説明

表面変性熱可塑性樹脂微粒子及びその製造方法

【課題】 長期間に亘り親水性を保持でき、吸湿性、保湿性や水に対する再分散性に優れる親水性の高分子微粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂(A)と前記熱可塑性樹脂(A)に対して相溶性がない水溶性乳化媒体(B)とを溶融混合又は混練し、水溶性乳化媒体(B)で構成されたマトリックス中に熱可塑性樹脂(A)からなる高分子微粒子が分散した分散体を生成させ、水で水溶性乳化媒体(B)を溶解、除去し、高分子微粒子を得る。この微粒子を、イミド結合で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、酸素原子含有ガスで処理することにより、微粒子表面の高分子鎖に極性基を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂特には疎水性ポリマーで構成されていながら、水性溶媒への分散性が優れる表面変性熱可塑性樹脂微粒子とその製造方法に関する。本発明は、また、前記表面変性熱可塑性樹脂微粒子を含む水性懸濁液とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子微粒子を、水を主体とする親水性溶媒に分散させた水性懸濁液は、高分子微粒子の形状が球状であるため、種々の用途、例えば、化粧品用微粒子、電子写真用トナーなどに利用されている。一方、モノマーを懸濁液で構成した反応溶液中で重合させた高分子微粒子の水性エマルジョンの大部分が水で構成されているため、輸送コストの低減などは困難である。そのため、乾燥状態の高分子微粒子であって、使用に際して、水系又はアルコール系溶媒などの親水性溶媒に再分散して使用できれば有用である。また、水性エマルジョンの状態で高分子が得られる反応系は限られており、そのため目的に応じた様々な高分子を幅広く選択することは困難である。そして、熱可塑性樹脂一般でこのような微粒子の水性溶媒の懸濁液を得ることができれば上記のさまざまな用途に最適の高分子を選択して使用することができ好適である。
【0003】
熱可塑性樹脂微粒子そのものが水性溶媒に分散した安定した懸濁液となっている場合には、化粧品、水性インクジェットプリンタインキなどの用途に用いるのに有用である。このように、水性溶媒の懸濁液の成分として熱可塑性樹脂微粒子を用いるためには、水性溶媒中で微粒子が安定した分散状態を保つこともまた非常に重要である。高分子微粒子の水性溶媒の懸濁液中での安定状態は高分子の表面張力及び比重も特に関係がある。高分子微粒子の表面張力が低い場合には、親水性溶媒と高分子固相との界面の表面張力が作用して、微粒子が水性溶媒に簡単に分散せずダマを形成したりする。この現象は球状微粒子の構成高分子の比重が小さい場合には特に顕著になる。以上の通り、表面張力が低い、すなわち疎水性が高くかつ比重が軽いような熱可塑樹脂を球状微粒子にした場合には、このような微粒子の安定した水性の懸濁液を作ることは更に困難となる。
【0004】
親水性溶媒に対する高分子微粒子の分散性を高めるためには、高分子微粒子が親水性基を有しているのが有利である。しかし、乾燥した高分子微粒子を製造する過程で、粒子間に水素結合が形成され、微粒子同士が強固に結合し、再分散性を低下させる。これに対して、疎水性ポリマーで構成された粒子では、粒子間の凝集が少なくても親水性溶媒に対する再分散性が劣る。特に、ポリスチレンあるいは環状ポリオレフィンのように、微粒子がπ−π結合による相互作用の強い高分子で構成されていると、これらの高分子で形成された微粒子同士の凝集力も強く、再分散が非常に困難であるし、水性溶媒の中での分散状態も安定しない。
【0005】
これら熱可塑性樹脂の中でも特に環状ポリオレフィンはその比重が軽く、水性溶媒との比重の調整が容易である。環状ポリオレフィンは屈折率が高く、優れた透明性を持っているので、化粧品用途などに用いることができれば有用である。しかしながら、上記の問題があり、環状ポリオレフィンを用いた微粒子を水性溶媒に分散した安定した懸濁液は存在しなかった。
【0006】
このような課題を解決するため、高分子粒子を水溶性高分子でコーティングすることが考えられる。例えば、保護剤成分を共存させて乳化重合し、乾燥させることにより、再分散性の高い高分子粒子を得ることが考えられる。特開2000−53711号公報(特許文献1)には、アニオン変性ポリビニルアルコールの存在下、ビニル系単量体組成物を水性媒体中で乳化重合し、生成した水性エマルジョンを乾燥することが開示されている。しかし、得られた高分子粒子は、使用に伴って水溶性高分子が消失するため、長期間に亘り吸湿性及び保湿性を維持することが困難である。
【0007】
一方、特開昭60−13816号公報(特許文献2)及び特開昭61−9433号公報(特許文献3)には、熱可塑性樹脂と水溶性高分子(ポリエチレンオキサイドなど)とを溶融混練した後、水溶性高分子を水で溶解して熱可塑性樹脂粒子を製造することが記載されている。また、特開平10−176065号公報(特許文献4)には、微粉末化する熱可塑性樹脂(a)に、他の1種類以上の熱可塑性樹脂(b)を溶融混練することにより、熱可塑性樹脂(a)が分散相を形成し、熱可塑性樹脂(b)が連続相を形成する組成物を生成させ、熱可塑性樹脂(a)は溶解せず、熱可塑性樹脂(b)が溶解する溶媒及び条件で前記組成物を洗浄することにより、熱可塑性樹脂(a)の球状微粒子を得る方法が開示されている。さらには、特許第3176925号公報(特許文献5)には、(A)不相溶性である第一の固体材料と第二の固体材料を溶融し;(B)この第一材料と第二材料の溶融混合物に剪断を適用して第一材料と第二材料の乳濁物を生成し、それによって第一材料の微細球状液粒が他方の材料の中に分散され:(C)この分散物を冷却して少なくとも第一材料を固体化し;(D)そしてこの冷却された分散物から第二材料を除去して第一材料の球状粒子を生じる;工程を含む、球状粒子の製造方法が開示され、第二材料が重合体材料(ポリエチレングリコールなど)やカラメルであること、第二材料が水溶性であり、溶剤が水であることが記載されている。これらの文献には、水溶性高分子として、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどが記載されている。
【0008】
しかし、これらの方法では、水溶性高分子を樹脂粒子から溶出するため、親水性の微粒子を得ることは困難である。そのため、吸湿性、保湿性や水に対する再分散性などを高分子微粒子に付与することが困難である。
【0009】
特開2004−51942号公報(特許文献6)には、熱可塑性樹脂などの樹脂成分と少なくともオリゴ糖で構成された水溶性助剤成分とで分散体を形成し、熱可塑性樹脂粒子を製造すること、助剤成分はオリゴ糖と水溶性可塑化成分とで構成できることが開示されている。しかし、この文献に記載の方法でも、水溶性助剤成分を水で溶解して除去するため、親水性の微粒子を得ることは困難である。
【特許文献1】特開2000−53711号公報
【特許文献2】特開昭60−13816号公報
【特許文献3】特開昭61−9433号公報
【特許文献4】特開平10−176065号公報
【特許文献5】特許第3176925号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2004−51942号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、長期間に亘り親水性を保持でき、吸湿性、保湿性に優れるとともに、水性溶媒に分散した場合に安定した分散状態を保つ熱可塑性樹脂微粒子とその効率的な製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、水性溶媒中で安定した分散状態を保つ熱可塑性樹脂微粒子水性懸濁液及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の更なる目的は、疎水性ポリマーからなる親水性の熱可塑性樹脂微粒子とその製造方法、及び該熱可塑性樹脂微粒子を含む水性懸濁液とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂微粒子に対して特定の処理を施すと、長期間に亘り親水性を保持でき、吸湿性、保湿性に優れるとともに、水性溶媒に安定に分散する熱可塑性樹脂微粒子が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂からなる微粒子の分散液に、前記熱可塑性樹脂に対して反応性を有する反応性ガスを供給して、前記微粒子の表面を変性することを特徴とする表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法を提供する。
【0015】
この製造方法において、下記式(I)
【0016】
【化1】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下で微粒子の表面を反応性ガスで変性してもよい。
【0017】
反応性ガスとして酸素原子含有ガスを用いることができる。
【0018】
熱可塑性樹脂からなる微粒子として、水溶性乳化媒体中に熱可塑性樹脂が分散している分散体を水性溶媒で溶解又は溶出処理して得られる微粒子を用いることができる。
【0019】
微粒子を構成する熱可塑性樹脂は疎水性ポリマーであってもよい。
【0020】
微粒子を構成する熱可塑性樹脂には、主鎖が飽和炭素鎖である炭化水素系ポリマーが含まれる。また、微粒子を構成する熱可塑性樹脂は環状オレフィンモノマー重合体であってもよい。
【0021】
微粒子は2種以上の熱可塑性樹脂からなる複合高分子微粒子であってもよい。この場合、微粒子は芯部と殻部とで構成されたコア−シェル構造を有していてもよい。
【0022】
本発明は、前記の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法により製造された表面変性熱可塑性樹脂微粒子を提供する。
【0023】
本発明は、さらに、前記の表面変性熱可塑性樹脂微粒子を水性溶媒に懸濁させた表面変性熱可塑性樹脂微粒子水性懸濁液を提供する。
【0024】
本発明は、さらにまた、前記の表面変性熱可塑性樹脂微粒子を水性溶媒に懸濁させることを特徴とする表面変性熱可塑性樹脂微粒子水性懸濁液の製造方法を提供する。
【0025】
なお、本明細書において、「高分子」「疎水性ポリマー」「親水性ポリマー」「水溶性高分子」「プラスチック」「熱可塑性樹脂」という用語は「新版高分子辞典」(朝倉書店発行 高分子学会編:19988年11月25日初版)の定義による。但し、高分子微粒子、あるいは高分子微粒子の構成物質として「高分子」という用語を用いている場合は上記の「新版高分子辞典」の「プラスチック」という用語と同義であり、天然および合成樹脂を主原料に、これに充填剤、可塑剤、安定剤、顔料などの添加剤を加えたものを意味する。また「樹脂」という用語はJIS工業用大辞典 (財団法人 日本規格協会発行・編集:1996年10月20日発行 第3刷)の広義の意味、すなわち「プラスチック用の基盤材料であるいくつかの重合体を明示するためにも使用される。」と同一の意味である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱可塑性樹脂微粒子の分散液に、該微粒子を構成する熱可塑性樹脂に対して反応性を有する反応性ガスを供給して微粒子表面を変性(親水性化)するので、疎水性ポリマーであっても長期間に亘り親水性を保持でき、吸湿性、保湿性に優れるとともに、水性溶媒に分散した場合に安定した分散状態を保つ熱可塑性樹脂微粒子、並びに水性溶媒中で安定した分散状態を保つ熱可塑性樹脂微粒子水性懸濁液を、簡易に且つ効率よく製造できる。
【0027】
また、熱可塑性樹脂を分散相とし、水溶性乳化媒体をマトリックスとする分散体を水性溶媒で溶解又は溶出処理して得られる熱可塑性樹脂微粒子を用いると、表面変性熱可塑性樹脂微粒子をより簡易に効率よく製造できる。また、前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物を触媒として用いて熱可塑性樹脂微粒子の表面を反応性ガス(例えば酸素原子含有ガス等)で処理すると、熱可塑性樹脂微粒子の表面を極めて効率よく変性できる。
【0028】
さらに、本発明によれば、熱可塑性樹脂微粒子(高分子微粒子)の表面を変性するので、従来の水溶性高分子を含む微粒子のように水溶性高分子の溶出に伴う微粒子の親水性等の物性の経時劣化がなく、長期に亘り親水性等の物性を保持できる。また、水溶性高分子を含む微粒子の場合は、水溶性高分子の溶出に伴い、水性溶媒の溶液粘度の変化が生じるが、本発明によれば、このような問題を解消できる。
【0029】
さらには、水溶性高分子を必須成分として含む必要がないので、二種類の高分子からなる複合粒子を得る場合でも、目的に応じた高分子の選択の巾が広がる。例えば、熱可塑性樹脂を分散相とし、水溶性乳化媒体をマトリックスとする分散体を水性溶媒で溶解又は溶出処理する方法(以下、「強制乳化法」と称する場合がある)により、水性溶媒に対して分散性の良い熱可塑性樹脂微粒子を得ようとする場合、熱可塑性樹脂として疎水性ポリマーと親水性ポリマー(又は水溶性ポリマー)とを用いる方法が考えられる。しかし、この方法では、熱可塑性樹脂を分散相とし、水溶性乳化媒体をマトリックスとする溶融分散体の段階では親水性ポリマーがマトリックスとの溶融表面張力差が少ないので微粒子の最外層に位置することになる。従って、最外層が疎水性ポリマーからなる微粒子を形成できない。これに対し、本発明の方法によれば、高分子微粒子の表面を反応性ガスにより親水性化して、水性溶媒に対して分散性の良好な微粒子とするので、強制乳化法を用いて二種類の高分子からなる複合粒子を得る際、疎水性ポリマーを最外層に配置した複合粒子を形成してもよいことなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法では、熱可塑性樹脂(以下、「熱可塑性樹脂(A)」と称する場合がある)からなる微粒子の分散液に、前記熱可塑性樹脂に対して反応性を有する反応性ガスを供給して、前記微粒子の表面を変性する。
