説明

袖付き衣服及び袖付き衣服用型紙

【課題】衣服全体のバランスを考えれば袖付け角度を大きくするのにも限界があるので、袖付け角度を大きくしたとしても上肢の上げ難さはさほど改善されないのに、袖幅が必要以上に広くなる上に身頃の体側部分もだぶついてしまい、本来、求めていた、袖取付部を含む衣服全体の形、所謂、シルエットが美しく見えるようにすることができなくなってしまう。
【解決手段】袖の袖山を、袖山点と袖幅線の両端とを結ぶ袖山斜線に基づく袖山曲線により形成し、身頃の袖ぐりに合わせて縫い付けた袖付き衣服において、袖12に、袖山曲線aの袖内外切替点rから袖付け角度に応じて引き出した袖山調整線hに基づき、袖山16の袖内側部分を袖取り付け方向に拡張する袖付け調整部17を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、袖付き衣服及び袖付き衣服用型紙に関し、特に、身頃の袖ぐり(アームホール)に袖の袖山を合わせて身頃に袖を縫い付けた袖付き衣服、及びこの袖付き衣服を作成するために服地を各構成部分に裁断する際に用いる袖付き衣服用型紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、身頃の前部である前身頃と後部である後身頃の間に開けられた袖ぐりに対応して、袖の身頃取り付け端となる袖山を形成し、袖ぐりに袖山を合わせて縫い付けることにより、身頃に対し袖を取り付けた袖付き衣服が知られている。
このような袖付き衣服を作成する場合、型紙(パターン)に合わせて服地を裁断し袖付き衣服を形作る各構成部分(パーツ)を切り出すが、型紙において、袖ぐりは、袖丈を決定する袖山点と袖幅線の両端とを結ぶ前袖ぐり寸法と後ろ袖ぐり寸法に基づく斜線により形成され、袖山の高さは袖付け角度の違いにより変化する。
【0003】
袖の身頃に対する取り付け角度である袖付け角度は、上肢を体側に沿って略真下に下ろした状態を0度とし、上肢を体側から略水平に突出させた状態を90度とするが、袖付け角度が0度のとき袖山の高さは高くなり、袖付け角度が90度のとき袖山の高さは低くなる(非特許文献1参照)。
従って、袖付け角度を0度とすれば、上肢を体側に沿って略真下に下ろした静立時に袖取付部を含む衣服全体の形、所謂、シルエットが美しく見えるようにすることができるので、通常、基本的姿勢である静立状態を基準にして、袖付き衣服(例えば、ジャケット)が作成されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】文化服装学院編、「文化ファッション大系 服飾造形講座1 服飾造形の基礎」、第1版、文化服装学院 教科書出版部、2001年4月1日、p235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の袖付き衣服において身頃への袖の取り付けは、袖付け角度を0度とした状態、即ち、静立状態を基準にしているので、上肢を体側から略水平に突出させた状態にすべく上肢を上げようとすると、上肢を上げるのに伴って袖取付部で上方回動しようとする袖につられて身頃の脇下部分も一緒に引っ張り上げられてしまう。その結果、上肢を上げるのが容易でないばかりでなく、身頃の裾(例えば、ジャケットのウエストライン部分)がせり上がった状態になってしまうのが避けられず、シルエットの美しさを保つことができなかった。
【0006】
そこで、上肢を上げても、それにつられて身頃の脇下部分が引っ張り上げられることがないように、袖付け角度を大きく、即ち、0度以上にすると、角度が大きくなるに連れて袖山の高さは低くなり、それに伴い袖幅も広くなる。袖幅が広くなれば、当然、袖ぐりも大きくなるので、必然的に身頃の体側部分が広がることになる。
