説明

装具

【課題】弛緩性麻痺等を負った急性期及び長期療養の患者等の手指及び手首の関節部分の形状や当該部分の運動等を考慮し、当該部分の拘縮を防ぎ、またはベッド柵等への打付けによる怪我を予防して保護し、容易に着脱できる装具を低コストで提供する。
【解決手段】この装具10は、手指から手首又は手首から手首の上部にかけて架け渡され、手の掌又は手首の内側面の機能低下部位に、接し合わせ且つ固定されて、機能低下する手の指又は手首を伸展させる基礎部12と、前記基礎部の手の掌側に連設され、手の指を含む手の甲側を覆う帯状伸縮性部14と、前記基礎部に連設され、少なくとも前記帯状伸縮性部で覆われていない手の甲側を覆う帯状体16とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装具に関し、例えば人の手指及び手首等の拘縮や麻痺の状態になった、脳疾患や脳障害のある者、または介護施設等の患者及び被介護者の手指及び手首等の拘縮等を防ぎ、保護するための、装具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本来、人間の手指は、運動するときに、曲げる、伸ばす、あるいは掴む等のさまざまな優れた機能を有する人体の一部であり、手首は、それらの運動を、より有効的に果たす役割を備えている。
【0003】
しかしながら、不幸にして、脳疾患や脳障害の発症、あるいは脊髄損傷、または事故等により、手指及び手首は、著しい機能低下を及ぼす場合があり、その主たる症状として、弛緩性麻痺や手首の拘縮等が顕著である。
【0004】
従来、脳疾患や脳障害等により、手や足の指及び手首や足首の拘縮や麻痺症状を有する患者及び被介護者は、自分の意思に応じて、自由に手指や足の指や手首や足首を動かすことが出来ず、拘縮や硬直、あるいは手首の嘗屈を招く。そのことにより、患者等は、苦痛に悩まされてきた。
【0005】
特に、脳疾患等による急性期患者は、意識低下の状態にあった場合に於いては、根本原因の病気の治癒を目的とした治療が施され、早期のリハビリや、拘縮予防の装具や保護具が必要である。それにもかかわらず、患者自身への適切な保護具や装具は、不足があることは否めない。また、そういった装具等は、高価であったり、医師や看護師等が有用と考える装具等は、ないという状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
これらの問題を解決するために、手指の硬直を防ぐ保護具(特許文献1参照)や、手のひらを保護するための握り具を有した握り具(特許文献2参照)などがある。
【特許文献1】特開2004−201976号公報
【特許文献2】特開2007−283012号公報
【0007】
また、手首関節に関する手首が前屈状態の障害者用の保護具(特許文献3参照)や固定用粘着部材(特許文献3参照)等がある。
【特許文献3】特開2007−254931号公報
【特許文献4】特開2006−130165号公報
【0008】
しかしながら、これらの提案(特許文献1、特許文献2)は、手のひら若しくは手指には有効であると思われるが、手首を含めた神経症状については不充分である。
また、手首が前屈状態の障害者用の保護具(特許文献3参照)などがあるが、いずれも手指に関しては不充分である。
また、特許文献3に示される背屈保持プレートを備える保護具は、有用であると考えるが、手指に関しては不充分であり、使用目的が異なっている。
手首関節に関する固定用粘着部材(特許文献4参照)は、手首関節の固定のみであり、拘縮を予防する保護具としては適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、且つ脳疾患や脳障害あるいは事故等により、弛緩性麻痺等を負った急性期及び長期療養の患者等の手指及び手首の関節部分の形状や当該部分の運動等を考慮し、当該部分の拘縮等の機能低下を防ぎ、またはベッド柵等への打付けによる怪我等することのないようにそれを保護することができ、容易に着脱できる装具を低コストで提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる装具は、手指から手首又は手首から手首の上部にかけて架け渡され、手の掌又は手首の内側面の機能低下部位に、接し合わせ且つ固定されて、機能低下する手の指又は手首を伸展させる基礎部と、前記基礎部の手の掌側に連設され、手の指を含む手の甲側を覆う帯状伸縮性部と、前記基礎部に連設され、少なくとも前記帯状伸縮性部で覆われていない手の甲側を覆う帯状体とを含む、装具である。
本発明の請求項2にかかる装具は、前記基礎部は、拘縮する手の指の関節又は手首の内側面に固定される第3の層を含み、第3の層は、機能低下する指の関節又は手首を伸展させるように機能低下部位に固定される、請求項1に記載の装具である。
本発明の請求項3にかかる装具は、基礎部は、手の掌側にぴったり合うように形成された第2の層材と、前記第2の層材の手の掌側とは反対側に積層され、基礎部の形状を保持させるための第1の層材を含む、請求項1又は請求項2に記載の装具である。
