説明

被研削基材を含む積層体、その製造方法並びに積層体を用いた極薄基材の製造方法及びそのための装置

【課題】被研削基材が支持体上に固定された、光熱変換層を含有する積層体を形成するための光熱変換層前駆体を提供する。
【解決手段】光吸収剤、熱分解性樹脂の溶液又は熱分解性樹脂の原料となるモノマーもしくはオリゴマー、及びフィラーを含む、薄肉化された基材の製造に使用される光熱変換層前駆体であって、熱分解性樹脂のガラス転移温度は20℃以上であり、且つ光熱変換層前駆体により形成される光熱変換層は、放射エネルギーの照射による熱分解性樹脂の熱分解により光熱変換層内で空隙が生じる、前記光熱変換層前駆体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体上に固定されたシリコンウェハなどの被研削基材を支持体から容易に剥離することを可能にする積層体、このような積層体の製造方法及び製造装置並びに薄肉化された基材の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から種々の分野で被研削基材の薄肉化が求められている。例えば、水晶デバイスの分野では発振周波数を高めるために水晶ウェハの薄肉化が求められている。特に、半導体産業では、パッケージの薄型化やチップ積層技術による高密度化に対する対応のために、半導体ウェハの薄肉化が進められている。薄肉化はパターン形成されたウェハの面とは反対側の面を研削する、いわゆる、裏面研削により行われる。通常、ウェハをバックグラインド保護テープでのみ保持し、裏面研削・搬送する従来の技術では、研削後の保護テープ付きウェハが反ったり、又は、研削時の厚み均一性が低いことなどの問題により、実用的には150μm程度の肉厚までしか薄肉化されえない。例えば、特許文献1は、粘着テープを介してウェハをリング状のフレームに保持し、このフレームに保持されたウェハを裏面研削し、次工程に搬送する方法を開示しているが、現在のウェハ肉厚レベルを大きく改善するには至っていない。
【0003】
ウェハを接着剤を介して硬い支持体に強固に固定して、裏面研削・搬送することも考案されている。このような支持体によってウェハを支持し、裏面研削・搬送の間にその破損を防止しようとするものである。このような方法によると、上記の方法と比較して低い肉厚レベルまでウェハを加工することは可能であるが、極薄肉化されたウェハを破損させずに支持体から剥離することはできず、ウェハの極薄肉化を行う方法としては実施不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−302569号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、被研削基材が支持体上に固定された積層体であって、この被研削基材を支持体から容易に剥離することが可能である積層体及び製造方法並びにこのような積層体を用いた極薄基材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1つの態様によると、被研削基材と、前記被研削基材と接している接合層と、光吸収剤及び熱分解性樹脂を含む光熱変換層と、光透過性支持体と、
を含み、
但し、前記光熱変換層は、前記接合層とは反対側の前記被研削基材の表面を研削した後に、放射エネルギーが照射されたときに分解して、研削後の基材と前記光透過性支持体とを分離するものである、積層体が提供される。
このような積層体では、非常に低い肉厚まで研削された基材を、破損することなく支持体から剥離することが可能である。
【0007】
本発明は、別の態様によると、光吸収剤及び、熱分解性樹脂の溶液又は熱分解性樹脂の原料となるモノマーもしくはオリゴマーを含む光熱変換層前駆体を光透過性支持体上に塗布すること、前記光熱変換層前駆体を乾燥固化又は硬化させて、前記光透過性支持体上に光熱変換層を形成させること、被研削基材又は光熱変換層上に接着剤を適用して、接合層を形成すること、及び、減圧下において、前記被研削基材と前記光熱変換層とを前記接合層を介して接合して、積層体を形成することの工程を含む、上記の積層体の製造方法が提供される。
減圧下において、接合層を介して被研削基材を光透過性支持体に接合することにより、積層体内に気泡や塵などが混入することを防止し、それにより、均一な被研削面を形成することができる。このため、被研削基材の研削後の厚さ均一性を保つことができる。
【0008】
本発明は、さらに別の態様によると、減圧下において、光透過性支持体上に形成された光熱変換層を、接合層を介して被研削基材に積層する、上記の積層体の製造装置であって、
(1)所定の圧力にまで減じられる真空チャンバー、(2)前記真空チャンバー内にあり、被研削基材又は光熱変換層が形成された光透過性支持体のいずれか一方を配置するための支持部、(3)前記真空チャンバー内にありかつ前記支持部の上方において鉛直方向に移動することが可能であり、被研削基材又は光熱変換層が形成された光透過性支持体の他方をその周縁部で保持するとともに、被研削基材と光熱変換層との近接時に開放することができる保持/開放手段、
を含む、積層体の製造装置が提供される。
上記の装置を用いると、減圧下に積層体を製造することで、積層体内に気泡や塵などの混入を防止することができるとともに、保持/開放手段により、積層されるべき表面に損傷を与えない。
【0009】
本発明は、さらに別の態様によると、上記の積層体を用意すること、前記被研削基材を所望の厚さまで研削すること、前記光透過性支持体を介して前記光熱変換層に放射エネルギーを照射して、前記光熱変換層を分解し、研削後の基材と光透過性支持体とを分離すること、及び、前記研削後の基材から接合層を剥離すること、の工程を含む、薄肉化された基材の製造方法が提供される。
このような方法では、まず、支持体上で被研削基材を所望の厚さ(例えば、150μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは25μm以下)にまで研削した後に、放射エネルギーにより、研削後の基材から支持体が分離されるので、研削後の基材上に残った接合層は基材からピールにより容易に剥離することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層体は、非常に低い肉厚まで研削された基材を、破損することなく支持体から剥離することが可能である。レーザー光などの放射エネルギーにより、支持体と基材とを分離するので、接合層は基材からピールにより容易に剥離することが可能になり、非常に極薄化された基材を破損させることなく製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の幾つかの態様を示す断面図である。
【図2】本発明の方法に使用できる真空接着装置の断面図である。
【図3】本発明の方法に使用できる研削装置の部分断面図である。
