説明

表面処理組成物

【課題】プラスチックフィルムやアルミニウム、マグネシウム等の軟質な金属表面に対して、高い密着性を有し、透明であり、ハードコート性を有するコート層を形成する表面処理組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、下記成分(A)及び成分(B)
(A)縮合した構造を有するチタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)、及び分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とする表面処理組成物、及びその表面処理組成物を用いて製膜してなることを特徴とするコート層、並びにそのコート層を有する金属板及びプラスチックフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理組成物に関し、更に詳細には、チタン化合物オリゴマーに対し、特定のシリコン化合物とエポキシ樹脂を反応させた構造又は混合させた組成を有するものを含有する表面処理組成物に関するものであり、特に、プラスチックフィルムやアルミニウム、マグネシウム等の軟質な金属表面等に対して、高い密着性を有し、透明でハードコート性を有するコート層を形成できる表面処理組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等のような有機樹脂基材、又はアルミニウムやマグネシウム等のような非常に軟質の金属は、軽量、外観、耐衝撃性等の特徴を生かして、建築材料の構造材料、メガネレンズ等の光学物品等に使用されるようになった。しかし、これらプラスチックや軟質の金属は、表面に傷がつきやすく、透明性や外観を損なうことがあるため、コーティング剤を用いて被覆するのが一般的である。
【0003】
このコーティング剤としては、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂を用いたものが知られているが、これらの樹脂のみでコート層を形成した場合、硬度が不十分であるという欠点があった。
【0004】
また、透明性を維持し、硬度を向上するために、コロイダルシリカ等の無機ナノ粒子を配合することが行われている。しかし、これらナノ粒子を配合した場合、添加量が多くなると、塗布液の粘度が増大するため、塗布が困難になってしまう。その結果、添加量が制限されることになり、高硬度を達成するのは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−052472号公報
【特許文献2】特開2002−060526号公報
【特許文献3】特開2000−007944号公報
【特許文献3】特開2005−015581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、プラスチックフィルムやアルミニウム、マグネシウム等の軟質な金属表面に対して、高い密着性を有し、透明であり、ハードコート性を有するコート層を形成する表面処理組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、チタン化合物オリゴマーに対し特定のシリコン化合物とエポキシ樹脂を溶媒中で混合又は反応した複合化合物が、表面処理組成物として上記課題を解決することを見出して、本発明を完成するに到った。また、表面張力、チタン化合物オリゴマーの安定性を加味し選択した適切な溶媒に溶解又は分散されることにより、表面処理後のコート層の硬度が著しく向上することを見出して本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、少なくとも、下記成分(A)及び成分(B)
(A)縮合した構造を有するチタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)、及び分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とする表面処理組成物を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記の表面処理組成物を用いて製膜してなるコート層を提供するものであり、また、上記コート層を有するプラスチックフィルムや金属板を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面処理組成物によれば、各種プラスチックフィルムや金属板に対して、透明で、密着性の高いコート層を形成することができる。また、コート層に付着する汚れをふき取る際、溶剤を使用してふき取ることがあるが、本コート層を形成することにより、硬度や密着性を保ちつつ、溶剤に対する耐性を発現することができる。
【0011】
特に、プラスチックフィルムや、アルミニウム、マグネシウム等の軟質の金属に対して、透明性が高く、高硬度、高い密着性のコート層を形成することができる。また、特に溶剤に対する耐性を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0013】
本発明の表面処理組成物は、少なくとも、下記の成分(A)及び成分(B)を含有する。
(A)縮合した構造を有するチタン化合物オリゴマー(a1)(以下、単に「チタン化合物オリゴマー(a1)」と略記する)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)、及び分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物
(B)溶剤
【0014】
成分(A)の原料であるチタン化合物オリゴマー(a1)は特に限定はないが、下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物、が縮合した構造を有するものが好ましい。
【化3】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。]
【0015】
縮合前の出発物質である「式(1)で表されるチタンアルコキシド」としては、式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基であるが、該アルキル基は縮合を阻害しない範囲で置換基を有していてもよい。中でも、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜8個のアルキル基であるものがより好ましく、それぞれ独立に炭素数1〜5個のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0016】
