説明

被覆蛍光体の製造方法及び被覆蛍光体

【課題】 発光効率を長期に亘って維持することができる被覆蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体の製造方法であって、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を得る混合工程と、混合液を固相と液相とに分離する分離工程を有し、蛍光体は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、下記組成式(1)の原子数比で含有し、蛍光体と被覆材料との配合量を、40〜200質量部:260質量部とする。
[(Ba1−ySr1−xEuSi組成式(1)
ただし、組成式(1)中、a、b、c、x、yは、2.7<a<3.3、0.9<b<1.1、4.5<c<5.5、0<x<0.09、0.25<y<0.75なる関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体が被覆材料によって被覆された被覆蛍光体の製造方法及び被覆蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤色蛍光体としては、例えば、ケイ酸塩系の酸化物蛍光体や、CaSやSrSなどの硫化物塩である硫化物蛍光体が知られている。これらの酸化物蛍光体や硫化物蛍光体は、水分により劣化しやすいため、発光効率を長期に亘って維持することが難しい。そこで、例えば、特許文献1には、ZnS系の硫化物塩である硫化物蛍光体を被覆材料によって被覆して水分による劣化を防止する技術が記載されている。
【0003】
ところで、ケイ酸塩系の酸化物蛍光体は、例えば、(Ba1−ySr1−xEuSiで表され、波長600〜610nmに発光ピークを有し、蛍光体としての発光効率がよい。しかしながら、ケイ酸塩系の酸化物蛍光体においては、II族−O(酸素)間の結合であるのに対して、ZnS系の硫化物塩である硫化物蛍光体においては、II族−S(硫黄)間の結合である。そのため、ZnS系の硫化物塩である硫化物蛍光体は、ケイ酸塩系の酸化物蛍光体よりも共有結合性が強く、被覆材料によって被覆されていない場合においても、劣化が生じにくい。
【0004】
図1は、被覆材料によって被覆されていないZnS系の硫化物塩である硫化物蛍光体と、被覆材料によって被覆されていないケイ酸塩系の酸化物蛍光体との発光強度の変化率を示すグラフである。図1において白抜きの四角は、硫化物蛍光体の発光強度の変化率を示す。また、図1において黒抜きの四角は、酸化物蛍光体の発光強度の変化率を示す。
【0005】
このように、ケイ酸塩系の酸化物蛍光体に対して、特許文献1に記載されたZnS系の硫化物塩である硫化物蛍光体を被覆材料によって被覆する方法を適用したとしても、水分による劣化を防止し、発光効率を長期に亘って維持できるかどうかは明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−23221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、発光効率を長期に亘って維持することができる被覆蛍光体の製造方法及び被覆蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る被覆蛍光体の製造方法は、被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体の製造方法であって、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を得る混合工程と、混合液を固相と液相とに分離する分離工程を有し、蛍光体は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、下記組成式(1)の原子数比で含有し、蛍光体と被覆材料との配合量を、40〜200質量部:260質量部とする。
[(Ba1−ySr1−xEuSi 組成式(1)
ただし、組成式(1)中、a、b、c、x、yは、2.7<a<3.3、0.9<b<1.1、4.5<c<5.5、0<x<0.09、0.25<y<0.75なる関係を満たす。
【0009】
また、本発明に係る被覆蛍光体は、被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体であって、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を固相と液相とに分離することによって得られ、蛍光体は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、下記組成式(1)の原子数比で含有し、蛍光体と被覆材料との配合量を、40〜200質量部:260質量部とする。
[(Ba1−ySr1−xEuSi 組成式(1)
ただし、組成式(1)中、a、b、c、x、yは、2.7<a<3.3、0.9<b<1.1、4.5<c<5.5、0<x<0.09、0.25<y<0.75なる関係を満たす。
【0010】
