説明

表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法

【課題】本発明は、フローライン状欠陥の発生を抑制できる缶ボディの製造方法に係る技術の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、特定組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を均質化処理と均熱処理した後、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍した後、最終冷間圧延して板厚0.23mm以上0.4mm以下とした高強度缶ボディ用板材の製造方法であり、均質化処理を555〜580℃で1〜12時間行い、均熱処理を535〜555℃で1時間以上行い、均質化処理時間と均熱処理時間の合計時間を40時間以下とし、熱間圧延最終パスの圧下率を(85−0.08T)%以下(ただしTは、最終熱間圧延機から巻取直後の温度℃を示す)に設定し、熱間圧延機から巻取直後のコイル温度を270℃以上460℃以下、第一冷間圧延圧下率を40%以上、最終冷間圧延圧下率を55%以上70%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム缶の缶ボディに適用される表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム缶の缶ボディには、JIS3004(AA3004)またはJIS3104合金などの、Al−Mn−Mg系合金硬質板が用いられている。同合金硬質板には、容器として使用するために必要な強度や耐食性、美麗な外観、優れた成形性などが要求される。
前記合金硬質板は、一般的なアルミニウム合金板と同様、溶解・鋳造・均質化・熱間圧延・冷間圧延等の工程を経て製造される。そして通常、缶ボディ各部の強度や成形性のバランスが最適な3/4硬質(H16またはH36)から特硬質(H19またはH39)に調質されている。即ち、アルミニウム合金板を圧延途中に一旦再結晶させ、軟質状態とした後、圧下率50〜90%程度の冷間圧延を行い、主として加工硬化により適度な強度としている。
【0003】
最近の工業的な冷間圧延機を用いてアルミニウム合金板を圧延した場合、圧延による発熱で材料温度が高くなるため、圧延のままでも十分な延性が得られる。従って、通常、アルミニウム合金板は圧延のままの調質(H16〜H19)で用いられる。アルミニウム合金板の圧延速度が遅い場合など十分な延性が得られない場合などには、安定化焼鈍を施して、H3X調質でアルミニウム合金板を用いることも考えられる。
しかし、アルミニウム合金の圧延板の機械的性質に異方性があると、缶ボディを成形する際の成形性を阻害したり、成形後の缶ボディの対称性が低下したり、材料の使用歩留まりが低下するなどの問題がある。圧延板の異方性は、結晶粒の方位分布(集合組織)に依存する。そこで、冷間圧延による集合組織の変化を考慮し、冷間圧延前の再結晶で生じる集合組織を制御することにより、アルミニウム合金圧延板の異方性を低減している。
【0004】
上述の観点から、アルミニウム合金圧延板の異方性を制御するために、冷間圧延前の再結晶をどのように制御するかが重要である。この観点から、アルミニウムの缶ボディ材の製造方法は、以下の3種に分類できる。
(1)熱間圧延→再結晶→最終冷延
第1の方法は、熱間圧延で比較的薄肉の例えば3mm以下のアルミニウム合金板材に圧延し、熱間圧延後、コイルに巻取った状態でそのまま再結晶させ、あるいは、人工的に焼鈍を施して再結晶させた後、冷間圧延を行う方法である。この方法には通常、熱間粗圧延機と3〜4スタンドのタンデム式仕上熱間圧延機を用いている。この場合、熱間仕上圧延条件を制御することにより、再結晶後に立方体集合組織を十分に発達させることが可能である。従って、冷間圧延の圧下率を例えば90%程度と比較的高くしても、最終的に得られるアルミニウム板の異方性を比較的小さく出来る。
【0005】
(2)熱間圧延→低圧下冷延→再結晶→最終冷延
第2の方法は、やはり熱間圧延で比較的薄肉の例えば3mm以下のアルミニウム合金板材に圧延し、その後比較的低圧下の、例えば以下の特許文献1に記載の技術では、アルミニウム合金板材に6〜15%の冷間圧延を行った後、焼鈍を施し、最後に圧下率90%程度の最終冷間圧延を実施する方法である。先に記載の第一の方法と比較すると、比較的低圧下の冷間圧延という処理が追加されるが、この冷間圧延処理により焼鈍時の立方体集合組織の発達が促進される。従って、熱間仕上圧延条件の制御だけで十分な立方体方位が得られない場合に効果が期待できる。以下の特許文献2、3、4などに記載の技術では、熱間仕上圧延機に可逆式圧延機(リバーシングミル)を用いる場合に、本方法を提案している。
【0006】
(3)熱間圧延→冷間圧延→連続焼鈍炉を用いた再結晶→比較的低圧下の最終冷延
第3の方法は、アルミニウム合金板材の熱間圧延後、第一冷間圧延を行い、その後、連続焼鈍炉を用いて、比較的高温に急速加熱し、その後急速冷却する焼鈍を行い、最後に比較的低圧下率、例えば60%程度の冷間圧延を行う方法である。この方法は、上述の第2の方法と異なり、第1の冷間圧延の圧下率の上限の制限がない。従って、熱間圧延で3mm程度の薄肉仕上が出来ない圧延機でも、缶ボディ材の製造が可能である。即ち、圧延機の片側にしか巻取り装置がない、粗圧延・仕上圧延兼用の熱間圧延機を用い、例えば、6〜10mm程度まで熱間圧延した熱延板からでも缶ボディ材が製造でき、高価な熱間仕上圧延機を必要としない。
【0007】
しかし、熱間圧延後の冷延圧下率が高いと、その後の再結晶焼鈍時に十分な立方体方位を発達させることが出来ないため、中間焼鈍後の冷間圧下率が高いと、最終板材の異方性が大きくなりすぎる。そこで、第3の方法では、比較的高温で中間焼鈍を行ない、急速冷却し、Mg、Si、Cu等の金属間化合物を溶体化している。このため缶ボディに成形された後の塗装後の焼付け処理時に析出硬化効果を得られ、最終冷間圧延の圧下率が60%程度と低くても、十分な強度が得られる。(特許文献5参照)
【0008】
