説明

装具

【課題】痙性斜頸の症状を改善する。
【解決手段】装具1は、頭部11に装着可能な程度に、弾性を有し、かつ頭部に適合する形状を維持する外層部2と、外層部2に設けられ、頭部の所定箇所を緩衝しながら圧迫する内層部3と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、痙性斜頸の症状を改善する装具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、痙性斜頸という疾患が知られている。痙性斜頸は、首が左右上下の何れかの方向に、傾く、捻じれる、震えるといった不随意運動を引き起こす局所性ジストニアの一種である。痙性斜頸は、頸部ジストニアとも呼ばれる。日本で1〜3万人程の痙性斜頸の患者がいるとされるが、その原因は解明されていない。
【0003】
痙性斜頸の治療法として、理学療法、薬物治療、外科的治療が行われている。理学療法は、自律訓練法によるリラックス・バイオフィードバックである。薬物治療は、ボツリヌス菌毒素の注射である。外科的治療は、脳深部刺激療法、選択的抹消神経遮断術・副神経減圧術である。
【0004】
一方、顔を正面に向けた状態で、針金製のハンガーを横向きにして側頭部を挟むような形で頭に装着すると、自身の意志とは無関係に頭部が回転し横を向いてしまう反射運動が知られている。この現象は「ハンガー反射」として報告されている。ハンガー反射は、頭部の圧迫位置が重要であり、ハンガーを使用せず頭部の最適な圧迫点を刺激することで、頭部の回旋を制御する頭部回旋装置も知られている(非特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松江,佐藤(未),橋本,梶本,「側頭部圧迫による反射運動の研究」,日本バーチャルリアリティ学会第12回大会,日本バーチャルリアリティ学会,2007年9月19日,p.295−296
【非特許文献2】佐藤(未),松江,刀祢,橋本,梶本,「ハンガー反射を利用した頭部回旋装置の研究」,エンターテイメントコンピューティング2008,エンターテイメントコンピューティング,2008年10月29日,p.139−142
【非特許文献3】M. Sato, R. Matsue, Y. Hashimoto, H. Kajimoto,"Development of a Head Rotation Interface by Using Hanger Reflex",18th IEEE Internationalsymposium on robot and human interactive communication,IEEE Internationalsymposium on robot and human interactive communication,September 27, 2009,pp.534-538
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、痙性斜頸の治療法として、理学療法等が行われているが、何れも効果の割にリスクが高く、副作用も伴う問題がある。また、痙性斜頸が肩こりの要因となる場合もあり、痙性斜頸による頭部の回旋を抑制したいとの希望がある。
【0007】
従って本発明の目的は、痙性斜頸による頭部の回旋運動を抑制する装具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の特徴に係る装具は、痙性斜頸の治療器具に関する。即ち本発明の特徴に係る装具は、頭部に装着可能な程度に、弾性を有し、かつ頭部に適合する形状を維持する外層部と、外層部に設けられ、頭部の所定箇所を緩衝しながら圧迫する緩衝部と、を備え、痙性斜頸の症状を改善する。
【0009】
ここで、頭部に適合する位置からずれた位置で装着され、外層部の弾性を利用して、緩衝部が頭部の所定箇所を圧迫する。
【0010】
緩衝部は、外層部の内周一面に設けられていても良いし、外層部の内周の一部に設けられていても良い。
【0011】
さらに、緩衝部は、高摩擦部分を備え、高摩擦部分で所定箇所を圧迫しても良い。ここで、例えば、緩衝部の一部が、凹状であって、高摩擦部分は、緩衝部の凹部位にて、緩衝によって所定箇所に当接して圧迫しても良い。
【0012】
外層部は、例えば、ガラス繊維の編み物または水硬化樹脂からなり、緩衝部は、ウレタン樹脂からなる。また、高摩擦部分は、例えば、ゴムからなる。
【0013】
