説明

被記録媒体の製造方法

【課題】多孔質インク受容層が高いインク吸収性と透明性を有し、且つクラックの発生及び多孔質インク受容層の剥がれを防止する被記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】下塗り層上にホウ酸塩水溶液を塗工する表面処理工程、ホウ酸塩水溶液を塗工した下塗り層の表面を湿潤状態としたまま下塗り層上に顔料とポリビニルアルコールを含む塗工液を塗工、乾燥して多孔質インク受容層を形成する工程、を有し、ホウ酸塩水溶液の乾燥後の塗工量はホウ酸塩を基準として多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%以上2質量%以下であり、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量は、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して、7質量部以上、13質量部以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録に適する被記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方式は、記録の高速化、高精細化等の記録特性の向上に伴って、インクの小液滴化や改良が大幅に進み、画像の高画質化が一段と進んでいる。このため、フォトプリンタと呼ばれる高画質インクジェットプリンタに代表されるように、銀塩写真と比較しても遜色のない画像が得られるようになっている。そして、デジタルカメラ等で撮影したフルカラー画像をインクジェットプリンタで印刷するユーザーが増加している。
【0003】
そこで、このような状況に対応するため、アルミナ水和物と、バインダーとしてポリビニルアルコールを用いたインク受容層を有する被記録媒体にキャスト方法を用いることにより、高光沢の被記録媒体が得られることが知られている。特許文献1には、より優れた光沢が得られるキャスト方法を改善する技術として、リウェットキャスト法を用いた発明が開示されている。
【0004】
また、光沢以外にも被記録媒体に要求される特性を満たすための検討が行われている。特許文献2には、インク受容層用の塗工液の乾燥時に発生する微小クラックの発生防止を解決課題とした発明が開示されている。すなわち、特許文献2には、アルミナ水和物、ポリビニルアルコール及び所定量のホウ酸若しくはホウ素化合物を含有したアルミナゾル塗工液を用い、これらを塗布した樹脂フィルムが提案されている。
特許文献3には、ホウ酸又はホウ酸塩溶液やインク受容層用の塗工液の塗工工程の順序や状態を特別なものとすることで、微小クラックの発生や塗工液の経時的な粘度上昇という課題を解決している。
【0005】
特許文献4には、基材上にアルカリ金属塩水溶液を付与することにより、インク受容層用の塗工液をゲル化させる方法が開示されている。
また、従来から、特許文献5に示されるように、被記録媒体用の基材として、長期保存性の点から中性紙が好ましく使用されるようになってきている。
【特許文献1】特開2001−138628得公報
【特許文献2】特開平7−76161号公報
【特許文献3】国際公開第2003/101746号パンフレット
【特許文献4】特開2002−067474号公報
【特許文献5】特開2004−230777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、被記録媒体への記録スピードの高速化に伴い、被記録媒体には高いインク吸収性が求められるようになってきている。このような高いインク吸収性を有する被記録媒体としては、顔料粒子とポリビニルアルコール系バインダーを含有する多孔質インク受容層を有するものが有効である。しかしながら、顔料粒子とポリビニルアルコール系バインダーからなる多孔質インク受容層用の塗工液は、経時的に塗工液の粘度が上昇するという問題を有していた。また、この塗工液などを用いて25g/m2以上のインク吸収性の良好な多孔質インク受容層を形成しようとすると、乾燥時に微小なクラックが発生するという問題もあった。
【0007】
特許文献2に記載の方法は、塗工液の粘度上昇や、微少なクラック発生の防止を目的としたものであるが、これらの問題点の解決が未だ不十分であった。
【0008】
一方、特許文献3の被記録媒体では、塗工液の経時的な粘度上昇や微小クラックの発生を防止可能である。しかしながら、炭酸カルシウム等の下塗り層を設けた中性紙に引用文献3の方法を適用した場合には、インクジェット記録後にインク受容層が剥がれるという新たな課題が生じる場合があった。
【0009】
また、特許文献4に記載の被記録媒体でも、アルカリ金属塩の付与量及びその種類によっては、形成後のインク受容層が剥がれてしまうという問題を有していた。更に、特許文献4では、基材上に付与したアルカリ金属塩水溶液の乾燥後に、インク受容層用の塗工液を塗布していた。このため、一度、乾燥して固化したアルカリ金属塩は再溶解やインク受容層用の塗工液中への浸透がしにくく、インク受容層のゲル化は不均一で、その速度も遅かった。
【0010】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、長期保存性に優れた中性紙を用いて、多孔質インク受容層が高いインク吸収性と透明性を有し、且つクラックの発生及び多孔質インク受容層の剥がれを防止した被記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を有することを特徴とする。
1.下塗り層が設けられた中性紙基材上に、多孔質インク受容層が設けられた被記録媒体の製造方法であって、
下塗り層が設けられた中性紙基材を準備する工程、
前記下塗り層上に、ホウ酸塩水溶液を塗工する表面処理工程、
前記ホウ酸塩水溶液を塗工した下塗り層の表面を湿潤状態としたまま、前記下塗り層上に、顔料とポリビニルアルコールを含む塗工液を塗工、乾燥して多孔質インク受容層を形成する工程、
を有し、
前記下塗り層は、弱酸と強塩基の塩を含む顔料と、バインダーとを含有し、且つ、
前記ホウ酸塩水溶液の乾燥後の塗工量は、ホウ酸塩を基準として前記多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%以上2質量%以下であること、
及び前記多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量は、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して、7質量部以上、13質量部以下であることを特徴とする被記録媒体の製造方法。
