説明

被膜付き部材の製造方法

【課題】従来よりも作業性に優れる被膜付き部材の製造方法を提供しようとするもの。
【解決手段】帯状体7に複数の部材8が連設する金属シート9を両面エッチングにより形成し、前記部材8と帯状体7との境界に部材8側が高くなる段差10をハーフエッチングにて形成するエッチング工程と、前記段差10が形成された側の面に被膜を形成する被膜形成工程と、前記被膜が形成された面の段差10の下方側で部材8を帯状体7から分断する切断工程とを有する。被膜を形成する被膜形成工程は部材を帯状体から分断する切断工程の前に行うようにしているので、帯状体に複数の部材が連設している状態で被膜形成を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、携帯電話などに装着される被膜付き部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、腕時計等の小さな時計用針は、帯状金属シートに、金型を用いたプレス加工により時計用針の外形を帯状金属シートに付設させたまま抜き加工し、この時計用針を帯状金属シートに付設させたまま鏡面仕上げをし、その後、帯状金属シートから時計用針を外し、メッキ処理や印刷などを施して製造していた(例えば、特許文献1参照)。そして前記特許文献1では、金属シートのエッチング加工によって形成され、多数の時計用針を備えた時計用針シートが提案されている。
【0003】
一方、携帯電話のスピーカー部分を保護するために、この部分に被せるように装着される部材として小さな外装カバー体がある。この外装カバー体は、一端辺が若干湾曲した四角形状のステンレス製金属薄板であって表面側に塗装が施されたものであり、スピーカーの音の連通用の複数の六角孔(星型孔などもある)が穿設されている。この外装カバー体は、次のようにして製造されていた。
【0004】
すなわち、薄板のステンレス製金属シートを両面エッチングにより溶解させて、帯状体に複数の外装カバー体が連設するよう形成する。その場合スピーカーの音の連通用の六角孔及びプレスの位置決め孔も溶解形成する。次いで、前の工程で明けられた位置決め孔にて位置を決め、曲げプレス加工を行い外装カバー体が携帯電話の湾曲面に沿う形状になるように形成させた後、個々の外装カバー体へと切断して分断する。最後に分断した複数の外装カバーの表面に吹き付け塗装を施す。
【0005】
しかし、分断した複数の各外装カバー体の表面に吹き付け塗装を施すのは、個々に皮膜を付けなければならず作業性がよくないという問題があった。
【特許文献1】特開平11―352249号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこでこの発明は、従来よりも作業性に優れる被膜付き部材の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明の被膜付き部材の製造方法は、帯状体に複数の部材が連設する金属シートを両面エッチングにより形成し、前記部材と帯状体との境界に部材側が高くなる段差をハーフエッチングにて形成するエッチング工程と、前記段差が形成された側の面に被膜を形成する被膜形成工程と、前記被膜が形成された面の段差の下方側で部材を帯状体から分断する切断工程とを有することを特徴とする。
【0008】
この被膜付き部材の製造方法は、被膜を形成する被膜形成工程は部材を帯状体から分断する切断工程の前に行うようにしているので、帯状体に複数の部材が連設している状態で被膜形成を行うことができる。
【0009】
ここで、エッチング工程では帯状体に複数の部材が連設する外形形状は両面エッチングにより溶解させて形成し、部材と帯状体との境界に部材側が高くなる段差をハーフエッチングにより形成するようにし、切断工程では被膜が形成された側の面の段差の下方側で部材を帯状体から分断するようにしており、切断位置は被膜が形成された部材の面自体ではなく帯状体との境界の段差の下方側であるので、被膜が形成された部材の面自体には切断時の被膜剥がれや被膜めくれなどは生じず綺麗な被膜を得ることができる。
【0010】
なお、被膜形成工程として、塗料の塗装工程や金や銀等のメッキ工程などを例示することができる。また、エッチング加工によって外形や六角孔などを形成すると、プレスによる抜き加工では不可能な六角孔明け(星型など種々の形状)加工が可能となり、その金型費等が不要となる。
【0011】
