説明

表面加飾合成樹脂成形品

【課題】 本発明は、表面を塗膜層により被覆し、さらにこの塗膜層の一部に印刷層により文字や模様を描いて加飾した加飾合成樹脂成形品で、耐擦傷性と印刷層の密着性が共に十分に発揮されるようにすることを技術的な課題とするものである。
【解決手段】 合成樹脂成形品の表面を、塗装による塗膜層により被覆し、この塗膜層の一部にさらに印刷により印刷層を積層して加飾した表面加飾合成樹脂成形品において、塗膜層の、印刷層が積層される領域を塗膜の硬度が比較的低い低硬度塗膜層とし、その他の領域を塗膜の硬度が比較的高い高硬度塗膜層とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面を塗装による塗膜層と印刷層で加飾した加飾合成樹脂成形品に関する。

【背景技術】
【0002】
合成樹脂成形品は高級感を現出させる等の目的で、表面を塗装による塗膜層や印刷層、さらには金属蒸着膜層等により加飾して使用される場合が多い。
たとえば、特許文献1には合成樹脂成形品の表面に金属蒸着膜、紫外線(UV)硬化型のUV塗装膜、さらに印刷層を含む転写膜を積層した層構成が示されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−255561
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、合成樹脂成形品の表面を塗装による塗膜層で被覆し、さらにこの塗膜層の一部に印刷により文字や模様を描いて加飾する場合を想定すると、
塗膜層は成形品の色斑や光沢斑を隠して、鮮やかな色合いや高い光沢を付与する加飾機能と共に、摩擦等による成形品表面での傷の発生を抑制する機能、すなわち耐擦傷性を発揮させるために、たとえばUV硬化型の塗料を使用して表面硬度の高い塗膜を形成する必要がある。
【0005】
他方、この塗膜層の上に印刷層を積層して加飾しようとすると、塗膜層の表面硬度が高過ぎると、印刷層の塗膜層への密着性が低下して印刷層が剥がれる等の問題が生ずるため、上記した耐擦傷性とこの印刷層の密着性を高いバランスで発揮させることは製品設計上、従来から難しい問題であった。
【0006】
本発明は、表面を塗膜層により被覆し、さらにこの塗膜層の一部に印刷層により文字や模様を描いて加飾した加飾合成樹脂成形品で、耐擦傷性と印刷層の密着性が共に十分に発揮されるようにすることを技術的な課題とするものである。