【図4】支持体の分離及び接合層の剥離の工程図である。
【図5】レーザー光照射工程に使用できる積層体固定装置の断面図である。
【図6】レーザー照射装置の斜視図である。
【図7】ウェハと支持体との分離操作に用いられるピックアップの模式図である。
【図8】ウェハからの接合層の剥離の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の積層体の1つの重要な構成上の特徴は、被研削基材と光透過性支持体との間に光熱変換層を設けていることである。この光熱変換層はレーザー光などの放射エネルギーの照射により分解し、基材を破損することなく支持体から分離することが可能になる。このため、従来の方法では達成し得ないほど薄肉化した基材を製造することができる。
【0013】
本発明の積層体の幾つかの態様を図1に示す。図1(a)において、積層体1は被研削基材2、接合層3、光熱変換層4及び支持体5をこの順に積層したものである。また、接合層3は、図1(b)に示すように、フィルム6の両面に粘着剤7を設けた両面接着テープ8であってもよい。さらに、接合層3は、図1(c)及び(d)に示すように、光熱変換層4と一体となった両面接着テープ8であってもよい。さらに、図1(e)に示すように、接合層3は光熱変換層4自体が粘着性を有する粘着性光熱変換層4’を含む両面接着テープ8であってもよい。
【0014】
以下において、本発明の積層体を構成する要素について詳述する。
被研削基材
被研削基材としては薄肉化されることが期待される基材である。例えば、従来の方法では薄肉化が困難される脆性材料は被研削基材として考えられる。例えば、シリコンやガリウムヒ素(GaAs)などの半導体ウェハ、水晶ウェハ、サファイヤ又はガラスなどが挙げられる。
【0015】
光透過性支持体
光透過性支持体は本発明において使用されるレーザー光などの放射エネルギーを透過することができるものであり、被研削体を平坦な状態に維持し、研削作業・搬送時に破損しない材料であることが求められる。支持体の光透過性は、光熱変換層への放射エネルギーの透過を妨げずに、実用的な強度の放射エネルギーで光熱変換層の分解を行うことができるものであればよいが、透過率は、例えば、50%以上であることが望ましい。また、研削時の被研削体の反りを防止するために十分な剛性を有することが望ましく、支持体の曲げ剛性は好ましくは2×10-3(Pam3 )以上であり、より好ましくは3×10-2(Pam3 )以上である。有用な支持体としては、ガラス板、アクリル板などが挙げられる。また、光熱変換層などの隣接層との接着力を高めるために、支持体は必要に応じてシランカップリング剤などで表面処理されてもよい。さらに、UV硬化型の光熱変換層や接合層を用いる場合には、支持体が紫外線透過性であることも望ましい。
【0016】
さらに、支持体は、放射エネルギー照射時に光熱変換層で発生する熱、研削時の摩擦熱などにより高温にさらされることがある。或いは、被研削基材を支持体から剥離させる前に、金属膜を形成する目的で蒸着、メッキ、エッチングなどのプロセスを追加することがある。また、特にシリコンウェハの場合、酸化膜を形成するために高温処理される場合がある。このようなプロセス条件に応じて、支持体が耐熱性、耐薬品性、低膨張率を備えた支持体が選択される。このような特性を備えた支持体としては、例えば、パイレックス(登録商標)、テンパックス、コーニング#1737及び#7059(それぞれ商品名)が挙げられる。
【0017】
被研削基材の研削後の厚さの均一性を得るために、支持体の厚さは均一であることが望ましい。例えば、シリコンウェハを50μm以下に薄肉化し、その均一性を±10%以下にするためには、支持体の厚さのばらつきは±2μm以下に抑えるべきである。また、支持体を繰り返し使用することを望むならば、耐スクラッチ性であることも望ましい。また、繰り返し使用のためには、放射エネルギーによる支持体へのダメージを抑制するように、放射エネルギーの波長と支持体とを選択する必要がある。例えば、支持体としてパイレックス(登録商標)ガラスを用い、3倍高調波YAGレーザー(355nm)を照射した場合には、支持体と基材との分離を行うことは可能であるが、このような支持体はこのレーザー波長での透過率が低く、放射エネルギーを吸収することになり、結果として、支持体は熱ダメージを受け、再使用できなくなることがある。
【0018】
光熱変換層
光熱変換層は光吸収剤及び熱分解性樹脂を含む。光熱変換層にレーザー光などの形態で照射された放射エネルギーは、光吸収剤によって吸収され、熱エネルギーに変換される。発生した熱エネルギーは光熱変換層の温度を急激に上昇させ、やがてその温度は光熱変換層中の熱分解性樹脂(有機成分)の熱分解温度に達し、樹脂が熱分解する。熱分解によって発生したガスは光熱変換層内でボイド層(空隙)となり、光熱変換層を2つに分離し、支持体と基材は分離される。
【0019】
光吸収剤は、使用する波長の放射エネルギーを吸収するものである。したがって、放射エネルギーとしては、通常、300〜2000nmの波長のレーザー光が考えられ、具体的には、1064nmの波長の光を発生するYAGレーザー、532nmの波長の2倍高調波YAGレーザー、780〜1300nmの波長の半導体レーザーが挙げられる。レーザー光の波長にもよるが、光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト粉、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、テルルなどの微粒子金属粉末、黒色酸化チタンなどの金属酸化物粉末、あるいは、芳香族ジアミノ系金属錯体、脂肪族ジアミン系金属錯体、芳香族ジチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、スクアリリウム系化合物、シアニン系色素、メチン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの染料又は顔料を用いることができる。あるいは、金属蒸着膜を含む膜状の形態などであってもよい。光吸収剤の中で、カーボンブラックは特に有用である。というのは、カーボンブラックは放射エネルギー照射後の基材と支持体との剥離に要する力、すなわち、剥離力を有意に低下させ、分離性を促進するからである。
【0020】
光熱変換層中の光吸収剤の濃度は、光吸収剤の種類、粒子形態(ストラクチャー)及び分散度などによっても異なるが、粒径5〜500nm程度の一般的なカーボンブラックの場合には、通常、5〜70体積%である。5体積%未満の濃度では光熱変換層の発熱が熱分解性樹脂の分解のためには不十分になるおそれがある。また、70体積%を超えると、光熱変換層の成膜性が悪くなり、他の層との接着不良をなどを生じやすくなる。接合層として用いられる接着剤がUV硬化型接着剤である場合には、カーボンブラックの量が多量でありすぎると、接着剤の硬化のための紫外線の透過率が低くなるので、接合層としてUV硬化型接着剤を用いる場合には、カーボンブラックの量は60体積%以下とすべきである。放射エネルギー照射後に支持体を除去する際の剥離力を小さくし、研削中の光熱変換層の磨耗を防止するために、カーボンブラックは光熱変換層中に20〜60体積%の量で含まれることが好ましく、より好ましくは35〜55体積%の量で含まれる。