ところで、アルミニウム缶に対する低価格化の要求は厳しく、このため材料使用量を出来るだけ低減する試みが、続けられている。しかし、素材板厚を薄くすると、缶体底部の強度確保が難しく、缶体壁部を薄くすると、飲料を充填後の流通過程でピンホール等が発生し、内容物の漏洩を生じやすくなるという問題があった。
このような問題に対し、本発明者らは、先に、耐ピンホール性の優れた缶ボディを製造するのに適したアルミニウム合金板材を提案している。そして、その場合の好ましい製造方法の一例として、連続焼鈍炉を用いて、比較的高温に急速加熱し、その後急速冷却する中間焼鈍を施す製造方法が好ましいことを提案している。
【0009】
アルミニウム製缶ボディは、JIS3004などのアルミニウム合金硬質板に絞り加工およびしごき加工を施して製造される。缶ボディ壁部は、しごき加工によって、光沢がある均一な表面になる。また、Al−Mn−Mg系合金は耐食性が優れる。したがって、しごき加工後、洗浄・化成処理を行い、比較的薄い塗装を施すだけで、美麗な外観と良好な耐食性が得られる。したがって、スチール缶等と比較した場合に、塗装コストが低いことがアルミニウム缶のメリットとなっている。しかし、缶壁表面に欠陥があると、薄い塗装では微細な欠陥でも隠すことが出来ないため、欠陥を生じないようにすることが、肝要である。
上述のような問題が生じる欠陥として、圧延方向に沿った線状の欠陥がある。この種の欠陥は缶ボディに成形すると、ループ状の特有な形態となるため、「フローライン」などと呼ばれている。フローラインの原因としては、板表面に生じた傷や、熱間圧延時のロールコーティングの不均一な転写などがあると言われている。(非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3644819号公報
【特許文献2】特許第3644819号公報
【特許文献3】特許第3871462号公報
【特許文献4】特許第3871473号公報
【特許文献5】特公昭60−35424号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】大西の解説:板表面の欠陥防止、アルミニウム製品と製造技術、軽金属学会50周年記念事業実行委員会編集、76ページ(4)、2001年10月31日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述した本発明者の研究により、連続焼鈍炉を用いて中間焼鈍を施す製造方法により、耐ピンホール性に優れた高強度アルミニウム缶ボディ材の製造が可能であり、缶ボディの価格低減に有効な素材薄肉化も達成できることが分かった。
しかし、先の技術を用いても、大量生産ラインでは、圧延板の表面に欠陥が発生する場合があり、缶ボディの外観に問題が生じるため、表面欠陥の発生抑制について鋭意検討した。その結果、表面キズが原因と考えられていたフローラインと形態が良く似ているが、表面キズが原因ではない欠陥(以下、「フローライン状欠陥」と呼ぶ)を生じることが判明した。
【0013】
そこで、フローライン状欠陥の発生率や原因について、本発明者が詳しく検討したところ、欠陥の発生率には、熱間圧延前の均質化条件や熱間圧延最終パスの圧延条件が影響すること、熱間圧延以降の工程で板表面に認められるふくれが原因であることなどが、明らかになった。更に、アルミニウム合金の溶湯処理条件もフローライン状欠陥の発生率に影響することが明らかになった。
【0014】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、均質化処理の温度、時間を規制し、さらに熱間圧延最終パスの圧延条件などを規制することにより、フローライン状欠陥が発生しない缶ボデイ用板材の製造方法を提供することを第一の目的とする。
本発明の第二の目的は、上述の第一の目的を解決した結果として低下した、生産性や歩留まりを改善することである。
即ち、本発明では、熱間圧延最終パス後の温度やその温度に応じた圧下率上限を規制している。このため、温度を低下させるために熱間圧延時速度を下げたり、あるいは、熱間圧延により圧延可能な板厚が増加する。
更に、本発明では、素材の薄肉化を目的としているため、上述の目的を達成した上に、従来より板厚が薄い素材を製造することを目的としている。
従って、熱間圧延後、最終板厚とするまでに必要な冷間圧下率が増加した。このため、冷間圧延のパス数が増加したり、パス間で行う板幅端のトリム回数が増加し、歩留まりが低下するなどの問題を生じる。そこで、本発明は、これらの問題に対処し、工業的に最適な製造方法を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法は、質量%で、Mn:0.7〜1.1%、Mg:0.9〜1.7%、Si:0.25〜0.45%、Fe:0.35〜0.55%、Cu:0.25〜0.45%、Zn:0.05〜0.30%、Ti:0.15%以下を含有し、残部不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を均質化処理と均熱処理した後、熱間圧延と冷間圧延を施し、連続焼鈍した後、最終冷間圧延して板厚0.23mm以上0.4mm以下の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材を製造する方法であって、前記均質化処理を555〜580℃の温度で1〜12時間行い、前記均熱処理を535〜555℃の温度で1時間以上行い、均質化処理時間と均熱処理時間の合計時間を40時間以下にするとともに、前記熱間圧延最終パスの圧下率を(85−0.08T)%以下(ただしTは、熱間圧延最終パス後、熱間圧延機から巻取直後の温度℃を示す)に設定し、熱間圧延機から巻取直後のコイル温度を270℃以上460℃以下、第一冷間圧延圧下率を40%以上、最終冷間圧延圧下率を55%以上70%以下とすることを特徴とする。
本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法は、前記熱間圧延において最後2パス以上4パス以下の熱間仕上パスを、圧延機の両側に巻取装置を有する熱間圧延機を用い、圧延後の板材を巻取機でコイル状に巻き取りしながら圧延する方法であって、前記熱間圧延における熱間仕上パス開始板厚を18mm以上30mm以下で行い、前記冷間圧延における第一冷間圧延圧下率を88%以下とすることを特徴とする。
