説明

袋体を用いたポリマー地盤改良体の築造方法及びその造築方法に使用する充填用部材

【課題】地盤状態に左右されない、きわめて安定したポリマー地盤改良体を効率的に施工可能なポリマー地盤改良体の築造方法及びその造築方法に使用する充填用部材を提供する。
【解決手段】排土されて所定深度の掘削孔5内に非透水性の袋体7を挿入する。該袋体7内にポリマーゲルとなるポリマー溶液10を充填する。ポリマー溶液10はポリマー溶液充填用パイプ8を使用して行う。ポリマー溶液充填用パイプ8を袋体7の底部に到達させた状態で、袋体7内へのポリマー溶液10の充填を開始し、袋体7内にポリマー溶液10を充填しながらポリマー溶液充填用パイプ8を徐々に引き上げることにより、袋体7内の所定深さまでポリマー溶液10を充填し、ポリマーゲルとなったポリマー地盤改良体13築造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中にポリマーが充填されてなるポリマー地盤改良体の築造方法及びその造築方法に使用する充填用部材に関する。更に詳しくは地盤中にポリマーを充填する際に袋体が使用されるポリマー地盤改良体の築造方法及びその造築方法に使用する充填用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から地盤中にポリマーが充填されてなるポリマー地盤改良体の築造方法は知られていた(特許文献1参照)。
【0003】
また、所定深さの溝孔を掘削し、この溝孔内にゴムまたは発泡スチロールからなる弾性体を粉砕してなる混入材と、セメント、水、土及び混和剤からなる流動化処理土を混練した振動低減処理土を打設して固化させることにより、振動低減地中連続壁とすることも知られていた(特許文献2参照)。
【0004】
更に、混合材が、水硬性粉体、粘土粉体、水、合成樹脂製発泡ビーズを混合した混合材であるが、スパイラルオーガスクリューを地中の所定深度まで掘進した後、スパイラルオーガスクリューを引き上げつつ、そのスパイラルオーガスクリューの先端部から混合材を吐出して柱状混合体を構築する方法が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2002−371278号公報(要約、請求項1、請求項2、段落番号0011)
【特許文献2】特開2001−098574号公報(要約、段落番号0010)
【特許文献3】特開2004−036165号公報(要約、請求項8、図3、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1には、地盤に間隙を設けて、ポリマー材をそのまま注入し、ホモゲルとして用いることもできる、としか開示がなく、ポリマー材をそのまま注入する場合の具体的手段は開示されていない。
【0006】
例えば、ポリマー材をそのまま注入する場合の具体的手段として、特許文献2に開示されているような、所定深さの溝孔を掘削し、この溝孔内にポリマー材をそのまま注入する方法や、特許文献3に開示されているような、スパイラルオーガスクリューを地中の所定深度まで掘進した後、スパイラルオーガスクリューを引き上げつつ、そのスパイラルオーガスクリューの先端部からポリマー材を吐出する方法を適用することが考えられる。
【0007】
このような手段を採用すると、充填する材料がポリマーゲルとなるポリマー溶液である場合は、施工対象地盤中に地下水を多く含む砂層(帯水層)が存在する地盤であるときには、充填されたポリマー溶液と地下水が混合することにより、ポリマー水溶液濃度のムラが発生し、ポリマーゲルを形成した部分と形成しない(液状)部分が混在した状態の改良体が築造されることから、所定の配合仕様でのポリマー改良体の品質を保証することが非常に困難であった。
【0008】
本発明の目的は、地盤状態によらずに安定したポリマーゲルとし得るポリマー地盤改良体の築造方法及びその造築方法に使用する充填用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリマー地盤改良体の築造方法は、請求項1に記載したように、排土されて所定深度の孔内に非透水性の袋体を挿入した後に、該袋体内にポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填することを特徴とする。
【0010】
このように非透水性の袋体内にポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填することにより、地盤状態によらずにポリマー地盤改良体を安定してポリマーゲルによる地盤改良体とし得る。
【0011】
