説明

裁断機

【課題】簡単な構成で裁断刃の長寿命化を図り、裁断刃の交換作業を軽減することができる裁断機を提供する。
【解決手段】シート状物4に対する裁断は、傾斜裁断刃5を上方からシート状物4に突刺した状態で、刃縁5bの一部となる作用位置5cで行われる。傾斜裁断刃5の昇降移動を行うために、裁断刃昇降機構6が備えられている。一つの作用位置5cで刃縁5bとしての寿命が到来しても、制御部7が他の作用位置5cに切換えて、裁断を続けることができる。ただし、刃縁5bは傾斜しているので、刃先5aに対する作用位置5cの高さによって、裁断ヘッド2の基準位置と作用位置5cとの距離も変化する。この変化分は、制御部7が裁断データを補正して裁断ヘッド2の制御を行うことによって、誤差なく裁断を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定されるデータに従ってシート状物、特に炭素繊維を含む硬質の産業用資材などを裁断するための裁断機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、産業用資材、たとえば炭素繊維などを含む繊維強化プラスチック(FRP)成形用の中間素材であるプリプレグや各種プラスチックシートを、任意形状に切出すために、シート状物切断装置(たとえば、特許文献1参照)を用いることが提案されている。このシート状物切断装置では、平坦なテーブル上にシート状物を広げ、斜めに形成される刃縁を先端に有する切刃の突端を接触させて、切刃をシート状物に対して、刃縁が傾斜している方向に相対的に移動させて切断を行う。硬質の産業用資材の切断を継続して行うと、刃縁がシート状物を切断する部分が摩耗し、切れ味が鈍り、刃こぼれや刃欠けなども生じやすくなって、切断が困難になる。特許文献1では、切刃の先端の両側に傾斜した刃縁を設けて山形にすれば、両側の刃縁を順次的に使用して、切刃の寿命を延長する技術も先行技術として紹介されている。特許文献1で開示している発明では、切刃の刃縁を円弧状に形成し、切断に使用可能な刃縁の位置を増やし、切刃の寿命のさらなる延長を目指している。
【0003】
織地や編地などの布帛で比較的軟質の素材で形成されるシート状物に対しては、テーブル表面に載置される状態で、予め設定される裁断データに従って、シート状物の表面に沿うX−Y平面で裁断する裁断機が使用される(たとえば、特許文献2参照)。裁断されたシート状物は、縫製されて衣料品などが製造される。裁断の対象となるシート状物は、複数枚が積層される状態で、テーブル上に載置される。裁断を行う裁断刃は、直立した側方に刃縁が形成され、上方からシート状物に挿入される状態で、上下動を繰返しながら、刃縁の方向に進行してシート状物を裁断する。テーブルの表面は、剛毛ブラシやフェルトなど、上方から内部に裁断刃の刃が侵入可能なように構成されている。裁断機には、外周に刃縁が形成される円板状の裁断刃を回転させて裁断に用いるものもある。特許文献2には、刃縁の研磨で裁断刃の寿命を延ばす技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−43189号公報
【特許文献2】特開平7−60686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリプレグなどの産業用資材では、硬質の繊維を含むので、裁断により裁断刃の刃縁が急速に消耗する。また、軟質で未硬化の樹脂と共存しており、従来の裁断機に用いるような上下動する裁断刃で裁断すると、粉状の裁断屑が発生し、裁断面も波打つ状態になってしまう。このような不具合は、裁断刃を上下動させないで裁断する場合は生じないけれども、刃縁の作用位置が変らずに同一位置となるので、摩耗しやすく、刃こぼれや刃欠けなども生じやすい。これらが生じて、裁断が困難になれば、裁断刃としての寿命が到来し、裁断刃の交換が必要となり、手間がかかる。
【0006】
特許文献1で紹介されている山形の切刃を用いる場合は、両方向の使用で、寿命を2倍に延ばすことが期待されるに過ぎない。刃縁が円弧状に形成される切刃を用いる場合は、シート状物に挿入された円弧状刃縁の二つの位置で、シート状物が切断される。二つの位置間に間隔を必要とするので、裁断する部分の曲率が大きくなったり、裁断する部分同士の隣接密度が高くなったりすると、裁断位置がずれたり、裁断方向の後側で隣接する裁断部分を痛めてしまうおそれがある。裁断機で、円形の裁断刃を用いる場合も同様である。
