説明

表面被覆六ホウ化物微粒子及びその製造方法

【課題】 日射遮蔽材料として好適な六ホウ化物微粒子の被覆処理時に、溶媒中の水分による六ホウ化物の分解を抑制する方法、及びその方法により得られる耐水性が改善された表面被覆六ホウ化物微粒子を提供する。
【解決手段】 溶媒中に分散した六ホウ化物微粒子に、Siなどの金属を含む金属アルコキシドなどの表面処理剤を添加混合し、その添加と同時に若しくはその前又は後に、ホウ素を含む水溶液を添加して、六ホウ化物微粒子の分解を抑制しながら、その表面にSiOなどの金属酸化物を主成分とする被覆化合物からなる被覆層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日射遮蔽材料として好適な表面被覆された六ホウ化微粒子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LaB等で代表される六ホウ化物微粒子は、近赤外領域における光の透過率が低いという特性を有すると共に、可視光領域における光の透過率が高く且つ反射率が低いため、近年では日射遮蔽材料として利用されている(特開2000−169765号公報参照)。
【0003】
しかしながら、上記六ホウ化物は、空気中の水蒸気や水分によって表面が分解されることが知られている。特に、微細な粒子の状態で存在する場合には、体積に対して表面積が増加しているため、六ホウ化物微粒子表面は水蒸気や水分により簡単に分解し、酸化物や水酸化物などの化合物に変化してしまい、六ホウ化物本来の特性が徐々に低下するという現象が現れる。
【0004】
例えば、六ホウ化物微粒子を用いた塗膜等の光学特性を利用して、近赤外領域における光を遮蔽する用途に適用した場合、上記の現象によって塗膜中の六ホウ化物微粒子が水蒸気や水分の影響を受け、波長200〜2600nm領域の透過率が上昇してしまい、日射遮蔽性能が徐々に劣化するという問題があった。
【0005】
そのため、六ホウ化物微粒子の水蒸気や水分による影響をなくし、本来の日射遮蔽性能を維持するための対策が求められている。その対策の一つとして、特開2004−115593号公報には、六ホウ化物微粒子の表面をSi、Ti、Al、Zrのいずれか1種以上の金属酸化物で被覆することが記載されている。これらの金属化合物は基本的に透明であり、六ホウ化物微粒子表面を被覆したことによって可視光透過率を低下させることはなく、耐水性を向上させる。
【0006】
また、六ホウ化物微粒子の耐水性を向上させるために、特開2003−277045号公報には、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれた1種以上の元素の六ホウ化物微粒子について、Siを含有する表面処理剤を用いて表面を被覆することが記載されている。上記表面処理剤としては、シラザン系処理剤、クロロシラン系処理剤、アルコキシ基を分子構造中に有する無機系処理剤、又はアルコキシ基を分子末端若しくは側鎖に有する有機系処理剤があり、加水分解重合してケイ素酸化物の被覆層を形成する。これらは基本的に透明であり、六ホウ化物微粒子の表面を被覆して耐水性を向上させることが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−169765号公報
【特許文献2】特開2004−115593号公報
【特許文献3】特開2003−277045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したようにケイ素などの金属酸化物で表面を被覆することによって、六ホウ化物微粒子は空気中の水蒸気や水分による影響を受けなくなり、その表面の分解を防ぐことができる。しかしながら、上記被覆処理は、湿式法によるものであり、加水分解重合反応を促進するため水の添加が一般的に行われ、仮に有機溶剤中で処理する場合でも有機溶媒に水分が含まれる。そのため、被覆処理の際に溶媒中の水分によって六ホウ化物微粒子の表面が分解し、酸化物や水酸化物等の化合物に変化することが避けられなかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、湿式法により金属酸化物で表面被覆を行う際に、その溶媒中の水分による六ホウ化物微粒子表面の分解を防ぐことができる表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法、並びに耐水性に優れ、日射遮蔽材料として好適に利用される表面被覆六ホウ化物微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、上述した湿式法での表面被覆の際に六ホウ化物微粒子の表面が水分によって分解する問題について検討を重ね、この分解は六ホウ化物微粒子のホウ素が水分を含む液体中に溶け出すことが原因であることを見出した。更に、この水分を含む液体へのホウ素の溶け出しは、水分を含む液体に予めホウ素を溶解させておくことにより抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