「式(1)で表されるチタンアルコキシド」としては、以下の具体例に限定はされないが、例えば、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラノルマルプロポキシチタネート、テトライソプロポキシチタネート、テトラノルマルブトキシチタネート、テトライソブトキシチタネート、ジイソプロポキシジノルマルブトキシチタネート、ジターシャリーブトキシジイソプロポキシチタネート、テトラターシャリーブトキシチタネート、テトライソオクチルオキシチタネート、テトラステアリルアルコキシチタネート(テトラステアリルオキシチタネート)等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0017】
縮合前の出発物質としては、上記した「式(1)で表されるチタンアルコキシド」のほかに、「式(1)で表されるチタンアルコキシド」に、キレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物も好ましいものとして挙げられる。キレート化剤としては特に限定はないが、β−ジケトン、β−ケトエステル、多価アルコール、アルカノールアミン及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが、チタン化合物の加水分解等に対する安定性を向上させる点で好ましい。
【0018】
β−ジケトン化合物としては、2,4−ペンタンジオン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、ジベンゾイルメタン、テノイルトリフルオロアセトン、1,3−シクロヘキサンジオン、1−フェニル1,3−ブタンジオン等が挙げられ、β−ケトエステルとしては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル、メチルピバロイルアセテート、メチルイソブチロイルアセテート、カプロイル酢酸メチル、ラウロイル酢酸メチル等が挙げられ、多価アルコールとしては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ペンタンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール等が挙げられ、アルカノールアミンとしては、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ノルマルブチルエタノールアミン、N−ノルマルブチルジエタノールアミン、N−ターシャリーブチルエタノールアミン、N−ターシャリーブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等が挙げられ、オキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上併用できる。
【0019】
上記「式(1)で表されるチタンアルコキシド」又は「該チタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物」が縮合することによってチタン化合物オリゴマー(a1)が得られる。ここで縮合させる方法としては特に限定はないが、チタンアルコキシド又はチタンキレート化合物を、アルコール溶液中で水を反応させることにより行うことが好ましい。
【0020】
縮合してオリゴマー化するために用いる水の量については、チタンアルコキシド及び/又はチタンキレート化合物1モルに対し、すなわちチタン原子1モルに対して、水のモル数が0.5〜2モルであることが好ましく、0.7〜1.7モルであることがより好ましく、1.0〜1.5モルであることが特に好ましい。
【0021】
加水分解による縮合時には、アルコール等の溶剤を用い、場合により還流等の熱処理を経由し、チタン化合物オリゴマー(a1)を得ることが好ましい。このとき用いられるアルコールとしては特に限定はないが、上記式(1)中のアルキル基R〜Rのアルコールが、チタン化合物オリゴマーの反応性を変化させない点で好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。
【0022】
かかるアルコールの使用量は特に限定はないが、縮合してオリゴマー化するために用いる水の量を0.5〜20質量%の濃度になるようにアルコールを用いて希釈することが好ましく、より好ましくは0.7〜15質量%、特に好ましくは1.0〜10質量%の濃度になるように希釈する。
【0023】
加水分解により縮合してオリゴマー化して得られたチタン化合物オリゴマー(a1)は、平均で2〜20量体が好ましく、4〜15量体がより好ましい。
【0024】
成分(a)の原料であるチタン化合物オリゴマー(a1)は、上記したチタン化合物オリゴマーに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものであることも好ましい。すなわち、上記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、それにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物が縮合した構造を有するものに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものも好ましい。すなわち、縮合前及び/又は縮合後に、キレート化剤を反応させた構造のものは、チタン化合物オリゴマーの加水分解等に対する安定性を高める点で好ましい。
【0025】
縮合後に用いるキレート化剤としては特に限定はないが、前記したキレート化剤が好適に使用できる。特に好ましくは、β−ジケトン、β−ケトエステル又はアルカノールアミンである。
【0026】
本発明の表面処理組成物に含有される成分(A)は、上記したチタン化合物オリゴマー(a1)に対し、「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」、「分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)」を反応させた構造又は混合させた組成を有するものである。