本発明は、上述の製造方法においてMg:1.30〜1.7%、Cu:0.30%〜0.45%の範囲とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は特定組成のアルミニウム合金を均質化処理するとともに均熱処理し、それらの合計時間を規定し、熱間圧延最終パスの圧下率を(85−0.08T)%以下(Tは最終熱間圧延機から巻取直後の温度)に設定し、熱間圧延機から巻取直後のコイル温度を規定の範囲とし、第一冷間圧延率と最終冷間圧延圧下率を規定の範囲としたので、熱間圧延最終パスにおいて適切な圧下率と適切な温度で仕上圧延される効果としてフローライン状欠陥の発生を抑制することができる。これにより、缶ボディに加工された場合であっても表面にフローライン状欠陥に起因する傷の生じない缶ボディ用板材を提供できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明に係る製造方法を実施する際に用いる装置と工程を示す説明図。
【図2】図2はアルミニウム缶の缶ボディに形成されたフローライン状欠陥の一部を示す組織写真。
【図3】図3はアルミニウム缶の缶ボディに形成されたフローライン状欠陥の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法について説明するが、初めに、高強度缶ボディ用板材(缶ボディ用アルミニウム合金板)の板厚と合金組成について説明する。
本実施形態のアルミニウム合金の高強度缶ボディ用板材は目標とする板厚が0.23mm以上0.4mm以下であり、質量%で、Mn:0.7〜1.1%、Mg:0.9〜1.7%、Si:0.25〜0.45%、Fe:0.35〜0.55%、Cu:0.25〜0.45%、Zn:0.05〜0.30%、Ti:0.15%以下を含有し、残部不可避不純物とアルミニウムの組成を有するアルミニウム合金からなる。
[成分組成]
以下、本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材において限定する成分組成について説明する。なお、本明細書において記載する各元素の含有量は、特に規定しない限り質量%であり、また、特に規定しない限り上限と下限を含むものとする。従って、例えば0.7〜1.1%との表記は0.7%以上1.1%以下を意味する。
【0019】
「Mn」0.7〜1.1%
Mnは、本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材において、Al−Mn−Fe系金属間化合物を形成し、晶出相及び分散相となって分散硬化作用を発揮するとともに、しごき成形加工時にダイスに対して焼き付きが生じるのを防止する効果を有する。
Mnの含有量が0.7%未満であると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が少なくなりすぎて充分な硬化特性が得られず、しごき金型への焼き付が生じやすくなる。Mnの含有量が1.1%を越えると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が多くなりすぎ、靭性低下によって加工性が劣化し、ピンホール(PH)が生じやすくなる。従って、Mnの含有量は、0.7〜1.1%の範囲内とすることが好ましい。
【0020】
「Mg」0.9〜1.7%
Mgは、本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材において、固溶体強化作用を有し、圧延加工時に加工硬化性を高めるとともに、SiやCuと共存することで分散硬化と析出硬化作用を発揮し、強度を向上させる。
Mgの含有量が0.9%未満であると、十分な強度が得られない。Mgの含有量が1.7%を超えると、サイドクラックが発生し易くなり、圧延性が低下するとともに、強度が高くなり過ぎて加工性が低下し、缶ボディとして製缶した際に胴切れが生じ易くなる。従って、Mgの含有量は、0.9〜1.7%の範囲内とすることが好ましい。また、最終的に得られる缶ボディ用板材の板厚が、0.23mm以上0.30mm以下の場合には、Mgの含有量について、1.30〜1.7%の範囲がより好ましい。Mgの含有量が1.30%未満では、板厚が0.30mm以下の場合、強度が不足する傾向がある。
【0021】
「Si」0.25〜0.45%
Siは、本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材において、同時に含有されるMg等とともに化合物を形成し、析出硬化及び分散硬化作用で強度を向上させる他、Al−Mn−Fe系金属間化合物に含有されて、しごき成形時にダイスに対する焼き付きを防止する効果を有する。
Siの含有量が0.25%未満であると、十分な強度が得られず、また、金属間化合物寸法が大きくなる。Siの含有量が0.45%を越えると、強度が高くなりすぎ、缶ボディとして製缶した際に胴切れが生じ易くなり、サイドクラックが生じ易くなり、加工性が劣化する。また、Siの含有量が0.45%を越えると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が多くなり、さらに、Mg、Cu、Alとの金属間化合物が溶体化できなくなり、靭性が低下し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Siの含有量は、0.25〜0.45%の範囲内とすることが好ましい。
【0022】
「Fe」0.35〜0.55%
Feは、本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材において、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量を増加させ、結晶の微細化と、しごき成形加工時にダイスに対して焼き付きが生じるのを防止する効果を有する。
