説明

表面凹凸吸収用薄膜積層シート

【課題】1000μm以下のシート厚さであっても、部材表面の凹凸を吸収して、表面を鏡面化することができる。
【解決手段】基材表面に貼り付け、または積層することにより、該基材表面の凹凸を吸収して平滑にするための表面凹凸吸収用薄膜積層シートが基材表面に対してそれ自身接着性を有さないゴム弾性体フィルムおよびプラスチックフィルムから選ばれた少なくとも2枚のフィルムの積層体であり、1枚のフィルムの厚さが10〜300μmであり、積層体全体の厚さが20〜1000μmであり、該シートを貼り付けまたは積層後のシートのJIS B 0601に規定する表面粗さRzが基材表面の表面粗さRzの35%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面凹凸吸収用薄膜積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
精密機器の部品として用いられるゴム薄膜などの製造において、プレス成形や熱加硫の工程では、図3に示すように、未加硫ゴム膜などの対象物4を熱盤5間に挟み込み、一定の圧力と熱をかける方法が用いられる。表面平滑で優れた寸法精度の成形品を得るためには、熱プレスにおいて、対象物4に加えられる熱と圧力を全面に亘って均一化する必要がある。このような目的で、熱盤5と対象物4との間に、例えばゴム弾性体フィルム1とプラスチックフィルム2とを相互に密着させ一体化した積層体からなる、平板状のクッション材3を介在させた状態で熱プレスが行なわれている。
【0003】
従来、クッション材に用いられるゴム材またはゴム材を併用したクッション材としては、(1)80体積%以上のポリオール加硫系のフッ素ゴム成分、加硫剤、加硫促進剤および受酸剤を含むフッ素ゴム組成物からなり、温度条件として150℃〜250℃、周波数条件として1秒〜1×103秒において、動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)の値が0.04以下のフッ素ゴム、およびその製造方法(特許文献1、特許文献2)、(2)2層以上の繊維素材層と、各繊維素材層の間に位置して上下の繊維素材層を結合する結合材層と、最上位にある上記繊維素材層の上面に位置する上部ゴム層と、最下位にある上記繊維素材層の下面に位置する下部ゴム層と、上部ゴム層の上面に位置し、上部ゴム層中に含まれる配合剤のしみ出しを防止する上部しみ出し防止層と、下部ゴム層の下面に位置し、下部ゴム層中に含まれる配合剤のしみ出しを防止する下部しみ出し防止層と、を備える成形プレス用クッション材(特許文献3)、(3)ゴム弾性体フィルムと、このゴム弾性体フィルムの少なくとも一方の面に積層された耐熱性樹脂の多孔質膜からなる表層材とを備える熱プレス用クッション材(特許文献4)等が知られている。
【0004】
しかしながら、クッション材3の熱伝導性を向上させるために薄膜状のゴム弾性体フィルム1を用いると、熱盤5により印加される圧力の不均一化が生じたり、クッション材3と熱盤5との間に介在される繊維状部材である布材6の凹凸が対象物4に転写されてしまうという問題がある。また、このクッション材3を繰返し使用すると、クッション材3の表面に形成された凹凸が平滑に回復することが困難になるという問題がある。
【0005】
一方、家具類表面、家電製品の筐体表面、自動車内外装部材表面等に貼り付けて、表面を保護したり、表面に優れた意匠性を付与したりするために薄膜シートが用いられている。
例えば、液晶表示装置の加工時、運搬時あるいは貯蔵期間中に、ゴミが付着したり、傷がついたりするのを防止することを目的としてその表面に貼り付けられるプロテクトフィルムとして、水添スチレン系エラストマーおよびプロピレン系重合体からなる自己粘着層と、プロピレン−エチレンランダム共重合体等からなる中間層と、プロピレン単独重合体等からなる非粘着層を積層し、総厚みが20〜80μmの自己粘着性プロテクトフィルムが知られている(特許文献5)。
