説明

袋状の編地およびその編成方法

【課題】ウェール方向に連続する柄を傾斜させる際に傾斜柄を簡単に編成することができる袋状の編地およびその編成方法を提供する。
【解決手段】横編機の前後針床FB,BBの各編針に給糸して編出し部10を編成し、編出し部10の編目に続く編地の領域において軸線方向で3つの領域に区分し、その中央に寄せを行う第2編地領域3を定め、この第2編地領域3での左側への寄せによりウェール方向に連続する柄を傾斜させるとともに、当該領域3の右端で増やしを行いかつその左端に連続する第3編地領域4で減らしを行って傾斜柄32を備える編地を編成し、傾斜柄32の左端側を閉塞する5枚のハギ41を引き返し編成により形成しつつ隣接するハギ41の編地でのウェール方向の始端と終端の編目同士を接合し、前後の針床FB,BBの各編針により編成したウェール方向最終端の編目同士を接合し、帽子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜柄を有する袋状の編地およびこれを編成するための編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の編針を進退摺動可能に設けた針床がその歯口部分を近接させた状態で前後に少なくとも一対設けられ、この前後の針床が左右に相対移動可能に構成された横編機を用いて、両端が開口する筒状の編地又は一端が閉塞し他端が開口する袋状の編地を編成する方法として、下記の特許文献1に記載の方法がある。この方法は、前後の針床の各編針への給糸により筒状の編出し部を編成した後、この編出し部の編目に続けて編地を編成する際に、上記前後の針床の各編針への給糸により上記編出し部の編目の周方向一端を起点にして往復編成することで筒状の編地又は袋状の編地を形成するものである。この場合、袋状の編地は、筒状の編地と同様に往復編成され、上記前後の針床により編成されたウェール方向最終端の編目同士を接合すれば形成される。
また、上記従来の編地の編成方法では、筒状の編地においてウェール方向に連続する柄が編成されており、このような柄を編成するに当たり、インターシャ編成が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−274485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筒状の編地や袋状の編地の一部の領域においてウェール方向に連続する柄を傾斜させたいという要求がある。その場合、上記従来のインターシャ編成によって編糸の種類や色の変化で柄を傾斜させることも可能であるが、編成コース方向に連続する編目の向きが筒状の編地や袋状の編地の軸線に対してほぼ直行しているため、周りとは異なる編糸を編成コースの途中位置でそのコース毎にずらせることによって柄を傾斜させなければならない。これでは、糸数が増えるに従って編糸の交換に手間を要し、傾斜柄の編成が非常に煩わしいものとなる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、一部の領域においてウェール方向に連続する柄を傾斜させる際に傾斜柄を簡単に編成することができる袋状の編地およびその編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、複数の編針を進退摺動可能に設けた針床がその歯口部分を近接させた状態で前後に少なくとも一対設けられ、この前後の針床が左右に相対移動可能に構成された横編機を用いて編成する袋状の編地の編成方法であって、上記前後の針床の各編針への給糸により上記袋状の編地の周方向と直行する軸線方向に編出し部を編成する編出し工程と、上記編出し工程の編出し部の編目に続けて編地を編成する際に、上記前後の針床のうちの少なくとも一方の針床の各編針への給糸により往復編成される編地の領域において軸線方向で3つの領域に区分し、その中央の位置に寄せを行う寄せ領域を定め、この寄せ領域での軸線方向他端側への寄せによりウェール方向に連続する柄を傾斜させるとともに、上記寄せ領域の軸線方向一端で増やしを行いかつその軸線方向他端に連続する他端側領域で減らしを行って傾斜柄を備える編地を編成する傾斜柄編成工程と、上記編地の領域のうちの寄せ領域に連続するいずれか一方の領域において上記傾斜柄を備える編地を閉塞する複数枚のハギを編成しつつ当該各ハギでのウェール方向の始端および終端の編目同士を接合するハギ部編成工程と、上記各工程において上記前後の針床により編成されたウェール方向最終端の編目同士を接合し、編地を袋状に形成する袋状編地形成工程と、を備えていることを特徴としている。