【0031】
[熱可塑性樹脂(A)]
微粒子を構成する熱可塑性樹脂(A)としては、特に限定されず、種々の熱可塑性樹脂が使用できる。代表的な熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニルポリマー[ポリスチレン(スチレン系高分子)、ポリオレフィン(オレフィン系高分子)、アクリル樹脂(アクリル系高分子)、ハロゲン含有樹脂、ビニルエステル樹脂又はその誘導体など)]、縮合系熱可塑性樹脂(ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ(チオ)エーテル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミドなど)、天然物由来樹脂(セルロースエステルなど)などが例示できる。これらの樹脂は単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0032】
スチレン系高分子としては、スチレン系単量体の単独又は共重合体、スチレン系単量体と共重合性単量体との共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、スチレン−無水マレイン酸共重合体など;スチレン−ブタジエンブロック共重合体などのブロック共重合体など;ゴム成分の存在下、少なくともスチレン系単量体をグラフト重合したグラフト重合体、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS、又はゴムグラフトポリスチレン系樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、このABS樹脂のブタジエンゴムBに代えて、エチレンプロピレンゴムE、アクリルゴムA、塩素化ポリエチレンC、酢酸ビニル重合体などのゴム成分を用いたグラフト共重合体(AES樹脂,AAS樹脂,ACS樹脂などのAXS樹脂)、アクリロニトリルに代えて(メタ)アクリル系単量体(メタクリル酸メチルなど)を用いたグラフト共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体(MBS樹脂)など)などが挙げられる。
【0033】
オレフィン系高分子としては、α−C2−6オレフィンの単独又は共重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(メチルペンテン−1)などのオレフィンの単独又は共重合体、オレフィンと共重合性単量体との共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)が挙げられる。
【0034】
アクリル系高分子としては、(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸C1−18アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリルなど)の単独又は共重合体、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS樹脂など)などが挙げられる。
【0035】
ハロゲン含有樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン系樹脂、フッ素樹脂などが例示できる。ビニルエステル系樹脂又はその水不溶性誘導体としては、例えば、カルボン酸ビニルエステルの単独又は共重合体(ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)、これらのケン化物(ケン化度50%以下のポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系樹脂)、ケン化物(ビニルアルコール系樹脂)からの誘導体(例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール系樹脂など)などが例示できる。エチレン−ビニルアルコール共重合体において、エチレン含量は10〜40重量%程度であってもよい。
【0036】
ポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分、ジオール成分、オキシカルボン酸、ラクトン類を用いた種々の樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロへキシルジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート、などのポリC2−6アルキレン−アリレート系樹脂、C2−6アルキレン−アリレート単位を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステル(例えば、共重合成分が、オキシアルキレン単位を有するポリオキシC2−4アルキレンジオールやC6−12の脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸などの非対称性芳香族ジカルボン酸などのコポリエステル)、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステルなどの芳香族ポリエステル系樹脂;ポリ(C2−6アルキレングリコール−C2−10脂肪族ジカルボン酸エステル)、ポリオキシカルボン酸系樹脂、ポリラクトン系樹脂、これらのコポリエステルなどが挙げられる。
【0037】
ポリアミド系樹脂、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12など)、コポリアミド(例えば、ポリアミド6/11,ポリアミド6/12,ポリアミド66/11,ポリアミド66/12など);脂環式ポリアミド系樹脂;芳香族ポリアミド系樹脂などが挙げられる。ポリアミド系樹脂のジカルボン酸成分はダイマー酸単位を含んでいてもよい。
【0038】
ポリウレタン系樹脂としては、例えば、ジイソシアネート類と、ポリオール類リエーテルと、必要により鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタン系樹脂が例示できる。
【0039】
ポリ(チオ)エーテル系樹脂としては、例えば、ポリオキシアルキレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン樹脂、ポリスルフィド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂をなどが含まれる。
【0040】
ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂などのビスフェノール類をベースとする芳香族ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネートなどが含まれる。
【0041】
ポリスルホン系樹脂としては、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリールスルホン樹脂などが例示できる。ポリイミド系樹脂としては、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリベンズイミダゾール系樹脂などが例示できる。
【0042】
セルロース誘導体としては、セルロースエステル類(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースアセテートプロピオネートなど)、セルロースカーバメート類(セルロースフェニルカーバメートなど)などが挙げられる。
【0043】
この外の熱可塑性樹脂としては熱可塑性エラストマー(例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマーなど)、熱可塑性シリコーン樹脂なども含まれる。
【0044】
これらの熱可塑性樹脂のうち、(i)主鎖が飽和炭素鎖である炭化水素系ポリマー、例えば、(i-1)ポリエチレン(低密度ポリエチレン、メタロセン系ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン)などのオレフィン系樹脂、(i-2)下記式(II)
【0045】
【化2】

(式中、環Aは1又は2以上の環が縮合していてもよい脂環式炭化水素環を示す)
で表される繰り返し単位を有する脂環式炭化水素系樹脂(環状オレフィン類の開環重合体の水添物、環状オレフィン類とエチレンとの共重合体など)、(i-3)ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体などの芳香族炭化水素系樹脂(芳香族ビニル化合物を単量体成分とするポリマー)、(i-4)ビニルシクロヘキサン、ビニルアダマンタンなどの脂環式ビニル化合物を単量体成分とするポリマーなどが好ましい。前記A環としては、例えば、シクロペンタン環、ノルボルナン環、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環などが挙げられる。A環は置換基を有していてもよい。前記置換基として、例えば、メチル、エチル、イソプロピル基などのアルキル基(例えば、C1−4アルキル基);シアノ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブトキシカルボニル基などのエステル基(置換オキシカルボニル基)などが挙げられる。
【0046】
上記の熱可塑性樹脂(A)においては、後述の処理の関係上、第2級又は第3級炭素原子、特に第3級炭素原子を有しているのが好ましい。また、本発明では、熱可塑性樹脂(A)が疎水性ポリマーであっても表面変性により親水性化でき、水分散性を向上できるので、熱可塑性樹脂(A)として疎水性ポリマーを好ましく用いることができる。
[環状オレフィンモノマー重合体]
本発明においては、熱可塑性樹脂(A)として、環状オレフィンモノマー重合体およびその共重合体を用いるのが最も好ましい。環状オレフィンモノマー重合体およびその共重合体は、環内にエチレン性二重結合を有する重合性の環状オレフィンをモノマー単位として構成されるポリマーの総称であり、環状オレフィンの単独又はその共重合体[環状オレフィン単独の開環重合体、2種以上の環状オレフィンの開環重合体(単環式オレフィンとノルボルネン類などの多環式オレフィンとの共重合体など)など]、環状オレフィンと共重合性単量体との共重合体の他環状オレフィンモノマー重合体およびその共重合体を主体としたポリマーブレンド又はポリマーアロイ(上記重合体と各種ポリマーとのブレンド物など)が例示される。このような重合体又は共重合体は、例えば、特開昭60−168708号公報、特開昭61−120816号公報、特開昭62−252406号号公報、特開平2−167318号号公報、特開平4−35653号公報などに開示されている。本発明においては環状オレフィンモノマー重合体およびその共重合体を含めて環状オレフィンモノマー重合体と称する。環状オレフィンモノマー重合体は第3級炭素原子を有しているので、後述の処理の点でも好ましい。
【0047】
代表的な環状オレフィンとしては、例えば、ノルボルネン類、シクロペンタジエン類又はジシクロペンタジエン類、ノルボルネン類とシクロペンタジエンとの縮合により得られる1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン類、ヘキサシクロ[6.6.1.1.1.0.0]ヘプタデセン−4類、エチレンとシクロペンタジエンとから合成される6−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどが例示できる。環状オレフィンは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。環状オレフィンはノルボルネン類であってもよい。
【0048】
環状オレフィンモノマー共重合体において共重合される単量体としては、共重合可能な限り特に限定されないが、鎖状オレフィン[アルケン(例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどのC2−20アルケン)、アルカジエン(例えば、1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役C5−20アルカジエン)など]などが例示できる。
【0049】
これらの共重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。共重合性単量体は、α−オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどのC2−10α−オレフィン類、特にC2−6α−オレフィン類)であってもよい。