(2) 前記エッチング工程と被膜形成工程との間に、部材に被膜を形成する面が凸となるように湾曲を形成する曲げプレス工程を有することとしてもよい。
【0012】
このように構成し、エッチング工程後に必要に応じて部材に湾曲を形成して被膜形成工程へ送るようにしてもよい。そして、部材に被膜を形成する面が凸となるように湾曲を形成し、被膜形成工程で被膜が形成された面の段差の下方側で部材を帯状体から分断するようにすると、切断時に部材の受け側の金型に対して凸面が上となる位置関係となり部材にガタツキが生じ難く分断がし易い。
【発明の効果】
【0013】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
【0014】
帯状体に複数の部材が連設している状態で被膜形成を行うことができるので、従来よりも作業性に優れる被膜付き部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を図面(図1乃至図5)を参照して説明する。
【0016】
この実施形態の被膜付き部材1(図1(ヘ)参照)は、携帯電話2(図5参照)のスピーカー部分を保護するためにこの部分に被せるように装着される小さな外装カバー体としている。この外装カバー体は、約7mm×16mmの一端辺3が若干湾曲した角部が丸い略四角形状のステンレス金属製小片であって、表面側に黒色の塗装が施されたものであり、スピーカーの音の連通用の複数の六角孔4(星型孔など種々の場合がある)が穿設されている。若干湾曲した一端辺の対向辺5は少し窪ませている。
【0017】
そして、この被膜付き部材の製造方法は、エッチング工程(A)と曲げプレス工程
(B)と被膜形成工程(C)と切断工程(D)とを有する。
【0018】
図1(イ)(ロ)に示すようにエッチング工程(A)では、1枚の大きなステンレス製金属薄板6(400mm×500mm、厚さ0.3mm)について、中心の帯状体7に沿ってその両側に複数対(9対)の部材8(18個)が連設するいわゆる二丁取りタイプの金属シート9を両面エッチング加工により溶解させて得ると共に、図1(ハ)、図2及び図3に示すように部材8と帯状体7との境界に部材8側が高くなる段差10をハーフエッチング加工するようにしている。ハーフエッチング加工により溶解させる領域は、部材8と帯状体7との間の長方形状の連結領域11の表面側(被膜形成する面側)である。
【0019】
ここで、前記エッチング工程(A)では、帯状体7に複数の部材8が連設する金属シート9の外形と六角孔4(貫通孔)をエッチング加工により形成するようにしている。すなわちエッチング工程(A)では、金属シート9の段差10の部分(長方形状の連結領域11)のハーフエッチング加工と共に、金属シート9の外周部分の不要領域の溶解と六角孔4(貫通孔)の形成のためのエッチング加工を一緒に(同時に一遍に)行うようにしている。前記エッチング加工では、図1(イ)〜(ハ)に示すように、1枚の大きなステンレス製金属薄板6から帯状体7に複数の部材8が連設する複数枚の金属シート9を取るようにしている
前記エッチング工程(A)で両面エッチング加工する領域は、表・裏にレジスト(耐蝕被膜)を塗布されたステンレス製薄板6にパターン・フィルムの上から光りを当て感光させた後現像することにより、パターン部(金属シート9の外周部分の不要領域、六角孔4、位置決め孔12)のレジスト膜を取り除き金属表面を露出させる。
【0020】
また、ハーフエッチング加工する領域は、金属シート9の長方形状の連結領域11の表面側(被膜形成する面側)のみレジスト膜を取り除き金属面を露出させる。このようにして現像させたステンレス製薄板6にエッチング液吹き付けることにより露出している部分を溶解させる。こうして、ステンレス製薄板6中の金属シート9の外周部分の不要領域、六角孔4、位置決め孔12は両面エッチングにより形成、貫通され、長方形状の連結領域11は板厚の半分を溶解するいわゆるハーフエッチングされる。
【0021】
さらに、前記エッチング工程(A)と被膜形成工程(C)との間に、部材8に被膜を形成する面が凸となるように湾曲を形成するプレス工程(B)を有する(図1(ニ)及び図4参照)。
【0022】
すなわち、複数の位置決め孔12を利用し、曲げプレス加工により外装カバー体が携帯電話の湾曲面に沿う形状となるように部材8に被膜を形成する面が凸となるように湾曲・成形させた後、被膜形成工程(C)を経て、切断工程(D)で個々の外装カバー体へと切断して分断するようにしている。