この結果、衣服全体のバランスを考えれば袖付け角度を大きくするのにも限界があるので、限界がある中で袖付け角度を大きくしたとしても上肢の上げ難さはさほど改善されないのに、袖幅が必要以上に広くなる上に身頃の脇下部分もだぶついてしまい、本来、求めていた、袖取付部を含む衣服全体の形、所謂、美しいシルエットを形成することができなくなってしまう。
【0007】
この発明の目的は、袖幅が必要以上に広くならず身頃の脇下部分もだぶつくことなく上肢を上げ易くして、上肢を上げたときに身頃の裾のせり上がりを極力少なくした袖付き衣服及び袖付き衣服用型紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明に係る袖付き衣服は、袖の袖山を、袖山点と袖幅線の両端とを結ぶ袖山斜線に基づく袖山曲線により形成し、身頃の袖ぐりに合わせて縫い付けた袖付き衣服において、前記袖に、前記袖山曲線に設けた前袖ぐり線と後袖ぐり線の袖内外切替点から袖付け角度に応じて引き出した袖山調整線に基づき、前記袖山の袖内側部分を袖取り付け方向に拡張する袖付け調整部を設けたことを特徴としている。
【0009】
上記目的を達成するため、この発明に係る袖付き衣服用型紙は、袖の袖山を、袖山点と袖幅線の両端とを結ぶ袖山斜線に基づく袖山曲線により形成し、身頃の袖ぐりに合わせて縫い付けた袖付き衣服を作成する際に用いる、袖付き衣服用型紙において、前記袖を形成する袖部分を型取る袖型紙に、前記袖山曲線に設けた前袖ぐり線と後袖ぐり線の袖内外切替点から袖付け角度に応じて引き出した袖山調整線に基づき、前記袖山の袖内側部分を袖取り付け方向に拡張する袖付け調整部を設けたことを特徴としている。
【0010】
また、この発明の他の態様に係る袖付き衣服用型紙は、前記袖山調整線が、身頃型紙の袖ぐり線に基づき引かれた袖山線に、袖丈寸法から求めた袖山高さに基づく袖山点を設け、前記袖山線上に、前記袖山点から6対4に分ける位置を通る内外切替線を引いて、前記袖ぐり線が交差する位置を前記袖内外切替点とし、前記袖内外切替点から、前記袖ぐり線に対し所定の袖付け角度で、前記袖ぐり線の上方に引き出されることを特徴としている。
【0011】
また、この発明の他の態様に係る袖付き衣服用型紙は、前記袖付け角度を、0度から75度の範囲に設定することを特徴としている。
また、この発明の他の態様に係る袖付き衣服用型紙は、前記袖型紙が、前記袖山曲線に基づき形成される袖外側部分を作成するための外袖型紙と、前記袖付け調整部を設ける前記袖山曲線に基づき形成される袖内側部分を作成するための内袖型紙からなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、袖の袖山を、袖山点と袖幅線の両端とを結ぶ袖山斜線に基づく袖山曲線により形成し、身頃の袖ぐりに合わせて縫い付けた袖付き衣服が、前記袖に、前記袖山曲線に設けた前袖ぐり線と後袖ぐり線の袖内外切替点から袖付け角度に応じて引き出した袖山調整線に基づき、前記袖山の袖内側部分を袖取り付け方向に拡張する袖付け調整部を設けたので、袖幅が必要以上に広くならず身頃の脇下部分もだぶつくことなく上肢を上げ易くして、上肢を上げたときに身頃の裾のせり上がりを極力少なくした袖付き衣服とすることができる。
また、この発明に係る袖付き衣服用型紙を用いることにより、上記袖付き衣服を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施の形態に係る袖付き衣服の着衣時における静立状態を示す説明図である。
【図2】図1の袖付き衣服の着衣時における側挙状態を示す説明図である。
【図3】図1の袖付き衣服の袖に設けられる袖付け調整部を袖型紙において示す説明図である。
【図4】図1の袖付き衣服の袖を作成する際に用いる袖型紙の形成方法を示す説明図である。
