説明

被検体情報取得装置および被検体情報取得方法

【課題】保持板により被検体を保持する光音響撮像装置において、被検体周縁部の領域を識別し、測定の定量性を確保する。
【解決手段】被検体を保持する保持板と、計測光を照射された被検体内から伝播する音響波を検出して電気信号に変換する探触子と、電気信号から被検体内の画像を生成する画像処理手段と、被検体のうち保持板と接触していない領域である周縁部に起因する光を検知する光検知手段と、光検知手段の検知結果を用いて、保持板と被検体の接触状態を識別する識別手段を有する被検体情報取得装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体情報取得装置および被検体情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光を使用して断層画像を撮像する技術に関して、これまでに多くの提案がなされており、その中の1つとして特許文献1に光音響断層画像撮像装置(以下、光音響撮像装置とも表記)が開示されている。この装置は、Photo Acoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー)の技術を用いている。光音響撮像装置は、特に皮膚がんや乳がんの診断での有用性が示されており、同診断で従来使用されてきた超音波撮像装置やX線装置、あるいはMRI装置などに代わる医療機器としての期待が高まっている。
【0003】
可視光や近赤外光などの計測光を生体組織に照射すると、生体内部の光吸収物質、特に血液中のヘモグロビンなどの物質が、計測光のエネルギーを吸収して瞬間的に膨張し、音響波を発生させる。この現象を光音響効果といい、発生した音響波を光音響波と呼ぶ。光音響撮像装置では、光音響波を計測することで生体組織の情報を可視化する。この光音響撮像装置の技術により、光エネルギー吸収密度分布、すなわち生体内の光吸収物質の密度分布を定量的に、また3次元的に計測することができる。
【0004】
また光音響撮像装置は、断層画像の撮像に光を用いることで無被爆非侵襲での画像診断が可能なため、患者負担の点で大きな優位性を有している。そこで、繰り返し診断することが難しいX線装置に代わり、乳がんのスクリーニングと早期診断での活躍が期待される。
【0005】
光音響撮像装置では、光音響計測の原理に基づいて、光吸収物質が計測光を吸収した結果生じた光音響波の初期音圧Pを次式(1)で算出する。
【数1】

ここで、Γはグルナイゼン係数であって、体積膨張係数βと音速cの二乗の積を定圧比熱Cで除したものである。Γは被検体によってほぼ一定の値となることが知られている。μは光吸収物質の光吸収係数である。Φは被検体内部の局所領域での光量、すなわち実際に光吸収物質に到達した光量(光フルエンス)である。
【0006】
式(1)によれば、初期音圧分布Pをグルナイゼン係数Γで除することでμとΦの積の分布、すなわち光エネルギー吸収密度分布を算出できる。初期音圧分布Pは、被検体内部を伝播して探触子に到達する光音響波の音圧Pの時間変化を計測することで得られる。
さらに、診断対象である被検体内部の光吸収係数μの分布を算出するためには、被検体内部での光量Φの分布を算出する必要がある。計測光は被検体内部で強く拡散、減衰しながら被検体の深部へと浸達するため、被検体での光減衰量と浸達深度から光吸収物質に実際に到達した光量Φを算出する。
【0007】
被検体の保持距離に対して十分大きな領域に一様な計測光の光量が照射された場合、被検体内部を光が平面波上に伝播すると仮定して境界条件を定めると、被検体内部の光量Φは次式(2)で表される。
【数2】

ここで、μeffは被検体の平均的な有効光減衰係数である。Φは被検体に照射された計測光の光量、すなわち被検体表面での光量である。また、dは被検体表面の計測光照射領域から光音響を発した光吸収物質までの距離である。
【0008】
以上のように、式(1)と式(2)によれば、診断対象である被検体内部の光吸収物質の密度分布を定量的に計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5713356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
保持板により被検体を保持しながら光音響画像を撮像する光音響撮像装置では、保持により被検体の形状が広い範囲で一様に固定されるため、式(2)に従って被検体内部の光量分布を算出することができる。計測光が被検体に入射して強く拡散、減衰を開始する被検体表面の位置を保持板との界面と推定できるため、被検体表面の計測光照射領域から光吸収物質までの距離dを保持板同士の間隙から算出できる。
【0011】
しかしながら、光音響計測位置を2次元的に走査して3次元の光音響画像を撮像する光音響撮像装置において、計測位置によっては被検体の形状が変化し、式(2)の光量分布算出式の境界条件に一致しない場合があった。
【0012】
例えば、乳腺科での乳がん診断の対象は、被検体である乳房の周縁部に相当する。乳房の周縁部では、乳房が保持板から離れて乳房と保持板との間に空隙が存在する。そのため、周縁部では被検体表面の計測光照射領域から光吸収物質までの距離dが保持板の保持間隙とは一致しなくなる。計測光は、乳房と保持板の空隙を進む間、減衰を受けずに高いエネルギーを保ったまま被検体に照射される。そのため、周縁部を識別せずに光量分布の算出(式2)を適用した場合、周縁部とその他の領域では光吸収物質分布の定量性を確保できなくなってしまう。
【0013】
上述の通り、乳がん診断における乳房周縁部のように撮像画像の定量性を欠く領域が存在するが、これまではこの領域を識別する術がなかった。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、保持板により被検体を保持する光音響撮像装置において、被検体周縁部の領域を識別し、測定の定量性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
被検体を保持する保持板と、
計測光を照射された被検体内から伝播する音響波を検出して電気信号に変換する探触子と、
前記電気信号から被検体内の画像を生成する画像処理手段と、
被検体のうち前記保持板と接触していない領域である周縁部に起因する光を検知する光検知手段と、
前記光検知手段の検知結果を用いて、前記保持板と被検体の接触状態を識別する識別手段と、
を有することを特徴とする被検体情報取得装置である。
【0016】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、
保持板が被検体を保持するステップと、
探触子が、計測光を照射された被検体内から伝播する音響波を検出して電気信号に変換するステップと、
画像処理手段が、前記電気信号から被検体内の画像を生成するステップと、
光検知手段が、被検体のうち前記保持板と接触していない領域である周縁部に起因する光を検知するステップと、