【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決する手段に係る本発明の主たる構成は、
合成樹脂成形品の表面を、塗装による塗膜層により被覆し、この塗膜層の一部にさらに印刷により印刷層を積層して加飾した表面加飾合成樹脂成形品において、
塗膜層の、印刷層が積層される領域を塗膜の硬度が比較的低い低硬度塗膜層とし、その他の領域を塗膜の硬度が比較的高い高硬度塗膜層とする、と云うものである。
【0008】
上記構成の表面加飾合成樹脂成形品の特徴は、成形品の表面を被覆する塗膜層を、塗膜の硬度が比較的高い高硬度塗膜層領域と、硬度が比較的低い低硬度塗膜層領域に分けて構成する点にあり、
印刷層が印刷される領域では、塗膜層の耐擦傷性とのバランスを考慮することなく、塗膜の硬度を印刷層の密着性が十分になるように低くし、他方その他の領域では印刷層の密着性を考慮することなく、塗膜の硬度を耐擦傷性が十分発揮できるよう高くすることができ、
また、印刷層自体はたとえばUV硬化型のインクを用いて印刷し、UV硬化させることによりその耐擦傷性を十分高くすることができ、
塗膜層と印刷層により加飾された表面加飾合成樹脂成形品の耐擦傷性と印刷層の密着性を共に、十分に発揮させることが可能となる。
【0009】
なお上記構成では、高硬度塗膜層と低硬度塗膜層の塗膜の硬度の相対的な高低と云う観点から比較的高い硬度、あるいは比較的低い硬度と記載している。
ここで、塗膜層の形成に使用する市販の塗料では、多くの場合、その成分組成により塗膜のおおよその硬度が分かるようになっているので、その中から高硬度塗膜層あるいは低硬度塗膜層に適した塗料を数種類選択して事前に確認し、各々に適した塗料を使用する。
また、塗装に使用するスプレーガンの向きの調整や、あるいはマスキングを使用することにより、塗膜層を低硬度塗膜層と高硬度塗膜層に分けて形成することができる。
【0010】
本発明の他の構成は、上記主たる構成に加えて、高硬度塗膜層の鉛筆硬度を2H以上とし、低硬度塗膜層の鉛筆硬度をH以下とし、印刷層の鉛筆硬度を2H以上とする、と云うものである。
【0011】
高硬度塗膜層と低硬度塗膜層の硬度や、あるいは印刷層の硬度をどの程度に設定するかは、成形品の使用環境や使用態様、塗膜層と印刷層の耐擦傷性や印刷層の密着性を考慮して適宜設定できるものであるが、
耐擦傷性と密着性を共に十分発揮させるために、上記構成にあるように高硬度塗膜層の鉛筆硬度を2H以上とし、低硬度塗膜層の鉛筆硬度をH以下とし、印刷層の鉛筆硬度を2H以上とすることが好ましい。
尚、本出願における塗膜層、印刷層の鉛筆硬度の測定は、JIS K5400 8.4.1に準じて行う。また、印刷層の密着性の判定は、JIS K5400 8.5.2に準じて行い、表18における評価点数8以上を合格とする。
【0012】
ここで、高硬度塗膜層に使用し塗膜の鉛筆硬度が2H以上となる塗料の例としては、UV硬化型の樹脂としてエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、3官能以上のウレタンアクリレートの単体または混合物を成分として含むものがあり、また、低硬度塗膜層に使用し塗膜の鉛筆硬度がH以下となる塗料の例としては、UV硬化型の樹脂としてポリエステルアクリレート、3官能以下のウレタンアクリレートの単体または混合物を成分として含むものがある。スプレー塗装の場合、塗装に適する粘度にするため、これらの樹脂に有機溶剤が配合されるのが一般的である。勿論、特にこれら塗料に限定されるものではない。
また、印刷層に使用し印刷層の鉛筆硬度が2H以上となる印刷インクの例としては、UV硬化型樹脂として例えばウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル等を成分として含むUV硬化型インキがある。勿論、これも特に限定されるものではない。

【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記した構成となっているので、以下に示す効果を奏する。
すなわち本発明の表面加飾合成樹脂成形品の特徴は、成形品の表面を被覆する塗膜層を、塗膜の硬度が比較的高い高硬度塗膜層領域と比較的低い低硬度塗膜層領域に分けて構成する点にあり、印刷層が印刷される領域では、塗膜層の耐擦傷性とのバランスを考慮することなく塗膜の硬度を印刷層の密着性が十分になるように低くし、他方その他の領域では印刷層の密着性を考慮することなく、塗膜の硬度を耐擦傷性が十分発揮できるよう高くすることができ、また、印刷層自体はたとえばUV硬化型のインクを用いて印刷し、UV硬化させることによりその耐擦傷性を十分高くすることができ、塗膜層と印刷層により加飾された表面加飾合成樹脂成形品の耐擦傷性と印刷層の密着性を共に、十分に発揮させることができる。