【0050】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲内で、共重合性単量体として、重合性ニトリル化合物(例えば、(メタ)アクリロニトリルなど)、(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸など)、不飽和ジカルボン酸又はその誘導体(無水マレイン酸など)などを用いてもよい。これらの共重合性単量体も単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0051】
好ましい環状オレフィンモノマー重合体は、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン−環状オレフィン系共重合体などのα−C2−4オレフィンと環状オレフィンとの共重合体)である。このような共重合体は、オレフィン系重合体(エチレン系重合体など)と環状オレフィンホモポリマーとの性質を兼ね備えており、α−オレフィンの共重合比率を調整することにより、所望のガラス転移温度を有し、かつ高分子量の重合体を得ることができる。耐熱性の点からは、ノルボルネン類とシクロペンタジエン(又はジシクロペンタジエン類)とを縮合した環状ポリオレフィンモノマー重合体、ノルボルネン類とシクロペンタジエン(又はジシクロペンタジエン類)と、共重合性単量体(例えば、α−オレフィン類)とを重合した環状ポリオレフィン系共重合体が好ましい。なお、後者の環状ポリオレフィン系共重合体において共重合性単量体(例えば、α−オレフィン類)の使用量は特に制限されず少量(例えば、1〜25モル%、好ましくは2〜20モル%程度)であってもよい。
【0052】
熱可塑性樹脂(A)の熱変形温度(例えば、JIS K 7206で規定されるビカット軟化点)は、60〜300℃の範囲から選択でき、例えば、80〜260℃、好ましくは100〜240℃(例えば110〜240℃)、さらに好ましくは120〜230℃(例えば130〜220℃)程度である。
【0053】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる熱可塑性樹脂(A)の数平均分子量は、例えば、ポリスチレン換算で5,000〜500,000、好ましくは10,000〜300,000、さらに好ましくは20,000〜150,000程度である。
【0054】
熱可塑性樹脂(A)は、好ましくは水不溶性樹脂である。水不溶性樹脂は、親水性樹脂であってもよいが、通常、非親水性樹脂又は疎水性樹脂である場合が多い。さらに、熱可塑性樹脂(A)は、混練性などの観点から、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エーテル基、オキシアルキレン基、エステル基、アミノ基、置換アミノ基、イミノ基、アミド基、およびフェニル基から選択された少なくとも1種(特に、アミノ基、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの極性基)を有していてもよい。
【0055】
微粒子は2種以上の熱可塑性樹脂からなる複合高分子微粒子であってもよい。例えば、微粒子は、異なる樹脂である熱可塑性樹脂(A1)と熱可塑性樹脂(A2)とで構成されていてもよい。また、微粒子は、芯部と殻部とで構成されたコア−シェル構造を有していてもよい。この場合、芯部と殻部は、何れが熱可塑性樹脂(A1)、あるいは熱可塑性樹脂(A2)で構成されていてもよい。なお、後述の方法、すなわち水溶性乳化媒体中に熱可塑性樹脂が分散している分散体を水性溶媒で溶解又は溶出処理する方法によりこのようなコア−シェル構造の微粒子を得る場合には、熱可塑性樹脂(A1)と熱可塑性樹脂(A2)の樹脂同士の親和性が、熱可塑性樹脂[(A1)、(A2)]と水溶性乳化媒体の親和性よりも高いことが好ましい。
【0056】
[熱可塑性樹脂微粒子の調製]
熱可塑性樹脂からなる微粒子の調製法としては特に制限はなく、公知の方法を採用できる。熱可塑性樹脂からなる微粒子の好ましい調製法として、水溶性乳化媒体(以下、「水溶性乳化媒体(B)」と称する場合がある)中に熱可塑性樹脂(A)が分散している分散体を水性溶媒で溶解又は溶出処理して微粒子を得る方法が挙げられる。前記分散体は、主に、水溶性乳化媒体(B)で構成されたマトリックスと、このマトリックス中に分散した分散相とで構成された海島構造を有しており、分散相は、熱可塑性樹脂(A)で構成され、樹脂粒子を形成している。
【0057】
[水溶性乳化媒体(B)]
水溶性乳化媒体(B)としては、熱可塑性樹脂(A)に対して非相溶である種々の水溶性成分を使用できる。特に、熱可塑性樹脂(A)として熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)を用いる場合には、水溶性乳化媒体(B)として、熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)と溶融混合又は混練可能な水溶性成分が用いられる。この場合、溶融混合又は混練可能な水溶性成分は、熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)との溶融混合又は混練により、水溶性乳化媒体(B)で構成されたマトリックスに、熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)で構成された分散相が分散した分散体を形成する。
【0058】
水溶性乳化媒体(B)としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、水溶性アクリル系樹脂、水溶性スチレン系樹脂、ポリビニルピロリドン、セルロースエーテル系樹脂などの水溶性樹脂であってもよいが、溶媒(水)に対する溶解性、樹脂粒子のコントロール性及び製造効率、広範な熱可塑性樹脂(A)に対する適用性などの観点から、少なくともオリゴ糖(B1)を含む水溶性糖組成物が好ましい。
【0059】
水溶性糖組成物は、少なくともオリゴ糖(B1)を含んでいればよいが、溶解性及びオリゴ糖の熱溶融特性を調整するため、水溶性糖組成物は、さらに前記オリゴ糖を可塑化するための水溶性可塑化成分(B2)を含んでいてもよい。オリゴ糖(B1)と水溶性可塑化成分(B2)とを組み合わせると、充填剤複合樹脂組成物との混練等において、水溶性糖組成物(B)の溶融粘度を調整できる。なお、水溶性糖組成物については、特開2004−51942号公報を参照できる。
【0060】
(B1)オリゴ糖
オリゴ糖(B1)は、ホモオリゴ糖であってもよくヘテロオリゴ糖であってもよい。オリゴ糖(B1)としては、例えば、二糖類〜十糖類が挙げられ、通常、二糖類〜六糖類のオリゴ糖が使用される。なお、オリゴ糖(B1)は無水物でもよい。また、オリゴ糖(B1)において、単糖類と糖アルコールとが結合していてもよい。さらに、オリゴ糖(B1)は複数の糖成分で構成されたオリゴ糖組成物であってもよく、多糖類の分解により生成するオリゴ糖組成物であってもよい。このようなオリゴ糖組成物であっても単にオリゴ糖(B1)という場合がある。
【0061】
二糖類としては、例えば、トレハロース、マルトースなどのホモオリゴ糖;ラクトース、スクロース、パラチノースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。三糖類としては、セロトリオースなどのホモオリゴ糖;マンニノトリオースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。
【0062】
四糖類としては、例えば、マルトテトラオースなどのホモオリゴ糖;スタキオース、セロテトラオース、スコロドース、リキノース、パノースの還元末端に糖又は糖アルコールが結合したテトラオースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。これらの四糖類のうち、パノースの還元末端に単糖類又は糖アルコールが結合したテトラオースは、例えば、特開平10−215892号公報に開示されており、パノースの還元末端に、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノースなどの単糖類や、ソルビトール、キシリトール、エリスリトールなどの糖アルコールが結合したテトラオースが例示できる。
【0063】
五糖類としては、例えば、マルトペンタオース、イソマルトペンタオースなどのホモオリゴ糖;パノースの還元末端に二糖類が結合したペンタオースなどのヘテロオリゴ糖が挙げられる。パノースの還元末端に二糖類が結合したペンタオースは、例えば、特開平10−215892号公報に開示されており、パノースの還元末端に、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロースなどの二糖類が結合したペンタオースが例示できる。六糖類としては、例えば、マルトヘキサオース、イソマルトヘキサオースなどのホモオリゴ糖などが挙げられる。
【0064】
これらのオリゴ糖(又はオリゴ糖組成物)のうち、少なくとも四糖類で構成されたオリゴ糖は、溶融粘度特性、樹脂成分との溶融混合又は混練性の観点から好ましい。
【0065】
このようなオリゴ糖又はオリゴ糖組成物としては、例えば、デンプン糖(デンプン糖化物)、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、フルクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖などが挙げられ、これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。例えば、デンプン糖は、デンプンに酸又はグルコアミラーゼなどを作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、複数個のグルコースが結合したオリゴ糖の混合物であってもよい。デンプン糖としては、例えば、東和化成工業(株)製の還元デンプン糖化物(商品名:PO−10、四糖類の含有量90重量%以上)などが挙げられる。ガラクトオリゴ糖は、ラクトースにβ−ガラクトシダーゼなどを作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、ガラクトシルラクトースとガラクトース−(グルコース)の混合物(mは1〜4の整数)であってもよい。カップリングシュガーは、デンプンとスクロースにシクロデキストリン合成酵素(CGTase)を作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、(グルコース)−スクロースの混合物(mは1〜4の整数)であってもよい。フルクトオリゴ糖(フラクトオリゴ糖)は、砂糖にフルクトフラノシダーゼを作用させて得られるオリゴ糖組成物であり、スクロース−(フルクトース)の混合物(mは1〜4の整数)であってもよい。好ましいオリゴ糖(B1)には、デンプン糖のほか、環状多糖類(クラスターデキストリン等)などが含まれる。
【0066】
これらのオリゴ糖(B1)において、溶融混合又は混練での急激な粘度低下を防止するため、オリゴ糖組成物中の三糖類及び四糖類(特に四糖類)の含有量は、例えば、60重量%以上(例えば、60〜100重量%程度)、好ましくは70重量%以上(例えば、70〜100重量%程度)、さらに好ましくは80重量%以上(例えば、80〜100重量%程度)、特に90重量%以上(例えば、90〜100重量%程度)であってもよい。
【0067】
オリゴ糖(B1)は非還元型(トレハロース型)であってもよいが、還元型(マルトース型)のオリゴ糖は、耐熱性に優れるため好ましい。還元型のオリゴ糖としては、遊離のアルデヒド基又はケトン基を有し、還元性を示す糖、例えば、コージービオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、パラチノース、メリビオース、ルチノース、プリメベロース、ツラノースなどの二糖類;マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、セロトリオース、マンニノトリオース、ソラトリオースなどの三糖類;マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、セロテトラオース、リキノースなどの四糖類;マルトペンタオース、イソマルトペンタオースなどの五糖類;マルトヘキサオース、イソマルトヘキサオースなどの六糖類などが挙げられる。
【0068】
混合又は混練により熱可塑性樹脂(A)成分を分散させるためには、オリゴ糖の粘度は高いのが望ましい。具体的には、B型粘度計を用いて温度25℃で測定したとき、オリゴ糖の50重量%水溶液の粘度は、例えば、1〜500Pa・s、好ましくは2〜250Pa・s(例えば、3〜100Pa・s)、さらに好ましくは4〜50Pa・s(例えば、6〜50Pa・s)程度である。
【0069】
オリゴ糖の融点又は軟化点は、熱可塑性樹脂(A)成分の熱変形温度(例えば、JIS K 7206で規定されるビカット軟化点)より高いのが好ましい。なお、融点又は軟化点を示さず、熱分解するオリゴ糖[例えば、還元デンプン糖化物などのデンプン糖など]では、分解温度をオリゴ糖の「融点又は軟化点」としてもよい。明瞭な融点や軟化点を示さない熱分解性オリゴ糖であっても、水溶性可塑化成分(A2)で可塑化できるため、有効に使用できる。オリゴ糖の融点又は軟化点は、熱可塑性樹脂(A)の種類などに応じて、70〜300℃の範囲で選択でき、例えば、90〜290℃、好ましくは100〜280℃(例えば、110〜270℃)、さらに好ましくは120〜260℃(例えば、130〜260℃)程度であってもよい。なお、一般にオリゴ糖の無水物は、高い融点又は軟化点を示す。オリゴ糖の融点又は軟化点と、熱可塑性樹脂(A)の熱変形温度との温度差は、例えば、1〜80℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは15〜60℃程度である。