【0007】
また、上記袋状編地形成工程では、上記傾斜柄編成工程において上記前後の針床のいずれか一方の針床の各編針への給糸により往復編成されたウェール方向最終端の編目と、上記他方の針床により編成された編出し部の編目とを接合していてもよい。
【0008】
これに対し、上記袋状編地形成工程では、上記傾斜柄編成工程において上記前後の針床の各編針への給糸により往復編成されたウェール方向最終端の編目同士を接合していてもよい。
【0009】
更に、上記傾斜柄編成工程の寄せ領域でのウェール方向に連続する柄は、上記袋状編地形成工程において編地が袋状に形成された際に前側に位置する編地および後側に位置する編地の双方に跨るように編成されていてもよい。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明では、複数の編針を進退摺動可能に設けた針床がその歯口部分を近接させた状態で前後に少なくとも一対設けられ、この前後の針床が左右に相対移動可能に構成された横編機を用いて編成された袋状の編地であって、上記前後の針床の編針への給糸により周方向と直行する軸線方向に編成された編出し部の編目に続けて上記前後の針床のうちの少なくとも一方の針床の各編針への給糸により往復編成される編地の領域において軸線方向で3つに区分した領域の中央の位置で寄せを行うように定めた寄せ領域での軸線方向他端側への寄せによりウェール方向に連続する柄を傾斜させるとともに当該寄せ領域の軸線方向一端で増やしを行いかつその軸線方向他端に連続する他端側領域で減らしを行って傾斜柄を備える編地を編成し、上記編地の領域のうちの寄せ領域に連続するいずれか一方の領域において上記傾斜柄を備える編地を閉塞する複数枚のハギを編成しつつ当該各ハギでのウェール方向の始端および終端の編目同士を接合し、上記前後の針床により編成されたウェール方向最終端の編目同士を接合して袋状に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る袋状の編地の編成方法によれば、編地の領域のうちの一部の領域に定めた寄せ領域においてウェール方向に連続する柄を傾斜させて傾斜柄を備える編地を編成することで、編成コース方向に連続する編目の向きも柄の傾斜に伴い傾斜することになる。このため、寄せ領域で傾斜柄を編成する際の編糸の交換が編成コースの端部でのみ行えば済み、傾斜柄を備える編地を簡単に編成することができる。
【0012】
また、上記袋状編地形成工程において、上記前後の針床のいずれか一方の針床の各編針への給糸により往復編成されたウェール方向最終端の編目と、上記他方の針床により編成された編出し部の編目とを接合することで、編糸による編地の往復編成が最小限の給糸口で対応でき、糸始末を簡単に行うことができる。
【0013】
これに対し、上記袋状編地形成工程において、上記前後の針床の各編針への給糸によって前編地および後編地を往復編成することで、前編地および後編地の編成をそれぞれ個々に行え、編地を効率よく編成することができる。
【0014】
更に、上記寄せ領域でのウェール方向に連続する柄を前編地および後編地の双方に跨るように編成することで、前編地から後編地に跨る傾斜柄の連続性を高めることができる。
【0015】
また、本発明に係る袋状の編地によれば、寄せ領域においてウェール方向に連続する柄を傾斜させた傾斜柄を備える編地を編成することで、編成コース方向に連続する編目も柄の傾斜に伴い傾斜し、寄せ領域で傾斜柄を編成する際の編糸の交換を編成コースの端部でのみ行って傾斜柄の編成を簡単にし得る袋状の編地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る編成方法により編成された傾斜柄を有する帽子の正面図である。
【図2】図1の帽子の第1〜第3編地領域を概略的に示す展開図である。
【図3】図1の帽子の編出し部およびこれに続く編成手順を概略的に示す編成図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る帽子の編出し部およびこれに続く編成手順を概略的に示す編成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る袋状の編地の編成方法において、傾斜柄を有する帽子1の説明を行う。