【0012】
2.前記弱酸と強塩基の塩を含む顔料が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の顔料であることを特徴とする上記1に記載の被記録媒体の製造方法。
【0013】
3.前記ホウ酸塩水溶液は、更にカチオン性ポリマーを含むことを特徴とする上記1又は2に記載の被記録媒体の製造方法。
【0014】
4.前記多孔質インク受容層の乾燥後の塗工量が、25g/m2以上、45g/m2以下であることを特徴とする上記1乃至3の何れか1項に記載の被記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、ホウ酸塩水溶液の乾燥後の塗工量を、ホウ酸塩を基準として多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%以上とすることによって、多孔質インク受容層形成時のクラック発生を抑制することができる。また、ホウ酸塩水溶液の乾燥後の塗工量を、ホウ酸塩を基準として、多孔質インク受容層全体の質量に対して2質量%以下とすることにより、多孔質インク受容層の剥がれのない被記録媒体とすることができる。また、これと同時に多孔質インク受容層を、高いインク吸収性と透明性を有するものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、中性紙基材上に、弱酸と強塩基の塩を含む顔料と、バインダーとを含有する下塗り層と、多孔質インク受容層と、がこの順に設けられた被記録媒体の製造方法に関するものであり、以下の工程を有する。
(1)下塗り層が設けられた中性紙基材を準備する工程。
(2)下塗り層上に、ホウ酸塩水溶液を塗工する表面処理工程。
(3)ホウ酸塩水溶液を塗工した下塗り層の表面を湿潤状態としたまま、下塗り層上に、顔料とポリビニルアルコールを含む塗工液を塗工、乾燥して多孔質インク受容層を形成する工程。
【0017】
そして、工程(2)において、ホウ酸塩水溶液の乾燥後の塗工量が、ホウ酸塩を基準として多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%以上2質量%以下となるように塗工する点に特徴を有する。すなわち、工程(2)では、乾燥後の、(ホウ酸塩(固形分)の質量)/(多孔質インク受容層全体の質量)×100は、1質量%以上2質量%以下となっている。
【0018】
また、工程(3)において、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量は、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して、7質量部以上、13質量部以下となっている点に特徴を有する。
【0019】
本発明の被記録媒体の製造方法では、まず、工程(1)において、弱酸と強塩基の塩を含む顔料とバインダーとを含有する下塗り層が設けられた中性紙基材を準備する。この下塗り層を設けた中性紙基材は、中性紙基材上に下塗り層用塗工液を塗工、乾燥させることにより準備しても、予め製造された下塗り層を設けた中性紙基材を準備しても良い。中性紙基材上に下塗り層用塗工液を塗工する場合、この下塗り層用塗工液は顔料、バインダー及び水、その他、必要に応じて添加剤を含有することができる。
【0020】
また、中性紙基材は中性となっており、この下塗り層は弱酸と強塩基の塩を含む顔料を含有している。このため、この下塗り層の表面はアルカリ性となっており、後の表面処理工程で、下塗り層上にホウ酸塩水溶液を塗工した際にも下塗り層の表面をアルカリ性に維持することが可能となる。
【0021】
この下塗り層は、セルロースパルプ繊維や地合いが完全に覆われるような厚みのコート層として設けるのが良く、その乾燥塗工量は10g/m2以上であることが好ましく、15g/m2以上であることがより好ましい。乾燥塗工量が10g/m2未満の時、下塗り層により中性紙基材のセルロースパルプ繊維や地合いを完全に覆うことが困難となる場合がある。この結果、多孔質インク受容層用の塗工液の塗工時に、中性紙基材の繊維や地合いに起因する塗りムラ(スジ状ムラ等)が生じる場合がある。また、多孔質インク受容層中やその表面近傍にセルロースパルプ繊維が存在することとなるので、被記録媒体の表面を良好、且つ均質な写真調の高光沢面とすることが困難となる場合がある。
【0022】
次に、工程(2)では、下塗り層上に、ホウ酸塩水溶液を塗工する(表面処理工程)。このホウ酸塩水溶液中には、必要に応じてカチオン性ポリマーを含有することが好ましい。カチオンポリマーを含有することにより、多孔質インク受容層との密着性が更に向上する。
【0023】
次に、工程(2)で塗工したホウ酸塩水溶液が乾燥により乾かない湿潤状態のうちに、顔料とポリビニルアルコールを含む多孔質インク受容層用の塗工液を塗工する(工程(3))。
【0024】
この工程(3)では、多孔質インク受容層用の塗工液は、下塗り層表面に存在する、アルカリ性を示すホウ酸塩水溶液と接触することとなる。ここで、このホウ酸塩は、多孔質インク受容層用の塗工液中に含まれるアルミナ水和物のゾル溶液の分散状態を破壊して、多孔質インク受容層用の塗工液を増粘させる。
【0025】
また、多孔質インク受容層用の塗工液中には、ホウ酸塩と架橋可能なポリビニルアルコールが含まれている。そして、工程(3)は湿潤状態であり、ホウ酸塩は、多孔質インク受容層用の塗工液中のポリビニルアルコールと接触しやすく、また、多孔質インク受容層用の塗工液中に浸透しやすくなっている。従って、容易に多孔質インク受容層用の塗工液のゲル化、及びホウ酸塩を介したポリビニルアルコールの架橋構造を形成することができる。
【0026】
なお、上記のように、多孔質インク受容層用の塗工液の塗工は、ホウ酸塩水溶液が湿潤状態のうちに行う必要がある。ここで、「湿潤状態」とは工程(2)で塗工したホウ酸塩水溶液の全部又は一部が乾いておらず、溶液状となっている状態を表す。ホウ酸塩水溶液が乾燥状態の時(固化した時)に、多孔質インク受容層用の塗工液を塗工すると、ホウ酸塩は固体状となっているため、多孔質インク受容層用の塗工液中に溶解・浸透するのに長時間がかかってしまう。そして、ホウ酸塩が多孔質インク受容層用の塗工液中に完全に浸透しきらないうちに、多孔質インク受容層用の塗工液中のポリビニルアルコールが中性紙基材中へ浸透することとなる。この結果、多孔質インク受容層内で均一なゲル化が起こらなかったり、ゲル化の程度が不十分となる。そして、被記録媒体全体としては、クラックが発生することとなってしまう。
【0027】
