説明

装用方向選択型コンタクトレンズ

【課題】各々の度数領域による矯正効果をより有効に発揮することの出来る、新規な構造のコンタクトレンズを提供すること。
【解決手段】光学部14の幾何中心20に対して第二の度数領域24の面積中心30を対称経線22上で偏心位置せしめると共に、該第二の度数領域24の該面積中心30が装用眼の左右一方の側に位置せしめられた第一の安定状態と、該面積中心30が左右他方の側に位置せしめられた第二の安定状態とを周方向位置決め手段40,40によって選択的に設定可能にすると共に、該第一の安定状態および該第二の安定状態となるレンズの向きを識別出来る視認可能な指標マーク42を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズに係り、特に複数の度数領域を有する多焦点コンタクトレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
良く知られているように、例えば老視などの矯正には、第一の度数領域としての遠用領域と、遠用領域よりも高い加入度数を有する第二の度数領域としての近用領域の複数の度数領域を有するバイフォーカルレンズ等の多焦点コンタクトレンズが処方される。
【0003】
このような多焦点コンタクトレンズとして、例えば特許文献1(特開昭61−272717号公報)には、遠用領域と近用領域がレンズ幾何中心に対して同心円状に形成された多焦点コンタクトレンズが開示されている。ところが、瞳孔中心は角膜中心から僅かに鼻側に偏倚していることが知られている。それ故、レンズ幾何中心が瞳孔中心と一致することを想定してレンズ幾何中心から同心円状に遠用領域と近用領域を形成した特許文献1に記載の如き形状では、実際の装用時に両領域と瞳孔との位置関係が所期の位置に保たれなかったのであり、遠用視力と近用視力の何れに対しても、有効な矯正効果を得ることが出来なかった。
【0004】
そこで、本願出願人は、特許文献2(特開平6−289329号公報)において、近用領域をレンズ幾何中心から鼻側に偏倚させた多焦点コンタクトレンズを提案した。このようにすれば、近くを見る場合は視軸が鼻側に寄ることと巧く対応して、視軸とレンズ光軸を一致させることによって、近用視力と遠用視力の両方を効果的に矯正することが出来た。しかし、特許文献2に記載の如き多焦点コンタクトレンズにおいては、近用領域が装用者の左右方向のみならず上下方向にも偏倚している場合があることから、右眼用と左眼用の各別に提供する必要があって、左右の規格が追加的に必要となる。それ故、見込み生産によった場合には、多くの在庫を用意する必要があって、製造コストや管理コストの増加を招くおそれがあった。
【0005】
そして、特許文献1や特許文献2にも記載されている多焦点コンタクトレンズが一般的に有する問題として、多焦点コンタクトレンズは一つの光学域に複数の度数領域を有することから、各度数領域の有効光学域は狭くなり、単焦点レンズに比して光学特性が劣る。例えば老視矯正のために多焦点レンズを用いる対象者は、単焦点レンズで遠方視力のみを矯正していた人が多く、多焦点レンズを用いることによって近方視力の満足度は高くなる一方、単焦点レンズと比較した遠方視力には不満があった。特に、夜間の遠方視力は近用領域のディフォーカスによるフレアが発生し、視認性に問題があった。それ故、多焦点レンズ使用者の多くは夜間の運転時やスポーツ時は単焦点レンズを用いるなど、多焦点レンズと単焦点レンズを合わせて所有して使い分けるという手間を要していた。
【0006】
また、多焦点コンタクトレンズは、昼から夜への明るさの変化等の環境の変化、屋内でのパソコン操作時や屋外でのスポーツ観戦時などの使用状況の変化によって、矯正効果が変化するおそれがあった。即ち、多焦点コンタクトレンズの処方は他覚検査や自覚検査にて矯正度数を決定するが,特に近用度数は装用者の自覚検査での見え方を重視して決定することが多い。しかし、多焦点コンタクトレンズを処方する場所は殆どが屋内であることから、処方時の環境下で最適化された多焦点コンタクトレンズでは、異なる環境下や使用状況下では見え方が変化して満足度が減少するおそれがあった。
【0007】
さらに、多焦点コンタクトレンズは度数合わせが複数のため単焦点よりも処方に時間と労力が必要であることから、処方者から敬遠されがちであった。一方、装用者にとっても、見え方が単焦点と異なり独特であることから、慣れるのに時間を要していた。
【0008】
また、老視の矯正には、例えば特許文献3(特開平4−227258号公報)に記載されている如きモノビジョン処方が用いられることもある。モノビジョン処方は、遠用視力に調節したコンタクトレンズを一方の眼に、近用視力に調節したコンタクトレンズを他方の眼に装用するなどして、一方の眼に遠用視力を与えると共に、他方の目に近用視力を与える。そして、遠用視力から得られた像と近用視力から得られた像を装用者の脳の判断により取捨選択して、所望する像を見ることが可能となる。しかしながら、モノビジョン処方は、処方に時間と労力を要すると共に、使用環境に応じたレンズ選択が難しいため、広く普及しなかった。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−272717号公報
【特許文献2】特開平6−289329号公報