【0007】
さらに、プリプレグなどに含まれる未硬化の樹脂などは、裁断刃の刃縁付近に付着しやすい。刃縁付近の付着物は、裁断刃としての切れ味を劣化させるなどの障害となり、裁断刃としての摩耗に対する寿命が残っていても、裁断が困難になってしまう。付着物を裁断刃から除去する作業を行うためには、裁断を停止しなければならず、手間がかかり、裁断の効率も低下してしまう。
【0008】
本発明の目的は、簡単な構成で裁断刃の長寿命化を図り、裁断刃の交換作業を軽減することができる裁断機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、刃が上方から内部に侵入可能なテーブルの表面上に載置されるシート状物を、予め設定される裁断データに従い、シート状物の表面に沿うX−Y平面で裁断する裁断機において、
片状で、下部には下方に突出する刃先、および刃先から側方に傾斜しながら上昇する刃縁を有し、下部をシート状物の表面に突刺す状態での刃縁の作用で、シート状物を裁断する傾斜裁断刃と、
傾斜裁断刃を昇降させて、シート状物を裁断する刃縁の作用位置を変更させる裁断刃昇降機構と、
裁断刃昇降機構によって変更させられる刃縁の作用位置に応じて、裁断データを補正しながら、シート状物を裁断するように、シート状物と傾斜裁断刃との相対的な移動を制御する制御部とを、
含むことを特徴とする裁断機である。
【0010】
また本発明の前記制御部は、
前記刃縁の複数の位置を前記作用位置として設定し、
各作用位置での裁断量を監視して記憶し、
裁断量に応じて、作用位置を切換えるように制御する、
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明の前記傾斜裁断刃は、前記刃先の両側に前記刃縁を有する両刃であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記裁断刃昇降機構による前記傾斜裁断刃の昇降時に、傾斜裁断刃の下部に摺接して、傾斜裁断刃への付着物を除去するスクレーパを、
さらに含むことを特徴とする。
【0013】
また本発明の前記制御部は、前記裁断データに従い、前記シート状物を裁断すべき部分で、裁断の密度が高い場合、または裁断の曲率が大きい場合に、前記作用位置が前記傾斜裁断刃の下端付近となるように制御する、
ことを特徴とする。
【0014】
また本発明の前記傾斜裁断刃および裁断刃昇降機構は、前記シート状物の表面の上方で移動する裁断ヘッドに設けられ、
裁断ヘッドでは、該傾斜裁断刃と、刃縁が上下方向で直立するように形成される直立裁断刃とが交換可能であり、
裁断ヘッドには、
直立裁断刃を上下方向に繰返して昇降するように駆動することが可能な繰返し駆動機構を、
さらに含む、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、裁断刃昇降機構で傾斜裁断刃を昇降させて、シート状物を裁断する刃縁の作用位置を変更させるので、特定の作用位置に関して裁断刃としての寿命が尽きても、裁断刃全体としての長寿命化を図ることができる。制御部は、変更した刃縁の作用位置に応じて、裁断データを補正しながら、シート状物を裁断するように、シート状物と傾斜裁断刃との相対的な移動を制御するので、シート状物に対する裁断データに従う裁断を続けることができる。傾斜裁断刃の刃縁の作用位置を変更し、裁断データを補正するだけの簡単な構成で、裁断刃の長寿命化を図り、裁断刃の交換作業を軽減することができる。
【0016】
また本発明によれば、複数の作用位置を使い分けて、裁断刃としての寿命を、単一の作用位置を使用する場合の複数倍に延ばすことができる。
【0017】
また本発明によれば、刃先の両側に刃縁を有する両刃を傾斜裁断刃として用いるので、傾斜する刃縁の両方向を利用して裁断を行うことができ、裁断刃としての寿命を二倍に延ばすことができる。
【0018】
また本発明によれば、スクレーパで傾斜裁断刃への付着物を除去することができるので、付着物による裁断への障害を避けることができる。
【0019】
また本発明によれば、傾斜裁断刃の下端付近を使用して、裁断の密度が高い場所での隣接する裁断部分を痛めるおそれを軽減し、曲率の大きい部分の正確な裁断を可能にすることができる。
【0020】