【0021】
熱分解性樹脂としては、ゼラチン、セルロース、セルロースエステル(例えば、酢酸セルロース、ニトロセルロース)、ポリフェノール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、塩化ビニリデンとアクリロニトリルとの共重合体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂及び/又はポリウレタン単位を含むブロックコポリマーなどを単独で又は2種以上混合して使用することができる。また、熱分解性樹脂の熱分解によりボイド層を形成して分離した光熱変換層が再接着しないように、樹脂のガラス転移温度(Tg)は室温(20℃)以上であることが望ましく、再接着を防止するために、さらに好ましくはTgは100℃以上である。また、光透過性支持体がガラスである場合には、ガラスと光熱変換層の接着力を高めるために、ガラス表面のシラノール基と水素結合しうる極性基(例えば、−COOH、−OHなど)を分子内に持つ熱分解性樹脂を用いることができる。さらに、ケミカルエッチングなどの薬液処理を必要とする用途への応用では、光熱変換層に耐薬品性を付与するために、熱処理により自己架橋しうる官能基を分子内に持つ熱分解性樹脂や、紫外線・可視光で架橋可能な熱分解性樹脂或いはその前駆体(モノマー・オリゴマーの混合物など)を用いることもできる。また、光熱変換層を図1(e)に示すような粘着性光熱変換層とするためには、例えば、熱分解性樹脂としてポリ(メタ)アクリレートなどから形成された粘着性ポリマーを用いることにより実現できる。
【0022】
透明フィラー
光熱変換層は、必要に応じて、透明フィラーを含むこともできる。透明フィラーは、熱分解性樹脂の熱分解によりボイド層を形成して分離した光熱変換層が再接着しないように作用する。このため、被研削基材の研削後に放射エネルギーを照射した後に、基材と支持体との分離のための剥離力をさらに低くすることができる。また、再接着を防止することができるので、熱分解性樹脂の選択の幅も広がる。透明フィラーとしては、シリカ、タルク、硫酸バリウムが挙げられる。透明フィラーの使用は、特に、UV硬化型接着剤を接合層として使用した場合に特に有利である。というのは、カーボンブラックなどの粒状の光吸収剤を使用した場合に、剥離力を低下させる作用があるが、紫外線の透過を妨げる作用もある。このため、接合層としてUV硬化型接着剤を用いた場合には、その硬化が十分に行えないか、又は、非常に長時間を要することがある。このような場合には、透明フィラーを添加することにより、UV硬化型接着剤の硬化を妨げることなく、放射エネルギー照射後の基材と支持体との剥離容易性を上げることができる。透明フィラーの量は、カーボンブラックなどの粒状光吸収剤を用いる場合には、それとの合計量で決めることができる。光熱変換層中の粒状光吸収剤(例えば、カーボンブラック)と透明フィラーとの総量は光熱変換層の体積を基準にして、5体積%〜70体積%であることが望ましい。このような場合には、基材と支持体との分離のための剥離力が十分に低くなるからである。しかしながら、このような剥離力は粒状光吸収剤及び透明フィラーの粒子形態によっても影響を受ける。すなわち、粒子形態が球形に近い場合よりも、複雑な粒子形態(ストラクチャーの発達した粒子形態)の場合のほうが、少量でも剥離力が有効に低下されることがある。このため、粒状光吸収剤と透明フィラーとの総量は「臨界フィラー体積濃度」を基準に規定されることもある。用語「臨界フィラー体積濃度」とは、粒状光吸収剤と透明フィラーとの混合物が乾燥状態で静置されたときに、その空隙体積をちょうど満たす量の熱分解性樹脂とフィラーが混合されたときのフィラーの体積濃度(CFVC)を意味する。すなわち、粒状光吸収剤と透明フィラーとの混合物の空隙体積をちょうど満たす量の熱分解性樹脂とフィラーが混合されたときのフィラーの体積濃度(CFVC)は臨界フィラー体積濃度の100%であるという。光熱変換層中の粒状光吸収剤と透明フィラーとの総量は、好ましくは、臨界フィラー体積濃度の80%以上であり、より好ましくは90%以上である。このような場合には、エネルギー照射後に、基材と支持体とは容易に剥離される。
【0023】
光熱変換層は、さらに、必要に応じて、他の添加剤を含むこともできる。例えば、熱分解性樹脂をモノマーもしくはオリゴマーの形態で塗布し、その後、重合や硬化を行うことにより層を形成する場合には、光重合開始剤を含んでよい。また、ガラスと光熱変換層の接着力を高めるためのカップリング剤の添加(インテグラルブレンド法)、耐薬品性向上のための架橋剤の添加はそれぞれの目的において有効である。また、光熱変換層の分解による分離を促進するために、低温ガス発生体を含ませることができる。代表的な低温ガス発生体としては発泡剤や昇華剤が利用できる。発泡剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸亜鉛、アゾジカーボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジン、p,p−オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)などが挙げられる。昇華剤としては、2−ジアゾー5,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3−ジオン、樟脳、ナフタレン、ボルネアール(borneal)、ブチラミド、バレラミド、4−tert-ブチルフェノール、フラン−2−カルボン酸、無水コハク酸、1−アダマンタノール、2−アダマンタノンなどが挙げられる。
【0024】
光熱変換層は、カーボンブラックなどの光吸収剤と、上記の熱分解性樹脂と溶剤を混合して、前駆体塗布液を形成し、この塗布液を支持体上に塗布し、乾燥することによって形成できる。或いは、熱分解性樹脂の溶液の代わりに、光吸収剤と、上記の熱分解性樹脂の原料となるモノマーもしくはオリゴマーと、場合により、光重合開始剤などの添加剤、さらには必要ならば溶剤を混合して、前駆体塗布液を形成し、この塗布液を支持体上に塗布し、乾燥し、重合・硬化することによっても形成できる。塗布には、スピンコーティング、ダイコーティング、ロールコーティングなどの硬質支持体上への塗布に好適な一般的な塗布法が使用できる。又は、図1(c)〜(e)などの両面テープ中に光熱変換層を形成する場合には、ダイコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティングなどの塗布法を使用して、光熱変換層をフィルム上に形成することができる。