識別手段が、前記光検知手段の検知結果を用いて、前記保持板と被検体の接触状態を識別するステップと、
を有することを特徴とする被検体情報取得方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成によれば、保持板により被検体を保持する光音響撮像装置において、被検体周縁部の領域を識別し、測定の定量性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施の形態における光音響撮像システムの構成を示す全体図。
【図2】第1の実施の形態における光音響撮像データの取得方法を説明する概念図。
【図3】第1の実施の形態における被検体周縁部を説明する概念図。
【図4】第1の実施の形態における光分布補正適合領域を説明する概念図。
【図5】第1の実施の形態における光分布補正不適合領域を説明する概念図。
【図6】第1の実施の形態における被検体が存在しない位置を説明する概念図。
【図7】第1の実施の形態における光音響画像の撮像を示すフローチャート。
【図8】第2の実施の形態における光音響撮像システムの構成を示す全体図。
【図9】第2の実施の形態における被検体周縁部の識別方法を説明する概念図。
【図10】第2の実施の形態における被検体周縁部の識別を説明する概念図。
【図11】第2の実施の形態における光音響画像の撮像を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を例示的に説明する。
なお、以下の説明における光音響撮像とは、被検体内から伝播した光音響波を受信し、被検体内の特性に対応する光音響データを取得することを指す。さらに、光音響データを用いて被検体内の特性情報、特に光学特性情報の分布に対応する画像を生成する画像構成処理も、光音響撮像に含め得る。光音響データからは、上述したように初期音圧分布、光エネルギー吸収密度分布、光吸収係数や物質濃度の分布などを算出することが可能であり、これらの情報は被検体の状態を表わす被検体情報と呼ぶこともできる。従って本発明の光音響撮像装置は、被検体情報を取得するための被検体情報取得装置であるとも言える。
【0020】
[第1の実施の形態]
本発明の光音響撮像装置および方法を用いる第1の実施の形態を図に従って説明する。
【0021】
図1は、第1の実施の形態における光音響撮像システムの装置構成の全体図である。
第1の実施の形態における光音響撮装置は、被検体101を保持する保持板102、保持を撮像に好適な状態に制御する保持制御部103、計測光を照射する照射ユニット104、光音響波を検出する光音響波検出ユニット105を含む。さらに、光音響波検出ユニット104が検出した信号を増幅してデジタル信号に変換する光音響計測部106、検出
した光音響波信号の積算処理や記録処理などを行う信号処理部107、計測位置を2次元的に制御する走査制御部110を含む。さらに、外部処理装置としての画像処理装置120からの撮像指示を受け付ける制御部111、そして画像処理装置120とのI/F112を含む。
さらに、本実施の形態における光音響撮像装置は特に、被検体101の周縁部表面により被検体側方へ反射した光を検知する側方光検出部108、本発明の特徴である周縁部識別部109を備える。
【0022】
撮像対象となる被検体101は、乳腺科での診断では乳房である。
なお、本発明の光音響撮像装置は、例えば人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などに用いることができる。従って被検体としては、乳房の他に、人体や動物の手足、指などの診断対象部位が想定できる。
【0023】
保持板102は、102Aと102Bの2枚1対で構成され、保持制御部103により計測に好適な保持間隙に制御される。保持板102Aと102Bを区別する必要がない場合に、まとめて保持板102と表記する。保持板102で被検体101を挟む形で装置に固定することで、被検体101が動くことによる計測誤差を低減することができる。
なお、保持板102は計測光の光路上に位置するため、計測光に対して高い透過率を有することが好ましい。同時に、特に保持板102Bは光音響波の伝播する経路に位置するため、光音響波検出ユニット104内の超音波探触子との音響整合性が高い部材であることが好ましい。また超音波測定用のジェルシートなどの音響整合材を使用することで、超音波探触子と保持板102Bとのより強い音響的結合を得ることができる。
保持部103は、被検者への負担や計測光の浸達深度に合わせて、被検体101の保持状態を光音響撮像に好適な保持間隙と圧力に調整する。
【0024】
照射ユニット104は、被検体101に対して計測光を照射する。照射ユニット104は、530〜1300nmの近赤外領域に中心波長を有するパルス光(幅100nsec以下)を発するレーザ光源からの計測光を被検体に導光する照射光学系と、保持板に対して計測光の照射位置を移動させる移動機構から構成されている。
導光に用いる照射光学系としては、光を反射するミラーや、光を集めたり拡大したり形状を変化させたりするレンズ、光を分散、屈折または反射するプリズム、光を伝播させる光ファイバ、拡散板などが挙げられる。このような光学系は、光源から発せられた光が被検体に所望の形状で照射されれば、どのようなものを用いても構わない。
図示しない光源は、一般的に近赤外領域に中心波長を有するパルス発光が可能な固体レーザ(例えば、Yttrium−Aluminium−GarnetレーザやTitan−Sapphireレーザ)が使用される。
【0025】
なお、計測光の波長は、計測対象とする生体内の光吸収物質(例えばヘモグロビンやグルコース、コレステロールなど)に応じて530nm〜1300nmの間で選択される。
計測対象とする乳がん新生血管中のヘモグロビンは、一般的に600〜1000nmの光を吸収し、一方、生体を構成する水の光吸収が830nm付近で極小となるため750〜850nmで光吸収が相対的に大きくなる。また、ヘモグロビンの状態(酸素飽和度)により光の吸収率が変化するため、この波長依存性を利用することで生体の機能的な変化も計測できる可能性がある。
【0026】
また照射ユニット104内部には、計測光の照射と同期して光音響波信号の記録を制御する為に、計測光を検知するための図示しない光学構成を備える。計測光の検知は、実際に被検体101に照射される計測光の一部をハーフミラーなどの光学系により分割して、その分割光を備える光センサに導光することにより行う。計測光を検知すると、光音響波信号の検出同期信号を光音響波検出ユニット105に伝える。
【0027】
光音響波検出ユニット105は、照射ユニット104から送出される検出同期信号に従って、被検体101の内部で生じて伝播した光音響波を検出して電気信号に変換する。光音響波検出ユニット105は、2次元状に整列された複数の音響素子から構成される超音波探触子と、探触子を保持板に対して走査する走査機構から構成されている。
なお、光音響波とは、音響波のうち光音響効果により発生したものを指す。音響波は一種の弾性波であり、音波とも呼ばれる。音響波は典型的には超音波であり、その場合の光音響波は光超音波とも呼ばれる。
