説明

装着型計測装置及び歩行補助装置

【課題】ユーザの第2脚にセンサ等を取り付けることなく、第1脚に取り付けた装具のセンサから、第1脚の足の位置に対する第2脚の足の相対位置を計測する装着型計測装置を提供する。
【解決手段】装着型計測装置10は、第1脚に装着される脚装具12と、脚装具の各ジョイントの角度を検出する角度センサ21と、脚装具に固定されているカメラ42と、第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を算出するコントローラ32を備える。カメラ42は、第2脚を撮影できる配置で脚装具12に取り付けられている。コントローラ32は、角度センサが検出したジョイント角に基づいてカメラ位置に対する第1脚の足の相対位置を算出する第1演算、第2脚を撮影した画像に基づいてカメラ位置に対する第2脚の足の相対位置を算出する第2演算、第1演算と第2演算の結果に基づいて第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を算出する第3演算を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの一方の脚に装着し、一方の足位置に対する他方の足の相対位置を計測する装着型計測装置と、その計測技術を応用した歩行補助装置に関する。その歩行補助装置は、ユーザの一方の脚に装着するアクチュエータ付きの装具によってユーザの脚関節にトルクを与えて歩行動作を補助する。なお、本明細書では、ユーザの夫々の脚を区別するために、一方の脚を第1脚と称し、他方の脚を第2脚と称する場合がある。また、本明細書では、「足」とは足首関節から先の部分を意味し、大腿部と下腿部を含む「脚」とは区別して用いる。
【背景技術】
【0002】
ユーザの脚や腕に沿って装着し、ユーザの筋力を増強するいわゆるパワードスーツが開発されている。パワードスーツの応用として、ユーザの脚に装着して歩行動作を補助する歩行補助装置がある。歩行補助装置の一形態では、アクチュエータ付き多リンク機構を有する脚装具をユーザの大腿部から下腿部にかけて装着し、アクチュエータが脚にトルクを加えることによって歩行動作を補助する。例えば特許文献1に、ユーザの夫々の脚にアクチュエータ付き脚装具を装着し、両脚の歩行動作を補助する歩行補助装置が開示されている。また、特許文献2に、ユーザの一方の脚にのみアクチュエータ付き脚装具を装着してその一方の脚の動作を補助する歩行補助装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−135543号公報
【特許文献2】特開2006−314670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歩行動作は両脚の協調した動作であるため、一方の脚の動きに応じて他方の脚の動作を補助する必要がある。従って、第1脚の動作を補助する際に第2脚の物理的状態を検出して参照できることが望ましい。特許文献1の歩行補助装置はユーザの両脚に装具を取り付けるため、夫々の装具に脚の物理的状態を検知するセンサを取り付ければよい。特許文献2の歩行補助装置では、第1脚にアクチュエータ付き脚装具を装着するとともに、第2脚に脚動作検出用の装具を装着することを要する。本明細書において「脚の物理的状態」とは、脚の関節角度、或いは足の位置を意味する。
【0005】
片脚のみ不自由なユーザのための歩行補助装置は、不自由な脚にのみアクチュエータ付き装具を装着すればよい。特許文献2の歩行補助装置のごとく、他方の脚に脚動作検出用の装具を取り付けるのはユーザによってわずらわしい。第2脚にセンサ等を取り付けることなく、第1脚に取り付けた装具のセンサから他方の脚の状態を計測することがきる技術が望まれている。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みて創作された。本発明の一つは、ユーザの第2脚にセンサ等を取り付けることなく、第1脚に取り付けた装具のセンサから、第1脚の足の位置に対する第2脚の足の相対位置を計測する装着型計測装置を提供する。
【0007】
