説明

被着体汚染性の少ない粘着剤組成物

【課題】凝集物が生成しない形での、酸成分を含まないアクリレートモノマーを主成分とするアクリル系エマルジョン型粘着剤の提供。
【解決手段】アルキル基の炭素数が2〜14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするモノマー原料を、ノニオン性界面活性剤及びケン化度が70%以上、98%未満のポリビニルアルコールを用いて水性媒体中で乳化し、アゾ系重合開始剤を用いて乳化重合して得られる、アクリル系エマルジョン型粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系エマルジョン型粘着剤組成物に関し、酸性成分を含まないモノマー原料をノニオン性界面活性剤とポリビニルアルコールを用いて乳化し、アゾ系重合開始剤を用いて乳化重合して得られる、被着体汚染性の少ない粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なアクリル系エマルジョン型粘着剤の重合方法は、特定のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに(メタ)アクリル酸等の酸性成分を加え、乳化剤としてラウリル硫酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアニオン性乳化剤、重合開始剤として過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の水溶性過硫酸塩系のラジカル重合開始剤を用いて乳化重合する手法である。
【0003】
ここで、このようにして得られるアクリル系エマルジョン型粘着剤は、写真のような被着体に対して汚染を生じることが知られている。例えば、特許文献1には、これら酸含有再付着性粘着剤を使用した場合、写真、グラフィックス、シルクスクリーン印刷母及びその類似物のような敏感な基材に対して変色を起こすとされている。酸としてはプロトン供与種、特にカルボン酸基又はスルホン酸基を意味するとされている。当該課題を踏まえ、当該文献では、中空多孔性の酸を含まないアクリレート系高分子量微小球を提案している。
【特許文献1】特開平4−216888
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法に従い、酸成分を含まないアクリレートモノマーをラウリル硫酸ソーダ(アニオン性界面活性剤)を用いてエマルジョン重合すると、得られた粘着剤は汚染を発生するものとなり、また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのような酸を含まない界面活性剤を用いてエマルジョン重合すると凝集物が生成してしまい、良好なものが得られないという問題があることが判明した。そこで、本発明は、凝集物が生成しない形での、酸成分を含まないアクリレートモノマーを主成分とするアクリル系エマルジョン型粘着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題の下で鋭意研究した結果、以下の発明(1)〜(6)に到達した。
【0006】
発明(1)は、アルキル基の炭素数が2〜14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするモノマー原料を、ノニオン性界面活性剤及びケン化度が70%以上、98%未満のポリビニルアルコールを用いて水性媒体中で乳化し、アゾ系重合開始剤を用いて乳化重合して得られる、アクリル系エマルジョン型粘着剤組成物である。
【0007】
発明(2)は、モノマー原料100重量部に対して、ノニオン性界面活性剤が1〜15重量部であり、ポリビニルアルコールが0.5重量部〜5重量部である、発明(1)の粘着剤組成物である。
【0008】
発明(3)は、モノマー原料が、酸性基を含まない架橋性官能基含有モノマー又は粘着特性改質モノマーを更に含む、発明(1)又は(2)の粘着剤組成物である。
【0009】
発明(4)は、官能基が、水酸基又はケトン基である、発明(3)の粘着剤組成物である。
【0010】
発明(5)は、アゾ系重合開始剤が水溶性である、発明(1)〜(4)のいずれか一の粘着剤組成物である。
【0011】
発明(6)は、発明(1)〜(5)のいずれか一の粘着剤組成物のエマルジョンを主体とするエマルジョンを支持体に塗布、乾燥して得られる粘着テープ又は粘着シートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本最良形態に係るアクリル系エマルジョン型粘着剤組成物は、アルキル基の炭素数が2〜14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするモノマー原料を、ノニオン系界面活性剤及びポリビニルアルコールを用いて乳化し、アゾ系重合開始剤を用いて乳化重合して得られる組成物である。まず、当該組成物を製造するに際しての各原料について詳述する。
