説明

表面活性化方法および表面活性化装置

【課題】 被接合物の接合面の表面活性化処理を効率よく行うことで該被接合物どうしの接合強度の向上を図ることのできる技術を提供する。
【解決手段】 プラズマ処理前半とプラズマ処理後半とでウエハー308の接合面を表面活性化する化学処理の強度を効率よく切り替えることで、ウエハー308の接合面を酸素プラズマによって効率よく親水化(表面活性化)することができる。このように、その接合面を効率よく親水化処理されたウエハー308どうしを適当な周知の接合装置によって重ね合わせてOH基どうしによる水素結合により接合した後、HOを接合界面から放出させるための低温(例えば、常温〜約200℃)でのアニーリングを行うのみで十分な接合強度を得ることが可能となり、接合強度の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合物どうしを接合するために、該被接合物の接合面をプラズマで表面活性化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリコン基板の接合面どうしを張り合わせるために、該接合面を酸素プラズマで親水化処理(表面活性化処理)する技術が知られている。例えば、特許文献1に記載の技術では、高周波電源によるプラズマ発生装置を用いて酸素を含んだ雰囲気下で発生させた酸素プラズマによって、サブオキサイドを有する酸化層がシリコン基板の研磨面に形成される。このサブオキサイドを有する酸化層では接合界面において有効に働くシリコンの未結合手が多く形成され、このように親水化処理された接合面どうしが直接密着され、加熱処理されて2枚のシリコン基板が相互に接合される。
【0003】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した従来技術では、シリコン基板が設置された電極に電圧印加して酸素プラズマを発生させているため、次のような問題が生じることがあった。すなわち、酸素イオンが該電極(シリコン基板)の方向へ加速してシリコン基板に衝突するため、酸素イオンによるエッチング力が強すぎてシリコン基板の接合面に破損が生じてしまい、該接合面の活性化処理(親水化処理)が上手く行われないことがあった。そのため、シリコン基板どうしの接合強度が低下してしまう。また、加速した酸素イオンが、シリコン基板が設置されている電極をエッチングしてしまうこともあった。このようにエッチングされた電極の埃がシリコン基板の接合面に付着してしまうと、該シリコン基板どうしの接合強度が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、被接合物の接合面の表面活性化処理を効率よく行うことで該被接合物どうしの接合強度の向上を図ることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記目的を達成するため、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化方法において、プラズマ処理前半において、プラズマ処理手段の被接合物を保持する被接合物保持電極に所定周波数で電圧印加してプラズマを生成し、前記接合面のプラズマ処理を行い、プラズマ処理後半において、前記プラズマ処理手段の前記被接合物保持電極に対向配置された対向面電極に、前記所定周波数よりも高い周波数で電圧印加してプラズマを生成することを特徴としている(請求項1)。
【0007】
また、この発明にかかる表面活性化装置は、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化装置において、被接合物を保持する被接合物保持電極と、該被接合物保持電極に対向配置された対向面電極と、それぞれの電極に電圧を印加してプラズマを発生させる少なくとも1つの交番電源とを有するプラズマ処理手段を備え、前記プラズマ処理手段は、プラズマ処理前半において、前記被接合物保持電極に所定周波数で電圧印加してプラズマを生成し、前記接合面のプラズマ処理を行い、プラズマ処理後半において、前記対向面電極に前記所定周波数よりも高い周波数で電圧印加してプラズマを生成することを特徴としている(請求項4)。
【0008】
このように構成された発明では、プラズマ処理前半において、プラズマ処理手段の被接合物を保持する被接合物保持電極に所定周波数で電圧印加してプラズマを生成しているため、プラズマ中のイオンは、被接合物電極側、すなわち被接合物側へ加速される。そのため、比較的、強い衝突力で被接合物表面の接合面に衝突するイオンと、電気的に中性なラジカルとによって該接合面が表面活性化処理される。続いて、プラズマ処理手段の被接合物保持電極に対向配置された対向面電極に、プラズマ処理前半よりも高い周波数で電圧印加してプラズマを生成することによって、プラズマ中のイオンは、対向面電極側に加速されるため、被接合物の接合面に衝突するイオンの衝突力を弱めるとともに、衝突するイオンの数を減少させることができる。その結果、被接合物の接合面は、主にプラズマ中のラジカルと反応して表面活性化処理される。このラジカルは、電気的に中性であるので電極への電圧印加により発生する電界によって加速されないため、被接合物の接合面を破損させることなく、該接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、該被接合物どうしの接合強度の向上を図ることができる。
【0009】
ところで、本発明において、プラズマによる「表面活性化処理」とは、プラズマ中の活性なラジカルやイオンによって被接合物の接合面の表面層を化学反応処理し、被接合物の接合面を活性化状態にして被接合物どうしが接合しやすくする処理を示している。本願発明者らによる種々の実験の結果、プラズマ処理後半において対向面電極に電圧印加してプラズマを生成させる際、プラズマ処理前半において被接合物保持電極に電圧印加する際よりも周波数を高くして電圧印加した方が、接合面の表面活性化処理が効率よく行われ、被接合物どうしの接合強度が向上することを見出した。この現象は以下に詳述することが原因で生じていると考えられる。すなわち、所定の反応ガス雰囲気で、交番電源により電極へ所定の周波数で電圧印加して生じた+−方向が切り替わる電界によって生成したプラズマ中には、大きく分けて、反応ガスイオン、電子以外に、中性ではあるが電子が励起軌道に移動した励起状態の反応ガス原子・分子(ラジカル)や、基底状態のままの反応ガス分子・原子が存在する。プラズマは電界中を移動する電子と反応ガス分子との衝突によって生成されるため、この電子が電界中を移動する移動速度や、この電子と反応ガス分子との衝突回数はプラズマの生成状態に大きな影響を与える。
【0010】