【特許文献3】特開平4−227258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、各々の度数領域による矯正効果をより有効に発揮することの出来る、新規な構造のコンタクトレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0012】
すなわち、本発明の第一の態様は、レンズ中央部分に設けられた光学部に第一の度数領域と該第一の度数領域よりもプラス側に大きなレンズ度数を有する第二の度数領域を備えたコンタクトレンズにおいて、前記光学部の一つの径方向線である対称経線に関して線対称のレンズ形状とされていると共に、前記第一の度数領域および前記第二の度数領域の少なくとも一方の面積中心が該光学部の幾何中心に対して該対称経線上で偏心位置せしめられている一方、該対称経線に直交する直交経線が装用眼の上下方向となるレンズ回転位置で装用状態におけるレンズ周方向の安定位置を与える周方向位置決め手段が設けられており、該光学部の幾何中心に対して偏心位置せしめられた該第一の度数領域又は該第二の度数領域の面積中心が装用眼の左右一方の側に位置せしめられた第一の安定状態と、該光学部の幾何中心に対して偏心位置せしめられた該第一の度数領域又は該第二の度数領域の面積中心が装用眼の左右他方の側に位置せしめられた第二の安定状態とが、該周方向位置決め手段によって選択的に設定可能とされていると共に、該第一の安定状態となるレンズの向きと該第二の安定状態となるレンズの向きとを識別出来る視認可能な指標マークが付されていることを特徴とする装用方向選択型コンタクトレンズにある。
【0013】
本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズにおいては、例えば第一の度数領域を装用者の耳側に位置せしめた第一の安定状態と、第一の安定状態と上下を逆転せしめて、第一の度数領域を装用者の鼻側に位置せしめた第二の安定状態を選択して装用することが出来る。なお、本態様においてプラス側に大きなレンズ度数とは、ディオプタ値がプラス側に大きいことを言い、具体的には、例えば、第一の度数領域が−5Dの場合、+1Dや0D、−3Dは何れもプラス側に大きいこととなる。
【0014】
従って、例えば本発明における装用方向選択型コンタクトレンズを老視矯正用のバイフォーカルレンズとして構成して、第一の度数領域を遠用光学部、第二の度数領域を近用光学部に設定した場合には、第一の安定状態で近用光学部を装用者の鼻側に位置せしめて装用することが出来る一方、第二の安定状態で近用光学部を装用者の耳側に位置せしめて装用することが出来る。これにより、第一の安定状態で装用した場合には、近用光学部が装用者の鼻側に位置せしめられて瞳孔中心にかかり、遠用視力と近用視力の矯正が可能となる。一方、第二の安定状態で装用した場合には、近用光学部が瞳孔中心から外れた耳側に位置せしめられることによって、フレアの発生等も軽減された良好な遠用視力を得ることが出来る。即ち、本発明における装用方向選択型コンタクトレンズによれば、装用状態を変更することによって、(1)瞳孔中心におけるレンズ光学面の度数の変化(好ましくは、度数変化は0.25D以上)、(2)瞳孔におけるレンズ光学部の度数の配置の変化、(3)瞳孔における近用光学部と遠用光学部の投影面積比の変化(好ましくは、投影面積比の変化は10%以上)、の少なくとも1つが生ぜしめられるようになっている。これにより、第一の安定状態によってバイフォーカル効果が得られると共に、第二の安定状態によって略単焦点効果を得ることが可能となり、装用状態を選択することによって異なる光学特性が発現せしめられるのであり、それら異なる光学特性の何れをも有効に発揮せしめることが出来るのである。
【0015】
さらに、本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズは、必ずしも左右セットで提供される必要はないが、左右のセットにて提供されることによって、より優れた効果を発揮することが出来る。即ち、装用者が使用環境に応じて左右それぞれのレンズにおける第一の安定状態と第二の安定状態を選択的に組み合わせて使用することが可能となり、例えば、前記バイフォーカルレンズにおいて、近用光学部が鼻側に位置せしめられる装用状態を正装用、近用光学部が耳側に位置せしめられる装用状態を逆装用とすると、左右両レンズを正装用すれば、両レンズによるバイフォーカル効果が得られる一方、左右両レンズを逆装用すれば、両レンズによる略単焦点効果を得ることが出来る。更には、優位眼に正装用、非優位眼に逆装用したり、優位眼に逆装用、非優位眼に正装用するなど、使用環境に応じて遠用視力と近用視力の矯正バランスを変化させることが出来る。これにより、モディファイトモノビジョン処方にも有効に用いることが出来る。
【0016】
そして、これら左右のレンズの安定状態の組み合わせにより、本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズは、例えばバイフォーカルレンズを装用者に慣らす時間と手間を軽減することが出来る。即ち、例えば第一の度数領域を遠用光学部、第二の度数領域を近用光学部に設定して、両眼において近用光学部が耳側に位置せしめられる安定状態で遠用度数を決定すれば、遠用視力矯正用のコンタクトレンズとしての処方が完了する。そして、近用度数については、決定した遠用度数を有し、近用光学部のレンズ度数が少しずつ異ならされた本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズを多数用意すると共に近用光学部が鼻側に位置せしめられる安定状態で装用して、近用度数を徐々に変化させて生活環境の中で数日から数ヶ月単位で十分に慣らすことによって、最適な近用度数を決定又は設定することが出来る。