【0013】
《粘着剤組成物の製造原料》
モノマー原料
モノマー原料は、重合して粘着性が得られるアルキル基の炭素数が2〜14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする。ここで、「主成分」とは、モノマー原料全体の75重量%以上あればよく、好ましくは80重量%であり、更に好ましくは85重量%である。75重量%未満の場合、好ましい粘着性が得られ難くなる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシルなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソノニルなどが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
当該モノマー原料は、粘着特性を改善するためのモノマー(改質モノマー)や架橋をするための官能基を有するモノマー(酸性成分を除く)を含有していてもよい。例えば、凝集力をよくするために架橋性モノマー成分を含有していてもよい。ここで、当該架橋性モノマー成分が有する官能基としては、水酸基、アミド基、メチロール基、ケトン基等が挙げられる。これらの中でも水酸基、ケトン基が好ましい。水酸基を有するモノマーとしては、2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4‐ヒドロキシブチルアクリレート等が挙げられる。ケトン基を有するモノマーとしては、ダイアセトンアクリルアミドが挙げられる。当該モノマー成分は、全モノマー原料に対して0.1重量%〜25重量%であることが好適である。0.1重量%未満になると架橋点が少なく所望の凝集力の向上が得られず、25重量%より多くなると良好な粘着性が得られない。
【0015】
当該モノマー原料は、主成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(及び任意成分である架橋性モノマー成分)等と共重合可能な、その他のモノマー成分{粘着特性を改善するためのモノマー(改質モノマー)}を含有していてもよい。当該モノマー成分としては、メチル(メタ)アクリレート、炭素数15以上22以下の(メタ)アルキルアクリレート、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール等が挙げられる。当該モノマー成分は、全モノマー原料に対して0〜25重量%であることが好適である。
【0016】
ノニオン系乳化剤
本発明に係る粘着剤組成物は、前述のモノマー原料を用いて乳化重合される。ここで、乳化剤としては、アニオン系乳化剤が汚染の懸念があるので、ノニオン系乳化剤が用いられる。尚、ノニオン系乳化剤単独ではエマルジョンが凝集するので、ポリビニルアルコールを併用する(これについては後述する)。ここで、ノニオン系乳化剤としては、ポリエチレングリコール型乳化剤が挙げられる。ポリエチレングリコール型乳化剤は、高級アルコールにアルカリ触媒を加え、120〜180℃で加圧又は常圧下にエチレンオキシドを通じて得ることができる。高級アルコールとしては炭素数が12〜22のものが用いられ、エチレンオキシドのn数としては6〜30のものが使用される。これらのうち親水親油バランス(HLB)は8から18のものがよく、より好ましくは10から16のものである。ポリエチレングリコール型乳化剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等のポリオキシエチレンエーテルエステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のエステル類、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の含窒素類等が挙げられる。また、これらの乳化剤中に重合可能なビニル系反応基を含んでもよい。使用量が全モノマー原料100重量部に対して、0.5〜15重量部が好ましく、1〜12重量部がより好ましい。0.5重量部未満では乳化が十分できず、重合が安定にできない。12重量部を超えると重合は安定にできるが、得られた粘着剤の粘着特性や耐水性などの低下を引き起こす。
【0017】
ポリビニルアルコール(PVA)