Feの含有量が0.35%未満であると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が少なくなりすぎ、しごき金型への焼き付が生じやすくなる。Feの含有量が0.55%を超えると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が多くなりすぎ、靭性低下によって加工性が劣化し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Feの含有量は、0.35〜0.55%の範囲内とすることが好ましい。
【0023】
「Cu」0.25〜0.45%
Cuは、本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材において、Mg等と金属間化合物を形成し、固溶硬化、析出硬化及び分散硬化作用で強度を高める効果を有する。
Cuの含有量が0.25%未満であると、充分な強度向上効果が得られない。Cuの含有量が0.45%を越えると、サイドクラックが発生し易くなり、圧延性が低下するとともに、強度が高くなりすぎ、缶ボディとして製缶した際に胴切れが生じ易くなる。また、Mg、Si、Alとの金属間化合物が溶体化できなくなり、靭性低下によって加工性が劣化し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Cuの含有量は、0.25〜0.45%の範囲内とすることが好ましい。また、最終的に得られる缶ボディ用板材の板厚が、0.23mm以上0.30mm以下の場合には、Cuの含有量について、0.30〜0.45%の範囲がより好ましい。Cuの含有量が0.30%未満では、板厚が0.30mm以下の場合、強度が不足する傾向がある。
【0024】
「Zn及びTi」Zn:0.05%以上0.30%以下、Ti:0.15%以下
本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材は、質量%でZn:0.05%以上、0.30%以下、Ti:0.15%以下を含有する成分組成とすることができる。
Znは、析出するMg、Si、Cuの金属間化合物を微細化する作用を有するが、Znを含む場合は、原料として使用済みアルミ缶(UBC)やリサイクル材料を有効利用できる。Zn含有量が0.05%未満では原料としてUBCやリサイクル材を使用し難くなる。Zn含有量が0.30%を越えると、耐食性が劣化する。従って、Znの含有量は、0.05%以上0.30%以下とすることが好ましい。
Tiは、本発明の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材において、結晶粒を微細化し、加工性を改善する効果を有する。Tiの含有量が0.15%を越えると、金属間化合物が多くなり過ぎて靭性が低下し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Tiの含有量は、0.15%以下とすることが好ましい。
また、本発明に用いるアルミニウム合金においてその他の元素を不純物として0.05%以下含有していても差し支えない。
【0025】
本実施形態の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法においては、例えば、前記組成のアルミニウム合金スラブを溶製し、このスラブに対し均質化処理と均熱処理を施した後、図1に示す順序に従って加工することにより目的の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材を得る。
図1に示す工程においては、図1(A)に概要を示す熱間粗圧延機1を用いて板厚16mm程度まで熱間粗圧延した後、図1(B)に概要を示す熱間仕上圧延機2を用いて板厚2mm程度まで熱間圧延し、次に、図1(C)に概要を示す冷間圧延装置3において冷間圧延し、次に図1(D)に概要を示す連続焼鈍炉4において焼鈍し、図1(E)に示す如く冷間圧延装置5において再度目的の板厚まで冷間圧延し、最後に図1(F)に示すように目的の厚さの板材をコイル状に巻回してなるコイル6を得ることができる。
【0026】
図1(A)に示す熱間粗圧延機1は、例えば上下のワークロール10、11およびバックアップロール12、13と、複数の搬送ローラが配列された搬送路14を備え、搬送されてきたアルミニウム合金の板材15をワークロール10、11間を通過させて目的の厚さに圧延する装置である。なお、図1(A)において搬送路14は左側のみ記載されているが、実際には右側にも設置されていて、左右両側の搬送路から交代交代に繰り返しワークロール10、11に供給して順次粗圧延することにより、熱間粗圧延機1は必要な厚さまで板材15を圧延することができる。
図1(B)に示す熱間仕上圧延機2は、例えば上下のワークロール16、17およびバックアップロール18、19と、これらロールの入側に設置されたリール型の送出巻取装置20と、出側に設置されたリール型の送出巻取装置21とを具備してなる。この熱間仕上圧延機2は、送出巻取装置20から送り出してワークロール16、17間を通過させて熱間圧延した板材を送出巻取装置21で巻き取る操作と、送出巻取装置21から再度ワークロール16、17間を通過させて熱間圧延した板材を送出巻取装置20で巻き取る操作を繰り返し必要回数行うとともに、圧延操作の度に徐々にワークロール16、17間の間隔を調節することにより、アルミニウム合金の板材を目的の板厚まで熱間圧延する装置である。
【0027】
図1(C)に示す冷間圧延装置3は例えば上下のワークロール22、23およびバックアップロール24、25と、これらロールの入側に設置されたリール型の送出巻取装置26と、出側に設置されたリール型の送出巻取装置27とを具備してなる。この冷間圧延機3は、送出巻取装置26から送り出してワークロール22、23間を通過させて冷間圧延した板材を送出巻取装置27で巻き取る操作と、送出巻取装置27から再度ワークロール22、23間を通過させて冷間圧延した板材を送出巻取装置26で巻き取る操作を繰り返し必要回数行うとともに、圧延操作の度に徐々にワークロール22、23の間隔を調節することにより、アルミニウム合金の板材を目的の板厚まで順次圧延する装置である。