【0028】
本発明において、探触子はどのような方式のものでも用いることができる。例えば、一般的な超音波診断装置で使用されている圧電セラミックス(PZT)を利用した変換素子やマイクロフォン静電容量型の変換素子などが使用される。なお、以下、超音波を計測する探触子を単に探触子と記述する。また、静電容量型のCMUT(Capacitive
Micromachined UltrasonicTransducer)、磁性膜を用いるMMUT(MagneticMUT)なども用いることができる。さらに、圧電薄膜を用いるPMUT(PiezoelectricMUT)なども用いることができる。
【0029】
光音響計測部106は、光音響波検出ユニット105で生成された微弱な光音響波信号を増幅してデジタル信号に変換して、光音響撮像データを構成する1つの光音響データを生成する。光音響計測部106は、光音響波検出ユニット105が出力したアナログ信号を増幅する信号増幅部と、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部から構成される。信号増幅部では、計測深度によらずに均一なコントラストをもつ光音響画像を得るために、計測光の照射から光音響波が探触子に到達する時間に応じて増幅利得を増減する制御などを行う。
【0030】
信号処理部107は、光音響計測部106により計測された光音響波信号に、探触子の音響検出素子の感度ばらつき補正や、物理的または電気的に欠損した素子の補完処理、ノイズ低減のための積算処理、図示しない記録媒体への光音響波信号の記録などを行う。積算処理では、被検体101の同じ位置の計測を繰り返し行い、加算平均処理を行うことでシステムノイズを低減して、光音響波信号のS/N比を向上させることができる。光音響波信号処理により生成された光音響撮像データは、I/F112を介して画像処理装置120に伝送される。また、周縁部識別部109の識別結果に従って、光音響撮像データと併せて周縁部識別情報を記録する。
【0031】
側方光検出部108は、被検体101の周縁部により側方へ反射した側方光を検知する。本実施の形態における側方光検出部108は、被検体101の保持方向と直交する軸に108Aと108Bが配置される。側方光検出部108Aと108Bを区別する必要がない場合に、まとめて側方光検出部108と表記する。本実施形態においては、側方光検出部が、本発明の光検知手段に相当する。
なお、側方光検出部108は、計測光と同じ領域の波長の光のみを検知可能な光学構成とセンサにより構成され、走査制御部110の指示に従って側方光の検知動作を行う。
周縁部識別部109は、側方光検出部108による側方光の検出結果に基づいて、現在の計測位置が被検体周縁部であるかを識別して、識別結果を信号処理部107へ出力する。なお、被検体周縁部の識別方法については後述する。周縁部識別部は、本発明の識別手段に相当する。
【0032】
走査制御部110は、計測位置を保持板上で2次元走査するように照射ユニット104と光音響波検出ユニット105を同時に駆動するとともに、計測光の光軸が探触子の中心と一致するように制御する。計測位置を被検体101に対して2次元走査することで、小
型の探触子でも広い撮像範囲を得ることができ、例えば乳がん診断ではフルブレストの光音響画像の撮像が可能になる。
なお、制御部111からの指示を受けた走査制御部110が光音響撮像動作を制御し、走査制御により好適な計測位置に達すると、到照射ユニット104と側方光検出部108に対してそれぞれ、計測光の照射と側方光の検知動作を指示する。
【0033】
制御部111は、画像処理装置120からの撮像開始指示や各種要求を受け付け、光音響撮像装置全体を管理、制御する。走査制御部110への撮像開始の伝達の他にも、装置個体を識別する識別情報や個体固有に設定される情報の管理、装置の状態の監視、それらの情報の画像処理装置120への伝送などを行う。
【0034】
I/F112は、光音響撮像データと保持状態撮像画像を、外部装置としての画像処理装置120に伝送するためのインターフェース(I/Fと略表記)である。また、画像処理装置120から光音響撮像装置への各種指示を伝送する。I/F112は画像処理装置120のI/F121と共に、光音響撮像装置と画像処理装置120との間のデータ通信を行うインターフェースとして機能する。リアルタイム性を確保でき、かつ大容量の伝送が可能な通信規格を採用することが好ましい。
【0035】
画像処理装置120は、光音響撮像装置から伝送された光音響撮像データに基づいて光音響画像の構成と表示を行う。光音響撮像装置とのI/F121、光音響撮像データから光音響画像を構成する画像構成部122、光音響画像を表示する表示部123、ユーザである検査者が画像処理装置120および光音響撮像装置を操作するための操作部124から構成される。一般にパソコンやワークステーション等の高性能な演算処理機能やグラフィック表示機能を備える装置を用いる。
【0036】
I/F121は、光音響撮像装置のI/F112と同等の機能を有し、I/F112と連携して光音響撮像データや装置の制御指示などの送受信を行う。
画像構成部122は、伝送された光音響撮像データに基づいて、被検体101の光学特性分布の情報を画像化して光音響画像を構成する。また、構成した光音響画像に対して、輝度の調整や歪補正、注目領域の切り出しなどの各種補正処理を適用して、より診断に好ましい情報を構成する。また、ユーザによる操作部124の操作に従って、光音響画像の構成に関するパラメータや表示画像の調整などを行う。画像構成部は、本発明の画像処理手段に相当する。
表示部123は、画像構成部122により構成された光音響画像を表示する。
操作部124は、図示しない画像処理装置の操作ソフトウェア上で、ユーザが光音響撮像の撮像位置の指定、走査範囲の調整など装置の操作や光音響画像に対する画像処理操作を行うための入力装置である。
【0037】
以上の構成を有する光音響撮像システムにより、光音響トモグラフィーの原理に基づいて被検体101を撮像することで、被検体101の光学特性分布を画像化し、光音響画像を提示することができる。なお、図1では画像処理装置120を外部装置として、光音響撮像装置と画像処理装置を別々のハードウェア構成としているが、それぞれが有する機能を集約して一体化する構成でも構わない。
【0038】
図2は、第1の実施の形態における光音響撮像データの取得方法を説明する概念図である。図2(a)は、1回の計測光の照射により計測される光音響データの取得、図2(b)は、計測位置の2次元走査による光音響撮像データの取得方法の例を示している。なお、第2の実施の形態では、撮像範囲は保持板102Bの大きさに一致する例で説明する。
【0039】
照射ユニット104から照射される計測光201の形状は、探触子105を構成する各
音響素子の指向性に光音響波信号強度が依存するため、探触子105の形状と略一致するように2次元的な広がりをもって形成される。計測光201により探触子105の直上に位置する被検体を照明することで、1回の計測光201の照射で、探触子105直上の直方体形状の画像化領域202を画像再構成するのに必要な光音響データを取得できる。