【0027】
「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」としては、特に限定はないが、シランカップリング剤や、ケイ素原子に4個のアルコキシ基が結合したシリコン化合物等が挙げられる。このうち、アミノ基、メルカプト基又はエポキシ基を含有するものが、製膜性や接着性を高める点で好ましい。また、ケイ素原子にアルキル基が直接結合した構造を有するものも製膜性や接着性を高める点で好ましい。このときのアルキル基としてはメチル基が好ましい。また、上記化合物の部分加水分解縮合物も好適に使用できる。
【0028】
「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」の種類としては、以下に限定されるわけではないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシシラン等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0029】
「分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)」としては特に限定はなく、塗料、注型用等広く一般に実用化されたものも用いられ得る。具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、カテコール、レゾルシノール、ビフェノール等の多価フェノールとエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエーテル;(ポリ)プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロ−ル、ソルビトール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエーテル;シクロヘキセンオキシド、ヘキサヒドロフタル酸、水添ビスフェノールA等とエピクロロヒドリンから得られるポリグリシジルエステル若しくはポリグリシジルエーテル等の脂環式エポキシ樹脂;エポキシ化植物油;ノボラック型フェノール樹脂とエピクロロヒドリンから得られるエポキシノボラック樹脂;過酸化法で合成されるポリオレフィン系エポキシ樹脂;フェノールフタレインとエピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂;グリシジルメタクリレートと「メチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマー又はスチレン等のビニル化合物」との共重合体等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合若しくは縮合して用いることができる。
【0030】
上記のうち、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型又はビフェニル型のエポキシ樹脂が、得られるコート層の硬度の向上効果、製膜性や密着性を高める点で好ましい。中でも、ビスフェノールA型又はノボラック型のエポキシ樹脂が、硬度の向上効果、製膜性や密着性を更に高める点で特に好ましい。
【0031】
成分(A)複合化合物は、上記した「チタン化合物オリゴマー(a1)」に、「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」及び「分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)」を反応させることによって得られる構造を有することが好ましい。ここで、反応方法には特に限定はないが、(a1)、(a2)、(a3)及び溶剤を混合した後、使用した溶剤の沸点にて還流し、反応を進行させることが好ましい。なお、配合の順序に規定はない。また、成分(A)複合化合物中には、(a1)、(a2)又は(a3)の未反応物が残存していてもよい。
【0032】
「チタン化合物オリゴマー(a1)」と「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)」と「分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)」の使用割合(反応及び/又は混合割合)は特に限定はないが、(a1)と(a2)の質量比については、(a1)/(a2)=0.1/50〜50/0.1が好ましく、0.5/25〜25/0.5がより好ましく、1/20〜20/1が特に好ましい。また、(a2)と(a3)の質量比については、(a2)/(a3)=0.1/50〜50/0.1が好ましく、0.5/30〜30/0.5がより好ましく、1/25〜25/1が特に好ましい。
【0033】
(a1)の比率が少なすぎると、製膜性やコート層の硬度、密着性を低下させる場合がある。一方、(a2)の比率が少なすぎると、製膜性やコート層の硬度、密着性を低下させる原因となり、加水分解性等の安定性が不足する場合がある。また、(a3)の比率が少なすぎると、製膜性やコート層の硬度、密着性を低下させる場合がある。
【0034】
成分(A)複合化合物の構造については、上記製造方法で得られる構造を有するものであれば、特定の製造方法で製造されたものには限定されない。成分(A)の構造としては、チタン化合物オリゴマー(a1)の末端であるアルコキシル基とシリコン化合物に存在するアルコキシル基が空気中の水分や未反応の水を介して反応し、Ti−O−Siのように結合し、更に、エポキシ樹脂中のエポキシ基がチタン原子に配位した構造や、シリコン化合物に存在するアミノ基、メルカプト基等の官能基やチタン化合物中のチタンアルコキシドによって、エポキシ樹脂中のエポキシ基の一部が開環した構造や、シリコン化合物に存在するアミノ基、メルカプト基等の官能基やエポキシ樹脂中のエポキシ基がチタン化合物中のチタン原子に配位した構造が好ましい。
【0035】