【0028】
図1(D)に示す連続焼鈍炉4は、加熱ゾーン30と冷却ゾーン31とを備えた焼鈍炉32と、この焼鈍炉32に板材を送り込むための送出装置33およびアキュムレータ34と、焼鈍炉32から板材を引き出して巻き取るためのアキュムレータ35および巻取装置36とを備えて構成されている。この連続焼鈍炉4は急速加熱と急速冷却および高温での短時間の焼鈍ができる装置として知られている装置である。
図1(E)に示す冷間圧延装置5は先の冷間圧延装置3と同等構成であるが、ワークロール22、23の間隔を調節して冷間圧延装置3より薄い板材に冷間圧延できるように構成されている。
図1に概要を示す各装置を主体として用い、以下に詳述する工程を順次実施することにより、目的の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材を製造することができる。
【0029】
「溶解・鋳造」
前述の組成のアルミニウム合金を溶解後、一般的な手法で除滓、成分調整、脱ガス、溶湯ろ過、微細化材添加などの処理を行う。脱ガスは、溶解炉、保持炉やインライン溶湯処理装置で行い、最終的な水素濃度は、0.15cc/100g以下とすることが好ましく、0.10〜0.12cc/100gとすることがより好ましい。その後、半連続鋳造によりスラブに鋳造する。
インライン溶湯処理装置の脱ガスに塩素ガスを使用してもよいが、塩素ガスは使用しない方がフローライン状欠陥が生じにくくなるのでより好ましい。また、鋳造組織の微細化のため、Al−Ti−B等の微細化材を使用してもよいが、使用しない方がフローライン状欠陥がより生じにくくなるのでより好ましい。鋳造工程において製造するスラブ厚さは500〜600mm程度とすることができる。
【0030】
「均質化・均熱処理」
前記アルミニウム合金を鋳造して所定の大きさのスラブを得た後、スラブの状態で均質化処理を施す。均質化処理では、加熱炉において加熱するなど、一般的な方法でスラブを下限温度以上、かつ、上限温度以下の温度範囲内に加熱し、同温度範囲内で下限時間以上、かつ、上限時間以下に保持する。
均質化処理に専用炉を用いた場合には、上記の保持終了後一旦常温付近まで冷却する。その後、面削を行った後、均熱炉で均熱温度の下限以上、かつ、上限以下の温度範囲まで再加熱し、同温度範囲で下限時間以上保持した後、炉から取出し熱間圧延を開始する。
均質化処理と均熱兼用炉を用いた場合は、面削後のスラブを均質化処理温度範囲まで加熱し、均質化処理温度範囲での保持を終了した後、均熱温度の上限以下、かつ、下限以上まで冷却し、同温度範囲で下限時間以上保持した後、炉から取出し熱間圧延を開始する。
アルミニウムに含有されるSi、Mn、Cu、Mgなどの元素は、400〜580℃付近の温度範囲で、その平衡固溶量が大きく変化する。したがって、均熱温度範囲での保持時間が短すぎると、熱間圧延開始時の固溶量のばらつきが大きくなり、最終製品の機械的性質のばらつきが大きくなる。
均質化処理時間および均熱時間の合計は、両処理で均熱処理の下限温度以上に保持される時間の総計を示す。従って、均質化処理を専用炉を使用して実施した場合、均質化後常温付近まで冷却する際に、均熱温度の下限以下まで冷却されるまでの時間を含む。
【0031】
均質化処理温度について具体的には、555〜580℃の範囲とすることが好ましい。均質化処理温度が555℃未満では溶質成分の溶体化が不十分となり易く、580℃を超える温度ではフローライン状欠陥の発生率が高くなる。
均質化処理時間について具体的には、1時間以上12時間以下の範囲であることが好ましく、4時間以上8時間以下の範囲であることがより好ましい。均質化処理時間が1時間未満では溶質成分の溶体化が不十分になる傾向となり、晶出相のα化が不十分で耐焼き付き性が不十分となる傾向がある。均質化処理時間が12時間を超えた場合、効果は飽和し、時間の無駄になるので、均質化処理時間は12時間以内であることが好ましい。
【0032】
均熱温度について具体的には、535〜555℃の範囲であることが好ましい。均熱温度が535℃未満では成分元素の固溶量が安定せず、最終製品の機械的性質等がばらくつ傾向となる。均熱温度が555℃を超えるとフローライン状欠陥の発生率が高くなる。
均熱時間について具体的には、1時間以上行うことが好ましい。均熱時間が1時間未満であると、成分元素の固溶量が安定せず、最終製品の機械的性質等がばらつくおそれがある。
更に本実施形態では、均質化処理時間と均熱時間の合計時間(535℃〜580℃の温度範囲に保持される時間)を40時間以下とすることが好ましい。この合計時間が40時間を超えるようであると、フローライン状欠陥の発生率が高くなる。
【0033】
「熱間圧延」
前記均熱処理後、炉から取出したスラブは通常直ちに熱間圧延を開始するが、スラブ温度が500℃未満にならなければ、熱延開始を遅延しても良い。熱間圧延のパス数は、スラブ厚さ、仕上厚さ、スラブ幅、合金組成などに依存するが、十数パス〜二十数パスの範囲が一般的である。
熱間圧延では、圧延材が厚い間は、通常圧延機の前後に搬送テーブルが設置された1スタンドの可逆式圧延機(図1(A)に示す構成の熱間粗圧延機1)を用いて圧延する。しかし、板が薄くなると、必要な搬送テーブル長が長くなり、板の自重によるたるみも大きくなり、板の冷却も生じやすくなる。このため、搬送テーブルで保持するためには、板厚が十数mm以上必要である。この最低板厚は、コイル重量や板幅に依存するが、工業的に用いられている重量・幅の場合、16mm程度以上であることが好ましい。
上述の厚さよりもアルミニウム合金の板材が薄くなった場合に、図1(B)に示す構成の熱間仕上圧延機2で熱間圧延を行う。
【0034】
熱間仕上圧延の最終パスの圧下率は、最終パス後板材を巻き取った直後のコイル温度をT℃とした場合、(85−0.08×T)%以下であることが必要である。この条件を外れるとフローライン状欠陥の発生率が高くなる。