【図5】袖を内袖と外袖の二枚袖構成により作成する場合の袖型紙を示す説明図である。
【図6】図1の袖付き衣服との違いを説明するための比較例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係る袖付き衣服の着衣時における静立状態を示す説明図であり、図2は、図1の袖付き衣服の着衣時における側挙状態を示す説明図である。
図1及び図2に示すように、袖付き衣服10は、人体上半部を覆う上着としての、例えば、ジャケットであり、胴体を包む身頃11と、身頃11の両側に腕を包む袖12を有している。身頃11の首周りには襟13が取り付けられており、身頃11の前あきはボタン14で閉じることができる。
【0015】
身頃11は、前身頃と後身頃(図示しない)の間の側部上方に開けられた袖ぐり(アームホール)15を有しており、身体の線に合わせて脇下部分にだぶつきがないように、胴部にフィットさせて形成されている。
袖12は、腕の線がすっきりと出るように腕にフィットさせて形成されており、身頃11への取り付け端部となる袖山16を、袖ぐり15に合わせて縫い付けることにより、身頃11に取り付けられている。
【0016】
身頃11に取り付けられる袖12は、袖付き衣服10の着用状況、即ち、衣服を着用する場所や目的等に応じて袖付け角度が異なり、袖付け角度は、袖ぐり15に対応する袖山16の高さによって決定されるが、この袖付き衣服10にあっては、袖12の袖ぐり15下側部分に位置する袖内側部分に、袖内側部分を袖丈方向に拡張する袖付け調整部が設けられている。
【0017】
図3は、図1の袖付き衣服の袖に設けられる袖付け調整部を袖型紙において示す説明図である。図3に示すように、袖付け調整部17は、袖12を作成する際に用いられる袖型紙(袖付き衣服用型紙)18において、袖ぐり15の深さに対応する袖山16の高さに基づいて描かれた袖山曲線aの、袖内側部分となる内側袖山下底線a1を上方へ移動させることにより、内側袖山下底線a1を上方へ移動させなかった場合(想像線参照)との間で形成される領域である。袖付け調整部17を設けることにより、袖山曲線aの終端pは、袖付け調整部17を設けない場合の袖山曲線aの終端p0に比べ、若干外側へ膨らんだ状態で上方へと移動することになる。このため、袖山曲線aの終端pにより決定される袖丈を長くして、袖山16の袖内側部分を袖取り付け方向に拡張することができる。
【0018】
この袖付け調整部17を設けたことにより、腕の上下左右回動支点となる腋窩近傍に位置する袖内側部分(即ち、袖12の下端側)を腋窩にできる限り近づけて、腕上方回動時の袖12の長さを十分確保することができる。この結果、側挙状態(図2参照)にするための袖12の上方回動が容易にできると共に、袖12と一体的に連動する身頃11の脇下部分が袖12の上方回動と一緒に引っ張り上げられることがなく、身頃11の下端(即ち、身頃裾、図2参照)11aが引き吊られて上がってしまうことが無い。
つまり、袖幅が必要以上に広くならず身頃11の脇下部分もだぶつくことなく上肢を上げ易くして、上肢を上げたときに身頃11の裾のせり上がりを極力少なくすることができる。
【0019】
従って、袖付き衣服10は、着衣時、上肢を体側に沿って略真下に下ろした静立状態(図1参照)において、袖取付部を含む袖付き衣服10全体の形、所謂、美しいシルエットを形成することができるばかりでなく、上肢の上げ下げをストレス無く容易に行うことができるのに加え、袖12を上げるのに伴って身頃11の下端11aが引き吊られることもないので、上肢を体側から略水平に突出させた側挙状態(図2参照)を含む動作状態においても、袖付き衣服10全体に美しいシルエットを形成することができる。
【0020】
次に、袖付け調整部17を設けた袖付き衣服10の具体的な作成方法を説明する。