【0018】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る編成方法により編成された傾斜柄を有する帽子の正面図、図2は帽子の第1〜第3編地領域を概略的に示す展開図、図3は帽子の編出し部およびこれに続く編成手順を概略的に示す編成図である。
【0019】
本実施の形態において帽子1の編成に用いられる横編機は、図3に示すように、前後一対の針床FB,BBを備えた2枚ベッド横編機であって、後針床BBが前針床FBに対してラッキングが可能で、針床の上方に複数の給糸口51,52を有している。また、前後の針床FB,BB上を往復移動するキャリッジには、各編針に係止された編目の形成および目移しが可能なカムシステムが2組設けられている。なお、図3の編成図では、説明の便宜上、編針の針数を実際の編成に使用される針数よりも少なくしている。
【0020】
帽子1は、前後の針床FB,BBのうちの前針床FBの各編針への給糸によって往復編成される編地の領域Xにおいて形成される。この領域Xは、図2にも示すように、その軸線Y方向(図1および図2では左右方向)で3つの領域2〜4に区分、つまり軸線Y方向一端側(図1および図2では右側)となる開口端側の第1編地領域2と、この第1編地領域2の軸線Y方向他端側(図1および図2では左側)に連続する第2編地領域3と、この第2編地領域3の軸線Y方向他端側に連続する第3編地領域4(一方の領域、他端側領域)とで構成される。また、領域Xは、前後の針床FB,BBに亘って編糸を給糸して編成された編出し部10(図1および図3に表れる)に続けて編成される。この場合、編出し部10は、前後の針床FB,BBの各編針への給糸により帽子1の編地の周方向と直行する軸線Y方向に編成される。なお、以下の説明では、説明の便宜上、軸線Y方向他端側を左側と称し、軸線Y方向一端側を右側と称して、説明する。
【0021】
第1編地領域2は、編出し部10の編目に続けて編成される。この第1編地領域2では、ウェール方向に連続する柄として、軸線Y方向と平行な直線柄22が編成される。
【0022】
また、軸線Y方向の中央に位置する第2編地領域3は、第1編地領域2の左端側に連続して設けられ、編出し部10の編目に続けて編成される。この第2編地領域3は、左端側に向けて寄せを行う寄せ領域として領域Xに定められたものであり、この第2編地領域3(寄せ領域)での寄せによってウェール方向に連続する柄を左方向に傾斜させ、これによって傾斜柄32を備える編地を編成している。また、第2編地領域3の右端(一端)で増やしを行い、かつその左端(他端)に連続する第3編地領域4(他端側領域)の右端で減らしを行っている。この場合、図2では、第2編地領域3での増やしと第3編地領域4での減らしは、その位置が一定で回数もほぼ同数としているため、編幅は変化しない。また、第2編地領域3でのウェール方向に連続する柄(傾斜柄32)は、第1編地領域2および第3編地領域4の編地と共に、帽子1の前側に位置する前編地および後側に位置する後編地の双方に跨るように編成される。
【0023】
更に、第3編地領域4は、第2編地領域3の左端側に連続して設けられ、編出し部10の編目に続けて編成される。この第3編地領域4では、傾斜柄32を備える編地の左端側を略紡錘形状に収束させて閉塞する5枚の略三角形状のハギ41,41,…を編成している。この各ハギ41は、公知の引き返し編成により形成する。このとき、各ハギ41は、引き返し編成により形成されたウェール方向での始端および終端の編目同士が接合される。つまり、編幅を順次減らして係止されている終端側の各編目に対し、編幅を順次増やしながら始端側の編目として接合していく。
【0024】
そして、前針床FBの各編針により往復編成された第1〜第3編地領域2〜4の編地におけるウェール方向最終端の編目と、後針床BBの各編針により編成された編出し部10の編目とを伏目処理して接合し、編地を袋状に形成して帽子1を得ている。
【0025】
次に、帽子1の編成工程を図3の編成手順に基づいて説明する。この図3における編成図では、左側の数字は編成ステップ(S)を示し、FBは前針床を、BBは後針床を示す。また、図中白丸はその編成ステップで形成される編目を、∨字は掛け目を、黒丸は空針を示している。