熱間圧延最終パス後コイルに巻き取った直後のコイル温度は、270℃以上460℃以下であることが必要である。熱間圧延後冷間圧延する途中には、コイル破断を防止するために板の端部をトリムする必要がある。後述のように、冷間圧下率が高いほど、必要なトリム回数が多くなるが、熱間圧延最終パス後にコイルに巻き取った直後のコイル温度が270℃未満であると、さらに必要なトリム回数が多くなる。より好ましくは、巻取り後にコイルを冷却した後に、板厚の10%以上が再結晶していることが好ましい。一方、熱間圧延最終パス後コイルに巻き取った直後のコイル温度が460℃を超えると、熱間圧延後コイルを冷却するまでの表面酸化が著しくなり、表面外観が悪くなる。
【0035】
熱間圧延の最終パスでコイルに巻き取る直前に、板の両端をトリマーで切断し、端面を整えることにより、以降の冷間圧延中の端面からのクラックの発生を防止出来る。
熱間圧延後の板厚は1.3mm以上12mm以下であることが必要である。板厚が1.3mm未満であると、巻取後のコイル温度が低くなり過ぎ、必要圧下率の冷間圧延を施すと最終板が薄くなりすぎる。板厚が12mmを超えると巻取が困難となる。
【0036】
「圧延機両側に巻取装置がある熱間圧延機を使用する場合」
本実施形態において、フローライン状欠陥の発生を抑制するためには、熱間圧延の最終パスで圧下率の上限を規制しなければならい。
例えば、巻取装置が片側にだけに設置された粗圧延/仕上圧延兼用熱間圧延機を用いた場合、搬送テーブル上で保持出来る板厚に最小値が存在するために、熱間圧延で圧延可能な最小板厚が増加することになる。このため、熱間圧延後の冷間圧下率が増加する。更に、最終製品板厚の低下の影響もあり、従来に比べ、冷間圧延のパス数が増加したり、冷間圧延のパス間に行うトリム回数の必要量が増加するという問題が生じる。
また、熱間圧延最終パスの圧下率は巻取温度を低くした方が大きく出来るが、巻取直後の温度を低くするためには、圧延速度を落とす必要があり、熱間圧延の生産性が低下する。更に、巻取直後の温度を低くすると、圧延に必要な荷重が増加するので、圧延板の板幅が広い場合、圧延機の許容荷重を超える場合が生じ、前記の許容圧下率以下であっても、圧延できない場合が生じる。
【0037】
これらの理由で、生産性や歩留りの低下を防止するためには、圧延機の両側に巻取装置がある熱間圧延機(図1(B)に示す熱間仕上圧延機2)を使用するか、それ以外は、複数スタンドのタンデム式熱間圧延機を使用し、熱間圧延仕上板厚を小さくすることが好ましい。しかし、本実施形態の製造方法では、後述する最終冷間圧延率を好ましくは60%以上、例えば、90%程度と高くするために、熱間圧延条件を制御して、立方体集合組織を発達させることは目的としていない。
従って、タンデム式熱間圧延機を使用する場合でも、3〜4スタンドは、必ずしも必要でなく、2スタンドで十分目的が達成できる。また、熱間圧延機の両側に巻取装置を有する仕上圧延機を使用する場合でも、仕上圧延専用の圧延機とする必要はなく、粗圧延/仕上圧延兼用熱間圧延機の両側に巻取り装置を設置することでも目的を達成できる。
従って、本実施形態の製造方法を採用するならば、必要な生産量に応じて、最小の設備で缶ボディ材を製造することが出来る。
以下には、圧延機両側に巻取装置がある熱間圧延機(図1(B)に示す構成の熱間仕上圧延機2に相当)を使用する場合に好適な条件について説明する。なお、粗圧延/仕上圧延兼用熱間圧延機を用いた場合については、巻取装置を使用した圧延を仕上圧延と呼ぶ。
【0038】
熱間仕上圧延開始温度は、具体的には380℃以上480℃以下の範囲であることが好ましく、420℃以上480℃以下の範囲であることがより好ましい。熱間仕上圧延開始温度が380℃未満では、最終巻取温度が低くなり、連続焼鈍を施すまでに必要なトリム回数が増加する。熱間仕上圧延開始温度が480℃を超えるようになると熱間圧延後コイルを冷却するまでの表面酸化が著しくなり、表面外観が悪くなる。
熱間仕上圧延開始板厚は、具体的には16〜30mmの範囲であることが好ましい。熱間仕上圧延開始板厚が16mm未満ではテーブルの上での弛みが大きくなり、板幅が大きい材料を使用できない。熱間仕上圧延開始板厚が30mmを超えるようであると、第一パス後の板厚が大きくなり過ぎ、コイルに巻き取ることが困難になる。
以上のことから、熱間仕上圧延1パス当たりの圧下率は35%以上、60%以下の範囲であることが好ましい。
【0039】
「第一冷間圧延」
熱間圧後冷却した後、圧下率40%以上(より好ましくは60%を超える)冷間圧延を施す。特許文献1(特許第3644849号)に記載の技術では、25%以下、特許文献2(特許第3871462号)に記載の技術では60%以下、特許文献3(特許第3871473号)に記載の技術では、50%以下の冷間圧延率を提案している。
これらの特許に記載の提案において、熱間圧延後に比較的低圧下の冷間圧延を施すのは、既述のようにその後の焼鈍時に立方体集合組織の発達を促進することを目的としている。そして、このような目的のために、熱間圧延後は部分的に再結晶した状態が好ましいことを提案している。
本発明者の検討結果では、これら特許文献に記載のような製造方法とした場合、結晶粒が粗大化し、缶ボディを製造する際のしごき成形時に破断が生じやすくなる。また、このような製造条件とした場合、熱延板の板厚方向で再結晶率がばらつくため、中間焼鈍を行ったあとの結晶粒径も板厚方向で変化し、均一な組織が得られない。また、コイルの前後端でも熱間圧延速度を低くせざるを得ないため、定常速度が得られる長手中央部とは異方性が異なるようになる。このため歩留まりが低下するという問題がある。
本実施形態では、第一冷間圧延の圧下率は40%以上、好ましくは60%を超える圧延率としている。このため、板厚方向やコイル長手方向で熱間圧延後の再結晶率にばらつきがあっても、中間焼鈍後に均質な組織が得られる。また、異方性の長手方向ばらつきも小さく、歩留まりが向上する。
【0040】
第一冷間圧延の圧下率について、66%超〜88%の範囲では、熱間圧延最終パスに中間トリムを行った後、連続焼鈍を行うまでの間(例えば連続焼鈍直前)に、中間トリムが必要となる。
第一冷間圧延の圧下率について、88%超〜91%の範囲では、熱間圧延最終パスに2回トリムを行った後、連続焼鈍を行うまでの間に、1回の中間トリムが必要となる。