【0040】
この光音響データの取得を、保持板102B上で計測位置の移動軌跡203に沿って、画像化領域202A、202B、202Cのように計測位置を移動させながら繰り返すことで、光音響撮像データを取得することができる。なお、画像化領域202A、202B、202Cの領域がそれぞれ重なっているのは、光音響データの1ボクセルに対して積算処理を行うためである。
【0041】
計測位置の2次元走査においては、移動軌跡203に沿って、まず探触子をx軸方向に移動させながらボクセルピッチに対応した位置で光音響データの取得を繰り返す第一の探触子走査(主走査)を行う。次いで、探触子をy軸正方向に一定の距離だけ移動する第二の探触子走査(副走査)を行う。これら主走査と副走査を繰り返すことで2次元走査が行われる。
【0042】
図3は、第1の実施の形態における注目する被検体101の周縁部を説明する概念図である。
被検体101の周縁部は、計測光照射側の保持板102Aと被検体101との関係と、探触子側の保持板102Bと被検体101との関係に従って、幾つかの領域に区分できる。なお、301は光音響計測の2次元走査により計測光201が照射される領域、すなわち撮像範囲に相当する領域を示している。
【0043】
領域301は、保持板102Aと被検体101との関係により、被検体101と保持板102Aが接触している領域302と、接触していない領域303の2つの領域が存在する。領域302は被検体表層が計測光201に対して直交関係を保っている定常照射領域であり、光分布補正の算出式(式2)の境界条件と一致する領域である。一方、領域303は被検体101が保持板102Aから離れ、被検体表層の法線ベクトルが側方を向き計測光201が側方に反射される側方反射領域303である。この側方反射領域303では、光分布の算出式(式2)における距離dが保持板の保持間隙に一致しなくなる。
【0044】
保持板102Bと被検体101も同様に、被検体101と保持板102Bが接触している領域304と、接触していない領域306の2つの領域に区分できる。なお領域306は、被検体101内部で生じた光音響波が空隙により探触子に到達できず光音響波信号を計測できない接触状態にある。光音響波信号を計測可能な定常計測領域304はさらに、計測光201の照射側における定常照射領域302と側方反射領域303との関係により、領域305と領域307に区分される。
【0045】
領域305は、定常照射領域302により光分布の算出式(式2)の境界条件が一致して適切に光分布補正が可能な光分布補正適合領域であり、領域307は、空隙309の存在により光分布補正の境界条件に不適合な領域となる。第1の実施の形態における光音響撮像装置は、この光分布補正不適合領域307を認識する。そして、光音響画像を見たユーザが(特に領域305との)定量性の差異を識別できるように、画像化領域308に対して、正しく光分布補正が適用できるかどうかを示す識別情報を記録する。
【0046】
第1の実施の形態では、周縁部識別部109は、側方反射領域303による計測光201の側方への反射光を検知することにより側方反射領域303を識別して、識別結果を信号処理部107へ出力する。なお、光分布補正不適合領域307は側方反射領域303と一致しないため、直接には光分布補正不適合領域307を識別できない。しかし、領域3
06では光音響波を検出できずノイズレベルの光音響データしか取得できないことを利用することで、光分布補正不適合領域307を識別することできる。
【0047】
また、光音響波信号を検出できない周縁部領域306は、被検体101と保持板102Bの間にジェルシートなどの音響整合材を充填することで、第1の実施の形態で注目する光分布補正の不適合領域307とすることができる。その結果、定量性は確保できないものの画像化領域とすることができる。
【0048】
本発明の特徴は、図3で説明した光分布補正の不適合領域307を識別する手段を講ずることにある。つまり、領域306ではノイズレベルの光音響データしか取得できないために測定結果が不適切であることは明白であるが、領域307では一見して領域305と区別できない正常な光音響データが取得されているので、識別可能にする必要がある。
【0049】
図4は、第1の実施の形態における光分布補正適合領域305において計測される光音響波信号を説明する概念図である。図4(a)は光音響波の計測方法、図4(b)は照射ユニット104内部での計測光照射の検知信号と側方光検出部108Bによる側方光検知信号、図4(c)は検出した光音響波信号の例をそれぞれ示している。図4(b)と(c)の縦軸はそれぞれ光検知信号と光音響波信号を、横軸は時間を表す。
【0050】
被検体101に照射された計測光201は、被検体101内で強く拡散して減衰しながら被検体101の深部へと浸達する。そのため被検体深部であるほど被検体101の内部の組織を照らす光エネルギーは小さくなってしまう。
401は、計測光201を吸収して光音響波を発する光吸収物質である。乳がん診断では、乳がんに相当する。乳がんの組織は、活発な血管新生による血流量の増大で光の吸収率が正常組織に比べて高く、パルス光のエネルギーを吸収して熱膨張した結果光音響を発する。
402は、光音響波検出ユニット105の探触子を構成する1つの音響検出素子である。到達する光音響波を検出して、図4(c)に示す光音響波信号を生成する。音響検出素子の検出周波数帯域は有限で低周波での感度が低いため、主に高周波成分で構成される信号が形成される。
【0051】
図4(b)上段の421は、照射ユニット104内部に構成されている、図示しない検知手段による検知信号を示している。計測光201が実際に照射されたことを検知している。
図4(a)に示す被検体の光分布補正適合領域での計測では、被検体側方への計測光201の反射が起きない。そのため、図4(b)下段に示すように、側方光の検知信号は生成されない。
【0052】
441は、計測光201の照射を検知するためにあらかじめ決定される閾値である。図4(b)上段の例では信号421がこの閾値441を超えているため計測光の照射を検知する。
442は、計測光201の側方への反射光を検知するためにあらかじめ決定される閾値である。
443は、現在の計測位置において保持板間に被検体101が無いことを判定するためにあらかじめ決定される閾値である。閾値441と442に比べて大きな値を持つ。
【0053】
図4(c)の461は、光吸収物質401の光音響波信号を示している。信号461は、光分布補正適合領域における計測では、光音響波の検出開始後に検出される1つ目の信号である。
462は、照射ユニット104側の保持板102Aと被検体101との界面で生じる光
音響波信号を示している。被検体101の表層は光吸収率が比較的小さい正常組織で形成されるものの、高い光エネルギーを保った状態で計測光201が入射するため、被検体表層が発する光音響波は大きい。そのため、その界面で生じる光音響信号462は信号461に比べると非常に大きな信号となる。
