説明

被記録媒体給送装置、記録装置

【課題】用紙カセットの装着状態において上段側トレイを所望する位置に適切に位置決めすることのできる給送装置及び記録装置を提供する。
【解決手段】用紙カセット100は、給送装置3の装置本体3aに対し、装置前方側から装着及び取り外し可能であり、下側に位置する下段側トレイ50と、その上側に位置する上段側トレイ60と、の2つの用紙収容部を備えている。上段側トレイ60の給送方向下流側端部には被支持部63が形成されており、この被支持部63が、装置本体3aに設けられたトレイ支持部3cにより支持されるよう構成され、これにより上段側トレイ60が確実に支持され、その位置が適切且つ精密に定まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体を給送する被記録媒体給送装置に関し、特に上段側トレイと下段側トレイを備える複数段式の被記録媒体カセットを着脱可能に構成された被記録媒体給送装置に関する。また本発明は、当該被記録媒体給送装置を備えた、ファクシミリやプリンター等に代表される記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
装置本体に対して着脱可能な用紙カセット(給紙カセット)は従来から広く用いられており、またその中でも一つの着脱自在な用紙カセットにおいて下段と上段に用紙収容部を備えた2段式構造のものが知られている。
【0003】
特許文献1記載の給紙カセットはその一例であり、この給紙カセットは、第1給紙カセットと、この第1給紙カセット上にて、給送方向に進退動可能に配置される第2給紙カセットとを備えている。
【0004】
第2給紙カセットの給送方向における最下流側の端部には、突設片が設けられており、そしてこの突設片の下縁が、下側の第1給紙カセットにおける主傾斜分離板に設けられた位置決め部に保持される構成となっている。即ち、第2給紙カセットの最下流側の端部は、第1給紙カセットにより支持され、これにより第2給紙カセットの最下流側の端部の高さ方向位置(及び左右方向位置)が規定される様になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4264749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第2給紙カセットの最下流側の端部の高さ方向位置を規定する第1給紙カセットは、それ自体が装置本体に対して着脱可能な構成要素であるため、本来的に、装置本体への装着状態であってもその位置が精密に定まり難い。
【0007】
ここで、第1給紙カセットそれ自体は、装置本体によって直接支持されるので、その装着位置のばらつきは比較的小さい範囲に収まるものの、第1給紙カセットによって最下流側の端部の高さ方向位置が規定される第2給紙カセットは、装着時の位置に、大きなばらつきが生じ易い。
【0008】
そしてこの様に、第2給紙カセットの装着時の位置、特に、高さ方向位置が、所望する位置に精密に位置決めされない場合には、第2給紙カセットに収容された用紙に対して進退する給紙ローラーが用紙に接する際の力にバラツキが生じ、ノンフィード或いはダブルフィードなどの給送不良が生じる虞がある。
【0009】
加えて、上記特許文献1記載の給紙カセットの場合、第2給紙カセットの最下流側の端部が、第1給紙カセットにおける「主傾斜分離板」に設けられた位置決め部に保持されるので、「主傾斜分離板」に第2給紙カセットの荷重が掛かることで、「主傾斜分離板」の傾斜角度が変化し、分離性能が低下する虞もある。
【0010】
尚、用紙を収容する用紙収容部の呼称としては、特許文献1に記載される様な「給紙カセット」や、その他にも「給紙トレイ」など種々のものがあるが、本明細書では装置本体に対して着脱可能な一つのユニット体全体を「カセット」と呼び、このカセット内に設けられた複数の用紙収容部を「トレイ」と呼び、そのうち上段側のものを「上段側トレイ」、下段側のものを「下段側トレイ」、とそれぞれ呼ぶこととする。
【0011】