また、本発明に係る被覆蛍光体は、被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体であって、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を固相と液相とに分離することによって得られ、蛍光体は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、下記組成式(1)の原子数比で含有し、当該被覆蛍光体を溶媒中に浸漬させた際の電気伝導度が400mS/m以下である。
[(Ba1−ySr1−xEuSi組成式(1)
ただし、組成式(1)中、a、b、c、x、yは、2.7<a<3.3、0.9<b<1.1、4.5<c<5.5、0<x<0.09、0.25<y<0.75なる関係を満たす。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆された被覆蛍光体が得られるため、水分による蛍光体の劣化を防止することができ、蛍光体の発光効率を長期に亘って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】被覆材料によって被覆されていないZnS系の硫化物塩である硫化物蛍光体と、被覆材料によって被覆されていないケイ酸塩系の酸化物蛍光体との発光強度の変化率を示すグラフである。
【図2】Eu濃度と、発光効率との関係を示すグラフである。
【図3】蛍光体と被覆材料との配合量と、被覆発光体の発光強度維持率との関係を示すグラフである。
【図4】混合工程における攪拌回転数と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。
【図5】混合工程における水分添加量と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。
【図6】混合工程における蛍光体と被覆材料との反応温度と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。
【図7】混合工程における蛍光体と被覆材料との反応時間と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。
【図8】被覆処理前における、蛍光体の比表面積と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。
【図9】被覆処理後における、蛍光体の比表面積と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。
【図10】時間変化に伴う発光強度維持率を示すグラフである。
【図11】発光効率を示すグラフである。
【図12】発光効率の伸び率を示すグラフである。
【図13】時間変化に伴う電気伝導度を示すグラフである。
【図14】ICP−MSの結果を示すグラフである。
【図15】ICP−MSの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
<被覆蛍光体の製造方法>
本実施の形態に係る被覆蛍光体の製造方法は、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を得る混合工程と、混合液を固相と液相とに分離する分離工程を有する。
【0015】
蛍光体は、波長600〜610nmに発光ピークを有するケイ酸塩系の酸化物蛍光体であり、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、下記組成式(1)の原子数比で含有してなるものである。
[(Ba1−ySr1−xEuSi 組成式(1)
ただし、組成式(1)中、a、b、c、x、yは、2.7<a<3.3、0.9<b<1.1、4.5<c<5.5、0<x<0.09、0.25<y<0.75なる関係を満たす。
【0016】
図2は、Eu濃度と、発光効率との関係を示すグラフである。図2に示すように、蛍光体は、上記組成式(1)中において、ユーロピウム濃度(x)が、0.02≦x≦0.03なる関係を満たすことが好ましい。ユーロピウム濃度(x)をこのような範囲とすることによって、内部量子効率とともに、試料吸収率がより高くなり、蛍光体の発光効率を向上させることができる。
【0017】
しかしながら、組成式(1)に示す蛍光体は、硫化物蛍光体と比較して、蛍光体自体が水分に脆弱であるため、水分によって劣化が生じて発光効率が大きく低下してしまう。そのため、組成式(1)に示す蛍光体に対して、ケイ酸塩系の酸化物蛍光体を被覆材料によって被覆する方法を適用したとしても、水分による劣化を防止し、発光効率を長期に亘って維持できるかどうかは明らかではない。そこで、本実施の形態に係る被覆蛍光体の製造方法では、後述するように、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆された被覆蛍光体を得て、水分による蛍光体の劣化を防止する。
【0018】
蛍光体としては、比表面積が2m/g以上であるものが好ましく、より好ましくは、比表面積が4m/g以上であるものが好ましい。比表面積が2m/g以上の蛍光体を用いることにより、被覆材料によって蛍光体がより定着するため、すなわち、蛍光体が被覆材料によって確実に被覆されるため、水分による蛍光体の劣化を効果的に防止することができる。これにより、蛍光体の発光効率をより長期に亘って維持することができる。また、比表面積が4m/g以上の蛍光体を用いることにより、蛍光体が被覆材料によってより確実に被覆されるため、水分による蛍光体の劣化をより効果的に防止することができる。これにより、蛍光体の発光効率をより長期に亘って維持することができる。