【0026】
図3の編成ステップS1〜S7を説明する。この編成に使用される編針としては、目移しなどで使用する為に対向する編針を空けておくように一本おきの編針を使用する。
【0027】
S1において、編出し工程A1を行う。この編出し工程A1では、後針床BBの各編針および前針床FBの各編針に対し互いに対向しない隣の編針に編糸K1を交互に係止してジグザグ状に編出しを行う。この編出しは、図1に二点鎖線で示すように、帽子1の編地の周方向と直行する軸線Y方向に行われる。また、編出し工程A1は、第1編地領域2の右端から第2編地領域3を経て第3編地領域4の左端までの領域Xで行われる。
【0028】
次いで、S2〜S7の編成では、直線柄編成工程A2、傾斜柄編成工程A3およびハギ部編成工程A4が行われる。S2では、編出し工程A1に続き、給糸口51を左端から右端に移動させて前針床FBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目を形成する。また、S3では、給糸口51を右端から左端に移動させて前針床FBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目を、空針には掛け目11をそれぞれ形成し、S4以降は、給糸口51の移動方向を交互に切り換えて前針床FBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目と空針には掛け目11を形成することを繰り返す。
【0029】
このとき、S2〜S7の編成において第1編地領域2で行われる直線柄編成工程A2では、第1編地領域2に対応する前針床FBの各編針により、第1編地領域2でのウェール方向に連続する柄が帽子1の軸線Yと略直交するように直線柄22の編地を編成する。
【0030】
また、S2、S4、およびS6の編成において第2編地領域3で行われる傾斜柄編成工程A3では、第2編地領域3に対応する前針床FBの各編針の編目を、これに対向する後針床BBの各編針に対し目移しした後、その後針床BBを左側に2ピッチ分(2針分)だけラッキングさせてから、再度前針床FBの各編針に編目の目移しを行って、第2編地領域3でのウェール方向に連続する柄を傾斜させて傾斜柄32を備える編地を編成する。このとき、第2編地領域3の左端に連続する第3編地領域4の右端で、重ね目による減らしを行う。
【0031】
更に、S2〜S7の編成において第3編地領域4で行われるハギ部編成工程A4では、第3編地領域4に対応する前針床FBの各編針により、第1編地領域2でのウェール方向に連続する柄が帽子1の軸線Yと略直交するのと同じように各ハギ41の編地を編成する。このハギ部編成工程A4では、編成ステップの進行に伴い引き返し編成を行うことで、各ハギ41の左端の頂点に向かって順次編幅を増やしてハギ41の編地を編成したり、左端の頂点から順次編幅を減らしてハギ41の編地を編成したりして、隣接するハギ41の編地でのウェール方向の始端と終端の編目同士が接合されることを適宜組み合わせる。本実施の形態では、S1を頂点としてS3,S5と順次編幅を減らしている。
【0032】
S3、S5、およびS7では、各領域2〜4に対応する前針床FBの各編針により編目を形成する際に、それぞれ1ステップ前のS2、S4、およびS6の編成での編目の移動により編目が係止されない第2編地領域3の右端で前針床FBの編針に新たな編目11(掛け目)を形成する増やしを行う。また、第3編地領域4に対応する前針床FBの各編針に給糸された編糸K1により引き続き編目を形成し、引き返し編成によりハギ41を編成する。このとき、第2編地領域3の左端に連続する第3編地領域4の右端に対応するS2,S4,S6の各ステップでの前針床FBの編針に重ね目された編目の位置で減らしが行われる。なお、S5の編成以降では、給糸口51が編糸K2を給糸する給糸口52に編成コースの右端において交換される。
【0033】
以降、同様にステップの編成を繰り返し、給糸口51,52からの編糸K1,K2の色の種類を編成コース単位で適宜交換して第1〜第3編地領域2〜4の編地をそれぞれ編成する。
【0034】
第1〜第3編地領域2〜4の編地の編成が完了すると、袋状編地形成工程(図示せず)において、前針床FBの各編針により往復編成された第1〜第3編地領域2〜4の編地におけるウェール方向最終端の編目と、後針床BBの各編針により編成された編出し部10の編目とを伏目処理して接合し、編地を袋状に形成して帽子1を得ている。
