説明

袖付き衣類

【課題】腕を下げたときの生地のだぶつきをなくすとともに、腕を上げたときの引きつれ現象及び身頃の裾のずれ上がりを緩和することができる袖付き衣類を提供すること。
【解決手段】両側脇部にアームホール3が形成された身頃生地1と、この身頃生地1の両側のアームホール3に根本側を接合された袖生地2とを有しており、前記アームホール3の上端の形成位置3a及び3cが基準のアームホール4の上端の形成位置4a及び4cと同等位置に形成されているが、前記アームホール3の下端の形成位置3bが、基準のアームホール4の下端の形成位置4bよりも上側に上げて形成されていると共に、前記アームホール3の周長が基準のアームホール4の周長と等しくなるように前記下端を上側に上げて形成された前記アームホール3の輪郭形状又は曲率を、基準のアームホール4の輪郭形状又は曲率から変化させて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袖付き衣類、特にラグラン袖付き衣類の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、袖付き衣類を着用した状態で腕を上げると衣類の脇下部に引きつれ現象が生じる傾向がある。
この引きつれ現象を緩和する方法として、従来、身頃生地の脇幅を広くして脇ぐり(アームホール)の周囲長を大きくし、これに対応して、袖生地の袖幅を広くして取付部の周囲長を大きくしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、従来、別の方法として、袖生地の袖下長さを長くしたものが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−95809号公報
【特許文献2】特開2006−283214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のものは、脇幅の増加分だけ身頃の胴回りが大きくなって脇下部に身頃生地のだぶつきが発生する欠点があり、袖幅についても同様にだぶつく欠点があった。
また、特許文献2のものは、腕を下げた時、袖生地の袖下長さを長くした分だけ脇下部に生地のだぶつきが発生する欠点があった。
【0006】
本発明は、従来技術の上記欠点を克服し、腕を下げたときの生地のだぶつきをなくすとともに、腕を上げたときの引きつれ現象を緩和し、身頃の裾のずれ上がりを防止することができる袖付き衣類を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明は、両側脇部にアームホールが形成された身頃生地と、この身頃生地の両側のアームホールに根本側を接合された袖生地とを有しており、前記アームホールの上端の形成位置が基準のアームホールの上端の形成位置と同等位置に形成されているが、前記アームホールの下端の形成位置が、基準のアームホールの下端の形成位置よりも上側に上げて形成されていると共に、前記アームホールの周長が基準のアームホールの周長と等しくなるように前記下端を上側に上げて形成された前記アームホールの輪郭形状又は曲率を、基準のアームホールの輪郭形状又は曲率から変化させて形成されていることを特徴としている。
【0008】
この構成によれば、アームホールの下端の形成位置を基準のアームホールの下端の形成位置よりも上側に上げたことによって、衣類着用状態で腕を上げる時及び上げた時の脇下部における引きつれ現象と身頃の裾のずれ上がりが緩和され、腕を上げやすくなるという機能を達成することができる。しかも、アームホールの周長を基準のアームホールの周長と等しくなるようにアームホールの輪郭形状又は曲率を、基準のアームホールの輪郭形状又は曲率から変化させて形成させていることによって、生地の使用量を増やすことなく上記した機能を達成することができるため、腕を下げた時の生地のだぶつきをなくすことができ、脇下部に違和感を与えることもないため、着心地を向上させることができる。
【0009】
また、前記身頃生地の両側のアームホールに根本側を接合された袖生地は、袖山の高さが、基準の袖山の高さより低く形成されていると共に、この低く形成された袖山を含む袖山線の長さが、基準の袖山線の長さと等しくなるように前記低く形成された袖山を含む袖山線の輪郭形状又は曲率を、基準の袖山線の輪郭形状又は曲率から変化させて形成されていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、袖生地の袖山の高さを低くしたことによって、身頃生地に対する袖生地の取付角度を上向きに増加させることができ、衣類着用状態で腕を上げる時及び上げた時の脇下部における引きつれ現象が緩和され、腕を上げやすくなるという機能を達成することができる。しかも、袖山線の長さが、基準の袖山線の長さと等しくなるように前記低く形成された袖山を含む袖山線の輪郭形状又は曲率を、基準の袖山線の輪郭形状又は曲率から変化させて形成してあることによって、身頃生地のアームホールへの袖生地の根本側の接合時、たるみやしわよりのない状態で接合することができ、これによって、身頃生地と袖生地とを美麗に接合することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腕を下げたときの生地のだぶつきをなくすとともに、腕を上げたときの引きつれ現象及び身頃の裾のずれ上がりを緩和することができる袖付き衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る袖付き衣類の前後の身頃生地の側部展開平面図である。
