説明

表面被覆された蛍光体の製造方法と蛍光体

【課題】耐水性にすぐれた蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】バリウム(Ba)を構成元素として含む蛍光体を水中に分散し、pHが10以上になったところで、水ガラス、硫酸亜鉛水溶液をこの順に投入して蛍光体の表面に被覆を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体の製造方法に係わり、より詳しくは、Baを含み、比較的耐水性の低い蛍光体に適した表面被覆層を有する蛍光体の製造方法と、それにより得られた蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、蛍光体の対候性の向上や、外部からのダメージを減らすため、種々のコートが開発されている。
コートの目的は、蛍光体の種類や用途により様々であり、静電気的な障害物となって、イオンの吸着を防ぐものや、物理的障害となって他の物質の接触を防ぐもの、あるいは全体を覆って外部から遮蔽することにより、蛍光体の劣化を防ぐものなど、いろいろなコートが開発されている。
【0003】
特にBaを構成元素として含む蛍光体は、経時劣化を起こすものが多く、そしてその理由の一つが、水への溶解性の高さにより、表面にダメージを受け、輝度の低下や色座標のずれなどを生じる原因となっており、新しいコートを有する蛍光体の製造方法とそれでコートされた蛍光体が望まれている。
このようなコートの例として、例えば特開2009−141374号公報には、アルカリ土類金属ケイ酸塩からなるコア粒子の表面に配置され、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、テトラエトキシシラン、シリカ、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、カルシウムポリフォスフェート、シリコーンオイル、およびシリコーングリースから選択される少なくとも一種からなる表層材とを備えた蛍光体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−141374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、少しでも耐水性に優れた新しいコートを行った蛍光体の開発は、蛍光体の種類と用途が拡大している現在、技術の豊富化と改良の点から重要である。
特にBaを構成元素として含む蛍光体は、経時劣化を起こすものが多く、そしてその理由の一つが、水への溶解性の高さにより、表面にダメージを受け、輝度の低下や色座標のずれなどを生じる原因となっており、新しいコートを有する蛍光体の製造方法とかかる製造方法で得られた、耐水性のよい蛍光体が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは、鋭意検討の結果、従来の類似技術と異なり、水に比較的溶解しやすい、Baを含む蛍光体から、最初に溶け出してしまう部分を除去した後、かつその溶け出したBaを取り込んだ複合塩のコート物質を蛍光体表面に析出させることにより、蛍光体の耐水性を大幅に改善できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明目的は、新規なコートされた蛍光体の製造方法と、その方法で製造された蛍光体を提供することであり、また本発明のほかの目的は、耐水性に優れた新しい蛍光体の製造方法と、その方法で製造された蛍光体を提供することであり、そして本発明の他の目的は、以下の記載より考察すれば当業者には自ずから明らかであろう。
【0007】
そしてかかる目的は、
(1)バリウム(Ba)を構成元素として含む蛍光体を水中に分散し、pHが10以上で、水ガラス、硫酸亜鉛水溶液をこの順に投入して蛍光体の表面に被覆を行う蛍光体の製造方法、
(2)該Baを構成元素として含む蛍光体が、アルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体である(1)に記載の蛍光体の製造方法、
(3)該Baを構成元素として含む蛍光体が、下記式(I)で表される蛍光体から選ばれる少なくとも1種である(1)又は(2)のいずれか記載の蛍光体の製造方法。
【0008】
(M1 - x EuxaSi Obただし1.6≦a≦3.4、3.6≦b≦5.4、0.
001≦x≦0.2・・・・(I)
(ただしMは2価のアルカリ土類金属元素であってBaを必須とする)
(4)該被覆が、亜鉛量で被覆前の蛍光体に対し15000ppm(重量)以下である、(1)乃至(3)のいずれか記載の蛍光体の製造方法、
(5)Baを構成元素として含む蛍光体の表面に、ZnとBaとイオウとSiを含む複合塩を被覆した蛍光体、
により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体の製造方法により、従来と異なる新しいコートをした蛍光体を得ることが出来、かかる蛍光体は耐水性が向上し、これまで以上に多くの用途に投入できる蛍光体となり、特にLED用の蛍光体として、優れた効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本発明で用いられ、コートされる前のコアとなる蛍光体は、Baを構成元素として含む蛍光体である。この蛍光体は、実施例にて示される、水中への溶出量の測定方法を用いて測定した場合、15μS・cm以上の溶出量を示す蛍光体であることが好ましい。これは、この程度の溶出量が無いと、本発明の製造方法において、水中に蛍光体を分散させた後、pH10以上になるまでの時間が長くなりやすいためである。そして本発明用いられる、コアとしての蛍光体のより好ましい態様としては、該蛍光体が、Baを含むアルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体であることである。これは、Baを含むアルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体では、Baの溶出が激しいものが多いことが、本発明のコートにとっては好ましいからである。
【0011】
そして本発明により好ましいコアとなる蛍光体としては、下記式(I)で表される蛍光体である。
(M1 - x EuxaSi Obただし1.6≦a≦3.4、3.6≦b≦5.4、0.0
01≦x≦0.2・・・・(I)
(ただしMは2価のアルカリ土類金属元素であり、Baを必須とする)
またより好ましくは下記式(II)又は(III)で表される蛍光体である。
【0012】
(M1 - x EuxaSi Obただし1.6≦a≦2.4、3.6≦b≦4.4、0.