本発明は以上説明した技術的課題に鑑みなされたものであり、その目的は、用紙カセットの装着状態において上段側トレイを所望する位置に適切に位置決めすることのできる給送装置及び記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、被記録媒体を収容可能な下段側トレイ及び当該下段側トレイの上部に設けられる上段側トレイを備える被記録媒体カセットを装置本体に対して着脱可能に構成された被記録媒体給送装置であって、前記被記録媒体カセットが前記装置本体に装着された状態において前記上段側トレイを支持する上段側トレイ支持手段が、前記装置本体の側に設けられたトレイ支持部を備えて構成されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、上段側トレイと下段側トレイを備える被記録媒体カセットが被記録媒体給送装置の装置本体に装着された状態において前記上段側トレイを支持する上段側トレイ支持手段が、装置本体(被記録媒体給送装置の本体)の側に設けられたトレイ支持部を備えて構成されているので、この様に装置本体の側に設けられたトレイ支持部により、上段側トレイが確実に支持され、その位置が適切且つ精密に定まる。よって、被記録媒体給送時のノンフィード、ダブルフィードなどの給送不良の発生を防止することができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、被記録媒体を収容可能な下段側トレイ及び当該下段側トレイの上部に設けられる上段側トレイを備える被記録媒体カセットを装置本体に対して着脱可能に構成された被記録媒体給送装置であって、前記被記録媒体カセットが前記装置本体に装着された状態において前記上段側トレイを支持する上段側トレイ支持手段が、前記装置本体の側の、固定的に設けられた構成部材に配設されたトレイ支持部を備えて構成されていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、上段側トレイと下段側トレイを備える被記録媒体カセットが被記録媒体給送装置の装置本体に装着された状態において前記上段側トレイを支持する上段側トレイ支持手段が、装置本体の、固定的に設けられた構成部材に配設されたトレイ支持部を備えて構成されているので、この様に装置本体の側の固定的に設けられた構成部材に配設されたトレイ支持部により、上段側トレイが確実に支持され、その位置が適切且つ精密に定まる。よって、被記録媒体給送時のノンフィード、ダブルフィードなど給送不良の発生を防止することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1のまたは第2の態様において、前記トレイ支持部は、前記上段側トレイの、被記録媒体給送方向下流側端部を支持することを特徴とする。本態様によれば、前記トレイ支持部は、前記上段側トレイの、被記録媒体給送方向下流側端部を支持するので、前記上段側トレイから送り出される被記録媒体の送り出し角度が適切に維持され、被記録媒体給送時のノンフィード、ダブルフィードなどの給送不良の発生を防止することができる。
【0017】
本発明の第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記被記録媒体カセットに対して進退可能に構成されるとともに被記録媒体と接して回転することにより被記録媒体を送り出す給送ローラーを備え、前記トレイ支持部が、前記給送ローラーを支持する揺動部材が設けられたフレーム部材に設けられていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、前記トレイ支持部が、前記給送ローラーを支持する揺動部材が設けられたフレーム部材に設けられているので、前記給送ローラーと上段側トレイとの間の位置関係がより精密に定まり、被記録媒体給送時のノンフィード、ダブルフィード等の給送不良の発生をより確実に防止することができる。
【0019】
本発明の第5の態様は、第1から第4の態様のいずれかにおいて、前記被記録媒体カセットに対して進退可能に構成されるとともに被記録媒体と接して回転することにより被記録媒体を送り出す給送ローラーを備え、前記給送ローラーによる被記録媒体の送り出し方向と直交する方向における前記トレイ支持部の配置位置が、前記給送ローラーと被記録媒体との接触位置またはその近傍に設定されていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、前記給送ローラーによる被記録媒体の送り出し方向と直交する方向における前記トレイ支持部の配置位置が、前記給送ローラーと被記録媒体との接触位置またはその近傍に設定されているので、前記給送ローラーが被記録媒体に圧接した際に生じる上段側トレイの変形を、効果的に防止或いは抑制することができる。