【図2】本発明に係る袖付き衣類の袖生地の側部展開平面図である。
【図3】(A)(B)は袖付き衣類における基準のアームホールと本発明に係るアームホールとの下端形成位置と輪郭形状のイメージ比較図である。
【図4】(A)(B)は袖付き衣類の身頃生地に対する袖生地の取付状態における基準の取付角度と本発明に係る取付角度とのイメージ比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る袖付き衣類の実施形態を図面を参照して説明する。
本発明に係る袖付き衣類は、図1に示す身頃生地1と図2に示す袖生地2とで構成されるものである。
身頃生地1は、図1に示すように、前身頃生地1aと後身頃生地1bとを有し、これらの両側脇部中心線C1上にアームホール3が形成されている。
【0014】
本発明におけるアームホール(実線)3は、上端の形成位置3a及び3cに示すように、基準のアームホール(鎖線)4の上端の形成位置4a及び4cと同等位置に、また上端の形成位置3cは基準のアームホール(鎖線)4の上端の形成位置4cと同等位置に形成されているが、下端の形成位置3bが基準のアームホール4の下端の形成位置4bよりも上側に上げて形成されている。
【0015】
この上側に上げる寸法h1は、実寸にして、例えば、1〜2cm程度とされ、1cm以下では、本発明の所期の目的を達成するのに不十分であり、2cm以上では、衣類着用時における人体脇下部への食い込み違和感を発生させる不具合がある。なお、この寸法h1は、基準のアームホール4の周長及び形成位置が人体フィット型のラグラン袖付き衣類の標準的な規格サイズに対するものであり、基準のアームホール4の縦方向寸法に対して5〜15%程度に設定しておくのが好ましい。
【0016】
このように、アームホール3の上端の形成位置3aを基準のアームホール4の上端の形成位置4aと同等位置とし、またアームホール3の上端の形成位置3cを基準のアームホール4の上端の形成位置4cと同等位置とし、下端の形成位置3bを基準のアームホール4の下端の形成位置4bよりも単に上側に上げると、理論上、アームホール3の周長が基準のアームホール4の周長よりも短くなる。
そこで、本発明におけるアームホール3は、その周長を基準のアームホール4の周長と等しくなるように形成するものである。
【0017】
そのための具体例として、本発明のアームホール3は、基準のアームホール4に対して、輪郭形状を部分的又は全体的に変化させるか、又は、曲率を部分的又は全体的に変化させることによって、理論上、短くなる分を、同等の周長となるように補正させているものである。具体的には、図3(A)に示すように、基準のアームホール4の輪郭形状が縦方向に細長い逆しの字状であるのに対して、本発明のアームホール3の輪郭形状は、図3(B)に示すように、縦方向長さが短くなり、その分横方向に太くなった、丸みを帯びた逆しの字状となっている。
【0018】
即ち、本発明に係る袖付き衣類は、両側脇部にアームホール3が形成された身頃生地1と、この身頃生地1の両側のアームホール3に根本側を縫着、接着、融着等で接合された袖生地2とを有しており、前記アームホール3の上端の形成位置3a及び3cが基準のアームホール4の上端の形成位置4a及び4cと同等位置に形成されているが、前記アームホール3の下端の形成位置3bが、基準のアームホール4の下端の形成位置4bよりも上側に上げて形成されていると共に、前記アームホール3の周長が基準のアームホール4の周長と等しくなるように前記下端を上側に上げて形成された前記アームホール3の輪郭形状又は曲率を、基準のアームホール4の輪郭形状又は曲率から変化させて形成されているものである。
【0019】
なお、前記基準のアームホール4とは、人体フィット型のラグラン袖付き衣類の身頃生地の定型(生地の裁断や設計等のために形成された基準の型紙や原型)に形成されているアームホールを意味するものであって、その周長並びに上端の形成位置4a、4c及び下端の形成位置4bについても、上記定型上で設定されているものを意味するものである。この定型は、衣類の身頃生地の規格サイズ(例えば、S、M、L等のサイズ)毎にアームホール4の周長、形成位置が設定されており、本発明においても、これらの規格サイズに対応させるものであることは勿論である。