成分(A)複合化合物は、チタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)、及び、分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)を混合させた組成を有するものであってもよい。「混合させた組成」には、全量反応が進まず未反応のまま残ったものが混合している場合も含まれる。成分(A)複合化合物の組成や組成中の成分の化学構造は種類も多く複雑であるため具体的に化学式では明確に特定できないので、成分(A)複合化合物は、本発明のようにプロセス(工程)でしか特定できない。
【0036】
「成分(A)複合化合物」には、多くの形態があるが、以下の5形態が何れも好ましい。
「(a1)と(a2)と(a3)の反応により得られる構造を有するもの」;
「(a1)と(a2)と(a3)の反応により得られる構造を有するもの」及び(a1)の混合物;
「(a1)と(a2)と(a3)の反応により得られる構造を有するもの」及び(a2)の混合物;
「(a1)と(a2)と(a3)の反応により得られる構造を有するもの」、(a1)、(a2)及び(a3)の混合物;
(a1)、(a2)及び(a3)の混合物;
【0037】
これらの中でも、「(a1)と(a2)と(a3)の反応により得られる構造を有するもの」、(a1)、(a2)及び(a3)の混合物、が特に好ましい。
【0038】
本発明の表面処理組成物は、成分(B)溶剤を必須成分として含有する。溶剤としては特に限定はないが、各種被着材に対して濡れ性の高い溶剤が好ましい。好ましい溶剤としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。具体的には、炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等が挙げられ、エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等が挙げられ、アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等が挙げられる。溶剤が被着材へのぬれ性を考慮して、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0039】
本発明の表面処理組成物中の、成分(A)複合化合物の含有割合は特に限定はないが、表面処理組成物100質量部中に成分(A)1〜70質量部が含有されていることが好ましく、1.5〜60質量部の含有がより好ましく、2〜50質量部の含有が特に好ましく、2.5〜40質量部の含有が更に好ましい。なお、「成分(A)複合化合物の含有量」は、「成分(A)複合化合物」とされる全ての形態及び成分の合計質量の含有量である。
【0040】
本発明の表面処理組成物は、成分(A)及び成分(B)を必須成分として含有するが、本発明の表面処理組成物には、更に、必要に応じて防錆剤を含有させることができる。本発明の表面処理組成物を金属板に塗布する場合には、防錆効果を得るために防錆剤を含有させることが好ましい。かかる防錆剤としては特に限定はないが、具体的には、例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノエチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物;ピロリン酸、オルトリン酸、フィチン酸、メタリン酸、三リン酸等のリン酸類;リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム等のリン酸塩類;オルトモリブデン酸塩、パラモリブデン酸塩、メタモリブデン酸塩等のモリブデン化合物類;5価バナジウム化合物、4価バナジウム化合物等のバナジウム化合物;カルボヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド等のヒドラジン化合物等が挙げられる。防錆剤を使用する際の防錆剤の含有量は特に限定はないが、表面処理組成物100質量部中に、0.1〜50質量部の範囲で使用することが好ましい。防錆剤は、単に混合しているだけでもよいし、表面処理組成物中でその一部が成分(A)複合化合物と反応していてもよい。
【0041】
本発明の表面処理組成物をプラスチックフィルムや金属等の被着体に塗布する場合は、上記成分(B)溶剤とは別に、更に本発明の表面処理組成物を必要に応じて「希釈溶媒」を用いて希釈し、塗布を行うことができる。希釈に使用する「希釈溶媒」については、特に限定はないが、各種被着材に対して濡れ性の高いものが好ましい。好ましい「希釈溶媒」としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。具体的には、炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等が挙げられ、エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等が挙げられ、アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等が挙げられる。被着材へのぬれ性、塗布液の安定性を考慮して、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0042】
本発明の表面処理組成物を、プラスチックフィルム、金属等の被着体に塗布し製膜してコート層を形成する場合の塗布量は特に限定はないが、乾燥後の塗布量として、0.01〜40g/mが好ましく、0.05〜30g/mがより好ましく、0.1〜20g/mが特に好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
製造例1
[チタン化合物オリゴマー(a1)溶液Aの合成]
テトラノルマルブトキシチタニウム34.0g(0.10モル)をノルマルブタール12.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)とノルマルブタノール24.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌した後、更に1時間還流し、テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーを得た。これを「チタン化合物オリゴマー(a1)溶液A」とする。
【0045】
製造例2
[チタン化合物オリゴマー(a1)溶液Bの合成]
