説明

表面波素子

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、交さ幅重み付けIDT電極の包絡線をコサイン関数処理した表面波素子に関する。
【0002】
【従来の技術】この種の表面波素子においては、高次横モードの影響によって、共振周波数付近にスプリアスが生じる。従来、このスプリアスを抑制するために、IDT電極に、横0次モードの電荷分布曲線を近似したY=±COS- 1 (|αX|)
但し、IDT電極はX軸方向の −X0 /2≦X≦X0 /2にあるものとし、0<α≦π/X0 である。
形状の重み付けを行い、高次横モードを低減することが行われてきた。その交さ幅重み付けの包絡線を図5に示す。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のようなCOS- 1 (|αX|)のみの交さ幅重み付けでは、図6Aにおいて11aで、また図6Bにおいて11bで、それぞれ示すように、共振周波数付近のスプリアスを完全に除去することはできず、発振器用のデバイス、特にVCO用としては使用できないことが多かった。これは、後述するように、Y軸方向の横モードのみを考慮し、X軸方向の分布である縦モードを無視したことが原因である。
【0004】したがって、本発明は、主共振の横0次モードの近似関数COS- 1 (|αX|)に縦0次モードの近似関数COS(βX)を乗じることによって、IDT電極の交さ幅重み付け包絡線を構成して、高次モードの影響を減少させ、共振周波数付近のスプリアスを抑制することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために、一つには、圧電基板上に、交さ幅重み付けを施したIDT電極と、その前後に反射器電極とを、形成した表面波素子において、IDT電極の中心を原点とし、表面波の伝播方向にX軸、その垂直方向にY軸を仮定し、X軸方向のIDT電極の範囲を−X0 /2≦X≦X0 /2としたとき、IDT電極の交さ幅重み付け包絡線がY=±COS- 1 (|αX|)・COS(βX)
但し、0<α≦π/X00<β≦π/X0を満たすように形成されていることを特徴とする表面波素子とし、二つには、交さ幅重み付け包絡線を持つIDT電極を、Y軸と平行な直線で2分して2ポートタイプ(2電極共振子)としたことを特徴とする表面波素子としたものである。
【0006】
【作用】IDT電極の中心を原点とし、表面波の伝播方向をX軸、それと垂直方向をY軸とする。X軸上のIDT電極の範囲は、−X0 /2≦X≦X0 /2とする。このとき、表面波による電荷分布をQ(X)、IDT電極の交さ幅重み付け関数をW(X)とすると、IDT電極の電気端子に現れる信号強度Iは
【0007】
【数1】