【0019】
(混合工程)
混合工程では、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させることにより、混合液中において被覆材料を加水分解してゾルゲル反応を開始させ、被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体を得る。すなわち、ゾルゲル法を用いて、蛍光体に被覆材料を被覆させた分散状態の混合液を作製する。
【0020】
被覆材料としては、使用する波長域の光に対して、ある程度の透過性を有する材料を有する材料を用いることができる。このような被覆材料としては、例えば、シリカ、チタニア、セリア、イットリアなどの酸化物、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの複酸化物、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムなどのフッ化物を用いることができる。例えば、被覆材料としてのシリカは、アルキルシラン化合物、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランを用いてゾルゲル法により作製することができる。
【0021】
溶媒としては、均一に分散し得る溶媒であれば、特に限定されず、例えば、水、有機溶媒等を用いることができる。有機溶媒としては、アルコール、エーテル、ケトン、多価アルコール類等を用いることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノールが挙げられる。多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールが挙げられる。これらの中でも、反応速度制御の観点から、アルコール類を用いることが好ましく、エタノールを用いることがより好ましい。なお、有機溶媒は、単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
蛍光体と被覆材料との配合量は、40〜200質量部:260質量部とする。蛍光体と被覆材料との配合量を40〜200質量部:260質量部とすることにより、被覆材料同士が固まってしまい、蛍光体に対して付着しにくくなり、蛍光体を被覆材料によって十分に被覆できないことを防止することができる。
【0023】
また、蛍光体と被覆材料との配合量は、50〜100質量部:260質量部とすることがより好ましい。蛍光体と被覆材料との配合量を、50〜100質量部:260質量部とすることにより、水分による蛍光体の劣化を効果的に防止することができる。
【0024】
混合工程において、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させる際は、攪拌回転数を600rpm以上とすることが好ましい。上述したように、蛍光体と被覆材料との配合量を40〜200質量部:260質量部とするため、被覆材料の量が多く、被覆材料をより分散させる必要がある。攪拌回転数を600rpm以上とすることにより、被覆材料をより分散させて、被覆材料によって蛍光体を十分に被覆することができるため、水分による蛍光体の劣化を効果的に防止することができる。
【0025】
混合工程において、混合液中において被覆材料を加水分解させるために、例えば、水、アンモニア水等の溶媒を混合液中に投入する。例えば、溶媒として水を投入する場合には、TEOS(テトラエトキシシラン)1molに対して混合液中への水分添加量を4mol以上とすることが好ましい。このように、TEOS1molに対して水分添加量を4mol以上とすることにより、被覆材料を十分に加水分解させて、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆された被覆蛍光体を得ることができる。
【0026】
混合工程において、溶媒中で蛍光体と被覆材料とを混合させる際の反応温度は、40〜70℃とすることが好ましい。このように、40〜70℃で、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させることにより、被覆材料によって蛍光体を十分に被覆して、水分による蛍光体の劣化を効果的に防止することができる。
【0027】
混合工程において、溶媒中で蛍光体と被覆材料とを混合させる時間は、25分以上とすることが好ましい。このように、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で25分以上混合させることにより、被覆材料によって蛍光体を十分に被覆して、水分による蛍光体の劣化を効果的に防止することができる。
【0028】
(分離工程)
分離工程において、混合工程で得られた混合液を固相と液相とに分離することにより、固相である被覆蛍光体を混合液中から得る。
【0029】
分離工程において、混合液を固相と液相とに分離する方法としては、例えば、吸引濾過器を用いた方法が挙げられる。
【0030】
