説明

表面強化用組成物及びその表面強化方法

【課題】コンクリート、セメント、モルタル等のカルシウム系下地の発塵防止、耐摩耗性、耐引っ掻き性を改良する表面強化組成物とその強化方法を提供する。
【解決手段】珪酸ナトリウム水溶液とアクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョンを含む組成物で、組成物の固形分が9〜35重量%、珪酸ナトリウムに対してアクリル・スチレン共重合樹脂が固形分比で2〜70重量%であり、混合後、静置24時間後微濁層と下澄み層に分別認識できる条件の組成物を、コンクリート、セメント、モルタル等のカルシウム系下地に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム系無機下地の表面強化組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、モルタル、コンクリートブロックなどからなる床などは、荷重、化学薬品により侵食、摩擦による摩耗などにより経時的に劣化がある。さらに近年、コンクリートの打ち込み作業にボンプ車が広く使用される状況になり、より打ち込みやすくするために水の配合を増やした軟練り状態で打設がなされることがあり、これは乾燥収縮が大きくなり、亀裂の危険を増す。また屋上、屋外では夏季の日射、冬季の冷輻射という大きな温度サイクルにさらされ、亀裂が生じている。
これらの対策として、水ガラスなど珪酸塩によるコンクリート表面強化が知られている。
【0003】
ビニル系共重合体(A)のエマルションと水溶性珪酸塩(B)とを、固形分重量比で(A):(B)=10:1〜1:10の配合割合で含み、共重合体(A)は、アミド結合含有ビニルモノマー(アクリルアミドなど)0.1〜20モル%と、このモノマーと共重合可能なビニル系モノマー((メタ)アクリル酸エステル、スチレンなど)80〜99.9モル%との共重合体で、共重合体(A)と水溶性珪酸塩(B)の相溶性に優れ、耐水性、耐候性、使用時までの保存安定性等に優れ、かつ多孔質基材及び上塗り塗料双方との密着性にも優れる水性塗料組成物が開示されている。(特許文献1)
【0004】
(A)樹脂成分が、(メタ)アクリル酸エステルからなる主単量体または(メタ)アクリル酸エステルとスチレンからなる主単量体、カルボキシル基含有ビニル単量体、ヒドロキシル基含有ビニル単量体およびシリル基含有ビニル単量体の共重合体からなる合成樹脂エマルジョンまたは水溶性樹脂溶液と、(B)一般式(I)MO・XSiO・aq(I)(式中、Mは周期律表第1A族に属するアルカリ金属を表し、Xは2〜4.5の正の値、aqは水溶液を表す。)で表される水溶性珪酸塩とを固形分比で(A):(B)=10:1〜1:10で配合する無機板用プライマー組成物が混和安定性、高温安定性が良好であり、無機板の表面補強効果に優れ、密着性およびリコート性に優れることが開示されている。(特許文献2)
【0005】
水溶性珪酸アルカリ化合物と、シラノール基またはシラノール基に変換可能な基を有する樹脂とを含有する、カルシウム系無機質基材塗装用組成物がコンクリート、セメントなどのカルシウム系無機質材料でなる基材の防塵、強化、およびカルシウム系無機質材料の湿潤養生を効果的に達成し得ることが開示されている。(特許文献3)
【0006】
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂エマルジョン及びスチレン変性(メタ)アクリル酸エステル系樹脂エマルジョンから選択される少なくとも一種の樹脂エマルジョン(A)を乾燥重量で99.5〜50重量部、並びにワックス系エマルジョン(B)を乾燥重量で0.5〜50重量部含んで成る塗料用水性樹脂組成物が地球環境保護に優れ、耐エフロ性、防水性、防湿性、基材密着性及び耐ブリスター性から選択される少なくとも一種が向上する塗膜となることが開示されている。(特許文献4)
【0007】
これらは防水性、防湿性等樹脂エマルジョンによるもの、補強効果・リコート性・保存安定性を求めて樹脂エマルジョンにシラノール基、水酸基などで変性し、珪酸塩を配合するもので、すべての効果で、十分な性能を有するものは現れていないのが、現状であった。
【0008】
【特許文献1】特開平11−29746号公報
【特許文献2】特開平7−144979号公報
【特許文献3】特開2003−119429号公報
【特許文献4】特開2004−189839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする課題は、コンクリート、セメント表面に塗布して、耐摩耗性、補強効果、透明、仕上がり性が良い組成物とその強化方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、珪酸ナトリウム水溶液とアクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョンを含む組成物であって、珪酸ナトリウムに対してアクリル・スチレン共重合樹脂が固形分比で2〜70重量%であり、混合後、静置24時間後微濁層と下澄み層に分別認識できることを特徴とする表面強化用組成物で、カルシウム系無機下地に対して耐摩耗性、補強効果、透明、仕上がり性を有する。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1記載の組成物をカルシウム系無機下地に塗布・乾燥する表面強化方法で、カルシウム系無機下地の発塵を押さえ、耐摩耗性、引っ掻き性耐水性を付与する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面強化用組成物は、カルシウム系無機下地に対して耐摩耗性、補強効果、透明、仕上がり性を付与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明はセメント・モルタル・コンクリート・珪酸カルシウム板等の下地に対して表面の強化と仕上がり性の良い組成物である。
