説明

表面増強ラマン分光分析用基板

【課題】長期保存が可能で、高い再現性を有し、高感度な表面増強ラマン分光分析用基板を、簡易に、短時間に、大量生産できるようにする。
【解決手段】金、銀、銅、又は白金族の金属ナノ微粒子と熱可塑性樹脂ナノ粉末とを分散混合した液状組成物を、熱可塑性基板上に塗布し、金属ナノ粒子の溶融温度以下で加熱プレスして、基板上にナノ微粒子を分散定着させ、露出させて使用される表面増強ラマン分光分析用基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境用や医療用等の高感度センサや高機能触媒等のナノ構造材料に用いるのに好適な、短時間で容易に作成でき、長時間保存及び大量生産が可能で安価な表面増強ラマン分光分析用基板の作成方法、及び、この方法により作られた表面増強ラマン分光分析用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光分析は、試料にレーザを照射することにより発生するラマン散乱光を検出する分析法で、生化学物質の同定に極めて有効な分析技術である。しかし問題点として、ラマン散乱光がレーザの反射光(レイリー散乱)と比較し、極めて微弱なことが挙げられる。これを解決するのが、金属ナノ粒子表面における電場増強効果を利用した表面増強ラマン分光法である。
【0003】
この表面増強ラマン分光法では、ナノ粒子を持つ基板の作成が鍵となる。従来技術として、(1)銀コロイドを溶液中に分散させるもの(特許文献1、2、非特許文献1、2、3)、(2)銀ナノ粒子をガラス基板上に吸着させるもの(特許文献3)、(3)銀を電子ビームリソグラフィによりパターニングする等の方法が挙げられる。
【0004】
又、銀微粒子の露出方法として、銀薄膜の製作のために、分散剤を加えた上で銀鏡反応を行なった例が報告されている(非特許文献4)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−146295号公報
【特許文献2】特開平11−61209号公報
【特許文献3】特許第3714671号公報
【非特許文献1】S.Nie and S.R.Emory,Science.275,1102(1997)
【非特許文献2】K.C.Grabar,P.C.Smith,M.D.Musick,J.A.Davis,D.G.Walter,M.A.Jackson,A.P.Guthrie and M.J.Natan,J.Am.Chem,Soc.,118,1148(1996)
【非特許文献3】R.M.Bright,M.D.Musick and M.H.Natan,Langmuir,14,5695(1998)
【非特許文献4】赤沢力、菅沼進「銀超微粒子皮膜作製技術の開発」埼玉県産業技術総合センター研究報告第2巻(2004)194−196頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表面増強ラマン分光分析基板に求められるものは、作成の容易さ、再現性、高感度である。基板は消耗品であるために、できる限り安価であることが望まれる。しかしながら、例えば(3)の電子ビームリソグラフィによる基板作成では、再現性は高いものの、基板自体が高価になってしまう。又、(1)の銀コロイドを溶液中に分散させるものや、(2)銀ナノ粒子をガラス基板上に吸着させるものは、作成に時間がかかるだけでなく長期保存ができないという問題点を有する。
【0007】
又、非特許文献4では、本発明で利用した銀ナノ微粒子露出技術が、銀薄膜の製作に応用されているが、表面増強ラマン分光分析用基板への応用はなかった。
【0008】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、作成が容易で、再現性が高く、高感度で、長期保存が可能な表面増強ラマン分光分析用基板を提供可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、銀ナノ粒子に代表される表面増強ラマン効果を有する金属ナノ粒子を分散媒を利用して分散させてなる分散液に熱可塑性樹脂微粉末を所定の比率で分散させ、この分散液を基板上に塗布し、加熱押圧することにより分散媒を分散膜から逃散させると同時に分散膜を基板に定着させると、金属ナノ粒子が熱可塑性樹脂粉末を介して一定の間隔で分散して基板上に定着することを見出し、前記課題を解決したものである。
【0010】
本発明は、金、銀、銅、又は白金族の金属ナノ粒子を分散媒により分散させた分散液に所望の分布密度に応じて所望比率の熱可塑性樹脂粉末を混合分散させてなる液状組成物を調整する工程と、該液状組成物を用いて基板上に塗布膜を形成する工程と、液状組成物を塗布した基板を加熱押圧して塗布膜を基板上に定着する工程からなり、基板上の塗布膜に金属ナノ粒子を分散させることを特徴とする表面増強ラマン分光分析用基板の作成方法にある。