したがって、電極への印加電圧の周波数に応じて電界の+−方向が切り替わる周波数が変化するため、電界中の電子のエネルギー分布も変化し、この印加電圧の周波数が反応ガス分子のイオン化・解離化・ラジカル化(励起化)に大きく影響する。すなわち、電界の+−方向が切り替わる周波数が高くなれば、一般的に、電子が電極間を振動移動する回数が増えるため、この振動移動する電子のエネルギー分布を尖鋭なものとすることができる。このように、印加電圧の周波数を変更することで電界の+−方向が切り替わる周波数を変化させて、プラズマを生成するために必要な電子のエネルギー分布を制御することが可能となる。したがって、電界中の電子のエネルギー分布を制御することでプラズマ中に存在する粒子の成分比を制御することが可能となり、プラズマ中のラジカルの量を増大させることができる。そのため、上記したようにプラズマ処理後半において、対向面電極に、プラズマ処理前半よりも高い周波数で電圧印加することによって、プラズマ処理前半よりも対向面電極と被接合物保持電極との間の電子のエネルギー分布を尖鋭化させることができる。したがって、プラズマ処理後半では、プラズマ処理前半よりも多くの反応ガスのイオンやラジカルを含むプラズマを生成することができる。その結果、被接合物保持電極に保持されている被接合物の接合面に照射されるラジカルの量が増大し、該接合面の表面活性化処理が促進されると考えられる。
【0011】
例えば、被接合物がSiのような金属、またはガラス、SiO、セラミック系を含む酸化物である場合には、反応ガスとして酸素ガスを選択すれば、まず、プラズマ処理前半において、酸素プラズマ中の酸素イオンが接合面に比較的強い衝突力で衝突するため、該接合面の表面層が酸素イオンと入れ替わってOH基が付着しやすい状態となって接合面が親水化処理され、OH基で表面活性化処理される。続いて、プラズマ処理後半において、上記したように酸素イオンの衝突力を弱めるとともに、増大させた酸素ラジカルによって接合面の表面活性化処理が促進され接合面へのOH基の付着が効率よく増進されるので、接合面に均一にOH基を付着させることができる。その結果、被接合物の表面を酸素プラズマによって効率よく表面活性化(親水化)することができ、被接合物をOH基どうしによる水素結合により接合した後、HOを接合界面から放出させるための低温(例えば、常温〜約200℃)でのアニーリングを行うのみで十分な接合強度を得ることが可能となり、接合強度の向上を図ることができる。また、この場合には、プラズマ処理前半からプラズマ処理後半へ連続的に切り替えれば、接合面へのOH基の付着をより効率よく増進させることができ、該接合面の表面活性化処理をより効果的に行うことができる。
【0012】
なお、対向面電極は、平行平板型のように被接合物保持電極に対向配置してもよいが、被接合物保持電極の周囲に配置するのみで同様の作用効果を奏することができる。また、プラズマによってエッチングされた対向面電極の埃が被接合物の接合面に付着するのを防止するためには、被接合物保持電極から見て側方側へずらした位置に対向面電極を対向配置するのが好ましい。このように、対向面電極の配置位置としては、被接合物保持電極が被接合物を保持する側の周囲空間であれば平行でなくても構わない。
【0013】
また、前記プラズマ処理手段は、前記プラズマ処理後半において、前記対向面電極に前記所定周波数のN倍(Nは2以上の自然数)の周波数で電圧印加してプラズマを生成する構成でもよい(請求項2)。
【0014】
また、前記プラズマ処理手段は、前記電源による印加電圧を前記所定周波数のN倍(Nは2以上の自然数)に逓倍する逓倍手段を備え、前記プラズマ処理後半において、前記対向面電極に前記逓倍手段により逓倍した周波数で電圧印加してプラズマを生成する構成でもよい(請求項5)。
【0015】
このような構成とすれば、プラズマ処理前半において、被接合物保持電極に所定周波数で電圧印加してプラズマを生成してプラズマ処理を行った後、プラズマ処理後半において、交番電源が供給する電圧周波数を逓倍手段により逓倍して対向面電極に電圧印加してプラズマを生成することができるため、1つの交番電源で、プラズマ処理前半とプラズマ処理後半において電極に電圧印加する周波数を変更することができる。すなわち、プラズマ処理後半において、プラズマ処理前半における被接合物保持電極への印加電圧の周波数よりも逓倍手段によりN倍に逓倍された周波数で対向面電極へ電圧印加することが可能となる。したがって、上記したように電極への印加電圧の周波数をプラズマ処理の後半において、プラズマ処理前半の周波数よりも高めるために、印加電圧の周波数を切り替え可能な特殊な回路を有する電源や、印加電圧の周波数が異なる電源を2つ使用したりしなくとも、一の周波数で電極に電圧印加することのできる交番電源を1つ使用するのみで印加電圧の周波数の切り替えが可能となるため、装置のコストダウン化を図ることができる。
【0016】
また、上記目的を達成するため、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理するプラズマ電極を備えた表面活性化装置において、前記プラズマ電極はガラスで被覆されている構成としてもよい(請求項6)。このような構成とすれば、ガラスはプラズマのエッチング力に対する耐性が高いため、プラズマによる被接合物の接合面の表面活性化処理中に、該プラズマによってプラズマ電極がエッチングされてしまい、このプラズマ電極を構成する金属の埃が被接合物の接合面に付着してしまうのを防止することができる。このように、被接合物の接合面の表面活性化処理中に不純物(プラズマ電極を構成する金属の破片等)が接合面に付着するのを防止することができるので、該接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、被接合物どうしの接合強度の向上を図ることができる。ここで、プラズマ電極を被覆するガラスとしては、石英ガラスやホウケイ酸ガラス等のガラスが考えられるが、特に石英ガラスでプラズマ電極を被覆するのが好ましい。例えば、被接合物がSiのような金属、またはガラス、SiO、セラミック系を含む酸化物である場合には、プラズマによる被接合物の接合面の表面活性化処理中に、該プラズマによってプラズマ電極を被覆している石英ガラスがエッチングされて、その埃が接合面に付着してしまったとしても、石英ガラスの組成はこれらの被接合物の組成とほぼ同一であり、被接合物の接合面を表面活性化処理する際に、該接合面に付着してしまった石英ガラスの埃が不純物として接合面の表面活性化処理の妨げとならないため効率よく接合面の表面活性化処理を行うことができる。
【0017】
また、上記目的を達成するため、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化方法において、前記接合面に酸素プラズマを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガスを混入させた後、前記接合面に窒素ラジカルを照射する構成としてもよい(請求項3)。
【0018】
また、この発明にかかる表面活性化装置は、プラズマ電極と、電源とを有し、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理するプラズマ処理手段を備えた表面活性化装置において、前記プラズマ処理手段は、前記接合面に酸素プラズマを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガスを混入させた後、前記接合面に窒素ラジカルを照射する構成としてもよい(請求項7)。
【0019】