【0070】
(B2)水溶性可塑化成分
水溶性可塑化成分(B2)としては、オリゴ糖(B1)が可塑化して水飴状態となる現象を発現できればよく、例えば、糖類、糖アルコールなどが使用できる。これらの水溶性可塑化成分(B2)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
(a)糖類
糖類としては、通常、単糖類及び/又は二糖類が使用される。単糖類としては、例えば、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノース、デコースなどが挙げられる。アシル基(特にアセチル基などのC2-4アシル基など)を有する単糖類(アルドースのアセチル体、例えば、アルデヒドグルコースペンタアセチル化合物などのアセチル体など)、カルボキシル基が導入された糖類(糖酸またはウロン酸など)、チオ糖、アミノ糖、デオキシ糖などであってもよい。
【0072】
単糖類の具体例としては、例えば、テトロース(エリトロース、トレオロース等)、ペントース(アラビノース、リボース、リキソース、デオキシリボース、キシロース等)、ヘキソース(アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、フコース、ラムノース、タロース、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルコサミン等)などが例示できる。
【0073】
(b)糖アルコール
糖アルコールとしては、イノシットなどの環式糖アルコールであってもよいが、通常、アルジトール(グリシトール)などの鎖状糖アルコールが使用される。これらの糖アルコールは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0074】
これらの糖アルコールのうち、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール及びマンニトールから選択された少なくとも一種が好ましい。糖アルコールは、エリスリトール、ペンタエリスリトール、キシリトールから選択された少なくとも1つの糖アルコールを含む場合が多い。
【0075】
水溶性乳化媒体(B)又は水溶性糖組成物において、オリゴ糖と可塑化成分との重量割合は、例えば、前者/後者=99/1〜50/50、好ましくは95/5〜60/40、さらに好ましくは90/10〜65/35(例えば、85/15〜70/30)程度である。
【0076】
水溶性乳化媒体の融点又は軟化点は、樹脂の熱変形温度と同等又は低くてもよく高くてもよい。例えば、水溶性乳化媒体の融点又は軟化点と、樹脂成分の熱変形温度との温度差は、0〜100℃程度の範囲から選択でき、例えば、3〜80℃(例えば5〜60℃)、好ましくは7〜50℃、さらに好ましくは10〜40℃(例えば、15〜35℃)程度であってもよい。
【0077】
水溶性乳化媒体のメルトフローレートは、例えば、樹脂成分の熱変形温度(例えば、前記ビカット軟化点)より30℃高い温度でJIS K 7210に従って測定したとき、1〜40、好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20程度であってもよい。
【0078】
なお、必要であれば、分散相(例えば、非水溶性樹脂、あるいは非水溶性樹脂及び水溶性樹脂で構成された粒子状分散相)は、種々の添加剤(溶融混練温度で融解してもよい添加剤など)、例えば、可塑剤又は軟化剤、滑剤、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候(光)安定剤など)、着色剤[水不溶性(又は難溶性)染料(油溶性染料(ソルベント染料)、分散染料、バット染料、硫化染料、アゾイック染料(ナフトール染料)など]、分散剤、有機又は無機充填剤(有機又は無機着色剤も含む)、難燃剤、帯電防止剤、電荷制御剤(ニグロシン染料、トリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、アミン系化合物などの正荷電制御剤;サリチル酸金属錯体、アゾ染料金属錯体、銅フタロシアニン染料、ニトロイミダゾール誘導体、尿素誘導体などの負電荷制御剤など)、流動化剤、ワックス類[ポリエチレンワックス、エチレン共重合体ワックス、ポリプロピレンワックスなどのオレフィン系ワックス;パラフィンワックス;高級脂肪酸又はその誘導体(塩、多価アルコールエステル、アミド(高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアルキレンビス高級脂肪酸アミド、ステアロアミドエチルステアレートなどのN−(C2−6アルキル−C16−34アルカンカルボン酸エステル)C16−34アルカンカルボン酸アミドなどのエステルアミド類など)など);エステル系ワックスなど]、架橋剤、結晶核剤、抗菌剤、防腐剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、例えば、非水溶性樹脂又は非水溶性樹脂と水溶性樹脂とで構成された樹脂組成物に、予め含有させていてもよく、非水溶性樹脂、水溶性樹脂及び水溶性乳化媒体の溶融混合又は混連過程で含有させてもよい。なお、前記添加剤を含有する非水溶性樹脂又はその樹脂組成物を用いると、添加剤がマトリックス(乳化媒体)中に分散するのを抑制でき、添加剤を含有する複合樹脂粒子を得ることができる。
【0079】
前記添加剤は、最終製品である複合樹脂粒子の用途などに応じて選択でき、例えば、化粧品(ファンデーション、白粉、頬紅など)などの用途では、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系吸収剤、ケイ皮酸系吸収剤、p−アミノ安息香酸系吸収剤、サリチル酸系吸収剤、ジベンゾイルメタン系吸収剤、ウロカニン酸又はそのエステル、β−イソプロピルフラノン、β−カロチン、酸化チタン、酸化亜鉛など)、紫外線散乱剤などを使用してもよい。トナーなどの画像記録材料用途では、例えば、電荷制御剤、流動化剤、ワックス類などを用いてもよい。また、塗料やコーティング剤などの用途では、例えば、架橋剤、耐候(光)安定剤、紫外線吸収剤、流動化剤などを使用してもよい。
【0080】
前記分散体は、熱可塑性樹脂(A)[熱可塑性樹脂(A1)と(A2)との組み合わせであってもよい]と、該熱可塑性樹脂(A)に対して相溶性を有さない水溶性乳化媒体(B)とを溶融混合又は混練することにより調製できる。
【0081】
前記溶融混合又は混練は、慣用の混練機(例えば、単軸もしくは二軸スクリュー押出機、ニーダー、カレンダーロール、バンバリーミキサー、など)を用いて行なうことができる。また、混練に先だって、各成分は、予め凍結粉砕機などで粉体状に予備加工したり、ヘンシェルミキサー、タンブルミキサー、ボールミル、リボンミキサーなどで予備混合又は混練してもよい。混練温度は、例えば、90〜300℃程度の範囲から選択でき、通常、110〜260℃、好ましくは150〜240℃(例えば、170〜230℃)、特に180〜220℃程度であってもよい。また、熱分解を避けるため、混練温度を230℃以下にしてもよい。混練時間は、例えば、10秒〜1時間程度の範囲から選択できる。
【0082】
分散体は、通常、冷却され、分散相が固定化される。そして、分散体の水溶性乳化媒体(B)を、常圧、減圧又は加圧下で、水性溶媒(水;水と水溶性有機溶媒との混合液)で溶解又は溶出し、通常、乾燥することにより、熱可塑性樹脂からなる微粒子(高分子微粒子)を生成できる。
【0083】
生成した高分子微粒子の形状は、粒子状であればよく、例えば、球状、異形(楕円体状、多角体状、角柱状、円柱状、棒状、不定形状など)であってもよい。また、複合高分子微粒子は多孔粒子であってもよい。好ましい粒子の形状は、球状である。微粒子には、真球状に限らず、例えば、長径と短径との長さ比が、例えば、長径/短径=1.5/1〜1/1程度である形状も含まれる。長径と短径との長さ比は、好ましくは長径/短径=1.3/1〜1/1(例えば、1.2/1〜1/1)、さらに好ましくは1.1/1〜1/1程度であってもよい。
【0084】
高分子微粒子の平均粒子径(体積平均粒子径)は、特に制限されず、用途に応じて、0.1μm〜1mm(例えば、0.1〜800μm)程度の範囲から選択でき、例えば、0.2〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、さらに好ましくは0.7〜30μm、特に1〜20μm程度であってもよい。
【0085】
[変性処理]
本発明では、熱可塑性樹脂(A)からなる微粒子の分散液に反応性ガスを供給して、前記微粒子の表面を変性する。微粒子の分散液としては、微粒子を該微粒子を溶解しない溶媒に分散させた液が用いられる。溶媒としては、微粒子を構成する熱可塑性樹脂の種類、反応性ガスの種類、用いる触媒の種類等に応じて適宜選択できる。
【0086】
反応性ガスとしては、微粒子を構成する熱可塑性樹脂(特に最表面の熱可塑性樹脂)に対して反応性を有するガスであればよい。反応性ガスとして、例えば、酸素、一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物などの酸素原子含有ガス、その他のガス(例えば、オレフィン等)が挙げられる。これらのガスは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0087】
酸素は、分子状酸素、活性酸素の何れであってもよい。分子状酸素は、特に制限されず、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を使用してもよい。酸素として分子状酸素を用いる場合が多い。
【0088】
一酸化炭素は酸素と組み合わせて用いることが多い。この場合、一酸化炭素と酸素とを予め混合した混合ガスを用いてもよく、一酸化炭素と酸素とを個別に用いてもよい。一酸化炭素や酸素は、純粋なものであっても、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈したものであってもよい。酸素源は空気であってもよい。一酸化炭素と酸素の割合は特に制限はないが、一酸化炭素が酸素よりも多い方が好ましい。一酸化炭素と酸素の割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/99〜99.99/0.01、好ましくは、前者/後者(モル比)=1/99〜99/1、より好ましくは、前者/後者(モル比)=30/70〜98/2、さらに好ましくは、前者/後者(モル比)=50/50〜95/5程度である。一酸化炭素を用いる場合は、加圧(例えば、0.1MPa〜10MPa、好ましくは0.15MPa〜8MPa、さらに好ましくは0.2MPa〜7MPa程度)で処理を行うのが望ましい。

窒素酸化物としては、例えば、N、NO、NO、NOなどが挙げられる。これらの窒素酸化物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、これら(例えば、NO、NO、NOなど)は酸素と共に用いることができる。前記酸素は、純粋な酸素であってもよく、前記不活性ガスで希釈して使用してもよい。また、酸素源は空気であってもよい。Nは、NO及び/又はNOと酸素との反応で容易に得ることができる。より具体的には、反応器内に一酸化窒素と酸素とを導入して、青色の液体Nを生成させることにより調製できる。そのため、Nを予め生成させることなく、NO及び/又はNOと酸素とを反応系に導入してもよい。NO等は液体の状態で使用してもよく、ガスの状態で使用してもよい。窒素酸化物を用いる場合は、後述する金属化合物は用いない方が好ましい。

硫黄酸化物としては、SO、S、SO、SO、S、SOなどが例示できる。これらの硫黄酸化物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、二酸化硫黄(SO)及び三酸化硫黄(SO)から選択された少なくとも1種を主成分として含む硫黄酸化物が好ましい。また、これら(例えば、SOなど)は酸素と共に用いることができる。前記酸素は、純粋な酸素であってもよく、前記不活性ガスで希釈して使用してもよい。また、酸素源は空気であってもよい。SOとしてはSOを含む発煙硫酸であってもよい。硫黄酸化物と酸素とを併用する場合、その比率は特に制限されないが、例えば、前者/後者(モル比)=1/99〜99/1、好ましくは、前者/後者(モル比)=10/90〜90/10、さらに好ましくは、前者/後者(モル比)=30/70〜70/30程度である。硫黄酸化物を用いる場合は、触媒として式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物を用いてもよいが、該窒素原子含有環状化合物が無くても、後述する金属化合物が存在すれば粒子表面をある程度変性させることが可能である。硫黄酸化物を用いる場合は、金属化合物として特にバナジウム化合物(例えば、バナジウムアセチルアセトナート、バナジルアセチルアセトナート、ステアリン酸バナジル、バナジルイソプロポキシド、塩化バナジル等)が好ましい。硫黄酸化物を用いる処理は常圧で行うことができる。
【0089】