緩衝部は、弾性体を含む圧迫器であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、痙性斜頸による頭部の回旋運動を抑制する装具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る装具の全体図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態に係る装具の一部の拡大図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施の形態に係る装具の断面図である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施の形態に係る装具を頭部に装着した状態を説明する図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施の形態に係る装具の装着により生じる圧迫部およびゆとり部を説明する図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施の形態に係る装具の制作を説明する図である。
【図7】図7は、本発明の第1の実施の形態に係る装具によって、左右の旋回パターンを説明する図である。
【図8】図8は、本発明の第1の実施の形態に係る装具によって、側屈の旋回パターンを説明する図である。
【図9】図9は、本発明の第1の実施の形態に係る装具によって、後屈の旋回パターンを説明する図である。
【図10】図10は、本発明の第1の実施の形態に係る装具によって、側屈と後屈を複合した旋回パターンを説明する図である。
【図11】図11は、本発明の第2の実施の形態に係る装具の断面図である。
【図12】図12は、本発明の第3の実施の形態に係る装具の全体図である。
【図13】図13は、本発明の第3の実施の形態に係る装具を頭部に装着した状態を説明する図である。
【図14】図14は、本発明の第4の実施の形態に係る装具の一部の拡大図である。
【図15】図15は、本発明の第4の実施の形態に係る装具を頭部に装着した状態を説明する図である。
【図16】図16は、本発明の第4の実施の形態に係る装具の圧迫器を説明する図である。
【図17】図17は、ハンガー反射による頭部の回転方向と回転に寄与する部位の測定におけるハンガーの角度の定義を説明する図である。
【図18】図18は、3点接触のハンガー反射による頭部の回転方向と回転に寄与する部位の測定結果を説明する図である。
【図19】図19は、図18に示す場合において、旋回角度がピークとなるときの頭部の圧力分布を説明する図である。
【図20】図20は、2点接触のハンガー反射による頭部の回転方向と回転に寄与する部位の測定結果を説明する図である。
【図21】図21は、図20に示す場合において、旋回角度がピークとなるときの頭部の圧力分布を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る装具1を説明する。装具1は、痙性斜頸の治療器具であって、特に回旋系の痙性斜頸の症状を緩和させるための装具である。装具1は、頭部に適合する形状をしている。装具1は、患者の頭部11のこめかみ近傍に密着するように装着される。
【0018】
図2に示すように、装具1は、外層部2と内層部1を備えている。
【0019】
外層部2は、頭部11に装着可能な程度に、弾性を有し、かつ頭部11に適合する形状を維持する。外層部2は、例えば、ガラス繊維の編み物や、水硬化樹脂からなる。外層部2の素材として、医療現場で入手しやすいものとして、水硬化性ギプス(例えば、「キャストライトα」(製品名)、ロールタイプ幅50mm)が挙げられる。水硬化性ギプスは、プラスチックギプスとも呼ばれ、一般的には、局所の安静、位置の固定を要する患部に巻かれる。水硬化性ギプスの素材は、例えば、水硬化性ポリウレタン樹脂であって、石膏(ギプス)を含まない場合もある。
【0020】
なお、本発明の第1の実施の形態において、外層部2として、幅50mmの水硬化性ギプスを用いたが、幅が広いことにより、頭部11への圧迫が強くなる。従って、患者が装着する際には、患者の症状や痛みに応じて、例えば、20mmほどに幅をカットするなどの対応を取ることが好ましい。
【0021】
内層部3は、外層部2に設けられ、頭部11の所定箇所を緩衝しながら圧迫する緩衝部である。ここで、「所定箇所」とは、ハンガー反射を誘発する場所である。この所定箇所を圧迫することにより、患者の痙性斜頸の症状に適合するハンガー反射を誘発することができる。なお、ハンガー反射の詳細は後述する。
【0022】
図3に示すように、内層部3は、外層部2の内周一面に設けられている。図3は、図1において示した装具1のA−A’の断面図である。
【0023】
内層部3は、装具1を回転可能な程度の摩擦力があり、かつ圧迫点において強い接触が発生した時に極端に強い摩擦を発生し頭部11に固定可能である素材であれば、特に限定されないが、例えば、ウレタン樹脂がこのましい。また、内層部3の素材の厚みは、素材により適宜決めればよいが、第1の実施の形態のウレタン樹脂であれば、3ミリ程度である。