被接合物の接合面を通常酸素プラズマで親水化処理する際、水分が不足して該接合面にOH基が十分作られない場合がある。そこで、上記した構成とすれば、被接合物の接合面に酸素プラズマを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させているので、水分の不足を補うことができ、接合面を均一に親水化処理して該接合面の表面全体にOH基を生成することができる。水ガスの供給方法としては、水ガスをそのまま供給するだけでも接合面の親水化処理は促進されるが、酸素プラズマによる親水化処理中に水ガスを酸素ガスに混入するか、あるいは、酸素プラズマによる親水化処理後、連続して水ガスを供給して、該水ガスを反応ガスとしてプラズマ処理することによって、水ガスが活性化し、より効果的に接合面の親水化処理を促進することができる。
【0020】
続いて、効率よく均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射することで、親水化処理された接合面に生成されたOH基が窒素置換されることによりON基に置換される。この状態で、被接合物どうしを重ね合わせることによって接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でも被接合物どうしを強固に接合することができる。このように、接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、被接合物どうしの接合強度の向上を図ることができる。なお、水ガスとしてアルコール類により発生させたガスを混入することによってOH基の数を増大させて、被接合物の接合面の親水化処理を促進させることもできる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、請求項1および4に記載の発明によれば、プラズマ処理前半とプラズマ処理後半とで被接合物の接合面を表面活性化処理する強度を効率よく切り替えることで、被接合物接合面を破損させることなく効率よく表面活性化処理することができる。そして、このように、その接合面を効率よく表面活性化処理された被接合物どうしを重ね合わせることによって、該被接合物どうしの接合強度の向上を図ることができる。
【0022】
また、請求項2および5に記載の発明によれば、1つの交番電源で、プラズマ処理前半とプラズマ処理後半において電極に電圧印加する周波数を変更することができるため、一の周波数で電極に電圧印加することのできる交番電源を1つ使用するのみで印加電圧の周波数の切り替えが可能となり、装置のコストダウン化を図ることができる。
【0023】
また、請求項3および7に記載の発明によれば、被接合物の接合面に酸素プラズマを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させることで、接合面を均一に親水化処理して該接合面の表面全体にOH基を生成することができる。続いて、効率よく均一に親水化処理された接合面に窒素ラジカルを照射してOH基をON基に置換した被接合物どうしを重ね合わせることで、接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でも被接合物どうしを強固に接合することができる。
【0024】
また、請求項6に記載の発明によれば、プラズマによる被接合物の接合面の表面活性化処理中に、該プラズマによってプラズマ電極がエッチングされてしまい、このプラズマ電極を構成する金属の埃が被接合物の接合面に付着してしまうのを防止することができるので、該接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、被接合物どうしの接合強度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<第1実施形態>
図1および図2は本発明の第1実施態様における表面活性化装置の概略構成図であり、図2は図1と異なる状態での表面活性化装置の概略構成図である。また、図3はSiOやSiの親水化処理による接合原理の説明図である。この表面活性化装置300は、図1に示すように、内部に被接合物保持電極309および対向面電極306が配設された真空チャンバー303と、本発明における「交番電源」に相当するRFプラズマ電源301(発生電圧周波数:約13.56MHz)と、RFプラズマ電源301が供給する電圧の周波数を2倍に逓倍可能に構成されている逓倍回路316(本名発明の「逓倍手段」に相当)とを備えている。真空チャンバー303は任意のプラズマ反応ガスを供給可能に構成された反応ガス供給口314と、真空チャンバー303内のガスを真空チャンバー303外に排気可能に構成された排気口313とを備えており、反応ガス供給口314によるガス供給量と排気口313からのガス排気量を調整することによって、真空チャンバー303内を任意の真空度に調整可能に構成されている。また、逓倍回路316は、図1に示すように、RFプラズマ電源301から供給される電圧を所定周波数である約13.56MHzのままで被接合物保持電極309に接続するとともに対向面電極306を接地してプラズマを生成する状態と、図2に示すように、RFプラズマ電源309から供給される電圧を所定の周波数から2倍に逓倍して約27.12MHzとして対向面電極306に接続するとともに被接合物保持電極309を接地してプラズマを生成する状態とを切り替え自在に構成されている。このように、この実施形態では表面活性化装置300が本発明の「プラズマ処理手段」として機能している。なお、図2に示すように被接合物保持電極309を接地する替わりに真空チャンバー303の壁面を接地してもよい。
【0026】
続いて、この表面活性化装置300の動作について図1および図2を参照して説明する。まず、プラズマ処理前半において、図1に示すように、ウエハー(被接合物)308を被接合物保持電極309で保持した状態で、真空チャンバー303内へプラズマ反応ガスとして、例えば、酸素ガスを反応ガス供給口314から供給しつつ排気口313から真空チャンバー303内のガスを排気することによって、例えば、真空チャンバー303内の真空度を約10−2Torr程度で一定となるようにガス給排気動作の調整を行う。そして、真空チャンバー303内の真空度がほぼ一定となった後、逓倍回路316によって、RFプラズマ電源301から供給される電圧を所定周波数である約13.56MHzのままで被接合物保持電極309に接続して電圧印加するとともに、対向面電極306を接地して酸素プラズマを発生させる。この酸素プラズマの構成粒子の1つである酸素イオン310等が、電圧印加されている被接合物保持電極309側に移動することで、被接合物保持電極309側にプラズマを構成する粒子が多く集まった領域であるシース領域312が形成される。シース領域312内には活性な酸素イオン310、酸素ラジカル311が多数集まっており、シース領域312に移動してくる酸素イオン310が被接合物保持電極309に保持されたウエハー308の表面(接合面)に向かって比較的強い衝突力で衝突することで、ウエハー308の表面層が酸素イオン310と入れ替わってOH基が付着しやすい状態となり、酸素イオン310および酸素ラジカル311によってウエハー308表面は親水化処理されてOH基で表面活性化される。