以上説明したように、本実施の形態に係る被覆蛍光体の製造方法では、蛍光体と被覆材料との配合量を、40〜200質量部:260質量部とするため、未反応の試薬などが残留しない良好な被覆蛍光体が得られる。したがって、得られた被覆蛍光体に残留する未反応の試薬などを除去する目的で繰り返し洗浄を行う必要がないため、蛍光体と被覆材料とを反応させて被覆蛍光体が得られるまでの時間を短縮することができる。
【0031】
また、本実施の形態に係る被覆蛍光体の製造方法で得られた被覆蛍光体は、蛍光体と被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を固相と液相とに分離することによって得られ、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、上記組成式(1)の原子数比で含有する。また、蛍光体と被覆材料との配合量を、40〜200質量部:260質量部とする。これにより、被覆蛍光体は、蛍光体と被覆材料とが溶媒中で混合させた混合溶液中において、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆されるため、水分による蛍光体の劣化を防止することができる。したがって、蛍光体の発光効率を長期に亘って維持することができる。
【0032】
また、被覆蛍光体の製造方法では、蛍光体と被覆材料との配合量を、40〜200質量部:260質量部とすることにより、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆された被覆蛍光体が得られる。したがって、被覆蛍光体を構成するストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)が、被覆蛍光体から外部にSr2+及びBa2+として溶出してしまうことを抑制することができる。また、本実施の形態に係る被覆蛍光体の製造方法で得られた被覆蛍光体は、溶媒中に浸漬させた際の電気伝導度が400mS/m以下であることが好ましい。被覆蛍光体を溶媒中に浸漬させた際の電気伝導度が400mS/m以下であることは、例えば、被覆蛍光体を構成するストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)が、被覆蛍光体から外部にSr2+及びBa2+として溶出してしまうことが抑制されていることを表す。そのため、被覆蛍光体を溶媒中に浸漬させた際の電気伝導度が400mS/m以下であることにより、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆された被覆蛍光体が得られていることが分かる。このように、本実施の形態に係る被覆蛍光体の製造方法で得られた被覆蛍光体は、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆されるため、水分による蛍光体の劣化を防止することができ、蛍光体の発光効率を長期に亘って維持することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について説明する。ここでは、これら蛍光体の量子効率、発光量積分値、ピーク強度(発光強度)、およびピーク波長について評価した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
[被覆蛍光体の製造方法]
(サンプル1)
サンプル1では、蛍光体として、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を上記組成式(1)の原子数比で含有する蛍光体(比表面積:5.047(m/g) ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製)を25g用いた。また、被覆材料としては、TEOS(関東化学株式会社製)を260g用いた。
【0035】
蛍光体と被覆材料とエタノール(183ml)とを秤量し、秤量した蛍光体と被覆材料とエタノールとをポリエチレン(PE)製の容器において、攪拌回転数を600rpmとして攪拌し、蛍光体と被覆材料とエタノールとの混合液を得た。容器内の液を55℃で一定とした後、一定速度で攪拌中の混合液にTEOS1molに対して純水を4mol投入し、ゾルゲル反応を開始させた。純水を容器内に投入してから60分後に、吸引濾過により、蛍光体の粉末(固相)と溶液(液相)とに分離した。その後、85℃のオーブンにおいて、蛍光体粉末を2時間放置して、乾燥後、200℃のオーブンにおいて、焼成を2時間行った。このようにして、ゾルゲル法により、被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体の粉末を得た。
【0036】
(サンプル2)
サンプル2では、蛍光体の投入量を50gとしたこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0037】
(サンプル3)
サンプル3では、蛍光体の投入量を60gとしたこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0038】
(サンプル4)
サンプル4では、蛍光体の投入量を100gとしたこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0039】
(サンプル5)