信号462の検出時刻は装置構成(主に保持板102Aの厚さ)で、信号強度は計測光201の光エネルギーと被検体101の光吸収率で決定されるため、保持状態が変更されない限り、計測ごとに変動せず同じ信号特性で検出される。
【0054】
続いて、図5を参照して光分布補正不適合領域307において計測される光音響波信号の特性を示し、その差違を説明する。
図4と同様、図5(a)は光音響波の計測方法、図5(b)は計測光検知信号と側方光検知信号、図5(c)は検出した光音響波信号の例をそれぞれ示している。図5(b)と(c)の縦軸はそれぞれ光検知信号と光音響波信号を、横軸は時間を表す。
【0055】
501は、被検体101の周縁部のうち光分布補正不適合領域307に存在する光吸収物質である。なお、計測光201の光軸に対して光分布補正適合領域での光吸収物質402と同じ位置に存在し、大きさや光吸収係数など光学的特性も同一である。
【0056】
光分布補正不適合領域では、被検体101と保持板102Aの間に空隙が存在し、また曲面形状をした側方反射領域が存在する。そのため計測光201は被検体101に浸達するとともに、一部は被検体表層により側方への反射を生じる。加えて、計測光201が被検体101に入射して強く拡散減衰を開始する位置も探触子側に移動するため、光分布補正不適合領域での光吸収物質501と適合領域での光吸収物質401とで浸達する光エネルギーに差異が生じる。すなわち、光分布補正不適合領域では、式(2)に示す光量分布の算出式での変数dが保持間隙距離と一致しなくなるため、保持距離では正確に光量分布補正を適用することができず、光音響画像において定量性を欠くことになる。
【0057】
図5(b)下段の521は、側方反射領域により側方へ反射した側方光502の検知信号である。信号521が、閾値442を超えているため側方光502の存在を検知する。なお、側方光検出部108Bは側方反射領域からの側方光502のみを検出できるように検出感度に指向性を備えることで、側方反射領域以外からの光による誤動作を抑止する。
【0058】
図5(c)の561は、光吸収物質501による光音響波信号を示している。信号561は、図5(a)のような光分布補正不適合領域における計測では光音響波の検出開始後に検出される1つ目の信号で、光分布補正適合領域での信号461とほぼ同じタイミングで検出される。ただし、光吸収物質501と401では浸達する光エネルギー量が異なるため、信号561と光分布補正適合領域における信号461は異なる大きさの信号で検出される。すなわち、被検体による散乱と減衰が少ない信号561の方が、信号強度が大きい。
【0059】
図5(c)の562は、照射ユニット104側の被検体表層の光音響波信号を示している。被検体表層が、音響検出素子403からから見て、保持板間隙よりも近い位置にあるため、図4(c)と比べて光音響波が被検体内を伝播する距離が短い。その結果、信号562が検出されるタイミングは、被検体表層信号462よりも早くなる。また、計測光201の照射側に側方反射領域をもつ光分布補正不適合領域では、被検体表層が曲面形状となっているため、被検体表層で生じる光音響波が平面波状でなくなっている。その結果、信号562は、定常照射領域をもつ光分布補正適合領域での信号462に比べて幅をもった信号となる。
【0060】
以上、図4と図5を用いて説明したように、被検体101の光分布補正の適合領域と不
適合領域とで、側方光検出部108が出力する側方光検知信号に差違が生じるため、この信号特性の差違に基づいて被側方反射領域を識別することができる。
【0061】
図6は、第1の実施の形態における被検体が存在しない位置での光音響信号の特性を説明する概念図である。図4と同様、図6(a)は光音響波の計測方法、図6(b)は計測光検知信号と側方光検知信号、図6(c)は検出した光音響波信号の例をそれぞれ示している。図6(b)と(c)の縦軸はそれぞれ光検知信号と光音響波信号を、横軸は時間を表す。
【0062】
図6(b)上段において、被検体101がなく、計測光201を遮るものがないため、照射ユニット104から照射された計測光201は対向する光音響波検出ユニット105の探触子に直接到達する。なお、図6(b)下段に示すように、被検体101の側方への反射光が存在しないため、側方光検知信号は検出されない。
【0063】
図6(c)の661は、光音響波検出ユニット105の探触子表面で生じる光音響波信号を示している。一般的に、探触子表面には、弾性波の検出効率を向上させるために音響整合材が取り付けられている。音響整合材は計測光201に対して光吸収率をもつため探触子表面が光音響波の音源となる。なお、探触子表面を反射膜で保護した場合でも、反射膜自身も数%の光吸収率(例えば、Auの場合3%程度)をもつため、高い光エネルギーを保った計測光201を受けて大きな光音響波を発する。
【0064】
信号661は、探触子表面で発生する光音響波による信号のため、計測を開始した直後に検出され、その強度は非常に大きい。なお、信号661は探触子の構造に起因した光音響信号であるため、その検出時刻と信号強度は計測ごとに変動せずに同じ信号特性で検出される。この信号特性を利用して、閾値443を用いることで、計測位置が被検体101を外れたことを認識できる。
なお、被検体101と保持板102Bの音響的結合を欠いて光音響信号を検出できない領域306での光音響計測においては、側方光検知信号が検出されるとともに光音響信号の検出がされない。
【0065】
以上、図4と図5、そして図6で説明してきたように、側方光検知信号と計測される光音響信号の組み合わせで、被検体101の周縁部における各領域を、特に光分布補正不適合領域を識別することができる。
【0066】
図7は、第1の実施の形態における光音響画像の撮像の流れを示すフローチャートである。本フローチャートで示す一連の処理は、これまでに説明してきたように被検体周縁部の各領域を識別して、特に光分布補正不適合領域の識別情報を記録しながら光音響撮像を実現することを目的としている。なお、本フローチャートの実施前に検査者により被検体の保持などの作業を完了しているものとする。
【0067】
ステップS701では、検査者が画像処理装置120の操作部124により撮像を指示する。撮像指示を受けた制御部111が走査制御部110に対して光音響撮像動作の開始を指示する。
ステップS702では、走査制御部110が照射ユニット104と光音響波検出ユニット105を同時に主走査方向(x軸方向)に移動させて次の計測位置に移動させる。
ステップS703では、次の計測位置に到達すると、走査制御部110が計測位置に応じて側方光検出部108AまたはBを有効化する。
【0068】
ステップS704では、照射ユニット104が光源の発光制御を行って計測光である近赤外領域のパルスレーザ光を被検体に向けて照射する。
ステップS705では、周縁部識別部108が、側方光検出部108が側方光を検知したかを判定する。検知している場合にはステップS706へ処理を移行する。検知しない場合にはステップS707へ処理を移行する。