【0027】
ところが、図1に示す状態では、酸素イオン310がウエハー308に衝突する衝突力が比較的強いため、この酸素イオン310の衝突により、親水化処理されたウエハー308表面のOH基の一部が再び除去されたりすることがある。そこで、プラズマ処理後半において、図2に示すように逓倍回路316によって、RFプラズマ電源309から供給される電圧を2倍の周波数である約27.12MHzに逓倍して対向面電極306に印加する。このとき、被接合物保持電極309を接地した状態に切り替えて酸素プラズマを生成する。このようにすると、酸素プラズマ中の酸素イオン310は、対向面電極306側に加速されて移動し、対向面電極306側にシース領域312を形成する。その結果、ウエハー308の表面に衝突する酸素イオン310の衝突力を弱めるとともに、衝突するイオンの数を減少させることができるとともに、対向面電極306への印加電圧の周波数をプラズマ処理前半より高めたことにより、プラズマ処理前半よりもその数を増大させた酸素プラズマ中の酸素ラジカル311がウエハー308表面と反応して親水化処理される。この酸素ラジカル311は、電気的に中性であるので電極への電圧印加により発生する電界によって加速されないため、ウエハー308の表面を破損させることなく、ウエハー308表面の親水化処理が促進されOH基の付着が効率よく増進されるので、ウエハー308表面に均一にOH基を付着させることができる。
【0028】
以上のように、この実施形態によれば、プラズマ処理前半とプラズマ処理後半とでウエハー308の接合面を表面活性化する化学処理の強度を効率よく切り替えることで、ウエハー308の接合面を酸素プラズマによって効率よく親水化処理(表面活性化処理)することができる。このように、その接合面を効率よく親水化処理されたウエハー308どうしを適当な周知の接合装置によって重ね合わせてOH基どうしによる水素結合により接合した後、HOを接合界面から放出させるための低温(例えば、常温〜約200℃)でのアニーリングを行うのみで十分な接合強度を得ることが可能となり、接合強度の向上を図ることができる。また、この場合には、プラズマ処理前半からプラズマ処理後半へ連続的に切り替えれば、接合面へのOH基の付着をより効率よく増進させることができ、ウエハー308の接合面の親水化処理をより効果的に行うことができる。
【0029】
このように、親水化処理されることによって、SiOやSiからなるウエハーが接合される原理を図3に示す。図3(a)に示すように、酸素プラズマによる親水化処理によりSi表面にOH基を付着させる。次に、同図(b)に示すように、両被接合物を接触させ、水素結合により仮接合する。続いて、同図(c)に示すように、加熱によりHOを放出させ、Si−O−Siの強固な結合を得る。
【0030】
また、この実施形態では、逓倍回路316を備えることにより、1つのRFプラズマ電源301のみでプラズマ処理前半とプラズマ処理後半において被接合物保持電極309および対向面電極306に電圧印加する周波数を変更することができる。したがって、所定周波数で電圧印加することのできるRFプラズマ電源を1つ使用するのみで印加電圧の周波数の切り替えが可能となるため、装置のコストダウン化を図ることができる。また、マイクロウエーブにより生成したプラズマによる表面活性化装置と比べると、マイクロウエーブを発生させるマイクロウエーブ電源に比べ、RFプラズマ電源は非常に安価であり、装置全体のコストダウン化を図ることができる。また、マイクロウエーブ電源を使用した表面活性化装置に比べると簡易な構成でウエハー308の表面活性化処理が可能となる。
【0031】
なお、この実施形態では反応ガスとして酸素のみを使用したが、反応ガスの種類としては酸素に限定されるものではなく、被接合物の接合面の表面活性化処理を行うことのできる反応ガスであればよい。例えば、反応ガスとして、酸素ガスと窒素ガスとの混合ガスを使用することができる。また、プラズマ処理前半とプラズマ処理後半とで反応ガスの種類を変えてももちろんよい。例えば、プラズマ処理前半で反応ガスとして酸素ガスを使用し、プラズマ処理後半で反応ガスとして窒素ガスを使用することができる。このように、反応ガスとして窒素ガスを含むガスを使用することによって、被接合物の接合面にON基を生成することができるため、被接合物どうしを窒素化合物(N)で強固に常温接合することが可能となる。要は、被接合物の種類によって、種々、反応ガスを変更し、または組み合わせればよい。
【0032】
また、ウエハー308表面へのOH基の吸着が酸素プラズマによるプラズマ処理で十分でない場合は、HOまたはH、OH基を含んだガス、あるいは大気をそのまま供給することで、ウエハー308表面へのOH基の吸着効率を向上させることができる。
【0033】
また、この実施形態におけるウエハー308の材料としてはSi、SiO、ガラス、セラミック等が考えられる。また、被接合物の形状としては、ウエハーまたは該ウエハーをダイシングしたウエハーチップ等でも、上記したように表面活性化処理することによって、効率よく強固に接合することができる。
【0034】
また、この実施形態では、逓倍回路316によって、プラズマ処理後半において、プラズマ処理前半よりも高い周波数で対向面電極306に電圧印加しているが、逓倍回路316を使用せずに、印加電圧の周波数を切り替え可能な特殊な回路を有するRFプラズマ電源や、印加電圧の周波数が異なるRFプラズマ電源を2つ使用してももちろんよい。
【0035】
また、この実施形態では、逓倍回路316によって、プラズマ処理後半において、印加電圧の周波数を2倍にして対向面電極306に電圧印加しているが、倍数としては2倍に限られず、必要に応じて、N倍(Nは2以上の自然数)とする構成としてももちろんよい。
【0036】
続いて、この実施形態における構成でウエハー(Si基板)を接合した場合の接合強度の一例を示す。なお、接合強度は、ウエハー接合後の引張強度を示す。
(実験条件)
1.プラズマ処理前半
反応ガス:酸素、出力:50W、照射時間:30秒
2.プラズマ処理後半
反応ガス:窒素、出力:50W、照射時間:20秒
(接合強度)
1.プラズマ処理後半の周波数1倍(約13.56MHz)…約18Mpa
2.プラズマ処理後半の周波数2倍(約27.12MHz)…約20Mpa
3.プラズマ処理後半の周波数3倍(約40.68MHz)…約23Mpa
以上のように、プラズマ処理後半において、RFプラズマ電源による印加電圧の周波数を高くすることによって、ウエハーどうしを接合した際の接合強度を向上させることができた。