【0017】
なお、本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズにおいては、第一の安定状態と第二の安定状態との2つの安定状態が発現せしめられることから、装用者は、使用環境や状況に応じて第一及び第二の安定状態を選択して装用することとなる。そこにおいて、本発明における装用方向選択型コンタクトレンズには指標マークが付されていることから、レンズの周方向位置を容易に確認することが可能とされており、第一の安定状態および第二の安定状態の何れか所望する状態で容易に装用することが出来る。
【0018】
さらに、本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズにおいては、装用状態における上下方向で対称形状とされていることから、遠用視力および近用視力の等しい眼であれば、左右の何れかに関わらず同一のレンズを用いることが出来る。これにより、左右の規格が不要とされて、例えば見込み生産でレンズを提供する場合でも、在庫量を従来の半分にすることが出来て、製造や管理に要する必要コストを軽減することも出来る。
【0019】
なお、周方向位置決め手段の具体的構造としては、特に限定されるものではないが、好適には、本発明の第二の態様として、前記第一の態様に係る装用方向選択型コンタクトレンズにおいて、前記光学部の外周側に周辺部が設けられていると共に、該周辺部において、前記対称経線方向で該光学部を挟んだ両側に位置する部分に比して前記直交経線方向で該光学部を挟んだ両側に位置する部分が何れも薄肉とされたダブルスラブオフが付されており、該ダブルスラブオフによって前記周方向位置決め手段が構成されている態様が採用される。このようにすれば、第一の安定状態と、第一の安定状態に比して上下が逆転された第二の安定状態の両状態を、何れも安定して発現せしめることが出来る。
【0020】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る装用方向選択型コンタクトレンズにおいて、前記光学部の外周側に周辺部が設けられていると共に、該周辺部において着色と刻印との少なくとも一方による前記指標マークが付されていることを、特徴とする。本態様に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズにおいては、光学部から外れた周辺部に指標マークが付されていることから、指標マークが光学特性に影響を与えることが回避されており、第一および第二の安定状態の何れにおいても、良好な光学特性を得ることが出来る。
【0021】
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に係る装用方向選択型コンタクトレンズにおいて、前記光学部の幾何中心がレンズ幾何中心とされていることを、特徴とする。本態様によれば、第一および第二の安定状態の何れの状態においても、光学部が瞳孔から外れるようなことが回避されて、安定した光学特性を得ることが出来る。
【0022】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れか一つの態様に係る装用方向選択型コンタクトレンズにおいて、前記第一の度数領域および前記第二の度数領域の少なくとも一方の面積中心における前記光学部の幾何中心に対する偏心距離が、前記対称経線の方向成分において0.4mm以上とされていることを、特徴とする。
【0023】
本態様に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズにおいては、第一の安定状態と第二の安定状態における第一の度数領域又は第二の度数領域の位置を瞳孔中心に対して明確に異ならせることが出来て、異なる光学特性を安定して発揮することが出来る。即ち、かかる偏心距離が0.4mmよりも小さいと、第一の安定状態と第二の安定状態との間で第一の度数領域又は第二の度数領域の位置の変化が殆どなく、明確に異なる光学特性を発揮することが困難となる。
【0024】
本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れか一つの態様に係る装用方向選択型コンタクトレンズにおいて、角膜に重ね合わされるレンズ後面において、前記光学部の外周側に周辺部が設けられていると共に、該光学部の外径寸法がレンズ外径寸法の75%以下とされていることを、特徴とする。
【0025】
本態様に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズにおいては、瞳孔中心に対して第一の度数領域が偏倚せしめられた状態と第二の度数領域が偏倚せしめられた状態を何れも安定して発現することが出来る。即ち、光学部の外径寸法がレンズ外径寸法の75%よりも大きいと、装用時におけるレンズ幾何中心が角膜表面の定位置で安定し易くなって、第一の安定状態と第二の安定状態の2つの安定状態を安定して発現せしめることが困難となるおそれがある。
【0026】
具体的には、例えば、本発明の第七の態様として、前記第六の態様に係る装用方向選択型コンタクトレンズにおいて、ソフトコンタクトレンズであって、前記レンズ後面の前記光学部の外径寸法が10mm以下とされている態様が、好適に採用される。