また、工程(3)では、ホウ酸塩水溶液の塗工量は、ホウ酸塩を基準として多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%以上2質量%以下となっている。このため、下塗り層と多孔質インク受容層の界面での急激な架橋反応を抑制し、ポリビニルアルコールにより下塗り層と多孔質インク受容層間のアンカー効果を得ることができる。
【0028】
すなわち、ホウ酸塩水溶液の塗工量が、ホウ酸塩(固形分)を基準として多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して1質量%未満となる場合は、インク受容層のゲル化が不十分となる。また、十分な架橋構造を形成することができず、微小クラックが発生する。
【0029】
一方、ホウ酸塩水溶液の塗工量が、ホウ酸塩(固形分)を基準として多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して2質量%を超えると、下塗り層と多孔質インク受容層の界面での急激なインク受容層のゲル化が起こるため、ポリビニルアルコールによる層間での十分なアンカー効果が得られない。この結果、多孔質インク受容層の剥がれが起こることとなる。
【0030】
また、工程(3)では、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量は、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して、7質量部以上、13質量部以下となっている。このため、ホウ酸塩と架橋し得るのに十分なポリビニルアルコールを有すると共にインク吸収性に大きな影響を与えない。
【0031】
すなわち、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量が、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して7質量部未満となる場合は、ポリビニルアルコールの不足により十分な結着効果が得られなくなる。この結果、微小クラックが発生する。
【0032】
一方、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量が、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して13質量部を超える場合は、インク吸収性に大きな影響を与えることとなる。この結果、高いインク吸収性を有する多孔質インク受容層が得られなくなる。
【0033】
本発明の被記録媒体の製造方法の一例を図1に示す。まず、中性紙基材1上に、弱酸と強塩基の塩を含む顔料とバインダーとを含有する下塗り層2を設ける(工程(1);図1(a))。そして、次に、この下塗り層2と中性紙基材1からなる支持体3上に、ホウ酸塩水溶液4を塗工する(工程(2);表面処理工程;図1(b))。この時、中性紙基材1の表面pHは中性であり、下塗り層2は弱酸と強塩基の塩を含む顔料を含有しているため、下塗り層2の紙面pHはpH8から9.5程度のアルカリ性となっている。
【0034】
次に、ホウ酸塩水溶液を塗工した下塗り層の表面を湿潤状態としたまま、下塗り層上に、顔料とポリビニルアルコールを含む塗工液を塗工、乾燥して多孔質インク受容層5を形成する(工程(3);図1(c))。また、このホウ酸塩水溶液の乾燥後の塗工量は、ホウ酸塩を基準として多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%以上2質量%以下と少ない量となっている。このため、下塗り層上のホウ酸塩水溶液中に存在するホウ酸塩が容易に多孔質インク受容層用の塗工液中に拡散して、多孔質インク受容層用の塗工液のゲル化、及びこの塗工液中のポリビニルアルコールの架橋が容易に起こる。この結果、多孔質インク受容層の形成時のクラック発生、及び剥がれを効果的に防止することができる。また、これと同時に多孔質インク受容層を、高いインク吸収性と透明性を有するものとすることができる。
【0035】
以下に、本発明で用いる各材料について説明する。
1.中性紙基材
本発明に用いる中性紙基材としては、中性を示し表面処理が可能なものであれば、特に限定されるわけではない。ただし、紙基材の中でも酸性基材(酸性紙)を用いると長期保存後に黄変が発生したり、工程(2)及び(3)において下塗り層の表面をアルカリ性に保つことが困難となるため、中性紙基材(中性紙)を用いる必要がある。
【0036】
2.下塗り層
(顔料)
下塗り層に用いる顔料は、弱酸と強塩基の塩を含む顔料である。この顔料としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の顔料が好ましい。ここで、本発明の弱酸と強塩基の塩を含む顔料ではなく、強酸と強塩基の塩等の水溶液中で中性を示す顔料を用いると、下塗り層の紙面pHをアルカリ性に維持できなくなる場合がある。
【0037】
また、一般的に、強酸と強塩基の塩や、水溶液中で中性を示す顔料を用いると、粘性が低くなって液流れが起こり、均質で良好な光沢面が得られなくなる場合がある。この結果、良好な光沢面を得るためには、後の工程でホウ酸塩水溶液を複数回、塗工する工程が必要となったり、多孔質インク受容層の透明性の低下が起こる場合がある。
【0038】
この下塗り層用のバインダーとしては、従来から公知のものを使用できる。また、下塗り層は被記録媒体の環境カールの安定性を考慮すると、中性紙基材の表裏両面に設けることが好ましい。
下塗り層の乾燥塗工量は10g/m2以上であることが好ましく、15g/m2以上であることがより好ましい。乾燥塗工量が10g/m2未満の場合、中性紙基材のセルロースパルプ繊維や地合いを完全に覆うことが困難となり、光沢性に影響する場合がある。
【0039】
3.ホウ酸塩水溶液
(ホウ酸塩)
ホウ酸塩としては、硼酸塩(例えば、オルト硼酸塩、InBO3、ScBO3、YBO3、LaBO3、Mg3(BO3)2、Co3(BO3)2)、二硼酸塩(例えば、Mg225、Co225)、メタ硼酸塩(例えば、LiBO2、Ca(BO2)2、NaBO2、KBO2)、四硼酸塩(例えば、Na247・10H2O)、五硼酸塩(例えば、KB58・4H2O、Ca2611・7H2O、CsB55)等が用いられるが、速やかに架橋反応を起こすことができる点から四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)が好ましい。
【0040】
(カチオン性ポリマー)