サンプル5では、蛍光体の投入量を225gとしたこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0040】
(サンプル6)
サンプル6では、蛍光体と被覆材料とエタノールとを100rpmで攪拌し混合したこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0041】
(サンプル7)
サンプル7では、蛍光体と被覆材料とエタノールとを800rpmで攪拌し混合したこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0042】
(サンプル8)
サンプル8では、攪拌中の混合液にTEOS1molに対して純水を2mol投入したこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0043】
(サンプル9)
サンプル9では、攪拌中の混合液にTEOS1molに対して純水を6mol投入したこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0044】
(サンプル10)
サンプル10では、容器内の混合液を45℃で一定とした後、攪拌中の混合液に純水を投入したこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0045】
(サンプル11)
サンプル11では、容器内の混合液を65℃で一定とした後、攪拌中の混合液に純水を投入したこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0046】
(サンプル12)
サンプル12では、容器内に純水を投入してから30分後に、吸引濾過により、蛍光体粉末と溶液とに分離したこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0047】
(サンプル13)
サンプル13では、容器内に純水を投入してから120分後に、吸引濾過により、蛍光体粉末と溶液とに分離したこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0048】
(サンプル14)
サンプル14では、比表面積が1.108(m/g)の蛍光体を用いたこと以外は、サンプル1と同様にして、被覆蛍光体の粉末を得た。
【0049】
(サンプル15)
サンプル15では、比表面積が1.816(m/g)の蛍光体を被覆材料で被覆せずに用いた。
【0050】
(サンプル16)
サンプル16では、比表面積が5.047(m/g)の蛍光体を被覆材料で被覆せずに用いた。
【0051】
サンプル1〜サンプル16の条件をまとめたものを以下の表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
[被覆蛍光体の評価]
(発光強度維持率について)
サンプル1〜サンプル16の発光強度維持率は、60℃、90%RHの環境下に上述した各サンプルを500時間放置した前後の各サンプルの発光強度から求めた。蛍光体の発光強度は、分光蛍光光度計FP−6500(日本分光社製)を用い、450nmの励起光を照射して測定した。また、蛍光体の量子効率は、専用セルに蛍光体粉末を充填し、波長450nmの青色励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定し、この蛍光スペクトルから算出した。
【0054】
(粉末投入量について)
図3は、サンプル1〜サンプル5に関して、蛍光体と被覆材料との配合量と、被覆発光体の発光強度維持率との関係を示すグラフである。図3に示すように、蛍光体と被覆材料との配合量を40〜200質量部:260質量部としたサンプル2〜サンプル5は、サンプル1(蛍光体と被覆材料との配合量:25質量部:260質量部)と比較して、蛍光体が被覆材料によって確実に被覆されたため、発光強度維持率が良好であることが確認できた。また、蛍光体と被覆材料との配合量を50〜100質量部:260質量部としたサンプル2〜サンプル4は、蛍光体が被覆材料によってより確実に被覆されたため、発光強度維持率が特に良好であることが確認できた。
【0055】
(攪拌回転数について)
図4は、サンプル3(攪拌回転数:600rpm)、サンプル6(攪拌回転数:100rpm)、サンプル7(攪拌回転数:800rpm)に関して、混合工程における攪拌回転数と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。図4に示すように、攪拌回転数を600rpm以上としたサンプル3及びサンプル7は、攪拌回転数を600rpm未満としたサンプル6と比較して、被覆材料をより分散させて、被覆材料によって蛍光体を十分に被覆することができたため、発光強度維持率が良好であることが確認できた。
【0056】
(HO投入量について)
図5は、サンプル3(水分添加量:TEOS1molに対して4mol)、サンプル8(水分添加量:TEOS1molに対して2mol)及びサンプル9(水分添加量:TEOS1molに対して6mol)に関して、混合工程における水分添加量と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。図5に示すように、発光強度維持率は、水分添加量に比例して向上することが確認できた。また、水分添加量をTEOS1molに対して4mol以上としたサンプル3及びサンプル9は、被覆材料を十分に加水分解させて、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆されたため、発光強度維持率が特に良好であることが確認できた。