テトラノルマルブトキシチタニウム34.0g(0.10モル)に対する水の量を水2.2g(0.12モル)とした以外は、製造例1と同様の方法で、テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマーを得た。これを「チタン化合物オリゴマー(a1)溶液B」とする。
【0046】
製造例3
[チタン化合物オリゴマー(a1)溶液Cの合成]
テトライソプロピルチタニウム28.4g(0.10モル)をイソプロパノール60.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)とイソプロパノール100.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌し、テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーを得た。これを「チタン化合物オリゴマー(a1)溶液C」とする。
【0047】
製造例4
[チタン化合物オリゴマー(a1)溶液Dの合成]
テトライソプロピルチタニウム28.4g(0.10モル)に対する水の量を水2.2g(0.12モル)とした以外は、製造例3と同様の方法で、テトライソプロポキシチタニウムオリゴマーを得た。これを「チタン化合物オリゴマー(a1)溶液D」とする。
【0048】
製造例5
[チタン化合物オリゴマー(a1)溶液Eの合成]
ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタン36.4g(0.1モル)をイソプロパノール50.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)とイソプロパノール100.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌し、更に1時間還流し、ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタンオリゴマーを得た。これを「チタン化合物オリゴマー(a1)溶液E」とする。
【0049】
製造例6
[チタン化合物オリゴマー(a1)溶液Fの合成]
チタンジイソプロポキシビストリエタノーリアミネート46.2g(0.1モル)をイソプロパノール50.0gに溶解させた後、水2.2g(0.12モル)とイソプロパノール50.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌し、更に1時間還流し、チタンジイソプロポキシビストリエタノーリアミネートオリゴマーを得た。これを「チタン化合物オリゴマー(a1)溶液F」とする。
【0050】
実施例1
製造例1で製造したチタン化合物オリゴマー(a1)溶液A(テトラノルマルブトキシチタニウムオリゴマー溶液)27質量部(0.04モル)、及びγ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン16質量部(0.08モル)を混合後、エポキシ当量184〜194のビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER 828EL(ジャパンエポキシレジン株式会社製)7質量部(0.02モル)、ヘプタン25質量部、1−ブタノール25質量部を加えて表面処理組成物を得た。
【0051】
実施例2〜30、比較例1〜7
実施例1において、チタン化合物オリゴマー(a1)溶液、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)、分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)、及び、溶剤(B)を、表1に記載の種類と量に代えた以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物を得た。また、比較として、表1に記載の表面処理組成物を用意した。なお、表1の中の数値は質量部を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1中の数値は質量%を示す。
また、表1中の「分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)」は、それぞれ以下のエポキシ樹脂A〜Dである。
エポキシ樹脂A:
エポキシ当量184〜194のビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER 828EL(ジャパンエポキシレジン株式会社製)
エポキシ樹脂B:
エポキシ当量450〜500のビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER 1001(ジャパンエポキシレジン株式会社製)
エポキシ樹脂C:
エポキシ当量160〜170のビスフェノールF型エポキシ樹脂(JER 806(ジャパンエポキシレジン株式会社製)
エポキシ樹脂D:
エポキシ当量195〜220のノボラック型エポキシ樹脂(YDCN−701(東都化成株式会社製)
【0054】
評価例1
[外観]
実施例1〜30、比較例1〜7で調製又は用意した表面処理組成物を、厚さ0.5mmのJIS H4000 A5052Pに規定されるアルミニウム板上に、バーコーターNo.30で塗布した。その後、150℃にて30分乾燥した。乾燥後(硬化後)、コート層の表面の白化の有無を目視にて評価した。
【0055】
[鉛筆硬度]
実施例1〜30、比較例1〜7で調製又は用意した表面処理組成物を、厚さ0.5mmのJIS H4000 A5052Pに規定されるアルミニウム板上に、バーコーターNo.30で塗布した。その後、150℃にて30分乾燥した。乾燥後(硬化後)、コート層の表面の鉛筆引っかき試験を、JIS K−5600−5−4に準拠した方法により行った。
【0056】
[耐溶剤性]
鉛筆硬度測定と同様にして作製したコート層上に、トルエン、酢酸エチル又はエタノールを含んだ脱脂綿にて擦過し、乾燥した後のコート層の状態を目視で以下の基準で評価した。
◎:コート層の白化がなく、透明であり、コート層の脱落が認められない。
×:コート層の白化があるか、又は、コート層が脱落する。
【0057】
評価例1の結果を以下の表2に示す。
【表2】

【0058】
評価例2
[外観]
実施例1〜30、比較例1〜7で調製又は用意した表面処理組成物を、表3に示した各種希釈溶媒にて5倍に希釈した後、厚さ50μmの未処理PETフィルムに、バーコーターNo.4で塗布した。その後、120℃にて5分間、乾燥、硬化した。硬化後、コート層の表面の白化の有無を目視にて評価した。