このポリマーゲルとなるポリマー溶液としては、充填後の経時変化によりポリマーゲルとなるポリマーであればよいが、特に好ましいのは、ポリマー水溶液と架橋剤との液状混合物であり、高分子が経時的に架橋して立体網目構造体の空間に水が安定状態で満たされた状態で安定したポリマーゲルとなる。
また、ポリマー水溶液として、入手しやすく、ゲル化も容易である点から特に好ましいのは、ポリビニールアルコール等のビニルアルコール系ポリマーであり、注入し易くするために水で希釈した水溶液として使用する。
【0012】
また、このポリマーを架橋させてゲル状態にするための架橋剤は、経時的に架橋反応を生じさせるものであればよく、例えば、チタンラクテート、ジイソプロポキシチタンビストリエタノールアミネートなどの有機チタン化合物、モノヒドロキシトリス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、テオラキス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム等の有機ジルコニウム化合物、トリメチロールメラミン等が挙げられ、これらの中では有機チタン化合物が最も好ましい架橋剤である。
【0013】
更に、非透水性の袋体としては、水を通さないもので土中でも劣化せず長期的に安定しているものであればよい。上記の特性を有し、柔軟性があり、入手し易い点から、ポリエチレンやポリプロピレンのチューブが適し、このチューブの底部を封鎖することにより袋体として使用するのが最も好ましい。
【0014】
また、袋体内にポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填する方法は、袋体の上部よりポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填しても良いが、袋体の上部より充填したポリマー溶液がポリマーゲルとなり、袋体の下方へのポリマー溶液の充填が不能となる恐れを避けるためには、請求項2に記載したように、請求項1記載のポリマー地盤改良体の築造方法において、袋体内へのポリマーゲルとなるポリマー溶液の充填を、ポリマー溶液充填用パイプを使用して行うと共に、該ポリマー溶液充填用パイプを袋体の底部に到達させた状態で、袋体内へのポリマーゲルとなるポリマー溶液の充填を開始し、ポリマー溶液充填用パイプを徐々に引き上げながら袋体内へのポリマー溶液の充填を行うことにより、袋体内の所定深さまでポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填する。
【0015】
この場合、ポリマー溶液充填用パイプを袋体の底部に到達させた状態のままでポリマー溶液充填用パイプを引き上げることなく、袋体内ヘポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填すると、袋体の下方側からゲル化が始まり袋体の上方へのポリマー溶液の充填が不能となる恐れがあるため、請求項2に記載したように、ポリマー溶液充填用パイプを引上げながらポリマー溶液を充填することが最も好ましい。
【0016】
なお、ポリマー溶液充填用パイプの上方側への引き上げ速度が速すぎると袋体内への充填量が少なくなるので、袋体内へ充分に充填できるに足る充填量に見合う引き上げ速度とすることが好ましい。いずれにしてもこの充填方法によってゲル化時間がある程度短いポリマー溶液であっても袋体内に充填することができる。
【0017】
また、ポリマー溶液充填用パイプの上方側への引き上げを段階的に行うことにより、袋体内の所定深さまでポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填する。
この場合、ポリマー溶液充填用パイプを上方側に徐々に引き上げることにより、注入したポリマー溶液がある程度ゲル化するための時間差で充填用パイプを段階的に上方側に引き上げることが好ましい。
【0018】
このように、段階的にゲル体とし、ゲル体の上にポリマー溶液を充填することにより、袋体底部から袋体上部まで一体となったゲル体を充分な量で袋体内に充填することができる。それと共にゲル化時間がある程度短いポリマー溶液であっても袋体内に充填することができる。
【0019】
なお、請求項3に記載したように、請求項1ないし請求項2のポリマー地盤改良体の築造方法において、ポリマーゲルとなるポリマー溶液が、ポリマー水溶液と架橋剤とで構成されていることが特に好ましく、架橋剤の添加量によりポリマー溶液のゲル化開始時間を調整することが可能である。
【0020】
更に、充填中や充填終了後のポリマー溶液充填用パイプ内でのポリマー溶液のゲル化を防ぐためには、請求項4に記載したように、請求項2のポリマー地盤改良体の築造方法において、ポリマーゲルとなるポリマー溶液の袋体内への充填を、ポリマー水溶液と架橋剤を別々の充填用パイプで供給し、該充填用パイプの下端部で両者を混合させながら行うのが最も好ましい。