【0025】
一般に、光熱変換層の厚さは、支持体と基材の分離を可能にするかぎり限定されないが、通常は、0.1μm以上である。0.1μm未満であると、十分な光吸収を行うために要求される光吸収剤の濃度が高くなり、このため、成膜性が悪くなり、結果として、隣接層との接着不良を起こすことがあるからである。一方、光熱変換層の熱分解による分離を可能にするために要求される光吸収剤の濃度を一定に保ちつつ、光熱変換層の厚さを5μm以上にすると、光熱変換層(又はその前駆体)の光透過率が低くなる。このため、紫外線(UV)硬化型などの光硬化性の光熱変換層や接合層を用いる場合、それらの硬化が阻害され、十分に硬化された硬化物を得ることができないことがある。よって、紫外線硬化型などの光熱変換層においては、放射エネルギー照射後に支持体から基材を分離するのに要する剥離力を小さくし、研削中の光熱変換層の磨耗を防止するために、光熱変換層の厚さは好ましくは0.3〜3μmであり、より好ましくは0.5〜2.0μmである。
【0026】
接合層
接合層は被研削基材を光熱変換層を介して支持体に固定するために用いられる。光熱変換層における分解による基材と支持体との分離の後には、接合層が付着した基材が得られる。このため、接合層はピールにより基材から容易に剥離されうるものであることが必要である。したがって、接合層は基材を支持体に固定するためには十分な接着力を有するが、ピールにより剥離されうるために十分に低い接着力を有するものである。本発明において、接合層として使用可能な接着剤としては、ゴム、エラストマーなどを溶剤に溶解したゴム系接着剤、エポキシ、ウレタンなどをベースとする一液熱硬化型接着剤、エポキシ、ウレタン、アクリルなどをベースとする二液混合反応型接着剤、ホットメルト型接着剤、アクリル、エポキシなどをベースとする紫外線(UV)もしくは電子線硬化型接着剤、水分散型接着剤が挙げられる。(1)ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート又はポリエステルアクリレートなどの重合性ビニル基を有するオリゴマー及び/又は(2)アクリルもしくはメタクリルモノマーに光重合開始剤、及び、場合により、添加剤を添加したUV硬化型接着剤は好適に使用される。添加剤としては、増粘剤、可塑剤、分散剤、上記透明フィラー以外のフィラー、難燃剤及び熱老化防止剤などが挙げられる。
【0027】
特に、シリコンウェハなどの被研削基材は、回路パターンなどの凹凸を持つのが一般的であるが、被研削基材の凹凸に接合層を充填させ、接合層を均一な厚さとするためには、接合層のために使用される接着剤は塗布時及び貼り合わせ時に液状であることが望ましく、好ましくは、塗布及び貼り合わせ作業の際の温度(例えば、25℃)で、粘度が10000cps未満であることが望ましい。このような液状接着剤は後述する種々の方法の中で、スピンコーティング法により塗布されることが好ましい。このような接着剤としては、UV硬化型、可視光硬化型接着剤が特に好ましい。というのは、上記の理由から、接合層の厚さを均一にすることができることに加えて、工程スピードが速いからである。
また、溶媒系の接着剤では接着剤の溶媒除去後、硬化型接着剤では硬化後、ホットメルト型接着剤では、常温固化後の使用に供される状況において、25℃での接着剤の弾性率が100MPa以上であり、また、50℃での弾性率が10MPa以上であることが望ましい。被研削基材の研削時にかかる応力によって、歪むことがなく、そのため、極薄基材まで均一に被研削基材を研削することが可能になるからである。
【0028】
また、接合層としては図1(b)〜(e)などのような両面接着テープを用いることもできる。このような両面接着テープは、通常、フィルムの両面に粘着剤層が設けられている。使用可能な粘着剤としては、アクリル、ウレタン、天然ゴムなどを主成分とする粘着剤、あるいは、これらに加えて架橋剤を含む粘着剤が挙げられる。好ましくは2−エチルヘキシルアクリレート又はブチルアクリレートを主成分とする共重合体を含む粘着剤である。また、フィルムとしては紙やプラスティックなどのフィルムが用いられる。ここで、フィルムは基材からのピールによる接合層の剥離を可能とするために十分に可撓性であることが必要である。
【0029】
接合層の厚さは被研削基材の研削に必要とされる厚み均一性と、積層体から支持体を除去した後のウェハからの接合層のピール剥離に必要な引き裂き強度を確保し、基材の表面の凸凹を十分に吸収できるものであれば、特に限定されないが、接合層の厚さは典型的には10〜150μmであり、好ましくは25〜100μmである。
【0030】
添加されうる更なる添加剤
本発明の積層体の被研削基材は、回路形成したウェハであることが想定されるので、光透過性支持体、光熱変換層、接合層を透過してウェハに達するレーザー光などの放射エネルギーにより、ウェハ回路がダメージを受けることが考えられる。このような回路ダメージを回避するために、放射エネルギーの波長の光を吸収する染料や反射する顔料を積層体を形成するいずれかの層に含ませるか、或いは、光熱変換層とウェハとの間に新たに設ける層に含ませることもできる。レーザーを吸収する染料としては、使用するレーザー光の波長付近に吸収ピークを持つ染料(例えば、フタロシアニン系染料、シアニン系染料)が挙げられる。レーザー光を反射する顔料としては、酸化チタンなどの無機白色顔料が挙げられる。
【0031】
積層体の製造方法
積層体の製造にあたって、層間に空気などの異物を混入させないことは肝要である。層間に空気が混入すると、積層体の厚さ均一性が妨げられ、結果として被研削基材を薄肉まで研削することができない。図1(a)に示すような積層体を製造する場合には、例えば以下の方法が考えられる。まず、光熱変換層の前駆体塗布液を上記の塗布方法のいずれかにより支持体上に塗布し、乾燥し、紫外線を照射するなどして硬化させる。次に、硬化した光熱変換層の表面、又は、基材の研削されない側の面のいずれか一方又は両方に接合層を塗布する。これらの光熱変換層と基材とを接合層を介して貼り合わせ、支持体側から紫外線を照射するなどして接合層を硬化させることにより積層体を形成することができる。このような積層体の形成は層間への空気の混入を防止するために真空下で行なわれることが望ましい。これは、例えば、特開平11−283279号公報に記載されている真空接着装置に変更を加えたものを用いて行うことができる。また、図1(b)〜(e)に示すような積層体を製造する場合には、まず、通常の方法により事前に形成された両面テープを用いて被研削基材と支持体とを貼り合わせることにより容易に積層体を形成することができる。これも上記の場合と同様に真空下に行なわれることが望ましい。なお、積層体を形成するために使用できる真空接着装置については後述する。