【0021】
本発明の第6の態様は、第1から第5の態様のいずれかにおいて、前記トレイ支持部が筒状体によって形成され、前記上段側トレイに形成された、前記トレイ支持部によって支持される被支持部が前記筒状体に入り込むことにより、前記上段側トレイが前記トレイ支持部により支持される構成を備えていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、前記トレイ支持部が筒状体によって形成され、前記上段側トレイに形成された被支持部が前記筒状体に入り込むことにより前記上段側トレイが支持される構成を備えているので、上段側トレイは下方向のみならず上方向、或いは更にこれに加えて左右方向への変位も拘束されることとなり、上段側トレイの位置がより適切且つ精密に定まる。
【0023】
本発明の第7の態様は、第1から第6の態様のいずれかにおいて、前記上段側トレイに形成された、前記トレイ支持部によって支持される被支持部が、前記上段側トレイを装着位置に案内するガイド形状を有していることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、前記上段側トレイに形成された、前記トレイ支持部によって支持される被支持部が、前記上段側トレイを装着位置に案内するガイド形状を有しているので、被記録媒体カセットの装着時、前記上段側トレイが引っ掛かりなく円滑に装着される。
【0025】
本発明の第8の態様は、第1のまたは第2の態様において、前記被記録媒体カセットに対して進退可能に構成されるとともに被記録媒体と接して回転することにより被記録媒体を送り出す給送ローラーと、前記被記録媒体カセットが前記被記録媒体給送装置に装着された状態において前記下段側トレイを支持する下段側トレイ支持手段と、を備え、前記下段側トレイ支持手段が、前記給送ローラーによる被記録媒体の送り出し方向と直交する方向における前記トレイ支持部の配置位置またはその近傍に設けられた下段側トレイ支持部を備えて構成されていることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、下段側トレイを支持する下段側トレイ支持手段が、前記給送ローラーによる被記録媒体の送り出し方向と直交する方向における前記トレイ支持部の配置位置またはその近傍に設けられた下段側トレイ支持部を備えて構成されているので、前記給送ローラーが被記録媒体に圧接した際に生じる下段側トレイの変形を、効果的に防止或いは抑制することができる。
【0027】
本発明の第8の態様は、被記録媒体に記録を行う記録手段を備えた記録装置であって、第1から第7の態様のいずれかに係る前記被記録媒体給送装置を備えていることを特徴とする。本態様によれば、記録装置において、上記第1から第7の態様のいずれかと同様な作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るプリンターの用紙搬送経路を示す側断面図。
【図2】本発明に係る用紙カセットの斜視図。
【図3】本発明に係る用紙カセットの給送方向下流側の側断面図。
【図4】(A)〜(C)はトレイ支持部と被支持部の他の実施形態を示す図。
【図5】下段側カセットの他の実施形態を示す図。
【図6】従来技術に係る用紙カセットの給送方向下流側の側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図1乃至図5を参照しつつ本発明の一実施形態について説明する。図1は「記録装置」の一実施形態であるインクジェットプリンター(以下「プリンター」と言う)1の用紙搬送経路を示す側断面図、図2は本発明に係る用紙カセット100全体を示す斜視図、図3は用紙カセット100の給送方向下流側の側断面図、図4(A)〜(C)はトレイ支持部と被支持部の他の実施形態を示す図、図5は下段側カセットの他の実施形態を示す図である。また、図6は従来技術に係る用紙カセットの給送方向下流側の側断面図である。
【0030】