【0008】となる。W(X)とQ(X)が直交する関数であれば、上式により信号強度Iは0となる。実際、電荷分布関数はコサイン関数で近似することができ、各モードの関数の間には直交関係がある。従って、交さ幅重み付け関数W(X)として0次モードの電荷分布と同じ関数を選べば、高次モードによる信号強度は関数の直交性より0となり、不要なスプリアスは抑圧される。横モードのみを考えたIDTの電荷分布は、COS− 1 (|αX|) 但し、0<α≦π/X0のように近似されるが、実際にはX軸方向の分布である縦モードの存在により電荷分布は、A(X)・COS- 1 (|αX|)となる。A(X)は縦0次モードのとき、A(X)=COS(βX) 但し、0<β≦π/X0と近似できる。よって、本発明では縦モードも考慮して、交さ幅重み付け関数をW(X)=±COS- 1 (|αX|)・COS(βX)
とするものである。なお、従来は交さ幅重み付け関数として横モードのみを考慮したCOS- 1 (|αX|) 但し、0<α≦π/X0を使用していたため、高次モードとの直交性がなくなり、高次スプリアスを完全には抑圧できなかった。
【0009】
【実施例】次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1において、1は圧電基板、2はIDT電極で、圧電基板1に設けられている。IDT電極2の中心3を原点とし、表面波の伝播方向4をX軸、その垂直方向をY軸とする座標系を導入する。5a、5bは反射器電極で、X軸上、IDT電極2の両側に取り付けられている。
【0010】図2を参照して、本発明のIDT電極への重み付け方法を説明する。座標系のとり方は図1と同じとし、単位はX軸についてはIDT電極の右端6を(X0 /2、0)とし、Y軸は電極指とバスバー7との境界8を(0、1)とする。説明では第1象限のみを考える。
【0011】横0次モードの電荷分布は、Q(X)=COS- 1 (|αX|)
と近似できので、位置Xiにある電極指の励振部の長さYiはYi=COS- 1 (|αXi|)
となる。また、図2Bは縦0次モードの振幅を示すもので、Xiでの縦0次モードの振幅はA(Xi)=COS(βXi)
で近似できる。本発明は、横モードと縦モードの電荷分布を考慮して、Xiでの励振部の長さが横0次モードと縦0次モードの積A(Xi)・Yiとなるように交さ幅重み付けを行う。ここに、αは電荷分布の導波路外へのしみだしによって決まる値で、導波路幅と導波路内外の音速比から計算した値を用いる。βはIDT電極の設計パラメータから電極指1本毎に流れる電流を計算機で求め、それを元に算出した値を用いる。実際に、α=0.88π β=0.98π IDTの長さ=1としたとき、IDT電極の交さ幅重み付け包絡線は図3Aとなる。IDT電極をY軸で分割した2ポートタイプに適用した場合は、図3Bとなる。9は表面波が励振される部分の包絡線である。このように交さ幅重み付けされたIDT電極は、電極指が奇数本の場合はY軸に、偶数本の場合は原点に対称となる。
【0012】図3Aのように縦モード考慮の交さ幅重み付けされた電極をXカット112°Y伝播のLiTaO3 に施した場合、インピーダンス特性は図4となる。なお、図5に示す従来例の電極を施した場合、インピーダンス特性は図6となる。この共振子をVCOに用いる場合、従来例の図6ではスプリアス11a、11bで周波数飛びが生ずるが、本発明の実施例ではスプリアスは10a、10bのように小さくなり、周波数飛びの問題は生じにくくなる。
【0013】
【発明の効果】本発明は、IDT電極の交さ幅重み付け関数として、主共振の横0次モードに近似するCOS- 1 (|αX|)と、縦0次モードに近似するCOS(βX)とを乗じたものを用いるので、高次モードはより良好に抑圧されて、共振周波数付近のスプリアスが除去されるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を説明するために導入された座標系の説明図
【図2】 本発明の理論構成を説明するための説明図で、Aは横0次モードの説明図、Bは縦0次モードの説明図
【図3】 本実施例にかかる表面波素子のIDT電極を示すもので、Aは1ポートタイプIDT電極の平面図、Bは2ポートタイプIDT電極の平面図
【図4】 図3Aの実施例により得られた特性を示すもので、Aはインピーダンス特性図、Bはスミスチャート図
【図5】 従来例のIDT電極の平面図
【図6】 図5に示す従来例により得られた特性を示すもので、Aはインピーダンス特性図、Bはスミスチャート図
【符号の説明】
1 圧電基板
2 IDT電極
3 原点
4 表面波の伝播方向
5a、5b 反射器電極
6 右端
7 バスバー
8 境界
9 交さ幅重みづけ包絡線
10a、10b スプリアス
11a、11b スプリアス

【特許請求の範囲】
【請求項1】圧電基板上に、重み付けを施したIDT電極と、その前後に反射器電極とを、形成した表面波素子において、IDT電極の中心を原点とし、表面波の伝播方向にX軸、その垂直方向にY軸を仮定し、X軸方向のIDT電極の範囲を−X0 /2≦X≦X0 /2としたとき、IDT電極の交さ幅重み付け包絡線がY=±COS- 1 (|αX|)・COS(βX)
但し、0<α≦π/X00<β≦π/X0−X0 /2はIDT電極の左端のX座標X0 /2はIDT電極の右端のX座標を満たすように形成されていることを特徴とする表面波素子。
【請求項2】請求項1記載の交さ幅重み付け包絡線を持つIDT電極を、Y軸と平行な直線で2分して2ポートタイプとしたことを特徴とする請求項1記載の表面波素子。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【特許番号】特許第3289410号(P3289410)
【登録日】平成14年3月22日(2002.3.22)
【発行日】平成14年6月4日(2002.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−162069
【出願日】平成5年6月30日(1993.6.30)
【公開番号】特開平7−22898
【公開日】平成7年1月24日(1995.1.24)
【審査請求日】平成12年6月23日(2000.6.23)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【参考文献】
【文献】特開 昭64−8710(JP,A)
【文献】1976 IEEE ULTRASONICS SYMPOSIUM PROCEEDINGS,p.260−265,287−296