図4は、図1の袖付き衣服の袖を作成する際に用いる袖型紙の形成方法を示す説明図である。
袖型紙18を形成する場合、先ず、図4に示すように、袖丈寸法を求めて、求めた袖丈寸法から袖山高さを決定した後、身頃型紙の袖ぐり線bを写し取り、袖ぐり底を通る横直線からなる袖幅線cと、袖ぐり底を通り袖幅線cと直交する縦直線からなる袖山線dを引く。袖幅線cと、略垂直に延びる袖山線dの交点oは、袖を前部分と後部分とに分ける基点となる。
【0021】
この袖山高さは、サイズ変動に対応して、身頃の袖ぐり寸法(前袖ぐり寸法と後ろ袖ぐり寸法を加えた寸法)を2.7〜3.3の係数で割った値とする。2.7〜3.3の係数は、上腕周り(最大太さ部分)長さが標準の場合を3として、細い場合は2.7〜2.9、太い場合は3.1〜3.3とし、必要に応じて適宜調整する。
次に、求めた袖山高さから、袖山線d上の袖幅線cが決定され、その袖山線dの頂上点を袖山点eとする。
【0022】
次に、前袖ぐり寸法と後袖ぐり寸法を求めて、袖山点eから袖幅線cの両側へ前後それぞれの袖ぐり寸法に対応する長さの袖山斜線fを引く。袖山線dの袖山点eから袖幅線cまでの長さが袖山高さになり、前後それぞれの袖山斜線fの間の袖幅線cが袖幅となる。
次に、袖山線d上の袖山高さを袖山点eから、例えば6対4に分ける位置を通り、袖幅線cに平行な横直線からなる内外切替線gを引き、内外切替線gと前後それぞれの袖山斜線fが交差する袖内外切替点rを求める。この袖内外切替点rが、袖12の内側(下側)部分(図中、a1参照)と外側(上側)部分(図中、a2参照)との切り替え点となる。
【0023】
その後、図3に示すように、前後それぞれの袖山斜線fの袖内外切替点rを境に、袖山点e側に、袖山斜線fに対し凸曲線からなり袖外側を形成する外側袖山曲線a2を形成し、終端p側に、袖山斜線fに対し凹曲線からなり袖内側を形成する内側袖山下底線a1を形成するが、内側袖山下底線a1を形成するに際し、袖付け調整部17を設けるために袖山調整線hを用いた袖山調整処理を行う。
【0024】
袖山調整処理は、前後それぞれの袖山斜線fの袖内外切替点rから終端pに向かって、袖山斜線fに対し、例えば、15度から45度の袖付け角度で、袖山斜線fの上方に袖山調整線hを引き、この袖山調整線hに対し凹曲線からなり袖内側を形成する内側袖山下底線a1を形成する。
つまり、袖付き衣服10の袖山曲線aは、袖山斜線fに基づき形成された袖外側を形成する外側袖山曲線a2と、袖山斜線fに変えて、袖付け角度が付加された袖山調整線hに基づく内側袖山下底線a1の、二種類の曲線により形成されている。
【0025】
袖付け角度は、袖付き衣服10着用時に想定される上肢の上がり角度によって調整され、例えば、袖付け角度を15度、30度、45度の三種類とし、上肢の上がり角度が体側に対し90度である場合は袖付け角度を15度とし、同様に、上がり角度105度で袖付け角度30度、上がり角度120度で袖付け角度45度とする。この袖付け角度は、これに限るものではなく、上肢の上がり角度60度から135度に対応して0度から75度まで設定することができる。
【0026】
上述したように、袖山調整処理を行い、袖ぐり15の深さに対応する袖山16の高さに基づいて描かれた袖山曲線aの、袖内側部分となる内側袖山下底線a1を上方へ移動させる、袖山16の袖内側部分を袖取り付け方向に拡張する袖付け調整部17を設けたことにより、袖山曲線aの終端pにより決定される袖丈が長くなり、袖内側部分の凹みが浅くなる。
【0027】
よって、袖12の身頃11取付部分において、袖12の太さを太く(袖幅を広く)することなく、即ち、袖山16の高さを必要以上に高くすることなく、袖12(袖山16)の身頃11(袖ぐり15)への取り付け位置を、腋窩にできる限り近づけることが可能になるので、例えば、舞台用衣装のように、身頃11及び袖12をタイトに形成してスタイルを強調しつつ、袖12の動きとゆとりを確保して演技上の必要に応じた袖12の激しい動きも可能になる。