多孔質インク受容層の剥がれを防止するため、ホウ酸塩水溶液中に、更にカチオン性ポリマーを添加することが好ましい。カチオン性ポリマーを添加することで、多孔質インク受容層用の塗工液中に存在するポリビニルアルコールの急激な架橋反応を抑制することが可能になると考えられる。この結果、多孔質インク受容層の剥がれを更に効果的に抑制することができる。このカチオン性ポリマーとしては、モノアリルアミン塩、ビニルアミン塩、ジシアンジアミド・ポリエチレンアミン重縮合物等を用いることができる。
【0041】
(架橋剤)
ホウ酸塩水溶液中には、更に架橋剤を含んでいてもよい。本発明に好適に使用できる架橋剤としては、多孔質インク受容層中に含まれるポリビニルアルコールと架橋反応を起こして架橋可能なものが好ましく、本発明の効果を損なわないものが使用できる。架橋剤としては、特にホウ酸が好ましい。
【0042】
4.多孔質インク受容層
多孔質インク受容層用の塗工液の乾燥後の塗工量は、25g/m2以上、45g/m2以下となるようにすることが好ましい。塗工量が25g/m2未満の場合、特に、シアン、マゼンタ、イエローの3色のインクに、ブラックインクの他、複数の淡色インクが加えられたプリンタを用いて印字を行うと、十分なインク吸収性が得られない場合がある。即ち、インク溢れが生じてブリーディングとなる場合が発生し、中性紙基材にまでインク染料が拡散して印字濃度が低下する場合がある。一方、塗工量が45g/m2を超える場合、クラックの発生を抑え切れない場合がある。また、塗工量が25g/m2以上であると、高温高湿環境下においても十分なインク吸収性を示す多孔質インク受容層が得られるので好ましい。更に、塗工量が45g/m2以下であると、多孔質インク受容層の塗工ムラが生じにくくなり安定した厚みの多孔質インク受容層を製造できる。
【0043】
多孔質インク受容層は、高インク吸収性、高インク定着性等の目的及び効果を達成する上で、その細孔物性が、下記の条件を満足することが好ましい。先ず、多孔質インク受容層の細孔容積は、0.1cm3/g以上、1.0cm3/g以下の範囲内にあることが好ましい。即ち、細孔容積が0.1cm3/g未満の場合は、十分なインク吸収性能が得られずにインク吸収性の劣った多孔質インク受容層となり、場合によっては、インクが溢れて画像滲みが発生する恐れがある。一方、細孔容積が1.0cm3/gを超える場合は、多孔質インク受容層中にクラックや粉落ちが生じ易くなるという傾向がある。
【0044】
また、多孔質インク受容層のBET比表面積は、20m2/g以上、450m2/g以下であることが好ましい。多孔質インク受容層のBET比表面積が20m2/g未満の場合は十分な光沢性が得られないことがある。また、ヘイズが増加するため(透明性が低下するため)、画像自体に白もやが見られる恐れがある。更に、この場合には、インク中の染料吸着性の低下を生じる恐れがある。一方、多孔質インク受容層のBET比表面積が450m2/gを超えると、多孔質インク受容層内にクラックが生じる場合がある。なお、多孔質インク受容層中の細孔容積、BET比表面積の値は、窒素吸着脱離法により求められる。
【0045】
(顔料)
本発明の多孔質インク受容層中に用いる顔料としては、シリカ、アルミナ水和物が好ましく、このアルミナ水和物としては例えば、下記一般式(X)により表されるものを好適に利用できる。
Al23-n(OH)2n・mH2O・・・・(X)
(上記式中、nは0、1、2又は3を表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の範囲にある値を表す。但し、mとnは同時に0にはならない。mH2Oは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水を表すものであるため、mは整数又は整数でない値をとることができる。また、この種の材料を加熱するとmは0の値に達することがあり得る)。
【0046】
アルミナ水和物の結晶構造としては、熱処理する温度に応じて、非晶質、キブサイト型、ベーマイト型の水酸化アルミナからγ、σ、η、θ、α型のアルミナ酸化物に転移していくことが知られている。本発明に於いては、これら何れの結晶構造のものも使用可能である。
【0047】
本発明において好適なアルミナ水和物としては、X線回折法による分析でベーマイト構造又は非晶質を示すアルミナ水和物である。このアルミナ水和物として特に、特開平7−232473号公報、特開平8−132731号公報、特開平9−66664号公報、特開平9−76628号公報等に記載のアルミナ水和物を挙げることができる。
【0048】
アルミナ水和物は、製造過程において細孔物性の調整がなされるが、細孔容積が0.3ml/g以上1.0ml/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.35ml/g以上0.9ml/g以下である。また、アルミナ水和物のBET比表面積については、50ml/g以上350ml/g以下であることが好ましく、より好ましくは100ml/g以上250ml/g以下である。
【0049】
なお、本発明で云うBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常、吸着気体として窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧力、又は容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。この多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ、表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて、表面積が得られる。
【0050】
この多孔質インク受容層用の塗工液は、少なくとも顔料、ポリビニルアルコールを含む塗工液である。この多孔質インク受容層用の塗工液の調製では、顔料の分散液と、ポリビニルアルコールを含有する水溶液を調整する。そして、ミキシング装置等を使用して、これらの液を混合して塗工液とすることが好ましい。このように塗工液を調整することによって、製造工程中に生じる塗工液粘度の経時的上昇やゲル化を低減することができ、生産効率の向上を図ることができる。
【0051】
また、顔料としてアルミナ水和物を用いる場合、その分散液中のアルミナ水和物の固形分濃度は10質量%以上、30質量%以下であることが好ましい。アルミナ水和物の固形分濃度が30質量%を超えるとアルミナ水和物の分散液の粘度が高くなり、結果的に多孔質インク受容層用の塗工液の粘度も高くなるため、塗工液の塗工性に問題が生じる場合がある。
【0052】