尚、図1はプリンター1の用紙搬送経路上に配置されるローラーを図示する為に、ほぼ全てのローラーを同一面上に描いているが、その奥行き方向(図1の紙面表裏方向)の位置は必ずしも一致しているとは限らない(一致している場合もある)。また、各図において示すx−y−z座標系は、x方向が用紙搬送(給送)方向と直交する方向(即ち、用紙幅方向)、y方向が用紙搬送(給送)方向、z方向が装置高さ方向(重力方向)を示している。
【0031】
以下、図1を参照しつつプリンター1の全体構成について概説する。プリンター1は、装置底部に給送装置3を備え、当該給送装置3から、「被記録媒体」の一例としての用紙(主として単票紙:以下「用紙P」と言う)を1枚ずつ給送し、記録手段4において記録(インクジェット記録)を行い、装置前方側(図1において右側)に設けられた図示しない排紙スタッカへ向けて排出する構成を備えている。
【0032】
以下、用紙搬送経路上の構成要素について更に詳説する。
給送装置3は、用紙カセット100と、給送ローラー16と、ガイドローラー20と、分離手段21と、を備えている。
【0033】
複数枚の用紙Pを積層状態でセット可能な用紙カセット100は、給送装置3の装置本体3aに対し、装置前方側から装着及び取り外し可能であり、下側に位置する下段側トレイ50と、その上側に位置する上段側トレイ60と、の2つの用紙収容部を備えている。
【0034】
尚、図1においては、下段側トレイ50に収容される用紙を符号P1で、上段側トレイ60に収容される用紙を符号P2で、それぞれ示している(以下特に区別する必要がない場合は「用紙P」と言う)。これら下段側トレイ50及び上段側トレイ60の詳細については、後に説明する。
【0035】
図示しないモーターによって回転駆動される給送ローラー16は、揺動軸18を中心に揺動する揺動部材17に設けられており、上段側トレイ60が最も退避方向(図1において右方向)にスライドした状態では、下段側トレイ50に収容された用紙P1の最上位のものと接して回転することにより、当該最上位の用紙P1を下段側トレイ50から送り出す。
【0036】
また上段側トレイ60が最も装置奥方(用紙送り出し方向:図1において左方向)にスライドした突き当て位置では、上段側トレイ60に収容された用紙P2の最上位のものと接して回転することにより、当該最上位の用紙P2を上段側トレイ60から送り出す。
【0037】
下段側トレイ50にセットされた用紙P1の先端と対向する位置、或いは上段側トレイ60にセットされた用紙P2の先端と対向する位置には、分離斜面53が用紙積重方向に対し開き角を形成するよう配置されており、給送ローラー16の回転により繰り出された用紙Pの先端が分離斜面53に摺接しつつ下流側に進むことで、次位以降の用紙Pとの予備的な分離が行われる。尚この分離斜面53は、下段側トレイ50と上段側トレイ60とで共用される。
【0038】
分離斜面53の下流側には自由回転可能なガイドローラー20が設けられ、このガイドローラー20の下流側には、分離ローラー22と駆動ローラー23とを備えて構成された分離手段21が設けられている。分離ローラー22は、外周面が弾性材によって形成されるとともに駆動ローラー23と圧接可能に設けられ、且つ、トルクリミッタ機構により、所定の回転抵抗が与えられた状態に設けられている。従って重送されようとする次位以降の用紙Pが、当該分離ローラー22と駆動ローラー23との間で止められ、即ち重送が防止される様になっている。
【0039】
分離手段21の下流側には、図示しないモーターにより回転駆動される駆動ローラー26と、駆動ローラー26との間で用紙Pをニップして従動回転するアシストローラー27と、を備えて構成された第1中間送り部25が設けられており、この第1中間送り部25により、用紙Pが更に下流側へと送られる。
【0040】
プリンター1は、図示するように用紙カセット100から繰り出した用紙Pをその進行方向が反対向きとなるように湾曲反転させる湾曲反転経路を備えており、第1中間送り部25の下流側には、用紙Pが湾曲反転経路を通過する際の(特に用紙後端が通過する際の)通紙負荷を軽減する従動ローラー29が設けられている。
【0041】
従動ローラー29の下流側には図示しないモーターにより回転駆動される駆動ローラー32と、駆動ローラー32との間で用紙Pをニップして従動回転するアシストローラー33と、を備えて構成された第2中間送り部31が設けられており、この第2中間送り部31により、用紙Pが更に下流側へと送られる。
【0042】