なお、袖12は、図3の袖型紙18からの応用で内袖と外袖の二枚袖構成により作成することができる。
【0028】
図5は、袖を内袖と外袖の二枚袖構成により作成する場合の袖型紙を示す説明図である。袖12を、内袖と外袖の二枚袖構成により作成する場合は、図5に示すように、一枚の袖型紙18(図3参照)を、袖山曲線が内側袖山下底線a1(a1−1とa1−2)からなる内袖型紙19と、袖山曲線が外側袖山曲線a2からなる外袖型紙20の二枚とし、それぞれの型紙19,20を用いて内袖部分と外袖部分を作成すればよい。この場合、袖12全体における外袖部分と内袖部分の幅寸法割合を、例えば、6(外袖)対4(内袖)とし、外袖部分の幅寸法割合は、内袖幅を下回らないようにする。
【0029】
また、袖内外切替点rで裁断された、内側袖山下底線a1−1からなる内袖前部分と、内側袖山下底線a1−2からなる内袖後部分とを、終端pを一致させた状態で縫い付け、一枚の続きパターンの内袖を形成する。このとき、内袖前部分と内袖後部分の接合部分(図5中、二重丸参照)となる、終端pを通る線は、内袖前部分と内袖後部分を続きパターンとするため、直線とする。なお、図中、袖山点e及び袖山曲線aの終端pは、一枚袖構成(図3参照)における袖山点e及び袖山曲線aの終端pに対応するものである。
ここで、上記構成を有する袖付き衣服10と袖付け調整部17を設ける袖山調整処理を行わない袖付き衣服との違いを説明する。
【0030】
図6は、図1の袖付き衣服との違いを説明するための比較例を示す説明図である。
この発明に係る袖付き衣服10とは異なり、袖付け調整部17を設ける袖山調整処理を行わない袖付き衣服21の場合、図6に示すように、着衣時、上肢を体側から上方へ上げようとすると、十分に上げきらない上げ始めであっても、上肢を上げるのに伴って袖取付部で上方回動しようとする袖22につられて身頃23の体側(脇)部分も一緒に引っ張り上げられてしまう。
このため、上肢を上げるのが容易でないばかりでなく、身頃23の下端(裾)23a、即ち、袖付き衣服21のヘム(裾)ライン部分(図6、横線参照)が、上肢を体側に沿って略真下に下ろした静立時(図6、右袖参照)に比べ、極端に上方へとせり上がった状態(図6、左袖参照)になってしまうのが避けられなかった。
【0031】
これに対し、この発明に係る袖付き衣服10(図1,2参照)にあっては、袖付け調整部17を設ける袖山調整処理を行っているので、上肢の上方回動時においても、袖12の袖内側部分の長さを十分確保すると共に、袖12(袖山16)の身頃11(袖ぐり15)への取り付け位置を腋窩にできる限り近づけているので、袖12を上げるのが容易にでき、また、袖12を上げるのに伴って身頃11が引き吊られて上がってしまうことを極力防止することができる。
従って、身頃11の下端11a、即ち、袖付き衣服10のヘムライン部分は、上肢を上方へ回動した側挙時にも上方へとせり上がることは無く、上肢を体側に沿って略真下に下ろした静立時(図1参照)と比べても、殆ど変化しない状態(図2参照)になっている。
【0032】
このように、袖付き衣服10は、袖付け調整部17を設ける袖山調整処理を行うことにより、袖幅が必要以上に広くならず身頃の脇下部分もだぶつくことなく上肢を上げ易くして、上肢を上げたときに身頃の裾のせり上がりを極力少なくした袖付き衣服、即ち、上肢を体側に沿って略真下に下ろした静立状態(図1参照)或いは上肢を体側から略水平に突出させた側挙状態(図2参照)に、自由に変化させることができると共に、肩先から上腕部迄の袖12の外側部分がなだらかな山形線により描かれた美しいラインを保持しつつ、上方回動しようとする袖12につられて身頃11の脇下部分も一緒に引っ張り上げられてしまい、身頃11の裾がせり上がった状態になってしまうことがないように、袖12が身頃11に取り付けられている袖付き衣服、とすることができる。