ポリビニルアルコール(PVA)としては、完全ケン化度のPVAは、重合時に凝集物が多く発生するので好ましくなく、また、70%未満のPVAは、水に溶けにくいために使用不適である。したがって、PVAとしては、ケン化度が70%以上、98%未満のPVAが好ましく用いられる。ケン化度98%未満のPVAとしては、日本合成化学のA型ゴーセノール(品番:C−500、P610、AL−06R)、G型ゴーセノール(品番:GH−23、GH−20、GH−17、GM−14、GM−14L、GL−05、GL−03)、K型ゴーセノール(品番:KH−20、KH−17、KM−11、KL−05、KL−03、KP−08R、NK−05R)、電気化学工業のHシリーズ(品番:H−12、H−17、H−24)、Bシリーズ(品番:B−04、B−05、B−17、B−20、B−24、B−33、B−05N、B−17N、B−24N)、クラレ社製の品番PVA−CST、PVA−617、PVA−624、PVA−613、PVA−706、PVA−203、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−235、PVA−217E、PVA−217EE、PVA−220E、PVA−224E、PVA−403、PVA−405、PVA−420、PVA−420H、PVA−424H、L−8、L−9、L−9−78、L−10、PVA−505等が挙げられる。ここで、使用されるポリビニルアルコールは、末端チオール変性ポリビニルアルコール或いは親水基−疎水基ブロック型ポリビニルアルコール等、変性されていてもよい。使用量は、全モノマー原料100重量部に対して0.5重量部〜5重量部であることが好適である。0.5重量部未満では乳化を安定化させることを十分発揮できない。他方、5重量部を超えると、得られた粘着剤の粘着特性や耐水性等の低下を引き起こす。
【0018】
アゾ系重合開始剤
本発明に係る粘着剤組成物の製造に際しては、モノマー原料を重合させる際に重合開始剤を使用する必要がある。ここで、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩は汚染が懸念されるので、本発明ではアゾ系重合開始剤を使用する。ここで、アゾ系重合開始剤は、水溶性のアゾ系重合開始剤が好適である。水溶性のアゾ系重合開始剤としては、和光純薬工業のVA−044(2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩)、V−50(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオアミジン)二塩酸塩)、VA−060(2,2’−アゾビス {2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、VA−061(2,2’−アゾビス [2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、VA−067(2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリディノ −2−エチルプロパン)二塩酸塩、VA−080(2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオン酸アミド}、VA−086(2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオン酸アミド]等が挙げられる。添加量は、全モノマー原料100重量部に対して0.01〜1.0重量部が好ましい。より好ましくは、0.03〜0.5重量部である。0.01重量部より少ないと反応が開始しないし、1.0重量部より多いと反応熱を制御できなくなる。
【0019】
任意成分1(連鎖移動剤)
本発明において、アクリル系エマルジョン型粘着剤は、連鎖移動剤を使用して分子量の調節を行ってもよい。連鎖移動剤としては、各種のアルキルメルカプタンが使用可能であり、例えば、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、t−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン等が挙げられる。これら分子量調節剤の使用量は、モノマー原料100重量部に対して通常0.01〜5重量部であり、好ましくは0.1〜3重量部である。
【0020】
任意成分2(架橋剤)