第2中間送り部31の下流側には、記録手段4が配置されている。記録手段4は、搬送手段5と、記録ヘッド42と、下部案内部材39と、排出手段6と、を備えている。搬送手段5は、モーターによって回転駆動される搬送駆動ローラー35と、該搬送駆動ローラー35に圧接して従動回転するよう上部案内部材37に軸支される搬送従動ローラー36とを備えて構成されている。搬送手段5に到達した用紙Pは、搬送駆動ローラー35と搬送従動ローラー36とによってニップされた状態で搬送駆動ローラー35が回転することにより、下流側へと精密送りされる。
【0043】
続いて記録ヘッド42はキャリッジ40の底部に設けられ、当該キャリッジ40は主走査方向(図1の紙面表裏方向)に延びるキャリッジガイド軸41にガイドされながら、図示しない駆動モーターによって主走査方向に往復動する様に駆動される。尚、キャリッジ40はインクカートリッジを搭載しない所謂オフキャリッジタイプであり、インクカートリッジ(図示せず)がキャリッジ40から独立して設けられ、インク供給チューブ(図示せず)を介してインクカートリッジから記録ヘッド42へとインクが供給されるように構成されている。
【0044】
記録ヘッド42と対向する位置には下部案内部材39が設けられ、当該下部案内部材39によって、用紙Pと記録ヘッド42との距離が規定されるようになっている。そして下部案内部材39の下流側には、記録の行われた用紙Pを排出する排出手段6が設けられている。排出手段6は図示しないモーターによって回転駆動される排出駆動ローラー44と、当該排出駆動ローラー44に接して従動回転する排出従動ローラー45とを備えて構成され、記録手段4によって記録の行われた用紙Pは、排出手段6により、装置前方側に設けられた図示を省略するスタッカへと排出される。
【0045】
以上がプリンター1の概要であり、以下、図2及び図3を参照しながら用紙カセット100について詳説する。
用紙カセット100は、上述の通り下段側トレイ50及び上段側トレイ60を備えて構成され、給送装置3の装置本体3aに対して着脱可能となっている。下段側トレイ50及び上段側トレイ60は、いずれも用紙収容部を構成し、符号50a、60aはそれぞれトレイ底面を示している。
【0046】
上段側トレイ60は、下段側トレイ50の側壁50b、50cに対してスライド可能に設けられ、そのスライド方向はy方向(用紙給送方向)となっている。下段側トレイ50から用紙を給送する際、即ち下段側トレイ50に収容された用紙に給送ローラー16を接触させる場合には、上段側トレイ60は退避方向(図2において右方向)に移動される。逆に、上段側トレイ60から用紙を給送する際、即ち上段側トレイ60に収容された用紙に給送ローラー16を接触させる場合には、上段側トレイ60は装置奥方(図2において左方向)に移動される。
【0047】
次に、下段側トレイ50において用紙送り出し方向の前方側内壁は、先端規制壁52と、分離斜面53と、を備えて構成される。先端規制壁52及び分離斜面53は、用紙先端と対向する面が、底面50aから用紙積重方向に対して開き角を形成する様に斜め上方に延びる傾斜面で形成されている。
【0048】
先端規制壁52及び分離斜面53は、用紙を収容する際に用紙先端位置を規制するものであるが、分離斜面53については、その表面が高摩擦面で形成されており、用紙先端が送り出される際に当該用紙先端が分離斜面53に摺接しながら下流側に進むことにより、次位以降の用紙との分離が行われるようになっている。
【0049】
上段側トレイ60において用紙送り出し方向の前方側内壁は、2つの先端規制壁62により構成されている。2つの先端規制壁62は、下段側トレイ60に設けられた先端規制壁52および分離斜面53と同様に、用紙先端と対向する面が、底面60aから用紙積重方向に対して開き角を形成する様に斜め上方に延びる傾斜面で形成されている。
【0050】
2つの先端規制壁62は、用紙幅方向(x方向)に所定の間隔を空けて配置されており、上段側トレイ60が装置奥方(図2において左方向)に移動されたとき、2つの先端規制壁62の間に、下段側トレイ50に形成された分離斜面53が入り込む様になっている。
【0051】