しかしながら、表面を保護する薄膜シートは、図4に示すように、基材4a表面またはこの表面に複合されている複合部材4b表面に存在する凹凸4c’を、貼り付けられた表面保護シート3a’および3b’で吸収することができなくなり、凹凸4c’が表面に現れる。従来薄膜シートの膜厚さが薄くなるにつれて、部材表面の凹凸がシート表面に現れて、部材表面の鏡面化が困難になるという問題がある。特に1000μm以下のシート厚さで部材表面の凹凸を吸収して、表面を鏡面化することが困難になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−52369号公報
【特許文献2】特開2003−311768号公報
【特許文献3】特開平8−90577号公報
【特許文献4】特開2003−103552号公報
【特許文献5】特開2009−67927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、1000μm以下のシート厚さであっても、部材表面の凹凸を吸収して、表面を鏡面化することができる表面凹凸吸収用薄膜積層シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表面凹凸吸収用薄膜積層シートは、基材表面に貼り付け、または積層することにより、該基材表面の凹凸を吸収して平滑にするための積層シートである。該表面凹凸吸収用薄膜積層シートは、基材表面に対してそれ自身接着性を有さないゴム弾性体フィルムおよびプラスチックフィルムから選ばれた少なくとも2枚のフィルムの積層体であり、1枚のフィルムの厚さが10〜300μmであり、積層体全体の厚さが20〜1000μmであり、該シートを貼り付けまたは積層後のシートのJIS B 0601に規定する表面粗さRz が貼り付けまたは積層前の基材表面の表面粗さRzの35%以下であることを特徴とする。
上記積層シートを構成するゴム弾性体フィルムは、24℃における10MHzで測定した損失正接(tanδ)が0.1〜0.45の範囲であり、24℃における10MHzで測定した弾性率(E’)が1〜6MPaの範囲であり、かつ弾性率と損失正接との比(E’/tanδ)が5〜35を有するゴム組成物のフィルムであることを特徴とする。
【0009】
上記ゴム組成物が石油樹脂系合成油および可塑剤から選ばれた少なくとも1つの油状物質をゴム100重量部に対して5〜45重量部含むことを特徴とする。
また、ゴムがアクリロニトリルブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシ基含有水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム、およびクロロプレンゴムから選ばれた少なくとも1つのゴムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面凹凸吸収用薄膜積層シートは、基材表面に対してそれ自身接着性を有さないゴム弾性体フィルムおよびプラスチックフィルムから選ばれた少なくとも2枚のフィルムの積層体であり、また、ゴム弾性体フィルムが所定の弾性率と損失正接とを有するので、基材表面の凹凸を吸収して表面を鏡面化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】平滑性を評価するために用いた成形プレス装置の断面図である。
【図2】基材に表面凹凸吸収用薄膜積層シートを貼り付けた断面図である。
【図3】成形プレス装置の断面図である。
【図4】基材に従来の表面凹凸吸収用薄膜積層シートを貼り付けた断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
家具類表面、家電製品の筐体表面、自動車内外装部材表面等に貼り付けて、表面を鏡面化したり、クッション材として対象物に優れた表面平滑性を付与したりすることができる薄膜シートに要求される特性について研究したところ、ゴム弾性体フィルムおよびプラスチックフィルムの複合積層体が優れていることが分かった。
ゴム弾性体フィルムは、tanδとE’との関係が特に重要であり、その範囲を所定の範囲に制御することで、表面平滑性に優れることが分かった。また、加工性に優れると共に、tanδとE’とを所定の範囲に制御するために、ゴムに配合する油状物質の配合割合を所定の範囲にすることが重要であることが分かった。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