本発明の請求項4にかかる装具は、帯状伸縮性部は、手首より指の関節部位から指側にかけて覆うために指の関節部位から指側を挿入できるように、基礎部の内側と外側とに架け渡された、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の装具である。
本発明の請求項5にかかる装具は、帯状体は、手首の近傍を覆うための幅と長さとを備え、手首の近傍に基礎部を固定するために基礎部の内側又は外側端縁に連設された、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の装具である。
本発明の請求項6にかかる装具は、前記第3の層材には、弾性率の低いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材からなり、前記第3の層材は、端部に向けて徐々に薄く形成され、手の掌部から手首部の長さと手首部から前腕部にかけての長さとは0.8:1〜1.5:1の比率に形成され、手の掌部が第1の層材を75〜85%縮小した形状とし、手首部から前腕部が方形に形成され、手首部と指のつけ根部が、他の部分より厚みを有する、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の装具である。
本発明の請求項7にかかる装具は、基礎部の第1の層材は、水平あるいは垂直に伸ばした人の手指先部から前腕部にかけての手の掌側の広さより、10〜15%大きな形態で型取りされ、弾性率の高いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材で、手の掌側の手指の第2関節部から手首までの部位と手首から前腕部にかけての部位とを0.8:1〜3:2の比率で成形された、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の装具である。
本発明の請求項8にかかる装具は、基礎部の第2の層材は、フィット感を増すためのスポンジ素材で形成され、第1の層材の手の掌側に合着された、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の装具である。
本発明の請求項9にかかる装具は、帯状伸縮性部は、前記基礎部の人差し指側の凡そ第一関節と第2関節部より親指のつけ根部にかけて一端が固定され、且つ小指側の凡そ第1関節と第2関節部より小指のつけ根部にかけて他端が固定され、スポンジ素材を内装された、綿、ゴム、ポリエステル等の合成繊維のシート状物からなる、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の装具である。
本発明の請求項10にかかる装具は、帯状体は、前記基礎部の親指側であって、人差し指のつけ根の関節部から手首にかけて、親指のつけ根部を通す半円状の差し込み部を設けられ、手の甲から凡そ3分の2から4分の3周回する長さを有する、綿、ポリエステル等の合成繊維シート状物からなり、シート状物の内側にスポンジ素材を内装され、その自由端部には面ファスナーを付与された、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の装具である。
本発明の請求項11にかかる装具は、前記基礎部は、親指側において、人指し指のつけ根の関節部から手首部にかけて、親指のつけ根部を通す半円状の差し込み部を形成された、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の装具である。
【発明の効果】
【0011】
従来の保護具は、手指のみの保護具であったり、手首から先を覆うものであったり、手首のみに限られたりと、使い勝手が限られるものであったが、本発明にかかる装具は、それらの問題を解決しうるものである。
そして、脳疾患や脳障害あるいは事故等により、弛緩性麻痺等を負った急性期及び長期療養の患者等の手指及び手首の関節部分の形状や当該部分の運動等を考慮し、当該部分の拘縮等の機能低下を防ぎ、またはベッド柵等への打付けによる怪我等することのないように人体を保護することができる。
【0012】
本発明にかかる装具は、比較的構造が簡単で、看護師、理学療法士及び介護者等が、患者及び被介護者の手指及び手首等容易に着脱でき、また低コストで製造できるとともに、洗濯しても繰り返し使用できる。
【0013】
本発明の請求項5にかかる装具は、弾性率の異なるエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材を使用し、その反発性により、手首及び指のつけ根部の拘縮を予防することができ、ゴム、スポンジ等の弾性素材を使用することで、手指の自由な運動を阻害せず、且つベッド柵等への打付けによる怪我等を予防することができる。
【0014】
一般的に、「装具」は、事故や戦争などで四肢、体幹に機能障害を負った場合において四肢体幹の機能障害の軽減を目的として使用する補助器具と言われ、「保護具」は、a安全を保護するプロテクター等の器具、b屋内作業、工場、理科実験などで用いられる安全保護具、cスポーツ等で用いる防具と言われているが、本件明細書及び特許請求の範囲においては、これらを含め「装具」という。