ステップS706では、信号処理部107が、周縁部識別部108の識別結果に基づいて周縁部の識別情報を記録する。なお、ここでの識別情報は、被検体の周縁部における側方反射領域の検知結果である。
【0069】
ステップS707では、走査制御部110が、装置の構成上、側方光の検知に有効な期間を過ぎると側方光検出部107を無効化する。
ステップS708では、光音響波検出ユニット105の探触子がステップS704の計測光照射の結果生じる光音響波を検出(サンプリング)する。そして、光音響波検出ユニット105が検出した光音響波信号に対して、光音響計測部106が信号増幅とA/D変換を行い、その信号を信号処理部107へ出力する。計測深度に応じた1回の計測に必要なサンプル数だけ光音響波信号のサンプリングを繰り返すことで、画像化領域202の光音響データを得る。
【0070】
ステップS709では、信号処理部107が、前ステップで取得した光音響データに基づき、探触子の音響検出素子の感度ばらつき補正や、物理的または電気的に欠損した素子の補完、ノイズ低減のための積算処理、記録媒体への光音響信号の記録などを行う。また周縁部識別部109からの識別結果および計測された光音響信号に基づいて、光分布補正不適合領域を識別することで、ステップ706で記録された周縁部の識別情報を更新して計測位置と対応付けて記録し、被検体周縁部の識別データを生成する。
【0071】
ステップS710では、走査制御部110が1回の主走査方向の走査完了を判定する。走査の完了は、検査者に指定された撮像領域に対して主走査方向の移動が完了したかどうかで判定する。走査を完了した場合には、ステップS711へ処理を移行する。そうでない場合には、ステップS702へ処理を移行して次の計測位置で光音響計測を繰り返す。
ステップS711では、走査制御部110が全走査の完了を判定する。全走査の完了は、検査者に指定された撮像範囲で主走査と副走査が終わり、全ての走査が完了したかどうかで判定する。全走査を完了した場合には、光音響撮像データと被検体周縁部の識別データが画像処理装置120へ伝送され、ステップS713へ処理を移行する。完了していない場合には、ステップS712へ処理を移行する。
【0072】
ステップS712では、走査制御部110が照射ユニット104と光音響波検出ユニット105を同時に副走査方向に移動させて、次の主走査線において計測動作を継続する。
ステップS713では、画像再構成部122が光音響撮像データに基づいて光音響撮像画像を構成する。
ステップS714では、表示部123上に、構成された光音響撮像画像が表示される。
【0073】
以上の処理により、計測位置の2次元走査が可能な光音響計測において、画像診断に好適な光音響診断画像を得ることができるとともに、被検体周縁部の識別情報を計測位置と対応付けて記録することができる。
【0074】
本実施形態によれば、保持板により被検体を保持しながら、光源と探触子が被検体を挟んで対向する構成で計測を行う光音響撮像装置において、被検体側方への計測光の反射光を検知する手段を備えることで、被検体の周縁部を識別することができる。
さらに被検体の周縁部における、光分布補正の境界条件に適合しない領域を識別する手段をもつことで、光音響画像上での定量性の異なる領域を識別できる情報を取得記録することができる。記録された識別情報を計測位置と対応付けた上で光音響撮像データとともに記録して画像処理装置へ伝送することで、光音響画像上で定量性が異なる領域を、検査
者に対して識別して提示することができる。
【0075】
[第2の実施の形態]
本発明の超音波測定装置および方法を用いる第2の実施の形態を図に従って説明する。
【0076】
第1の実施の形態では、被検体周縁部の側方反射領域による被検体側方への計測光の反射を検知することで、光音響撮像動作の実施中に各計測位置で逐次光分布補正不適合領域を識別でき、その結果、光音響撮像動作の終了後に識別情報を確認することができる。
一方、光音響撮像の事前に光分布補正不適合領域の識別情報を検査者に対して提示することができれば、同領域を含むように撮像するか、同領域を除いた光分布補正適合領域のみを撮像するかの選択肢を提供することができる。
第2の実施の形態における特徴は、検査者に対して光音響撮像動作前に被検体周縁部の識別および提示を行うことである。
【0077】
上記特徴を中心に、第2の実施の形態を説明する。図8は、第2の実施の形態における光音響撮像システムの装置構成の全体図である。第2の実施の形態における光音響撮像装置は、第1の実施の形態における図1の光音響撮像装置と比べて、保持撮像部801、側方照明部802、そして制御部803が新たに設けられる。また、画像処理装置820に周縁部識別部821が新たに設けられる。制御部803の動作は、図1の制御部111とは異なる点がある。
【0078】
保持撮像部801は、保持された被検体101を照射ユニット101の側から保持板102Aを介して撮像する。保持撮像部801には可視や赤外領域に検出感度を有するCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなど一般的な撮像素子が使われる。保持撮像部801により撮像された画像は、I/F112を介して画像処理装置120に伝送されて、検査者による撮像範囲の指定に使用される。そのため、装置として定義される最大撮像範囲が収まる画角で撮像を行うことが好ましい。
また、外光の影響を低減するために、側方照明部802による照明光のみを検出できるように、照明光の使用波長に応じて、同波長に対して検出感度を備えるようにすることが望ましい。本実施形態においては、保持撮像部と、画像処理装置が、本発明の光検知手段に相当する。
【0079】
側方照明部802は、制御部803の指示に従って被検体101の側方から可視領域または赤外領域の光を照射する。本実施の形態における側方照明部802は、被検体101の保持方向、すなわち計測光の照射方向と直交する方向に802Aと802Bが配置される。被検体側方からの照明により保持撮像部801により撮像された画像に対して、被検体101の側方反射領域を強調することができる。
【0080】
制御部803は、画像処理装置820からの要求を受け付けて側方照明部802を制御する。
周縁部識別部821は、保持撮像部801の撮像画像に対して画像処理を施して被検体101の側方反射領域を識別して、その識別情報を表示部123に表示する。詳細については後述する。
以上の構成を有する光音響撮像装置により、検査者は光音響撮像前に被検体101の周縁部の情報を視覚的に把握することができる。
【0081】
図9は、第2の実施の形態における被検体周縁部の識別方法を説明する概念図である。図9(a)は保持撮像部801による撮像領域、図9(b)は側方照明の例をそれぞれ示している。
【0082】
図9(a)の901は、保持撮像部801が撮像する撮像範囲を、保持板102A上に投影したものである。装置として定義される最大撮像範囲が収まる画角で撮像を行うことで被検体周縁部を含む被検体全体を認識できる。