本発明に使用できるゴム弾性体フィルムおよびプラスチックフィルムは、基材表面に対してそれ自身接着性を有さないものである。接着性を有さないことにより、フィルムの内部応力の分散化が容易となり、基材表面の凹凸を吸収できるものと考えられる。
基材表面に対して接着性を有さないと共に、少なくとも2枚のフィルムの積層体であることが重要であり、この2枚のフィルム同士も上記理由により接着性を有さないことが好ましい。
積層体の形態としては、(a)同一または異なるゴム弾性体フィルムを2枚以上積層する、(b)同一または異なるプラスチックフィルムを2枚以上積層する、(c)ゴム弾性体フィルムとプラスチックフィルムとを含む2枚以上を積層する形態がある。上記(c)の形態としては、(c1)同一または異なるゴム弾性体フィルムと同一または異なるプラスチックフィルム1枚ずつ交互に積層する、(c2)同一または異なるゴム弾性体フィルムを2枚以上積層し、これに同一または異なるプラスチックフィルムを2枚以上積層したもの同士を積層する、(c3)同一または異なるゴム弾性体フィルムと同一または異なるプラスチックフィルムとをランダムに積層する。
【0014】
表面凹凸吸収用薄膜積層シートが基材表面の凹凸を吸収して表面を鏡面化する状態を図2に示す。図2は、基材に表面凹凸吸収用薄膜積層シートを貼り付けた断面図である。
表面凹凸吸収用薄膜積層シートは、ゴム弾性体フィルムまたはプラスチックフィルム3a、3b、3c、3dから構成されている。基材4a表面またはこの表面に複合されている複合部材4b表面に存在する凹凸4cは、この表面凹凸吸収用薄膜積層シートで吸収され、表面が鏡面化される。
【0015】
ゴム弾性体フィルムおよびプラスチックフィルムの1枚のフィルム厚さは10〜300μm、好ましくは50〜250μmであり、積層体全体の厚さは20〜1000μm、好ましくは100〜500μmである。
フィルム厚さが薄すぎると基材表面の凹凸を吸収することが困難であり、全体の厚さが1000μmをこえても基材表面の凹凸はそれ以上平滑化しない。
【0016】
ゴム弾性体フィルムに使用できるゴムは、加硫剤、または電子線照射により架橋できるゴムが使用できる。例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエン系ゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが例示される。これらの中で、プラスチックフィルムとの接着性に優れているとの理由でアクリロニトリルブタジエン系ゴムが好ましい。ゴムは単独または混合ゴムとして使用できる。
【0017】
上記アクリロニトリルブタジエン系ゴムは、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシ基含有水素添加アクリロニトリルブタジエンゴムを例示でき、これらのゴム中のニトリル量は極高ニトリル量から低ニトリル量まで使用できる。
【0018】
アクリロニトリルブタジエン系ゴムは、ニトリル量が18〜49重量%の範囲であることが好ましい。ここでニトリル量(重量%)は共重合体に含まれるアクリロニトリルの割合をいう。ニトリル量が18重量%未満であると、薄膜ゴム弾性体フィルムのtanδ値が低くなり、その結果、プラスチックフィルムに積層したとき基材表面の凹凸を吸収して表面を鏡面化するときの凹凸吸収性が低下する場合がある。また、ニトリル量が49重量%をこえると、薄膜ゴム弾性体フィルムの樹脂化が進み、弾性率および表面硬度が上昇し、プラスチックフィルムに積層したときの凹凸吸収性が低下する場合がある。さらに、ニトリル量が多くなるに従い油状物質の表面移行が多くなる。
【0019】
上記アクリロニトリルブタジエン系ゴムはカーボンブラックおよび/または酸化亜鉛を配合することが好ましい。カーボンブラックを配合することで、表面凹凸吸収用薄膜積層シートとしての引き裂き抵抗、屈曲亀裂の防止、圧縮歪みの低下を維持することができ、酸化亜鉛を配合することで、熱伝導性も付与できる。好ましい配合例はカーボンブラックおよび酸化亜鉛を配合する場合である。
カーボンブラックの配合割合は、アクリロニトリルブタジエン系ゴム100重量部に対して5〜35重量部、好ましくは10〜25重量部配合される。カーボンブラックが5重量部未満であると、補強性の効果が少なくなり、また、35重量部をこえると反発弾性が大きくなる。