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の表面加飾合成樹脂成形品の一実施例の斜視図である。
【図2】図1中のA−A線に沿って示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、実施例に沿って図面を参照しながら説明する。
図1と図2は本発明の表面加飾合成樹脂成形品の一実施例を示すもので、図1は斜視図、図2は図1中のA−A線に沿って示す縦断面図である。
この成形品1はABS樹脂製の射出成形品で、矩形状のコンパクト容器の蓋部分である。
【0016】
次に、図2を参照してこの成形品1の加飾に係る層構成を説明する。
図2の縦断面図に示されるように、成形品1の天面1t、側面1s、そして下面1uを含む表面全体には、アンダーコート層2、アルミニウム蒸着層3、塗膜層4が順次積層されており、また天面1tの全領域に亘って印刷層5が積層されている。
【0017】
ここで、アンダーコート層2はスプレー塗装で形成され、アルミニウム蒸着層3を基材となる成形品1の表面に密着させる機能を発揮する。
アルミニウム蒸着層3は真空蒸着法によりアンダーコート層2上に形成する。
また、透明な塗膜層4はスプレー塗装で形成され、アルミニウム蒸着層3の保護層としての機能を発揮すると共に、アルミニウム蒸着層3による金属調の光沢を現出させて高級感を付与する加飾機能、印刷層5の基材としての機能、成形品1の表面の摩擦等による傷付きを防ぐ機能すなわち耐擦傷性を発揮する。
また、印刷層5は有色透明なインクによるベタ印刷層5aと、着色インクにより図案化された文字(abcdefgh)を現出する文字印刷層5bから構成されている。ベタ印刷層5aは有色透明なインクにより形成されており、アルミニウム蒸着の金属光沢が透過して見えるため、高級感が現出される。
【0018】
そして、本実施例で塗膜層4は、UV硬化型塗料が使用され、スプレー塗装で形成される。塗膜層4は、天面1tの全領域に亘って形成される低硬度塗膜層4bと、その他の側面1sと下面1uを含む領域に形成される高硬度塗膜層4aとの2つの領域に分かれており、高硬度塗膜層4aでは塗膜の鉛筆硬度が2H以上になるように、また低硬度塗膜層4bでは塗膜の鉛筆硬度がH以下になるようにする。
これら低硬度塗膜層4bと高硬度塗膜層4aは、それぞれの塗膜の硬度を考慮して塗料を選択し、塗装に使用するスプレーガンの向きや成形品の回転方向を調整しながら塗装することにより、天面1tの全領域と、天面1tを除く側面1sと下面1uを含む領域に分けて形成することができ、その後、UVを照射することにより、塗料を硬化させる。
【0019】
ここで、塗膜の鉛筆硬度が2H以上となるUV硬化型塗料の例としては、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、3官能以上のウレタンアクリレートの単体または混合物等があり、また、塗膜の鉛筆硬度がH以下となる塗料の例としてはポリエステルアクリレート、3官能以下のウレタンアクリレートの単体または混合物があるが、特にこれら塗料に限定されるものではない。
【0020】
また、本実施例でベタ印刷層5aと着色して図案化された文字(abcdefgh)を現出する文字印刷層5bから構成されているが、この印刷層5はUV硬化型のインクを使用しインクジェット印刷法により印刷したものであり、印刷後直ちにUVが照射され、インクが硬化する。使用される印刷インクは、印刷インクの成分組成を選択し、硬化後の印刷層表面の鉛筆硬度が2H以上となるようにする。
【0021】
ここで、印刷層の鉛筆硬度が2H以上となる印刷インクの例としては、UV硬化型樹脂として例えばウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル等を成分として含むUV線硬化型インキ等を使用することができ、中でもエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、3官能以上のウレタンアクリレートの単体または混合物が適しているが、特にこれらのインクに限定されるものではない。
【0022】
そして、本実施例の表面加飾した成形品では、成形品1が全表面に亘って、鉛筆硬度が2H以上の高硬度塗膜層4aと、印刷層5により被覆されているので、全表面に亘って十分な耐擦傷性が発揮される。
また、印刷層5は鉛筆硬度がH以下の低硬度塗膜層4bに積層しているので、十分な密着性があり印刷層5の剥がれを十分に防ぐことができる。
【0023】
ここで、上記実施例において、高硬度塗膜層4aの鉛筆硬度を3H、低硬度塗膜層4bの鉛筆硬度をHB、印刷層5の鉛筆硬度を4Hとした成形品について印刷層5の密着性の評価をJIS K5400 8.5.2に準じて行ったところ、全く剥離がなかった。
また、比較例として、天面1t、側面1s、下面1uの全ての領域で上記実施例において鉛筆硬度が3Hの高硬度塗膜層4aを形成した塗料を使用して塗膜層4を形成した以外は、全て実施例と同様に成形品を作製し、上記印刷層5の密着性の評価を行ったところ、印刷層5が塗膜層4との界面から剥離した。
また、比較例2として、天面1t、側面1s、下面1uの全ての領域で実施例において低硬度塗膜層4bを形成した塗料を使用して塗膜層4を形成した以外は、全て実施例と同様に成形品1を作製し、上記印刷層5の密着性の評価を行ったところ全く剥離がなかったが、鉛筆硬度が4Hの印刷層5で被覆されている天面1tを除く表面は鉛筆硬度がHBの塗膜層4で被覆されているので耐擦傷性が不十分であった。
【0024】
以上、実施例に沿って本発明の構成とその作用効果を説明したが、本発明の表面加飾合成樹脂成形品はこの実施例に限定されるものではない。
まず、上記実施例ではアルミニウム蒸着層を有する構成とし、塗膜層を透明なものとしたが、アルミニウム蒸着層のない層構成、塗膜層を着色不透明な構成とすることもでき、さらには塗膜層の上に印刷層を積層すると云う本発明の基本的な層構成の範疇の中で、使用条件や加飾目的を考慮して他の加飾層を積層する等、様々な加飾態様とすることができる。
【0025】
また、上記実施例では成形品1の全表面を塗膜層4で被覆する構成としたが、必ずしも成形品の全表面を被覆する必要はなく、たとえば上記実施例の成形品1で下面1uを被覆しない等、成形品の形状や使用態様によって目に触れない部分は被覆しない等の構成とすることができる。
また、塗膜層4については高硬度塗膜層4aと低硬度塗膜層4bを部分的に重ねて積層することもできる。
【0026】
また、上記実施例では、成形品1の天面1t全体を低硬度塗膜層4bとしたが、成形品の表面で高硬度塗膜層4a領域と低硬度塗膜層4b領域をどのように配分するかは、成形品の形状、印刷層を形成する範囲、使用態様、さらには塗装あるいは印刷工程の生産性を考慮して適宜決めることができる。
例えば、図1中に2点鎖線で示したような矩形領域に低硬度塗膜層4bを限定し、この限定された領域に印刷層5を積層する構成とすることもでき、このように天面1tの限定した領域に低硬度塗膜層4bを形成する場合には、マスキング法を使用して両領域を分けるのが有効である。
【0027】
また、上記実施例では印刷層5は有色透明なインクによるベタ印刷層5aと、着色インクにより図案化された文字(abcdefgh)を現出する文字印刷層5bから構成するとしたが、使用されるインクは無色透明、有色透明、着色インクを適宜選択でき、様々な色調、デザインが選択できる。
また、上記実施例ではベタ印刷層5aと文字印刷層5bを図2に示されるように、いずれも低硬度塗膜層4b上に印刷する構成としたが、ベタ印刷層5aの上に文字印刷層5bを印刷する等、印刷層の上に印刷層を重ね、印刷層を多層に形成することもできる。
この場合、印刷層の表面の鉛筆硬度が2H以上であっても、同様な成分組成のインクを使用することにより、重ねて印刷しても層間の密着性は確保できる。
また、印刷方式としてはインクジェット印刷法に限らず、スクリーン印刷方式、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等、従来、知られている印刷方式で実施できる。