【0032】
なお、積層体は被研削基材の研削中に使用される水が浸入せず、また、基材の脱落が生じないように各層間の接着力を有するように設計され、また、光熱変換層が研削された基材粉塵を含む水流(スラリー)により磨耗されないような耐磨耗性となるように設計されることが望ましい。
【0033】
薄肉化された基材の製造方法
上記のように形成された積層体を用意すること、
被研削基材を所望の厚さまで研削すること、
光透過性支持体を介して光熱変換層に放射エネルギーを照射して、光熱変換層を分解し、被研削基材と光透過性支持体とを分離すること、及び、
研削後の基材から接合層を剥離すること、
の工程を含む方法により、薄肉化された基材を製造することができる。
【0034】
以下において、図面を参照しながら、本発明の方法を説明する。以下、限定するわけではないが、放射エネルギーとして、レーザー光を用いている。また、被研削基材としてはシリコンウェハを用いている。
【0035】
図2には、本発明の積層体を製造するのに適した真空接着装置の断面図を示されている。真空接着装置20は真空チャンバー21、真空チャンバー21内にあり、被研削基材(シリコンウェハ)2又は支持体5のいずれか一方を配置するための支持部22、真空チャンバー21内にありかつ支持部22の上方において鉛直方向に移動することができる、支持体5又はシリコンウェハ2の他方を保持/開放するための保持/開放手段23を含む。真空チャンバー21は真空ライン24及び真空バルブ25を介して減圧装置(図示していない)に接続されており、真空チャンバー21内を減圧することができるようになっている。また、上記の保持/開放手段23は、鉛直方向に上下に移動することができるシャフト26、シャフト26の先端にある接面部27、接面部27の周辺部にある板ばね28、板ばね28上から延びている保持用ツメ29を具備している。図2(a)に示すように、板バネ28は真空チャンバー21の上面と接しているときには、板バネ28が圧縮されて、保持用ツメ29が鉛直方向に向けられ、支持体5又はウェハ2を周縁部で保持するようになっている。一方、図2(b)に示すように、シャフト26を下方に押し下げ、支持体5又はウェハ2が支持部に配置されているウェハ2又は支持体5と近接したときに、板バネ28とともに保持用ツメ29は開放されて、支持体5とウェハ2が重ね合わされるようになっている。
この真空接着装置20を用いて、具体的には、以下のとおりに積層体が製造できる。まず、上記のとおりに、支持体上に光熱変換層を形成し、光熱変換層が形成された支持体5を用意する。一方、積層しようとするウェハ2を用意する。ここで、支持体5の光熱変換層及びウェハ2のいずれか一方又は両方の上に接合層を形成するための接着剤を適用する。このように、用意された支持体5及びウェハ2を上記のとおりに真空接着装置20の真空チャンバー21内に図2(a)のように配置し、減圧装置で減圧し、その後、シャフト26を押し下げて、図2(b)に示すように積層し、大気開放した後に、さらに、必要に応じて、接着剤を硬化させることにより積層体が得られる。
【0036】
図3には、研削装置の部分断面図が示されている。研削装置30は、台座31と、スピンドル32の下端部に回転可能に取り付けられた研削砥石33を含む。台座31の下方には吸引口24があり、吸引口34は減圧装置(図示しない)に連結されている。これにより、被研削体は吸引され、研削装置30の台座31に固定される。図1に示されるような本発明の積層体1を用意し、これを被研削体とする。積層体1の支持体側を研削装置30の台座31に設置し、減圧装置による吸引で固定する。その後、積層体1に水流を与えながら、回転している研削砥石33を接触させ、研削を行う。研削は150μm以下の極薄肉まで行うことができ、好ましくは50μm以下まで行われ、さらに好ましくは25μm以下まで行われる。
【0037】
所望のレベルまで研削を行った後に、積層体1を取り外し、次の工程に搬送し、レーザー光によるウェハと支持体との分離及びウェハからの接合層の剥離の工程が行われる。図4は、支持体の分離及び接合層の剥離の工程図を示している。まず、最終的なダイシングの工程を考慮して、積層体1のウェハ側に必要な場合にはダイボンディングテープ41を配置し(図4(a))、又は、ダイボンディングテープ41を配置せず(図4(a′))、その後、ダイシングテープ42及びダイシングフレーム43を配置する(図4(b))。次に、積層体1の支持体側からレーザー光44の照射を行う(図4(c))。レーザー光の照射後に、支持体5を引き上げ、ウェハ2から支持体5を分離する(図4(d))。最後に、接合層3をピールにより剥離し、薄肉化されたシリコンウェハ2を得ることができる(図4(e))。
【0038】
図5には、レーザー光照射工程などに使用できる積層体固定装置の断面図が示されている。積層体1は固定装置50に対して支持体が上面となるように固定台51上に設置される。固定台51は焼結金属などの多孔質金属又は表面粗さをもった金属から形成されている。このような固定台51の下方から真空装置(図示していない)により減圧することにより、積層体1を固定台51に吸引により固着させる。この真空吸引力は後の工程の支持体の分離及び接合層のピール剥離の際に脱落しない程度に強固なものであることが望まれる。このように固定した積層体に対してレーザー光を照射する。レーザー光としては、光熱変換層が吸収する光の波長で、この光熱変換層の熱分解性樹脂が分解して分解ガスを発生し、支持体とウェハとを分離するのに十分であるような出力をもったレーザー光源が選択される。具体的には、YAGレーザー(波長1064nm)、2倍高調波YAGレーザー(波長532nm)、半導体レーザー(波長780〜1300nm)を用いることができる。
【0039】
レーザー照射装置としては被照射面に所望のパターンが形成されるようなレーザービームを走査することができかつレーザー出力、ビーム移動速度を設定することができるものを選択する。また、被照射物(積層体)の加工品質を安定化させるために、焦点深度が深いものを選ぶ。装置設計上の寸法精度にも依存するので特に限定されないが、30μm以上の焦点深度が望ましい。図6には本発明で使用可能なレーザー照射装置の斜視図が示されている。図6(a)のレーザー照射装置60はX軸及びY軸からなる二軸構成のガルバノメータを備えているものであり、レーザー発振器61から発振されたレーザー光はY軸ガルバノメータ62で反射し、さらにX軸ガルバノメータ63で反射して固定台上の積層体1に照射されるようになっている。照射位置はガルバノメータ62及び63の向きにより決まる。図6(b)のレーザー照射装置60は、一軸のガルバノメータ又はポリゴンミラー64及びそれらのスキャン方向に直交する向きに可動するステージ66を備えたものである。レーザー発振器61からのレーザー光はガルバノメータ又はポリゴン64で反射し、さらにホールドミラー65で反射して、可動ステージ66上の積層体1に照射される。照射位置はガルバノメータ又はポリゴン64の向き及び可動ステージ66の位置により決まる。図6(c)はレーザー発振器61をXYの2軸方向に移動する可動ステージ66に載せ、積層体1の全面にレーザーを照射するものであり、図6(d)は固定されたレーザー発振器61と、積層体1がXYの2軸方向に移動する可動ステージ66からなるものである。また、図6(e)は1軸方向に移動することができる可動ステージ66’にレーザー発振器61を載せ、それに直交する方向に移動することができる可動ステージ66”に積層体1を載せた構成である。