後述するように、本発明は、第1脚に装着する脚装具に固定されたカメラをセンサとして用いて第2脚の足の位置を計測する。計測にカメラを用いる場合、カメラの固定位置のずれが計測誤差を生じる。大きな誤差を含む計測値に基づいて脚装具を制御することは好ましくない。特に、脚装具はボルト等を使って脚に取り付けることができないため、使用しているうちに脚に対する取り付け位置がずれてしまう虞がある。本発明の他の一つは、アクチュエータ付き脚装具の取り付け位置がずれたときにアクチュエータを停止する歩行補助装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つは、ユーザの第1脚に装着され、第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を計測する装着型計測装置に具現化することができる。その装置は、第1脚に装着される多リンク機構の脚装具と、脚装具の各ジョイントの角度を検出する角度センサと、脚装具に固定されているカメラと、角度センサの出力とカメラ画像に基づいて第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を算出するコントローラを備える。脚装具は先端リンクが第1脚の足に固定されるとともに他のリンク群が第1脚に沿って装着される。また、脚装具は、回転ジョイントによって連結された各リンクが第1脚の動きに合わせて揺動する。カメラは、第2脚を撮影できる配置で脚装具に取り付けられている。より詳しくは、カメラは、他のリンク群のうちの一つに固定されている。コントローラは、以下の第1演算、第2演算、及び、第3演算を実行する。第1演算では、角度センサが検出したジョイント角に基づいて、カメラ位置に対する第1脚の足の相対位置を算出する。第2演算では、第2脚を撮影した画像に基づいて、カメラ位置に対する第2脚の足の相対位置を算出する。第3演算では、第1演算と第2演算の結果に基づいて、第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を算出する。
【0009】
この装着型計測装置は、第1脚に装着する脚装具に第2脚を撮影するカメラを固定し、カメラの画像に基づいて画像処理によってカメラ位置に対する第2脚の足の相対位置を算出する。本発明の装着型計測装置は、カメラを用いることで、第2脚にセンサ等を取り付けることなく、第2脚の足位置を計測することが可能となる。また、カメラの画像から得られる足位置はカメラ位置に対する相対位置であるが、本発明の計測装置は、ユーザの第1脚に装着する脚装具の各ジョイント角からカメラ位置に対する第1脚の足の相対位置を算出し、カメラ位置に対する第1脚の足の相対位置及び第2脚の足の相対位置を使って、第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を算出する。
【0010】
画像から足位置を算出しやすいように、第2脚に既知のマーカを取り付けることも好適である。対象物に既知のマーカを取り付けることで画像から対象物の位置を算出する手法は、画像処理の技術分野ではよく用いられる技術である。また、「足の位置」とは、足に固定の座標系における固定点でよい。そのような固定点は、脚装具の設計時点で定められる。例えば、固定点は、足のつま先に定められてよいし、足の踵に定められてもよい。また、「カメラ位置に対する足の相対位置」とは、「カメラ固定の座標系における足の座標」に相当する。
【0011】
脚装具をユーザの第1脚に装着する場合、ベルトなどが用いられる。そのため、使用中に第1脚と脚装具の相対位置がずれる虞がある。第1脚と脚装具の相対位置がずれると、角度センサが検出したジョイント角に基づいて算出される、カメラ位置に対する第1脚の足の相対位置が誤差を含む虞がある。足位置の計測値に生じ得る誤差を抑制するために、本発明の装着型計測装置は、次の技術的特徴を備えることが好ましい。即ち、前記したカメラが、第2脚とともに第1脚を撮影可能な配置で固定されている。他方、コントローラは、第1脚に対するカメラの相対的な初期固定位置を記憶している。コントローラは、以下に示す第4演算とずれ量演算と補正演算を実行する。第4演算では、カメラが撮影した第1脚の画像から第1脚に対するカメラの相対位置を算出する。ずれ量演算では、第4演算によって算出された相対位置と、記憶している初期固定位置との位置ずれ量を算出する。補正演算では、第3演算によって算出された第2脚の足の相対位置を位置ずれ量で補正する。上記の技術的特徴によって、脚装具と第1脚の相対位置ずれに起因する足位置の計測誤差を抑制することができる。
【0012】
第2脚にセンサ等を取り付けることなく第2脚の物理的状態を計測する計測技術は、片脚のみを補助する歩行補助装置に好適である。即ち、第2脚にセンサ等を取り付けることなく、第1脚に装着したアクチュエータ付き装具のみで、第1脚の歩行動作を第2脚の動作に協調して補助することができるからである。ここで、上記した位置ずれ量は、脚装具の取り付けずれに起因する歩行動作補助の不具合防止に役立つ。本発明の他の一つは、上述した装着型計測装置を含む歩行補助装置に具現化することができる。その歩行補助装置は、上述した脚装具が、第1脚の関節にトルクを加えるアクチュエータを備えており、上述したコントローラが、ずれ量演算によって算出された位置ずれ量が閾値を超えたときにアクチュエータを停止することを特徴とする。