【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明したように、本発明の表面加飾合成樹脂成形品は表面の耐擦傷性と印刷層の密着性が共に高いレベルで発揮でき、表面の擦傷や印刷層の剥がれによる加飾機能の低下がなく、高品位な加飾状態を長期間保持することができるものであり、化粧料容器等の用途での幅広い利用が期待される。

【符号の説明】
【0029】
1 ;成形品
1t;天面
1s;側面
1u;下面
2 ;アンダーコート層
3 ;アルミニウム蒸着層
4 ;塗膜層
4a;高硬度塗膜層
4b;低硬度塗膜層
5 ;印刷層
5a;ベタ印刷層
5b;文字印刷層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂成形品の表面を、塗装による塗膜層(4)により被覆し、該塗膜層(4)の一部にさらに印刷により印刷層(5)を積層して加飾した合成樹脂成形品であって、前記塗膜層(4)の、前記印刷層(5)が積層される領域を塗膜の硬度が比較的低い低硬度塗膜層(4b)とし、その他の領域を塗膜の硬度が比較的高い高硬度塗膜層(4a)とする構成としたことを特徴とする表面加飾合成樹脂成形品。
【請求項2】
高硬度塗膜層(4a)の鉛筆硬度を2H以上とし、低硬度塗膜層(4b)の鉛筆硬度をH以下とし、印刷層(5)の鉛筆硬度を2H以上とした請求項1記載の表面加飾合成樹脂成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−91481(P2012−91481A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243082(P2010−243082)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】