レーザー照射によって、積層体1のウェハへのダメージが懸念される場合には、隣接領域へのダメージを抑制するために、急峻なエネルギー分布をもち、隣接領域への漏れエネルギーが僅かであるように、トップハット形状(図6(f)参照)にすることが望ましい。そのようにビーム形状を変える方法として、(a)音響・光学素子によりビームを偏向させる方法、屈折・回折を利用してビームを成型する方法、(b)アパチャー、スリットなどを使って、ビームの両端の広がり部分をカットする方法などがある。
【0040】
レーザー照射エネルギーはレーザーパワー、ビームのスキャン速度及びビーム径で決まる。特に限定するわけではないが、使用可能なレーザーパワーは、例えば、0.3〜100ワット(W)であり、スキャン速度は0.1〜40メートル/秒(m/秒)であり、ビーム径は5μm〜300μmあるいはそれ以上である。この工程の速度を高めるためには、レーザーパワーを高くして、それにより、スキャン速度を上げることである。また、ビーム径が大きいほど、スキャン回数を減らすこともできるので、レーザーパワーに余裕がある場合にはビーム径を上げることも考えられる。
【0041】
レーザーの照射によって光熱変換層中の熱分解性樹脂が分解してガスが発生し、層内部に亀裂が生じて光熱変換層自体が分離する。この亀裂部同士の間に空気が入り込むと、亀裂部同士の再接着を防止することができる。そこで、空気の侵入を容易にするように、ビームの走査は積層体の端部から行ない、かつ隙間なく行うことが望ましい。
また、光熱変換層は上記のとおり、ガラス転移温度(Tg)が室温(20℃)以上であることが望ましいことを記述した。これは、分解した樹脂の冷却時に、分離された亀裂部同士が再接着することにより、剥離できなくなることがあるからである。再接着は支持体の自重により、光熱変換層の亀裂部同士が付着することにより生じるものと考えられる。このため、レーザー照射は鉛直方向下方から上方に向けて行うか(すなわち、支持体が下側になるような配置でレーザー照射する)、或いは、ウェハと光熱変換層との間に端部からフックを挿入して上方に引き上げるなどして、支持体の自重がかからないように工夫することにより再接着を防止することができる。
【0042】
レーザー光を積層体の端部から照射するためには、端部からウェハの接線方向に直線状に往復しながら照射していく方法と、レコードのように端部から中央にむかってスパイラル状に照射していく方法が考えられる。
【0043】
レーザー照射後に、ウェハから支持体を分離するが、この作業には、一般的なバキュームによるピックアップが用いられる。ピックアップは真空装置に連結された筒状部材の先端に吸盤が装着されたものである。図7には、ウェハと支持体との分離操作に用いられるピックアップの模式図を示す。図7(a)の場合には、ピックアップ70は支持体5の中央に装着し、垂直方向に引き上げることにより引き剥がす。あるいは、図7(b)に示すように、支持体5の端部にピックアップ70を装着し、ウェハ2と支持体5との間に空気が入り込むように側部から圧縮空気(A)を吹き付けながら剥離することで、より容易に剥離させることも可能である。
【0044】
支持体を除去した後に、ウェハ上の接合層を除去する。図8には、接合層の剥離の様子を示す模式図が示されている。接合層3の除去には、好ましくは、ウェハ2と接合層3との接着力よりも高い接着力を接合層3との間に形成することができる接合層除去用粘着テープ80を用いることができる。このような粘着テープ80を接合層3の上に接着させ、次いで、矢印の方向にピールすることにより、接合層3は除去される。
【0045】
最終的に、ダイシングテープ及びダイフレームに固定された、薄肉化されたウェハ、あるいは、ダイボンディングテープを介してダイシングテープ及びダイフレームに固定化された、薄肉化されたウェハが残る。このようなウェハを通常の要領でダイシングすることにより、チップが完成する。しかしながら、ダイシングはレーザー照射前に行うことも可能である。このような場合には、支持体上に支持された状態でダイシングを行い、その領域のみにレーザー照射を行い、チップ化された箇所のみを剥離させることもできる。また、研削によって薄肉化されたウェハを、ダイシングテープでなく、光熱変換層に設けた光透過性支持体に、接合層を介して、再度転写することにより、本発明をダイシング工程に別途応用することも可能である。
【0046】
本発明の用途
本発明は、例えば、以下の用途に用いる場合に有効である。
1.高密度実装を目指した積層型CSP(Chip Size Package)
これは複数のLSIや受動部品を単一のパッケージに収め、多機能化や高性能化を実現するシステムインパッケージと呼ばれるデバイス形態の1つで、スタックドマルチチップパッケージと呼ばれるものである。本発明によれば、25μm以下のウェハを安定的に歩留まりよく、製造することができるので、この用途に有効である。
2.高機能化・高速化を要求する貫通型CSP
これは貫通電極により、チップ間を接続することで、配線長さを短縮して電気的特性を向上させるものである。貫通電極を形成するための貫通孔の形成、貫通孔への銅(Cu)の埋め込みなどの技術的課題からチップ厚をさらに薄くすることが望まれている。このような構成のチップを本発明の積層体を用いて順次形成していく場合には、ウェハの裏面に絶縁膜及びバンプ(電極)を形成する必要があり、積層体に耐熱性及び耐薬品性が要求される。このような場合にも、上記のような支持体、光熱変換層及び接合層の選択を行えば、本発明を有効に応用することが可能である。
3.放熱効率を改善し、電気特性・安定性を向上させた極薄化合物半導体(GaAsなど)
ガリウムヒ素などの化合物半導体はシリコンよりも優れた電気特性(高い電子移動度、直接遷移型バンド構造)から、高性能ディスクリートチップ、レーザーダイオードなどに用いられている。それらの性能は本発明の積層体を用いることで、チップを薄くし、放熱効率を上げることにより改善される。現状では、グリースやレジスト材で支持体であるガラス基板に半導体ウェハを接合させて、薄研削及び電極形成を行っている。このため、プロセス終了後のガラス基板からのウェハの剥離には溶剤などによる接合材の溶解が必要である。したがって、剥離に要する時間が数日以上といった長時間にわたることに加えて、廃液処理の問題がある。本発明の積層体を用いた場合には、このような問題を解決することができる。