【0057】
(反応温度について)
図6は、サンプル3(反応温度:55℃)、サンプル10(反応温度:45℃)及びサンプル11(反応温度:65℃)に関して、混合工程における蛍光体と被覆材料との反応温度と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。図6に示すように、反応温度を40〜70℃としたサンプル3、サンプル10及びサンプル11は、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆されたため、発光強度維持率が良好であることが確認できた。また、反応温度を55℃としたサンプル3は、発光強度維持率が特に良好であることが確認できた。
【0058】
(反応時間について)
図7は、サンプル3(反応時間:60分)、サンプル12(反応時間:30分)及びサンプル13(反応時間:120分)に関して、混合工程における蛍光体と被覆材料との反応時間と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。図7に示すように、反応時間を20分以上としたサンプル3、サンプル12及びサンプル13は、被覆材料によって蛍光体が十分に被覆されたため、発光強度維持率が良好であることが確認できた。また、サンプル3は、発光強度維持率が特に良好であることが確認できた。さらに、これらの結果から、60分程度の短時間で、発光強度維持率が良好な被覆蛍光体が得られることが確認できた。
【0059】
(比表面積について)
図8は、サンプル3(比表面積5.047m/g)、サンプル14(比表面積1.108m/g)及びサンプル15(比表面積1.816m/g)に関して、被覆処理(表面処理)前における、蛍光体の比表面積と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。図8に示すように、蛍光体の比表面積の違いにより、被覆蛍光体の発光強度維持率に差が生じることが確認できた。すなわち、蛍光体は、比表面積が2m/g以上であるものが好ましく、より好ましくは、比表面積が4m/g以上であるものが好ましいことが確認できた。
【0060】
図9は、サンプル3及びサンプル14に関して、被覆処理後における、蛍光体の比表面積と、発光強度維持率との関係を示すグラフである。図9に示すように、サンプル3及びサンプル14は、被覆処理前と比較して、発光強度維持率が改善されていることが確認できた。また、サンプル14よりも比表面積が大きいサンプル3は、蛍光体が被覆材料によって確実に被覆されたため、サンプル14よりも発光強度維持率が良好であることが確認できた。
【0061】
図10は、サンプル3、サンプル6及びサンプル16の時間変化に伴う発光強度維持率を示すグラフである。
【0062】
図10に示すように、被覆処理を施していないサンプル16の場合には、60℃、90%RHの環境下に500時間放置した後の発光強度維持率が10%程度であった。一方、被覆処理を施したサンプル6の場合には、60℃、90%RHの環境下に500時間放置した後の発光強度維持率を60%程度に抑制することができた。また、被覆処理を施したサンプル3の場合には、60℃、90%RHの環境下に500時間放置した後の発光強度維持率を85%程度に抑制することができた。これらの結果から、発光強度維持率を良好にするためには、被覆処理の条件設定が重要であることが確認できた。
【0063】
(発光効率について)
図11は、サンプル3、サンプル6及びサンプル16の発光効率を示すグラフである。なお、蛍光体の効率は、例えば、励起光を吸収する効率(吸収率)、吸収した励起光を蛍光に変換する効率(内部量子効率)、及びそれらの積である励起光を蛍光に変換する効率(外部量子効率)の三種で表されるが、外部量子効率が重要である。図11に示すように、被覆処理を行ったサンプル3及びサンプル6は、被覆処理を行っていないサンプル16と比較して、各発光効率が増大していることが確認できた。すなわち、被覆処理を施したすことにより、試料吸収率、内部量子効率及び外部量子効率の全てにおいて、発光効率が改善していることが確認できた。
【0064】
図12は、サンプル16に対するサンプル3及びサンプル6の発光効率の伸び率を示すグラフである。図12に示すように、混合工程における攪拌回転数を600rpm以上としたサンプル3は、混合工程における攪拌回転数を600rpm未満としたサンプル6と比較して、サンプル16に対する発光効率の伸び率が大きいことが確認できた。
【0065】
(信頼性試験について)
被覆蛍光体の信頼性試験として、サンプル3、サンプル6及びサンプル16で得られた蛍光体粉末5gを55℃の純水200g中に投入し、時間経過に伴う電気伝導度の測定を行った。また、サンプル3及びサンプル16に関して、電気伝導度測定後の水溶液を蛍光体粉末と上澄み液とに分離し、上澄み液について、ICP−MSにより溶出元素の定量分析を行った。
【0066】