また、下塗り層や、上記多孔質インク受容層中には、その他の添加剤として、以下のものを必要に応じて適宜に含有させることができる。
顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、染料定着剤等。
【0053】
(ポリビニルアルコール)
本発明において、ポリビニルアルコールの中でも好ましいものとしては、ケン化度70%以上100%以下のポリビニルアルコールを用いるのが良い。また、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量は、アルミナ水和物100質量部に対して、7質量部以上、13質量部以下とする必要がある。また、ポリビニルアルコールの含有量は、8質量部以上、12質量部以下となるようにするのが好ましい。
【0054】
(架橋剤)
多孔質インク受容層中には、架橋剤を含んでいても良い。本発明に好適に使用される架橋剤としては、前記ポリビニルアルコールと架橋反応を起こして硬化可能なものが好ましく、本発明の効果を損なわないものが使用できる。架橋剤としては、特にホウ酸が好ましい。ホウ酸の使用量としては、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコール(固形分換算)100質量部に対して、ホウ酸(固形分)1.0質量%以上15.0質量%以下の範囲で用いることが好ましい。15.0質量を超える範囲で用いると、多孔質インク受容層用の塗工液の経時安定性に影響を及ぼす場合がある。
【0055】
多孔質インク受容層、表面処理工程などにおける各塗工液の塗工装置としては、適正塗工量が得られるように、各種塗工装置を適宜、使用できる。例えば、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、エクストルージョン方式を用いたコーターを使用できる。また、スライドホッパー方式を用いたコーター、サイズプレス等も使用できる。
【0056】
上記塗工装置は適宜、選択して用い、オンマシン、オフマシンで使用される。また、塗工時に塗工液の粘度調製等を目的として、塗工液を加温しても良く、コーターヘッドを加温することも可能である。
【0057】
多孔質インク受容層用の塗工液の塗工後の乾燥には、各種装置を適宜、選択して使用できる。例えば、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線、加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等を使用できる。
【0058】
また、形成後の多孔質インク受容層上に、溶媒中に色材劣化防止材を溶解させた塗工液をオーバーコートすることができる。この色剤劣化防止剤を溶解する溶剤としては色剤劣化防止剤が溶解可能なものであれば良く、各種有機溶剤を使用出来る。この有機溶剤としては、特に限定されるものではないが例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル等のエーテル類、イソプロパノール、メタノール、エタノール等のアルコール類を挙げることができる。
【0059】
5.キャスト法
本発明では、下塗り層を有する中性紙基材上に、多孔質インク受容層を形成した後、キャスト法により、多孔質インク受容層の表面に光沢面を形成することができる。以下に、この製造方法について説明する。
【0060】
キャスト法とは、湿潤状態又は可塑性を有した状態にある多孔質インク受容層を、加熱された鏡面状のドラム(キャストドラム)面に圧着させ、圧着した状態で乾燥して、その鏡面を多孔質インク受容層の表面に写し取る方法である。このための代表的な方法としては直接法、リウェット法(間接法)、又は凝固法の3つの方法がある。これらのキャスト法は何れも利用できるが、ウェットキャスト法がより好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。先ず、本発明において使用した各種の物性値の測定方法について説明する。
【0062】
<BET比表面積、細孔容積>
被記録媒体のBET比表面積、細孔容積は、アルミナ水和物を十分に加熱脱気してから、窒素吸着脱離法を用いた装置(カンタクローム社製、オートソープ1)で測定した。BET比表面積の計算は、Brunauerらの方法を用いた(J.Am.Chem.Soc.,60巻,309、1938年参照)。細孔容積の計算は、Barrettらの方法を用いた(J.Am.Chem.Soc.,73巻、373、1951年参照)。
【0063】
〔実施例1〕
<中性紙基材の作製>
下記のようにして中性紙基材を作製した。
先ず、下記組成のパルプ100質量部に対して軽質炭酸カルシウム10質量部、内添用サイズ剤(アルキルケテンダイマー)0.1質量部を添加して紙料を調整した。
濾水度450ml CSF(Canadian Standard Freeness)の、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP) 90質量部
濾水度350mlCSFの、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)
10質量部。
【0064】
次に、この紙料を、長網抄紙機を用いて抄紙した後、多筒シリンダドライヤーで乾燥し、カレンダー処理をした。そして、坪量150g/m2の中性紙基材を得た。
【0065】
<下塗り層の塗工>
上記中性紙基材の表面に、以下のようにして下塗り層を形成した。
先ず、下塗り層の形成に使用する塗工液として、軽質炭酸カルシウム/カオリン/酸化チタンが質量比70/20/10のスラリーを準備した。次に、顔料(軽質炭酸カルシウム/カオリン/酸化チタン)100質量部に対して、スチレン−ブタジエン系ラテックス/澱粉の質量比15/5からなるバインダーを20質量部、添加した。次に、この混合物に対して固形分60質量%となるように水を添加、調整して下塗り層用の塗工液を得た。
【0066】
次に、ブレードコーターを用いて、この塗工液を、乾燥塗工量が15/m2となるように、上記中性紙基材の両面に塗工・乾燥することで、坪量180g/m2、の下塗り層を設けた支持体を得た。
【0067】
<表面処理工程>
上記で得た下塗り層に対して、下記の工程からなる表面処理を行なった。
先ず、30℃に加温した下記組成のホウ酸塩水溶液を準備した。
(ホウ酸塩水溶液)
四ホウ酸ナトリウム:5.0g
イソプロパノール:0.15g
イオン交換水:94.85g。
【0068】
次に、エアーナイフコータを用いて、ウェット塗工量10.8g/m2(乾燥時の塗工量0.54g/m2に相当)となるよう、上記ホウ酸塩水溶液を上記支持体の一方の面上に毎分30mで塗工した。