【0011】
ここで、樹脂粉末としては金属ナノ粒子の溶融温度以下で溶融または軟化する熱可塑性微粉末が好ましく、微粉末(1μ以下)とすることにより溶融温度を低下させることができる。分散媒としては以下の加熱押圧条件で揮発蒸散することができる溶媒が選ばれるのが好ましい。また、上記塗布膜は3〜10μ厚で形成されるが、少ない金属ナノ粒子を有効に露出させるには薄い方が好ましい。また、加熱押圧時に幾分延伸されるのが好ましく、熱可塑性樹脂粉末から形成される。基板としてはガラス基板を使用することもできるが、分散用として使用される熱可塑性樹脂粉末と同種のものを使用するのが定着性に優れる。特に、アクリル樹脂粉末とアクリル樹脂基板を用いるのが好ましい。
【0012】
本発明によれば、金属ナノ粒子を分散媒を介してより大きな粒径の熱可塑性樹脂微粉末表面に分散させ、この分散液を塗布して金属ナノ粒子が分散した薄膜を形成した基板を加熱押圧することにより、分散媒を分散膜から逃散させると同時に分散膜を基板に定着させて金属ナノ粒子を基板上に分散させているので、表面増強ラマン分光分析用基板が安価に製造することができる。しかも基板上の金属ナノ粒子は通常膜成分で覆われ、使用前にこれを研磨等で露出させるので、耐久性に優れる。また、金属ナノ粒子の凝集又は分散間隔、分散密度は金属ナノ粒子に対する熱可塑性樹脂粉末の粒径、混合比率により調整することができるので、再現性の高い基板とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
本実施形態は、市販の銀超微粒子液(銀ナノ粒子20〜50nm)を用意し、これにエタノールを加えて分散媒の一部または全部をエタノールで置換し、分散媒の80重量%以上をエタノールとする。
【0015】
次いで、この銀超微粒子液にアクリル樹脂微粉末(平均粒径1μm)を銀微粒子換算で1000倍以上となるように加えて十分に攪拌して分散液を調製する。分散密度に応じて両者の混合比率が定められるが、銀ナノ/アクリル樹脂の重量比は100ppmから5000ppmが好ましい。
【0016】
この分散液をアクリル樹脂板上に塗布し、分散媒を加熱蒸散可能で、かつアクリル樹脂粉末を膜状に成形し、しかも分散させる金属ナノ粒子を溶融しない温度を選んで加熱押圧する。本実施例の場合、80℃前後の温度を選択し、加熱押圧すると、分散膜中のアルコールは逃散し、アクリル樹脂粉末はやや軟化または表面溶融してアクリル樹脂板上に定着される。この際銀ナノ粒子は溶融することなく、アクリル樹脂粉末表面に分散している状態でアクリル樹脂により定着される。銀ナノ粒子はアクリル樹脂粉末粒径の間隔で分散された状態で層上に形成されるアクリル膜上定着されることになるが、使用前に研磨等で露出して使用するようにすると保存性に優れるので好ましい。
【0017】
本発明にかかる基板を研磨して銀ナノ粒子の表面を露出させ、使用すると、銀ナノ粒子間に熱可塑性樹脂粉末が介在することにより一定の間隔で樹脂粉末の間隙に分散し、凝集する。したがって、銀ナノ粒子の有無による測定結果により増強効果が顕著に表れ、表面増強ラマン効果が得られることになる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金、銀、銅、又は白金族の金属ナノ粒子を分散媒により分散させた分散液に所望の分布密度に応じて所望比率の熱可塑性樹脂微粉末を混合分散させてなる液状組成物を用意する工程と、該液状組成物を用いて基板上に塗布膜を形成する工程と、液状組成物を塗布した基板を加熱押圧することにより分散媒を塗布膜から逃散させると同時に塗布膜を基板上に定着する工程からなり、基板上の塗布膜に金属ナノ粒子を分散させることを特徴とする表面増強ラマン分光分析用基板の作成方法。
【請求項2】
使用前に塗布膜を研磨して銀ナノ粒子表面を露出させる請求項1記載の作成方法。
【請求項3】
金、銀、銅、又は白金族の金属ナノ粒子と該金属ナノ粒子を分散媒を介してより大きな粒径の熱可塑性樹脂微粉末表面に分散させてなる分散液を塗布してなる金属ナノ粒子分散膜を形成した基板を加熱押圧し、分散膜を基板に定着させて金属ナノ粒子を基板上に分散させてなることを特徴とする表面増強ラマン分光分析用基板。

【公開番号】特開2009−281845(P2009−281845A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133807(P2008−133807)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(508139538)有限会社マイテック (4)
【Fターム(参考)】