微粒子表面を反応性ガスにより変性する際には、必要に応じて触媒が用いられる。触媒としては、反応を促進させるものであればよいが、本発明では、特に、前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物を触媒として用いるのが好ましい。以下、この窒素原子含有環状化合物を触媒として用いる表面変性方法について説明する。
【0090】
式(I)において、窒素原子とXとの結合は単結合又は二重結合である。前記窒素原子含有環状化合物は、分子中に、式(I)で表される骨格を複数個有していてもよい。また、この窒素原子含有環状化合物は、前記Xが−OR基であり且つRがヒドロキシル基の保護基である場合、式(I)で表される骨格(但し、Xが−OR基である)のうちRを除く部分が複数個、Rを介して結合していてもよい。
【0091】
式(I)中、Rで示されるヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を用いることができる。このような保護基として、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1−4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、3−ブロモベンジル、2−ニトロベンジル、トリフェニルメチル基など);置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ)メチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−イソプロポキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−メトキシエチル基など)、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1−ヒドロキシアルキル基(例えば、1−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシヘキシル、1−ヒドロキシデシル、1−ヒドロキシヘキサデシル、1−ヒドロキシ−1−フェニルメチル基など)等のヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基など;アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1−20脂肪族アシル基等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、スルホニル基(メタンスルホニル、エタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、ナフタレンスルホニル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル基など)、無機酸(硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基(例えば、ジメチルホスフィノチオイル基など)、ジアリールホスフィノチオイル基(例えば、ジフェニルホスフィノチオイル基など)、置換シリル基(例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。
【0092】
また、Xが−OR基である場合において、式(I)で表される骨格のうちRを除く部分が複数個、Rを介して結合する場合、該Rとして、例えば、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル基などのポリカルボン酸アシル基;カルボニル基;メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基などの多価の炭化水素基(特に、2つのヒドロキシル基とアセタール結合を形成する基)などが挙げられる。
【0093】
好ましいRには、例えば、水素原子;ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基等)などの加水分解により脱離可能な加水分解性保護基が好ましい。Rとしては特に水素原子が好ましい。
【0094】
前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物には、下記式(1)で表される環状イミド骨格を有する環状イミド系化合物が含まれる。
【0095】
【化3】

[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す。R、R、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示し、R、R、R、R、R及びRのうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。前記R、R、R、R、R、R、又はR、R、R、R、R及びRのうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、下記式(a)
【0096】
【化4】

(式中、n、Xは前記に同じ)
で表される環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい]
式(1)で表される環状イミド系化合物において、置換基R、R、R、R、R及びRのうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。
【0097】
アリール基には、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ基などの炭素数1〜30程度(特に、炭素数1〜20程度)のアルコキシ基が含まれる。
【0098】
置換オキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル基などのC1−30アルコキシ−カルボニル基(特に、C1−20アルコキシ−カルボニル基);シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル基などのシクロアルキルオキシカルボニル基(特に、3〜20員シクロアルキルオキシカルボニル基);フェニルオキシカルボニル基などのアリールオキシカルボニル基(特に、C6−20アリールオキシ−カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基などのアラルキルオキシカルボニル基(特に、C7−21アラルキルオキシ−カルボニル基)などが挙げられる。
【0099】
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、デカノイル、ラウロイル基などのC1−30脂肪族アシル基(特に、C1−20脂肪族アシル基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル基などの芳香族アシル基などが例示できる。
【0100】
アシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、バレリルオキシ、ピバロイルオキシ、デカノイルオキシ、ラウロイルオキシ基などのC1−30脂肪族アシルオキシ基(特に、C1−20脂肪族アシルオキシ基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基;アセトアセチルオキシ基;シクロペンタンカルボニルオキシ、シクロヘキサンカルボニルオキシ基などのシクロアルカンカルボニルオキシ基等の脂環式アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ基などの芳香族アシルオキシ基などが例示できる。
【0101】
前記置換基R、R、R、R、R及びRは、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(1)において、R、R、R、R、R及びRのうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、二重結合、または芳香族性又は非芳香族性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、例えば、脂環式環(シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環など)、橋かけ環(5−ノルボルネン環などの置換基を有していてもよい橋かけ式炭化水素環など)、ベンゼン環、ナフタレン環などの置換基を有していてもよい芳香族環(縮合環を含む)が含まれる。前記環は芳香族環で構成される場合が多い。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0102】
前記R、R、R、R、R、R、又はR、R、R、R、R及びRのうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、前記式(a)で表される環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい。例えば、R、R、R、R、R又はRが炭素数2以上のアルキル基である場合、このアルキル基を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。また、R、R、R、R、R及びRのうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素−炭素結合と共に二重結合を形成する場合、該二重結合を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。さらに、R、R、R、R、R及びRのうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成する場合、該環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。
【0103】
好ましい環状イミド系化合物には、下記式で表される化合物が含まれる。
【0104】
【化5】

(式中、R11〜R16は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R17〜R26は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。R17〜R26は、隣接する基同士が結合して、式(1c)、(1d)、(1e)、(1f)、(1h)又は(1i)中に示される5員又は6員のN−置換環状イミド骨格を形成していてもよい。式(1f)中、Aはメチレン基又は酸素原子を示す。Xは前記に同じ)
置換基R11〜R16におけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、前記R〜Rにおける対応する基と同様のものが例示される。
【0105】
置換基R17〜R26において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、置換オキシカルボニル基には、前記と同様の置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)が含まれる。また、アシル基としては前記と同様のアシル基(脂肪族飽和又は不飽和アシル基、アセトアセチル基、脂環式アシル基、芳香族アシル基等)などが例示され、アシルオキシ基としては前記と同様のアシルオキシ基(脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基、アセトアセチルオキシ基、脂環式アシルオキシ基、芳香族アシルオキシ基等)などが例示される。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R17〜R26は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。
【0106】
好ましいイミド化合物のうち5員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α−メチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α,β,β−テトラメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、α,β−ジアセトキシ−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(プロピオニルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(バレリルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(ラウロイルオキシ)コハク酸イミド、α,β−ビス(ベンゾイルオキシ)−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−4−メトキシカルボニルフタル酸イミド、4−クロロ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−エトキシカルボニル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−ペンチルオキシカルボニルフタル酸イミド、4−ドデシルオキシ−N−ヒドロキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−フェノキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(メトキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(エトキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(ペンチルオキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(ドデシルオキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(フェノキシカルボニル)フタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミド、N−テトラヒドロピラニルオキシフタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0107】