また、酸化亜鉛の配合割合は、アクリロニトリルブタジエン系ゴム100重量部に対して1〜10重量部、好ましくは3〜7重量部配合される。酸化亜鉛が3重量部未満であると、熱伝導性の低下につながり、また、8重量部をこえると硬さの上昇につながる。
【0020】
上記アクリロニトリルブタジエン系ゴムに油状物質を配合することが好ましい。この油状物質は室温で液状であり、ゴムの架橋反応時にゴム分子と化学的に反応することなくゴム材料中に配合できる物質が好ましい。ゴム分子と化学的に反応することなくゴム中に分散されることにより、誘電特性を所定範囲に維持することができる。
【0021】
油状物質としては、石油樹脂系合成油または可塑剤が挙げられる。これらは単独でも混合物としても使用できる。
石油樹脂系合成油としては、ガラス転移温度(Tg)が−40℃〜−20℃、50℃での粘度が0.2Pa・s〜2Pa・sである物質が好ましい。
石油樹脂系合成油を例示すれば、クマロン油、クマロンインデン樹脂系油、テルペン系石油樹脂油が挙げられる。本発明においては、クマロンインデン樹脂系油が好ましく、例えば、精製クマロンインデンオイル、クマロン樹脂油、ソフトクマロン、液状クマロン等が挙げられる。
【0022】
可塑剤としては、アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、トリメット酸系エステル、ジペンタエリスリトールまたはピロメリット酸のエステル、フタル酸系エステル、ポリエーテルエステル等のエステル系可塑剤、フォスフェート系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤が挙げられる。本発明においては、アジピン酸系ポリエステルが好ましい。
【0023】
上記油状物質は、上記アクリロニトリルブタジエン系ゴム100重量部に対して0〜45重量部、好ましくは0〜35重量部配合される。油状物質が45重量部をこえると、塗工法における塗工液作製時に油状物質と溶媒とが分離する場合が生じ、塗工液作製時の加工性に劣る。また、45重量部をこえるとゴム弾性体フィルムにおける油状物質の表面移行が多くなる。
【0024】
また、アクリロニトリルブタジエン系ゴムに油状物質を上記範囲で配合することにより、架橋後のゴム弾性体フィルムの24℃における10MHzで測定した損失正接(tanδ)を0.1〜0.45の範囲、24℃における10MHzで測定した弾性率(E’)を1〜6MPaの範囲とし、かつ弾性率と損失正接との比(E’/tanδ)を5〜35とすることができる。
弾性率と損失正接とを最適化することにより、ゴム弾性体フィルムの加工性を向上させ、油状物質の表面移行を抑え、さらにプラスチックフィルムを積層して得られる表面凹凸吸収用薄膜積層シートとして、基材表面の平滑性を向上させることができる。
【0025】
ゴム弾性体フィルムには、硫黄その他の無機加硫剤、硫黄化合物、有機過酸化物などの加硫剤または架橋剤、グアジニン系、チエゾール系、スルフェンアミド系などの加硫促進剤、酸化亜鉛等の金属酸化物、脂肪酸とその誘導体またはジエチレングリコール等の加硫促進助剤、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、ワックス等の老化防止剤、補強剤、タルク、クレー、ゴム粉末などの増量剤、ステアリン酸などの滑剤、その他の配合剤が適宜配合できる。
本発明のゴム弾性体フィルムにおいては、アクリロニトリルブタジエン系ゴム、カーボンブラック、酸化亜鉛および油状物質を含み、これに、老化防止剤、および滑剤を配合することが好ましい。
【0026】
アクリロニトリルブタジエン系ゴム100重量部に対して、老化防止剤の配合割合は1〜5重量部、滑剤の配合割合は0.1〜5重量部が好ましい。
【0027】
本発明に用いることができるゴム弾性体フィルムは、塗工法またはカレンダー加工法により製造できる。特に容易に薄膜ゴム弾性体フィルムを作製できる塗工法が好ましい。
塗工法は、上記のゴム組成物をロール等で混合した後、溶媒に溶解し、得られた液状ゴム組成物を支持シート面に塗布し、乾燥後に熱または放射線や電子線等で架橋する。