そのようの技術的特徴を備える歩行補助装置は、アクチュエータ付き脚装具の取り付け位置がずれて計測誤差が大きくなることが予想される場合にアクチュエータを停止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ユーザの第2脚にセンサ等を取り付けることなく、第1脚に取り付けた脚装具のセンサから、第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を計測する装着型計測装置を実現することができる。さらには、アクチュエータ付き脚装具の取り付け位置がずれたときにアクチュエータを停止する歩行補助装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】歩行補助装置の斜視図を示す。
【図2】ユーザが装着した状態の歩行補助装置の斜視図を示す。
【図3】足の相対位置の計測アルゴリズムを説明する図を示す。
【図4】計測処理のフローチャートを示す。
【実施例】
【0015】
図面を参照して実施例の歩行補助装置10を説明する。図1に、歩行補助装置10の模式的斜視図を示す。図2に、ユーザが装着した状態における歩行補助装置10の模式的斜視図を示す。歩行補助装置10は、左脚を自由に動かすことができないユーザのための装置である。歩行補助装置10は、ユーザの左脚に装着し、ユーザの左脚関節に適切なトルクを加えてユーザの歩行動作を補助する。なお、左脚が第1脚に相当し、右脚が第2脚に相当する。
【0016】
歩行動作は両脚の協調した動きによって実現されるので、一方の脚に装着した脚装具を他方の脚の動作に基づいて制御する場合、他方の脚の動きを計測することが重要である。特に、他方の脚の関節角と足位置が重要である。他方の足の位置は、絶対座標系における位置である必要はなく、一方の脚の足位置に対する相対位置が計測できればよい。実施例の歩行補助装置10は、一方の脚に装着した脚装具が備えるセンサによって、一方の脚の足位置に対する他方の脚の足の相対位置、及び、他方の脚の関節角を計測できることに特徴がある。歩行補助装置10の機能のうち、足の相対位置を計測する処理を実行する部分が装着型計測装置の一例に相当する。以下では、まず歩行補助装置10の構成と機能を説明した後に、他方の脚の足位置と関節角の計測技術について説明する。
【0017】
歩行補助装置10は、ユーザの左脚の大腿部から足に亘って装着される。即ち、歩行補助装置10の機構自体が脚装具12に相当する。従って図1、図2においては、符号10と12が同一の対象を指し示している。脚装具12は、大腿リンク14、下腿リンク16、及び足底リンク18を有する多リンク機構で構成される。大腿リンク14の上端が股ジョイント20aを介して支持リンク30に連結されている。下腿リンク16は、膝の外側に位置する膝ジョイント20bによって、大腿リンク14に連結されている。足底リンク18は、ユーザの踝の外側に位置する足首ジョイント20cによって、下腿リンク16に連結されている。なお、足底リンク18は、脚装具12の先端リンクに相当する。支持リンク30はユーザの腰に固定される。大腿リンク14はベルトでユーザの大腿部に固定される。下腿リンク16はベルトでユーザの下腿部に固定される。足底リンク18はベルトでユーザの足裏に固定される。なお足底リンク18を固定するベルト以外のベルトは、図示が省略されている。
【0018】
ユーザが脚装具12を装着すると、大腿リンク14がユーザの大腿部の外側に位置し、下腿リンク16がユーザの下腿部の外側に位置し、足底リンク18がユーザの足裏に位置する。このとき、股ジョイント20a、膝ジョイント20b、及び、足首ジョイント20cは夫々、ユーザの股関節、膝関節、及び、足首関節に夫々隣接して位置する。より具体的には、ユーザが脚装具12を装着すると、股ジョイント20a、膝ジョイント20b、及び、足首ジョイント20cは夫々、ユーザの股関節のピッチ軸、膝関節のピッチ軸、及び、足首関節のピッチ軸と同軸に位置する。ジョイント20a、20b、及び20cは、連結している2本のリンクを相対的に回転させる回転ジョイントである。この脚装具12は、ユーザの左脚の動きに合わせて各リンクが揺動する。
【0019】
各ジョイント20a、20b、及び20cには、リンク間の角度を検出するためのエンコーダ21と、リンクを回転させるモータ(アクチュエータ)を備えている。エンコーダ21は、脚装具12のジョイント角を検出する角度センサに相当する。なお、図ではモータの図示を省略している。股ジョイント20aのモータが、支持リンク30に対して大腿リンク14を回転させる。膝ジョイント20bのモータが、大腿リンク14に対して下腿リンク16を回転させる。足首ジョイント20cのモータが、下腿リンク16に対して足底リンク18を回転させる。なお、モータによって各リンクが揺動する脚装具12は、アクチュエータ付き脚装具に相当する。
【0020】