【0014】
珪酸ナトリウムはNaO・nSiOで表され、前記nのモル比で1〜3号に分類され、これらを使うことができる。耐水性、硬化性等でJIS K1408の3号が珪酸ナトリウム水溶液として好ましい。なお、上記アクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョンの配合比で言う固形分は珪酸ナトリウム溶液中の酸化ナトリウムと二酸化珪素の重量和を言う。
【0015】
(アクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョン)
本発明に配合するアクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョンはアクリル酸エステルモノマーとスチレンモノマーが主成分となり、カルボキシル基含有ビニルモノマーから基本的に構成される。ヒドロキシル基含有モノマー・アミド基含有モノマー・アミン基含有モノマーは親水性・安定性が良くなり本発明の効果の妨げとなるので配合率は限られ、さらには含有しないことが好ましい。
アクリル酸エステルモノマーとしてはエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2一エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。配合比率としては30〜70重量%が好ましい。カルボキシル基ビニル含有モノマーとしては1〜5重量%配合される。
アクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョンの適性として珪酸ナトリウムに対して固形分比率で2〜70重量%、組成物の固形分7〜35重量%の範囲内で、組成物を配合し、組成物を100mlメスシリンダー(ガラス、内径28mm)に100ml入れ23℃/50%環境下24時間静置後の性状を確認し、沈降物が無く、上部に微濁層が下部に下澄み層があることが判るものが適す。好ましくは微濁層がメスシリンダー目盛りで20〜80ml、下澄み層が80〜20mlであるものがよい。
【0016】
前記適性は原理的には不明確であるが、アクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョンと珪酸ナトリウムの一部が結合或いは会合し、浸透し、定着乾燥時、下地材との傾斜構造となり、透明性を損なうこと無く、表面機械物性が向上するものと思われる。このため、分散が均一で、或いは24時間を遙かに超えて上記と同様になっても同様な効果が得られない。逆に、配合時、凝集する組成では、凝集物が表面に残り、また、下澄み溶液は珪酸ナトリウム溶液であるため、本発明の効果は得られない。また、組成物の固形分は9〜35重量%が浸透性及び強化効率が両立できる。
【0017】
その他の添加剤として、消泡剤、着色剤がある。これらは必要に応じて使用する。
消泡剤としては水系塗料において汎用的に使われているものとして、シリコーン系化合物、非イオン型界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤疎水性シリカ、ポリエーテル、鉱油等が挙げられ、これらを単独あるいは組み合わせることができる。
着色剤としては各種顔料、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、郡青等の無機質顔料、アゾ顔料、キナクリドン系顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料、インキ、天然若しくは合成の染料等を単独若しくは2種類以上を使用して色相を変えることができる。
【実施例1】
【0018】
珪酸ソーダ(富士化学(株)製、JIS K1408の3号品、珪酸ナトリウム水溶液)50重量部、ウルトラゾールC62(ガンツ化成(株)、商品名、アクリル・スチレン樹脂エマルジョン、固形分55%)1重量部、水40重量部、消泡剤としてBYK011(ビックケミー・ジャパン(株)、商品名)0.5重量部を配合し、実施例1の組成物とした。
【実施例2】
【0019】
ウルトラゾールC62を10重量部に変えた以外実施例1と同じで実施例2の組成物とした。
【実施例3】
【0020】
珪酸ソーダを70重量部、水を20重量部に変えた以外実施例1と同じで実施例3の組成物とした。
【実施例4】
【0021】
ウルトラゾールC62を10重量部に変えた以外実施例3と同じで実施例4の組成物とした。
【実施例5】
【0022】
珪酸ソーダを20重量部、水を70重量部に変えた以外実施例1と同じで実施例5の組成物とした。
【実施例6】
【0023】
ウルトラゾールC62を10重量部に変えた以外実施例5と同じで実施例6の組成物とした。
【0024】
比較例1
ウルトラゾールC62を無配合とした以外実施例5と同じで比較例1の組成物とした。
【0025】
比較例2
ウルトラゾールC62を無配合とした以外実施例5と同じで比較例2の組成物とした。