【0027】
本発明の第八の態様は、前記第一乃至第七の何れか一つの態様に係る装用方向選択型コンタクトレンズにおいて、前記光学部における前記第二の度数領域に対して付加レンズ度数を与える付加度数面が、装用時に角膜に重ね合わされるレンズ後面に設定されていることを、特徴とする。
【0028】
本態様に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズにおいては、第一の度数領域と第二の度数領域との曲率の違いによって、角膜表面とレンズ後面との間に涙液を保持することが出来る。そして、保持された涙液を涙液レンズとして用いることによって、第一の度数領域と第二の度数領域の間での急激な光学特性の変化を軽減することが出来る。また、第一の度数領域と第二の度数領域と異なる複数の曲率を有するレンズ後面形状を成形型で形成することによって、優れた製造効率を得ることも出来る。
【0029】
本発明の第九の態様は、前記第二乃至第八の何れか一つの態様に係る装用方向選択型コンタクトレンズにおいて、ソフトコンタクトレンズであって、装用時に角膜に重ね合わされるレンズ後面において前記ダブルスラブオフを与える薄肉面が設定されていることを、特徴とする。
【0030】
本態様に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズによれば、眼球への装用状態においてレンズが変形して角膜表面に沿うことによって、レンズ後面に形成されたダブルスラブオフがレンズ前面に現れる。これにより、眼瞼との相互作用によってレンズを第一の安定状態および第二の安定状態で位置決めすることが出来る。なお、本態様は、前記第八の態様と組み合わせて好適に用いられる。即ち、レンズ後面に付加度数面と薄肉面を形成すれば、かかる複雑なレンズ後面形状を成形型で形成することが可能となり、優れた製造効率を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0032】
先ず、図1に、本発明の第一の実施形態としての装用方向選択型コンタクトレンズに係るコンタクトレンズ10を示す。コンタクトレンズ10は、図1に示す正面視においてレンズ幾何中心軸12回りの回転体形状の外形を有する全体として略球殻形状とされており、眼球における角膜の表面に重ね合わせて装用されることによって使用されるようになっている。なお、図1および後述する図3乃至7中の「N」および「D」は、それぞれ、近用光学部と遠用光学部の位置を容易に把握するために便宜上表示したものである。
【0033】
本実施形態におけるコンタクトレンズ10はソフトタイプのコンタクトレンズであり、その材料は何等限定されるものでなく、従来から公知のPHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)やPVP(ポリビニルピロリドン)等の含水性材料の他、アクリルゴムやシリコン等の非含水性材料であっても良い。
【0034】
そして、コンタクトレンズ10は、同時視型の老視矯正用レンズであって、図示されたレンズ正面視において、矯正光学系としての光学部14が、レンズ幾何中心軸12上に広がる大きな円形状で形成されている。また、レンズ外周部分には、光学部14の周りを囲むようにして非光学領域としての周辺部16が、所定幅の円環帯形状をもってレンズ幾何中心軸12上に形成されている。更にまた、レンズ外周縁部には、ソフトコンタクトレンズ10の前後両面を滑らかに繋ぐエッジ部18が全周に亘って円環形状で形成されている。
【0035】
ここにおいて、光学部14は、その光学部幾何中心軸20がレンズ幾何中心軸12と一致せしめられている。更に、光学部14の外径寸法は、レンズ外径寸法の75%以下とされており、具体的には、人間の角膜径の標準値以下の10mmφ以下とされることが好ましい。蓋し、光学部14の外径寸法がレンズ外径寸法の75%よりも大きいと、レンズが定位置で安定し易くなって、後述する第一の安定状態と第二の安定状態の2つの安定状態を得難くなるからである。
【0036】
さらに、光学部14は、3つの異なる焦点距離を備えた光学領域によって構成されている。先ず、その面積中心が光学部幾何中心軸20から光学部14の一つの径方向線である対称経線22上で偏心位置せしめられた小円形状の領域が、近方視認用に一定の焦点距離(即ち、レンズ度数)が設定された近用光学部24とされている。一方、近用光学部24の周りの光学部14における最外周部分の領域が、遠方視認用に一定の焦点距離(レンズ度数)が設定された遠用光学部26とされている。更に、近用光学部24と遠用光学部26の間の円環帯状の領域が移行部28とされている。
【0037】
近用光学部24は、近方視認のために遠用光学部26のレンズ度数に対して所定の付加度数が付与されたレンズ面とされている。これにより、近用光学部24のレンズ度数は遠用光学部26に比して大きくされており、本実施形態においては、遠用光学部26が第一の度数領域とされる一方、近用光学部24が第二の度数領域とされている。そして、移行部28において、近用光学部24のレンズ度数から遠用光学部26のレンズ度数まで径方向で次第に変化する焦点距離(レンズ度数)が設定されている。なお、移行部28としては、例えば、近用光学部24と遠用光学部26の間の所定の焦点距離(レンズ度数)が設定されていても良い。