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態である手の装具の平面図解図である。
【図2】本発明の一実施形態の基材部の断面図解図である。
【図3】本発明の一実施形態の基材部を分解した状態における平面図解図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる装具を装着したときの側面図解図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる装具を装着したときの平面図解図である。
【図6】図1A−A断面図解図である。
【図7】図1B−B断面図解図である。
【図8】変形例である手の装具の平面図解図である。
【図9】変形例である手の装具の横断面図解図である。
【図10】本発明の別の実施形態である手の指の関節部位の装具の平面図解図である。
【図11】本発明の別の実施形態である図10図示装具を装着したときの側面図解図である。
【図12】本発明の別の実施形態である図10図示装具を装着したときの平面図解図である。
【図13】図10C−C断面図解図である。
【図14】図10D−D断面図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施の形態である手指及び手首の保護をする装具を、図1ないし図5に基づき説明する。
この発明に係る手指及び手首を保護するための装具10は、図1に示されるように、手指から手首及び前腕部にかけて架け渡され、手の掌から手首の内側面の拘縮等の機能低下部位にかけて接し合わせて、固定されて、拘縮等の機能低下する手の指又は手首を伸展させる基礎部12と、前記基礎部12の手の掌側に連設され、手の指を含む手の甲側を覆う帯状伸縮性部14と、前記基礎部12に連設され、少なくとも前記帯状伸縮性部14で覆われていない手首の近傍の甲側を覆う帯状体16とから構成されている。
【0017】
図1に示す基礎部12は、手の指から手首及び手首から前腕部にかけて架け渡され、手の掌から手首の上側及び手首から前腕部にかけて内側に接し合わせて固定される部位である。基礎部12は、手の掌側にぴったり合うように形成された第2の層材24と、前記第2の層材24の手の掌側とは反対側に積層され、基礎部12の形状を保持させるための第1の層材22を、含む。
基礎部12は、図2に示すように、第1の層材22、第2の層材24、第3の層材26を、第2の層材24を最も手に接し合う側にして、その上に第1の層材22、またその上に第3の層材26という順序で積層し固着して、構成されている。
基礎部12は、その手指部分を曲げまたは伸ばしやすいように、第1の層材22が、弾性率の高いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材により構成され、第2の層材24が、スポンジ素材により構成され、第3の層材26が、弾性率の低いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材を主たる構成材として構成され、第1の層材22と第2の層材24と第3の層材26とは、接し合う面を接着剤で重ね合わせ接着されている。
前記第1の層材22の外側には、弾性率の低いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材からなる第3の層材26が合着されている。
【0018】
図2に示す、基礎部12の第1の層材22と第3の層材26とを合わせた厚さは、6mm以下が好ましく、但し、特に拘縮の起きやすい指のつけ根の関節部と手首部は、他の領域より厚く形成されることが好ましく、第1の層材22は、厚さ3mm程度が好ましい。また第2の層材24のスポンジ素材は、厚さ8mm以下が好ましい。
基礎部12の第1の層材22と第2の層材24と第3の層材26とを合わせた厚さは、手の掌の厚さと同等であることが好ましい。
基礎部12には、手の指、手の掌、手首及び前腕部の幅に沿った幅を備えている。
【0019】
基礎部12を構成する第1の層材22は、手首をまっすぐにして水平あるいは垂直に伸ばした手指先部から前腕部にかけての手の掌側部位の広さより、10〜15%大きな形態で型取りされ、その手の掌側の領域が手の掌に対応した円形であり、手首から前腕部に至る領域が手首から前腕部の形状に対応した方形又は台形である。
【0020】
第1の層材22と第2の層材24とは、略々同一の形状であり、且つ第3の層材26は第2の層材24より一廻り小さい。なお、第1の層材22は、最も大きく、第2の層材24は第1の層材22より一廻り小さくしてもよい。
基礎部12は、全体的に、手の掌部から手首部までの長さと、手首部から前腕部にかけての長さとは5:3の比率に成形されている。
第3の層材26は、拘縮を防ぐために、端部に向けて徐々に薄く形成され、手の掌部から手首部までの長さと、手首部から前腕部にかけての長さとは0.8:1〜1.5:1の比率に成形されている。特に、この実施の形態においては、指の根元から手首までの長さL1と手首部から前腕部にかけての長さL2を1:1の比率に成形されている。