【0035】
また、図3の説明では省略したが、第2〜第3編地領域3,4の編地の傾斜柄32のような波状の柄を形成する場合には、複数の編目に対し数ピッチ分の寄せを同じ編成コース上において左側向きと右側向きとに交互に行えばよい。
【0036】
本実施の形態では、第2編地領域3(寄せ領域)での寄せによって当該第2編地領域3のウェール方向に連続する柄を傾斜させ、傾斜柄32を備える編地を編成している。このため、編成コース方向に連続する編目も柄の傾斜に伴い傾斜することになる。編糸K1,K2で傾斜した色や素材の変化による柄を形成する際にも、編糸K1,K2の交換を編成コースの端部でのみ行えば済み、別の編糸を追加したり、編糸K1,K2を頻繁に入れ替えたとしても傾斜柄32を備える編地を簡単に編成することができる。
【0037】
また、前針床FBの各編針への給糸により往復編成されたウェール方向最終端の編目と、後針床BBの各編針により編成された編出し部10の編目とが接合されるので、編糸K1,K2による第1〜第3編地領域2〜4での編地の往復編成が最小限の給糸口で対応でき、糸始末を簡単に行うことができる。
【0038】
また、第2編地領域3でのウェール方向に連続する柄(傾斜柄32)は、帽子1の前側に位置する前編地および後側に位置する後編地の双方に跨るように編成されているので、前編地から後編地に跨る傾斜柄32の連続性を高めることができる。
【0039】
しかも、第2編地領域3の右端で増やしを行いかつ左端で減らしを行って当該領域3でのウェール方向に連続する柄を傾斜させることで、編成コース方向に連続する編目も柄の傾斜に伴い傾斜し、第2編地領域3で傾斜柄32を編成する際の編糸K1,K2の交換を編成コースの端部でのみ行えて、傾斜柄32を簡単に編成し得る帽子1を提供することができる。
【0040】
次に、本発明の第2の実施の形態を図4に基づいて説明する。
図4は帽子の編出し部およびこれに続く編成手順を概略的に示す編成図である。この実施の形態では、第1〜第3編地領域での帽子の編地の往復編成を前編地および後編地にそれぞれ対応する前後の針床の各編針により行うようにしている。
【0041】
図4の編成ステップS1では、給糸口61から給糸される編糸R1を前針床FBおよび後針床BBの各編針にそれぞれ係止して編出し部10を編成した編出し工程A1を行い、S2以降の編成では、給糸口62から給糸される編糸R2を追加して行う。
【0042】
S2〜S6の各編成では、前針床FBおよび後針床BBの各編針により、直線柄編成工程A2、傾斜柄編成工程A3およびハギ部編成工程A4がそれぞれ第1編地領域2、第2編地領域3、第3編地領域4で連続して行われる。
【0043】
S2では、編出し工程A1に続き、給糸口61を右端から左端に移動させて後針床BBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目を形成する。さらに、2組のカムシステムにより給糸口61に加えて新たな給糸口62を用い、前針床FBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目を形成する。ここでは、前側に位置する給糸口61で後針床BBを、後側に位置する給糸口62で前針床FBの各編針に給糸する。
【0044】
S3の編成において傾斜柄編成工程A3では、第2編地領域3に対応する前針床FBの各編針の編目を、後針床BBを右側に1ピッチ分ラッキングして対向する後針床BBの各空針に目移しした後、針床BBを左側に2ピッチ分(2針分)ラッキングさせてから、再度前針床FBの各編針に目移しを行って、第2編地領域3でのウェール方向に連続する柄を左側に傾斜させた傾斜柄32を備える編地を編成する。一方、第2編地領域3に対応する後針床BBの各編針の編目を、対向する前針床FBの各空針に対し目移しした後、後針床BBを左側に2ピッチ分(2針分)ラッキングさせ、再度後針床BBの各編針に目移しを行って、第2編地領域3でのウェール方向に連続する柄を右側に傾斜させた傾斜柄32を備える編地を編成する。また、前針床FBでは第2編地領域3の左端に連続する第3編地領域4(他端側領域)の右端で重ね目による減らしを行う一方、後針床BBでは第2編地領域3の右端に連続する第1編地領域2(他端側領域)の左端で重ね目による減らしを行う。後針床BBの各編針により編成された傾斜柄32は、右側に傾斜させていることで、前針床FBの各編針により編成された左側に傾斜する傾斜柄32に対し繋がるようになっている。