また本発明によれば、シート状物の素材に応じて、硬質の素材に対しては傾斜裁断刃を使用して裁断し、軟質の素材に対しては直立裁断刃を使用して上下動させ、広範囲な素材に対して適切な裁断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施例としての裁断機1の裁断ヘッド2の主要部分の概略的な構成を示す図である。
【図2】図2は、片刃の裁断刃を使用する場合に寿命を延ばす本発明の基本的な考え方を示し、さらに寿命を延ばすために使用する両刃の裁断刃の例を示す図である。
【図3】図3は、図1の裁断ヘッド2で、ナット部材17が原点位置、裁断刃シリンダ20が作用状態、および生地押えシリンダ24が不作用状態の構成を示す簡略化した正面図である。
【図4】図4は、図3の部分的な右側面図である。
【図5】図5は、図3の裁断刃昇降機構6および生地押え8の作動状態を示す簡略化した正面図である。
【図6】図6は、図3の裁断ヘッド2に設けるスクレーパ40の構成を示す平面図、スクレーパ40の取付け状態を示す正面図、およびスクレーパ40による傾斜裁断刃5への作用状態を示す右側面図である。
【図7】図7は、図1の裁断ヘッド2で、レシプロ機構19を用いて裁断を行うために使用する裁断ユニット50の概略的な構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜図7で本発明の一実施例を説明する。各図の説明では、当該図面には存在せずに、先に説明する図には存在する符号を用いて説明したり、先に説明する図に示す部分と対応する部分には同一の参照符を付したり、重複する説明を省略する場合がある。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の一実施例としての裁断機1、特に裁断ヘッド2の主要部分の概略的な構成を示す。裁断機1および裁断ヘッド2の基本的な構成は、特許文献2に記載されている構成と同等である。すなわち、裁断ヘッド2は、水平なテーブル3に載置されるシート状物4の表面に沿うX−Y平面で移動しながら、裁断を行う。テーブル3は、剛毛ブラシ3aを並べて、下方から直立する剛毛で形成され、通気性を有する表面を有し、剛毛ブラシ3aの下方から吸引してシート状物4を保持することができる。剛毛は、合成樹脂などで形成され、表面の上方から裁断刃の刃を内部に侵入させることが可能である。テーブル3の表面は、フェルトなどで形成してもよい。
【0024】
本実施例の裁断ヘッド2には、裁断刃として傾斜裁断刃5が取付けられている。傾斜裁断刃5は、大略的に片状であり、下部には下方に突出する刃先5aを有する。傾斜裁断刃5は、刃先5aの側方に、傾斜しながら上昇する刃縁5bを有する。本実施例の傾斜裁断刃5は、両刃であり、刃先5aの両側方に刃縁5bを有する。シート状物4に対する裁断は、傾斜裁断刃5を上方からシート状物4に突刺した状態で、刃縁5bの一部となる作用位置5cで行われる。このような傾斜裁断刃5の昇降移動を行うために、裁断刃昇降機構6が備えられている。裁断刃昇降機構6に対する制御は、制御部7で行われる。制御部7は、裁断ヘッド2のX−Y平面での移動を含む裁断機1の全体的な制御を行うために備えられている。傾斜裁断刃5が裁断を行うシート状物4の表面は、生地押え8で押えることができる。傾斜裁断刃5の向きは、R軸ユニット9で、テーブル3の表面に垂直な軸線まわりに変えることができる。
【0025】
裁断刃昇降機構6は、リフトモータ10で駆動するボールねじ機構を含む。ボールねじ機構には、プーリ11,タイミングベルト12、プーリ13、およびねじ棒14が設けられる。プーリ11はリフトモータ10の出力軸に取付けられ、プーリ13はねじ棒14に取付けられる。タイミングベルト12は、プーリ11,13間に掛け渡される。ねじ棒13は、上下を、裁断ヘッド2のフレーム15,16で回転可能に支持される。リフトモータ10も、裁断ヘッド2のフレームに取付けられる。ねじ棒14には、ナット部材17が螺合し、ねじ棒14の回転で、ナット部材17が昇降移動する。ナット部材17には、Z軸シリンダ18が取付けられており、Z軸シリンダ18は、レシプロ機構19をボールねじ機構に対してZ軸方向に昇降させる。レシプロ機構19は、裁断刃を、たとえば特許文献2に開示されているように、上下に振動させるために設けられる。ただし、傾斜裁断刃5のみを用いる場合は、上下に振動させないので、設ける必要はない。
【0026】