【0024】
本発明の第1の実施の形態に係る装具1は、頭部11に適合する位置からずれた位置で装具1を装着される。装具1は、外層部2の弾性を利用して、内層部3が頭部11の所定箇所を圧迫する。
【0025】
図4を参照して、患者の頭部11に装具1を装着した図を説明する。図4(a)は、患者の頭部11に、その頭部11の形状に適合する装具1を装着した状態を上から示した図である。患者の頭部11は、図4(a)に示す図において、上下方向、即ち患者の前後の方向に長い楕円形であるとみなされる。また、装具1は、この頭部11に適合する、ほぼ楕円の形状を有している。図4(a)の状態では、装具1は、患者の頭部11のこめかみ近傍を密着するように装着されている。
【0026】
ここで、痙性斜頸の症状を改善するために、患者の頭部11の所定の圧迫点を圧迫する必要がある。また、装具1は、頭部の形状に適合し、ほぼ楕円形であるので、頭部11に装着したまま回転させることができる。そこで、装具1を側頭部方向に回転させると、外層部2の弾性の効果により、装具1は回転により頭部11の形状と装具1の形状とにずれが生じ、例えば2箇所の圧迫点4aおよび4bに力が加わる。このように回転された装具1は、頭部11の圧迫点4aおよび4bに接触した状態で変形の限界を迎え、頭部11を圧迫したまま静止する。これにより、装具1は、頭部11の所定箇所にのみを圧迫するとともに、患者は、頭部11からずり落ちることなく装具1を装着することができる。
【0027】
図5を参照して詳述する。図5(a)において、装具1を白抜きの楕円で示し、頭部11をハッチングの楕円で示す。ここで、装具1と頭部11は、同じ形状を有する。装具1を角度αだけ側頭部方向に回転させると、装具1と頭部11との間にひずみが生じる。これにより、装具1に、回転させる前より強く圧迫される圧迫部4aおよび4bと、回転させる前より弱く圧迫されるゆとり部5aおよび5bとが、生じる。図5(b)に示すように、圧迫部4aにおいて、装具1の輪郭1aと、頭部11の輪郭11aとの間に、距離dのひずみが生じる。この距離dのひずみは、装具1の弾性によって、頭部11にフィットするとともに、圧迫部4aを圧迫する。ゆとり部5aは、装具1の弾性の程度などにより、頭部11に接触して装着される場合もあるし、頭部11から浮いて装着される場合もある。
【0028】
患者が装具1を回転させることにより、図5(a)に示すように装具1の内部と、頭部11との重なる領域の最大変位が力に変わると考えられる。従って、より多く回転させた場合の方が、圧迫部4aおよび4bにおける圧迫力が強まると考えられる。装具1を回転させることにより、装具1と頭部11の接触位置自体も変化するので、実際には「圧迫力の変化」と、「圧迫部位の変化」と、が同時に起きていることになる。これらの相乗効果により、結果として患者が装具1の回転を微調整すると、擬似的な回旋力(いわゆるハンガー反射の効果)を制御することが可能となる。
【0029】
このように、痙性斜頸の患者の頭部11に、装具1を側頭部方向に回転させて装着させることにより、装具1によって、頭部11の2箇所の圧迫点4aおよび4bを接触させることができる。装具1は、頭部11に針金製ハンガーを被った状態と同様の圧迫を与え、ハンガー反射を誘発することができる。
【0030】
ここで、ハンガー反射は、側頭部こめかみ付近を圧迫することにより発生することが知られている。従って、頭部11の側頭部こめかみ付近に圧迫点4aまたは4bを設けるように装具1を装着することにより、痙性斜頸の傾きと反対方向にハンガー反射を誘発し、そのハンガー反射が誘因となり痙性斜頸の症状を緩和させることができる。
【0031】
図6を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る装具1の製造方法を説明する。まず図6(a)に示すように、患者の頭部11にニット21を被せる。次に、図6(b)に示すように、患者のこめかみを覆う様に下巻の包帯22を巻く。製造する装具1より広く下巻の包帯22を患者に巻く。さらに、水に5〜10秒程度浸した水硬化性ギプスを、下巻の包帯22の上に巻き付ける。水硬化性ギプスが硬化すると、頭部11の形状に適合する外層部2となる。さらに、この外層部2の内周に、内層部3を貼り付ける。このような手順で、本発明の第1の実施の形態に係る装具1を製造することができる。
【0032】