【0045】
また、S5の編成においても、前針床FBの各編針および後針床BBの各編針をそれぞれ2組のカムシステムを用い、前針床FBの各編針および後針床BBの各編針に対する給糸を同一の編成コースで個々に行い、S3と同様に第2編地領域3に対応する前針床FBおよび後針床BBの各編針の編目の移動を行う。
【0046】
S4およびS6の編成では、各領域2〜4に対応する前後の針床FB,BBの各編針により編目を形成する際に、それぞれ1ステップ前のS3およびS5の編成での編目の移動により編目が係止されない第2編地領域3の前針床FBの編針と後針床BBの編針とにそれぞれ新たな編目11,12(掛け目)を形成する増やしを行う。つまり、給糸口61,62を左端から右端に移動させて前後の針床FB,BBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目を、空針には掛け目11,12をそれぞれ形成し、それ以降は、給糸口61,62を左端から右端に移動させる編成ステップにおいて、前後の針床FB,BBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目と空針には掛け目を形成することを繰り返す。
【0047】
また、S4およびS6の編成では、第3編地領域4に対応する前後の針床FB,BBの各編針に給糸された編糸R1,R2により引き続き編目を形成し、帽子1の編地の軸線Y方向と平行な編目によりハギ41を編成する。第3編地領域4の右端に対応する前針床FBの編針に重ね目された編目および第1編地領域2の左端に対応する後針床BBの編針に重ね目された編目は、これらのステップでの編成で重ね目に他の編目と同様に形成される編目によって、新たな1つの目が形成される。なお、S4では給糸口61,62を左端から右端に移動させて前後の針床FB,BBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目を形成し、S5では給糸口61,62を右端から左端に移動させて前後の針床FB,BBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目を形成し、それ以降は、給糸口61,62の移動方向を交互に切り換えて前後の針床FB,BBの各編針に係止する編目に続けて新たな編目を形成することを繰り返す。
【0048】
また、S4の編成において第3編地領域4の左端がハギ41の頂点となるため、S5以降では、第3編地領域4の左端における前針床FBおよび後針床BBの双方において2目分(2針分)の編幅を減らしている。
【0049】
以降、同様にステップの編成を繰り返し、給糸口61,62からの編糸R1,R2の色の種類を編成コースの端部においてその単数又は複数の編成コース毎に適宜交換して第1〜第3編地領域2〜4の編地をそれぞれ編成する。
【0050】
しかる後、第1〜第3編地領域2〜4の編地の編成が完了すると、袋状編地形成工程(図示せず)において、前針床FBの各編針に係止する前編地のウェール方向最終端の編目と、後針床BBの各編針に係止する後編地のウェール方向最終端の編目とを伏目処理により接合し、両編地を袋状に形成して帽子1を得る。
【0051】
このように、本実施の形態では、2組のカムシステムを使用することで、前後の針床FB,BBの各編針への編糸R1,R2の給糸を1編成コースで行うことができ、前編地および後編地の編成をそれぞれ個々に行えて編地を効率よく編成することができる。
【0052】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含している。例えば、第2の実施の形態では、第1〜第3編地領域2〜4での編地の往復編成を前針床FBの各編針および後針床の各編針にそれぞれ給糸される給糸R1,R2により行って前編地および後編地をそれぞれ個々に編成したが、第1〜第3編地領域での編地の往復編成が前針床および後針床の各編針にそれぞれ給糸される単一の給糸口からの編糸により前編地および後編地に亘る略C字状の編地が編成されるようにしてもよいのはもちろんである。
【0053】