【0033】
また、この発明に係る袖型紙18(内袖型紙19、外袖型紙20)を用いて袖付き衣服を形成することにより、袖付け調整部17を設ける袖山調整処理を行った、袖取付部を含む衣服全体の形が美しく見える状態を保持しつつ上肢を上げ易くして、着易さと機能性を備えた袖付き衣服10を形成することができる。
なお、この発明に係る袖付き衣服10は、上記実施の形態において例示したジャケットに限るものではなく、例えば、インナーTシャツや袖付線がデザイン変化したもの等、身頃に袖が取り付けられている形態の袖付き衣服であれば、適応することができる。
【符号の説明】
【0034】
10,21 袖付き衣服
11,23 身頃
11a,23a 下端
12,22 袖
13 襟
14 ボタン
15 袖ぐり
16 袖山
17 袖付け調整部
18 袖型紙
19 内袖型紙
20 外袖型紙
a 袖山曲線
a1,a1−1,a1−2 内側袖山下底線
a2 外側袖山曲線
b 袖ぐり線
c 袖幅線
d 袖山線
e 袖山点
f 袖山斜線
g 内外切替線
h 袖山調整線
p 終端
r 袖内外切替点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
袖の袖山を、袖山点と袖幅線の両端とを結ぶ袖山斜線に基づく袖山曲線により形成し、身頃の袖ぐりに合わせて縫い付けた袖付き衣服において、
前記袖に、前記袖山曲線の袖内外切替点から袖付け角度に応じて引き出した袖山調整線に基づき、前記袖山の袖内側部分を袖取り付け方向に拡張する袖付け調整部を設けたことを特徴とする袖付き衣服。
【請求項2】
袖の袖山を、袖山点と袖幅線の両端とを結ぶ袖山斜線に基づく袖山曲線により形成し、身頃の袖ぐりに合わせて縫い付けた袖付き衣服を作成する際に用いる、袖付き衣服用型紙において、
前記袖を形成する袖部分を型取る袖型紙に、前記袖山曲線の袖内外切替点から袖付け角度に応じて引き出した袖山調整線に基づき、前記袖山の袖内側部分を袖取り付け方向に拡張する袖付け調整部を設けたことを特徴とする袖付き衣服用型紙。
【請求項3】
前記袖山調整線は、
身頃型紙の袖ぐり線に基づき引かれた袖山線に、袖丈寸法から求めた袖山高さに基づく袖山点を設け、前記袖山線上に、前記袖山点から6対4に分ける位置を通る内外切替線を引いて、前記袖ぐり線が交差する位置を前記袖内外切替点とし、前記袖内外切替点から、前記袖ぐり線に対し所定の袖付け角度で、前記袖ぐり線の上方に引き出されることを特徴とする請求項2に記載の袖付き衣服用型紙。
【請求項4】
前記袖付け角度を、0度から75度の範囲に設定することを特徴とする請求項2または3に記載の袖付き衣服用型紙。
【請求項5】
前記袖型紙は、
前記袖山曲線に基づき形成される袖外側部分を作成するための外袖型紙と、前記袖付け調整部を設ける前記袖山曲線に基づき形成される袖内側部分を作成するための内袖型紙からなることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の袖付き衣服用型紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144823(P2012−144823A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4920(P2011−4920)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(511011702)
【出願人】(511011713)
【Fターム(参考)】