そして、第3の層材26は、手の掌部が第1の層材22を75〜85%縮小した形状とし、手首部から前腕部が第1の層材22の2分の1から5分の2の長さの方形とし、手首部と指のつけ根部は、他の部分より厚みを有する。
【0021】
第1の層材22と第3の層材26とは、弾性率が異なるエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)が使用されており、その反発性により、手首及び指のつけ根部の拘縮を予防するように形成されている。
第2の層材24は、ゴム、スポンジ等の弾性素材を使用することで、手指の自由な運動を阻害せず、且つベッド柵等への打付けによる怪我等を予防することができるように構成されている。
第2の層材24は、手の掌にフィットするようにするために、弾性率が高く適宜な厚みを有している。
【0022】
第3の層材26は、前記第2の層材24を約80%に縮小した平面形状であって、第2の層材24と相似形である。
第3の層材26は、拘縮を予防するために、比較的弾性率が低く、手指部が前端にかけて徐々に薄く形成され、約0.2mm厚さとしている。
【0023】
基礎部12は、手の掌側の領域の親指側において、人指し指のつけ根の関節部から手首部にかけて親指のつけ根部を通すための半円状の差し込み部28が形成されている。
【0024】
帯状伸縮性部14は、手首より指側の部位に挿入して、例えば親指の根もとの近傍から指の関節にかけて覆うために、基礎部12の内側と外側とに架け渡され、基礎部12の左右端部に縫合されている。
帯状伸縮性部14は、前記基礎部12の、人差し指側の凡そ第一関節と第2関節部より親指のつけ根部にかけて一端が固定され、小指側の凡そ第1関節と第2関節部より小指のつけ根部にかけて他端が固定されている。
【0025】
帯状伸縮性部14は、図6に示すように、手首から前腕部にかけての形状が、半楕円形状をなして、真円の高さより少なくとも5分の2から、2分の1までの高さを有する形状とする。
【0026】
帯状伸縮性部14は、表側の綿、ゴム、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物42aと、裏側の綿、ゴム、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物42bとの間すなわち内側に、スポンジ等の弾性素材44を内装しているので、帯状伸縮性部14は、柔らかく着装できる。
【0027】
帯状伸縮性部14は、図4及び図5に示すように、手指の凡そ第2関節部分までは被覆せず、また被着者の自由な手指の運動を、阻害しないものとする。
そのために、帯状伸縮性部14は、ゴム又はアクリル、ポリエステル等の伸縮性合成繊維素材から構成され、手指を強く締めず、褥瘡等ができない素材とする。
【0028】
帯状体16は、図7に示すように、手首の近傍を覆うための幅と長さとを備え、手首の近傍に基礎部12に固定するために基礎部12の内側又は外側端縁に連設されている。
帯状体16は、表側の伸縮性を有する、綿、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物66aと、裏側の伸縮性を有する、綿、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物66bとの間すなわち内側に、スポンジ等の弾性素材68を内装したものからなり、その自由端部の上面には面ファスナー64を付与されている。
帯状体16は、綿、ゴム、ポリエステル等の合成繊維等の伸縮性を有する素材で形成され、図1に示すように、基礎部12の手の掌とは反対側面に、短い端縁を縫合され、内側から基礎部12と直交する方向に向けて延設されている。
帯状体16は、手の甲から凡そ3分の2から4分の3周回する長さを有する。
帯状体16の長さは、人の手首の周囲を凡そ4分の3周程度廻る長さが、好ましく、その幅は手指のつけ根から前腕部に亘る長さが好ましい。
【0029】
帯状体16は、前記基礎部12の親指側であって、人差し指のつけ根の関節部から手首にかけて、親指のつけ根部を通す半円状の差し込み部62を設けられている。
帯状体16の差し込み部62は、前記基礎部12の差し込み部28とつながっている。
【0030】
帯状体16は、基礎部12側とは反対側の端部に、面ファスナー64を付着されているので、手の掌、手首及び前腕部の周囲に帯状体16を周回させて、帯状体16の外表面に該面ファスナー64を係止させることができ、装具10の着脱を容易にすることができる。
【0031】
帯状体16は、表側の伸縮性を有する、綿、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物66aと裏側の伸縮性を有する、綿、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物66bとの間すなわち内側に、スポンジ等の弾性素材68を内装しているので、帯状体16は、柔らかく着装できる。
【0032】