好ましいイミド化合物のうち6員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−β,β−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド(N−ヒドロキシナフタル酸イミド)、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メトキシメチルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メタンスルホニルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド又はN,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(1)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0108】
前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物には、上記環状イミド系化合物の他に、環状アシルウレア骨格[−C(=O)−N−C(=O)−N−]を有する環状アシルウレア系化合物が含まれる。環状アシルウレア系化合物の代表的な例として、下記式(2)
【0109】
【化6】

(式中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、又はアシル基を示し、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R、R、R、Rのうち少なくとも2つが互いに結合して、式中の環を構成する原子とともに二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、RとRは一体となってオキソ基を形成してもよい。Rは前記に同じ)
で表されるヒドロ−1−ヒドロキシ(又は1−置換オキシ)−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン化合物が挙げられる。
【0110】
式(2)中、R、Rにおけるアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基としては、上記R〜Rにおけるアルキル基等と同様のものが例示される。ヒドロキシル基の保護基としては、前記のものが挙げられる。
【0111】
カルボキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基、例えば、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシなどのC1−6アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)、トリアルキルシリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ基など)、置換基を有していてもよいアミノ基(例えば、アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基などのモノ又はジC1−6アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0112】
、Rにおけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、上記R〜Rにおけるアルキル基等と同様のものが例示される。
【0113】
式(2)において、R、R、R、Rのうち少なくとも2つが互いに結合して、式中に示される環を構成する原子(炭素原子及び/又は窒素原子)とともに二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、R、Rは一体となってオキソ基を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環としては前記と同様のものが例示される。
【0114】
式(2)で表される化合物のなかでも、下記式(2a)で表されるイソシアヌル酸誘導体が好ましい。
【0115】
【化7】

[式中、R、R′、R″は、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す]
環状アシルウレア系化合物に含まれる代表的な化合物の例として、例えば、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸)、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(メトキシメチルオキシ)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオンなどが挙げられる。
【0116】
前記窒素原子含有環状化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)は、公知の方法に準じて、又は公知の方法の組み合わせにより製造することができる。また、前記窒素原子含有環状化合物のうち、Xが−OR基で且つRがヒドロキシル基の保護基である化合物は、対応するRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)に、慣用の保護基導入反応を利用して、所望の保護基を導入することにより調製することができる。
【0117】
具体的には、前記環状イミド系化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により得ることができる。また、例えば、N−アセトキシフタルイミドは、N−ヒドロキシフタルイミドに無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。また、これ以外の方法で製造することも可能である。
【0118】
特に触媒として好ましい環状イミド系化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物(環状無水物)又は芳香族多価カルボン酸無水物(環状無水物)から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタルイミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ1,8:4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなど);及び該N−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基を導入することにより得られる化合物などが含まれる。
【0119】
前記環状アシルウレア系化合物のうち、例えば、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリアセトキシイソシアヌル酸)は、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸)に無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。
【0120】
式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。前記窒素原子含有環状化合物は反応系内で生成させてもよい。また、前記窒素原子含有環状化合物は担体に担持した形態で用いてもよい。担体としては、活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカ−アルミナ、ベントナイトなどの多孔質担体を用いる場合が多い。窒素原子含有環状化合物の担体への担持量は、担体100重量部に対して、例えば0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部程度である。
【0121】
前記窒素原子含有環状化合物の使用量は、例えば、広い範囲で選択でき、例えば、前記微粒子を変性処理する際に用いる処理液中の濃度として、0.001〜1mol/l程度、好ましくは0.01〜0.5mol/l程度である。
【0122】
本発明では、前記窒素原子含有環状化合物とともに助触媒を用いることもできる。助触媒として、金属化合物が挙げられる。助触媒として金属化合物を用いることにより、反応速度や反応の選択性を向上させることができる。金属化合物として、特に遷移金属化合物が好ましい。遷移金属化合物としては、遷移金属[周期表3族〜12族元素(Zr、V、Mo、Mn、Fe、Ru、Co、Cu等)]のハロゲン化物、有機酸塩、オキソ酸塩、錯体などが挙げられる。より具体的には、コバルト化合物を例にとると、塩化コバルト、臭化コバルト、酢酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、コバルトアセチルアセトナートなどが例示される。遷移金属化合物としては、コバルト化合物又はマンガン化合物が好ましい。金属化合物の使用量は、前記窒素原子含有環状化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.1モル程度、好ましくは0.005〜0.08モル程度である。なお、反応によっては、前記窒素原子含有環状化合物を用いることなく、金属化合物単独でも効率よく進行する場合がある。
【0123】
本発明では、また、助触媒として、少なくとも1つの有機基が結合した周期表15族又は16族元素を含む多原子陽イオン又は多原子陰イオンとカウンターイオンとで構成された有機塩を用いることもできる。助触媒として前記有機塩を用いることにより、反応速度や反応の選択性を向上させることができる。
【0124】
本発明では、前記窒素原子含有環状化合物とともに強酸を用いることもできる。前記窒素原子含有環状化合物と強酸を併用すると、反応性ガスとして酸素を用いることにより、高分子微粒子を構成する高分子(熱可塑性樹脂)のメチレン炭素原子(第2級炭素原子)などにオキソ基を効率よく導入することができる。
【0125】
また、本発明の方法では、系内に、ラジカル発生剤(ラジカル開始剤等)やラジカル反応促進剤を存在させてもよい。このような成分として、例えば、ハロゲン(塩素、臭素など)、過酸(過酢酸、m−クロロ過安息香酸など)、過酸化物(過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)等のヒドロペルオキシドなど)、アゾ系化合物(アゾビスイソブチロニトリル等)、アセトフェノン類、環状アミン−N−オキシル化合物などが挙げられる。これらの成分を系内に存在させると、反応(変性)が促進される場合がある。前記成分の使用量は、前記窒素原子含有環状化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.2モル程度である。
【0126】
さらに、本発明では、反応系内に共反応剤(前記窒素原子含有環状化合物の存在下で酸素原子含有ガス等の反応性ガスと反応可能な化合物;特開平8−38909号公報、特開平9−327626号公報など参照)を共存させてもよい。代表的な共反応剤として、例えば、(a)第1級又は第2級アルコール(シクロヘキサノールなど)、(b)不飽和結合に隣接する部位に炭素−水素結合を有する化合物(トルエン、フルオレン、テトラリンなど)、(c)メチン炭素原子を有する化合物(アダマンタンなど)、(d)シクロアルカン類(シクロヘキサンなど)、(e)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有する非芳香族性複素環化合物(テトラヒドロフランなど)、(f)共役化合物(ブタジエンなど)、(g)芳香族炭化水素(ナフタレンなど)、(h)チオール類(エタンチオールなど)、(i)エーテル類(ジプロピルエーテルなど)、(j)スルフィド類(ジエチルスルフィドなど)、(k)アルデヒド若しくはチオアルデヒド類(アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなど)、(l)アミン類(ブチルアミンなど)などが挙げられる。反応系内に前記共反応剤を共存させると、該共反応剤がラジカル発生剤的な機能を果たすためか、反応(変性)が促進され、高分子微粒子が短時間内に親水性化される場合が多い。前記共反応剤は単独で又は2種以上を混合して使用できる。共反応剤の使用量は、広い範囲で選択でき、例えば、前記微粒子を変性処理する際に用いる処理液中の濃度として、0.001〜10mol/l、好ましくは0.01〜5mol/l(特に、0.1〜3mol/l)程度である。前記共反応剤を反応溶媒として用いることもできる。