【0069】
<多孔質インク受容層用の塗工液の塗工工程>
次に、上記<表面処理工程>で塗工後のホウ酸塩水溶液が湿潤状態にあるうち、即ち、ホウ酸塩水溶液が下塗り層上に塗工されてすぐに、ホウ酸塩水溶液を塗工した下塗り層上に、そのまま多孔質インク受容層を形成した。この際、多孔質インク受容層の形成に用いた塗工液は、以下の通りに調整した。
【0070】
すなわち、まず、アルミナ水和物としてDisperal HP14(サソール社製)と酢酸を純水中に添加して20質量%のアルミナ水和物分散液を得た。尚、酢酸は、アルミナ水和物固形分:酢酸固形分=100:2となるように添加した。
【0071】
一方、これとは別にポリビニルアルコールPVA117(クラレ(株)製)をイオン交換水中に溶解して、固形分9質量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0072】
この後、スタティックミキサにより、上記で得られたアルミナ水和物分散液と、先に調製したポリビニルアルコール水溶液を、質量基準で、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:9となるように混合した。
【0073】
この直後、この混合液を多孔質インク受容層用の塗工液として、ダイコータにより、乾燥塗工量36g/m2となるように毎分30mで塗工した。なお、この時、ホウ酸塩水溶液の乾燥時の塗工量は、ホウ酸塩を基準として(固形分)多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して1.5wt%となる。この後、170℃により乾燥して、多孔質インク受容層を形成した。
【0074】
<裏面の形成>
次に、中性紙基材の、上記多孔質インク受容層を設けた面とは反対側の面の下塗り層上に、以下のようにして裏面層を形成した。まず、アルミナ水和物としてDisperal HP14(サソール社製)を純水中に固形分が18質量%となるように分散させ、その後、遠心分離処理を施した分散液を得た。
【0075】
次に、スタティックミキサにより、この分散液と、多孔質インク受容層の形成に用いたのと同様のポリビニルアルコール水溶液と、をアルミナ水和物固形分とポリビニルアルコール固形分の質量比が100:9となるように混合して裏面層用の塗工液を得た。この後、中性紙基材の、多孔質インク受容層を設けた面とは反対側の面上に、すぐにダイコータで、乾燥塗工量23g/m2、毎分35mの条件で、裏面層用の塗工液を塗工した。そして、170℃で乾燥して裏面層を形成し、最終的に被記録媒体を得た。
【0076】
〔実施例2〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液のウェット塗工量を7.2g/m2、多孔質インク受容層用の塗工液において、質量基準で、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:7とした。これ以外は、実施例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。なお、この時、乾燥時の塗工量は、ホウ酸塩(固形分)として、多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して1wt%となる。
【0077】
〔実施例3〕
多孔質インク受容層用の塗工液において、質量基準で、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:13とした以外は、実施例2と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0078】
〔実施例4〕
実施例3のアルミナ水和物分散液に3質量%のホウ酸水溶液を、アルミナ水和物固形分に対してホウ酸固形分換算で0.5質量部となるように添加した以外は、実施例3と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0079】
〔実施例5、6〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液中に、3質量%のホウ酸水溶液を25g(実施例5)、50g(実施例6)、添加した以外は実施例3と同様の方法で被記録媒体を作製した。
【0080】
〔実施例7〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液のウェット塗工量を14.4g/m2、多孔質インク受容層用の塗工液において、質量基準で、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:7とした。これ以外は、実施例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。なお、この時、乾燥時の塗工量は、ホウ酸塩(固形分)として、多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して2wt%となる。
【0081】
〔実施例8〕
多孔質インク受容層用の塗工液において、質量基準で、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:13とした以外は、実施例7と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0082】
〔実施例9〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液中に、ジシアンジアミド・ポリエチレンアミン重縮合物(カチオン性ポリマー)を、固形分換算で3.0g添加した以外は実施例1と同様の方法で被記録媒体を作製した。
【0083】
〔実施例10〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液中に、ジシアンジアミド・ポリエチレンアミン重縮合物(カチオン性ポリマー)を、固形分換算で3.0g添加した以外は実施例8と同様の方法で被記録媒体を作製した。
【0084】
〔実施例11〕
下塗り層の軽質炭酸カルシウムを炭酸バリウムに変更した以外は、実施例1と同様の方法で被記録媒体を作製した。
【0085】
〔実施例12〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液のウェット塗工量を7.5g/m2とし、多孔質インク受容層の乾燥塗工量25g/m2とした。なお、この時、ホウ酸塩水溶液の乾燥時の塗工量は、ホウ酸塩(固形分)を基準として、多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して1.5wt%となる。これ以外は、実施例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0086】