第一冷間圧延の圧下率について、91%超の範囲では、熱間圧延最終パスにトリムを行った後、連続焼鈍を行うまでの間に、3回以上の中間トリムまたは追加の中間焼鈍が必要となる。
【0041】
「連続焼鈍、最終冷間圧延」
連続焼鈍を行う場合の条件として、平均加熱速度10〜50℃/sで400℃以上600℃以下の所定温度まで加熱し、その後、平均冷却速度30〜150℃/sで常温から100℃以下の所定の温度まで冷却する。
この後、最終冷間圧延は圧下率55%以上70%以下で行う。また、最終冷間圧延は1パスで圧延し、巻取温度は80℃以上140℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0042】
「缶ボディ用アルミニウム合金板の板厚」
本実施形態により最終的に得られる表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の板厚は、0.230mm以上0.4mm以下の範囲である。
板厚が0.230mm未満であると、製缶して缶ボディとした際の十分な耐圧強度が得られ難くなる。また、板厚が0.4mmを超えるようであると、缶ボディの底部の重量が重くなり、製造コストが上昇して経済的でなくなる。表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の板厚は、0.230mm以上0.3mm以下の範囲がより好ましく、0.230mm以上0.27mm以下の範囲が更に好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を示して、本発明に係る表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法について更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでは無い。
Al−0.3%Si−0.43%Fe−0.38%Cu−0.99%Mn−1.48%Mg−0.03%Cr−0.18%Zn−0.04%Tiなる組成のアルミニウム合金を溶解し、脱ガスおよび溶湯ろ過後、半連続鋳造により厚さ600mm、幅1100mm、長さ4.5mのスラブに鋳造した。
インライン脱ガスには、回転ノズルを有する装置を使用して、Ar吹き込みによって実施した。Ar中への塩素添加は行わなかった。また、合金中のTiは、主として原料UBCおよびスクラップ中に含まれていたものであり、一部の試料では、保持炉で成分調整用に添加した。しかし、移送桶で微細化のロッドタイプAl−Ti−B合金の添加は行わなかった。インライン脱ガス後に採取したサンプルの分析によると、いずれのサンプルも水素量は、0.10〜0.12cc/100gの範囲内であった。
【0044】
次いで、前記スラブを面削後、均質化・均熱兼用炉を用いて均質化処理と均熱処理を施した。後述の試験結果を示す表1に記載する均質化処理および均熱温度は設定温度である。
前記スラブを加熱し、均質化温度設定値−5℃に達した後、均熱温度に降温を開始するまでは、いずれの場合もスラブ温度は均質化設定温度の±5℃以内であった。また、均質化温度から降温を開始し、均熱温度設定値+5℃に達した後、スラブを炉から取出すまでは、スラブ温度は均熱温度設定値±5℃以内であった。
【0045】
均質化処理時間は、スラブの加熱を開始し、スラブが均質化温度設定温度−10℃に達してから、均熱温度に降温を開始し、均質化温度設定値−10℃または均熱温度+10℃のいずれか高い方の温度より低くなるにまでの時間とした。均熱時間は、均質化温度から均熱温度へ降温を開始後、均熱温度+10℃以下になった時から、スラブを炉から取出すまでの時間とした。均質化処理時間と均熱時間の合計は、両処理で均熱処理の下限温度以上に保持される時間の総計を示すので、スラブの加熱を開始し、均熱温度の下限535℃に達してからスラブを炉から取り出すまでの時間に相当する。
均熱後、炉から取出したスラブに熱間圧延を施した。炉から取出してから熱間圧延第一パスを開始するまでの時間は4〜5分であった。熱間圧延された板は圧延後にコイル状に巻き取る直前に、端部をトリマーによりトリムした。熱間圧延後巻き取ったコイルを常温まで冷却後冷間圧延を施した。中間トリム数が2回の場合、板厚が2.2〜2.8mmで1度目の中間トリムを施した。トリム回数が2回または1回の場合については、連続焼鈍炉に設置された入側トリマーで、板材を加熱する直前にトリムを施した。
【0046】
中間焼鈍には連続焼鈍炉を用いた。板材は連続焼鈍炉の加熱ゾーンを通過する約20sの間に、常温から500℃まで加熱され、その直後冷却ゾーンを通過する約10秒の間に70℃以下まで冷却される。中間焼鈍後、2スタンド・タンデム式冷間圧延機を用い1パスで最終板厚まで冷間圧延した。
フローライン状欠陥は、DI成形し、脱脂した後の缶の表面を観察して判定した。
まず、目視で元板の圧延方向に沿った線状の欠陥が生じていないかどうかを確認した。フローライン状欠陥は、幅が十数〜数百μm、長さは、長いものは成形前のブランクの端から端までに相当する長さを有する。目視観察では、長さが約1mm以上あり線状欠陥と識別できるものを検出した。フローライン状欠陥は、汚れや熱延ロールコーティングの不均一転写が原因のフローラインと外観が類似している。そこで、念のために、線状欠陥部を切り出し、光学顕微鏡で観察し、フローライン状欠陥であることを確認した。
図2にNo.5の試料で発生したフローライン状欠陥を拡大した写真を示し、図3にフローライン状欠陥の一例を示す。図2に示す写真の如く鱗片状の組織が観察され、写真に示すように鱗片の一部が剥離している。フローライン状欠陥でも、その全長に沿って、鱗片状の表層がほとんど剥離した部分が存在する。そのような部位は、表面傷が原因のフローラインと類似の形態となる。しかし、フローライン状欠陥では、鱗片組織が少なくとも部分的に残存するので、鱗片状部位が認められることを光学顕微鏡で確認した。また、図3に示す如くカップ型の缶体側面にU字形に生成する部分がフローライン状欠陥の一例である。
各条件について、各1万缶の缶を観察し、検出したフローライン状欠陥の缶数を以下の表1〜表3に示した。