即ち、下段側トレイ50に形成された分離斜面53が、上段側トレイ60において用紙先端位置を規制する規制壁としても機能するとともに、上段側トレイ60から送り出される用紙が分離斜面53に摺接しながら下流側に進むことにより、次位以降の用紙との分離が行われるようになっている。つまり、下段側トレイ50に形成された分離斜面53は、下段側トレイ50と上段側トレイ60とで兼用される構成となっている。
【0052】
上記の様に構成された用紙カセット100は、給送装置3の装置本体3aに装着された状態では、下段側トレイ50がカセット支持面3bにより支持される(尚、図3では下段側トレイ50は図示を省略している)。ここで、上段側トレイ60については、その両端部が上述の通り下段側トレイ50の側壁50b、50cにより支持されるとともに、上段側トレイ60から用紙を給送する際、即ち上段側トレイ60が前方側に移動された状態では、装置本体3aによりその給送方向下流側端部が支持される。
【0053】
より詳しくは、上段側トレイ60の給送方向下流側端部には図3に示す様に被支持部63が形成されており、この被支持部63が、図3の矢印方向で示す様に装置本体3aに対する取り外し状態から装置本体3aに装着された際、装置本体3aに設けられたトレイ支持部3cにより支持される様に構成されている。即ち、上段側トレイ60を支持する「上段側トレイ支持手段」は、下段側トレイ50の側壁50b、50cと、トレイ支持部3cと、を備えて構成されている。尚、トレイ支持部3cは、下段側トレイ50の下流側端部領域に所定量入り込む構成となっている。
【0054】
以下、トレイ支持部3cの作用効果について図6(従来技術の一例を示す図)との対比で説明する。図6において符号500、600はそれぞれ従来技術に係る下段側トレイ、上段側トレイであり、上段側トレイ600の給送方向下流側端部に形成された被支持部630が、下段側トレイ500に形成された支持部54により支持される構成となっている。
【0055】
ここで、下段側トレイ500は、それ自体が装着側である給送装置本体に対して着脱可能な構成要素であるため、本来的に、装置本体への装着状態であってもその位置が精密に定まり難い。従って図6に示す従来構成の様に、下段側トレイ500によって給送方向下流側端部の高さ方向位置が規定される上段側トレイ600は、装着時の位置に大きなばらつきが生じ易い。そしてその結果、上段側トレイ600に収容された用紙に対して給紙ローラーが接する際の力にバラツキが生じ、ノンフィード或いはダブルフィードなどの給送不良が生じる虞がある。
【0056】
加えて、支持部54は分離斜面53の一部に設けられていることから、上段側トレイ600の荷重が分離斜面53に掛かることで、分離斜面53の傾斜角度が変化し、分離性能が低下する虞もある。
【0057】
これに対し、本願発明は、図3を参照しつつ説明した通り上段側トレイ60の給送方向下流側端部に形成された被支持部63が、装置本体3aに設けられたトレイ支持部3cにより支持される構成であるので、この様に装置本体3aの側に設けられたトレイ支持部3cにより、上段側トレイ60が確実に支持され、その位置が適切且つ精密に定まる。よって、用紙給送時のノンフィード、ダブルフィードなどの給送不良の発生を防止することができる。
【0058】
特に、本実施形態ではトレイ支持部3cは装置本体3aの固定的に設けられた構成部材(給送装置3の基体を構成するフレームの1つ)に形成されているので、より確実に、上段側トレイ60の位置が適切且つ精密に定まる様になっている。
【0059】
また、本実施形態では、トレイ支持部3cは、上段側トレイ60の、用紙体給送方向下流側端部を支持するので、上段側トレイ60から送り出される用紙の送り出し角度が適切に維持され、用紙給送時のノンフィード、ダブルフィードなどの給送不良の発生をより確実に防止することができる。
【0060】
更に、本実施形態では、被支持部63が、上段側トレイ60を装着位置に案内するべく、先端が斜め上方に延びるガイド形状を成しているので、用紙カセット100の装着時、上段側トレイ60が引っ掛かりなく円滑に装着位置に装着される。
【0061】
尚、トレイ支持部3cを、給送ローラー16を支持する揺動部材17が設けられたフレーム部材(不図示)に設けることで、給送ローラー16と上段側トレイ60との間の位置関係がより精密に定まり、用紙給送時のノンフィード、ダブルフィード等の給紙不良の発生をより確実に防止することもできる。
【0062】