【0037】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施態様を図4、5を参照して説明する。図4本発明の第2実施態様における表面活性化装置の概略構成図であり、図5はSiOやSiの窒素化合物による接合原理の説明図である。この第2実施形態が上記第1実施形態と大きく異なる点は、図4に示す表面活性化装置が、マイクロウエーブ電源とRFプラズマ電源の2つのプラズマ発生手段を用いて被接合物の表面活性化処理を行っている点である。すなわち、この表面活性化装置550では、被接合物保持電極509に被接合物としてのウエハー503を保持した状態で、プラズマ処理前半において、酸素ガスを反応ガスとして、RFプラズマ電源501により酸素プラズマを発生させてウエハー503表面に酸素プラズマを照射して親水化処理を行い、該親水化処理中または親水化処理後に、真空チャンバー506内にHOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させた後、窒素ガスを反応ガスとして、マイクロウエーブ電源510により窒素プラズマを発生させてウエハー503の表面に窒素ラジカルを照射して、親水化処理されたウエハー503表面のOH基を窒素置換することを特徴としている。
【0038】
図4に示すように、表面活性化装置550は、その内部に被接合物保持電極509、表面波プラズマ発生手段500およびイオントラップ板502が配設された真空チャンバー506と、マイクロウエーブ波電源510と、RFプラズマ電源501とを備えている。真空チャンバー506は任意のプラズマ反応ガスを供給可能に構成された反応ガス供給口507と、真空チャンバー506外に排気可能に構成された排気口508とを備えており、反応ガス供給口507によるガス供給量と排気口508からのガス排気量を調整することによって、真空チャンバー506内を任意の真空度に調整可能に構成されている。また、RFプラズマ電源501により被接合物保持電極509へ電圧印加することによって、上記第1実施形態と同様に被接合物保持電極509側にシース領域512が形成され、被接合物の接合面に対する比較的強めのイオン衝突による表面活性処理を行うことができる。また、マイクロウエーブ電源510により表面波プラズマ発生手段にマイクロ波を印加することによって図4に示す位置にシース領域511が形成される。このシース領域511に存在するイオン505はイオントラップ板502により捕獲されるが、ラジカル504は電気的に中性であるため、イオントラップ板502には捕獲されずに、イオントラップ板が有する開口を通ってダウンフローして被接合物に照射することができる。このように、この実施形態では表面活性化装置550が本発明の「プラズマ処理手段」として機能している。
【0039】
続いて、この表面活性化装置550の動作について図4を参照しつつ説明する。被接合物となるウエハー503を被接合物保持電極509に保持した状態で、まず、反応ガス吸気口507を介して真空チャンバー内に反応ガスとして酸素ガスが供給される。このとき、反応ガス供給口507によるガス供給量と排気口508からのガス排気量を調整して、真空チャンバー506内は任意の真空度に調整されている。この状態で、RFプラズマ電源501により被接合物保持電極509に電圧印加して酸素プラズマを発生させ、シース領域512中のウエハー503の表面が親水化処理される。そして、この親水化処理中または処理後に、反応ガス吸気口507を介して、HOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を真空チャンバー506に混入させることによって、ウエハー503表面の親水化処理を促進させる。その後、真空チャンバー506から排気口508を介して酸素ガスを排気しつつ、反応ガス供給口507を介して窒素ガスを真空チャンバー506内に供給し、真空チャンバー506内を任意の真空度で窒素ガスで充満させる。この状態で、マイクロウエーブ電源510によりマイクロウエーブを表面波プラズマ発生手段500に印加することにより窒素プラズマを発生させる。そして、窒素プラズマのシース領域511からイオントラップ板502の開口を介してダウンフローする窒素ラジカル504をウエハー503表面へ照射して、親水化されているウエハー503表面のOH基を窒素置換して、該表面上にON基を形成する。この窒素ラジカルによる表面活性化処理終了後、周知の接合装置によってウエハー503どうしを重ね合わせることで、常温で、かつ強力に接合することができる。
【0040】
以上のように、この実施形態によれば、ウエハー503の表面に酸素プラズマを照射して親水化処理中に、または親水化処理後に、HOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させているので、水分や水素(H)の不足を補うことができるため、ウエハー503表面を均一に親水化処理して、ウエハー503表面全体に均一にOH基を生成することができる。続いて、効率よく均一に親水化処理されたウエハー503表面に窒素ラジカルを照射することで、親水化処理されたウエハー503表面に生成されたOH基が窒素置換されることによりON基に置換される。この状態で、ウエハー503どうしを重ね合わせることによって接合界面に窒素化合物(Si、O、Nの化合物)が形成され、常温〜100℃以下の低温でもウエハー503どうしを強固に接合することができる。このように、接合面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、ウエハー503どうしの接合強度の向上を図ることができる。
【0041】
このように、親水化処理後にOH基を窒素置換することによって、SiOやSiからなるウエハー503が接合される原理を図5に示す。図5(a)に示すように、酸素プラズマによる親水化処理によりSi表面にOH基を付着させる。次に、同図(b)に示すように、OH基を窒素ラジカルによって窒素置換した後、両被接合物を接触させることで、同図(c)に示すように、接合界面に窒素化合物(N)が形成されて常温でも強固な結合を得る。
【0042】
なお、水ガスの供給方法としては、水ガスをそのまま供給するだけでも接合面の親水化処理は促進されるが、酸素プラズマによる親水化処理中に水ガスを酸素ガスに混入するか、あるいは、酸素プラズマによる親水化処理後、連続して水ガスを供給して、該水ガスを反応ガスとしてプラズマ処理することによって、水ガスが活性化し、より効果的に接合面の親水化処理を促進することができる。また、水ガスとしてアルコール類により発生させたガスを混入することによってOH基の数を増大させて、被接合物の接合面の親水化処理を促進させることもできる。
【0043】
また、この実施形態では、RFプラズマ電源による被接合物保持電極509への電圧印加によって発生した酸素プラズマによる親水化処理の後、反応ガスを窒素ガスと入れ替えて、窒素ラジカルによる窒素置換を行っているが、酸素ガスを窒素ガスに入れ替える前に、反応ガスを酸素ガスとしたままで、マイクロウエーブ電源510による表面波プラズマ発生手段500へのマイクロウエーブ印加によって酸素プラズマを発生させて、上記した窒素ラジカルと同様に酸素ラジカルをウエハー503にダウンフローに照射する構成としてもよい。このような構成とすれば、ウエハー503表面の親水化処理をさらに効率よく行うことができる。この親水化処理後、反応ガスを窒素ガスと置換して、窒素ラジカルによるOH基の窒素置換処理を行えばよい。
【0044】