ナット部材17には、裁断刃シリンダ20も取付けられている。裁断刃シリンダ20は、傾斜裁断刃5がシート状物4に突刺さって裁断を行う作用状態と、刃先5aがシート状物4の表面から離れる不作用状態とを切換えるために用いられる。裁断刃シリンダ20の出力ロッドは、昇降ベース21に取付けられる。昇降ベース21は、R軸ユニット9を支持する。R軸ユニット9からは、案内軸22が下方に延びている。生地押え8は、案内軸22に案内され、案内軸22の上部に設けられるばね23で上方に引上げるように付勢されている。このように上方に付勢されている生地押え8を昇降移動させるために、昇降ベース21には、生地押えシリンダ24が取付けられている。生地押えシリンダ24の出力ロッド24aは、下方に突出し、先端に接続ユニット25が取付けられている。接続ユニット25は、生地押えシリンダ24が出力ロッド24aを突出させるように作動すると、ばね23の付勢に抗して、生地押え8を下降させる。生地押えシリンダ24が作動する状態では、生地押え8はシート状物4の表面を押える状態となり、テーブル3の表面から、シート状物4の厚さ分だけ浮く状態となる。この厚さは、接続ユニット25の上方に設けられるラック26、ラック26の歯に噛合するピニオン27を介して、エンコーダ28で検出される。昇降ベース21には、R軸ユニット9を回転駆動するためのR軸モータ29も取付けられている。
【0027】
図2は、図1の傾斜裁断刃5に関連する構成について示す。図2(a)は、傾斜裁断刃5が片刃の場合に、シート状物4の表面から突刺す深さD1,D2の違いによって、刃先5aから作用位置5cまでの距離L1,L2が変化することを示す。図2(b)は、両刃の傾斜裁断刃5の形状と、裁断ヘッド2に取付けるために用いるホルダ30とを示す。図2(c)は、傾斜裁断刃5を、他の形状とする例を示す。
【0028】
図2(a)に示すように、傾斜裁断刃5をシート状物4に突刺す深さD1,D2を変えれば、刃縁5bでシート状物4を裁断する作用位置5cを変えることができる。このように、作用位置5cを変えれば、一つの作用位置5cでは、摩耗して切れ味が悪くなったり、刃こぼれや刃欠けなどを生じて、刃縁5bとしての寿命が到来しても、他の作用位置5cで裁断を続けることができる。本実施例の制御部7は、各作用位置5cでの裁断距離などの裁断量を監視して記憶しながら管理し、使用中の作用位置における裁断量が寿命として設定される限界値を越えると、次の作用位置5cをとるように制御するので、傾斜裁断刃5の長寿命化を図ることができる。たとえば、深さ6mm程度まで刃縁5bが設けられる傾斜裁断刃5では、2mm毎に3カ所の作用位置5cを切換えることができる。
【0029】
このように高さが異なる複数の作用位置5cを用いる場合、作用位置を裁断中に切換えても良いが、シート状物4として一回で裁断するマーカー毎や、各マーカー内でのパーツ毎などで、切換えるようにしてもよい。制御部7は、各作用位置5cで裁断量を監視し、記憶しておき、裁断量の積算値が限界量を超える、あるいは限界量に近づくと、その作用位置5cは使用しない、などの制御を行う。
【0030】
ただし、刃縁5bは傾斜しているので、刃先5aに対する作用位置5cの高さによって、裁断ヘッド2の基準位置、たとえばR軸の位置に対する作用位置5cが変化してしまう。しかしながら、この変化分は、制御部7が裁断データを補正して裁断ヘッド2の制御を行うことによって、誤差なく裁断を行うことができる。
【0031】
また、傾斜裁断刃5は、突刺す深さD1,D2で浅いD1の方が、シート状物4にかかる刃先5aから作用位置5cまでの距離L1が短くなる。この距離が短い方が、曲率が大きい部分の裁断や、裁断密度が高い部分などの裁断には適している。したがって、制御部7は、裁断データに基づく判断で、必要に応じて、深さが浅い刃先5a付近を使用して裁断するように制御することが好ましい。なお、このような作用位置5cの高さの切換は裁断中に行っても良いが、制御部7は、裁断データから判断して、切換えが必要になると、傾斜裁断刃5をシート状物4から引上げた状態で裁断を行うように制御してもよい。
【0032】
図2(b)に示すような両刃にすれば、傾斜裁断刃5で刃縁5bを刃先5aの両側に設けることができ、片側のみに刃縁5bを設けるよりも、さらに長寿命化を図ることができる。たとえば、傾斜角度θ1が65°程度であれば、深さ8mmずつ両側に刃縁5bを設けることができる。このような傾斜裁断刃5は、二片のホルダ30で両側から挟む状態で、裁断ヘッド2に取付けて固定する。ホルダ30では、傾斜裁断刃5の周囲を、ねじ31,32,33,34,35で締付ける。