次に図7ないし図10を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る装具1の装着による圧迫位置を説明する。ハンガー反射は、頭部の左右回旋がよく知られているが、頭部の側屈回旋や前後屈回旋も存在する。本発明の実施の形態において「側屈」とは、頭部が左右に傾く状態を言う。「前後屈」とは、頭部が前後に傾く状態を言う。ハンガー反射において、頭部11の所定位置を圧迫することにより、一定のパターンで頭部11が回旋する。そこで、図7ないし図10を参照して、圧迫位置とその圧迫によるハンガー反射の回旋パターンについて説明する。図7ないし図10において、それぞれ、(a)の図は、患者の正面から観察した図であって、(b)の図は、患者の右側から観察した図であって、(c)の図は、患者の左側から観察した図である。
【0033】
まず図7を参照して、頭部11の左右回旋パターンについて説明する。図7に示すように、側頭部前方および対側の側頭部後方を圧迫する。具体的には、患者は、頭部11のこめかみ部分近辺の高さで装具1を水平に装着し、装具1を左右方向いずれかの向きに回転させ圧迫部4aおよび4bを、それぞれ側頭部前方および対側側頭部後方の圧迫点に一致させる。これにより、左右回旋のハンガー反射を誘発できるので、左右方向の痙性斜頸の症状を緩和させることができる。すなわち、図7の例では、左回旋のハンガー反射を誘発し、このハンガー反射が誘因となって、右回旋の痙性斜頸を矯正することができる。
【0034】
次に図8を参照して、頭部11の側屈方向の回旋パターンについて説明する。図8に示すように、側頭部上方および対側の側頭部下方を圧迫する。具体的には、患者は、頭部11のこめかみ部分付近の高さで装具1を水平に装着し、装具1の側頭部付近の一方を上方に、他方を下方にずらして圧迫部4aおよび4bを、それぞれ側頭部上方および対側の側頭部下方の圧迫点に一致させる。これにより、側屈方向に回旋するハンガー反射を誘発できるので、側屈方向の痙性斜頸の症状を緩和させることができる。すなわち、図8では、右に側屈するハンガー反射を誘発し、このハンガー反射が誘因となって、左に側屈する痙性斜頸を矯正することができる。
【0035】
次に図9を参照して、頭部11の前後屈の回旋パターンについて説明する。図9に示すように、前頭部上方および後頭部下方を圧迫する。具体的には、患者は、頭部11のこめかみ部分付近で装具1を水平に装着し、装具1を前頭部上方および後頭部下方にずらして圧迫部4aおよび4bを、それぞれ前頭部上方および後頭部下方の圧迫点に一致させる。これにより、前後屈方向に回旋するハンガー反射を誘発できるので、前後屈方向の痙性斜頸の症状を緩和させることができる。すなわち、図9では、後屈するハンガー反射を誘発し、これにより、前屈する痙性斜頸を矯正することができる。
【0036】
次に図10を参照して、頭部11の側屈および前後屈方向の複合回旋パターンについて説明する。図10に示すように、前頭部左方上方および後頭部右方下方を圧迫する。これにより、図10に示す例では、ハンガー反射で頭部11が左方上方に向かって回旋する。
【0037】
図10に示す例は、図8および図9を参照して説明した回旋パターンの複合である。このように、複数のパターンを複合することで、複雑な回旋パターンにも対応することができる。従って、本発明の第1の実施の形態に係る装具1は、回旋性のあらゆるパターンの痙性斜頸の症状の緩和に好適である。
【0038】
このような第1の実施の形態に係る装具1を被験者に装着させてみたところ、頭部の回旋性について、「針金ハンガーよりも回る」、「針金ハンガーより若干回旋力が強いと感じる」、「同程度」などの意見が出され、効果的にハンガー反射を引き起こしていることが確認された。また、装具1を装着することによって、被験者が殆ど痛みを感じないことも確認された。また、長時間の装着でも、痛みの増進は見られなかった。また、着用時の安定感があり、日常生活に支障がないことが確認された。
【0039】
このように、第1の実施の形態に係る装具1は、頭部11に装着可能な程度に、弾性を有し、かつ頭部11に適合する形状を維持する外層部2と、外層部2に設けられ、頭部11の所定箇所を緩衝しながら圧迫する内層部3と、を備えることにより、装具1を頭部11に装着した状態で回転させ、所定位置で安定して固定させることができる。
【0040】
また、外層部2の弾性を利用して、頭部11に適合する位置からずれた位置で装具1を装着することにより、内層部3が頭部の所定箇所を圧迫することができる。従って、装具1の刺激の強さ、位置などを、患者自身が装着しながら装具1を動かすことによって調節することができる。
【0041】
さらに、内層部3は、外層部2の内周一面に設けられていることにより、装具1の任意の箇所で頭部11を圧迫させることができる。従って、あらゆる回旋性の痙性斜頸の症状を緩和させることができる。
【0042】