【0038】
そこにおいて、近用光学部24の面積中心となる近用部面積中心30は、光学部14の対称経線22上で光学部幾何中心軸20に対して偏心位置せしめられている。なお、近用部面積中心30の光学部幾何中心軸20に対する偏心距離は、対称経線22の方向成分において0.4mm以上、より好ましくは0.6mm以上とされていることが好ましい。蓋し、近用部面積中心30の偏心距離が0.4mmよりも小さいと、後述する第一の安定状態と第二の安定状態との間で近用光学部24の瞳孔に対する相対位置に差異が生じ難くなるからである。一方、遠用光学部26の面積中心となる遠用部面積中心32は、対称経線22上で光学部幾何中心20を挟んで近用部面積中心30と反対側に偏心位置せしめられている。これにより、光学部14は対称経線22に関して線対称形状とされていると共に、対称経線22とレンズ幾何中心軸12上で直交する直交経線34に関して非線対称形状とされている。
【0039】
さらに、近用光学部24の付加レンズ強度を与える付加度数面は、装用時に角膜と重ね合わされることとなるレンズ後面に形成されており、本実施形態における光学部14は、略一定の曲率半径を有する凸状の略円弧形断面とされたレンズ前面36(図2参照)と協働して近用光学部24および遠用光学部26のレンズ度数を与える凸状の略円弧状断面がレンズ後面38(図2参照)に形成されている。これにより、本実施形態におけるコンタクトレンズ10は、眼球への装用時には角膜表面とレンズ後面38との間に涙液を保持することが出来て、かかる涙液によって形成される涙液レンズによって近用光学部24と遠用光学部26の間での急激なレンズ度数の変化が軽減されている。
【0040】
そして、周辺部16において、直交経線34方向で光学部14を挟んだ両側には、対称経線22方向で光学部14を挟んだ両側に位置する部分に比して薄肉とされたスラブオフ領域40、40が形成されおり、両スラブオフ領域40、40によって、周方向位置決め手段としてのダブルスラブオフ構造が形成されている。特に本実施形態においては、図2にモデル的に示すように、両スラブオフ領域40,40を与える薄肉面がレンズ後面38に設定されている。そして、装用状態においてコンタクトレンズ10が角膜表面に沿うように変形することによって、レンズ後面38に設定された薄肉形状がレンズ前面36に現れるようにされている。これら両スラブオフ領域40、40は、直交経線34に関して線対称形状とされると共に、対称経線22に関して線対称形状とされている。
【0041】
これにより、本実施形態におけるコンタクトレンズ10は、光学部14と周辺部16を含む全体として対称経線22に関して線対称形状とされると共に、近用光学部24がレンズ幾何中心軸12から偏心位置せしめられることによって、直交経線34に関して非線対称形状とされている。
【0042】
また、周辺部16における周方向の適当な位置には、視標マーク42が視認可能に設けられている。指標マーク42は、コンタクトレンズ10の周方向を視認するためのものであり、好ましくは、対称経線22および直交経線34上のレンズ外周縁部に形成される。かかる指標マーク42は従来公知の手法で形成することが可能であり、着色や刻印が好適に採用される。また、指標マーク42の外観は何等限定されるものではなく、各種の図形や文字等が適宜に採用可能である。
【0043】
このような構造とされたコンタクトレンズ10は、眼球への装用状態において、スラブオフ領域40,40と眼瞼との相互作用によって、直交経線34が装用眼の上下方向となるレンズ回転位置で安定せしめられる。ここにおいて、本実施形態におけるコンタクトレンズ10によれば、近用光学部24が光学部幾何中心軸20から偏心位置せしめられていることから、レンズの上下を反転させて装用することによって、近用光学部24の近用部面積中心30が正面視において右側に偏心位置せしめられた第一の安定状態(図1に示す正面視の状態)と、近用光学部24の近用部面積中心30が正面視において左側に偏心位置せしめられた第二の安定状態との2つの状態を選択的に設定することが可能とされる。
【0044】
これにより、本実施形態におけるコンタクトレンズ10は、例えば右眼に対して、近用光学部24が鼻側に位置せしめられる第一の安定状態で装用した場合には、近用光学部24が瞳孔中心にかかり、近用と遠用の矯正を可能とするバイフォーカルレンズとしての効果を得ることが出来る。一方、同じく右眼に対して、第一の安定状態と上下を反転させて、近用光学部24が耳側に位置せしめられる第二の安定状態で装用した場合には、近用光学部24が瞳孔中心から外れることによって、単焦点レンズと略同様の遠用視力を得ることが出来る。そして、本実施形態においては、周辺部16に指標マーク42が設けられていることによって、レンズの周方向位置が視認可能とされていることから、これら第一の安定状態と第二の安定状態を装用者において容易に選択して装用することが出来る。
【0045】
さらに、本実施形態におけるコンタクトレンズ10は、必ずしも左右一対で提供される必要は無いが、左右一対で提供されることによって、更に優れた矯正効果を得ることが出来る。即ち、左右両眼のそれぞれにおいて、第一の安定状態と第二の安定状態を組み合わせて用いることによって、使用状況に応じた適切な矯正効果を得ることが出来るのである。
【0046】