図13は、サンプル3、サンプル6及びサンプル16の時間変化に伴う電気伝導度を示すグラフである。図13に示すように、被覆処理を施していないサンプル16の場合には、純水中に投入してから60分後の電気伝導度が約950mS/mであるのに対して、被覆処理を施したサンプル3の場合には、純水中に投入してから60分後の電気伝導度を約400mS/mに抑制できることが確認できた。また、被覆処理を施したサンプル3は、被覆処理を施したサンプル6の場合よりも、電気伝導度を良好に抑制できることが確認できた。これらの結果から、サンプル3の場合には、被覆蛍光体の劣化をより抑制できることが確認できた。
【0067】
図14は、サンプル3のICP−MSの結果を示すグラフである。図15は、サンプル16のICP−MSの結果を示すグラフである。図14及び図15に示すように、各サンプルの上澄み液中の溶存元素は、Sr2+及びBa2+であることが確認できた。また、被覆処理を施したサンプル3の場合には、被覆処理を施していないサンプル16の場合よりも、蛍光体粉末からのSr2+及びBa2+の溶出が抑制されていることが確認できた。
【0068】
これらの結果から、被覆処理を施したサンプル3は、被覆処理を施していないサンプル16よりもSr2+及びBa2+の溶出を抑制できることが確認できた。また、被覆処理を施したサンプル3は、蛍光体に被覆材料を被覆した後に残留する未反応の試薬などを除去する目的で、繰り返し洗浄を行う必要がないことが確認できた。さらに、種々の電気伝導度に対する各溶出元素の濃度には、相関があることが確認できた。すなわち、電気伝導度の値が、被覆蛍光体から溶出されたSr2+及びBa2+の量に対応していることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体の製造方法であって、
上記蛍光体と上記被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を得る混合工程と、
上記混合液を固相と液相とに分離する分離工程を有し、
上記蛍光体は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、下記組成式(1)の原子数比で含有し、
上記蛍光体と上記被覆材料との配合量を、40〜200質量部:260質量部とする被覆蛍光体の製造方法。
[(Ba1−ySr1−xEuSi組成式(1)
ただし、組成式(1)中、a、b、c、x、yは、2.7<a<3.3、0.9<b<1.1、4.5<c<5.5、0<x<0.09、0.25<y<0.75なる関係を満たす。
【請求項2】
上記蛍光体は、比表面積が2m/g以上である請求項1記載の被覆蛍光体の製造方法。
【請求項3】
上記蛍光体は、比表面積が4m/g以上である請求項2記載の被覆蛍光体の製造方法。
【請求項4】
上記蛍光体と上記被覆材料との配合量を、50〜100質量部:260質量部とする請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の被覆蛍光体の製造方法。
【請求項5】
上記混合工程では、攪拌回転数を600rpm以上として、上記蛍光体と上記被覆材料とを溶媒中で混合させる請求項1乃至4のうちいずれか1項記載の被覆蛍光体の製造方法。
【請求項6】
上記混合工程では、40〜70℃で、上記蛍光体と上記被覆材料とを溶媒中で混合させる請求項1乃至5のうちいずれか1項記載の被覆蛍光体の製造方法。
【請求項7】
上記被覆材料は、アルキルシラン化合物である請求項1乃至6のうちいずれか1項記載の被覆蛍光体の製造方法。
【請求項8】
被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体であって、
上記蛍光体と上記被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を固相と液相とに分離することによって得られ、
上記蛍光体は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、下記組成式(1)の原子数比で含有し、
上記蛍光体と上記被覆材料との配合量を、40〜200質量部:260質量部とする被覆蛍光体。
[(Ba1−ySr1−xEuSi組成式(1)
ただし、組成式(1)中、a、b、c、x、yは、2.7<a<3.3、0.9<b<1.1、4.5<c<5.5、0<x<0.09、0.25<y<0.75なる関係を満たす。
【請求項9】
被覆材料によって蛍光体が被覆された被覆蛍光体であって、
上記蛍光体と上記被覆材料とを溶媒中で混合させた混合液を固相と液相とに分離することによって得られ、
上記蛍光体は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)および酸素(O)を、下記組成式(1)の原子数比で含有し、
当該被覆蛍光体を溶媒中に浸漬させた際の電気伝導度が400mS/m以下である被覆蛍光体。
[(Ba1−ySr1−xEuSi組成式(1)
ただし、組成式(1)中、a、b、c、x、yは、2.7<a<3.3、0.9<b<1.1、4.5<c<5.5、0<x<0.09、0.25<y<0.75なる関係を満たす。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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