ゴム組成物の濃度は、ゴム組成物と溶媒の全体量に対して、10〜50重量%が好ましく、10重量%未満では塗膜厚さが得られず、50重量%をこえると、粘度が高くなって塗布が困難になる。
上記の溶媒としては、溶解度パラメータ(SP値)が8.0〜13.0のもの、例えばトルエン、メチルアルコール、シクロヘキサン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等の使用が好ましく、これらは、いずれか1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。また、上記の溶媒と相溶する非溶媒を使用することができる。
【0028】
ゴム組成物の溶解には、真空式脱泡装置付き攪拌機の使用が便利である。すなわち、ゴムと所望の添加剤とをあらかじめインターミックスやニーダー等で混練して得られたゴム組成物を溶剤と共に真空式脱泡装置付き攪拌機に投入し、大気圧下で攪拌、溶解し、しかるのち必要に応じて消泡剤を投入し、真空下、好ましくはゲージ圧−740mmHg 以上の高真空下で攪拌する。ただし、大気圧下での攪拌は5〜24時間程度が、また真空下での攪拌は断続的に5〜30分程度がそれぞれ好ましい。
【0029】
上記の溶解・攪拌によって得られたゴム溶液は、ロールコーターやコンマコーター、ナイフコーター、ダイコーター等によってポリエチレンテレフタレート等の離型性が良好な支持フィルム上に所定の厚みで所定の幅に塗布される。この離型性が良好な支持フィルムとしては、粗面加工を施したポリエチレンテレフタレートフィルムが例示できる。
ゴム溶液が塗布された支持フィルムは、オーブン内にて温度40〜130℃で好ましくは1〜30分間の加熱により乾燥される。そして、乾燥で得られた支持フィルム上のゴム弾性体フィルムが架橋される。
架橋は、熱による方法、電子線による方法、放射線による方法などを採用できる。
本発明において、油状物質を均一に配合する場合があるため、架橋は電子線照射が好ましい。電子線照射の際の搬送速度は、使用する電子線の強さに応じて設定されるが、100〜750KV、5〜1000kGyで4〜10m/分が好ましい。
【0030】
上記の方法は、脱泡したゴム溶液を寸法安定性の良好なポリエチレンテレフタレート製の支持フィルム上にロールコーターで塗布し、これを乾燥し、しかるのち電子線照射によって架橋するので、気泡が無く、厚みが均一で、幅が比較的広いゴムフィルムが製造できる。そして、上記の支持フィルムとして、剥離性の良好な支持フィルムを使用するので、架橋後の剥離が容易である。また、乾燥を40〜130℃で行なうので、支持フィルムに凹凸の生じることがなく、平坦なゴムフィルムが製造できる。更に、架橋を電子線照射で行ない、ゴムフィルムに加わる圧力が小さいので、支持フィルムとの離型性が良好に保たれる。
なお、脱泡したゴム溶液を直接樹脂シート上に塗布し、上記と同様に乾燥し、架橋することができる。
【0031】
上記ゴム弾性体フィルムはプラスチックフィルムとの積層体とすることで、表面凹凸吸収用薄膜積層シートが得られる。
使用できるプラスチックフィルムとしては、熱可塑性樹脂フィルムまたは熱硬化性樹脂フィルムを例示することができる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン等のフィルムが例示できる。また、熱硬化性樹脂フィルムとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等のフィルムが例示できる。
【0032】
本発明の表面凹凸吸収用薄膜積層シートは、JIS B 0601に規定する表面粗さ Rz が基材表面の表面粗さ Rz の35%以下である。このとき測定長さは8mmである。ここで基材表面の表面粗さ Rz は、基材表面自身の表面粗さおよび基材表面が転写されて現れる表面粗さをいう。
例えば、成形プレス用クッション材を用いないでプレスする場合、プレス対象物表面に、熱盤間に挿入される布材の表面粗さが転写される。プレス対象物としてポリエステルフィルム(東洋紡績(株)製、商品名E7002(厚さ100μm))を、布材として中興化成工業(株)製ファブリック400−22を用いると、プレス対象物のプレス後の表面粗さ(Rz)が38.29μmになる。