【0020】
また、前記身頃生地1の両側のアームホール3に根本側を接合される袖生地2は、図2に示すように、袖山5の高さが、基準の袖山6の高さより所定寸法h2だけ低く形成されている。
この場合、袖山線(実線)5aと5bの長さの和は、理論上、袖山5の高さを低くした所定寸法h2に相当する分だけ基準の袖山線(鎖線)6aと6bの長さの和よりも短くなってしまう。
【0021】
そこで、本発明は、低く形成された袖山5を含む袖山線5aと5bの長さの和を、基準の袖山線6aと6bの長さの和と等しくなるように形成するものである。
そのための具体例として、本発明は、前記低く形成された袖山5を含む袖山線5a及び5bの輪郭形状又は曲率を、基準の袖山線6a及び6bの輪郭形状又は曲率に対して部分的又は全体的に変化させて、袖山線5aと5bの長さの和と袖山線6aと6bの長さの和が同じになるよう補正させているものである。
【0022】
このように、袖生地2の袖山5を基準の袖山6よりも低く形成しておくと、この袖生地2の根本側を身頃生地1のアームホール3に接合した際、図4(A)(B)に示すように、身頃生地1に対する袖生地2の取付角度α2を基準の袖山6の取付角度α1に比べて上向きに増加させることができる。
なお、袖生地2を身頃生地1のアームホール3に接合するに当たっては、図2に示す展開形状の袖生地2の同図左右両側の端部2a、2bを互いに重ねて接合して筒状とし、該端部2a、2bの接合部分を袖下として身頃生地1のアームホール3に接合するものである。前記袖山線5a及び5bは、展開状態の袖生地2の縦方向中心線C2の両側で対称な形状に形成した場合を例示しており、この縦方向中心線C2を図1の両側脇部中心線C1に合わせて接合されるものである。
【0023】
また、袖山5を低くする所定寸法h2は、大きくするほど、腕を上げ易くできるが、その反面、腕を下げた時に肩部に生じる引きつれ現象が大きくなり、また逆に、小さくするほど、腕を下げた時に肩部に生じる引きつれ現象を少なくできるが、その反面、腕を上げた時に脇下部に生じる引きつれ現象が大きくなって腕を上げ難くなるので、これらを考慮して適宜の寸法に設定するのが好ましく、例えば、前記した定型の衣類の場合では、実寸で約1〜2cm程度とされ、袖山6の高さに対して、5〜15%程度に設定するのが好ましい。
【0024】
本発明に係る袖付き衣類の実施形態は、以上からなるものであるが、本発明は、上記実施形態にのみ制約されるものではなく、適宜、変更して実施することができ、例えば、円筒生地以外のシート状生地から衣類の各パート部分を個別に裁断形成するものに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、インナーシャツ類、パジャマ類、セーター類、その他、各種上着類等の袖付き衣類全般に利用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 身頃生地
2 袖生地
3 本発明のアームホール
4 基準のアームホール
5 本発明の袖山
6 基準の袖山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側脇部にアームホールが形成された身頃生地と、この身頃生地の両側のアームホールに根本側を接合された袖生地とを有しており、前記アームホールの上端の形成位置が基準のアームホールの上端の形成位置と同等位置に形成されているが、前記アームホールの下端の形成位置が、基準のアームホールの下端の形成位置よりも上側に上げて形成されていると共に、前記アームホールの周長が基準のアームホールの周長と等しくなるように前記下端を上側に上げて形成された前記アームホールの輪郭形状又は曲率を、基準のアームホールの輪郭形状又は曲率から変化させて形成されていることを特徴とする袖付き衣類。
【請求項2】
前記身頃生地の両側のアームホールに根本側を接合された袖生地は、袖山の高さが、基準の袖山の高さより低く形成されていると共に、この低く形成された袖山を含む袖山線の長さが、基準の袖山線の長さと等しくなるように前記低く形成された袖山を含む袖山線の輪郭形状又は曲率を、基準の袖山線の輪郭形状又は曲率から変化させて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の袖付き衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214184(P2011−214184A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82498(P2010−82498)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】