〔実施例13〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液のウェット塗工量を13.5g/m2とし、多孔質インク受容層の乾燥塗工量45g/m2とした。なお、この時、ホウ酸塩水溶液の乾燥時の塗工量は、ホウ酸塩(固形分)を基準として、多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して1.5wt%となる。これ以外は、実施例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0087】
〔実施例14〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液のウェット塗工量を6.0g/m2とし、多孔質インク受容層の乾燥塗工量20g/m2とした。なお、この時、ホウ酸塩水溶液の乾燥時の塗工量は、ホウ酸塩(固形分)を基準として、多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して1.5wt%となる。これ以外は、実施例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0088】
〔実施例15〕
実施例1で形成したアルミナ水和物含有の多孔質インク受容層の代わりに、以下のようにしてシリカ含有の多孔質インク受容層を形成した。これ以外は、実施例1と同様にして本実施例の被記録媒体を作製した。
【0089】
すなわち、多孔質インク受容層用の塗工液に用いる組成物としては、以下の組成のものを用いた。
平均粒子径80nmのカチオン性コロイダルシリカ(商品名:スノーテックスAK−ZL、日産化学工業(株)製) 100質量部
市販のノニオン性アクリルエマルジョン 3質量部
実施例1で使用したものと同様のポリビニルアルコール 7質量部。
【0090】
この組成物を固形分濃度が25%となるように調整し、ロールコータで、乾燥塗工量が36g/m2となるように、中性紙基材上に塗工した後、乾燥した。これ以外の工程は、実施例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0091】
〔比較例1、2〕
表面処理工程で、ホウ酸塩水溶液のウェット塗工量を、3.6g/m2、18.0g/m2とした。なお、この時、ホウ酸塩水溶液の乾燥時の塗工量は、ホウ酸塩(固形分)を基準として、多孔質インク受容層全体(固形分)の質量に対して0.5wt%(比較例1)、2.5wt%(比較例2)となる。これ以外は、実施例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0092】
〔比較例3〕
表面処理工程で、ホウ酸塩水溶液を塗工後、すぐに60℃で乾燥固化させた。これ以外は、実施例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0093】
〔比較例4〕
表面処理工程でのホウ酸塩水溶液中に、ジシアンジアミド・ポリエチレンアミン重縮合物(カチオン性ポリマー)を、固形分換算で3.0g、添加した以外は比較例2と同様の方法で被記録媒体を作製した。
【0094】
〔比較例5、6〕
多孔質インク受容層用の塗工液において、質量基準で、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:5(比較例5)、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:15(比較例6)、とした以外は、実施例2と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0095】
〔比較例7、8〕
多孔質インク受容層用の塗工液において、質量基準で、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:5(比較例7)、アルミナ水和物固形分:ポリビニルアルコール固形分=100:15(比較例8)、とした以外は、実施例7と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0096】
〔比較例9〕
比較例1のアルミナ水和物分散液に3質量%のホウ酸水溶液を、アルミナ水和物固形分に対してホウ酸固形分換算で0.5質量部となるように添加した以外は、比較例1と同様の方法により被記録媒体を作製した。
【0097】
〔比較例10〕
比較例1の表面処理工程でのホウ酸塩水溶液中に、3質量%のホウ酸水溶液を50g添加した以外は比較例1と同様の方法で被記録媒体を作製した。
次に、上記実施例及び比較例で作製した被記録媒体の評価方法について説明する。
【0098】
<クラックの発生>
被記録媒体をA4サイズに断裁した後、目視によって5枚、観察し、4段階の評価を行った。この評価基準は、下記の通りとした。
A:クラックの発生が全く見られず良好。
B:クラックの発生が少し観察される。
C:クラックの発生が評価Bよりも多く、観察される。
D:多数のクラックの発生が観察される。
【0099】
<多孔質インク受容層の剥がれ>
被記録媒体の多孔質インク受容層表面にポリエステルテープ(3M製)を貼った。この後、1kgの錘を用いてテープ上面を2往復させた後、ポリエステルテープを180°方向に強制剥離した後、テープに付着した多孔質インク受容層の剥離度合いを観察して、評価した。なお、この際の評価基準は以下の通りとした。
A:テープののり部が剥離するか、又は中性紙基材から剥離する。
B:わずかに多孔質インク受容層の剥離が観察されるが、剥離面積がテープ面積の5%未満となる。
C:多孔質インク受容層の剥離が観察され、剥離面積がテープ面積の5%以上である。
【0100】
<画像濃度>
被記録媒体に、インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS iP8600キヤノン製)を用いて、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、の100%Dutyのベタバッチを印字した。この後、25℃,50%R.H.環境で3日間、保存後、分光光度計・スペクトロリノ(グレタグマクベス社製)を用いて、測色を行いO.D.値を評価した。なお、この際の評価基準は以下の通りとした。