この発明の実施の形態によれば、手の掌部については親指の脱臼等を考慮し、親指のつけ根部を半円形切り取る形状とし、また手指部及び前腕部の先端部は曲げやすいよう、あるいは褥瘡等を予防するために、手の掌屈側に向けてアールを付与するように構成されている。
【0033】
基礎部12は、図9に示すように、綿、ポリエステル等の合成繊維素材からなる布又はシート状物70で、その外表面の全体を表装されてもよい。
【0034】
基礎部12は、図9に示すように、通気性と清潔性を保つために、シート状物70又は第2の層材24の手の掌側部分に、ナイロンメッシュ素材からなるシート状物72を添着されて表装されてもよい。
【0035】
図8に示すように、基礎部12の親指と人差し指のつけ根部分には、親指と人差し指との間を開くようにするための半円球状の発泡体やポリウレタン等の指拡開部80を付与したほうが好ましい。
【0036】
本発明の別の実施の形態である手指及び手首の保護をする装具を、図10ないし図14に基づき説明する。
この発明に係る手指及び手首を保護するための装具110は、図10に示されるように、手指から手首にかけて架け渡され、手の指の関節の内側面の拘縮等の機能低下部位に接し合わせて、固定されて、拘縮等の機能低下する手の指の関節を伸展させる基礎部112と、前記基礎部112の手の掌側に連設され、手の指を含む手の甲側を覆う帯状伸縮性部114と、前記基礎部112に連設され、少なくとも前記帯状伸縮性部114で覆われていない手首の近傍の甲側を覆う帯状体116とから構成されている。
【0037】
図10に示す基礎部112は、手の指から手首及び手首から前腕部にかけて架け渡され、手の掌から手首の上側及び手首から前腕部にかけて内側に接し合わせて固定される部位である。基礎部112は、手の掌側にぴったり合うように形成された第2の層材124と、前記第2の層材124の手の掌側とは反対側に積層され、基礎部112の形状を保持させるための第1の層材122を、含む。
基礎部112は、図13に示すように、第1の層材122、第2の層材124、第3の層材126を、第2の層材124を最も手に接し合う側にして、その上に第1の層材122、またその上に第3の層材126という順序で積層し固着して、構成されている。
基礎部112は、その手指の関節部分を曲げまたは伸ばしやすいように、第1の層材122が、弾性率の高いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材により構成され、第2の層材124が、スポンジ素材により構成され、第3の層材126が、弾性率の低いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材を主たる構成材として構成され、第1の層材122と第2の層材124と第3の層材126とは、接し合う面を接着剤で重ね合わせ接着されている。
前記第1の層材122の外側には、弾性率の低いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材からなる第3の層材126が合着されている。
【0038】
図13に示す、基礎部112の第1の層材122と第3の層材126とを合わせた厚さは、6mm以下が好ましく、但し、特に拘縮の起きやすい指のつけ根の関節部は、他の領域より厚く形成されることが好ましく、第1の層材122は、厚さ3mm程度が好ましい。また第2の層材124のスポンジ素材は、厚さ8mm以下が好ましい。
基礎部112の第1の層材122と第2の層材124と第3の層材126とを合わせた厚さは、手の掌の厚さと同等であることが好ましい。
基礎部112は、手の指、手の掌及び手首に沿う幅を備え、手の指側は、手の指の間の股に沿った凹凸形状を備えている。
【0039】
基礎部112を構成する第1の層材122は、手首をまっすぐにして水平あるいは垂直に伸ばした手指先部から手首部にかけての手の掌側部位の広さより、10〜15%大きな形態で型取りされ、その手の掌側の領域が手の掌に対応した円形であり、手首近傍の領域が手首近傍の形状に対応した方形又は台形である。
【0040】
第1の層材122と第2の層材124とは、略々同一の形状に形成され、且つ第3の層材126は第2の層材124より一廻り小さい。
第3の層材126は、手の指の関節の拘縮を防ぐために、端部に向けて徐々に厚く形成され、手の掌部が第1の層材122を75〜85%縮小した形状とし、手の指のつけ根部は、他の部分より厚みを有する。
この実施の形態においては、第3の層材126は、手の掌から手の指の関節部分に広がる第1の領域部126bと指の関節部分に形成された第2の領域部126aとの2層からなるが、第2の領域部126aと第1の領域部126bとは、一体に形成されてもよい。
【0041】
第1の層材122と第3の層材126とは、弾性率が異なるエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)が使用されており、その反発性により、手の指のつけ根部の拘縮を予防するように形成されている。
第2の層材124は、ゴム、スポンジ等の弾性素材を使用することで、手指の自由な運動を阻害せず、且つベッド柵等への打付けによる怪我等を予防することができるように構成されている。