また、給送ローラー16による用紙送り出し方向と直交する方向(用紙幅方向:x方向)におけるトレイ支持部3cの配置位置を、給送ローラー16と用紙との接触位置、またはその近傍に設定することで、給送ローラー16が用紙に圧接した際に生じる上段側トレイ60の変形を、効果的に防止或いは抑制することもできる。
【0063】
更に、トレイ支持部3cを筒状体によって形成し、上段側トレイ60に形成された被支持部63が前記筒状体に入り込むことにより上段側トレイ60が支持されるよう構成しても良い。これにより、上段側トレイ60は下方向のみならず上方向、或いは更にこれに加えて左右方向への変位も拘束されることとなり、上段側トレイ60の位置がより適切且つ精密に定まる。
【0064】
図4(A)〜(C)はその一例であり、図4(A)に示すトレイ支持部3c-1は、断面が略円筒状の筒状体であり、上段側トレイに形成される被支持部63-1は、この筒状体の嵌合穴3d-1に嵌合する様な突起形状で形成されている。また、図4(B)に示すトレイ支持部3c-2、嵌合穴3d-2、被支持部63-2、のこれらは図4(A)に示すトレイ支持部3c-1、嵌合穴3d-1、被支持部63-1、のそれぞれを高さ方向に伸ばしたものであり、高さ方向寸法が大きくなっており、荷重支持方向の強度が向上されている。また図4(C)に示すトレイ支持部3c-3は、嵌合穴3d-3の入口が開口形状となっており、被支持部63-1を円滑に誘い込む機能を担保している。
【0065】
加えて、下段側トレイ50の給送方向下流側端部についても装置本体3aと係合する様に構成しても良い。図5はその様な実施形態を示すものであり、符号50’は当該他の実施形態に係る下段側トレイを示している。下段側トレイ50’の給送方向下流側端部には被規制部55が形成されており、装置本体3aの側には、被規制部55が嵌合する規制穴3eが形成されている。これにより、下段側トレイ50’の給送方向下流側端部の位置がより適切に定まり、良好な用紙給送結果を得ることができる。
【0066】
また、給送ローラー16による用紙送り出し方向と直交する方向(用紙幅方向:x方向)における被規制部55及び規制穴3eの配置位置を、給送ローラー16と用紙との接触位置、またはその近傍に設定することで、給送ローラー16が用紙に圧接した際に生じる下段側トレイ50’の変形を、効果的に防止或いは抑制することもできる。
【0067】
尚、以上説明した実施形態は一例であり、これに限られないことは言うまでも無い。例えば、本実施形態では本発明に係る給送装置3を記録装置の一例としてのインクジェットプリンターに適用したが、液体噴射装置一般に適用することも可能である。
ここで、液体噴射装置とは、インクジェット式記録ヘッドが用いられ、該記録ヘッドからインクを吐出して被記録媒体に記録を行うプリンター、複写機およびファクシミリ等の記録装置に限らず、インクに代えてその用途に対応する液体を前記インクジェット式記録ヘッドに相当する液体噴射ヘッドから被記録媒体に相当する被噴射媒体に噴射して、前記液体を前記被噴射媒体に付着させる装置を含むものである。
液体噴射ヘッドとして、前記記録ヘッドの他に、液晶ディスプレー等のカラーフィルター製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレーや面発光ディスプレー(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0068】
1 インクジェットプリンター、3 給送装置、3a 装置本体、3b カセット支持面、3c トレイ支持部、3d 嵌合穴、3e 規制穴、4 記録手段、5 搬送手段、6 排出手段、16 給送ローラー、17 揺動部材、18 揺動軸、20 従動ローラー、21 分離手段、22 分離ローラー、23 駆動ローラー、25 第1中間送り部、26 駆動ローラー、27 アシストローラー、29 従動ローラー、31 第2中間送り部、32 駆動ローラー、33 アシストローラー、35 搬送駆動ローラー、36 搬送従動ローラー、37 上部案内部材、39 下部案内部材、40 キャリッジ、41 キャリッジガイド軸、42 記録ヘッド、44 排出駆動ローラー、45 排出従動ローラー、50 下段側トレイ、50a 底面、52 先端規制壁、53 分離斜面、55 被規制部、60 上段側トレイ、60a 底面、62 先端規制壁、63 被支持部、63a 嵌合穴、100 用紙カセット、P、P1、P2 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を収容可能な下段側トレイ及び当該下段側トレイの上部に設けられる上段側トレイを備える被記録媒体カセットを装置本体に対して着脱可能に構成された被記録媒体給送装置であって、