即ち、本発明が提供する表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caの群から選ばれた少なくとも1種の元素の六ホウ化物からなる微粒子を溶媒に分散させ、その六ホウ化物微粒子が分散した溶媒に表面処理剤を添加混合し、その添加と同時に若しくはその前又は後にホウ素を含む水溶液を添加して、六ホウ化物微粒子の表面に被覆層を形成することを特徴とする。
【0012】
上記本発明による表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法において、前記表面処理剤は、Si、Ti、Al、Zrから選ばれた少なくとも1種の金属を含む、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。また、前記被覆層は、Si、Ti、Al、Zrから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物を主成分とする被覆化合物からなることが好ましい。
【0013】
上記本発明による表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法において、前記ホウ素を含む水溶液は、被覆処理温度におけるホウ酸の溶解度を超えない範囲でホウ酸又は無水ホウ酸を水に溶解したものであることが好ましい。また、前記溶媒としては、水及び/又は有機溶媒を用いることができる。
【0014】
本発明は、また、上記本発明による表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法により得られた表面被覆六ホウ化物微粒子を提供するものである。この本発明の表面被覆六ホウ化物微粒子の粒子径は、2nm〜10μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、六ホウ化物微粒子が分散した溶媒中に表面処理剤を添加し、六ホウ化物微粒子の表面に物理的若しくは化学的に被覆層を形成する際に、その溶媒中に含まれる水分による六ホウ化物微粒子の分解ないし溶解を抑制して、耐水性に優れた表面被覆六ホウ化物微粒子を高い収率で得ることができる。得られた表面被覆六ホウ化物微粒子は、近赤外領域の透過率が低く、可視光領域の透過率が高く且つ反射率が低い特性を有し、しかも耐水性に優れているため、日射遮蔽材料として利用したとき、長期にわたって優れた日射遮蔽性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で用いる六ホウ化物微粒子は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれた少なくとも1種の元素の六ホウ化物である。六ホウ化物微粒子の粒子径は、その用途に応じて、2nm〜10μmの範囲内で適宜設定できる。例えば、光学的選択透過膜(可視光領域の光を透過させ且つ近赤外領域の光を遮蔽させる膜)に応用する場合には、粒子による光の散乱が少なく、透明性に優れることが必要であるかため、六ホウ化物微粒子の粒子径は200nm以下が好ましく、100nm以下が更に好ましい。
【0017】
その理由は、微粒子の粒子径が200nmを超えて大きいと、幾何学散乱若しくはミー散乱によって、380〜780nmの可視光線領域の光を散乱して曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られないからである。粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱及びミー散乱が低減して、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減して透明性が向上する。更に粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり、透過性が一層向上する。ただし、用途によっては透明性が要求されない場合もあるため、2nm〜10μmの範囲内で粒子径を適宜設定すればよい。
【0018】
上記した六ホウ化物微粒子の表面を被覆するには、従来から行われている湿式法を用いる。即ち、六ホウ化物微粒子を溶媒に分散させ、その溶媒にSiなどの金属を含む表面処理剤を添加混合することにより、六ホウ化物微粒子表面をSiなどの金属の酸化物からなる被覆層で物理的又は化学的に被覆することができる(特開2004−115593号公報及び特開2003−277045号公報参照)。被覆処理の溶媒としては、水又はアルコール等の有機溶媒、あるいは水と有機溶媒の混合物を用いることができる。
【0019】