【0083】
図9(b)の902、903はそれぞれ、図3で説明した計測光の定常照射領域と光分布補正適合領域である。また、904、905、906はそれぞれ、側方反射領域、光分布補正適合領域、光音響を検出できない領域を示している。
また、911、912は、それぞれ側方照明部802Bによる照明光と側方反射領域904による反射光を示している。照明光は、被検体101の周縁部のみを照明できるように指向性を備えることが好ましい。被検体101を側方から照明した光911は被検体101の側方反射領域904に反射して、その反射光912が保持撮像部801に撮像される。
【0084】
第2の実施の形態では、周縁部識別部821は、側方反射領域904によって照明光911が保持撮像部801方向へと反射された反射光912を検知する。この反射光を検知することで側方反射領域904を識別して、その識別結果を信号処理部107へ出力する。なお、光分布補正不適合領域905と側方反射領域904は一致しないが、光分布補正の適合領域903と不適合領域905との境界線907は、定常照射領域902と側方反射領域904における境界線と一致する。そのため、光分布補正不適合領域905を推定できる。
【0085】
図10は、第2の実施の形態における被検体周縁部の識別と光音響撮像範囲の指定方法を説明する概念図である。図10(a)は保持撮像部801による側方反射領域の識別画像、図10(b)はその識別結果と撮像範囲との関係の例をそれぞれ示している。
【0086】
図10(a)の1001は、側方照明部802により側方反射領域を照明された状態において、保持撮像部801により撮像された識別画像の例を示している。
1002は、側方照明部802による照明光が届かず、暗く撮像される計測光の定常照射領域902に相当する領域である。
1003は、側方照明部802による照明光を保持撮像部801の方向に反射した側方反射領域904に相当する領域である。なお、周縁部識別部821は、強調処理や2値化など識別に好適な画像処理を加えることで、側方反射領域1003を容易に識別可能である。
1004は、被検体101が存在しない領域であり、側方反射領域1003の強調処理により暗い領域となる。
なお、識別画像1001は、側方反射領域1003の識別のために、周縁部識別部821が内部で使用する画像であり、検査者に提示するものではない。
【0087】
図10(b)の1011は、側方照明部802による照明がない状態で、被検体101の保持状態を観測するために、保持撮像部801により撮像された画像上に、被検体周縁部の識別結果に基づく撮像範囲が重畳された画像である。なお、撮像画像1011は、周縁部識別部821の情報に従い、表示部123を介してユーザに対して提示される。
1012と1013はそれぞれ、周縁部識別部821が被検体101の側方反射領域904を識別した結果に基づいて、検査者に対して提示する撮像範囲の例を示している。撮像範囲1012は、計測光の定常照射領域902と側方反射領域904の境界907を内接する範囲を示している。撮像範囲1013は被検体101の輪郭を内接する範囲を示している。
このとき、撮像範囲と併せてそれぞれ撮像に要する時間などの付属情報を提示してもよい。検査者は、いずれかの撮像範囲を選択することも、提示された2つの撮像範囲を参考
にして任意の撮像範囲を指定することもできる。なお、本発明において提示する撮像範囲は1012と1013の2つに限るものではなく、1012と1013に基づいて、例えばその中間に相当する撮像範囲など、画像診断に好適な撮像範囲を幾つか提示してもよい。
【0088】
以上のように、側方照明部802により定常照射領域903と側方反射領域904が、保持撮像部801の撮像画像上に輝度の異なる領域として撮像されるため、この領域の違いに基づいて被検体の側方反射領域904を識別することができる。すなわち、図9で説明したように、側方反射領域904に対応する光分布補正不適合領域905を識別できる。
また、光音響撮像を開始する前に、被検体101の光分布補正不適合領域905の識別情報をユーザに提示することで、被検体周縁部の状態を考慮に入れた任意の撮像範囲の指定を行うことができる。
なお、本実施の形態では側方からの照明により周縁部をより強調した状態で識別するとしたが、側方光のない状態でも、保持による被検体の変色で周縁部を識別する構成でもよい。保持板により圧力を受けている被検体101である乳房の定常照射領域902と、保持板102による圧力を受けない周縁部では皮膚の色に差異がでるため、それを画像処理により識別すればよい。
【0089】
図11は、第2の実施の形態における光音響画像の撮像の流れを示すフローチャートである。
ステップS1101では、光音響撮像開始に先立って、検査者による操作部124からの入力に従って、光音響撮像装置に対して被検体周縁部の状態の識別が要求される。要求を受け付けた制御部803は、側方照明部802を同時に点灯制御する。
ステップS1102では、周縁部識別部821が、ステップS1101の側方照明の結果、保持撮像部801により撮像された画像を取得して被検体101の側方反射領域1003を識別する。さらに周縁部識別部821は、その識別結果に基づいて図10で示したような候補となる撮像範囲の情報を出力する。
【0090】
ステップS1103では、提示された撮像範囲の候補の中から、またはそれらを参考にして、検査者が画像処理装置820の操作部124により任意の撮像範囲を決定する。
ステップS1104では、検査者が画像処理装置820の操作部124により撮像を指示する。光音響撮像指示を受けた制御部803が、走査制御部110に対して光音響撮像動作を開始させ、ステップS1102で指定された撮像範囲の全領域に渡って光音響撮像データの取得を完了する。
ステップS713とステップS714の処理に関しては、第1の実施の形態における処理と同じである。
【0091】
以上の処理により、計測位置を2次元走査しながら光音響計測を行う光音響撮像装置において、光音響撮像動作に先立って検査者に対して被検体の光分布補正不適合領域を提示することができ、検査者は同領域を考慮に入れて任意の撮像範囲を指定することができる。
【0092】
本実施形態では、保持板により被検体を保持しながら、光源と探触子が被検体を挟んで対向する構成で計測を行う光音響撮像装置において、被検体側方を照明する照明手段と保持された被検体を撮像する手段を備える。これにより、撮像開始の事前に光分布補正不適合領域を識別してユーザに提示することができる。
【0093】
[第3の実施の形態]
また、本発明の目的は、以下の手法によっても達成される。即ち、前述した各実施形態