また、この実施形態におけるウエハー503の材料としてはSi、SiO、ガラス、セラミック等が考えられる。また、被接合物の形状としては、ウエハーまたは該ウエハーをダイシングしたウエハーチップ等でも、上記したように表面活性化処理することによって、効率よく強固に接合することができる。
【0045】
続いて、この実施形態における構成でウエハー(Si基板)を接合した場合の接合強度の一例を示す。
(実験条件)
1.プラズマ処理前半
反応ガス:酸素、出力:50W、照射時間:30秒
2.プラズマ処理後半
反応ガス:窒素、照射時間:20秒
(接合強度)
1.水ガスを混入しなかった場合…約25Mpa
2.水ガスを混入した場合 …約28Mpa
以上のように、酸素プラズマによる親水化処理中または親水化処理後に、真空チャンバー506内にHOまたはH、OH基を含むガス(水ガス)を混入させた場合には、水ガスを混入させなかった場合よりもウエハーどうしを接合した際の接合強度を向上させることができた。
【0046】
<第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施態様を図6、7を参照して説明する。図6は本発明の第3実施態様における装置の概略構成図であり、図7は第3実施態様の接合手順を示す工程図である。この第3実施形態が上記第1実施形態と大きく異なる点は、図6に示す装置が、被接合物の表面活性化処理および被接合物どうしの接合処理の両方を実行可能に構成されている点である。この装置では、被接合物であるウエハー7,8を上下に対向して保持させた状態でチャンバーを閉じ、真空内で酸素プラズマや窒素プラズマにより表面活性化処理をした後、ウエハー7,8を接合させることができる。
【0047】
この装置は、ウエハー7を保持し、Z軸1により昇降制御と加圧制御を行うヘッド部と、ウエハー8を保持し、場合によってはウエハー8の位置を調整可能に構成されたステージ部とを備えている。Z軸1には図示省略する圧力検出手段が組み込まれ、この圧力検出手段による検出信号をZ軸サーボモータのトルク制御装置へフィードバックすることで加圧力制御を行うことができる。摺動パッキン4によってZ軸1に摺接しつつ、図示省略するアクチュエータによりZ軸1と独立して昇降可能なチャンバー壁3が下降し、チャンバー台10に固定パッキン5を介して接地した状態でチャンバー内を外気と遮断することができる。この状態で、排出バルブ14を開放して真空ポンプ15を作動させて排出口12を介してチャンバー内を真空引きした後、ガス切替弁16を窒素ガス17を導入するように切り替えて吸入バルブ13を開放することで、吸入口11を介して反応ガスとして窒素ガス17をチャンバー内に導入することができる。また、ガス切替弁16を酸素ガス18を導入するように切り替えることで、吸入口11を介して反応ガスとして酸素ガス18をチャンバー内に導入することができる。そして、酸素プラズマや窒素プラズマによるウエハー7,8の表面活性化処理(親水化処理)を行った後、ピストン型ヘッド2を下降させることで両ウエハー7,8を接合することができる。また、上部電極6、下部電極9は、それぞれガラス6a,9aで被覆されているとともに、図示省略する加熱ヒータを備えている。
【0048】
次に、この装置における処理手順について図7を参照して説明する。まず図7(a)のようにチャンバー壁3が上昇した状態でウエハー7を上部電極6に保持させ、ウエハー8を下部電極9に保持させる。ウエハー7,8の保持方法は機械的なチャッキング方式でも構わないが、静電チャック方式がより好ましい。そして、図7(b)に示すように、チャンバー壁3を下降させ、チャンバー台10に固定パッキン5を介して接地させる。チャンバー壁3は摺動パッキン4がZ軸1に摺動することで大気と遮断されているので、吸入バルブ13を閉じた状態で排出バルブ14を開放して真空ポンプ15により真空引きを行うことでチャンバー内の真空度を高めることができる。
【0049】
次に、図7(c)に示すように、チャンバー内に反応ガスを導入する。真空ポンプ15は動作させながら排出バルブ14の排出量と吸入バルブ13でのガス吸入量をコントロールすることで、ある一定の真空度に保ちながらチャンバー内を任意の反応ガスで満たすことができる。この実施形態では、反応ガスとして、酸素ガス18を10−2Torr程度の真空度でチャンバー内に充満させ、同図(d),(e)に示すように、最初に下部電極9に交番電源により電圧印加することで酸素プラズマを発生させ、ウエハー8表面を表面活性化処理(親水化処理)する。続いて、上部電極6に同様な交番電源により電圧印加することでウエハー7表面を表面活性化処理(親水化処理)する。次に、同図(b)に示すように、吸入バルブ13を閉じた状態でチャンバー内をさらに真空引きして酸素ガス18を排出する。なお、この後、同図(c)〜(e)の手順を酸素ガス18に替わって窒素ガス17をチャンバー内に導入して行うことで、ウエハー7,8の表面を窒素プラズマにより表面活性化処理することもできる。このように、上部電極6および下部電極9が本発明における「プラズマ電極」として機能している。
【0050】
なお、ガス切替弁16で窒素ガス17と酸素ガス18を選択して吸入口11に導入することで、窒素ガス17と酸素ガス18の2つのガスを1チャンバーで切り替えることができる。また、ガス切替弁16は窒素ガス17と酸素ガス18の混合ガスを任意の混合率でチャンバーに供給することもできるように構成されている。そして、ガス切替弁16で窒素ガス17や酸素ガス18に切り替えて、吸入バルブ13を開き、チャンバー内を窒素ガス17または酸素ガス18、あるいは窒素ガス17と酸素ガス18の混合ガスで充満させて表面活性化処理を行うことができる。また、このガス切替弁16は大気を吸入させることもできるのでチャンバーを開く時に大気解放させることもできる。
【0051】
次に、場合によっては、水分を含んだガスを供給することで、ウエハー7,8の表面の親水化処理を促進させる。続いて、図7(f)に示すように、真空中でチャンバー壁3とZ軸1とが摺動パッキン4で接しながらピストン型ヘッド2がZ軸1により下降され、両ウエハー7,8を真空中で接触させ、水素結合力により接合させる。チャンバー内はチャンバー壁3とZ軸1との間の摺動パッキン4により外部雰囲気と遮断され、真空に保持された状態でピストン型ヘッド部を下降させることができる。
【0052】
その後、図7(g)に示すように、チャンバー内に大気を供給し大気圧に戻して、ヘッド部を上昇させ、接合された両ウエハー7,8を取り出す。場合によっては、接合に際し、両ウエハーの位置をアライメントした後、接合する場合もある。
【0053】
以上のように、この実施形態によれば、両電極6,9はガラス6a,9aで被覆されているため、酸素プラズマや窒素プラズマによるウエハー7,8の表面の表面活性化処理中に、これらのプラズマによって両電極6,9がエッチングされてしまい、この両電極6,9を構成する金属の埃がウエハー7,8の表面に付着してしまうのを防止することができる。このように、ウエハー7,8の表面の表面活性化中に不純物(両電極6,9を構成する金属の破片等)がウエハー7,8の表面に付着するのを防止することができるので、ウエハー7,8の表面の表面活性化処理を効率よく行うことができ、ウエハー7,8の接合強度の向上を図ることができる。
【0054】