一方、ゴム弾性体フィルムまたはプラスチックフィルム(厚さ100μm)をクッション材として1枚用いると、プレス対象物のプレス後の表面粗さ(Rz)が14.41μm、15.88μmになる。この値は、それぞれ基材表面の表面粗さRzの37.6%、41.5%である。
しかし、成形プレス用クッション材を本発明の薄膜積層シートとすることにより、成形プレス用クッション材として1回用いた後のプレス対象物の表面粗さ(Rz)が14.41μm未満とすることができる。すなわち、基材表面の表面粗さ Rz の35%以下、好ましくは13〜26%の範囲とすることができる。
【0033】
本発明の表面凹凸吸収用薄膜積層シートは、家具類表面、家電製品の筐体表面、自動車内外装部材表面の凹凸を吸収するシートとして、または成形プレス用クッション材として、基材表面に優れた表面平滑性を付与することができる。
【実施例】
【0034】
各実施例および比較例に用いた材料を以下に示す。なお、括弧内は表1および表2における略号として用いられる場合を示す。
アクリロニトリルブタジエンゴム1(NBR1(AN=49%)):日本ゼオン(株)製、商品名NIPOL DN003
アクリロニトリルブタジエンゴム2(NBR2(AN=41%)):JSR(株)製、商品名N220S
アクリロニトリルブタジエンゴム3(NBR3(AN=18%)):日本ゼオン(株)製、商品名NIPOL DN401
エチレンプロピレン系ゴム(EPDM):三井化学(株)製、商品名EPT3045
クロロプレンゴム(CR):電気化学工業(株)製、商品名デンカクロロプレンS−40
カーボンブラック:東海カーボン(株)製、商品名シーストS
酸化亜鉛:井上石灰工業(株)製、商品名メタZ−60
油状物質1(クマロン−インデン樹脂系油):神戸油化学工業(株)製、商品名KGハイソフト
油状物質2(エステル系可塑剤):(株)アデカ製、商品名アデカサイザーPN6120
老化防止剤:精工化学(株)製、商品名ノンフレックスRD
滑剤:花王(株)製、商品名ルナックス150
ポリエステルフィルム(F1):東洋紡績(株)製、商品名E7002(厚さ100μm)
【0035】
ゴム弾性体例R1〜R8、および比較ゴム弾性体例R9
表1に示す原料ゴムに表1に示す各配合剤を配合し、インターミックス機(混練機)で混練し、厚み6mmのシートを分出しし、このシートを切断して1cm角の細片とした。得られた細片を、トルエンおよびメチルイソブチルケトン(MIBK)に対する重量割合が30重量%となるように秤量し、トルエンおよびメチルイソブチルケトン(MIBK)と共に真空脱泡装置付き攪拌機に投入し、大気圧下で12時間攪拌し、上記の細片をトルエンおよびメチルイソブチルケトン(MIBK)に溶解し、しかるのち消泡剤としてエマルジョンタイプのシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名「FSアンチフォームF−161」)を5重量部投入し、真空脱泡装置を駆動し、ゲージ圧−750mmHg の真空下で更に20分間攪拌し、脱泡した。
【0036】
次いで、上記の溶解、脱泡したゴム溶液(固形分率30%、粘度9Pa・s)をロールコーターに供給し、ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面を粗面加工してなる支持フィルム(東洋紡績(株)製、商品名「TN200」)を2m/分の速度で走行させながら、その表面に上記ゴム溶液を固形分付量が100g/m2となるように塗布し、続いてオーブンに導入し90℃で20分間乾燥し、更に連続して電子線照射装置に導き、200KV、100kGyの条件で電子線照射を2回行ない、しかるのち支持フィルムを剥離しながらゴム弾性体フィルム(厚み100μm)をロール状に巻取った。
【0037】
得られたゴム弾性体フィルムの硬さ、引っ張り強度、伸び、100%モジュラス、弾性率、損失正接を測定した。
硬さは、JISK6252法に準じて測定した。引っ張り強度、伸び、100%モジュラスは、JISK6251法に準じて測定した。
弾性率および損失正接は、動的粘弾性測定器(アイティー計測制御(株)製、DVA225)を用いて、5mm幅×30mm長さ(チャック間距離)の試料片を用いて引っ張り式により測定周波数10MHz、測定温度24℃にて測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0038】