【0033】
図2(c)に示すように、傾斜裁断刃5は、両刃にするとしても、種々の形状とすることが可能である。また、刃縁5bの傾斜角度θ2もθ1より小さくすることも、大きくすることもできる。
【0034】
図3および図4は、図1の裁断ヘッド2で、ナット部材17が上限まで上昇している原点位置にあり、裁断刃シリンダ20が昇降ベース21を下降させている作用状態にあり、生地押えシリンダ24が生地押え8を上昇させて不作用状態にしている構成を示す。ボールねじ機構による昇降量は、裁断刃シリンダ20による昇降量よりも大きく、原点位置では、傾斜裁断刃5の刃先5aは、シート状物4の表面まで下降しない。
【0035】
図1では省略しているけれども、昇降ベース21には、レシプロ機構19に装着する裁断刃を研磨する際に、砥石を回転駆動するための砥石モータ36や、研磨時にR軸ユニット9の回転を止めるブレーキ37なども取付けられている。傾斜裁断刃5が貫通する生地押え8の底面8aには、傾斜裁断刃5への付着物をかき取るスクレーパ40が設けられている。底面8aで、傾斜裁断刃5およびホルダ30等が貫通する貫通孔8bの周囲には、スクレーパ40の平坦部40aが嵌合する凹部8cが形成されている。スクレーパ40は、案内部材41を介して、昇降ベース21に、昇降移動可能な状態で取付けられている。
【0036】
図5は、図1の裁断刃昇降機構6および生地押え8の作動状態を簡略化して示す。図5(a)は、図3および図4の状態から、生地押えシリンダ24による生地押え8の引上げを停止して、生地押え8がシート状物4の表面を押える作用状態を示す。ボールねじ機構も傾斜裁断刃5の下降を開始し、刃先5aがシート状物4の表面を突刺している。図5(b)および図5(c)は、図5(a)よりも、傾斜裁断刃5をさらに下降させている状態を示す。図5(b)と図5(c)とは、刃縁5bの作用位置5cが異なるので、傾斜裁断刃5をシート状物4に突刺す深さの切換で、傾斜裁断刃5の寿命を延ばすことができる。図5(d)は、図5(c)の状態で、裁断刃シリンダ20を不作用状態にして、昇降ベース21を上昇させ、傾斜裁断刃5の刃先5aがシート状物4の表面から離す状態を示す。
【0037】
図6は、傾斜裁断刃5への付着物をかき取るスクレーパ40に関連する構成を示す。図6(a)に示すように、スクレーパ40の平坦部40aには、傾斜裁断刃5が貫通する貫通孔40bが設けられている。貫通状態で、傾斜裁断刃5と貫通孔40bとの隙間は小さく、傾斜裁断刃5の表面に付着物があれば、平坦部40a表面でかき取ることができる。平坦部40aの一辺からは、取付部40cが直立し、さらにその上端には、ばね掛け部40dが設けられる。図6(b)に示すように、取付部40cには、案内部材41に取付けるための長孔40eが設けられており、ねじ42,43で、昇降移動可能な状態で取付けられる。図6(c)に示すように、スクレーパ40の上端に設けられるばね掛け部40dには、引張りばね44の下端が掛けられる。引張りばね44の上端は、案内部材41の上部に掛けられる。
【0038】
スクレーパ40の貫通孔40bは、傾斜裁断刃5の断面に近い形状であるので、図6(c)に示すように生地押え8に対して傾斜裁断刃5が相対的に下降している状態では、ホルダ30の下端で押下げられる。生地押え8に対して、傾斜裁断刃5が相対的に上昇すると、スクレーパ40は、引張りばね44で引張られ、生地押え8の凹部8cまでは平坦部40aが上昇可能であるけれども、貫通孔8bの開口面積は平坦部40aよりも小さいため、平坦部40aは凹部8cで上昇を阻止される。シート状物4を裁断する際には、裁断パーツ間の移動時には、裁断刃シリンダ40を不作用にして、傾斜裁断刃5を上昇させ、裁断パーツの裁断時には裁断刃シリンダ40を作用にして、傾斜裁断刃5を下降させる。このような傾斜裁断刃5の昇降で、スクレーパ40による付着物の除去が並行して行われる。
【0039】
裁断するシート状物4として、プリプレグを使用する場合、プリプレグには、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の硬質部分とともに、エポキシ樹脂などの未硬化の熱硬化性樹脂が含浸されている。硬質部分の裁断のためには、傾斜裁断刃5の材質に、たとえば超硬合金を使用する。しかしながら、含浸された未硬化樹脂は、傾斜裁断刃5への付着物となりやすい。傾斜裁断刃5への付着物が多くなると、切れ味が鈍り、裁断が困難になる。スクレーパ40を用いることによって、付着物を除去することができる。また、付着物は刃縁5bの後方にも付着するので、両刃の傾斜裁断刃5を用いる場合、多量に付着する前に、R軸の回転で、向きが異なる刃縁5bに切換えれば、裁断しながら付着物を除去することもできる。このような刃の向きの切換えも制御部7で行う。