【0021】
以上のいずれの場合も袋体の径を掘削孔の径よりも大とすることにより、袋体が存在しても充填されたポリマーゲルの柔軟性と地盤側との関係を阻害することがない。
【0022】
この場合、袋体の径を掘削径より余り大きくしすぎると、袋体の存在による悪影響を及ぼす恐れがあるので、袋体の径は掘削径よりも1〜2割程度大きいものとすることが特に好ましい。
【0023】
なお、排土されて所定深度の孔内に非透水性の袋体を挿入した後に該袋体内にポリマーゲルとなるポリマー溶液が充填されたポリマー地盤改良体は、袋体が存在するために互いに連続した壁状に造築することは困難であるが、ポリマー地盤改良体を互いに接するように構築したり、互いの間隔を少しだけ離した状態で構築することができる。
【0024】
しかし、ポリマー地盤改良体を互いに接することなく、請求項5に記載したように、請求項1〜請求項4記載の何れかのポリマー地盤改良体の築造方法において、千鳥配置で築造することで所期の振動遮断性能や地震時の地盤変位低減性能などが発揮されるため、特に好ましい。
【0025】
ところで、袋体を用いたポリマー地盤改良体の築造方法に使用する充填用部材として、請求項6に記載したような、複数の注入管の下方に合流流路部を有し、該合流流路部の下端開放部の周壁面に支柱が固着され、該合流流路部の下端開放部から離れた位置に支柱に支持された円盤状板体を有することを特徴とするポリマーゲルとなるポリマー溶液の充填用部材を使用することが、請求項4に記載したポリマー地盤改良体の築造方法をより好ましく実現させるために好ましい充填用部材である。
【0026】
この充填用部材を使用すると、複数の注入管の一方をポリマー水溶液の流路とし、他方を架橋剤の流路として、合流流路部で両者を合流させて袋体内に充填できる。
【0027】
更に、合流流路部の下端開放部から離れた位置に支柱に支持された円盤状板体を有することにより、合流されたポリマー溶液が円盤状板体の存在により、横方向に流れ出すことにより袋体径方向に充填が開始することができるので、本発明の請求項4に記載したポリマー地盤改良体の築造方法をより好ましく実現させるために好ましい充填用部材である。
【0028】
なお、請求項7に記載したように、請求項6記載のポリマーゲルとなるポリマー溶液の充填用部材において、合流流路部が静的混合路となっている
と、合流されたポリマー溶液がより均一に混合されるので、最も好ましい充填用部材である。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に記載したように、該袋体内にポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填することにより、地盤状態によらずに安定したポリマーゲルとし得るポリマー地盤改良体を築造でき、振動遮断性能や地震時の地盤変位低減性能などが発揮させることが可能なポリマー地盤改良体とすることができる。
【0030】
更にこの築造方法によれば、地盤の掘削排土工程とポリマー溶液の充填工程が別工程になるため、地盤条件などによっては孔壁を多数構築した後にポリマー溶液の充填工程を連続して行うことができ、ポリマー地盤改良体を築造するための施工効率を向上させ得る。
【0031】
また、請求項2に記載したように、充填用パイプを袋体の底部に到達させた状態でポリマーゲルとなるポリマー溶液の袋体内への充填を開始し、前記袋体内にポリマー溶液を充填しながら前記充填用パイプを引き上げることにより、袋体内でポリマー溶液がゲル化することによって袋体の上方側もしくは下方側へのポリマー溶液の充填が不能になるという現象を避けることができる。
【0032】
特に請求項3に記載したように、ポリマーゲルとなるポリマー溶液が、ポリマー水溶液と架橋剤とで構成されていることが好ましく、架橋剤の添加量にてポリマー溶液のゲル化開始時間を調整することが可能である。
【0033】
更に請求項4に記載したように、ポリマー水溶液と架橋剤とを別々の充填用パイプで供給し、当該充填用パイプの下端部で両者を混合しながら充填すると、充填中もしくは充填後に充填経路でポリマーゲルとなるトラブル(充填中に充填用パイプ内でゲル化すると注入不能になり、また充填後に充填用パイプ内でゲル化すると充填用パイプの洗浄が不能となる等のトラブル)の危険性を回避でき、またそれぞれの充填用パイプ中では両者が混合されていないので、翌日の施工でもその充填用パイプが使用できる。
【0034】
また、ポリマー水溶液と架橋剤を別々に供給するため、ポリマー水溶液と架橋剤とを地上で事前に供給するための装置も不要になり、狭隘地などでも施工可能になる。
【0035】