第2の層材124は、手の掌にフィットするようにするために、弾性率が高く適宜な厚みを有している。
【0042】
第3の層材126は、前記第2の層材124を約80%に縮小した平面形状であって、第2の層材124と相似形である。
第3の層材126は、手の指の関節の拘縮を予防するために、比較的弾性率が低く、手指部が前端にかけて徐々に薄く形成され、約0.2mm厚さとしている。
【0043】
基礎部112は、手の掌側の領域の親指側において、人指し指のつけ根の関節部から手首部にかけて親指のつけ根部を通すための半円状の差し込み部128が形成されている。
【0044】
帯状伸縮性部114は、手首より指側の部位に挿入して、例えば親指の根もとの近傍から指の関節にかけて覆うために、基礎部112の内側と外側とに架け渡され、基礎部112の左右端部に縫合されている。
帯状伸縮性部114は、前記基礎部112の、人差し指側の凡そ第一関節と第2関節部より親指のつけ根部にかけて一端が固定され、小指側の凡そ第1関節と第2関節部より小指のつけ根部にかけて他端が固定されている。
【0045】
帯状伸縮性部114は、図10に示すように、手首から前腕部にかけての形状が、半楕円形状をなして、真円の高さより少なくとも5分の2から、2分の1までの高さを有する形状とする。
【0046】
帯状伸縮性部114は、表側の綿、ゴム、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物142aと、裏側の綿、ゴム、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物142bとの間すなわち内側に、スポンジ等の弾性素材144を内装しているので、帯状伸縮性部114は、柔らかく着装できる。
【0047】
帯状伸縮性部114は、図11及び図12に示すように、手指の凡そ第2関節部分までは被覆せず、また被着者の自由な手指の運動を、阻害しないものとする。
そのために、帯状伸縮性部114は、ゴム又はアクリル、ポリエステル等の伸縮性合成繊維素材から構成され、手指を強く締めず、褥瘡等ができない素材とする。
【0048】
帯状体116は、図14に示すように、手首の近傍を覆うための幅と長さとを備え、手首の近傍に基礎部112に固定するために基礎部112の内側又は外側端縁に連設されている。
帯状体116は、表側の伸縮性を有する、綿、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物166aと、裏側の伸縮性を有する、綿、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物166bとの間すなわち内側に、スポンジ等の弾性素材168を内装したものからなり、その自由端部の上面には面ファスナー164を付与されている。
帯状体116は、綿、ゴム、ポリエステル等の合成繊維等の伸縮性を有する素材で形成され、図14に示すように、基礎部112の手の掌とは反対側面に、短い端縁を縫合され、内側から基礎部112と直交する方向に向けて延設されている。
帯状体116は、手の甲から凡そ3分の2から4分の3周回する長さを有する。
帯状体116の長さは、人の手首の周囲を凡そ4分の3周程度廻る長さが、好ましく、その幅は手指のつけ根から前腕部に亘る長さが好ましい。
【0049】
帯状体116は、前記基礎部112の親指側であって、人差し指のつけ根の関節部から手首にかけて、親指のつけ根部を通す半円状の差し込み部162を設けられている。
帯状体116の差し込み部162は、前記基礎部112の差し込み部128とつながっている。
【0050】
帯状体116は、基礎部112側とは反対側の端部に、面ファスナー164を付着されているので、手の掌、手首及び前腕部の周囲に帯状体116を周回させて、帯状体116の外表面に該面ファスナー164を係止させることができ、装具10の着脱を容易にすることができる。
【0051】
帯状体116は、表側の伸縮性を有する、綿、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物166aと裏側の伸縮性を有する、綿、ポリエステル等の合成繊維からなる布又はシート状物166bとの間すなわち内側に、スポンジ等の弾性素材168を内装しているので、帯状体116は、柔らかく着装できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、医療技術分野では、手指及び手首の拘縮や麻痺を負った、脳疾患ある脳障害、または介護施設等の、患者及び被介護者の手指及び手首の拘縮を防ぎ保護するための、保護具に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
10 装具
12 基礎部
14 帯状伸縮性部
16 帯状体
22 第1の層材
24 第2の層材
26 第3の層材
28 差し込み部
42a,42b シート状物
44 弾性素材
62 差し込み部
64 面ファスナー
66a,66b シート状物
68 弾性素材
70,72 シート状物
80 指拡開部
110 装具
112 基礎部
114 帯状伸縮性部
116 帯状体