六ホウ化物微粒子表面に被覆層を形成する被覆化合物は、Si、Ti、Al、Zrから選ばれた少なくとも1種の金属酸化物であることが好ましい。これらの金属酸化物による被覆層は、ゾルゲル法により容易に形成することができる。例えば、Siの金属酸化物の場合は、六ホウ化物微粒子を分散させた有機溶媒に、表面処理剤としてシリカゾルのような含水酸化物ゾルを添加混合することにより、含水酸化物ゾルが化学的に脱水して、SiOのような金属酸化物を主成分とする被覆層を形成して、六ホウ化物微粒子表面を被覆する。Ti、Al及びZrの金属酸化物の場合も、SiOの場合と同様に、TiO、Al及びZrOのような金属酸化物を主成分とする被覆層を形成して、六ホウ化物微粒子表面を被覆することができる。
【0020】
詳しくは、上記被覆化合物からなる被覆層で六ホウ化物微粒子表面を被覆するための表面処理剤は、Si、Ti、Al、Zrから選ばれた少なくとも1種の金属を含む金属有機化合物又は金属無機化合物であり、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物などが好ましい。例えば、Siを含む表面処理剤としては、シラザン系処理剤、クロロシラン系処理剤、アルコキシ基を分子構造中に有する無機系処理剤、アルコキシ基を分子末端又は側鎖に有する有機系処理剤のいずれか1種、又は2種以上を用いることができる。
【0021】
これらの表面処理剤のうち、金属アルコキシドとしては、アルコキシシラン、クロロシラン、シラザン、若しくはこれらの加水分解重合物が好ましく、市販されているものを用いることができる。アルコキシシランは、そのアルコキシ基が六ホウ化物と粒子表面で共有結合を形成し、微粒子表面に化学的に結合する。同時に、アルコキシシランは加水分解重合して、非結晶性ないし無定形のシリカを主体とする表面被覆を形成する。例えば、メチルトリメトキシシラン(CHSi(OCH))は水(HO)と反応して徐々にメトキシ基がメタノールとして除かれ、更にSi−O−H同士が結合してSi−O−Si構造が形成される。尚、加水分解重合反応のための水は、溶媒が水を含まない場合でも、本発明において被覆処理時に添加するホウ素を含む水溶液から供給することができる。
【0022】
表面処理剤として好ましいアルコキシシランには、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリウルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシランなどがある。
【0023】
また、表面処理剤としての金属アルコキシドのうち、クロロシランは、そのクロロ基が六ホウ化物と共有結合を形成し、同時に加水分解重合して、非結晶性ないし無定形のシリカを主体とする表面被覆を形成する。代表的なクロロシランとしては、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリフロロプロピルトリクロロシラン、ヘプタデカフロロデシルトリクロロシランなどがある。
【0024】
更に、表面処理剤としての金属アルコキシドのうち、シラザンは、反応性が強く、加水分解重合して六ホウ化物と共有結合を形成し、微粒子表面を被覆する。また、シラザンは親油性であり、分子構造が小さいため緻密に粒子表面を覆うことができ、最外郭が疎水性となるため耐水性向上に有効である。好ましいシラザンとしては、ヘキサメチルジシラザン、サイクリックシラザン、N,N−ビス(トリメチルシリル)ウレア、N−トリメチルシリルアセトアミド、ジメチルトリメチルシリルアミン、ジエチルトリメチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾール、N−トリメチルシリルフェニルウレアなどが挙げられる。
【0025】
また、上記したSiを含む金属アルコキシドのほかにも、Ti、Al又はZrを含む金属アルコキシド、例えば、Ti(iso−OC)、Al(OC)、Zr(OCH)などを用いることができる。適当な金属アルコキシドがない場合、即ち、非常に合成が難しかったり、通常溶媒として用いる水やアルコールに溶けなかったりする場合には、金属アセチルアセトネートや金属カルボキシレートを用いることもできる。例えば、金属アセチルアセトネートとしては、Zr(C)などが挙げられる。また、金属カルボキシレートとしては、ZrO(CHCOO)などが挙げられる。
【0026】
また、上記した金属アルコキシドやその他の金属有機化合物を使用せず、Si、Ti、Al、Zrを含む硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物などの金属無機化合物を使用することもできる。この場合、その加水分解、重合反応を用いたゾルゲル法により、SiO、TiO、Al、ZrOを主成分とする被覆化合物の被覆層を形成することができる。例えば、硝酸塩としては、Al(NO)・9HO、ZrO(NO)・2HOなどがある。また、塩化物としては、TiClなどが挙げられる。更に、オキシ塩化物としては、AlOCl、ZrOClなどが挙げられる。尚、これらの金属無機化合物を用いることによって、被覆層形成の原料費を安くすることができる。
【0027】