001≦x≦0.2・・・・(II)
(M1 - x EuxcSi Odただし2.6≦c≦3.4、4.6≦d≦5.4、0.
001≦x≦0.2・・・・(III)
(ただしMは2価のアルカリ土類金属元素であり、Baを必須とする)
M中に含まれるBaの量は、M全体に対し、2割以上が好ましく、より好ましくは6割以上である。M中に含まれるBa以外の元素としては、Sr又はCaが特に好ましい。
かかる蛍光体の典型的な具体例としては、(II)式のものでは、(BaSrEu)2
iO4 、(III)式のものでは、(BaSrEu)3SiO5などが挙げられる。これらに実質的に輝度などに問題のない範囲で他の元素が少量加わっても良い。
【0013】
本発明に用いられるコアとなるBaを構成元素として含む蛍光体は、その粒径が、レーザー粒度で1ミクロン以上25ミクロン以下であることが好ましい。これは後述の蛍光体への被覆量が、蛍光体の輝度を低下させずかつ、うまく表面を被覆するのに好適な粒度範囲である。1ミクロンより小さすぎると、表面積が大きくなって、被覆量を多くしないと、耐水性が確保できない。一方、25ミクロンを超えると、蛍光体表面に均一にコートすることが難しく、かつ蛍光体として使用しにくくなりやすい。
【0014】
本発明の蛍光体の製造方法は、前述のBaを構成元素として含む蛍光体を水中に分散し、pHが10以上で、水ガラス、硫酸亜鉛水溶液をこの順に投入して蛍光体の表面に被覆を行う蛍光体の製造方法である。投入される水は純水または脱イオン水であることが好ましい。
蛍光体を水中に分散する方法は、特に限定されないが、水中に蛍光体を分散させるほうが、蛍光体に水を加えるより、いわゆるダマにならず分散がよくなるので好ましい。
【0015】
本発明の蛍光体の製造方法では、蛍光体を分散させた水スラリーのpHを測定し、pHが10以上で水ガラス、硫酸亜鉛水溶液をこの順に投入する。
使用する水ガラスとしては、カリウム塩、ナトリウム塩のどちらでもかまわないが、好ましくはカリウム塩であり、最も好ましくはPSA(KO・3.9SiO)である。硫酸亜鉛水溶液としては、特段限定するものではないが、濃度10〜30wt%の範囲のものが、必要以上に処理液量を増やさないため好ましい。
【0016】
蛍光体表面への付着した物質は、実施例で示すように、いわゆるZS(ZnO・SiO2)コートではなく、BaとZnとSiとSを含む複合塩が出来ていると推測され、優れ
た耐水性を示すが、その組成を明らかには出来なかったため、製造方法で規定している。この複合塩の付着量は、蛍光体母体組成と同じ物質を含んでいるため、母体に含まれず、測定も比較的容易なZnの量で測定することが出来る。そしてその好ましいコート量は、Zn量として、コートされる蛍光体に対し、15000ppm(重量)以下である。15000ppm(重量)を超えると、蛍光体の表面を必要以上に厚く覆うことになり輝度が低下しやすい。より好ましい範囲としては、500ppm(重量)以上であり、さらに好ましくは1000ppm(重量)以上、最も好ましくは3000ppm以上である。一方上限としては、10000ppm(重量)以下が輝度との関係で好ましい。
【0017】
この亜鉛量は、蛍光体をICP分析して、亜鉛量を測定することにより得ることができる。
本発明の蛍光体は、Baを構成元素として含む蛍光体の表面に、亜鉛(Zn)とバリウム(Ba)とイオウ(S)とシリコン(Si)を含む複合塩を被覆した蛍光体であり、かかる蛍光体は、前述の本発明の製造方法により、製造することができる。
【0018】
以下、本発明を実施例をもって説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
(溶出量の測定方法)
蛍光体0.1gを100mlの脱イオン水中に分散させ、60分攪拌後の上澄み液の電導度を測定することにより行う。
(実施例)
(実施例1)
BSS蛍光体((Ba0.7Sr0.2Eu0.12SiO4)30gを2.5倍量の脱イオン水中に投入し、スターラーにてかくはんし、分散した、かくはん開始から約20分後、pHが10以上になったことを確認し、水ガラス((KO・3.9SiO)東京応化社製オーカシールA)を蛍光体に対するSiO量として1.0wt%となる量投入し30分かくはん後、さらに20wt%硫酸亜鉛水溶液を、(7.2ml)投入して30分かくはん