122 第1の層材
124 第2の層材
126 第3の層材
126a 第2の領域部
126b 第1の領域部
128 差し込み部
142a,142b シート状物
144 弾性素材
162 差し込み部
164 面ファスナー
166a,166b シート状物
168 弾性素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手指から手首又は手首から手首の上部にかけて架け渡され、手の掌又は手首の内側面の機能低下部位に、接し合わせ且つ固定されて、機能低下する手の指又は手首を伸展させる基礎部と、
前記基礎部の手の掌側に連設され、手の指を含む手の甲側を覆う帯状伸縮性部と、
前記基礎部に連設され、少なくとも前記帯状伸縮性部で覆われていない手の甲側を覆う帯状体とを含む、
装具。
【請求項2】
前記基礎部は、拘縮する手の指の関節又は手首の内側面に固定される第3の層を含み、
第3の層は、機能低下する指の関節又は手首を伸展させるように機能低下部位に固定される、請求項1に記載の装具。
【請求項3】
基礎部は、手の掌側にぴったり合うように形成された第2の層材と、
前記第2の層材の手の掌側とは反対側に積層され、基礎部の形状を保持させるための第1の層材を含む、請求項1又は請求項2に記載の装具。
【請求項4】
帯状伸縮性部は、手首より指の関節部位から指側にかけて覆うために指の関節部位から指側を挿入できるように、基礎部の内側と外側とに架け渡された、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の装具。
【請求項5】
帯状体は、手首の近傍を覆うための幅と長さとを備え、手首の近傍に基礎部を固定するために基礎部の内側又は外側端縁に連設された、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の装具。
【請求項6】
前記第3の層材には、弾性率の低いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材からなり、
前記第3の層材は、端部に向けて徐々に薄く形成され、手の掌部から手首部の長さと手首部から前腕部にかけての長さとは0.8:1〜1.5:1の比率に形成され、手の掌部が第1の層材を75〜85%縮小した形状とし、手首部から前腕部が方形に形成され、手首部と指のつけ根部が、他の部分より厚みを有する、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の装具。
【請求項7】
基礎部の第1の層材は、水平あるいは垂直に伸ばした人の手指先部から前腕部にかけての手の掌側の広さより、10〜15%大きな形態で型取りされ、弾性率の高いエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)素材で、手の掌側の手指の第2関節部から手首までの部位と手首から前腕部にかけての部位とを0.8:1〜3:2の比率で成形された、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の装具。
【請求項8】
基礎部の第2の層材は、フィット感を増すためのスポンジ素材で形成され、第1の層材の手の掌側に合着された、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の装具。
【請求項9】
帯状伸縮性部は、前記基礎部の人差し指側の凡そ第一関節と第2関節部より親指のつけ根部にかけて一端が固定され、且つ小指側の凡そ第1関節と第2関節部より小指のつけ根部にかけて他端が固定され、スポンジ素材を内装された、綿、ゴム、ポリエステル等の合成繊維のシート状物からなる、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の装具。
【請求項10】
帯状体は、前記基礎部の親指側であって、人差し指のつけ根の関節部から手首にかけて、親指のつけ根部を通す半円状の差し込み部を設けられ、手の甲から凡そ3分の2から4分の3周回する長さを有する、綿、ポリエステル等の合成繊維シート状物からなり、シート状物の内側にスポンジ素材を内装され、その自由端部には面ファスナーを付与された、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の装具。
【請求項11】
前記基礎部は、親指側において、人指し指のつけ根の関節部から手首部にかけて、親指のつけ根部を通す半円状の差し込み部を形成された、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の装具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−16376(P2012−16376A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153777(P2010−153777)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(310013679)
【Fターム(参考)】