本発明では、上記被覆処理を行う際に、表面処理剤の添加と同時に、若しくはその添加の前又は後に、ホウ素を含む水溶液を添加する。このホウ素を含む水溶液の添加により、溶媒中に含まれる水分による六ホウ化物微粒子の分解を抑制することができ、粒子表面を簡単に且つ効率よく被覆して、高い収率で表面被覆六ホウ化物微粒子を得ることができる。また、被覆処理に上記アルコキシシランなどの表面処理剤を用いた場合には、ホウ素を含む水溶液の水分によって加水分解重合反応を促進させるという効果もある。
【0028】
ホウ素を含む水溶液としては、ホウ酸(HBO)や無水ホウ酸(B)を水に溶かしたものが好ましい。ただし、上記以外のホウ酸塩その他のホウ素含有化合物であっても、水に溶解してホウ素を供給し得るものであれば、特に制限なしに用いることができる。また、ホウ素を含む水溶液は、低濃度でも効果が得られるが、ホウ酸濃度が高いほど有効である。しかしながら、ホウ素を含む水溶液の濃度は、被覆処理温度におけるホウ酸の溶解度を超えない範囲が好ましい。溶解せずに残ったホウ酸は目視できる程度に大きい粒であるため、これを含む表面被覆六ホウ化物微粒子及びその成膜用塗布液は日射遮蔽材料のような光学部材用途において実用に供し得ないからである。
【0029】
従って、ホウ素を含む水溶液を調整する際には、被覆処理時の溶媒温度における水のホウ酸溶解度から算出して、ホウ素を含む水溶液のホウ酸濃度をホウ素が析出しない濃度以下とすることが望ましい。例えば、水のホウ酸溶解度(水100g中に溶解するホウ酸の量(g))は、概ね、0℃で2.8g、20℃で4.9g、30℃で7.0g、40℃で8.9g、60℃で14.9g、80℃で23.6gである。この溶解度から、例えば30℃の水100gに溶解するときは、ホウ酸の添加量を7.0g以下とすべきであり、7.0gを超えて添加すると溶解しないホウ酸が水溶液中に残ることになる。
【0030】
上記のような本発明方法で得られる表面被覆六ホウ化物微粒子は、被覆処理の際の溶媒中に水分が含まれていても六ホウ化物微粒子表面の分解が抑制され、六ホウ化物の溶解による収率の低下を防ぐことができる。このことにより、全ての六ホウ化物微粒子の表面を効率よく被覆でき、日射遮蔽材料として耐水性に優れた表面被覆六ホウ化物微粒子が容易に得られるのである。
【0031】
また、表面被覆六ホウ化物微粒子の粒子径は、その光学的用途に応じて適宜選択できるが、2nm〜10μmであることが好ましい。例えば、光学的選択透過膜(可視光領域の光を透過させ近赤外領域の光を遮蔽させる上述の膜)に応用する場合には、粒子による散乱を考慮する必要があり、特に透明性を重視するときの粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下がよい。
【0032】
上記表面被覆六ホウ化物微粒子は、可視光線領域を透過し且つ近赤外線を遮蔽する光学特性を有するため、日射遮蔽製品の原料として粒子状態のまま、あるいは液体媒質若しくは固体媒質に分散された状態で利用することができる。例えば住宅や自動車の窓材、温室などに適用すれば、高い断熱効果が得られると同時に視認性が確保される利点を有する。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。実施例中の可視光透過率とは、波長領域380nm〜780nmの光の透過率であり、JISA 5759に準ずる方法で測定した(ただし、ガラスに貼付せずに測定を行った)。また、被膜のヘイズ値は、JIS K 7105に基づいて測定した。平均分散粒子径は、動的光散乱法を用いた測定装置(大塚電子株式会社製 ELS−800)により測定した測定粒径の平均値を用いた。
【0034】
[基準例]
六ホウ化物微粒子の水分による影響を評価する基準として、水分を含まないトルエンを溶媒とする分散液を調整した。即ち、六ホウ化ランタン(LaB)微粒子2gと、溶媒としてのトルエン98gとを撹拌混合し、これを分散処理して平均分散粒子径100nmの六ホウ化ランタン微粒子分散液を得た。得られた分散液を溶媒のトルエンで800倍に希釈し、可視光透過率を測定したところ64.98%であった。
【0035】
この分散液3gを紫外線硬化樹脂(UV3701、東亞合成(株)社製)4gと混合して、塗布液とした。この塗布液を、基材である厚さ50μmのPETフィルム上に、バーコーターを用いて塗布成膜した。これを70℃で1分間乾燥し、溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射して、膜を硬化させた。得られた被膜とPETフィルムの合計の可視光透過率は69.2%、ヘイズは2.5%であった。
【0036】
また、耐水性を評価するため、被膜を形成したPETフィルムを60℃で湿度90%の環境に4日間放置し、その後再び可視光透過率を測定した。上記環境での放置前後の透過率の差から、透過率の上昇が5ポイント以下のものは耐水性が良好であると評価した。放置後の可視光透過率は75.6%であり、従って透過率の上昇は6.4ポイントとなるため、被覆処理していない基準例の六ホウ化物微粒子の耐水性は不良である。
【0037】
[実施例1]