した。蛍光体を沈ませて上澄み液を排水し、洗浄のため蛍光体量に対し10倍の脱イオン水で分散させた後、濾過瓶とブフナー漏斗を用いて脱水、120℃で一晩乾燥し、表面にBaとZnとSiとSを含む複合塩を被覆した蛍光体を得た。
【0020】
実施例1の蛍光体を酸で溶解し、表面コート量の分析としてICPにてZn量を測定したところ、実施例1の蛍光体重量に対しZn量として7110ppm(重量)であった。
(参考例1)
蛍光体を分散させ、pH10以上にするところまでは実施例1と同様に行い、ここで上澄み液を濾過して回収し、蛍光体を除去した上澄み液に当初投入した蛍光体量に対しSiO量として1.0wt%になる量の水ガラス((KO・3.9SiO)東京応化社製「オーカシールA」)を加え、次いで20wt%硫酸亜鉛水溶液を、7.2ml加え、生
じた反応物を、脱水ろ過、乾燥した。得られた反応物は白色の固体で、SEM−EDSで分析したところ、BaとZnとSiとSを含む複合塩と思われる組成であった。
【0021】
また、蛍光体を分散することなく、脱イオン水の量を同じにして、SiO量として1.0wt%になる量の水ガラス((KO・3.9SiO)東京応化社製「オーカシールA」)を加え、次いで20wt%硫酸亜鉛水溶液を、7.2ml加え、生じた反応物を、脱水ろ過、乾燥した。得られた反応物は無色透明の固体で、SEM−EDSで分析したところ、BaとSは実質的に検出されず、いわゆる通常のZSコート(ZnO・aZnSiO2:1≦a≦4)のコート物質と思われる組成であった。
【0022】
(実施例2、3)
水ガラス((KO・3.9SiO)東京応化社製「オーカシールA」)を蛍光体に対するSiO量として0.1wt%、2.0wt%となる量投入し、さらに20wt%硫
酸亜鉛水溶液を、それぞれ(0.72ml、14.4ml)投入したほかは実施例1と同様にして実施例2,3の蛍光体を作成した。また同様にしてICPにてZn量を分析したところ、蛍光体量に対し、それぞれ(1030ppm(重量)と14620ppm(重量))であった。
【0023】
(比較例)
実施例1に用いたものと同じ(Ba0.7Sr0.2Eu0.12SiO4蛍光体を30g秤量
し、4倍量の脱イオン水中に投入し、スターラーにてかくはんし、分散した。ここへ水ガラス((KO・3.9SiO)東京応化社製「オーカシールA」)を蛍光体に対するSiO量として1.0wt%となる量投入し、60分かくはん後3時間静置した。静置後上澄み液を排水し、濾過脱水、120℃で一晩乾燥し、表面にシリカを被覆した蛍光体を得た。
【0024】
(評価)
本発明の実施例1〜3で作成した蛍光体と、比較例1で作成したシリカコート蛍光体、そしてコートを行っていない蛍光体を、前述の蛍光体溶出量の測定方法にて測定した。その結果を表1に示す。本発明のコートを行うことにより、電導度が低くなり、耐水性が大幅に向上したことがわかる。
【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウム(Ba)を構成元素として含む蛍光体を水中に分散し、pHが10以上で、水ガラス、硫酸亜鉛水溶液をこの順に投入して蛍光体の表面に被覆を行う蛍光体の製造方法。
【請求項2】
該Baを構成元素として含む蛍光体が、アルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体である請求項1記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
該Baを構成元素として含む蛍光体が、下記式(I)で表される蛍光体から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
(M1 - x EuxaSi Obただし1.6≦a≦3.4、3.6≦b≦5.4、0.001≦x≦0.2‥‥(I)
(ただしMは2価のアルカリ土類金属元素であってBaを必須とする)
【請求項4】
該被覆が、亜鉛量で被覆前の蛍光体に対し15000ppm(重量)以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
Baを構成元素として含む蛍光体の表面に、亜鉛(Zn)とバリウム(Ba)とイオウ(S)とシリコン(Si)を含む複合塩で被覆した蛍光体。