続いて、この実施形態における構成でウエハー(Si基板)を接合した場合の接合強度の一例を示す。
(実験条件)
1.プラズマ処理前半
反応ガス:酸素、出力:50W、照射時間:30秒
2.プラズマ処理後半
反応ガス:窒素、50W、照射時間:20秒
(接合強度)
1.ガラスによる電極の被覆無し…約7.5Mpa
2.ガラスによる電極の被覆有り…約12Mpa
以上のように、電極をガラスで被覆した場合、電極をガラスで被覆しなかった場合よりもウエハーどうしを接合した際の接合強度を向上させることができた。
【0055】
なお、この構成は、表面活性化処理するウエハーや、ウエハーをダイシングしたチップの大きさが電極よりも小さい場合に、ウエハーやチップによって被覆されない部分の電極がプラズマによってエッチングされるのを防止することができるため、特に有効である。このようにウエハーやチップの大きさが電極よりも小さい場合に、例えば、上記した第1実施形態の構成において、ウエハー(Si基板)を接合した場合の接合強度の一例を示す。第1実施形態の構成では、電極をガラスで被覆することで、特に、対向面電極306がプラズマによってエッチングされて、この対向面電極306を構成する金属の埃がウエハーの表面に付着してしまうのを防止することができる。
(第1実施形態の構成で電極をガラスで被覆した場合)
1.プラズマ処理前半
反応ガス:酸素、出力:50W、照射時間:30秒
2.プラズマ処理後半
反応ガス:窒素、50W、照射時間:20秒
(接合強度)
1.ガラスによる電極の被覆無し…約15Mpa
2.ガラスによる電極の被覆有り…約19Mpa
以上のように、電極をガラスで被覆した場合、電極をガラスで被覆しなかった場合よりも被接合物どうしを接合した際の接合強度を向上させることができた。
【0056】
続いて、同様に、上記した第2実施形態の構成において、水ガスを混入させなかった場合にウエハー(Si基板)を接合した場合の接合強度の一例を示す。
(第2実施形態の構成で電極をガラスで被覆した場合)
1.プラズマ処理前半
反応ガス:酸素、出力:50W、照射時間:30秒
2.プラズマ処理後半
反応ガス:窒素、照射時間:20秒
(接合強度)
1.ガラスによる電極の被覆無し…約17Mpa
2.ガラスによる電極の被覆有り…約25Mpa
以上のように、電極をガラスで被覆した場合、電極をガラスで被覆しなかった場合よりも被接合物どうしを接合した際の接合強度を向上させることができた。
【0057】
<第4実施形態>
続いて、本発明の第4実施態様を図8、9を参照して説明する。図8は本発明の第4実施態様における装置の概略構成図であり、図9は本発明の第4実施態様による接合手順を示す工程図である。この第4実施形態が上記第1ないし第3実施形態と大きく異なる点は、この装置において、上記した本発明の第1ないし第3実施態様で具現化された発明のすべてを同時に具現化している点である。したがって、上記第1ないし第3実施形態と同様の作用効果を奏することができる。以下、この装置について詳細に述べる。
【0058】
まず、装置構成について記述する。図8に示すように、ウエハー210を保持するヘッド207とウエハー209を保持するステージ208が真空チャンバー211中に配置される。ヘッド部は、トルク制御式昇降駆動モータ201が連結されたZ軸昇降機構202によってヘッド207をZ方向に昇降させる昇降手段と、圧力検出手段204と、Z軸昇降機構202を回転させるθ軸回転機構203およびXY水平方向へアライメント移動させるXYアライメントテーブル206により、ヘッド207をX、Y、θ方向でアライメント移動させる移動手段とを備えている。圧力検出手段204により検出されたウエハー接合時の加圧力をトルク制御式昇降駆動モータ201にフィ−ドバックすることで位置制御と圧力制御を切り替えながら行えるようになっている。また、圧力検出手段204は被接合物どうしが接触したことを検出する接触検出手段としても利用できる。XYアライメントテーブル206は真空中でも使用できるが、Z、θ軸機構は真空チャンバー211外部に設置するため、ベローズ205により移動可能にヘッド部と外部を遮断されている。
【0059】
ステージ208は接合位置と待機位置間をスライド移動手段229によりスライド移動することができる。スライド移動手段229には高精度なガイドと位置を認識するリニアスケールが取り付けられており、接合位置と待機位置との間の停止位置を高精度に維持することができる。また、スライド移動手段229は真空チャンバー内部に組み込んでいるが、移動手段を外部に配置し、パッキングされた連結棒でステージ208と連結することで外部にシリンダやリニアサーボモータなどを配置することも可能である。また、真空中にボールネジを配置し、外部にサーボモータを設置することも可能である。このように、ステージ208を接合位置と待機位置との間で高精度に移動させることのできる手段であれば、移動手段はいかなる移動手段であってもよい。ヘッド207およびステージ208の被接合物保持手段としては、機械的なチャッキング方式であっても良いが、静電チャックを設けることが好ましい。また、ヘッド207およびステージ208は、加熱のためのヒータを備えるとともに、プラズマ電極ともなっており、被接合物保持手段、加熱手段、プラズマ発生手段の3つの機能を備えている。また、この実施形態では、ヘッド207およびステージ208はガラスで被覆されており、プラズマによってエッチングされて破損するのが防止されている。また、ヘッド207の対向面には図示省略する対向面電極が設けられており、ステージ208が待機位置に位置するときの対向面には図示省略する対向面電極が設けられている。そして、これらの対向面電極は、ヘッド207およびステージ208と同様にガラスで被覆されている。
【0060】
減圧手段としては、排気管215に真空ポンプ217がつながれ、排気弁216により開閉と流量調整が行われ、真空度を調整可能な構造となっている。また、吸入側は、吸気管218に吸入ガス切り替え弁220が連結され吸気弁219により開閉と流量調整が行われる。吸入ガスとしてはプラズマの反応ガスを3種類連結でき、例えばArガス221と酸素ガス222と窒素ガス223とをつなぐことができる。また、図示省略しているが、HOまたはH、OH基を含んだ水ガスが供給可能なように連結されている。真空チャンバー211の真空度や反応ガス濃度は吸気弁219と排気弁216の開閉含めた流量調整により最適な値に調整可能となっている。また、真空圧力センサーを真空チャンバー内に設置することで自動フィードバックすることもできる。
【0061】
アライメント用の光学系からなるアライメントマーク認識手段213,212がステージ208の待機位置の上方とヘッド207の下方に真空チャンバー外部に配置されている。そして、例えば、被接合物としての各ウエハー209,210の窓214に対向する表面にアライメントマーク227,228を施すことで位置精度良く認識することができる。
【0062】
次に、この装置の動作を図9を参照しながら解説する。まず、図9(a)に示すように、真空チャンバー211の前扉を開いた状態でウエハー209とウエハー210をステージ208とヘッド207に保持させる。これは人手でもよいが、カセットから自動でローディングしてもよい。次に、同図(b)に示すように、前扉を閉め、真空チャンバー内を減圧する。