図3(a)乃至(c)に、本実施形態に従う構造とされたコンタクトレンズ10の左右両眼への装用状態の組合せ例を示す。なお、図3(a)乃至(c)は正面視を示すものであり、右眼および左眼には、上述の如き構造とされたコンタクトレンズ10が装用されている。以下の説明においては、右眼に装用されたレンズ(図3中、左側のレンズ)をコンタクトレンズ10aとすると共に、左眼に装用されたレンズ(図3中、右側のレンズ)をコンタクトレンズ10bとする。
【0047】
また、以下の説明においては、左右眼それぞれにおいて、近用光学部24が鼻側に位置せしめられた安定状態を正装用と称し、近用光学部24が耳側に位置せしめられた安定状態を逆装用と称することとする。従って、正面視において近用光学部24が装用眼の右側に位置せしめられた状態を第一の安定状態とすると、正装用とは、右眼に第一の安定状態(近用光学部24が正面視において装用眼の右側に位置)で装用した状態であり、左眼に第二の安定状態(近用光学部24が正面視において装用眼の左側に位置)で装用した状態を言うこととなる。また、正装用時には、指標マーク42が耳側に、逆装用時には指標マーク42が鼻側に位置せしめられることとなり、レンズの安定状態を視認することが可能とされている。
【0048】
先ず、図3(a)においては、左右両眼のコンタクトレンズ10a,10bが何れも正装用されている。このようにすれば、左右両眼それぞれにおいて近用光学部24が瞳孔44の中心:Pにかかり、遠用視力と近用視力のバランスの取れたバイフォーカル効果を得ることが出来る。特に、本実施形態においては、正装用において近用光学部24が鼻側に偏倚せしめられることから、近方視時には瞳孔中心が鼻側に偏倚せしめられることに巧く対応することが出来て、より効果的なバイフォーカル効果を得ることが出来る。一方、図3(b)においては、左右両眼のコンタクトレンズ10a,10bが何れも逆装用されている。このようにすれば、左右両眼それぞれにおいて近用光学部24が瞳孔44の中心:Pから外れ、遠用光学部26による略単焦点レンズと同様の効果と若干の近用の矯正効果を得ることが出来る。更に、フレアの発生も大幅に軽減することが可能となり、例えば夜間のドライブ時などに好適に採用することが出来る。また、図3(c)においては、右眼に装用されたコンタクトレンズ10aは正装用、左眼に装用されたコンタクトレンズ10bは逆装用されている。このようにすれば、右眼は近用光学部24が瞳孔44の中心:Pにかかり、遠用視力と近用視力が得られる一方、左眼は近用光学部24が瞳孔44の中心:Pから外れることによって単焦点レンズと略同様の遠用矯正効果を得ることが出来る。これにより、モディファイトモノビジョン処方に好適に用いることが出来る。
【0049】
以上のように、本実施形態におけるコンタクトレンズ10によれば、左右眼のそれぞれにおいて第一の安定状態と第二の安定状態を様々に組み合わせることによって、使用状況に応じた矯正効果を得ることが出来る。そして、本実施形態においては、レンズ形状が対称経線22に関して線対称形状とされていることから、遠方視力と近用視力が等しい眼であれば、左右の何れに関わらず同一のレンズを処方することが可能とされている。これにより、左右それぞれに別のレンズを用意することも不要とされて、例えば見込み生産で使用され得る規格のレンズを多数提供する場合に在庫量を軽減出来ると共に、処方の手間も軽減することが出来る。
【0050】
次に、図4に、本発明の第二の実施形態としての装用方向選択型コンタクトレンズに係るコンタクトレンズ50を示す。なお、以下の説明において、前述の第一の実施形態と同様の構造とされた部材および部位については、図中に第一の実施形態と同一の符号を付することにより、その詳細な説明を省略する。
【0051】
コンタクトレンズ50は、第一の実施形態におけるコンタクトレンズ10の光学部14の形状が異ならされたものであり、第一の実施形態と同じく同時視型のコンタクトレンズとされている。具体的には、円形状の光学部14において、光学部14と略同じ半径を有し、光学部幾何中心軸20に至らない大きさの円弧形状の境界を挟んだ一方の側(本実施形態においては、面積の小さい側)に近用光学部52が形成されている一方、他方の側(本実施形態においては、面積の大きい側)に遠用光学部54が形成されている。更に、近用光学部52と遠用光学部54の間には、これらを接続する移行部56が形成されている。なお、近用光学部52の面積中心となる近用部面積中心30は、第一の実施形態と同様に、光学部幾何中心軸20から対称経線22上で偏心位置せしめられている。また、遠用光学部54の面積中心となる遠用部面積中心32も、第一の実施形態と同様に、光学部幾何中心軸20から対称経線22方向で偏心位置せしめられている。
【0052】
これにより、光学部14は、対称経線22に関して線対称形状とされると共に、対称経線22とレンズ幾何中心軸12上で直交する直交経線34に関して非線対称形状とされている。
【0053】
本実施形態におけるコンタクトレンズ50においても、図5(a)乃至(c)に例示するように、左右それぞれにおいて正装用と逆装用を組み合わせることによって、使用状況に応じた矯正効果を得ることが出来る。なお、図5(a)乃至(c)は、前述の図3(a)乃至(c)に対応するものであることから詳細な説明は省略するが、図5(a)に示すように、左右眼に装用された両コンタクトレンズ50a,50bを何れも正装用すれば、バイフォーカル効果を得ることが出来る一方、図5(b)に示すように、左右眼に装用された両コンタクトレンズ50a,50bを何れも逆装用すれば、単焦点レンズと略同様の遠用矯正効果を得ることが出来る。また,図5(c)に示すように、例えば右眼に装用されるコンタクトレンズ50aを正装用、左眼に装用されるコンタクトレンズ50bを逆装用等すれば、モディファイトモノビジョン処方に好適に用いることも出来る。