なお、充填用パイプの下端部に両者が合流したパイプ部を設けた場合は、その長さを注入途中でその部分でゲル化しない長さとするとともに、その両者を合流させるためのパイプ部を取り外すことを可能にすると、充填作業終了後にその部分でゲル化してもその部分を取り外して洗浄作業が容易になる。
【0036】
請求項5に記載したように、排土されて所定深度の孔内に非透水性の袋体を挿入した後に該袋体内にポリマーゲルとなるポリマー溶液が充填されたポリマー地盤改良体を千烏配置で築造すると、更に優れた振動遮断性能や地震時の地盤変位低減性能などが発揮させることができる。
【0037】
また、請求項6に記載したように、複数の注入管の下方に合流流路部を有し、その合流流路部の下端開放部の周壁面に支柱が固着され、該合流流路部の下端開放部から離れた位置に支柱に支持された円盤状板体を有することにより、複数の注入管の一方をポリマー水溶液の流路とし、他方を架橋剤の流路として、合流流路部で両者を合流させて袋体内に充填できる。
【0038】
更に、合流流路部の下端開放部から離れた位置に支柱に支持された円盤状板体を有することにより、合流されたポリマー溶液が円盤状板体の存在により、横方向に流れ出すことにより袋体径方向に充填が開始することができる。
【0039】
なお、請求項7に記載したように、請求項6記載のポリマーゲルとなるポリマー溶液の充填用部材において、合流流路部が静的混合路となっていると、合流されたポリマー溶液がより均一に混合される。
【0040】
また、いずれの場合も合流流路部を上部の充填用パイプから取り外し可能にすると、充填作業終了後にその部分で充填用パイプ内でゲル化しても洗浄作業が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
この発明のポリマー地盤改良体の築造方法の実施例を図面を用いながら説明する。
【0042】
この例で使用したポリマーゲルとするためのポリマー溶液は、ポリマー水溶液としてポリビニールアルコール(重合度1700程度)5%濃度の水溶液100重量部と、架橋剤として有機チタン化合物であるジイソプロポキシチタンビストリエタノールアミネート(濃度80質量%)2重量部を事前に水で4倍に希釈した架橋剤希釈液(合計8重量部)を使用し、ポリマー水溶液と架橋剤希釈液を混合することでポリマーゲルを形成する。
【0043】
図1の(a)〜(c)と図2の(a)〜(d)は、削孔工程とポリマー溶液の充填工程を示す図である。
【0044】
図1(a)に示したオーガスクリュー1を有する掘削機で、地盤面に掘削径に合わせてケーシングパイプ2を設置した後に、掘削孔の芯合わせの役割を果たす前記ケーシングパイプ2内にオーガスクリュー1入れ、図1(b)に示すように、オーガスクリュー1により排土しながら所定の深さまで掘進した後、図1(c)に示すように、オーガスクリュー1に残存している掘削土3を地上に排土する。
【0045】
なお、地盤条件によっては、図1(c)に示すようにオーガスクリュー1先端の吐出口からベントナイト液などの孔壁安定液4を吐出し、掘削土3と孔壁安定液4を置換して孔壁地盤の崩壊を防止する。
【0046】
このようにして排土された掘削孔5が準備される。なお、排土された掘削土3は、図1(c)に示すようにバックホウ6等を用いて他の場所に移動される。掘削土3が除去された状態を図2(a)に示した。
【0047】
掘削孔5の上部孔壁がケーシングパイプ2で保護された状態で袋体7を掘削孔5内に挿入した後、図2(b)に示すように袋体7の底部までポリマー溶液充填用パイプ(以下「充填用パイプ」という)8を差し込み、図2(c)に示すように安定液排水ポンプ9により孔壁安定液4を排水しながらポリマー溶液10を袋体7内に充填する。
【0048】
この袋体7内に充填するポリマー溶液10は、ポリマー水溶液圧送ポンプ(以下「圧送ポンプ」という)11と架橋剤希釈液圧送ポンプ(以下「圧送ポンプ」という)12から供給される。
【0049】
この場合、充填用パイプ8を段階的に上昇させながら、袋体7内にポリマー溶液10を充填することにより、図2(d)に示すように袋体7内にポリマー溶液10が充填され、ポリマーゲルとなったポリマー地盤改良体13が築造される。
【0050】
地上部に上端が出ている袋体7の頭部をシールして袋体7内に充填したポリマー改良体13に水や土砂等が浸入しないようにした後に、なお上部に袋体7が存在する場合には、それを切除する。またケーシングパイプ2も除去する。
この例では、径550mm、深さ10mの掘削孔5を形成し、削孔工程で使用されるケーシングパイプ2は、掘削径より若干大きい径(例えば外径600mm、肉厚12mm、内径576mm)で長さ1mの鋼管を使用した。
【0051】
また、袋体7には、650mm径で肉厚0.1mm程度のポリエチレン製のチューブを使用した。図3(a)に示すように、袋体(チューブ)7の下方に挿入用の袋体挿入錘14を挿入し、その下方の部分を綴じるとともに、錘挿入部の上方を紐などで縛ることで、ポリエチレン製の袋体7の下端も丸く膨れることができるようにし、かつ、充填したポリマー溶液10が錘挿入部へ浸透しないようにする。
【0052】
なお、袋体7の径は前述したように650mmであり、掘削径の550mmよりも大きいが、図3(b)に示すように、袋体7内にポリマー溶液10が充填された状態では、掘削孔5の壁面に袋体7は密着されている。
【0053】
上記の例では、袋体7は1重で使用したが、袋体7が薄い場合や、地盤状況によっては袋体7が破れる恐れがある場合など、状況によっては袋体7を二重にして使用する。
【0054】
次にこの例でポリマー溶液10を袋体7内に充填するために使用した充填用パイプ8について説明する。
【0055】
充填用パイプ8は、図4(a)に示すようにポリマー水溶液を充填するポリマー水溶液充填用パイプ8aと架橋剤希釈液を充填する架橋剤希釈液充填用パイプ8bとから構成され、それぞれに逆止弁部15が設けられ、その下方に両液の合流部分となるY字管8cが接続され、さらにその下方にポリマー水溶液と架橋剤希釈液の二液を混合する二液混合装置16が設けられている。
【0056】
この二液混合装置16は、図4(b)に示すように内部が螺旋状になっていると共に、その下方に支柱部分付きの円盤状板体16aが固着されている。この円盤状板体16aの存在により、二液混合装置16の下部より吐出されるポリマー溶液10は横方向に流出して、図4(c)に示すように四方に拡がりながら袋体7内に充填される。
【0057】
また、上述した図5のポリマー溶液製造プラントの例に示すように、ポリマー水溶液充填パイプ8aに供給されるポリマー水溶液は、図5の上側に示すポリマー水溶液貯蔵槽17から流量計付きで圧送ポンプ11にて圧送され、架橋剤希釈液充填パイプ部8bに供給される架橋剤希釈液は、図5の下側に示すように、水槽18に蓄えられた水と架橋剤がミキサー19で混合されて架橋剤希釈液とした後に流量計付きで圧送ポンプ12にて圧送される。
【0058】
次に、この例で使用したポリマー溶液10の充填方法について説明する。
最初に、前述して図3(a)に示した袋体挿入錘14を付けた袋体7を、掘削孔5内に当該掘削孔5の底部まで挿入する。この場合、前述して図4(a)に示した充填用パイプ8を何も供給しない状態で、袋体7を掘削孔5内に挿入するための挿入具として使用する。そして、充填用パイプ8を少し引き上げる。この状態を図6(a)に示す。
【0059】
なお、この例では掘削孔5内には孔壁崩壊を防止するための孔壁安定液4が注入されているので、袋体7等の容積分に相当する量の孔壁安定液4を孔壁安定液排水ポンプ9に接続された安定液排水管20にて排水する。
そして、充填用パイプ8のパイプ8aとパイプ8bにそれぞれ、所定の配合量に相当するポリマー水溶液と架橋剤希釈液を同時に供給する。パイプ8aとパイプ8bにそれぞれ供給されたポリマー水溶液と架橋剤希釈液はY字管8c内で合流し、その下方の混合装置16内で混合されることによりポリマー溶液10となって袋体7内に吐出される。
【0060】
この状態で充填用パイプ8を所定の速度で徐々に引き上げることにより袋体7内にポリマー溶液(ポリマー水溶液と架橋剤希釈液の混合液)10を充填することができる。
【0061】
なお、ポリマー溶液10の充填時には、充填量に相当する量の孔壁安定液4を安定液排水管20にて排水する。また、ポリマー溶液10の充填量は、ポリマー溶液10の配合量と圧送ポンプ11および12の吐出能力、充填用パイプ8の引上げ速度により設定する。
【0062】
この例では、充填用パイプ8を毎分0.5mの速度で上方に引き上げることにより、充填されるポリマー溶液10の量が毎分119リットル(深度0.5m当りの充填量)となることから、所定の配合量に相当するよう、ポリマー水溶液を毎分110リットル、架橋剤希釈液を毎分9リットルで供給する。
【0063】
以上の手順により、各深度位置で充分なポリマー溶液10が充填され、袋体7の下方側から掘削孔5内にある袋体7の上部まで注入された順に経時的にゲル状態となり、袋体7内に総充填量2.38mのポリマー改良体13を築造した。
【0064】
このようにして地盤中にポリマー溶液10が充填されてなるポリマー地盤改良体13を、図7に示すように、一列目の各ポリマー地盤改良体13,13間の中心間距離Lと、二列目の各ポリマー地盤改良体13,13間の中心間距離Lがそれぞれ1m、そして一列目のポリマー地盤改良体13どうし、二列目のポリマー地盤改良体13どうしをそれぞれ結ぶ中心腺間の距離Lが0.5mとなるように千烏配置に築造した。
【0065】
なお、上記した例で袋体7にはポリマー溶液10を地表面まで充填したが、地表面まで充填しない場合や地表面まで充填した場合でも上部に土砂を埋め戻す場合は、埋め戻しにより袋体7を損傷させないように、袋体7の上部に木板や鉄板などを被せて袋体7を保護する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、地盤状態に左右されないで、安定したポリマー地盤改良体をきわめて効率的に築造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(a)〜(c)は、本発明を実施する際の削孔工程の一例を示す図である。
【図2】(a)〜(d)は、本発明を実施する際のポリマー溶液の充填工程の一例を示す図である。
【図3】本発明を実施するための袋体を示し、(a)は低部の斜視図、(b)は横断面図である。
【図4】本発明で使用するポリマー溶液を充填するためのポリマー溶液充填用パイプの一例を示し、(a),(b)は下端部を示す正面図、(c)は底面図である。
【図5】本発明で使用するポリマー溶液を製造するためのポリマー溶液製造プラントの一例を示す図である。
【図6】(a),(b)は袋体内にポリマー溶液を充填する状況を示す袋体の一部斜視図である。
【図7】ポリマー地盤改良体の配置例を示す一部平面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 オーガスクリュー
2 ケーシングパイプ
3 掘削土
4 孔壁安定液
5 掘削孔
6 バックホウ
7 袋体
8 充填用パイプ(ポリマー溶液充填用パイプ)
8a ポリマー水溶液充填用パイプ
8b 架橋剤希釈液充填用パイプ
8c Y字管(合流流路部)
9 孔壁安定液排水用ポンプ
10 ポリマー溶液
11 圧送ポンプ(ポリマー水溶液圧送ポンプ)
12 圧送ポンプ(架橋剤希釈液圧送ポンプ)
13 ポリマー地盤改良体
14 袋体挿入錘
15 逆止弁
16 二液混合装置
16a 円板状板体
17 ポリマー水溶液貯蔵槽
18 水槽
19 ミキサー
20 孔壁安定液排水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排土されて所定深度の孔内に非透水性の袋体を挿入した後に、該袋体内にポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填することを特徴とするポリマー地盤改良体の築造方法。
【請求項2】
ポリマーゲルとなるポリマー溶液の袋体内への充填を、ポリマー溶液充填用パイプを使用して行うと共に、該ポリマー溶液充填用パイプを前記袋体の底部に到達させた状態で、前記袋体内へのポリマーゲルとなるポリマー溶液の充填を開始し、前記袋体内にポリマー溶液を充填しながら前記ポリマー溶液充填用パイプを引き上げることにより、前記袋体内の所定深さまでポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填することを特徴とする請求項1記載のポリマー地盤改良体の築造方法。
【請求項3】
ポリマーゲルとなるポリマー溶液が、ポリマー水溶液と架橋剤とから構成されていることを特徴とする請求項1または2記載のポリマー地盤改良体の築造方法。
【請求項4】
ポリマーゲルとなるポリマー溶液の袋体内への充填を、ポリマー水溶液と架橋剤とを別々の充填用パイプで供給しながら、該充填用パイプの下端部で前記ポリマー水溶液と架橋剤とを混合しながら行うことを特徴とする請求項3記載のポリマー地盤改良体の築造方法。
【請求項5】
排土されて所定深度の孔内に非透水性の袋体を挿入した後に該袋体内にポリマーゲルとなるポリマー溶液を充填してなるポリマー地盤改良体を千鳥配置で築造することを特徴とする請求項1〜4記載の何れかのポリマー地盤改良体の築造方法。
【請求項6】
複数の注入管の下方に合流流路部を有し、該合流流路部の下端開放部の周壁面に支柱が固着され、該合流流路部の下端開放部から離れた位置に前記支柱に支持された円盤状板体を有することを特徴とするポリマーゲルとなるポリマー溶液の充填用部材。
【請求項7】
合流流路部が静的混合路となっていることを特徴とする請求項6記載のポリマーゲルとなるポリマー溶液の充填用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−100452(P2007−100452A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294070(P2005−294070)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000133881)株式会社テノックス (62)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(398047227)横浜市 (10)
【Fターム(参考)】