本発明においては、得られたアクリル系エマルジョン型粘着剤に架橋剤を添加し架橋してもよい。架橋剤としては、例えば、ケトン基を有するポリマーに対しては、アジリジン系の化合物が使用される。具体的には、ADH(アジピン酸ジヒドラジド、日本化成株式会社製)が挙げられる。水酸基を有するポリマーに対しては、水分散イソシアネート、金属有機化合物等が使用される。ここで、水分散イソシアネートとしては、大日本インキ化学工業のバーノック(登録商標)DNW−5000が挙げられる。金属有機化合物としては、オルガチックス TC−310(チタンラクテート、[(OH)2Ti(C3H5O3)2])、オルガチックス TC−315(チタンラクテート、[(OH)2Ti(C3H5O3)2])等(何れもマツモトファインケミカル株式会社製)が挙げられる。添加量は、アクリル系エマルジョンの固形分100重量部に対し0.001〜5重量部が好ましい。0.001重量部未満では架橋剤としての効果が発揮できず、5%を超えると凝集力が高く初期接着性が低下する。
【0021】
また、本発明に係る粘着剤組成物は、重合体の凝集力を向上させるために多官能性モノマーを共重合成分として含有してもよい。多官能性モノマーとしては、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート等が挙げられる。添加量は、全モノマー原料100重量部に対して0.01重量部〜5重量部である。0.01重量部より少ないと凝集力向上の効果が得られず、5重量部を超えると粘着性の低下が著しくなる。
【0022】
任意成分3(粘着付与樹脂)
更に、粘着性の調整のために粘着付与樹脂を配合することができる。粘着付与樹脂は上述したノニオン系乳化剤を用いてエマルジョン状にして配合することが好ましい。粘着付与樹脂は、酸性基を含まないものが好適である。このようなものとして、テルペン系樹脂、石油系樹脂、キシレン樹脂、スチレン樹脂等が挙げられる。テルペン系樹脂としては、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂等が挙げられる。石油系樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族石油樹脂、水素添加石油樹脂等が挙げられる。具体的には、テルペン樹脂としてはヤスハラケミカル社製のYSレジンPx、芳香族テルペン樹脂としては同じくヤスハラケミカル社製のYSレジンTO、TRシリーズ、水添テルペン樹脂としては同じくヤスハラケミカル社製のクリアロンP,M,Kシリーズ等が挙げられる。脂肪族系石油樹脂としてはトーネックス社製のエスコレッツ1000シリーズ、芳香族系石油樹脂としては三井石油化学社製のペトロジン、水素添加石油樹脂としては芳香族系の石油樹脂として荒川化学社製のアルコンP,Mシリーズがあり、脂肪族系の石油樹脂としては丸善石油社製のマルカレッツHが挙げられる。スチレン樹脂としてはハーキュレス社製のピコラスチックシリーズ、キシレン樹脂としては三菱瓦斯化学社製のニカノールが挙げられる。
【0023】
任意成分4(その他)
その他、必要に応じて充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、増粘剤、防腐剤、消泡剤、濡れ剤、表面張力改質剤等を配合できる。
【0024】
《粘着剤組成物の製造方法》
次に、本発明に係る粘着剤組成物の製造方法を説明する。乳化重合は、公知の方法で行われる。例えば、水性媒体(例えば水)中に重合開始剤とモノマーと乳化剤(PVAを含む)とを添加する所謂一括仕込み法、重合開始剤と乳化剤(PVAを含む)とを含有する水性媒体中にモノマーを滴下する所謂モノマー滴下法、乳化剤(PVAを含む)を含有する水性媒体にモノマーを乳化させ、これを重合開始剤を含有する水性媒体中に滴下する所謂乳化モノマー滴下法で行われる。この場合、通常、50〜90℃で1〜10時間かけて攪拌下で行われる。尚、共重合体の分子量を調節するために、ドデシルメルカプタン等の連鎖移動剤を使用してもよい。尚、ここで使用しうる水性媒体は、特に限定されないが、例えば、蒸留水、イオン交換水、或いはこれらに親水性のアルコールを加えた混合溶液を用いることができる。
【0025】
《粘着剤組成物の性質》
次に、本発明に係る粘着剤組成物の性質(物性)について説明する。本発明に係る粘着剤組成物は、被着体汚染性が少ないことを特徴とする。更に、本発明に係る粘着剤組成物は、アシッドフリーであるので、写真、グラフィックス、シルクスクリーン印刷母及びその類似物のような敏感な基材に対して変色を起こす恐れが無い。また、金属に貼付する場合、錆の発生を抑制することができる。
【0026】
《粘着剤組成物の使用方法》
次に、本発明に係る粘着剤組成物の使用方法(用途)について説明する。得られたエマルジョンは、必要に応じて架橋剤、粘着付与樹脂エマルジョン、その他が配合されて粘着剤エマルジョンとなる。これをプラスチックフィルム、紙、布等の支持体に塗布、乾燥して粘着シート又は粘着テープとすることができる。また、剥離紙に塗布乾燥して支持体に転写してもよい。更に、支持体の両面に塗布乾燥、或いは転写して両面粘着テープ又はシートとしてもよい。ここで、本発明に係る粘着剤組成物は被着体汚染性が少なくアシッドフリーであるので、スクラップブッキング、手芸用等の用途に有用である。