また、装具1は、患者の頭部11の形に合わせて成形される。従って、装具1を装着しても、装着しない場合に比べて頭部の形状にほとんど変化しない。患者は、他人の視線を意識することなく装具1を装着することができる。
【0043】
このように第1の実施の形態に係る装具1は、患者の日常生活を妨げることなく、痙性斜頸の症状を緩和させることができる。
【0044】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る装具1aは、第1の実施の形態に係る装具1と比べて、装具1aの内層部3aの構造が異なる。図11を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る装具1aの断面を説明する。図11は、図1において示した装具1aのA−A’の断面図である。
【0045】
図3を参照して説明した本発明の第1の実施の形態に係る内層部3と比べて、第2の実施の形態に係る装具1aは、高摩擦部5を備えている点が異なる。高摩擦部5は、装具1aの中心付近に、頭部11に接触可能なように設けられる。第2の実施の形態に係る内層部3aは、その中心が凹部状であり、その凹部に高摩擦部5が設けられる。高摩擦部5は、内層部3の凹部位にて、緩衝によって所定箇所に当接して圧迫する。高摩擦部5の高さは、内層部3aの上端よりも低く設定されている。高摩擦部5は、例えばゴムなどの、高い摩擦を起こす素材であることが好ましい。高摩擦部5は、内層部3aの全体に施されても良いし、圧迫点を圧迫可能な部分にのみ施されても良い。
【0046】
第2の実施の形態において、患者は、高摩擦部5が頭部11に接触することなく、内層部3aによって頭部11の皮膚を接触させながら、内層部3aの低い摩擦力を発揮させて、装具1aを回転させることができる。また、所定位置で装具1aを固定させるときは、強い圧迫がかかり、緩衝材で成形された内層部3aの厚みが少なくなるとともに、高摩擦部5が頭部11の皮膚に接触することにより、患者の頭部11の所定位置で安定して固定させることができる。
【0047】
このように、本発明の第2の実施の形態に係る装具1aは、外層部3の弾性を利用して、頭部11に適合する位置からずれた位置で当該装具を装着するとともに、高摩擦部5で所定箇所を圧迫することができるので、装具1aの装着時の安定性をさらに向上させることができる。
【0048】
(第3の実施の形態)
図12および図13を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る装具1bを説明する。本発明の第3の実施の形態に係る装具1bは、図1を参照して説明した第1の実施の形態に係る装具1と比較して、内層部の形状が異なる。装具1の内層部3は、外層部2の内周一面に設けられている一方、第3の実施の形態に係る装具1bにおいて、内層部は、外層部2の内周の一部に設けられている。装具1bの外層部2は、第1の実施の形態と同様である。なお、図12および図13においては、内層部を2箇所設ける場合について説明したが、3箇所以上でも1箇所でも良い。
【0049】
図12に示すように、装具1bは、内層部6aと内層部6bを備える。この内層部6aおよび6bは、第1の実施の形態で説明した通り、所定箇所を緩衝しながら圧迫し、例えば、ウレタン樹脂などで成形される。内層部6aおよび6bの位置は、ハンガー反射を引き起こす圧迫点に一致するように設けられている。内層部6aおよび6bにより、頭部11に局所的に圧迫を加えることができる。
【0050】
図13を参照して、第3の実施の形態に係る装具1bを頭部11に装着した状態を説明する。図13において、患者は装具1bを水平に装着している。内層部6aおよび6bはそれぞれ、頭部11の側頭部左方前方および側頭部右肩後方を、圧迫する。これにより装具1bは、ハンガー反射で頭部11が左右方向に回旋する。
【0051】
このような第3の実施の形態に係る装具1bを被験者に装着させてみたところ、針金ハンガーと同程度かやや劣るものの、一定の回旋力を得られることが確認された。
【0052】
このような第3の実施の形態に係る装具1bによれば、一定条件下で、ハンガー反射により回旋を引き起こすことができる。また、外層部2の一部にのみ内層部6aおよび6bを設けているので、第1の実施の形態に係る装具1に比べて、コストダウンを図ることができる。
【0053】
このような第3の実施の形態に係る装具1bは、任意の箇所に内層部6a、6b等を設置することができるので、患者の状態に応じて、ハンガー反射を誘発する適切な箇所に内層部を設け、痙性斜頸の症状を矯正することができる。
【0054】
(第4の実施の形態)
図14に示すように、本発明の第4の実施の形態に係る装具1cは、外層部2に、圧迫器7が設けられている。圧迫器7は、外層部2に設けられ、頭部11の所定箇所を緩衝しながら圧迫する緩衝部である。