【0023】
そして、前記被膜形成工程(C)では、前記金属シート9の段差10が形成された側の面に吹き付け塗装で被膜を形成する。図1(ホ)及び図4に示すように、これに続く切断工程(D)では、被膜が形成された面の部材8と帯状体7との間の長方形状の連結領域11の部材8側の段差10の下方側で部材8を帯状体7から分断する。図1(ヘ)に示すように、分断された連結領域11の部材8側の段差10の下方側は金属断面が見えており、その上方側は塗膜が見えている。この部分は装飾的な観点から携帯電話2の内方側などの見えない位置に設定することが好ましい。
【0024】
次に、この実施形態の被膜付き部材の製造方法の使用状態を説明する。
【0025】
この被膜付き部材の製造方法は、被膜を形成する被膜形成工程(C)は部材8を帯状体7から分断する切断工程(D)の前に行うようにしているので、金属シート9の帯状体7に複数の部材8が連設している状態で被膜形成を行うことができ、従来よりも作業性に優れるという利点がある。
【0026】
また、エッチング工程(A)では帯状体7に複数の部材8が連設する金属シート9をハーフエッチング加工により溶解させて図1(ハ)、図2及び図3に示すように部材8と帯状体7との境界に部材8側が高くなる段差10を形成するようにし、切断工程(D)では被膜が形成された側の面の段差10の下方側で部材8を帯状体7から分断するようにしており、図4に示すように切断位置13は被膜が形成された部材8の面自体(=部材8の被膜表面と面一の位置)ではなく帯状体7との境界の段差10の下方側であるので、被膜が形成された部材8の面自体(=部材8の被膜表面)には切断時の塗装(被膜)剥がれや塗装(被膜)めくれなどは生じず綺麗な塗装被膜を得ることができるという利点がある。
【0027】
さらに、図4に示すようにエッチング工程(A)後の曲げプレス工程(B)で部材8に被膜を形成する面が凸となるように湾曲を形成して被膜形成工程(C)へ送るようにし、図1(ホ)及び図4に示すように被膜形成工程(C)で被膜が形成された面側から段差10の下方側で部材8を帯状体7から分断するようにしているが、切断加工時に部材8の受け側の金型(図示せず)に対して凸面が上となる位置関係で切断作業を行うと、切断時に部材8にガタツキが生じ難く分断がし易いという利点がある。
【0028】
そして、この被膜付き部材の製造方法により前記のような携帯電話のスピーカー部分の保護用の外装カバー体の他に、エッチング銘板、小物装飾品及び精密部品などを製造することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0029】
金属シートの帯状体に複数の部材が連設している状態で被膜形成を行うことができ従来よりも作業性に優れることによって、種々の被膜付き部材の製造方法の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の被膜付き部材の製造方法を説明する工程図。
【図2】図1のエッチング工程後で曲げプレス工程前の金属シートの状態を説明する平面図。
【図3】図1及び図2の金属シートのA―A線矢視図。
【図4】図1の金属シートで曲げプレス工程、被膜形成工程後で切断工程前の金属シートのB―B線矢視図。
【図5】この発明の被膜付き部材の製造方法により形成した被膜付き部材が組み込まれた携帯電話の斜視図。
【符号の説明】
【0031】
7 帯状体
8 部材
9 金属シート
10 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状体(7)に複数の部材(8)が連設する金属シート(9)を両面エッチングにより形成し、前記部材(8)と帯状体(7)との境界に部材(8)側が高くなる段差(10)をハーフエッチングにて形成するエッチング工程と、前記段差(10)が形成された側の面に被膜を形成する被膜形成工程と、前記被膜が形成された面の段差(10)の下方側で部材(8)を帯状体(7)から分断する切断工程とを有することを特徴とする被膜付き部材の製造方法。
【請求項2】
前記エッチング工程と被膜形成工程との間に、部材(8)に被膜を形成する面が凸となるように湾曲を形成する曲げプレス工程を有する請求項1記載の被膜付き部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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