【実施例】
【0027】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。尚、以下の実施例及び比較例において、部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0028】
[重合例(実施例1)] ガラスビンにノニオン性ラウリルアルコール型界面活性剤アデカトールLA875((株)ADEKA製,ラウリルアルコールエトキシレート)4重量部、ポリビニルアルコール
PVA203((株)クラレ製,ケン化度87〜89%,重合度300)2重量部及びイオン交換水50重量部、を入れ溶解させた後、モノマーとしてアクリル酸2−エチルヘキシル99重量部及びジアセトンアクリルアミド1重量部を加え、攪拌乳化し滴下モノマーエマルジョンを準備した。一方、攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管及びモノマー滴下ポンプを装着したフラスコを準備し、イオン交換水50重量部を仕込んだ。フラスコ内を窒素置換しながら60℃に昇温した。その後、重合開始剤として2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を0.25重量部添加し、窒素気流攪拌下でモノマーエマルジョンを2時間にわたって滴下して重合を行った。滴下終了後、更に3時間反応を行い、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンは800メッシュのろ布でろ過して凝集物等の有無を確認した。乾燥後の凝集物が5%以上の場合を×、1%以上〜5%未満の場合を△、1%未満の場合を○とした。
【0029】
実施例1〜5
モノマー組成をアクリル酸2−エチルヘキシル:ジアセトンアクリルアミド=99:1とし、ノニオン型界面活性剤をラウリルアルコールエトキシレート((株)ADEKA社製アデカトールLA875)を4重量部とし、種々のポリビニルアルコール(2重量部)を用いて重合した実施例を示す。
実施例1:PVA203:ポリビニルアルコール((株)クラレ製,ケン化度87〜89%,重合度300)
実施例2:PVA224:ポリビニルアルコール((株)クラレ製,ケン化度87〜89%,重合度2400)
実施例3:PVA403:ポリビニルアルコール((株)クラレ製,ケン化度78.5〜81.5%,重合度300)
実施例4:PVA505:ポリビニルアルコール((株)クラレ製,ケン化度72.5〜74.5%,重合度500)
実施例5:PVA MP203ポリビニルアルコール((株)クラレ製,ケン化度87〜89%,重合度300,末端チオール変性)
重合安定性は何れも1%未満で、○であった。
【0030】
実施例6〜7
モノマー組成をアクリル酸2−エチルヘキシル:ジアセトンアクリルアミド=99:1とし、ポリビニルアルコールをPVA203((株)クラレ製,ケン化度87〜89%,重合度300)の2重量部として、ノニオン型界面活性剤(ラウリルアルコールエトキシレート((株)ADEKA社製アデカトールLA875)の配合量(1重量部、10重量部)を検討した実施例である。
重合安定性は何れも1%未満で、○であった。
【0031】
実施例8〜9
モノマー組成をアクリル酸2−エチルヘキシル:ジアセトンアクリルアミド=99:1とし、ノニオン型界面活性剤をラウリルアルコールエトキシレート((株)ADEKA社製アデカトールLA875)の4重量部とし、ポリビニルアルコールをPVA203((株)クラレ製,ケン化度87〜89%,重合度300)の配合量(1重量部、4重量部)を検討した実施例である。
重合安定性は何れも1%未満で、○であった。
【0032】
実施例10〜12
ノニオン型界面活性剤をラウリルアルコールエトキシレート((株)ADEKA社製アデカトールLA875)の4重量部とし、ポリビニルアルコールをPVA203((株)クラレ製,ケン化度87〜89%,重合度300)の2重量部として、種々のモノマー組成について検討した実施例である。
実施例10 2−EHA:HEMA=99:1
実施例11 n−BA:HEMA=99:1
実施例12 2−EHA:VAc:HEMA=89:10:1
重合安定性は何れも1%未満で、○であった。
【0033】
実施例13〜17
モノマー組成をアクリル酸2−エチルヘキシル:ジアセトンアクリルアミド=99:1とし、ノニオン型界面活性剤、ポリビニルアルコールを種々に変えて検討した(配合及びその結果表参照)。