【0026】
比較例3
ウルトラゾールC62を無配合とした以外実施例3と同じで比較例3の組成物とした。
【0027】
比較例4
珪酸ソーダを10重量部、水を80重量部、ウルトラゾールC62を無配合に、BYK011を0.5重量部を配合し、比較例4の組成物とした。
【0028】
比較例5
珪酸ソーダを10重量部、水を80重量部に変えた以外実施例1と同じで比較例5の組成物とした。
【0029】
比較例6
ウルトラゾールC62を10重量部に変えた以外比較例5と同じで比較例6の組成物とした。
【0030】
比較例7
珪酸ソーダを80重量部、水を10重量部、ウルトラゾールC62を無配合、BYK011を0.5重量部を配合し、比較例7の組成物とした。
【0031】
比較例8
ウルトラゾールC62を1重量部に変えた以外比較例5と同じで比較例8の組成物とした。
【0032】
比較例9
ウルトラゾールC62を10重量部に変えた以外比較例5と同じで比較例9の組成物とした。
【0033】
比較例10
珪酸ソーダを100重量部、水を無配合に変えた以外比較例7と同じで比較例10の組成物とした。
【0034】
比較例11
ウルトラゾールC62を1重量部に変えた以外比較例10と同じで比較例11の組成物とした。
【0035】
比較例12
ウルトラゾールC62を10重量部に変えた以外比較例10と同じで比較例12の組成物とした。
【0036】
比較例13
ウルトラゾールC62のみで比較例13の組成物とした。
【0037】
比較例14
ウルトラゾールC62を50重量部水50重量部とし比較例14の組成物とした。
【0038】
比較例15
ウルトラゾールC62をリカボンドET51(中央理化工業(株)、商品名、アクリル・スチレン樹脂エマルジョン、固形分40%)に変えた以外実施例2と同じで比較例15の組成物とした。
【0039】
比較例16
ウルトラゾールC62をリカボンドET51に変えた以外実施例4と同じで比較例16の組成物とした。
【0040】
比較例17
ウルトラゾールC62をリカボンドET51に変えた以外実施例8と同じで比較例17の組成物とした。
【0041】
参考例
未処理の被塗物を参考例とした。
【0042】
【表1】

【0043】
樹脂分/珪酸ナトリウム:組成物中のアクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョンの固形分を珪酸ナトリウム中の酸化ナトリウムと二酸化珪素の重量和で除した率(%)
【0044】
固形分:組成物中の固形分比率
組成物性状:上組成物を調成後、100mlメスシリンダーに100ml入れ、23℃/50%条件24時間静置後の性状を確認した。A:上層に微濁層、下層に下澄み層ができる。B:均一分散(全体に白濁)
【0045】
評価方法
摩耗試験:モルタル(セメント:砂=1:3 水/セメント=50%)調合品を用い、厚み20mmで打設し、23℃/50%条件24時間養生後、実施例・比較例の組成物を0.10kg/mで塗付し23℃/50%条件で7日間養生したものを試験体とした。JISK7204 テーパー摩耗試験にて測定(摩耗輪 H−22 荷重250g 回転数 1000)
【0046】
引掻試験:モルタル(セメント:砂=1:3 水/セメント=50%)調合品を用い、厚み20mmで打設し、23℃/50%条件24時間養生後、を0.10kg/mで塗付し23℃/50%条件で7日間養生したものを試験体とした。日本建築仕上げ学会式 引掻き試験機にて測定した。
【0047】
仕上外観:モルタル(セメント:砂=1:3 水/セメント=50%)調合品を用い、厚み20mmで打設し、23℃/50%条件24時間養生後、実施例・比較例の組成物を0.10kg/mで塗付し23℃/50%条件で7日間養生したものを試験体とし目視にて仕上外観を確認した。○:異常ない △:若干白化 ×:著しい白化
【0048】
耐水白化:モルタル(セメント:砂=1:3 水/セメント=50%)調合品を用い、厚み20mmで打設し、23℃/50%条件24時間養生後、実施例・比較例の組成物を0.10kg/mで塗付し23℃/50%条件で1時間後に塗付面を水ぶきして、白い斑点がでるか目視にて確認した。○:異常ない ×:白い斑点有り
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明はコンクリート、セメント等のカルシウム系下地の発塵防止、耐摩耗性、耐引っ掻き性を付与し、白化することなく、透明で素地の意匠が得られ、床の他、壁にも応用ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸ナトリウム水溶液とアクリル・スチレン共重合樹脂エマルジョンを含む組成物であって、組成物の固形分が9〜35重量%、珪酸ナトリウムに対してアクリル・スチレン共重合樹脂が固形分比で2〜70重量%であり、混合後、静置24時間後微濁層と下澄み層に分別認識できることを特徴とする表面強化用組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物をカルシウム系無機下地に塗布・乾燥する表面強化方法。

【公開番号】特開2009−215491(P2009−215491A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62617(P2008−62617)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】