4.生産性改善のための大型ウェハへの応用
大型ウェハ(例えば、12インチ直径のシリコンウェハ)では、ウェハと支持体との剥離の容易性が非常に重要であり、本発明の積層体を用いた場合には、容易に剥離が可能であるため、この分野にも応用ができる。
5.極薄水晶ウェハ
水晶デバイスの分野では、発振周波数を高めるために、ウェハの薄型化が求められている。本発明の積層体を用いた場合には、容易に剥離が可能であるため、この分野にも応用ができる。
【実施例】
【0047】
以下において実施例により、本発明をさらに説明する。
予備試験
まず、種々のレーザー光照射条件を用いて、支持体とウェハとの剥離性を評価した。剥離性は、レーザー光照射による光熱変換層の分解の程度に依存するので、薄肉化されたウェハの代わりにガラス基板を用いた。光透過性支持体として、127mm×94mm×0.7mmのガラス基板を用い、ウェハの代わりとして上記と同一のガラス基板を用いた。先ず、ガラス基板に下記の表1に記載される組成の光熱変換層前駆体の10%溶液(プロピレングリコールメチルエーテルアセテート溶剤中)をスピンコートにより塗布する。
【0048】
【表1】

【0049】
これを加熱により乾燥し、紫外線(UV)照射して硬化させて支持体上に光熱変換層を形成した。一方、もう一枚のガラス基板に下記の表2に記載される組成の接合層前駆体を滴下により塗布し、基板同士を貼り合せて、それにUV照射して接合層前駆体を硬化させて、積層体を得た。
【0050】
【表2】

【0051】
この積層体はガラス基板/光熱変換層/接合層/ガラス基板の構成であり、光熱変換層の厚さは0.9μmであり、接合層の厚さは100μmであった。このような積層体を図4に示すような積層体固定装置の固体台の上に配置し、固定台の下方から真空装置により減圧することにより、積層体を固定台に吸引により固定した。放射エネルギーを構成するレーザー光としてYAGレーザー(波長1064nm)を用い、レーザー出力を0.52〜8.00Wで変化させ、ビーム径及び走査ピッチを同一として90〜200μmで変化させ、レーザースキャン速度を0.2〜5m/秒で変化させて、レーザー光を積層体の端部から直線状に往復しながら照射して、積層体の全面にレーザー光を照射した。
このようにレーザー照射した積層体のガラス基板に粘着テープ(Scotch粘着テープ#3303、3M社製)を付着させ、それを引き上げた。
【0052】
以上の予備試験により、レーザー出力6.0〜8.0W、ビーム径及び走査ピッチ100〜200μm、レーザースキャン速度0.2〜2.0m/秒でガラス基板同士が良好に剥離されることが判った。
【0053】
実施例1
光透過性支持体として、直径220mm×厚さ1.0mmのガラス基板を用い、ウェハとして、直径200mm×厚さ750μmのシリコンウェハを用いた。ガラス基板に上記の表1に記載される組成の光熱変換層前駆体の10%溶液(プロピレングリコールメチルエーテルアセテート溶剤中)をスピンコートにより塗布する。これを加熱により乾燥し、紫外線(UV)照射して硬化させて支持体上に光熱変換層を形成した。一方、ウェハに上記の表2に記載される組成の接合層前駆体を同様にスピンコートにより塗布し、図2に示すような真空接着装置内でガラス基板とウェハとを貼り合せて、それにUV照射して接合層前駆体を硬化させて、積層体を得た。この積層体はガラス基板/光熱変換層/接合層/シリコンウェハの構成であり、光熱変換層の厚さは0.9μmであり、接合層の厚さは100μmであり、接着面積は314cm2であった。
【0054】
得られた積層体を図3に示すような研削装置に設置し、積層体に水流を与えながら、回転している研削砥石を接触させ、研削を行った。研削はウェハの厚さが50μmになるまで行った。研削後のウェハ側にダイシングテープ及びダイシングフレームを配置した後、積層体を図5に示すような積層体固定装置の固定台の上に搬送し、固定台の下方から真空装置により減圧することにより、積層体を固定台に吸引により固定した。
【0055】
上記の予備試験の結果から、レーザー出力6.0W、ビーム径及び走査ピッチ100μm、レーザースキャン速度1.0m/秒としてYAGレーザー(波長1064nm)によるレーザー照射を行うことにした。レーザー光を積層体の端部から接線方向に直線状に往復しながら照射して、積層体の全面にレーザー光を照射した。このようにレーザー照射した積層体のガラス基板に吸盤を付着させ、それを引き上げた。これにより、ウェハからガラス基板を容易に剥離して、接合層を有するウェハを得た。
【0056】
ウェハから接合層を剥離するために、接合層の面に粘着テープ(Scotch粘着テープ#3303、3M社製)を付着させ、180°の方向にピールすることにより、50μmの厚さのシリコンウェハを損傷させることなく得ることができた。
【0057】
実施例2
本例において、実施例1と同様に試験したが、以下の変更を加えた。光熱変換層前駆体として、下記表3に記載される組成の固形分比を有する20%溶液(プロピレングリコールメチルエーテルアセテート中)を用いた。また、レーザー光照射時にガラス基板の自重による再接着を防止するために、ガラス基板の端部にL字型フックを挿入し、ばねで上方に吊り上げるようにして、レーザー光照射時のガラス基板の自重による再接着を防止した。実施例1と同様に、50μmの厚さのシリコンウェハを損傷させることなく得ることができた。
【0058】
【表3】

【0059】
実施例3
本例において、実施例2と同様に試験したが、光熱変換層前駆体として、下記表4に記載される組成の固形分比を有する10%溶液(プロピレングリコールメチルエーテルアセテート中)を用いた。光熱変換層前駆体はカーボンブラックを含むポリマー溶液であり、従って、乾燥のみにより光熱変換層を形成した。
【0060】
【表4】

【0061】
同様の操作により、実施例1と同様に、50μmの厚さのシリコンウェハを損傷させることなく得ることができた。
【0062】
比較例1
光熱変換層を用いず、接合層の代わりに、両面粘着テープ(Scotch両面粘着テープ、3M社製、75μm厚さで、軽剥離粘着層/PET(ポリエチレンテレフタレート)基材/重剥離粘着層)を用いて、シリコンウェハ/粘着テープ/ガラス基板からなる積層体とした以外は実施例1と同様に試験した。シリコンウェハは剥離することができなかった。
【0063】
実施例4〜10
以下において、種々の組成及び厚さの光熱変換層を用い、そして接合層として、上記の実施例1〜3で用いたのと同一の組成の接着剤(高弾性率型接着剤)及び下記の組成の接着剤(低弾性率型接着剤)を用いて、上記実施例1〜3と同様に試験した。なお、接合層の厚さは50μmとした。また、シリコンウェハの研削は25μmまで行った。以下に、各実施例での光熱変換層の組成と厚さ及び接合層の組成を表5及び6に示す。実施例4〜6においては、透明フィラーとしてシリカを含有させた。