【0055】
図15に示すように、装具1cに、圧迫器7aおよび7bが設置されている。圧迫器7aおよび7bは、外層部2上の任意の場所で設置することができる。また圧迫器7aおよび7bは、一部にばねなどの弾性体を備える。これにより、頭部11と装具1cとの距離を調節可能にし、頭部11の所定箇所を緩衝しながら圧迫することができる。
【0056】
図16を参照して、圧迫器7aを説明する。圧迫器7aは、接触部71、弾性体72aおよび72b、調整板73aおよび73b、調節部74、固定部75aおよび75bを備える。
【0057】
接触部71は、頭部11に接触する部分である。接触部71は、例えばプラスチック板であって、頭部11の接触の衝撃を緩和するため、その表面がラバーコーティングされているものが好ましい。接触部71には、弾性体72aおよび72bが接続されている。
【0058】
弾性体72aおよび72bは、例えばばねなどの弾性体である。弾性体72aおよび72bによって、適度な摩擦を生じさせるので、患者は、装具1cを頭部11で回転し、その設置位置を決定することができる。また、設置位置が決定した後は、弾性効果により、接触部71にて頭部を圧迫する。弾性体72aおよび72bは、第1の調節板73aに接続されている。
【0059】
調整板73a、73bおよび調節部74は、圧迫器7が頭部11を圧迫する強さを調節する。調節部74は例えばネジである。調節板73aおよび73bは、プラスチック製の板であって、その板を貫通し、調節部74のネジを貫通可能な溝を備える穴を設けられている。調節部74のネジを回すことにより、調節板73aおよび73bの間隔を調節することができる。この調整により、装具1cと頭部11との距離を調節し、圧迫力を調節することができる。これにより、装具1cの装着により患者が痛みを感じる場合、その痛みを緩和することもできる。
【0060】
固定部75aおよび75bは、例えばボルトおよびナットで構成される。所望の位置で、外層部2にボルトを通しナットで固定する。これにより、外層部2の任意の位置に圧迫器7を設置することができる。
【0061】
このような第4の実施の形態に係る装具1cは、任意の箇所に圧迫器7を設置することができるので、患者の状態に応じて、ハンガー反射を誘発する適切な箇所に圧迫器を設置し、痙性斜頸の症状を矯正することができる。
【0062】
(ハンガー反射)
図17ないし図21を参照して、本発明の各実施の形態で用いるハンガー反射について説明する。
【0063】
ハンガー反射とは、針金製ハンガーを頭部に装着すると、ひとりでに頭が回転してしまう現象のことである。このハンガー反射を解明するために、頭部に針金製ハンガーを装着し、ハンガー反射による頭部の回転方向と回転に寄与する部位の測定を試みた。
【0064】
図17を参照して、この測定における角度の定義を説明する。フックが被験者の正面となる状態を0度と定義する。この状態から右回りに、フックが被験者の右側となる状態を90度、フックが被験者の後側となる状態を180度、フックが被験者の左側となる状態を360度と定義する。
【0065】
図17において上段は、通常の針金製ハンガーを装着した状態を上部から観察した図である。本実施の形態において、通常の針金製ハンガーは、3点で頭部に接触するため、3点ハンガーと称す。例えば、ハンガー角度が0度の場合、ハンガーは、被験者の左右こめかみ部分と、後頭部の3点で接触する。
【0066】
また図17において下段は、2点ハンガーを装着した状態を上部から観察した図である。本実施の形態において、2点ハンガーとは、針金製ハンガーが2点で頭部に接触するように形状を変えたハンガーである。例えば、ハンガー角度が0度の場合、ハンガーは、被験者の額中央部と、後頭部の2点で接触する。
【0067】
この測定においては、被験者の頭部に、幅13ミリのフィルム状力センサを並べて配置する。被験者の頭囲は約510mmであるので、39個の力センサを被験者の頭囲を覆うように並べる。この状態で、被験者に針金製ハンガーを装着させた後、各力センサから圧力を取得し記録するとともに、このときのハンガー反射による回旋角度を計測する。さらに、この針金製ハンガーを、回転してさらに、各力センサから圧力を取得し記録するとともに、このときのハンガー反射による回旋角度を計測する。このとき、針金製ハンガーを、フィルム状力センサの幅に相当する、13ミリずつ回転させる。このように、13ミリずつ回転させて、針金製ハンガーを360度回転させ、各状態について計測する。
【0068】
図18および図19は、3点ハンガー、すなわち、通常の針金製ハンガーを用いて計測した場合の計測結果である。
【0069】