【0054】
本実施形態から明らかなように、光学部に形成される第一の度数領域(本実施形態における遠用光学部54)と第二の度数領域(本実施形態における近用光学部52)は、必ずしも円形状とされる必要はない。
【0055】
次に、図6に、本発明の第三の実施形態としての装用方向選択型コンタクトレンズに係るコンタクトレンズ60を示す。コンタクトレンズ60は、前述の第一の実施形態におけるコンタクトレンズ10の近用光学部24と遠用光学部26が、その正面視における外形を等しくして入れ替えたものであり、本実施形態においては、正面視において小円形状とされた遠用光学部62の周りに近用光学部64が形成されており、これら遠用光学部62と近用光学部64の間に移行部66が形成されている。本実施形態から明らかなように、第一の度数領域(本実施形態における遠用光学部62)と第二の度数領域(本実施形態における近用光学部64)の面積比は何等限定されるものではなく、第一および第二の度数領域の何れが大きくても良いし、小さくても良い。或いは、第一および第二の度数領域の面積が互いに等しくされても良い。
【0056】
さらに、図7に、本発明の第四の実施形態としての装用方向選択型コンタクトレンズに係るコンタクトレンズ70を示す。本実施形態においては、光学部幾何中心軸20が、対称経線22上でレンズ幾何中心軸12から偏心位置せしめられている。このように、光学部14は、装用上で問題とならない程度に偏心位置せしめられても良い。
【0057】
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0058】
例えば、本発明は、2焦点を有するバイフォーカル、2焦点よりも多焦点を有するマルチフォーカルや累進多焦点レンズの何れに適用することも可能である。また、第一の度数領域と第二の度数領域の境界は明確である必要はなく、例えば累進多焦点レンズの場合には、レンズ度数の最大値と最小値の中間値に関して、該中間値より小さい度数領域が第一の度数領域、大きい度数領域が第二の度数領域とされる。従って、本発明は、必ずしも老視矯正に用いられる遠近両用のレンズにのみ適用されるものではなく、例えば第一の度数領域と第二の度数領域の度数差が0.25D程度と小さく、正装用で屋内用として用い、逆装用で屋外用として用いるレンズとすること等も可能である。
【0059】
また、第一の度数領域又は第二の度数領域の面積中心の偏心位置は、必ずしも厳密に径方向線上に限定されるものではなく、径方向線からの多少のずれは許容され得る。
【0060】
更にまた、本発明は、必ずしもソフトコンタクトレンズにのみ適用され得るものではなく、ハードコンタクトレンズに適用することも、勿論可能である。
【0061】
なお、本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズの第一の安定状態による矯正効果と第二の安定状態による矯正効果を確認するために行なった試験結果を、以下に示す。
【0062】
先ず、本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズを、3名の被検者に用意した。これら何れの被検者にも、外径寸法(DIA)=14.5mm、ベースカーブ(B.C.)=8.60mm、後面光学部直径=10.0mm、近用光学部幾何中心とレンズ幾何中心の偏心距離=2.0mm、中心厚さ=0.10mm、周辺部における厚肉部の厚さ=0.40mm、周辺部における薄肉部の厚さ=0.13mmの含水率72%のソフトコンタクトレンズを用いた。また、周辺部には、1.5mmφの円形状を有する青色の指標マークを着色によって形成した。
【0063】
【表1】

【0064】
そして、上述の如きソフトコンタクトレンズに対して、3名の被検者の左右両眼に遠視矯正力を与える表1に示す遠用度数を付与すると共に、何れのレンズにも一律の+1.5Dの付加度数を付与して、本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズを用意した。なお、表1における調節力とは、調節を休止している状態での網膜共役点である調節遠点と、調節を最大限働かせたときの網膜共役点である調節近点までの調節域をレンズの屈折力で表したものである。
【0065】
【表2】

【0066】
そして、これら本発明に従う構造とされた装用方向選択型コンタクトレンズを、両眼正装用(図3(a)に相当)した場合と、両眼逆装用(図3(b)に相当)した場合のそれぞれにおける遠用の見え方と近用の見え方を被検者の自覚により評価した結果を、表2に示す。なお、見え方は、0〜10の11段階で評価し、10を最良とした。
【0067】
表2から明らかなように、何れの被検者においても、両眼正装用の場合には近用矯正効果が発現せしめられて、遠用と近用のバランスの取れた矯正が行なわれる一方、両眼逆装用の場合には近用矯正効果が低減され(一部の被検者においてはそれと共に遠用矯正効果が増大せしめられ)て、単焦点レンズと略同様の遠用矯正効果が得られることが確認された。
【0068】
【表3】

【0069】