【0040】
図7は、図1の裁断ヘッド2でレシプロ機構19を用いて裁断を行う場合に使用する裁断ユニット50の概略的な構成を示す。裁断ユニット50では、直立裁断刃55を使用する。直立裁断刃55では、刃縁55aが直立した側方に形成されている。直立裁断刃55は、ナイフガイド56で案内されて、繰返し駆動機構であるレシプロ機構19で上下に駆動しながらシート状物4を裁断する。直立裁断刃55の材質は、工具鋼などの硬質鋼材が使用され、砥石ユニット57で研磨しながら使用し、比較的軟質の素材を効率よく裁断することができる。このような裁断ユニット50および生地押え58を、図1に示す傾斜裁断刃5およびその取付け部分や、生地押え8と交換することによって、広範囲な素材に対して適切な裁断を行うことができる。
【0041】
また、直立裁断刃55には、刃縁55aに凹凸を設けて、鋸歯状とすることもでき、鋸歯状の裁断刃を用いれば、ゴムなどの弾性素材を効率よく裁断することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 裁断機
2 裁断ヘッド
3 テーブル
4 シート状物
5 傾斜裁断刃
5a 刃先
5b 刃縁
5c 作用位置
6 裁断刃昇降機構
7 制御部
8 生地押え
9 R軸ユニット
10 リフトモータ
20 裁断刃シリンダ
24 生地押えシリンダ
30 ホルダ
40 スクレーパ
50 裁断ユニット
55 直立裁断刃
57 砥石ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃が上方から内部に侵入可能なテーブルの表面上に載置されるシート状物を、予め設定される裁断データに従い、シート状物の表面に沿うX−Y平面で裁断する裁断機において、
片状で、下部には下方に突出する刃先、および刃先から側方に傾斜しながら上昇する刃縁を有し、下部をシート状物の表面に突刺す状態での刃縁の作用で、シート状物を裁断する傾斜裁断刃と、
傾斜裁断刃を昇降させて、シート状物を裁断する刃縁の作用位置を変更させる裁断刃昇降機構と、
裁断刃昇降機構によって変更させられる刃縁の作用位置に応じて、裁断データを補正しながら、シート状物を裁断するように、シート状物と傾斜裁断刃との相対的な移動を制御する制御部とを、
含むことを特徴とする裁断機。
【請求項2】
前記制御部は、
前記刃縁の複数の位置を前記作用位置として設定し、
各作用位置での裁断量を監視して記憶し、
裁断量に応じて、作用位置を切換えるように制御する、
ことを特徴とする請求項1記載の裁断機。
【請求項3】
前記傾斜裁断刃は、前記刃先の両側に前記刃縁を有する両刃であることを特徴とする請求項1または2記載の裁断機。
【請求項4】
前記裁断刃昇降機構による前記傾斜裁断刃の昇降時に、傾斜裁断刃の下部に摺接して、傾斜裁断刃への付着物を除去するスクレーパを、
さらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の裁断機。
【請求項5】
前記制御部は、前記裁断データに従い、前記シート状物を裁断すべき部分で、裁断の密度が高い場合、または裁断の曲率が大きい場合に、前記作用位置が前記傾斜裁断刃の下端付近となるように制御する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の裁断機。
【請求項6】
前記傾斜裁断刃および裁断刃昇降機構は、前記シート状物の表面の上方で移動する裁断ヘッドに設けられ、
裁断ヘッドでは、該傾斜裁断刃と、刃縁が上下方向で直立するように形成される直立裁断刃とが交換可能であり、
裁断ヘッドには、
直立裁断刃を上下方向に繰返して昇降するように駆動することが可能な繰返し駆動機構を、
さらに含む、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の裁断機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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