六ホウ化ランタン微粒子2gと、メチルトリメトキシシラン10gと、溶媒としてのエタノール50gと、水31gにホウ酸7gを溶解した水溶液とを撹拌混合し、これを分散処理して平均分散粒子径100nmの表面被覆六ホウ化ランタン微粒子分散液を調製した。尚、このときの被覆処理温度は30℃とした。
【0038】
この分散液を溶媒のエタノールで800倍に希釈し、可視光透過率を測定したところ67.05%であった。上記基準例に比べて可視光透過率の上昇は2.07ポイントと僅かであり、被覆処理中の六ホウ化ランタンの溶解が抑制されていることが分かった。
【0039】
次に、この分散液3gを紫外線硬化樹脂(UV3701)4gと混合し、塗布液とした。この塗布液を、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布成膜し、70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、膜を硬化させた。
【0040】
得られた被膜とPETフィルムの合計の可視光透過率は72.0%、ヘイズは0.9%であった。また、これを60℃で湿度90%の環境に4日間放置した後、可視光透過率を測定したところ72.6%であった。従って、透過率の上昇は0.6ポイントであり、この実施例の表面被覆六ホウ化ランタン微粒子の耐水性は良好であった。
【0041】
[実施例2]
六ホウ化ランタン微粒子2gと、メチルトリメトキシシラン10gと、溶媒としてのエタノール52gと、水31gにホウ酸5gを溶解した水溶液とを撹拌混合し、これを分散処理して平均分散粒子径100nmの表面被覆六ホウ化ランタン微粒子分散液を調製した。尚、このときの被覆処理温度は30℃とした。
【0042】
この分散液を溶媒のエタノールで800倍に希釈し、可視光透過率を測定したところ67.5%であった。上記基準例に比べて可視光透過率の上昇は2.52ポイントであり、被覆処理中の六ホウ化ランタンの溶解が抑制されていることが分かった。
【0043】
次に、この分散液3gを紫外線硬化樹脂(UV3701)4gと混合し、塗布液とした。得られた塗布液を、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布成膜し、70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、膜を硬化させた。
【0044】
得られた被膜とPETフィルムの合計の可視光透過率は72.4%、ヘイズは0.9%であった。また、これを60℃で湿度90%の環境に4日間放置した後、可視光透過率を測定したところ72.9%であり、透過率の上昇は0.5ポイントであり、この実施例の表面被覆六ホウ化ランタン微粒子の耐水性は良好であった。
【0045】
[実施例3]
六ホウ化ランタン微粒子2gと、メチルトリメトキシシラン10gと、溶媒としてのエタノール54gと、水31gにホウ酸3gを溶解した水溶液とを撹拌混合し、これを分散処理して平均分散粒子径100nmの表面被覆六ホウ化ランタン微粒子分散液を調製した。尚、このときの被覆処理温度は30℃とした。
【0046】
この分散液を溶媒のエタノールで800倍に希釈し、可視光透過率を測定したところ68.26%であった。上記基準例に比べ可視光透過率の上昇は3.28ポイントであり、被覆処理中の六ホウ化ランタンの溶解が抑制されていることが分かった。
【0047】
次に、この塗布液3gを紫外線硬化樹脂(UV3701)4gと混合し、塗布液とした。得られた塗布液を、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布成膜し、70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、膜を硬化させた。
【0048】
得られた被膜とPETフィルムの合計の可視光透過率は73.1%、ヘイズは0.9%であった。また、これを60℃で湿度90%の環境に4日間放置した後、可視光透過率を測定したところ73.6%であり、透過率の上昇は0.5ポイントであり、この実施例の表面被覆六ホウ化ランタン微粒子の耐水性は良好であった。
【0049】
[比較例1]
六ホウ化ランタン微粒子2gと、メチルトリメトキシシラン10gと、溶媒としてのエタノール57gと、水31gを撹拌混合し、これを分散処理して平均分散粒子径100nmの六ホウ化ランタン微粒子分散液を調製した。尚、このときの被覆処理温度は30℃とした。
【0050】
この分散液を溶媒のエタノールで800倍に希釈し、可視光透過率を測定したところ72.79%であった。上記基準例に対する可視光透過率の上昇は7.81ポイントと大きく、被覆処理中に六ホウ化ランタンの溶解が起こっていたことが分かった。
【0051】
次に、この分散液3gを紫外線硬化樹脂(UV3701)4gと混合して、塗布液とした。この塗布液を、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布成膜し、70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、膜を硬化させた。