さらに、両眼正装用(図3(a)に相当)した場合と、両眼逆装用(図3(b)に相当)した場合のそれぞれにおいて、レンズ装用時に得られる加入度数を測定した結果を、表3に示す。表3から明らかなように、両眼正装用の場合には、大きな加入度数、即ち、有効な近用矯正効果が得られる一方、両眼逆装用の場合には、近用矯正効果が抑えられて、略単焦点レンズと同様の遠用矯正効果が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第一の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面説明図。
【図2】同コンタクトレンズの直交経線方向断面の一部をモデル的に示す説明図。
【図3】同コンタクトレンズの装用状態の組み合わせ例を示す説明図。
【図4】本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面説明図。
【図5】同コンタクトレンズの装用状態の組み合わせ例を示す説明図。
【図6】本発明の第三の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面説明図。
【図7】本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面説明図。
【符号の説明】
【0071】
10:コンタクトレンズ、12:レンズ幾何中心軸、14:光学部、16:周辺部、20:光学部幾何中心軸、22:径方向線、24:近用光学部、26:遠用光学部、28:移行部、30:近用部面積中心、32:遠用部面積中心、34:直交経線、40:スラブオフ領域、42:指標マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ中央部分に設けられた光学部に第一の度数領域と該第一の度数領域よりもプラス側に大きなレンズ度数を有する第二の度数領域を備えたコンタクトレンズにおいて、
前記光学部の一つの径方向線である対称経線に関して線対称のレンズ形状とされていると共に、前記第一の度数領域および前記第二の度数領域の少なくとも一方の面積中心が該光学部の幾何中心に対して該対称経線上で偏心位置せしめられている一方、該対称経線に直交する直交経線が装用眼の上下方向となるレンズ回転位置で装用状態におけるレンズ周方向の安定位置を与える周方向位置決め手段が設けられており、該光学部の幾何中心に対して偏心位置せしめられた該第一の度数領域又は該第二の度数領域の面積中心が装用眼の左右一方の側に位置せしめられた第一の安定状態と、該光学部の幾何中心に対して偏心位置せしめられた該第一の度数領域又は該第二の度数領域の面積中心が装用眼の左右他方の側に位置せしめられた第二の安定状態とが、該周方向位置決め手段によって選択的に設定可能とされていると共に、該第一の安定状態となるレンズの向きと該第二の安定状態となるレンズの向きとを識別出来る視認可能な指標マークが付されていることを特徴とする装用方向選択型コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記光学部の外周側に周辺部が設けられていると共に、該周辺部において、前記対称経線方向で該光学部を挟んだ両側に位置する部分に比して前記直交経線方向で該光学部を挟んだ両側に位置する部分が何れも薄肉とされたダブルスラブオフが付されており、該ダブルスラブオフによって前記周方向位置決め手段が構成されている請求項1に記載の装用方向選択型コンタクトレンズ。
【請求項3】
前記光学部の外周側に周辺部が設けられていると共に、該周辺部において着色と刻印との少なくとも一方による前記指標マークが付されている請求項1又は2に記載の装用方向選択型コンタクトレンズ。
【請求項4】
前記光学部の幾何中心がレンズ幾何中心とされている請求項1乃至3の何れか一項に記載の装用方向選択型コンタクトレンズ。
【請求項5】
前記第一の度数領域および前記第二の度数領域の少なくとも一方の面積中心における前記光学部の幾何中心に対する偏心距離が、前記対称経線の方向成分において0.4mm以上とされている請求項1乃至4の何れか一項に記載の装用方向選択型コンタクトレンズ。
【請求項6】
角膜に重ね合わされるレンズ後面において、前記光学部の外周側に周辺部が設けられていると共に、該光学部の外径寸法がレンズ外径寸法の75%以下とされている請求項1乃至5の何れか一項に記載の装用方向選択型コンタクトレンズ。
【請求項7】
ソフトコンタクトレンズであって、前記レンズ後面の前記光学部の外径寸法が10mm以下とされている請求項6に記載の装用方向選択型コンタクトレンズ。
【請求項8】
前記光学部における前記第二の度数領域に対して付加レンズ度数を与える付加度数面が、装用時に角膜に重ね合わされるレンズ後面に設定されている請求項1乃至7の何れか一項に記載の装用方向選択型コンタクトレンズ。
【請求項9】
ソフトコンタクトレンズであって、装用時に角膜に重ね合わされるレンズ後面において前記ダブルスラブオフを与える薄肉面が設定されている請求項2乃至8の何れか一項に記載の装用方向選択型コンタクトレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−169104(P2009−169104A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7114(P2008−7114)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】