前記被記録媒体カセットが前記装置本体に装着された状態において前記上段側トレイを支持する上段側トレイ支持手段が、前記装置本体の側に設けられたトレイ支持部を備えて構成されている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項2】
被記録媒体を収容可能な下段側トレイ及び当該下段側トレイの上部に設けられる上段側トレイを備える被記録媒体カセットを装置本体に対して着脱可能に構成された被記録媒体給送装置であって、
前記被記録媒体カセットが前記装置本体に装着された状態において前記上段側トレイを支持する上段側トレイ支持手段が、前記装置本体の側の、固定的に設けられた構成部材に配設されたトレイ支持部を備えて構成されている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の被記録媒体給送装置において、前記トレイ支持部は、前記上段側トレイの、被記録媒体給送方向下流側端部を支持する、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の被記録媒体給送装置において、前記被記録媒体カセットに対して進退可能に構成されるとともに被記録媒体と接して回転することにより被記録媒体を送り出す給送ローラーを備え、
前記トレイ支持部が、前記給送ローラーを支持する揺動部材が設けられたフレーム部材に設けられている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の被記録媒体給送装置において、前記被記録媒体カセットに対して進退可能に構成されるとともに被記録媒体と接して回転することにより被記録媒体を送り出す給送ローラーを備え、
前記給送ローラーによる被記録媒体の送り出し方向と直交する方向における前記トレイ支持部の配置位置が、前記給送ローラーと被記録媒体との接触位置またはその近傍に設定されている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の被記録媒体給送装置において、前記トレイ支持部が筒状体によって形成され、
前記上段側トレイに形成された、前記トレイ支持部によって支持される被支持部が前記筒状体に入り込むことにより、前記上段側トレイが前記トレイ支持部により支持される構成を備えている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の被記録媒体給送装置において、前記上段側トレイに形成された、前記トレイ支持部によって支持される被支持部が、前記上段側トレイを装着位置に案内するガイド形状を有している、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の被記録媒体給送装置において、前記被記録媒体カセットに対して進退可能に構成されるとともに被記録媒体と接して回転することにより被記録媒体を送り出す給送ローラーと、
前記被記録媒体カセットが前記被記録媒体給送装置に装着された状態において前記下段側トレイを支持する下段側トレイ支持手段と、を備え、
前記下段側トレイ支持手段が、前記給送ローラーによる被記録媒体の送り出し方向と直交する方向における前記トレイ支持部の配置位置またはその近傍に設けられた下段側トレイ支持部を備えて構成されている、
ことを特徴とする被記録媒体給送装置。
【請求項9】
被記録媒体に記録を行う記録手段を備えた記録装置であって、
請求項1から8のいずれか1項に記載された前記被記録媒体給送装置を備えている、
ことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35931(P2012−35931A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175125(P2010−175125)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】