重合安定性は何れも1%未満で、○であった。
【0034】
実施例18
モノマー組成をアクリル酸2−エチルヘキシル:n−ブチルアクリレート=70:30とし架橋性モノマーとして1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを0.5重量部加え、ノニオン型界面活性剤としてラウリルアルコールエトキシレート((株)ADEKA社製アデカトールLA875)を4重量部、ポリビニルアルコールをPVA203((株)クラレ製,ケン化度87〜89%,重合度300)の2重量部として重合を行った。
重合安定性は何れも1%未満で、○であった。
【0035】
[粘着テープとしての評価]
得られたエマルジョンに増粘剤としてアデカノールUH472((株)ADEKA社製)を1部配合し、架橋剤として官能基がケトン基の場合はADH(アジピン酸ジヒドラジド)を0.5重量部、水酸基の場合はオルガチックスTC−310(チタンラクテート、マツモト交商社製)を0.5重量部添加して、粘着剤エマルジョン液とした。これをポリエステルフィルム(#25)に塗布乾燥して(乾燥後の粘着剤厚さ25μm)剥離フィルムで覆いサンプルシートとした。サンプルシートを15mm幅に裁断し粘着特性(粘着力、プローブタック、ボールタック、保持力(15mm×20mm 荷重=500g))をJIS Z 0237に準じて評価した。結果を表に示す。
【0036】
比較例
比較例においてモノマー組成は全てアクリル酸2−エチルヘキシル:ジアセトンアクリルアミド=99:1とした。
比較例1〜2
ノニオン型界面活性剤をラウリルアルコールエトキシレート((株)ADEKA社製アデカトールLA875として、その配合量(3重量部、5重量部)の検討をポリビニルアルコールは未添加で検討した。
重合中に発生した凝集物は乾燥重量で5重量%以上であった。
【0037】
比較例3〜4
ノニオン型界面活性剤をラウリルアルコールエトキシレート((株)ADEKA社製アデカトールLA875)の4重量部として完全ケン化ポリビニルアルコールについて検討した。
重合中に発生した凝集物は乾燥重量で5重量%以上であった。
【0038】
比較例5〜8
ポリビニルアルコールは未添加で種々のノニオン型界面活性剤の検討を行った。
比較例5,6・・・非イオン性界面活性剤アデカトールLA1275((株)ADEKA製、ラウリルアルコールエトキシレート)
比較例7・・・非イオン性界面活性剤アデカトールTN100((株)ADEKA製,第1級アルコールエトキシレート)
比較例8・・・非イオン性界面活性剤アデカトールLA775((株)ADEKA製,ラウリルアルコールエトキシレート)
重合中に発生した凝集物は乾燥重量で5重量%以上であった。
【0039】
比較例9
ポリビニルアルコールのみで重合検討した例である。
重合中に発生した凝集物は乾燥重量で5重量%以上であった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が2〜14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするモノマー原料を、ノニオン性界面活性剤及びケン化度が70%以上、98%未満のポリビニルアルコールを用いて水性媒体中で乳化し、アゾ系重合開始剤を用いて乳化重合して得られる、アクリル系エマルジョン型粘着剤組成物。
【請求項2】
モノマー原料100重量部に対して、ノニオン性界面活性剤が1〜15重量部であり、ポリビニルアルコールが0.5重量部〜5重量部である、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
モノマー原料が、酸性基を含まない架橋性官能基含有モノマー又は粘着特性改質モノマーを更に含む、請求項1又は2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
官能基が、水酸基又はケトン基である、請求項3に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
アゾ系重合開始剤が水溶性である、請求項1〜4のいずれか一項記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の粘着剤組成物のエマルジョンを主体とするエマルジョンを支持体に塗布、乾燥して得られる粘着テープ又は粘着シート。

【公開番号】特開2009−73897(P2009−73897A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243048(P2007−243048)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】