また、上記各実施の形態では、帽子1を編成する編成方法について述べたが、巾着などの袋状の編地を編成する場合にも適用できるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1 帽子(袋状の編地)
10 編出し部
2 第1編地領域
3 第2編地領域(寄せ領域)
32 傾斜柄
4 第3編地領域(他端側領域、一方の領域)
41 ハギ
A1 編出し工程
A3 傾斜柄編成工程
A4 ハギ部編成工程
FB 前針床
BB 後針床
K1,K2,R1,R2 編糸
X 領域
Y 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の編針を進退摺動可能に設けた針床がその歯口部分を近接させた状態で前後に少なくとも一対設けられ、この前後の針床が左右に相対移動可能に構成された横編機を用いて編成する袋状の編地の編成方法であって、
上記前後の針床の各編針への給糸により上記袋状の編地の周方向と直行する軸線方向に編出し部を編成する編出し工程と、
上記編出し工程の編出し部の編目に続けて編地を編成する際に、上記前後の針床のうちの少なくとも一方の針床の各編針への給糸により往復編成される編地の領域において軸線方向で3つの領域に区分し、その中央の位置に寄せを行う寄せ領域を定め、この寄せ領域での軸線方向他端側への寄せによりウェール方向に連続する柄を傾斜させるとともに、上記寄せ領域の軸線方向一端で増やしを行いかつその軸線方向他端に連続する他端側領域で減らしを行って傾斜柄を備える編地を編成する傾斜柄編成工程と、
上記編地の領域のうちの寄せ領域に連続するいずれか一方の領域において上記傾斜柄を備える編地を閉塞する複数枚のハギを編成しつつ当該各ハギでのウェール方向の始端および終端の編目同士を接合するハギ部編成工程と、
上記各工程において上記前後の針床により編成されたウェール方向最終端の編目同士を接合し、編地を袋状に形成する袋状編地形成工程と、
を備えていることを特徴とする袋状の編地の編成方法。
【請求項2】
上記袋状編地形成工程では、上記傾斜柄編成工程において上記前後の針床のいずれか一方の針床の各編針への給糸により往復編成されたウェール方向最終端の編目と、上記他方の針床により編成された編出し部の編目とを接合している請求項1に記載の袋状の編地の編成方法。
【請求項3】
上記袋状編地形成工程では、上記傾斜柄編成工程において上記前後の針床の各編針への給糸により往復編成されたウェール方向最終端の編目同士を接合している請求項1に記載の袋状の編地の編成方法。
【請求項4】
上記傾斜柄編成工程の寄せ領域でのウェール方向に連続する柄は、上記袋状編地形成工程において編地が袋状に形成された際に前側に位置する編地および後側に位置する編地の双方に跨るように編成されている請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の袋状の編地の編成方法。
【請求項5】
複数の編針を進退摺動可能に設けた針床がその歯口部分を近接させた状態で前後に少なくとも一対設けられ、この前後の針床が左右に相対移動可能に構成された横編機を用いて編成された袋状の編地であって、
上記前後の針床の編針への給糸により周方向と直行する軸線方向に編成された編出し部の編目に続けて上記前後の針床のうちの少なくとも一方の針床の各編針への給糸により往復編成される編地の領域において軸線方向で3つに区分した領域の中央の位置で寄せを行うように定めた寄せ領域での軸線方向他端側への寄せによりウェール方向に連続する柄を傾斜させるとともに当該寄せ領域の軸線方向一端で増やしを行いかつその軸線方向他端に連続する他端側領域で減らしを行って傾斜柄を備える編地を編成し、上記編地の領域のうちの寄せ領域に連続するいずれか一方の領域において上記傾斜柄を備える編地を閉塞する複数枚のハギを編成しつつ当該各ハギでのウェール方向の始端および終端の編目同士を接合し、上記前後の針床により編成されたウェール方向最終端の編目同士を接合して袋状に形成されていることを特徴とする袋状の編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31545(P2012−31545A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173588(P2010−173588)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】