【0052】
得られた被膜とPETフィルムの合計の可視光透過率は77.6%、ヘイズは0.9%であった。また、これを60℃で湿度90%の環境に4日間放置した後、可視光透過率を測定したところ78.0%であり、透過率の上昇は0.4ポイントであり、この比較例の表面被覆六ホウ化ランタン微粒子の耐水性は良好であった。
【0053】
[実施例4]
六ホウ化ランタン微粒子2gと、メチルトリメトキシシラン10gと、溶媒としてのエタノール56gと、水31gにホウ酸1gを溶解した水溶液とを撹拌混合し、これを分散処理して平均分散粒子径100nmの表面被覆六ホウ化ランタン微粒子分散液を調製した。尚、このときの被覆処理温度は30℃とした。
【0054】
この分散液を溶媒のエタノールで800倍に希釈し、可視光透過率を測定したところ71.39%であった。上記基準例に比べ可視光透過率の上昇は6.41ポイントであり、ホウ素を含む水溶液を添加していない上記比較例1に比べて透過率の上昇が少なく、被覆処理中の六ホウ化ランタンの溶解が抑制されていることが分かった。
【0055】
次に、この分散液3gを紫外線硬化樹脂(UV3701)4gと混合し、塗布液とした。この塗布液を、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布成膜し、これを70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射し、膜を硬化させた。
【0056】
得られた被膜とPETフィルムの合計の可視光透過率は76.3%、ヘイズは0.9%であった。また、これを60℃で湿度90%の環境に4日間放置した後、可視光透過率を測定したところ76.7%であり、透過率の上昇は0.4ポイントであり、この実施例の表面被覆六ホウ化ランタン微粒子の耐水性は良好であった。
【0057】
上記した基準例、実施例、及び比較例の結果を、下記表1にまとめて示した。
【表1】

【0058】
[比較例2]
六ホウ化ランタン微粒子2gと、メチルトリメトキシシラン10gと、溶媒としてのエタノール47gと、水31gにホウ酸10gを溶解した水溶液とを撹拌混合し、これを分散処理して平均分散粒子径100nmの表面被覆六ホウ化ランタン微粒子分散液を調製した。尚、このときの被覆処理温度は30℃とした。
【0059】
この分散液を溶媒のエタノールで800倍に希釈し、可視光透過率を測定したところ67.32%であった。上記基準例に比べ可視光透過率の上昇は2.34ポイントであり、被覆処理中の六ホウ化ランタンの溶解が抑制されていることが分かった。
【0060】
しかしながら、ホウ酸の添加量が30℃の水におけるホウ酸溶解度を超えているため、上記ホウ酸を溶解した水溶液及び上記分散液中にホウ酸の溶け残りが目視で観察された。そのため、この分散液による塗布液の調整は行わなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caの群から選ばれた少なくとも1種の元素の六ホウ化物からなる微粒子を溶媒に分散させ、その六ホウ化物微粒子が分散した溶媒に表面処理剤を添加混合し、その添加と同時に若しくはその前又は後にホウ素を含む水溶液を添加して、六ホウ化物微粒子の表面に被覆層を形成することを特徴とする表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記表面処理剤が、Si、Ti、Al、Zrから選ばれた少なくとも1種の金属を含む、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記被覆層が、Si、Ti、Al、Zrから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物を主成分とする被覆化合物からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ホウ素を含む水溶液が、被覆処理温度におけるホウ酸の溶解度を超えない範囲でホウ酸又は無水ホウ酸を水に溶解したものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、水及び/又は有機溶媒であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の表面被覆六ホウ化物微粒子の製造方法により得られた表面被覆六ホウ化物微粒子。
【請求項7】
前記表面被覆六ホウ化物微粒子の粒子径が2nm〜10μmであることを特徴とする、請求項6に記載の表面被覆六ホウ化物微粒子。



【公開番号】特開2006−193376(P2006−193376A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7062(P2005−7062)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】