【0059】
[鉛筆硬度]
上記外観の評価と同様にして作製したコート層上で、鉛筆引っかき試験を、JIS K−5600−5−4に準拠した方法により行った。
【0060】
[耐溶剤性]
上記外観の評価と同様にして作製したコート層上に、トルエン、酢酸エチル又はエタノールを含んだ脱脂綿にて擦過し、乾燥した後のコート層の状態を目視で以下の基準で評価した。
◎:コート層の白化がなく、透明であり、コート層の脱落が認められない。
×:コート層の白化があるか、又は、コート層が脱落する。
【0061】
評価例2の結果を以下の表3に示す。なお、表3中の希釈溶媒の数値は質量部を示す。
【表3】

【0062】
本発明の表面処理組成物(実施例1〜30)は、評価例1でも評価例2でも、外観、鉛筆硬度及び耐溶剤性の何れもが優れていた。一方、チタン化合物オリゴマー(a1)、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)、分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)の何れか1つを欠く組成物(比較例1〜7)は、評価例1でも評価例2でも、外観、鉛筆硬度及び耐溶剤性の何れもが劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の表面処理組成物は、金属やプラスチックフィルム等の被着体に塗布し、製膜することで表面を改質し、透明で高い硬度、耐溶剤性を有するコート層を形成することができる。特に、プラスチックフィルムやアルミニウム、マグネシウム等の非常に軟質な金属に用いた場合はこの効果が顕著であるため、コート層を必要とするタッチパネル分野、ディスプレイ分野、金属を使用する建築材料等の産業分野に広く利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記成分(A)及び成分(B)
(A)縮合した構造を有するチタン化合物オリゴマー(a1)に対し、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)、及び分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)を反応させた構造又は混合させた組成を有する複合化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とする表面処理組成物。
【請求項2】
該チタン化合物オリゴマー(a1)が、下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物、が縮合した構造を有するものである請求項1記載の表面処理組成物。
【化1】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。]
【請求項3】
該チタン化合物オリゴマー(a1)が、下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物が縮合した構造を有するものに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものである請求項1記載の表面処理組成物。
【化2】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。]
【請求項4】
上記縮合が、該チタンアルコキシド又は該チタンキレート化合物を、アルコール溶液中で水を反応させることにより行われたものである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の表面処理組成物。
【請求項5】
上記縮合が、該チタンアルコキシド及び/又は該チタンキレート化合物1モルに対し、アルコール溶液中で、水0.5〜2モルを反応させることにより行われたものである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の表面処理組成物。
【請求項6】
該キレート化剤が、β−ジケトン、β−ケトエステル、多価アルコール、アルカノールアミン及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2ないし請求項5の何れかの請求項記載の表面処理組成物。
【請求項7】
式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立に炭素数1〜8個のアルキル基である請求項2ないし請求項6の何れかの請求項記載の表面処理組成物。
【請求項8】
分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)が、アミノ基、メルカプト基又はエポキシ基を含有するものである請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の表面処理組成物。
【請求項9】
分子中に1個以上のアルコキシ基を有するシリコン化合物(a2)が、ケイ素原子にアルキル基が直接結合した構造を有するものである請求項1ないし請求項8の何れかの請求項記載の表面処理組成物。
【請求項10】
分子中に1個以上のエポキシ基を有する樹脂(a3)が、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型又はビフェニル型である請求項1ないし請求項9の何れかの請求項記載の表面処理組成物。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の表面処理組成物を用いて製膜してなることを特徴とするコート層。
【請求項12】
請求項11記載のコート層を有することを特徴とする金属板。
【請求項13】
請求項11記載のコート層を有することを特徴とするプラスチックフィルム。

【公開番号】特開2010−150490(P2010−150490A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333221(P2008−333221)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000188939)マツモトファインケミカル株式会社 (26)
【Fターム(参考)】