実施例1〜実施例12、および比較例1〜比較例4
ゴム弾性体例および比較ゴム弾性体例で得られたゴム弾性体フィルムと、ポリエステルフィルムとを用いて、表面凹凸吸収用薄膜積層シートを作製した。積層シートは相互にニップロールにて密着させた。このシートを成形プレス用クッション材として用いた。クッション材の構成において、第1層が図1に示す対象物4側に位置する。
得られた成形プレス用クッション材3を図1に示す配置で熱盤5間に挟み込み、成形プレスした。図1は平滑性を評価するために用いた成形プレス装置の断面図である。用いた対象物4は東洋紡績(株)製E7002(厚さ100μm)であり、布材6は中興化成工業(株)製ファブリック400−22であり、成形プレス条件はプレス温度164℃、時間は20分間である。成形プレス後、クッション材3の表面3aの表面粗さを測定した。測定結果を表2に示す。
表面粗さはJIS B 0601に規定される、算術平均粗さ(Ra)、算術最大粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)を測定した。測定長さは8mmである。
【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の表面凹凸吸収用薄膜積層シートは、薄膜であっても基材表面の凹凸を吸収して表面を鏡面化することができるので、家具類表面、家電製品の筐体表面、自動車内外装部材表面等を鏡面化するのに用いることができる。また、表面を保護したり、表面に優れた意匠性を付与したりできる。
【符号の説明】
【0041】
1 ゴム弾性体フィルム
2 プラスチックフィルム
3 クッション材
4 対象物
5 熱盤
6 布材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に貼り付け、または積層することにより、該基材表面の凹凸を吸収して平滑にするための表面凹凸吸収用薄膜積層シートであって、
該表面凹凸吸収用薄膜積層シートは、前記基材表面に対してそれ自身接着性を有さないゴム弾性体フィルムおよびプラスチックフィルムから選ばれた少なくとも2枚のフィルムの積層体であり、1枚のフィルムの厚さが10〜300μmであり、積層体全体の厚さが20〜1000μmであり、該シートを貼り付けまたは積層後のシートのJIS B 0601に規定する表面粗さRzが前記基材表面の表面粗さRzの35%以下であることを特徴とする表面凹凸吸収用薄膜積層シート。
【請求項2】
前記ゴム弾性体フィルムは、24℃における10MHzで測定した損失正接(tanδ)が0.1〜0.45の範囲であり、24℃における10MHzで測定した弾性率(E’)が1〜6MPaの範囲であり、かつ前記弾性率と前記損失正接との比(E’/tanδ)が5〜35を有するゴム組成物のフィルムであることを特徴とする請求項1記載の表面凹凸吸収用薄膜積層シート。
【請求項3】
前記ゴム組成物が石油樹脂系合成油および可塑剤から選ばれた少なくとも1つの油状物質をゴム100重量部に対して5〜45重量部含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の表面凹凸吸収用薄膜積層シート。
【請求項4】
前記ゴムがアクリロニトリルブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシ基含有水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム、およびクロロプレンゴムから選ばれた少なくとも1つのゴムであることを特徴とする請求項2記載の表面凹凸吸収用薄膜積層シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−126176(P2011−126176A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287557(P2009−287557)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(591005006)クレハエラストマー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】