【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
試験において、実施例1に記載される手順でウェハとガラス基板との剥離を行った。試験結果を以下の表7に示す。
【0067】
【表7】

【0068】
上記のとおり、高弾性率型接合層を用いた場合には、実施例4〜10の全ての場合において、ガラス基板と25μmのウェハとを容易に分離することができた。一方、低弾性率型接合層を用いた場合には、FVC/CFVCが80%以下である実施例6、8〜10では、容易にガラス基板とウェハとを分離することができなかった。実施例8は、FVC/CFVCが80%以上であったが、光熱変換層の厚さが0.3μmと小さかったので、分離面に接合層が局所的に露出する現象のために、再接着が起こり、剥離力が大きくなった。これらの実施例6、8〜10については、再度、試験用サンプルを製造し、実施例2及び3に記載されるように、再接着防止機構(L字フックとバネによる吊り下げ機構)を用いて、実施例2及び3と同様に試験した。このような場合には、ガラス基板と25μmのウェハとを容易に分離することができた。また、カーボンブラックだけでなく、シリカを用いた、実施例4及び5では、FVC/CFVCが80%以上であっても、2%程度の紫外線(365nm)透過率が確保でき、短時間でUV硬化型接着剤を用いた接合層を硬化することができた。
【0069】
態様
1. 被研削基材と、
前記被研削基材と接している接合層と、
光吸収剤及び熱分解性樹脂を含む光熱変換層と、
光透過性支持体と、
を含み、
但し、前記光熱変換層は、前記接合層とは反対側の前記被研削基材の表面を研削した後に、放射エネルギーが照射されたときに分解して、研削後の基材と前記光透過性支持体とを分離するものである、積層体。
2. 前記被研削基材は脆性材料である、態様1記載の積層体。
3. 前記被研削基材はシリコンウェハである、態様1記載の積層体。
4. 前記光吸収剤はカーボンブラックを含む、態様1〜3のいずれか1項記載の積層体。
5. 前記光熱変換層は透明フィラーをさらに含む、態様1〜4のいずれか1項記載の積層体。
6. 前記透明フィラーはシリカである、態様5記載の積層体。
7. 前記光吸収剤はカーボンブラックであり、前記光熱変換層中の前記カーボンブラックと前記透明フィラーとの総量は前記光熱変換層の体積を基準にして、5体積%〜70体積%である、態様5又は6記載の積層体。
8. 前記光吸収剤はカーボンブラックであり、前記光熱変換層中の前記カーボンブラックと前記透明フィラーとの総量は臨界フィラー体積濃度の80%以上である、態様5又は6記載の積層体。
9. 前記光熱変換層は前記光熱変換層の体積を基準にして5〜70体積%のカーボンブラックを含む、態様1記載の積層体。
10. 前記支持体はガラスである、態様1〜9のいずれか1項記載の積層体。
11. 前記接合層は光硬化型接着剤である、態様1〜10のいずれか1項記載の積層体。
12. 光吸収剤及び、熱分解性樹脂の溶液又は熱分解性樹脂の原料となるモノマーもしくはオリゴマーを含む光熱変換層前駆体を光透過性支持体上に塗布すること、
前記光熱変換層前駆体を乾燥固化又は硬化させて、前記光透過性支持体上に光熱変換層を形成させること、
被研削基材又は光熱変換層上に接着剤を適用して、接合層を形成すること、及び、
減圧下において、前記被研削基材と前記光熱変換層とを前記接合層を介して接合して、積層体を形成すること、
の工程を含む、態様1〜11のいずれか1項記載の積層体の製造方法。
13. 減圧下において、光透過性支持体上に形成された光熱変換層を、接合層を介して被研削基材に積層する、態様1〜11のいずれか1項記載の積層体の製造装置であって、
(1)所定の圧力にまで減じられる真空チャンバー、
(2)前記真空チャンバー内にあり、被研削基材又は光熱変換層が形成された光透過性支持体のいずれか一方を配置するための支持部、
(3)前記真空チャンバー内にありかつ前記支持部の上方において鉛直方向に移動することが可能であり、被研削基材又は光熱変換層が形成された光透過性支持体の他方をその周縁部で保持するとともに、被研削基材と光熱変換層との近接時に開放することができる保持/開放手段、
を含む、積層体の製造装置。
14. 態様1〜11のいずれか1項記載の積層体を用意すること、
前記被研削基材を所望の厚さまで研削すること、
前記光透過性支持体を介して前記光熱変換層に放射エネルギーを照射して、前記光熱変換層を分解し、研削後の基材と光透過性支持体とを分離すること、及び、
前記研削後の基材から接合層を剥離すること、
の工程を含む、薄肉化された基材の製造方法。
15. 態様1〜11のいずれか1項記載の積層体の被研削基材を研削するための手段、
前記光透過性支持体を介して前記光熱変換層に放射エネルギーを照射して、前記光熱変換層を分解し、研削後の基材と光透過性支持体とを分離するために十分な放射エネルギーを放射することができる、放射エネルギー照射手段、及び、
前記研削後の基材から接合層を剥離するための手段、
を含む、薄肉化された基材の製造装置。
【符号の説明】
【0070】
1 積層体
2 被研削基材
3 接合層
4 光熱変換層
5 支持体
20 真空接着装置
30 研削装置
50 積層体固定装置
60 レーザー照射装置
70 ピックアップ
80 接合層除去用粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収剤、熱分解性樹脂の溶液又は熱分解性樹脂の原料となるモノマーもしくはオリゴマー、及びフィラーを含む、薄肉化された基材の製造に使用される光熱変換層前駆体であって、熱分解性樹脂のガラス転移温度は20℃以上であり、且つ光熱変換層前駆体により形成される光熱変換層は、放射エネルギーの照射による熱分解性樹脂の熱分解により光熱変換層内で空隙が生じる、前記光熱変換層前駆体。
【請求項2】
前記光吸収剤はカーボンブラックである、請求項1記載の光熱変換層前駆体。
【請求項3】
前記フィラーはシリカである、請求項1又は2記載の光熱変換層前駆体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−155652(P2009−155652A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87422(P2009−87422)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【分割の表示】特願2002−350247(P2002−350247)の分割
【原出願日】平成14年12月2日(2002.12.2)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】