A:O.D.値が2.20以上であり、高濃度部の階調再現性が非常に良く、実用性が高いもの。
B:O.D.値か2.00以上2.20未満であり、Aより高濃度部の階調再現性が落ちるが、実用上問題がないレベル。
C:O.D.値が1.90以上2.00未満であり、高濃度部の階調再現性が悪く、印字濃度が薄く実用化できないレベル。
【0101】
<インク吸収性>
インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS iP8600キヤノン製)を用いて、被記録媒体の記録面に単色であるブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、の100%Dutyのベタバッチと、2次色であるレッド(イエロー100%とマゼンタ100%の2次色)、ブルー(シアン100%とマゼンタ100%の2次色)、グリーン(イエロー100%とシアン100%の2次色)の100%Dutyのベタパッチをそれぞれ印字した。そして、印字部の目視による観察及び触指により、以下の通りに評価した。
A:印字直後、全ての2次色画像においてインクが指に付着しない
B:印字直後、2次色画像で僅かなインク溢れがあるが、短時間で吸収され、且つ、印字直後の全ての単色画像において、インクが指に付着しない。
C:印字直後、単色画像のいずれかにおいてインクが指に付着する。
上記実施例及び比較例で作製した被記録媒体の評価結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1の実施例の結果から分かるように、実施例では、ホウ酸塩水溶液の塗工量を、ホウ酸塩を基準として多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%以上2質量%以下とした。また、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量を、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して、7質量部以上、13質量部以下とした。これらの実施例では、「クラック」、「多孔質インク受容層剥がれ」、「印字濃度」及び「インク吸収性」が何れも「A」又は「B」であり、クラックの発生を抑制しつつ、多孔質インク受容層の剥がれを防止し、更にインク吸収性及び画像濃度に優れた被記録媒体が得られたことが分かる。また、多孔質インク受容層の剥がれに関しては、ホウ酸塩水溶液中にカチオン性ポリマーを添加することで一層、抑制されることが分かる。
【0104】
一方、表1の比較例1の結果から分かるように、ホウ酸塩水溶液の塗工量がホウ酸塩を基準として多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%未満となると、多孔質インク受容層の剥がれは観察されないが、クラックが発生した。また、表1の比較例2の結果から分かるように、ホウ酸塩水溶液の塗工量がホウ酸塩を基準として多孔質インク受容層全体の質量に対して2質量%を超えると、明確な多孔質インク受容層の剥がれが観察された。
【0105】
更に、表1の比較例3の結果から分かるように、ホウ酸塩水溶液を乾燥させた後に、多孔質インク受容層用の塗工液を塗工すると、多孔質インク受容層にクラックが発生することが分かる。また、比較例5、7の結果から分かるように、多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量を、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して7質量部未満のとき、クラックが発生した。一方、比較例6、8の結果から分かるように、13質量部を超えた場合にはインク吸収性の低下が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の被記録媒体の製造方法の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0107】
1:中性紙基材
2:下塗り層(pH=7〜8)
3:支持体
4:ホウ酸塩水溶液
5:多孔質インク受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下塗り層が設けられた中性紙基材上に、多孔質インク受容層が設けられた被記録媒体の製造方法であって、
下塗り層が設けられた中性紙基材を準備する工程、
前記下塗り層上に、ホウ酸塩水溶液を塗工する表面処理工程、
前記ホウ酸塩水溶液を塗工した下塗り層の表面を湿潤状態としたまま、前記下塗り層上に、顔料とポリビニルアルコールを含む塗工液を塗工、乾燥して多孔質インク受容層を形成する工程、
を有し、
前記下塗り層は、弱酸と強塩基の塩を含む顔料と、バインダーとを含有し、且つ、
前記ホウ酸塩水溶液の乾燥後の塗工量は、ホウ酸塩を基準として前記多孔質インク受容層全体の質量に対して1質量%以上2質量%以下であること、
及び前記多孔質インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量は、多孔質インク受容層中の顔料100質量部に対して、7質量部以上、13質量部以下であることを特徴とする被記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記弱酸と強塩基の塩を含む顔料が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の顔料であることを特徴とする請求項1に記載の被記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記ホウ酸塩水溶液は、更にカチオン性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の被記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質インク受容層の乾燥後の塗工量が、25g/m2以上、45g/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の被記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−51019(P2009−51019A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217233(P2007−217233)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】