【0127】
さらにまた、本発明では、微粒子表面に安定なラジカルを生成可能な部位が存在していたり、反応性ガスにより微粒子表面に安定なラジカルを生成可能な部位が新たに生成する場合には、反応性ガス処理を行う際の系内にラジカル捕捉性化合物を共存させてもよい。この場合には、前記窒素原子含有環状化合物と酸素及び/又は前記窒素原子含有環状化合物に対するラジカル発生剤[例えば、過酸化物、アゾ系開始剤等のラジカル開始剤、ハロゲン、酸化性ガス(一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物等)、前記金属化合物、電極、アルデヒド等の過酸化物前駆体など]が存在する条件下では、前記安定なラジカルを生成可能な部位にラジカル捕捉性化合物が反応して、微粒子表面がさらに変性され、種々の物性や特性が付与される。前記安定なラジカルを生成可能な部位としては、酸素原子の隣接部位に炭素−水素結合を有する基を含む部位、カルボニル基を含む部位、メチン炭素原子を有する炭化水素基を含む部位などが挙げられる。また、前記ラジカル捕捉性化合物としては、例えば、不飽和化合物、メチン炭素原子を有する炭化水素基を含有する化合物、ヘテロ原子含有化合物などが挙げられる。これらに関しては、再公表公報2000−035835号公報(PCT/JP99/06891)を参照できる。ラジカル捕捉性化合物としては特に不飽和化合物が好ましい。該不飽和化合物として、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、クロトン酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、桂皮酸エステル等のα,β−不飽和化合物等の活性不飽和化合物などが挙げられる。例えば、フマル酸ジメチルなどのα,β−不飽和エステルを系内に存在させると、微粒子表面にエステル基を導入できる。
【0128】
前記窒素原子含有環状化合物を触媒として用い、反応性ガスとして酸素を用いる場合には、熱可塑性樹脂のポリマー分子の第1級炭素原子(例えば、ベンジル位又はアリル位のメチル炭素原子)、第2級炭素原子(例えば、ベンジル位又はアリル位のメチレン炭素原子、非芳香族性炭素環を形成するメチレン炭素原子など)又は第3級炭素原子(分岐状アルキル基又はアルキレン基におけるメチン炭素原子、多環式基の接合位や橋頭位のメチン炭素原子など)にヒドロキシル基、オキソ基又はカルボキシル基が導入される。
【0129】
また、反応性ガスとして酸素を用い、且つ反応系内に、下記式(3)
C(=O)−C(=O)R (3)
(式中、RびRは、同一又は異なって、水素原子、炭化水素基又は複素環基を示すか、又は、RびRは互いに結合して隣接する2つの炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される1,2−ジカルボニル化合物又はそのヒドロキシ還元体(式中のカルボニル基の少なくとも一つが−CHOH−に還元された化合物)を存在させてもよい。この場合には、熱可塑性樹脂のポリマー分子を構成する炭素原子(特に、メチン炭素原子)にアシル基[式(3)で表される化合物を用いる場合には、R(=O)−又はRC(=O)−]が導入される。なお、この反応では、前記窒素原子含有環状化合物を用いることなく、例えばコバルト金属化合物等の金属化合物単独でも反応が良好に進行する。さらに、ラジカル開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物、アセトフェノン類、過酸化物類、環状アミン−N−オキシル化合物など)が存在すると、反応が加速されることがある。
【0130】
、Rにおける炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、デシル、アリル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、特に1〜6)程度の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基);シクロペンチル、シクロヘキシル基などの炭素数3〜8程度の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基及びシクロアルケニル基);フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜14程度の芳香族炭化水素基(アリール基)が含まれる。前記複素環基における複素環としては、例えば、窒素原子、酸素原子及びイオウ原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を1〜3個程度含む3〜15員(好ましくは5〜12員、さらに好ましくは5又は6員)程度の複素環(縮合環を含む)などが含まれる。R及びRが互いに結合して隣接する2つの炭素原子と共に形成する環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環などの3〜15員(好ましくは5〜6員)程度のシクロアルカン環が挙げられる。
【0131】
式(3)で表される代表的な化合物として、ビアセチル(2,3−ブタンジオン)、2,3−ペンタンジオン、3,4−ヘキサンジオン、ビベンゾイル(ベンジル)、アセチルベンゾイル、シクロペンタン−1,2−ジオン、シクロヘキサン−1,2−ジオンなどのα−ジケトン類が挙げられる。なかでも、ビアセチルなどが好ましい。前記1,2−ジカルボニル化合物のヒドロキシ還元体の好ましい例としては、アセトイン、ベンゾインなどのα−ケトアルコール類;2,3−ブタンジオール、2,3−ペンタンジオールなどのビシナルジオール類が含まれる。なかでも、アセトイン、2,3−ブタンジオールなどが好ましい。
【0132】
前記1,2−ジカルボニル化合物又はそのヒドロキシ還元体の使用量は、例えば、前記窒素原子含有環状化合物1モルに対して、2〜1000モル程度、好ましくは5〜500モル程度である。なお、1,2−ジカルボニル化合物又はそのヒドロキシ還元体を用いる場合、前記窒素原子含有環状化合物の代わりに、又は、窒素原子含有環状化合物と共に前記金属化合物を用いてもよい。
【0133】
反応性ガスとして一酸化炭素と酸素とを用いると、熱可塑性樹脂のポリマー分子を構成する炭素原子にカルボキシル基を導入できる。反応性ガスとして窒素酸化物(又は、窒素酸化物と酸素)を用いると、熱可塑性樹脂のポリマー分子を構成する炭素原子にニトロ基が導入される。また、反応性ガスとして硫黄酸化物(又は、硫黄酸化物と酸素)を用いた場合には、熱可塑性樹脂のポリマー分子を構成する炭素原子に、SOH基、SOH基などが導入される。反応性ガスの使用量は、反応速度、所望する親水性基導入量(変性量)、操作性などを考慮して適宜選択できる。
【0134】
微粒子の処理は、通常、該微粒子を前記窒素原子含有環状化合物や金属化合物を含む溶媒中に分散させ、反応性ガスを前記分散液中に導入することにより行われる。反応性ガスは液化して導入することも可能である。
【0135】
溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;t−ブタノール、t−アミルアルコールなどのアルコール類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類;及びこれらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒中に水を適量添加してもよい。
【0136】
溶媒は微粒子を構成する熱可塑性樹脂の種類などにより適宜選択できる。溶媒としては、微粒子の表面形状を変化させないため、該微粒子を構成する熱可塑性樹脂に対して親和性を有するが該熱可塑性樹脂を溶解しないものを用いるのが好ましい。溶媒として、酢酸などの有機酸、ベンゾニトリルなどのニトリル類、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素等を用いる場合が多い。
【0137】
処理温度は、微粒子を構成する熱可塑性樹脂の種類や反応性ガスの種類などに応じて適当に選択できる。例えば、反応性ガスとして酸素を用いて微粒子表面のポリマーの炭素原子にヒドロキシル基やオキソ基などを導入する場合には、処理温度は0〜300℃程度、好ましくは30〜250℃程度(例えば、40〜150℃程度)である。また、反応性ガスとして一酸化炭素と酸素とを用い、微粒子表面のポリマーの炭素原子にカルボキシル基を導入する場合の処理温度は、例えば0〜200℃程度、好ましくは10〜150℃程度である。さらに、反応性ガスとして窒素酸化物又は硫黄酸化物を用いる場合の処理温度は、例えば0〜150℃程度、好ましくは10〜125℃程度である。前記処理は、常圧又は加圧下で行うことができ、加圧下で行う場合には、通常、1〜100atm(例えば、1.5〜80atm)、好ましくは2〜70atm程度である。処理時間は、処理温度及び処理圧力に応じて、例えば、30分〜48時間程度の範囲から適当に選択できる。
【0138】
反応性ガス濃度や、処理温度、処理時間などの反応条件を調整することにより、熱可塑性樹脂からなる微粒子の表面に導入する極性基の量(官能基導入率)をコントロールすることができる。前記処理は、反応性ガスの存在下又は反応性ガスの流通下、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。
【0139】
反応性ガスによる処理後、反応混合物を、濾過などの慣用の分離精製操作により高分子微粒子を溶媒と分離できる。こうして得られた表面処理された高分子微粒子、すなわち表面変性熱可塑性樹脂微粒子は、高分子を構成する炭素原子にヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、ニトロ基、スルホン酸基、エステル基などの極性基が導入されているため、元の熱可塑性樹脂と比べて表面張力が低く、水性溶媒に分散した場合の安定性が増大する。また、吸湿性や保湿性に優れる。
【0140】
表面変性熱可塑性樹脂微粒子を水性溶媒に懸濁することにより、表面変性熱可塑性樹脂微粒子含有水性懸濁液を得ることができる。水性溶媒としては、水、水と水溶性溶媒(アルコール等)との混合溶媒を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の高分子微粒子(表面変性熱可塑性樹脂微粒子)は、微粒子表面の高分子に極性基が導入されているため長期間に亘り親水性を保持でき、水性溶媒での分散の安定性や、吸湿性、保湿性が高い。そのため、輸送したのち水性溶媒に分散して使用する用途、及び高分子微粒子に保湿性などが要求される分野、例えば、化粧品用樹脂粒子などとして有効に利用できる。また、水やアルコールなどの親水性溶媒に対する再分散性が高い。このため水性溶媒で懸濁液とすることが要求される分野では、高分子微粒子を乾燥状態で保管、例えば、再分散性エマルジョン(懸濁液)などとして利用できる他、顔料、染料などの着色剤などを含有する粒子は、湿式インク用着色粒子、水性分散媒を用いた化粧品用着色粒子として利用できる。また、水溶性高分子を高分子微粒子の構成成分に含む必要がないので、水溶性高分子の溶出に伴う水性溶媒の粘度変化などが無く、安定した懸濁液を構成できる。
【実施例】
【0142】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に
よって限定されるものではない。
【0143】
実施例及び比較例では以下の成分を用いた。
【0144】
・熱可塑性樹脂(A):非晶性オレフィン系樹脂
A1:環状オレフィン系樹脂;シクロオレフィンコポリマー(TAP社製、環状ポリ オレフィン系樹脂TOPAS(登録商標) 5013S−04
ガラス転移温度 140℃
全光線透過度 91%
屈折率 1.53
・マトリックス成分(水溶性乳化媒体)(B)
B1−1:環状多糖類;クラスターデキストリン(日本食品化工(株)製)
B2−1:糖アルコール(水溶性可塑化成分): ソルビトール(東和化成工業(株 )製、ソルビット(登録商標))
(実施例1)
ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製、「FM型20L」)を用いて、熱可塑性樹脂(A)及びマトリックス成分(水溶性乳化媒体)(B)を表1に示す組成で、固体状態で混合した後、連続式ニーダー((株)栗本鐵工所製、KRC S−1ニーダー)を用い、混練温度220℃、回転数192rpm、連続式の条件で溶融混練した後、冷却して塊状の樹脂組成物を得たのち、約5mm角に裁断した。得られた分散体(裁断物)を、25℃の純水中に浸漬し、複合粒子の懸濁溶液を得た。メンブレン膜(孔径0.45μm、ポリビニリデンフルオライド製)を用いて、前記懸濁液から不溶分を濾別し樹脂粒子を回収した。回収した粒子を粒子に対して重量比で20倍の蒸留水中に分散し、超音波槽において5分間超音波処理して懸濁液を得た。その後、再びメンブレン膜(孔径0.45μm,ポリビニリデンフルオライド製)を用いて、前記懸濁液から不溶分を濾別し、樹脂粒子を回収した。
【0145】
【表1】