図18の横軸は、被験者が装着したハンガーの角度を示している。この角度は、図17で説明した定義に従う。図18の縦軸は、そのときの頭部の回旋角度を示している。右方向の回旋の場合、プラスの回旋角度で示され、左方向の回旋の場合、マイナスの回旋角度で示される。
【0070】
図18に示すように、ハンガー角度が46度のときに右方向の旋回がピークとなり、またハンガー角度が360度のときに左方向の旋回がピークとなる。図19(a)は、ハンガー角度が46度のとき、すなわち右方向の旋回がピークのときの、頭部の圧力分布を示している。また図19(b)は、ハンガー角度が360度のとき、すなわち左方向の旋回がピークのときの、頭部の圧力分布を示している。
【0071】
同様に、図20および図21は、2点ハンガーを用いて計測した場合の計測結果である。
【0072】
図20に示すように、ハンガー角度が55度のときに右方向の旋回がピークとなり、またハンガー角度が360度のときに左方向の旋回がピークとなる。図21(a)は、ハンガー角度が55度のとき、すなわち右方向の旋回がピークのときの、頭部の圧力分布を示している。また図21(b)は、ハンガー角度が360度のとき、すなわち左方向の旋回がピークのときの、頭部の圧力分布を示している。
【0073】
図18および図20を参照すると、頭部の圧力分布と回旋方向について、側頭部前方あるいはその対側の側頭部後方への圧迫により、ハンガー反射の現象が発生することが把握される。
【0074】
従って、本発明の各実施の形態で説明した通り、ハンガー反射が発生する圧迫点を圧迫するように装具を装着することで、ハンガー反射を誘発し、痙性斜頸の症状を緩和することができる。
【0075】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の第1の実施の形態ないし第4の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなる。
【0076】
例えば、本発明の各実施の形態においては、ハンガー反射の圧迫点が2箇所の場合について説明したが、1箇所であっても良いし、3箇所以上であっても良い。
【0077】
本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0078】
1 装具
2 外層部
3、6 内層部
4 圧迫部
5 高摩擦部
7 圧迫器
11 頭部
21 ニット
22 下巻の包帯
71 接触部
72 弾性体
73 調整板
74 調節部
75 固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
痙性斜頸の治療器具であって、
頭部に装着可能な程度に弾性を有し、かつ前記頭部に適合する形状を維持する外層部と、
前記外層部に設けられ、前記頭部の所定箇所を緩衝しながら圧迫する緩衝部と、
を備えることを特徴とする装具。
【請求項2】
前記頭部に適合する位置からずれた位置で装着され、前記外層部の前記弾性を利用して前記緩衝部が前記頭部の所定箇所を圧迫する
ことを特徴とする請求項1に記載の装具。
【請求項3】
前記緩衝部は、前記外層部の内周一面に設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の装具。
【請求項4】
前記緩衝部は、前記外層部の内周の一部に設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の装具。
【請求項5】
前記緩衝部は、高摩擦部分を備え、
前記高摩擦部分で前記所定箇所を圧迫する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の装具。
【請求項6】
前記緩衝部は、凹状であって、
前記高摩擦部分は、前記緩衝部の凹部位にて、緩衝によって前記所定箇所に当接して圧迫する
ことを特徴とする請求項5に記載の装具。
【請求項7】
前記外層部は、ガラス繊維の編み物または水硬化樹脂からなり、
前記緩衝部は、ウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の装具。
【請求項8】
前記高摩擦部分は、ゴムからなる
ことを特徴とする請求項5または6に記載の装具。
【請求項9】
前記緩衝部は、弾性体を含む圧迫器である
ことを特徴とする請求項1に記載の装具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−147749(P2011−147749A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47789(P2010−47789)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】