の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを格納した記憶媒体(または記録媒体)を、システムあるいは装置に供給する。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを格納した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0094】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているオペレーティングシステム(OS)などが実際の処理の一部または全部を行う。その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も、本発明に含まれる。
【0095】
さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張カードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれたとする。その後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張カードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も、本発明に含まれる。
本発明を上記記憶媒体に適用する場合、その記憶媒体には、先に説明したフローチャートに対応するプログラムコードが格納されることになる。
【0096】
[その他の実施の形態]
上記各実施形態における様々な技術を適宜組み合わせて新たなシステムを構成することは当業者であれば容易に相当し得るものであるので、このような様々な組み合わせによるシステムもまた、本発明の範疇に属するものである。
【0097】
例えば、第1と第2の実施形態では、1つの光源と1つの探触子を、被検体を挟む形で配置して、探触子の反対側から計測光照射のみで光音響計測を行う光音響撮像システムにおいて本発明を適用する例を説明した。すなわち、一方の保持板に光源を配置し、他方の保持板に探触子を配置していた。しかしながら、光源と探触子を同じ側に配置して、探触子と同じ側からの計測光を用いて光音響計測を行う構成も考えられる。このような構成においても、計測光の光軸と、被検体内で生じた光音響波の探触子までの伝播経路が一致する構成でない場合には、光分布補正不適合領域が存在するため、同じように被検体周縁部を識別することが可能である。なお、その場合には第2の実施の形態における保持撮像部を探触子側に設ける必要がある。以上により、被検体に対して計測光を探触子と同じ側から照射する構成もまた、本発明の範囲に属するものである。
【0098】
また、第1と第2の実施形態では、光源を被検体の片側のみに配置して、片側からの計測光の照射のみで計測を行う光音響撮像システムにおいて本発明を適用する例を説明した。しかし、測定深度を向上させるとともにコントラストが高く高画質な光音響画像を得るための構成として、光源を被検体の両側に配置して、両側からの計測光を用いて測定する構成も考えられる。このような構成においても、第1と第2の実施例、そして上記の計測光と探触子を同じ側に配置する構成の組み合わせで、同じように被検体周縁部を解析することが可能である。従って、被検体に対して計測光を両側から照射する構成もまた、本発明の範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0099】
102A、102B:保持板、104:照射ユニット、105:光音響波検出ユニット、108A、108B:側方光検出部、109:周縁部識別部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を保持する保持板と、
計測光を照射された被検体内から伝播する音響波を検出して電気信号に変換する探触子と、
前記電気信号から被検体内の画像を生成する画像処理手段と、
被検体のうち前記保持板と接触していない領域である周縁部に起因する光を検知する光検知手段と、
前記光検知手段の検知結果を用いて、前記保持板と被検体の接触状態を識別する識別手段と、
を有することを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記光検知手段は、前記保持板による保持方向から見て被検体の側方に配置されるセンサであり、前記計測光が前記周縁部により反射された反射光を検知する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記識別手段は、前記反射光の強度があらかじめ決定された閾値を超えている場合に、前記保持板と被検体が接触していないと識別する
ことを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記計測光の光源および前記探触子を前記保持板に対して移動させる走査手段をさらに有し、
前記識別手段は、前記計測光の光源が移動したそれぞれの位置における前記保持板と被検体の接触状態を識別する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記保持板は被検体を挟んで保持する2枚の板であり、
前記2枚の保持板の一方に前記探触子が配置され、他方に前記計測光の光源が配置されており、
前記識別手段は、前記計測光の光源が配置された側の保持板と被検体の接触状態を識別する
ことを特徴とする請求項4に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記識別手段は、被検体のうち、前記計測光の光源が配置された側の保持板とは接触していないが、前記探触子が配置された側の保持板とは接触している領域を、前記探触子が検出する音響波の強度に基づいて識別する
ことを特徴とする請求項5に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記保持板による保持方向から見て被検体の側方に配置された側方照明部をさらに有し、
前記光検知手段は、前記計測光を照射する方向から被検体を撮像し、当該撮像した画像を処理することによって、前記側方照明部から発して前記周縁部を照明する照明光を検知する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記計測光の光源および前記探触子を前記保持板に対して移動させる走査手段と、
前記識別手段が識別した前記保持板と被検体の接触状態をユーザに表示する表示部と、
ユーザから、前記走査手段により前記計測光の光源および前記探触子を移動させて音響波を検出する領域である撮像範囲を入力される操作部と、
をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
保持板が被検体を保持するステップと、
探触子が、計測光を照射された被検体内から伝播する音響波を検出して電気信号に変換するステップと、
画像処理手段が、前記電気信号から被検体内の画像を生成するステップと、
光検知手段が、被検体のうち前記保持板と接触していない領域である周縁部に起因する光を検知するステップと、
識別手段が、前記光検知手段の検知結果を用いて、前記保持板と被検体の接触状態を識別するステップと、
を有することを特徴とする被検体情報取得方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate