の発色性が低下する場合があった。
【0005】
従って、本発明は、記録媒体の塗工液として用いた際に塗工液の粘度上昇を抑制することができる無機顔料の製造方法を提供することを目的とする。また、記録媒体に含有した際に、形成する画像の熱湿滲みを低減すると共に耐オゾン性及び発色性を高めることのできる表面改質が施された無機顔料の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、上記した表面改質が施された無機顔料を用いた記録媒体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。即ち、本発明は、無機顔料を水またはアルコールを含む液媒体に分散することにより無機顔料分散液を得る第一の分散工程と、元素周期表の第2族または第3族から選ばれる少なくとも一種の元素、ジルコニウム及びケイ素を含む複合化合物を水またはアルコールを含む液媒体に分散することにより複合化合物分散液を得る第二の分散工程と、前記無機顔料分散液のpH(α)と前記複合化合物分散液のpH(β)との差(β−α)が1.5以下となるように、前記無機顔料分散液または前記複合化合物分散液のpHを調整するpH調整工程と、前記pH調整工程後、前記無機顔料分散液と前記複合化合物分散液とを混合して得られる混合液を加熱することにより、前記無機顔料分散液の表面を前記複合化合物で処理する表面処理工程とを含むことを特徴とする表面処理が施された無機顔料の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、記録媒体の塗工液として用いた際に塗工液の粘度上昇を抑制することができる無機顔料の製造方法を提供できる。また、記録媒体に含有した際に、形成する画像の熱湿滲みを低減すると共に耐オゾン性及び発色性を高めることのできる表面改質が施された無機顔料の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<<無機顔料の製造方法>>
以下、本発明の表面処理が施された無機顔料の製造方法について詳細に説明する。本発明の表面処理が施された無機顔料の製造方法により得られる無機顔料とは、元素周期表の第2族または第3族から選ばれる少なくとも一種の元素、ジルコニウム及びケイ素を含む複合化合物によって表面が処理された無機顔料である。以下、元素周期表の第2族または第3族の元素を第2・3族元素ともいい、元素周期表の第2族または第3族から選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を、第2・3族元素化合物ともいう。
【0009】
<第一の分散工程>
本発明における第一の分散工程とは、無機顔料を水またはアルコールを含む液媒体に分散することにより、顔料が液媒体に分散された顔料分散液を得る工程である。無機顔料を水またはアルコールを含む液媒体に分散する好適な方法としては、ホモミキサー、アジテーター、ボールミル、超音波分散機等を用いて分散する方法が挙げられる。
【0010】
<第二の分散工程>
本発明における第二の分散工程とは、元素周期表の第2族または第3族から選ばれる少なくとも一種の元素、ジルコニウム及びケイ素を含む複合化合物を、水またはアルコールを含む液媒体に分散することにより、複合化合物が液媒体に分散された複合化合物分散液を得る工程である。複合化合物を水またはアルコールを含む液媒体に分散する好適な方法としては、ホモミキサー、アジテーター、ボールミル、超音波分散機等を用いて分散する方法が挙げられる。
【0011】
本発明において、第一の分散工程と第二の分散工程とは、いずれを先に行っても良いし、第一の分散工程と第二の分散工程とを同時に行っても良い。
【0012】
<pH調整工程>
本発明におけるpH調整工程とは、上記第一の分散工程で得られた無機顔料分散液と、上記第二の分散工程で得られた複合化合物分散液とを用い、無機顔料分散液のpH(α)と複合化合物分散液のpH(β)との差(β−α)が1.5以下となるように、無機顔料分散液または複合化合物分散液のpHを調整する工程である。
【0013】
無機顔料分散液中では、通常、無機顔料と液媒体との界面に電気二重層が形成され、係る電気二重層によって、無機顔料が安定した分散状態で存在している。このような状態の無機顔料分散液中に、係る分散液のpHとは大きく異なるpHを有する物質が加えられると、電気二重層が崩壊することで無機顔料の分散性が低下し、その結果無機顔料が凝集してしまう。顔料分散液のpHよりもはるかに高いpHを有する物質を顔料分散液に加える場合、係る凝集は顕著なものとなる傾向にある。本発明においては、無機顔料分散液のpH(α)と複合化合物分散液のpH(β)との差(β−α)を1.5以下となるようにすることで、無機顔料分散液と複合化合物分散液とを混合した際の電気二重層の崩壊を低減することができ、無機顔料の凝集を抑制することができる。無機顔料分散液のpH(α)と複合化合物分散液のpH(β)との差(β−α)が1.0以下となるようにpH(α)またはpH(β)を調整することが好ましい。また、(β−α)が−5.0以上となるようにpH(α)またはpH(β)を調整することが好ましく、−1.5以上となるようにpH(α)またはpH(β)を調整することがより好ましい。尚、上記第一の分散工程及び第二の分散工程によって得られる無機顔料分散液のpH(α)と、複合化合物分散液のpH(β)との差(β−α)が既に1.5以下である場合、pH調整工程は、第一及び第二の分散工程によって行われたものとする。
【0014】
無機顔料分散液のpH(α)と複合化合物分散液のpH(β)との差(β−α)を1.5以下となるように調整する方法としては、特に限定されないが、無機顔料分散液または複合化合物分散液に、酸またはアルカリを加える方法が挙げられる。本発明においては、無機顔料の分散状態の変化を極力抑制することが好ましいため、無機顔料分散液のpH(α)を調整せずに、複合化合物分散液のpH(β)を調整することで、pH差(β−α)を1.5以下とすることが好ましい。無機顔料分散液のpH(α)は2.0以上6.0以下であることが好ましい。pH値が2.0よりも低い無機顔料分散液を用いてインクジェット記録媒体を作製した場合、アニオン系染料を用いて画像を形成すると、金属光沢調に見えるいわゆるブロンジングが起き易い。また、pH値が6.0よりも高くなると、無機顔料の分散性が低下しやすくなり、インクジェット記録媒体の発色性が低下する場合がある。また、複合化合物分散液のpH(β)は、1.0以上7.5以下に調整することが好ましく、2.0以上7.5以下に調整することがより好ましい。
【0015】
酸としては、蟻酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸。イソフタル酸、テレフタル酸、グルタル酸、グルコン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、ピメリン酸、スベリン酸、メタンスルホン酸。塩酸、硝酸、燐酸等の無機酸等が挙げられる。アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0016】
<表面処理工程>
本発明における表面処理工程とは、pH調整工程後の顔料分散液と複合化合物分散液とを混合した後、係る混合液を加熱することで、無機顔料の表面を複合化合物で処理する工程である。係る工程によって、複合化合物で表面処理された無機顔料を得ることができる。表面処理が施された無機顔料を含む塗工液中では、複合化合物と無機顔料とを表面処理工程を行わずに加えた塗工液中よりも、複合化合物と無機顔料とが強固に結合している。そのため、無機顔料の分散状態を、極めて均一且つ安定に保つことができる。その結果、無機顔料の凝集を抑制することができ、係る塗工液を基材に塗工することにより得られるインク受容層の透明性を保つことができ、優れた発色性を得ることができる。
【0017】
無機顔料分散液と複合化合物分散液とを混合する方法は特に制限されず、無機顔料分散液に複合化合物分散液を滴下しても良いし、複合化合物分散液に無機顔料分散液を滴下しても良い。また、空の容器に無機顔料分散液と複合化合物分散液とを同時に加えても良い。
【0018】
また、顔料分散液と複合化合物分散液との混合液の加熱方法としては特に限定されず、オーブンやスプレードライヤー等の公知の加熱手段を好適に用いることができる。本発明においては、混合液を加熱することで、混合液中の液媒体を蒸発させることで、無機顔料の表面を効果的に複合化合物で処理することができる。混合液を加熱する温度としては、液媒体である水やアルコールを効果的に系中から除去するために、即ち、蒸発させるために、100℃以上であることが好ましい。また、無機顔料粒子の粗大化の抑制、無機顔料としてアルミナ水和物を用いた場合においては更にアルミナ水和物のα−アルミナへの相転移の抑制の観点から400℃以下であることが好ましい。即ち、本発明においては、加熱温度は100℃以上400℃以下であることが好ましい。加熱時間においては特に限定されないが、混合液中の液媒体が蒸発するまで加熱することが好ましい。例えば、120℃で混合液を加熱する場合には、3時間以上加熱を行うことが好ましい。
次に、各工程で用いることのできる好適な材料について、詳細に説明する。
【0019】
<無機顔料>
本発明に用いる無機顔料としては、特に限定されず、例えば、アルミナ水和物、アルミナ、シリカ、コロイダルシリカ、二酸化チタン、ゼオライト、カオリン、タルク、ハイドロタルサイト、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、等の無機顔料をいずれも好適に用いることができる。これらの中でも良好な多孔質構造を形成し、インクの吸収性が良好なアルミナ水和物、またはシリカを無機顔料として用いるのが好ましい。また、これら無機顔料の複数種類を併用して用いても構わない。すなわち、無機顔料として、アルミナ水和物およびシリカの少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0020】
また、これら無機顔料の平均一次粒径は1nm以上であることが好ましい。また、1μm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。特に、インクの吸収性が良好な多孔質構造を形成するためには、平均一次粒径が20nm以下のシリカ微粒子、またはアルミナ水和物微粒子を用いるのが好ましい。無機顔料の平均一次粒径は、無機顔料を電子顕微鏡によって観察したときの一次粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径の、数平均粒子径を示すものである。
【0021】
無機顔料としてアルミナ水和物を用いる場合、好適なアルミナ水和物としては、例えば、下記一般式(2)により表されるものが挙げられる。
【0022】
Al3−n(OH)2n・mHO (2)
【0023】
上記一般式(2)中、nは0、1、2または3を表し、mは0以上10以下、好ましくは0以上5以下の数を表す。ただし、mとnは同時に0にはならない。mHOは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数または整数でない値をとることができる。また、この種の材料(アルミナ水和物)を加熱するとmは0になることがあり得る。
【0024】
アルミナ水和物は、公知の方法で製造することができる。一般的な例として、アルミニウムアルコキシドの加水分解やアルミン酸ナトリウムの加水分解を行う方法が挙げられる(米国特許4,242,271号明細書、米国特許4,202,870号明細書)。また、他の例として、アルミン酸ナトリウムの水溶液に硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の水溶液を加えて中和を行う方法が挙げられる。本発明において好適なアルミナ水和物は、X線回折法による分析でアルミナ水和物構造または非晶質を示すものが好ましい。
【0025】
また、アルミナ水和物の細孔容積は0.3ml/g以上1.0ml/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.35ml/g以上0.9ml/g以下である。また、BET法で求められるBET比表面積が50m/g以上350m/g以下であるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは100m/g以上250m/g以下である。BET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料のもつ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ比表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積をかけて、比表面積が得られる。BET法では、窒素吸着脱離法の測定において、ある相対圧力における吸着量の関係を数点測定し、最小二乗法によりそのプロットの傾き、切片を求めることで比表面積を導き出す。このため、測定の精度を上げるためには、相対圧力と吸着量の関係は少なくとも5点測定しておくことが好ましく、より好ましくは10点以上である。
【0026】
また、本発明の無機顔料として好適に用いることのできる材料であるシリカは、通常その製造法により湿式法と乾式法(気相法)に大別される。湿式法としては、ケイ酸塩の酸分解により活性シリカを生成し、これを適度に重合させ凝集沈降させて含水シリカを得る方法が知られている。一方、乾式法としては、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が知られている。気相法により得られるシリカ、即ち、気相法シリカは、比表面積が特に大きいので、インクの吸収性、保持の効率が特に高く、また、屈折率が低いので、受容層に透明性を付与でき、高い色濃度と良好な発色性が得られるため好ましい。気相法シリカのBET法による比表面積は90m/g以上400m/g以下であることが好ましい。
【0027】
<液媒体>
第一の分散工程及び第二の分散工程に用いる液媒体は水またはアルコールを含む。液媒体として、水のみ、アルコールのみを用いても良いし、水とアルコールとの混合溶媒を用いてもよい。水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、液媒体中の水の含有量は50質量%以上であることが好ましい。水としてはイオン交換水や蒸留水等、アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。第一の分散工程に用いる液媒体の組成と、第二の分散工程に用いる液媒体の組成とは、同一であっても、異なっていても良い。
【0028】
第一の分散工程に用いる液媒体の量は、無機顔料の含有量が液媒体全質量に対し5.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以上30.0質量%以下であることがより好ましい。また、第二の分散工程に用いる液媒体の量は、複合化合物の含有量が液媒体全質量に対し5.0質量%以上80.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以上60.0質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
<解膠酸>
本発明の第一の分散工程及び第二の分散工程では、無機顔料や複合化合物を均一に分散するために、液媒体に解膠酸を加えることができる。解膠酸としては、具体的には、蟻酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸。イソフタル酸、テレフタル酸、グルタル酸、グルコン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、ピメリン酸、スベリン酸、メタンスルホン酸。塩酸、硝酸、燐酸等の無機酸等が挙げられる。無機顔料としてアルミナ水和物を用いた場合、解膠酸として一塩基酸を用いることが好ましい。即ち、蟻酸、酢酸、グリコール酸、メタンスルホン酸等の有機酸や、塩酸、硝酸等を用いることが好ましい。
【0030】
<複合化合物>
本発明の第二の分散工程に用いる複合化合物は、第2・3族元素、ジルコニウム及びケイ素を含む。係る複合化合物を用いることで、印字物の耐オゾン性及び熱湿滲みの点で優れた効果を得ることができる。耐オゾン性の向上及び耐熱滲みの抑制の点で優れた効果を得ることができる推定メカニズムについて以下に示す。本発明者等は検討の結果、ジルコニウム及びケイ素を有する複合化合物と、第2・3族元素化合物とをインク受容層に含む記録媒体は、優れた耐オゾン性を示すことを見い出した。これは、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面の酸点に第2・3族元素化合物とジルコニウム及びケイ素を有する複合化合物とが付着することにより、酸点の固体酸強度を弱めることができ、酸点とオゾンとが接触した際に生じるラジカルの発生を抑制できたためと考えられる。
【0031】
しかしながら、第2・3族元素化合物を含む記録媒体は熱湿滲みが発生しやすいことがわかった。アルミナ水和物やシリカなどの無機顔料を分散するための水性媒体には、酸性水溶液が一般的であり、無機顔料を含む酸性水溶液を塗工することで、インク受容層が形成される。しかし、係るインク受容層ないし酸性水溶液に第2・3族元素化合物を加えると、第2・3族元素が電離し、酸性の化合物に由来する陰イオンと塩を形成してしまい、インク受容層中に第2・3族元素の塩が含まれることになる。係る塩は、高温多湿環境下において潮解しやすいため、熱湿滲みが発生しやすくなる。
【0032】
本発明では、第2・3族元素は、ジルコニウム及びシリカを含む複合化合物を構成する一部として存在している。即ち、複合化合物の構造内部に第2・3族元素が取りこまれている。そのため、第2・3族元素のイオン化を抑制でき、酸性水溶液と接触した際の第2・3族元素の塩の生成を抑制できる。その結果、熱湿滲みを抑制することができる。
【0033】
[複合化合物の製造方法]
構造中に第2・3族元素、ジルコニウム及びケイ素を含む複合化合物を製造する方法は特に限定されないが、湿式法を用いることが好ましい。以下、湿式法の具体例を説明する。まず、第2・3族元素化合物とジルコニウム化合物を液媒体に加え、ホモミキサー、アジテーター、ボールミル、超音波分散機等で攪拌しながら、シランカップリング剤を徐々に添加する。液媒体としては、水またはアルコールを用いることができ、水とアルコール(メタノール、エタノールおよびブタノール等)との混合物を用いることもできる。その後、さらに攪拌して、シランカップリング剤の加水分解及び縮合反応を行い、シランオリゴマーを形成する。このシランオリゴマー形成時に、第2・3族元素とZrが取り込まれて、複合化合物を含む懸濁液が作製される。シランカップリング剤の加水分解や縮合反応の進行は、必要に応じて、有機酸等を添加して系中のpHを調整することでコントロールすることができる。シランカップリング剤の加水分解や縮合反応は常温でも進行するが、各反応を効率的に進行させるために、系を加熱してもよい。好ましい反応温度はシランカップリング剤の種類によって異なるが、一般的に20℃以上100℃以下である。
【0034】
上記した複合化合物の製造方法の一具体例を示す。塩化マグネシウム・6水和物とオキシ酢酸ジルコニウムを溶解させた水溶液に、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランを添加する。その後、シランカップリング剤を加水分解し、加水分解物を加熱して脱水縮合することで、シランオリゴマーの構造中にMgとZrを取り込んだ状態の複合化合物を得る。
【0035】
上記した方法により第2・3族元素、ジルコニウム及びケイ素を含む複合化合物が得られる推定メカニズムを以下に示す。シランカップリング剤は、水又はアルコール中で加水分解し、シラノ−ル(−Si−OH)を生成する。生成したシラノールは、シラノ−ル同士で徐々に縮合反応が進行してシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成し、最終的にシランオリゴマーを形成する。係る特性を有するシランカップリング剤に、第2・3族元素化合物と、ジルコニウム化合物とを共存させると、系中に第2・3族元素やジルコニウムが存在した状態で加水分解や縮合反応が進行する。すると、−Si−O−Mg−O−Si−や−Si−O−Zr−O−Si−のような、2・3族元素やジルコニウムを介したシロキサン結合が形成され、第2・3族元素、ジルコニウム及びケイ素を含む複合化合物を得ることができる。
【0036】
上記した方法で製造した複合化合物が第2・3族元素及びジルコニウムを含むことは、製造した複合体をX線回折法(XRD)を用いて分析することで確認できる。製造した複合化合物のXRDチャートでは、原料に用いた第2・3族元素化合物やジルコニウム化合物のX線回折ピークは消失して、複合化合物のX線回折ピークの存在を新たに確認することができる。また、ある記録媒体を入手した際に、インク受容層中に第2・3族元素、ジルコニウム及びケイ素を複合化合物が含まれているか否かは、透過電子顕微鏡(TEM)での元素マッピングを用いて係る記録媒体を分析することで判別することができる。
【0037】
表面改質が施された無機顔料中の複合化合物の含有量は、無機顔料全質量を基準として0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、1質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
以下、上記した製造方法に好適に用いることのできる材料について、詳細に説明する。
【0038】
[第2・3族元素化合物]
本発明において、元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素(第2・3族元素)とは、周期律表の第2・3族元素として列挙されている元素である。その中でも、第2・3族元素としては、Mg、Ca、Sr、Y、LaおよびCeから選ばれる少なくとも1種の元素を用いることが好ましい。
【0039】
第2・3族元素化合物としては、第2・3族元素イオンと、有機酸イオンまたは無機酸イオンとからなる塩、係る塩の水和物、第2・3族元素の酸化物が挙げられる。
【0040】
有機酸イオンとしては、具体的には、酢酸イオン、シュウ酸イオン等が挙げられる。また、無機酸イオンとしては、具体的には、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、ハロゲンイオン、水酸化イオンなどを挙げることができる。
【0041】
第2・3族元素化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム4水和物、酢酸カルシウム1水和物、酢酸ストロンチウム0.5水和物、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム6水和物、クエン酸マグネシウム9水和物、硝酸ストロンチウム、酢酸イットリウムn水和物、塩化イットリウム6水和物、硝酸イットリウム6水和物、硝酸ランタン6水和物、塩化ランタン7水和物、酢酸ランタン1.5水和物、安息香酸ランタン、塩化セリウム7水和物、硫酸セリウム4水和物、オクチル酸セリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム等が挙げられる。また、本発明の複合化合物は、第2・3族元素を複数種含んでいても良い。
【0042】
また、無機顔料を構成する金属元素(A)に対する、第2・3族元素(B)の原子数比率(B/A)は0.001以上0.03以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましい。原子数比率(B/A)が0.001以上であると、十分な耐オゾン性を容易に得ることができる。また、原子数比率(B/A)が0.03以下であると、高温高湿環境下でのインクの熱湿滲みを効果的に抑制することができる。インク受容層中の原子数比率(B/A)は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により測定(算出)することができる。インク受容層中に、無機顔料および第2・3族元素が複数種類存在する場合は、これらの合計量を用いて原子数比率の算出ができる。
【0043】
また、複合化合物中のケイ素(X)に対する第2・3族元素(B)の原子数比率(B/X)は0.1以上5.0以下であることが好ましく、0.2以上3.0以下であることがより好ましく、0.5以上2.0以下であることが特に好ましい。原子数比率(B/X)も、原子数比率(B/A)と同様の方法で算出できる。
[ジルコニウム化合物]
ジルコニウム化合物としては、特に限定されず、構造中にジルコニウムを有する化合物をいずれも好適に用いることができるが、ジルコニウムのハロゲン化物塩、ジルコニウムのオキソ酸塩、ジルコニウムの有機酸塩から選ばれる少なくとも一つの化合物を用いることが好ましい。
【0044】
ジルコニウムのハロゲン化物塩としては、具体的には、ZrOCl・8HO、ZrCl、ZrCl、ZrCl、ZrCl、ZrBr、ZrBr、ZrBr、ZrI、ZrI、ZrI、ZrF、ZrF、ZrFが挙げられる。また、ジルコニウムのオキソ酸塩としては、具体的にはZr(NO・2HO、ZrO(NO・2HO、Zr(SO、Zr(SO・4HO、ZrO(SO)、Zr(HPO、ZrP、ZrSiO、(NH)ZrO(CO、ZrO(CO・nHO、ZrO(OH)・nHOが挙げられる。また、ジルコニウムの有機酸塩としては、具体的には、酢酸ジルコニウム、乳酸ジルコニル、ステアリン酸ジルコニル、オクチル酸ジルコニル、ラウリル酸ジルコニル、マンデン酸ジルコニルが挙げられる。
【0045】
上記したジルコニウム化合物の中でも、水への溶解性が高く、加水分解が容易なものが好ましい。具体的には、ジルコニウムのオキソ酸塩が好ましい。ジルコニウムのオキソ酸塩は構造中にZrOの単位を有しており、係る構造のために、他のジルコニウム化合物に比較して水への溶解性が高く加水分解が容易である傾向にある。また、上記したジルコニウム化合物は、一種または二種以上の混合物として使用することができる。
【0046】
また、無機顔料を構成する金属元素(A)に対するジルコニウム(C)の原子数比率(C/A)は0.001以上0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。原子数比率(C/A)が0.001以上であると、十分なインクの熱湿滲みを容易に得ることができる。また、原子数比率(C/A)が0.05以下であると、適度なインクの吸収性を容易に得ることができる。なお、インク受容層中の原子数比率(C/A)は、上記した誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により算出できる。
【0047】
また、複合化合物中のケイ素(X)に対するジルコニウム(C)の原子数比率(C/X)は0.1以上5.0以下であることが好ましく、0.2以上3.0以下であることがより好ましく、0.5以上2.0以下であることが特に好ましい。原子数比率(C/X)も、原子数比率(C/A)と同様の方法で算出できる。
【0048】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤とは、一般的に以下の一般式(1)で表される構造を有する。
一般式(1) RSiX4−p
(Rは置換基を有していても良い炭化水素基を表し、Xは加水分解基を表し、pは1以上3以下の整数を表す。ただしpが2または3の場合は、Rは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0049】
一般式(1)で表わされるシランカップリング剤の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基およびアリール基等が挙げられる。R中の炭化水素基の置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキニル基、アラルキル基、アミノ基、ジアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロル基、シアノ基、イソシアネート基、ビニル基等が挙げられる。Rが含む炭素数は2以上10以下であることが好ましい。炭素数が2以上であると疎水性を十分に付与することが容易である。また炭素数が10以下であると、疎水性の増大に起因する複合化合物の水への分散性の低下を抑制でき、更に、無機顔料への付着を容易に行うことができる。Xとしては、例えば、アルコキシル基、アルコキシアルコキシル基、ハロゲンおよびアシルオキシ基から選択される基、例えばメトキシ基、エトキシ基、クロル基等が挙げられる。
【0050】
シランカップリング剤の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライドなどのジアルコキシシラン化合物、ジアシルオキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、トリアシルオキシシラン化合物、トリフェノキシシラン化合物ならびにその加水分解物が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独であるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0051】
シランカップリング剤の添加量(使用量)は、無機顔料の諸物性とシランカップリング剤の種類によって種々異なるものであり適宜調整することができるが、シランカップリング剤の添加量は、概して無機顔料(100質量%とする)に対して0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。0.1質量%以上であると、熱湿滲みをより効果的に抑制できる複合化合物を得ることができる。また、10質量%以下であると、インク受容層が疎水的になることを抑制できるため、適度なインクの吸収性を得ることができる。
【0052】
<表面処理された無機顔料の分析方法>
顔料表面が本発明の複合化合物によって処理されているか否かは、X線光電子分光法(XPS)を用いて確認することができる。具体的には、例えば、無機顔料にアルミナ水和物を用いた場合には、XPSで測定したアルミニウム原子2p軌道スペクトルやアルミニウム原子2s軌道スペクトルのピーク位置を調べる。複合化合物で表面処理した無機顔料は、表面処理していないアルミナ水和物よりもスペクトルのピーク位置が低エネルギー方向にケミカルシフトする。そのため、無機顔料の表面処理操作を行う前後でスペクトルのピーク一が低エネルギー方向にケミカルシフトしていた場合には、係る無機顔料が複合体によって表面処理されたと判断することができる。
【0053】
<<記録媒体の製造方法>>
本発明においては、上記表面処理工程によって得られる表面処理が施された無機顔料を用いて、記録媒体を製造することができる。具体的には、本発明の記録媒体の製造方法は、表面処理が施された無機顔料の製造方法によって得られる表面処理が施された無機顔料を含む塗工液を、基材の少なくとも一方の面に塗工することによりインク受容層を形成するインク受容層形成工程を有する。記録媒体の用途としては特に限定されないが、インクジェット用途であることが好ましい。
【0054】
<基材>
本発明の記録媒体の基材としては、例えば適度のサイジングを施した紙、無サイズ紙、ポリエチレンなどを用いたレジンコート紙などの紙類、熱可塑性フィルムのようなシート状物質及び布帛が挙げられる。熱可塑性フィルムの場合はポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリカーボネートなどの透明フィルムを用いることができる。また、無機粒子の充填または微細な発泡による不透明化したシートを用いることもできる。
【0055】
本発明の記録媒体の基材としては、繊維状物質で形成された紙が最も好ましい。この繊維状物質としては、例えばセルロースパルプを用いることができる。セルロースパルプとしては、以下のような具体例を挙げることができる。広葉樹材および針葉樹材から得られるサルファイトパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)、クラフトパルプ(KP)などの化学(ケミカル)パルプ。セミケミカルパルプ、セミメカニカルパルプ、機械(メカニカル)パルプ。更には、脱墨された二次繊維である古紙パルプ。これらは単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0056】
また、パルプは、未漂白パルプと漂白パルプとの区別なく使用して良いし、叩解と未叩解との区別なく使用して良い。叩解されたセルロースパルプとしては、例えば、非木材パルプである草、葉、靱皮、種毛などの繊維、藁、竹、麻、バガス、エスパルト、ケナフ、楮、三椏、コットンリンターなどのパルプが挙げられる。
【0057】
本発明に用いる基材には、上記セルロースパルプに、嵩高性セルロース繊維、マーセル化されたセルロース、フラッフ化セルロース及びサーモメカニカルパルプなどの機械パルプなどからなる群から選択される少なくとも1種を添加したものを用いることができる。これらのパルプの添加によって、得られる記録媒体のインク吸収速度、インク吸収量をさらに向上させることができる。
【0058】
上記のセルロースパルプと共に軽叩解セルロースパルプを用いることもできる。本発明において、軽叩解セルロースパルプとは、木材などのチップから作った化学パルプに叩解処理をあまり行っていないパルプのことである。この軽叩解セルロースパルプは、叩解処理によって生じるフィブリルがあまり発生していないため、吸収性および嵩高性に優れている。軽叩解セルロースパルプとしては例えば、特開平10−77595号公報に記載されているものを用いることができる。また、軽叩解セルロースパルプとしては、カナダ標準濾水度550ml以上のパルプが好ましい。
【0059】
更に、本発明の記録媒体の基材には、上記したセルロースパルプに以下のようなパルプを添加してもよい。例えば、微細フィブリル化セルロース、結晶化セルロース、広葉樹または針葉樹を原料とする硫酸塩パルプ、亜硫酸塩パルプ、ソーダパルプ、ヘミセルラーゼ処理パルプ及び酵素処理化学パルプなどである。これらのパルプの添加によって、得られる記録媒体表面の平滑性向上や、地合いが良くなるといった効果がある。
【0060】
本発明では、基材を構成する繊維状物質に、必要に応じて填料を加えることができる。填料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの白色顔料、シリカまたはシリケート、珪酸化合物などのシリカ系材料が挙げられる。
【0061】
填料の形状は、球状、塊形、針形など各種形状のものを用いることができる。繊維との相互作用を特に小さくするために多孔質填料を用いることもできる。好ましい填料の比表面積は50m/g以上である。填料の添加量は灰分換算で基材全体の5質量%以上、20質量%以下が好ましい。5質量%以上では繊維の変形を抑制する効果が特に高く、20質量%以下では、紙粉の発生量の増加を容易に防ぐことができる。灰分の測定はJIS P8128に従って行うことができる。また、本発明では、記録媒体のインク吸収速度を特に速くするために、填料を添加しなくてもよい。
【0062】
本発明の記録媒体に含まれる基材は、基材材料と、必要に応じて添加した上記多孔質填料とを混合して抄紙することにより製造することができる。本発明に用いる基材の坪量は、坪量が少ないことにより記録媒体が極端に薄くならない範囲で適宜選択することができる。この中でも、坪量は10g/m以上であることが好ましく、20g/m以上であることがより好ましい。10g/m以上であれば適度な記録媒体の風合い、折り曲げの強度、引っ張り強度を容易に得ることができる。また、基材の坪量は、200g/m以下であることが特に好ましい。200g/m以下であれば、適度な柔軟性を容易に得ることができ、プリンターの搬送時にジャムなどがより発生しにくくなる。
【0063】
本発明において、基材の製造方法としては特に限定されず、一般的に用いられている紙の製造方法を適用することができる。抄紙装置としては、例えば長網抄紙機、丸網抄紙機、円胴、ツインワイヤーなどが挙げられる。
【0064】
本発明の記録媒体では、通常の紙の製造方法で行われるサイズプレス工程を用いて基材上に、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、シリケート、等の多孔質材料を塗工してもよい。この塗工には一般的な塗工方法を選択して用いることができる。例えばゲートロールコーター、サイズプレス、バーコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレー装置などによる塗工技術を用いることができる。形成された基材にはカレンダー処理、熱カレンダー処理やスーパーカレンダー処理を行って表面を平滑にすることができる。
【0065】
<インク受容層形成工程>
表面処理が施された無機顔料を含む塗工液を基材の少なくとも一方の面に塗布する方法としては、特に限定されないが、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーターブラッシュコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、スプレー装置等の装置を用いて塗布する方法が挙げられる。
【0066】
本発明においては、基材の少なくとも一方の面にインク受容層を形成すれば良いが、基材の表面及び裏面の両面にインク受容層を形成しても良い。表面処理が施された無機顔料を含む塗工液の塗工量は、片面あたり乾燥固形分換算で、5g/m以上45g/m以下であることが好ましい。5g/m以上とすることで、インク吸収性を容易に良好なものとすることができる。また、45g/m以下とすることで、コックリングの発生を特に抑制できる。また、インク受容層の形成工程後に、カレンダーロールなどを用いてインク受容層の表面平滑性を高める工程を設けても良い。また、インク受容層中の表面改質が施された無機顔料の含有割合は、片面あたり固形分換算で70質量%以上95質量%以下が好ましい。70質量%以上であると適度なインク吸収性を容易に得ることができ、インクジェットプリンターで印刷した時に、ビーディング(ベタ印刷時のインク凝集によるマダラ模様が発生すること)を起こしやすくなることを抑制することができる。また、95質量%以下であると適度なインク受容層の強度を容易に得ることができ、クラックの発生を特に抑制することができる。
【0067】
本発明においては、インク受容層を形成するための塗工液(インク受容層形成用塗工液ともいう)は表面改質が施された無機顔料を含むが、係る無機顔料以外にも、インク受容層用塗工液には種々の材料を用いても良い。以下、インク受容層形成用塗工液に用いることのできる好適な材料について詳細に説明する。
【0068】
(バインダー)
本発明において、インク受容層用塗工液はバインダーを含んでも良い。バインダーは、水溶性樹脂であることが好ましい。バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)及びその変性物、澱粉及びその変性物、ゼラチン及びそれらの変性物、カゼイン、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミン等の天然高分子樹脂又はこれらの誘導体、カチオン変性、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のラテックス類、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等のビニルポリマー、ポリエチレンイミン、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸又はその共重合体等を挙げることができ、1種もしくは2種以上を組みあわせて用いることができる。
【0069】
上記したバインダーの中でも、PVA又はその変性物が好ましい。変性したPVAとしては、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール等のポリビニルアルコール誘導体等が挙げられる。
【0070】
また、本発明においては、前記無機顔料に対するバインダーの質量比率(無機顔料/バインダー)を5以上30以下とすることが好ましい。質量比率を前記範囲とすることにより、ヘイズを特に抑え、高い画像濃度及び光沢感が容易に得られ、かつ、塗布膜に適度な強度を容易に持たせることが可能である。
【0071】
[その他の材料]
無機顔料を水等の溶媒に容易に均一に分散するために、分散剤をインク受容層形成用塗工液に添加することができ、その塗工液を用いて、分散剤を含有するインク受容層を形成することができる。例えば、インク受容材(無機顔料)としてアルミナ水和物を用いる場合には、分散(解膠)剤として、酸を用いることでアルミナ水和物が均一に分散した分散体を得ることができる。解膠剤となる酸としては、一般に知られている酸の中で、酢酸、蟻酸、シュウ酸、アルキルスルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホ酸、ブタンスルホン酸、イソ−プロパンスルホン酸等)などの有機酸;硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。
【0072】
また、インク受容層形成用塗工液にはさらに、必要に応じてカチオン性ポリマーを添加することができる。特に、無機顔料としてシリカを用いる場合には、耐水性向上のためにカチオン性ポリマーを添加することが好ましい。好ましいカチオン性ポリマーとしては、例えば、以下のものが挙げられる。4級アンモニウム塩、ポリアミン、アルキルアミン、ハロゲン化第4級アンモニウム塩。カチオン性ウレタン樹脂、アミン・エピクロルヒドリン重付加体、ジハライド・ジアミン重付加体、ポリアミジン、ビニル(共)重合体。ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリメタクリロイルオキシエチル−β−ヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びその誘導体。ポリアミド−ポリアミン樹脂、カチオン化でんぷん、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、ジメチル−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム塩重合物、ポリアミジン、ポリビニルアミン、ジシアン系カオチン樹脂、ポリアミン系カオチン樹脂。エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリンアンモニウムクロリド−SO共重合物、ジアリルアミン塩−SO共重合物。第4級アンモニウム塩基置換アルキル基をエステル部分に有する(メタ)アクリレート含有ポリマー・第4級アンモニウム塩基置換アルキル基を有するスチリル型ポリマー。ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン系樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン系樹脂。
【0073】
また、本発明の記録媒体のインク受容層には、架橋剤としてホウ酸化合物を1種以上含有させることが好ましい。ホウ酸化合物としては、オルトホウ酸(HBO)、メタホウ酸、次ホウ酸、及びホウ酸塩等が挙げられる。ホウ酸塩としては、上記ホウ酸の水溶性の塩であることが好ましい。具体的には、例えば、ホウ酸のナトリウム塩(Na・10HO、NaBO・4HO等)、カリウム塩(K・5HO、KBO等)等のアルカリ金属塩;ホウ酸のアンモニウム塩(NH・3HO、NHBO等)等が挙げられる。塗工液の経時安定性と、クラック発生の抑制効果の点から、オルトホウ酸を用いることが好ましい。ホウ酸化合物の配合量は、製造条件等に応じて適宜調整できるが、クラック抑制の観点から、バインダー(100質量%とする)に対して、ホウ酸化合物を1.0質量%以上、15.0質量%以下とすることが好ましい。また、15.0質量%以下であれば、塗工液の良好な経時安定性を得ることができる。一般的に、記録媒体の生産時には塗工液を長時間に渡って使用する。しかし、ホウ酸化合物の添加量が、15.0質量%以下であれば、ホウ酸化合物の含有量が多いことによる生産時の塗工液の粘度の上昇やゲル化物の発生を抑制することができる。これにより、塗工液の交換やコーターヘッドの清掃等の回数をより減少させることができ、生産性を更に向上させることができる。
【0074】
また、本発明では、インク受容層に更に、以下の添加剤を加えても良い。例えば、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、耐水化剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0076】
(無機顔料分散液aの作製)
イオン交換水250gに、メタンスルホン酸と無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)100gとを加え、ホモミキサーで攪拌した。その後、更にイオン交換水とメタンスルホン酸とを加えることにより、固形分濃度20質量%、pH4.2の無機顔料分散液aを得た。
【0077】
(無機顔料分散液bの作製)
イオン交換水250gに、塩酸と無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)100gとを加え、ホモミキサーで攪拌した。その後、更にイオン交換水と塩酸とを加えることにより、固形分濃度20質量%、pH2.7の無機顔料分散液bを得た。
【0078】
(無機顔料分散液cの作製)
イオン交換水250gに、酢酸と無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)100gとを加え、ホモミキサーで攪拌した。その後、更にイオン交換水と酢酸とを加えることにより、固形分濃度20質量%、pH5.1の無機顔料分散液cを得た。
【0079】
(無機顔料分散液dの作製)
イオン交換水250gに、気相法シリカ(商品名:アエロジル380、日本アエロジル株式会社製)30gと、カチオン性ポリマーとしてジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(商品名:シャロールDC902P、第一工業製薬株式会社製)1.2gと加え、遊星型ボールミル(商品名:P−6、フリチュ社製)と粒子径5mmのジルコニアビーズを用いて200rpmで5分間処理することにより、pH4.2の無機顔料分散液dを得た。
【0080】
(複合化合物分散液Aの作製)
イオン交換水9.00gに、第2・3族元素化合物として塩化マグネシウム・6水和物(キシダ化学株式会社製)4.07gと、ジルコニウムを含む化合物としてオキシ酢酸ジルコニウム(キシダ化学株式会社製)2.25gとを加え、卓上型ボールミルで攪拌することで、酢酸マグネシウムおよびオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液に、シランカップリング剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−603)5.29gを徐々に添加し、5時間攪拌することにより、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH4.2の複合化合物分散液Aを得た。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて、得られた複合化合物中のケイ素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子数比率(Mg/Si)を算出したところ1.0であった。同様に、ジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ0.5であった。
【0081】
また、複合化合物分散液Aの一部を110℃で乾燥、固化した後に、乳鉢で粉砕することで、複合化合物を含む粉末を得た。得られた粉末のX線回折測定(XRD)を行った。得られたXRDチャートから、原料に用いた塩化マグネシウム・6水和物やオキシ酢酸ジルコニウム等のマグネシウム塩やジルコニウム塩の回折ピークは検出されなかった。一方、27°、40°及び57°にブロードなピークが観察されたことから、マグネシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたと判断した。尚、XRD測定は、Cu‐Kα線を用いたX線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製D8 ADVANCE)を使用した。回折パターンは、2θ=10°〜80°、掃引速度は2°/分、記録は2θ=0.02゜おきにデータをとるコンテイニアススキャンとした。
【0082】
(複合化合物分散液Bの作製)
イオン交換水9.00gに、第2・3族元素化合物として塩化マグネシウム・6水和物(キシダ化学株式会社製)4.07gと、ジルコニウムを含む化合物としてオキシ酢酸ジルコニウム(キシダ化学株式会社製)2.25gとを加え、卓上型ボールミルで攪拌することで、酢酸マグネシウムおよびオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液に、シランカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−603)5.29gを徐々に添加し、5時間攪拌することにより、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH5.7の複合化合物分散液Bを得た。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて、得られた複合化合物中のケイ素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子数比率(Mg/Si)を算出したところ1.0であった。同様に、ジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ0.5であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液B中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、マグネシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0083】
(複合化合物分散液Cの作製)
イオン交換水9.00gに、第2・3族元素化合物として塩化マグネシウム・6水和物(キシダ化学株式会社製)4.07gと、ジルコニウムを含む化合物としてオキシ酢酸ジルコニウム(キシダ化学株式会社製)2.25gとを加え、卓上型ボールミルで攪拌することで、酢酸マグネシウムおよびオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液に、シランカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−603)5.29gを徐々に添加し、5時間攪拌することにより、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH2.7の複合化合物分散液Cを得た。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて、得られた複合化合物中のケイ素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子数比率(Mg/Si)を算出したところ1.0であった。同様に、ジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ0.5であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液C中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、マグネシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0084】
(複合化合物分散液Dの作製)
イオン交換水9.00gに、第2・3族元素化合物として塩化マグネシウム・6水和物(キシダ化学株式会社製)4.07gと、ジルコニウムを含む化合物としてオキシ酢酸ジルコニウム(キシダ化学株式会社製)2.25gとを加え、卓上型ボールミルで攪拌することで、酢酸マグネシウムおよびオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液にシランカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−603)5.29gを徐々に添加し、5時間攪拌することで、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH1.2の複合化合物分散液Dを得た。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて、得られた複合化合物中のケイ素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子数比率(Mg/Si)を算出したところ1.0であった。同様に、ジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ0.5であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液D中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、マグネシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0085】
(複合化合物分散液Eの作製)
イオン交換水9.00gに、第2・3族元素化合物として塩化マグネシウム・6水和物(キシダ化学株式会社製)4.07gと、ジルコニウムを含む化合物としてオキシ酢酸ジルコニウム(キシダ化学株式会社製)2.25gとを加え、卓上型ボールミルで攪拌することで、酢酸マグネシウムおよびオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液にシランカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−603)5.29gを徐々に添加し、5時間攪拌することで、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH5.1の複合化合物分散液Eを得た。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて、得られた複合化合物中のケイ素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子数比率(Mg/Si)を算出したところ1であった。同様に、ジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ0.5であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液E中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、マグネシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0086】
(複合化合物分散液Fの作製)
イオン交換水9.00gに、第2・3族元素化合物として塩化マグネシウム・6水和物(キシダ化学株式会社製)4.07gと、ジルコニウムを含む化合物としてオキシ酢酸ジルコニウム(キシダ化学株式会社製)2.25gとを加え、卓上型ボールミルで攪拌することで、酢酸マグネシウムおよびオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液に、シランカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−603)5.29gを徐々に添加し、5時間攪拌することで、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH3.6の複合化合物分散液Fを得た。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて、得られた複合化合物中のケイ素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子数比率(Mg/Si)を算出したところ1.0であった。同様に、ジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ0.5であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液F中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、マグネシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0087】
(複合化合物分散液Gの作製)
イオン交換水20gに、第2・3族元素化合物として硝酸カルシウム・4水和物2.362gと、オキシ酢酸ジルコニウム2.253gとを加え、ホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)で攪拌することで、硝酸カルシウム・4水和物とオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液にシランカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−603)2.645gを徐々に添加し、5時間攪拌することで、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH4.2の複合化合物分散液Gを得た。また、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて複合化合物中のケイ素(Si)に対するカルシウム(Ca)の原子数比率(Ca/Si)、及びジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ、共に1.0であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液G中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、カルシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0088】
(複合化合物分散液Hの作製)
イオン交換水21gに、第2・3族元素化合物として酢酸ストロンチウム・0.5水和物4.294gと、オキシ酢酸ジルコニウム4.506gとを加え、ホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)で攪拌することで、酢酸ストロンチウムとオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液に、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−903)4.428gを徐々に添加し、5時間攪拌することで、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH4.2の複合化合物分散液Hを得た。また、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて複合化合物中のケイ素(Si)に対するストロンチウム(Sr)の原子数比率(Sr/Si)、及びジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ、共に1.0であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液H中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、ストロンチウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0089】
(複合化合物分散液Iの作製)
イオン交換水30gに、第2・3族元素化合物として酢酸ランタン・1.5水和物5.146gと、オキシ塩化ジルコニウム8水和物4.834gとを加え、ホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)で攪拌することで、酢酸ランタン・1.5水和物とオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液に、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−903)6.642gを徐々に添加し、5時間攪拌することで、複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH4.2の複合化合物分散液Iを得た。また、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて複合化合物中のケイ素(Si)に対するランタン(La)の原子数比率(La/Si)、及びジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ、共に0.5であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液I中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、ランタン、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0090】
(複合化合物分散液Jの作製)
第2・3族元素化合物として酸化イットリウムゾル45.162gに、オキシ塩化ジルコニウム8水和物6.445gを加え、ホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)で攪拌しながら、シランカップリング剤として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−803)3.928gを徐々に添加し、5時間攪拌することで複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH4.2の複合化合物分散液Jを得た。なお、酸化イットリウムゾルは、イオン交換水に濃度が10質量%になるように酸化イットリウムを分散させたゾルであり、用いた酸化イットリウムの平均粒子径は100nmであった。また、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて複合化合物中のケイ素(Si)に対するイットリウム(Y)の原子数比率(Y/Si)、及びジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ、共に1.0であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液J中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、マグネシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0091】
(複合化合物分散液Kの作製)
第2・3族元素化合物として、酸化セリウムゾル68.844gに、オキシ塩化ジルコニウム8水和物12.89gを加え、ホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)で攪拌しながら、シランカップリング剤として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−403)9.452gを徐々に添加し、5時間攪拌することで複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH4.2の複合化合物分散液Kを得た。なお、用いた酸化セリウムゾルは、イオン交換水に酸化セリウムを分散させた濃度10質量%のゾルであり、用いた酸化セリウムの平均粒子径は8nmであった。また、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて複合化合物中のケイ素(Si)に対するセリウム(Ce)の原子数比率(Ce/Si)、及びジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ、共に1.0であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液K中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、セリウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0092】
(複合化合物分散液Lの作製)
イオン交換水9.00gに、第2・3族元素化合物として塩化マグネシウム・6水和物(キシダ化学株式会社製)4.07gと、ジルコニウムを含む化合物としてオキシ酢酸ジルコニウム(キシダ化学株式会社製)2.25gとを加え、卓上型ボールミルで攪拌することで、酢酸マグネシウムおよびオキシ酢酸ジルコニウムの水溶液を得た。得られた水溶液に、シランカップリング剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−603)5.29gを徐々に添加し、5時間攪拌することで複合化合物を含む分散液を得た。その後、酸としてメタンスルホン酸を添加してpHを調整することにより、pH6.5の複合化合物分散液Lを得た。誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いて、得られた複合化合物中のケイ素(Si)に対するマグネシウム(Mg)の原子数比率(Mg/Si)を算出したところ1.0であった。同様に、ジルコニウム(Zr)の原子数比率(Zr/Si)を算出したところ0.5であった。また、複合化合物分散液Aと同様の方法を用いて複合化合物分散液L中の複合化合物のX線回折測定を行うことで、マグネシウム、ジルコニウム及びケイ素を構造中に含むアモルファス構造を有する複合化合物が得られたことを確認した。
【0093】
(実施例1)
100gの無機顔料分散液aに複合化合物分散液Aを徐々に加え、卓上型ボールミルを用いて1時間攪拌することで混合液を得た。このとき、無機顔料を構成する金属元素に対する、シランカップリング剤由来のSi元素の元素比が0.003となるように、複合化合物分散液Aの添加量を調整した。上記操作によって得られた混合液中の水分をスプレードライヤーで蒸発することで固形分を得た。乾燥温度(気相温度)は170℃とした。次いで、この固形分をマッフル炉中で120℃、3時間乾燥し、複合化合物により表面処理されたアルミナ水和物を得た。その後、イオン交換水100gに複合化合物により表面処理されたアルミナ水和物50.0gを添加してホモミキサーで攪拌した後、イオン交換水とメタンスルホン酸を加えることで、固形分濃度20質量%の分散液1を得た。分散液1をXPSで測定したところ、アルミナ水和物を構成するアルミニウム原子の2p軌道スペクトル及びアルミニウム原子の2s軌道スペクトルのピーク位置が、表面処理を施す前のアルミニウム原子の2p軌道スペクトル及びアルミニウム原子の2s軌道スペクトルのピーク位置に対して、いずれも低エネルギー方向にシフトしていた。この結果から、分散液1に含まれる無機顔料が、複合化合物によって表面処理された顔料であると判断した。
【0094】
上記操作によって得られた分散液1に、ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:PVA235、重合度:3500、ケン化度:88%)の固形分濃度8.0質量%水溶液を、アルミナ水和物の固形分100質量%に対して、PVA固形分換算で10質量%となるように混合した。さらに、5.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分100質量%に対して、ホウ酸固形分換算で1.5質量%となるように混合して、塗工液1を得た。
【0095】
得られた塗工液1を、インク受容層の乾燥塗工量が35g/mとなるように、基材である厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポン社製、商品名:メリネックス330)の片面に塗工した後、110℃で乾燥することにより、複合化合物により表面処理されたアルミナ水和物をインク受容層に含むインクジェット記録媒体1を得た。
【0096】
(実施例2)
複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Bを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液2、塗工液2及びインクジェット記録媒体2を得た。分散液2について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液2に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0097】
(実施例3)
複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Cを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液3、塗工液3及びインクジェット記録媒体3を得た。分散液3について、実施例1と同様にXPS測定を行い分散液3に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0098】
(実施例4)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液bを、複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Cを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液4、塗工液4及びインクジェット記録媒体4を得た。分散液4について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液4に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0099】
(実施例5)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液bを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液5、塗工液5及びインクジェット記録媒体5を得た。分散液5について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液5に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0100】
(実施例6)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液bを、複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Dを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液6、塗工液6及びインクジェット記録媒体6を得た。分散液6について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液6に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0101】
(実施例7)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液cを、複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Eを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液7、塗工液7及びインクジェット記録媒体7を得た。分散液7について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液7に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0102】
(実施例8)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液cを、複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Fを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液8、塗工液8及びインクジェット記録媒体8を得た。分散液8について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液8に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0103】
(実施例9)
複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い分散液9、塗工液9及びインクジェット記録媒体9を得た。分散液9について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液9に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0104】
(実施例10)
複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Hを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液10、塗工液10及びインクジェット記録媒体10を得た。分散液10について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液10に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0105】
(実施例11)
複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Iを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液11、塗工液11及びインクジェット記録媒体11を得た。分散液11について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液11に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0106】
(実施例12)
複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Jを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液12、塗工液12及びインクジェット記録媒体12を得た。分散液12について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液12に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0107】
(実施例13)
複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Kを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液13、塗工液13及びインクジェット記録媒体13を得た。分散液13について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液13に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0108】
(実施例14)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液dを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液14、塗工液14及びインクジェット記録媒体14を得た。分散液14について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液14に含まれる無機顔料が複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0109】
(比較例1)
100gの無機顔料分散液aに複合化合物分散液Aを徐々に加え、卓上型ボールミルを用いて1時間攪拌することにより、混合液を得た。このとき、無機顔料を構成する金属元素に対する、シランカップリング剤由来のSi元素の元素比が0.003となるように、複合化合物分散液Aの添加量を調整した。
【0110】
上記操作によって得られた混合液1に、ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:PVA235、重合度:3500、ケン化度:88%)の固形分濃度8.0質量%水溶液を、アルミナ水和物の固形分100質量%に対して、PVA固形分換算で10質量%となるように混合した。さらに、5.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分100質量%に対して、ホウ酸固形分換算で1.5質量%となるように混合して、塗工液15を得た。
【0111】
上記操作によって得られた塗工液15を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録媒体15を得た。即ち、加熱して無機顔料の表面を複合化合物で処理させる表面処理工程を行わずに塗工液15を作製したために、インクジェット記録媒体15では、無機顔料及び複合化合物が含まれてはいるものの、複合化合物による無機顔料の表面改質は十分に行われていない。
【0112】
(比較例2)
100gの無機顔料分散液aに複合化合物分散液Lを徐々に加え、卓上型ボールミルを用いて1時間攪拌することで混合液2を得た。このとき、無機顔料を構成する金属元素に対する、シランカップリング剤由来のSi元素の元素比が0.003となるように、複合化合物分散液Lの添加量を調整した。
【0113】
上記操作によって得られた混合液にメタンスルホン酸を加えることで混合液のpHを4.2に調整した後に、ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:PVA235、重合度:3500、ケン化度:88%)の固形分濃度8.0質量%水溶液を、アルミナ水和物の固形分100質量%に対して、PVA固形分換算で10質量%となるように混合した。さらに、5.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分100質量%に対して、ホウ酸固形分換算で1.5質量%となるように混合して、塗工液16を得た。上記操作によって得られた塗工液16を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録媒体16を得た。即ち、加熱して無機顔料の表面を複合化合物で処理させる表面処理工程を行わずに作製したために、インクジェット記録媒体16では、無機顔料及び複合化合物が含まれてはいるものの、複合化合物による無機顔料の表面改質は十分に行われていない。
【0114】
(比較例3)
100gの無機顔料分散液aに複合化合物分散液Lを徐々に加え、卓上型ボールミルを用いて1時間攪拌することで混合液を得た。このとき、無機顔料を構成する金属元素に対する、シランカップリング剤由来のSi元素の元素比が0.003となるように、複合化合物分散液Lの添加量を調整した。上記操作によって得られた混合液にメタンスルホン酸を加えることで混合液のpHを4.2に調整した後に、混合液中の水分をスプレードライヤーで蒸発することで固形分を得た。乾燥温度(気相温度)は170℃とした。次いで、得られた固形分をマッフル炉中で120℃、3時間乾燥し、複合化合物により表面処理されたアルミナ水和物を得た。その後、イオン交換水100gに複合化合物により表面処理されたアルミナ水和物50.0gを添加してホモミキサーで攪拌した後、イオン交換水とメタンスルホン酸を加えることで、固形分濃度20質量%の分散液15を得た。分散液15について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液15に含まれる無機顔料が、複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0115】
得られた分散液にポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:PVA235、重合度:3500、ケン化度:88%)の固形分濃度8.0質量%水溶液を、アルミナ水和物の固形分100質量%に対して、PVA固形分換算で10質量%となるように加えた。さらに、5.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分100質量%に対して、ホウ酸固形分換算で1.5質量%となるように加えることで、塗工液17を得た。上記操作によって得られた塗工液17を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録媒体17を得た。
【0116】
(比較例4)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液bを、複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Eを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液18、塗工液18及びインクジェット記録媒体18を得た。分散液18について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液18に含まれる無機顔料が、複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0117】
(比較例5)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液dを、複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Lを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液19、塗工液19及びインクジェット記録媒体19を得た。分散液19について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液19に含まれる無機顔料が、複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0118】
(実施例15)
無機顔料分散液aの代わりに無機顔料分散液cを、複合化合物分散液Aの代わりに複合化合物分散液Lを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、分散液20、塗工液20及びインクジェット記録媒体20を得た。分散液20について実施例1と同様にXPS測定を行い、分散液20に含まれる無機顔料が、複合化合物により表面処理が施された顔料であることを確認した。
【0119】
<表面処理が施された無機顔料の分析>
インクジェット記録媒体1〜20について、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)を用いてインク受容層中の無機顔料に対する第2・3族元素の原子数比率を測定した。同様に、誘導結合プラズマ発光分析を用いて複合化合物中のケイ素(Si)に対する第2・3族元素の原子数比率、ケイ素に対するジルコニウム(Zr)の原子数比率を算出した。結果を表1に示す。尚、無機顔料として気相法シリカを用いた場合、即ち、無機顔料分散液dを用いた場合、誘導結合プラズマ発光分析におけるケイ素のピークは気相法シリカと複合化合物中のケイ素との合算になるため、無機顔料に対する第2・3族元素の原子数比率の測定は行わなかった。また、表1中、複合化合物中のケイ素に対する第2・3族元素の原子数比率及び複合化合物中のケイ素に対するジルコニウムの原子数比率は、上記した複合化合物分散液における誘導結合プラズマ発光分析の結果を用いた。
【0120】
【表1】

【0121】
[塗工液の粘度の評価]
上記した操作によって得られた塗工液1〜20について、粘度変化を測定した。具体的には、塗工液1〜20の粘度をB型粘度計(トキメック株式会社製)を用いて、塗工液を調製した直後から5時間測定した。この時、塗工液は液温が常時30℃となるように保存した。調製直後の塗工液の粘度に対する5時間後の塗工液の粘度を算出し、下記評価基準によって評価した。結果を表2及び表3に示す。
A:粘度が100mPa・s未満
B:粘度が100mPa・s以上500mPa・s未満
C:粘度が500mPa・s以上[インクジェット記録媒体の評価]
【0122】
(発色性(光学濃度)の評価)
インクジェット記録媒体1〜20のそれぞれの記録面(インク受容層を有する面)に、インクジェット方式を用いたフォト用プリンター(商品名:PIXUS iP4600、インク:BCI−321、キヤノン製)を用いて黒ベタ画像を形成した。上記操作によって得られた画像の反射濃度をX−Rite社製310TR(商品名)で測定し、下記評価基準によって評価した。結果を表2及び表3に示す。
A:光学濃度が2.2以上
B:光学濃度が2.1以上2.2未満
C:光学濃度が2.1未満
【0123】
(熱湿滲みの評価)
インクジェット記録媒体1〜17のそれぞれの記録面に、インクジェット方式を用いたフォト用プリンター(商品名:PIXUS iP4600、インク:BCI−321、キヤノン製)を用いて黒ベタ画像を形成した。得られた印刷物を気温25℃、相対湿度85%の環境に1週間保管した。その後、黒色パッチ周囲の熱湿滲みの状態を目視で観察し、下記評価基準により評価した。結果を表2及び表3に示す。
A:滲みがほぼ視認できない
B:滲みは視認できるが、僅かである
C:大きい滲みが視認できる
【0124】
(耐オゾン性)
インクジェット方式を用いたフォト用プリンター(商品名:PIXUS iP4600、インク:BCI−321、キヤノン製)を用い、インクジェット記録媒体1〜17のそれぞれの記録面に、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチ(2.5cm×2.5cmの画像)を、光学濃度がそれぞれ1.0になるように形成した。得られた印字物に対して、オゾンウエザオメーター(型式:OMS−HS、スガ試験機社製)を用いて、以下に示す条件でオゾン暴露試験を行った。
暴露ガス組成 :オゾン2.5体積ppm
試験時間 :80時間
試験槽内温湿度条件 :23℃、50%RH(相対湿度)
【0125】
上記オゾン暴露試験前後における印字物の光学濃度を、分光光度計(商品名:スペクトリノ、グレタグマクベス社製)を用いて測定し、下記式(A)により濃度残存率を求め、下記評価基準により評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0126】
式(A):濃度残存率(%)=(試験後の画像濃度/試験前の画像濃度)×100。
A:シアン濃度残存率90%以上
B:シアン濃度残存率85%以上90%未満
C:シアン濃度残存率85%未満
【0127】
【表2】

【0128】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機顔料を水またはアルコールを含む液媒体に分散することにより無機顔料分散液を得る第一の分散工程と、
元素周期表の第2族または第3族から選ばれる少なくとも一種の元素、ジルコニウム及びケイ素を含む複合化合物を水またはアルコールを含む液媒体に分散することにより複合化合物分散液を得る第二の分散工程と、
前記無機顔料分散液のpH(α)と前記複合化合物分散液のpH(β)との差(β−α)が1.5以下となるように、前記無機顔料分散液または前記複合化合物分散液のpHを調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程後、前記無機顔料分散液と前記複合化合物分散液とを混合して得られる混合液を加熱することにより、前記無機顔料分散液の表面を前記複合化合物で処理する表面処理工程とを含むことを特徴とする表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項2】
前記表面処理工程における、加熱温度が100℃以上400℃以下である請求項1に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項3】
前記pH調整工程後の前記無機顔料分散液のpH(α)が2.0以上6.0以下であり、前記複合化合物分散液のpH(β)が1.0以上7.5以下である請求項1または2に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項4】
前記第二の分散工程の前に、元素周期表の第2族または第3族から選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物と、ジルコニウム化合物と、シランカップリング剤とを水またはアルコールを含む液媒体に加えた後、前記液媒体に含まれる前記シランカップリング剤を加水分解及び縮合することで前記複合化合物を得る複合化工程を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項5】
前記元素周期表の第2族または第3族から選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物が、第2族または第3族から選ばれる少なくとも一種の元素のイオンと、有機酸イオンまたは無機酸イオンとからなる塩、前記塩の水和物、第2族または第3族から選ばれる少なくとも一種の元素の酸化物のいずれかである請求項4に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項6】
前記ジルコニウムを含む化合物が、ジルコニウムのハロゲン化物塩、ジルコニウムのオキソ酸塩、ジルコニウムの有機酸塩から選ばれる少なくとも一つの化合物である請求項4または5に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項7】
前記複合化合物に含まれる、ケイ素に対する元素周期表の第2族または第3族の元素の原子数比率が0.1以上5.0以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項8】
前記複合化合物に含まれる、ケイ素に対するジルコニウムの原子数比率が0.1以上5.0以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項9】
前記無機顔料が、アルミナ水和物またはシリカである請求項1〜8のいずれか1項に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の表面処理が施された無機顔料の製造方法によって得られる表面処理が施された無機顔料を含む塗工液を、基材の少なくとも一方の面に塗工することによりインク受容層を形成するインク受容層形成工程を有することを特徴とするインクジェット記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2013−14092(P2013−14092A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149276(P2011−149276)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】