【0063】
続いて、図9(c)、(d)に示すように、反応ガスとして酸素ガス222供給し、例えば、10−2Torr程度の一定の真空度でヘッド207およびステージ208にRFプラズマ電源より電圧印加して、酸素プラズマを発生させ、ウエハー209,210表面の親水化処理を行う。酸素プラズマによる処理の途中で、対向面電極にRFプラズマ電源からの電圧印加を切り替えることにより酸素イオン衝突力を弱めて、酸素イオンや酸素ラジカルによるウエハー209,210表面の親水化処理を促進させてもよい。また、この親水化処理中、または親水化処理後に水ガスを真空チャンバー内に供給することで、ウエハー209,210表面の親水化処理をさらに効率よく行い、親水化処理したウエハー209,210の表面に均一にOH基を並べることができる。この後、真空チャンバー211内を窒素ガス223に入れ替えるとともに、RFプラズマ電源により対向面電極に周波数を酸素プラズマ処理の際の周波数よりも高い周波数として電圧印加することによって、窒素ラジカルを親水化処理されたウエハー209,210表面に照射して、ウエハー209,210表面のOH基を窒素置換してON基とすることができる。この後、真空中で接合する場合は、同図(e)に示すように再度、減圧を行う。
【0064】
続いて、図9(f)に示すように、ステージ208の待機位置でヘッド207側、ステージ208側の各々の認識手段で真空中で両ウエハー209,210上のアライメントマークを読み取り、位置を認識する。そして、同図(g)に示すように、ステージ208を接合位置へスライド移動させる。
【0065】
続いて、図9(i)に示すように、ヘッド207を下降させ、両ウエハー209,210を接触させる。ウエハー209,210の表面はON基によって表面活性化されているため、このように、ウエハー209,210を重ね合わせることで強固に常温接合することができる。
【0066】
なお、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、第4実施形態では本発明の第1ないし第3実施態様で具現化された発明のすべてを具現化したが、具現化する発明の組合せはこれに限られず、必要に応じて変更すればよい。要は、採算性、コスト、必要な接合強度等、様々な要因に応じて種々組合わせる発明を変更すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1実施態様における表面活性化装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施態様における表面活性化装置の概略構成図である。
【図3】SiOやSiの親水化処理による接合原理の説明図である。
【図4】本発明の第2実施態様における表面活性化装置の概略構成図である。
【図5】SiOやSiの窒素化合物による接合原理の説明図である。
【図6】本発明の第3実施態様における装置の概略構成図である。
【図7】第3実施態様の接合手順を示す工程図である。
【図8】本発明の第4実施態様における装置の概略構成図である。
【図9】本発明の第4実施態様による接合手順を示す工程図である。
【符号の説明】
【0068】
209,210,308,503,7,8…ウエハー(被接合物)
300,550…表面活性化装置
309…被接合物保持電極
306…対向面電極
316…逓倍回路(逓倍手段)
6…上部電極
9…下部電極
6a,9a…ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化方法において、
プラズマ処理前半において、プラズマ処理手段の被接合物を保持する被接合物保持電極に所定周波数で電圧印加してプラズマを生成し、前記接合面のプラズマ処理を行い、
プラズマ処理後半において、前記プラズマ処理手段の前記被接合物保持電極に対向配置された対向面電極に、前記所定周波数よりも高い周波数で電圧印加してプラズマを生成することを特徴とする表面活性化方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理手段は、前記プラズマ処理後半において、前記対向面電極に前記所定周波数のN倍(Nは2以上の自然数)の周波数で電圧印加してプラズマを生成することを特徴とする請求項1記載の表面活性化方法。
【請求項3】
被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化方法において、
前記接合面に酸素プラズマを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガスを混入させた後、前記接合面に窒素ラジカルを照射することを特徴とする表面活性化方法。
【請求項4】
被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理する表面活性化装置において、
被接合物を保持する被接合物保持電極と、該被接合物保持電極に対向配置された対向面電極と、それぞれの電極に電圧を印加してプラズマを発生させる少なくとも1つの交番電源とを有するプラズマ処理手段を備え、
前記プラズマ処理手段は、
プラズマ処理前半において、前記被接合物保持電極に所定周波数で電圧印加してプラズマを生成し、前記接合面のプラズマ処理を行い、
プラズマ処理後半において、前記対向面電極に前記所定周波数よりも高い周波数で電圧印加してプラズマを生成することを特徴とする表面活性化装置。
【請求項5】
前記プラズマ処理手段は、前記電源による印加電圧を前記所定周波数のN倍(Nは2以上の自然数)に逓倍する逓倍手段を備え、
前記プラズマ処理後半において、前記対向面電極に前記逓倍手段により逓倍した周波数で電圧印加してプラズマを生成することを特徴とする請求項4記載の表面活性化装置。
【請求項6】
被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理するプラズマ電極を備えた表面活性化装置において、
前記プラズマ電極はガラスで被覆されていることを特徴とする表面活性化装置。
【請求項7】
プラズマ電極と、電源とを有し、被接合物の接合面をプラズマで表面活性化処理するプラズマ処理手段を備えた表面活性化装置において、
前記プラズマ処理手段は、
前記接合面に酸素プラズマを照射して該接合面を親水化処理し、該親水化処理中または親水化処理後、HOまたはH、OH基を含むガスを混入させた後、前記接合面に窒素ラジカルを照射することを特徴とする表面活性化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−339363(P2006−339363A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161562(P2005−161562)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(304019355)ボンドテック株式会社 (36)
【出願人】(000192567)神港精機株式会社 (54)