回収した樹脂粒子を、熱風乾燥機中に放置して、45℃で8時間乾燥し、その後、メノウ乳鉢とすり棒とを用いて、目視で凝集した部分がなくなるまで粉砕した。コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、Co(OAc)・4水和物(0.15g、0.6mmol)、前記樹脂粒子(20g)、酢酸(200mL)を仕込み、常圧酸素雰囲気にて、70℃まで昇温した後、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル;0.33g、2mmol)を加え、同温度で3時間攪拌した。冷却後、ろ過・メタノール洗浄・乾燥を実施することで、表面変性樹脂微粒子を得た。得られた表面変性樹脂微粒子について、表面IR測定法を用いて分析を行ったところ、3300cm−1付近に水酸基の存在、1700cm−1付近にカルボニル基の存在を示すスペクトルが観測された。
【0146】
(比較例1)
N−ヒドロキシフタルイミドを用いた酸化処理以降の手順を省いた以外は、実施例1と同様にして未処理の樹脂粒子を得た。
(実施例2)
実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)を、AIBNを用いないで反応を行った以外は、実施例1記載の条件で変性を行い、表面変性樹脂微粒子を得た。実施例1と同様に、水酸基とカルボニル基の存在がIR分析により認められた。
【0147】
(実施例3)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、Co(OAc)・4水和物(0.15g、0.6mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(200mL)、トルエン(16.6g、180mmol)を仕込み、常圧酸素雰囲気にて、90℃で3時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、水酸基とカルボニル基の存在がIR分析により認められた。
【0148】
(実施例4)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、Co(OAc)・4水和物(0.15g、0.6mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(200mL)、アダマンタン(16.6g、122mmol)を仕込み、常圧酸素雰囲気にて、80℃で3時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、水酸基とカルボニル基の存在がIR分析により認められた。
【0149】
(実施例5)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(200mL)を仕込み、70℃まで昇温した後、液化させた二酸化窒素(0.83g、18mmol)をシリンジで加え、同温度で3時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、1500−1600cm−1付近にニトロ基の存在、1650cm−1付近に亜硝酸もしくは硝酸エステル基の存在がIR分析により認められた。
【0150】
(実施例6)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、VO(acac)(0.053g、0.2mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(100mL)を仕込み、二酸化硫黄/酸素混合ガス(0.5atm/0.5atm)雰囲気にて、50℃で5時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、1200cm−1付近にスルホン酸基の存在がIR分析により認められた。
【0151】
(実施例7)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、VO(acac)(0.106g、0.4mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(100mL)を仕込み、二酸化硫黄/酸素混合ガス(0.5atm/0.5atm)雰囲気にて、50℃で5時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、実施例6と同様にスルホン酸基の存在がIR分析により認められた。
【0152】
(実施例8)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、VO(acac)(0.106g、0.4mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(100mL)、アダマンタン(16.6g、122mmol)を仕込み、二酸化硫黄/酸素混合ガス(0.5atm/0.5atm)雰囲気にて、50℃で5時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、実施例6と同様にスルホン酸基の存在がIR分析により認められた。
【0153】
(実施例9)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、VO(acac)(0.106g、0.4mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(100mL)、AIBN(0.33g、2mmol)を仕込み、二酸化硫黄/酸素混合ガス(0.5atm/0.5atm)雰囲気にて、50℃で5時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、実施例6と同様にスルホン酸基の存在がIR分析により認められた。
【0154】
(実施例10)
300mLオートクレーブに、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、Co(OAc)・4水和物(0.15g、0.6mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(200mL)、アダマンタン(16.6g、122mmol)を仕込み、一酸化炭素分圧20atm、空気分圧10atm、合計30atmにて、90℃で5時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、3000−3300cm−1付近、ならびに1700cm−1付近にカルボン酸基の存在がIR分析により認められた。
【0155】
(実施例11)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、Co(OAc)・4水和物(0.15g、0.6mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(200mL)、フマル酸ジメチル(2.88g、20mmol)を仕込み、常圧酸素雰囲気にて、70℃で5時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、3300cm−1付近に水酸基の存在、1750cm−1付近にエステル基の存在がIR分析により認められた。
【0156】
(実施例12)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、Co(OAc)・4水和物(0.15g、0.6mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(200mL)、フマル酸ジメチル(2.88g、20mmol)を仕込み、常圧酸素雰囲気にて、70℃まで昇温した後、AIBN(0.33g、2mmol)を加え、同温度で5時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、実施例11と同様に水酸基とエステル基の存在がIR分析により認められた。
【0157】
(実施例13)
コンデンサーを取り付けた500mL反応器に、N−ヒドロキシフタルイミド(2.934g、18mmol)、Co(OAc)・4水和物(0.15g、0.6mmol)、実施例1と同様にして得られた樹脂粒子(未変性)(20g)、酢酸(200mL)、2,3−ブタンジオン(1.72g、20mmol)を仕込み、常圧酸素雰囲気にて、70℃まで昇温した後、AIBN(0.33g、2mmol)を加え、同温度で5時間攪拌した。後処理は、実施例1と同様にして表面変性樹脂微粒子を得、1700cm−1付近にカルボニル基の存在がIR分析により認められた。
【0158】
(樹脂粒子の特性評価)
樹脂粒子の特性は次のようにして測定した。
(粒子の外観および平均粒子径)
得られた粒子を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、FE−SEM、JSM−6700F)により観察し、表面形状及び全体形状の写真を得た。得られた走査型電子顕微鏡写真を用い、写真上に少なくとも200個の粒子が含まれるように任意のサイズの長方形を描き、その長方形内に存在する全粒子の真球換算時の粒子径を採寸した。得られた少なくとも200個の粒子径より、体積平均粒子径(Dw)(μm)および数平均粒子径(Dn)(μm)を得た。得られた結果を表2に示す。
【0159】
(粒子の吸水性)
カールフィッシャー水分測定装置((株)ダイアインスツルメント製、微量水分測定装置CA100+水分気化装置VA100)を用い、加熱炉温度200℃で、得られた粒子の吸水量(吸水率)(重量ppm)を測定した。結果を表2に示す。
(極性マトリックスとの接着性)
2液エポキシ系接着剤(コニシ(株)製、ボンドクイック5)2.0g(各液1.0g)と、得られた粒子0.5gをテフロン(登録商標)製のパンに採り、せん断により混合し、接着剤が硬化する前に型枠に流した。その後、型枠ごと、室温で48時間放置し、硬化した厚さ2mmの板状サンプルを得た。得られたサンプルを幅5mm、長さ4cmの短冊状に切り出し、引張試験機(テンシロンRTA−500、(株)オリエンテック製)を用いて引張破壊強度を測定し、粒子と接着剤マトリックスとの接着性の指標とした。引張試験は、初期試験片長さ20mm、クロスヘッドスピード10mm/分で行った。測定は繰り返し回数n=5で行い、明らかな測定不備のデータを取り除いた上で平均値を以って測定値(MPa)とした。測定結果を表2に示す。
【0160】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる微粒子の分散液に、前記熱可塑性樹脂に対して反応性を有する反応性ガスを供給して、前記微粒子の表面を変性することを特徴とする表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項2】
下記式(I)
【化1】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下で微粒子の表面を反応性ガスで変性する請求項1記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項3】
反応性ガスが酸素原子含有ガスである請求項1又は2記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂からなる微粒子が、水溶性乳化媒体中に熱可塑性樹脂が分散している分散体を水性溶媒で溶解又は溶出処理して得られる微粒子である請求項1〜3の何れかの項に記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項5】
微粒子を構成する熱可塑性樹脂が疎水性ポリマーである請求項1〜4の何れかの項に記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項6】
微粒子を構成する熱可塑性樹脂が、主鎖が飽和炭素鎖である炭化水素系ポリマーである請求項1〜5の何れかの項に記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項7】
微粒子を構成する熱可塑性樹脂が環状オレフィンモノマー重合体である請求項1〜6の何れかの項に記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項8】
微粒子が2種以上の熱可塑性樹脂からなる複合高分子微粒子である請求項1〜7の何れかの項に記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項9】
微粒子が芯部と殻部とで構成されたコア−シェル構造を有している請求項8記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかの項に記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子の製造方法により製造された表面変性熱可塑性樹脂微粒子。
【請求項11】
請求項10記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子を水性溶媒に懸濁させた表面変性熱可塑性樹脂微粒子水性懸濁液。
【請求項12】
請求項10記載の表面変性熱可塑性樹脂微粒子を水性溶媒に懸濁させることを特徴とする表面変性熱可塑性樹脂微粒子水性懸濁液の製造方法。

【公開番号】特開2008−214505(P2008−214505A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54261(P2007−54261)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】