また、結晶粒径は、板材の表面をバフ研磨後、電解研磨し、鏡面とした後、バーカー氏液で陽極酸化処理し、光学顕微鏡で偏光観察して求めた。そして、板幅方向の平均切辺長が25μm以下の場合を○、25μmを超える場合を△、30μmを超える場合を×とした。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表1から表3に示す結果において、No.1〜No.5の試料は、均質化処理温度が異なる。No.1〜3の試料はいずれも本発明例であるが、No.4、5の試料は本発明で規定する範囲より高く、フローライン状欠陥が発生した。
No.6〜9の試料は、均質化処理時間または均熱時間が長く、均熱+均質化時間が長い場合である。No.6〜8の試料は本発明の範囲内であるが、No.9の試料は本発明の範囲より長く、フローライン状欠陥が発生した。
No.10、11の試料は均熱温度が高い場合である。No.10の試料は本発明の範囲内であるが、No.11の試料は本発明の範囲より高く、フローライン状欠陥が発生した。
No.12〜18の試料は、熱間圧延の最終パスの圧下率と熱間圧延終了直後のコイル温度を変えた場合である。No.12〜14の試料は、最終パスの圧下率と熱間圧延終了直後のコイル温度との関係が、本発明の関係を満足する場合である。No.15〜18の試料は、最終パスの圧下率が、本発明の最終パス圧下率と熱間圧延終了直後のコイル温度との関係を満足する場合より高い場合で、いずれもフローライン状欠陥が発生した。
No.19の試料は熱間圧延終了後のコイル温度を470℃とした試料であるが、表面酸化が著しくなり、外観が白色に近い色を呈するようになった。
【0051】
No.20の試料は、第一冷間圧延の圧下率が91.4%と高い場合で、2.5mmで中間トリムを行ったが、第一冷間圧延の最終パスで破断を生じた。
No.21の試料は第一冷間圧延の圧下率が87.4%と低い場合で、連続焼鈍炉入側でトリムを行うだけで製造可能であった。
No.22の試料も第一冷間圧延の圧下率が87.4%と低いが、熱間圧延終了後コイル温度が260℃と本発明の範囲内より低く、第一冷間圧延の最終パスで破断を生じた。
【0052】
No.23〜31の試料は、熱間圧延機の両側に巻取り装置を設置した熱間仕上圧延機を用いた場合である。No.23〜26の試料は、熱間圧延の最終パスの圧下率と熱間圧延終了直後のコイル温度を変えた場合である。最終パスの圧下率が、本発明の最終パス圧下率と熱間圧延終了直後のコイル温度との関係を満足する場合より高い場合(No.24、26の試料)は、フローライン状欠陥が発生した。
No.27、28の試料は、第一冷間圧延の圧下率が66%より低い場合で、中間トリムなしで製造が可能であった。No.29の試料は、第一冷間圧延の圧下率が66%より高い場合で、中間トリムなしで製造しようとしたが、連続焼鈍時に炉内で破断したため、製造を中止した。
No.30の試料は、第一冷間圧延の圧下率が40%より低い場合で、結晶粒が粗大となった。
No.31の試料は、好ましい第一冷間圧延の圧延率である60%を下回る圧延率とした試料であるが、中間トリムなしの場合に結晶粒径が若干大きくなったが製造することはできた。
なお、表1〜3に示す試料No.1〜22の試料は、片側だけに巻取装置が設置された粗圧延/仕上圧延兼用熱間圧延機を用いた例(熱間仕上圧延機パス回数0回)であり、No.23〜31の試料は、圧延機の両側に巻取装置を備えた専用の熱間仕上圧延機を使用した例(熱間仕上圧延機パス回数1〜4回)である。
【符号の説明】
【0053】
1…熱間粗圧延機、2…熱間仕上圧延機、3、5…冷間圧延装置、4…連続焼鈍炉、6…コイル、30…加熱ゾーン、31…冷却ゾーン、32…焼鈍炉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mn:0.7〜1.1%、Mg:0.9〜1.7%、Si:0.25〜0.45%、Fe:0.35〜0.55%、Cu:0.25〜0.45%、Zn:0.05〜0.30%、Ti:0.15%以下を含有し、残部が不可避不純物とアルミニウムの組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を均質化処理と均熱処理した後、熱間圧延と冷間圧延を施し、連続焼鈍した後、最終冷間圧延して板厚0.23mm以上0.4mm以下の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材を製造する方法であって、
前記均質化処理を555〜580℃の温度で1〜12時間行い、前記均熱処理を535〜555℃の温度で1時間以上行い、均質化処理時間と均熱処理時間の合計時間を40時間以下にするとともに、前記熱間圧延最終パスの圧下率を(85−0.08T)%以下(ただしTは、熱間圧延最終パス後、熱間圧延機から巻取直後の温度℃を示す)に設定し、熱間圧延機から巻取直後のコイル温度を270℃以上460℃以下、第一冷間圧延圧下率を40%以上、最終冷間圧延圧下率を55%以上70%以下とすることを特徴とする表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法。
【請求項2】
前記熱間圧延において最後2パス以上4パス以下の熱間仕上パスを、圧延機の両側に巻取装置を有する熱間圧延機を用い、圧延後の板材を巻取機でコイル状に巻き取りしながら圧延する方法であって、前記熱間圧延における熱間仕上パス開始板厚を18mm以上30mm以下で行い、前記冷間圧延における第一冷間圧延圧下率を88%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法。
【請求項3】
Mg:1.30〜1.7%、Cu:0.30%〜0.45%の範囲とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140664(P2012−140664A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293274(P2010−293274)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)