大腿リンク14の上端から前方へ梁40が伸びており、梁40の先端にカメラ42が固定されている。別言すれば、脚装具12の大腿リンク14にカメラ42が固定されている。図2に示すように、ユーザの右脚の大腿部、下腿部、及び足にはそれぞれマーカM1、M2、及び、M3が取り付けられている。他方、ユーザの左脚の大腿部にはマーカM4が取り付けられている。マーカM1〜M4は、その形状が既知であり、画像処理によって脚の位置や姿勢を特定することを容易にするために取り付けられている。ここで、ユーザの左脚は脚装具12が取り付けられている脚であり、右脚は脚装具12が取り付けられていない脚であることに留意されたい。カメラ42は超広角レンズを備えており、右脚と左脚に取り付けたマーカを撮影することができる。後述するように、歩行補助装置10は、カメラ42で撮影したマーカの画像に基づいて右脚の関節角と足の位置を計測する。
【0021】
各ジョイントのモータは、支持リンク30に取り付けられているコントローラ32によって制御される。コントローラ32は、脚装具12のジョイント角と、カメラ42で撮影した右脚のマーカの画像に基づいて、右脚の関節角と足位置を計測する。そしてコントローラ32は、計測した右脚の関節角と足位置に基づいて、不自由な左脚が健常な右脚の動きに協調して動作するように脚装具を制御し、ユーザの歩行動作を補助する。即ち、歩行補助装置10は、他方の脚にセンサ等を装着することなしに、他方の脚の動作に協調して一方の脚が動作するようにアクチュエータ付き脚装具を制御する。ここで、他方の脚の動作を表す代表的なパラメータが、他方の脚の関節角、及び、一方の脚の足位置に対する他方の脚の足の相対位置である。なお、アクチュエータ付き脚装具の具体的な制御については説明を省略する。一方の脚に装着するアクチュエータ付き脚装具を備えている歩行補助装置であって、他方の脚の動作に協調して一方の脚が動作するように脚装具を制御する歩行補助装置に関しては、例えば特願2008−235463号や特願2008−276309号に例示されているので参照されたい。なお、特願2008−235463号と特願2008−276309号は、本願出願時には未公開である。
【0022】
図3及び図4を参照して、右脚の関節角と、左脚の足位置に対する右脚の足の相対位置を計測する方法について説明する。歩行補助装置10のコントローラ32が、脚装具12に固定されたカメラ42の画像と、エンコーダ21が計測するジョイント角に基づいて関節角、及び、足の相対位置を計測する。
【0023】
図3は、ユーザが装着した状態の歩行補助装置10の模式的側面図を示している。なお、図3では、図面を理解し易くするため、図1に示す脚装具12の幾何学的形状を簡略化して描いている。図4は、計測処理のフローチャートを示している。なお、図4は、計測処理だけでなく、歩行補助装置10のモータの停止処理も含んでいる。停止処理については後述する。以下では、サジタル平面内での脚の動きに限定して説明する。「サジタル面」とは、ピッチ軸に直交する面を意味する。換言すれば、以下の説明は、脚の動きを脚関節のピッチ軸回りの回転に限定している。説明ではサジタル面に限定しているが、下記の説明は容易に3次元空間に拡張することが可能である。
【0024】
図3と以下の説明で用いる新たな符号を説明する。符号Ahは、ユーザの左右の脚が形成する角度を表す。その角度を、股関節角Ahと称する。符号Anは、ユーザの右膝関節の角度を表す。その角度を、右膝関節角Anと称する。符号Aaは、ユーザの右足首関節の角度を表す。その角度を右足首関節角Aaと称する。符号Prは、ユーザの右足に固定されたポイントを表す。そのポイントを右足基準点Prと称する。符号Pqは、ユーザの左足に固定されたポイントを表す。そのポイントを左足基準点Pqと称する。右足基準点Prは、予め定められており、このポイントの位置で右足の位置が表される。左足基準点Pqも同様である。
【0025】
符号Vcrは、カメラ固定の座標系におけるカメラ原点から右足位置へのベクトルを表す。このベクトルを、カメラ/右足ベクトルVcrと称する。別言すれば、カメラ/右足ベクトルVcrは、カメラ位置に対する右足の相対位置を表す。符号Vcqは、カメラ固定の座標系におけるカメラ原点から左足位置へのベクトルを表す。このベクトルを、カメラ/左足ベクトルVcqと称する。別言すれば、カメラ/左足ベクトルVcqは、カメラ位置に対する左足の相対位置を表す。符号Vqrは、カメラ固定の座標系における左足位置から右足位置へのベクトルを表す。このベクトルを、左足/右足ベクトルVqrと称する。別言すれば、左足/右足ベクトルVqrは、左足位置に対する右足の相対位置を表す。左足/右足ベクトルVqrが、最終的に計測したいベクトルである。
【0026】
計測方法について説明する。なお、ユーザの身体におけるマーカM1〜M4の固定位置は、予めコントローラ32に記憶されている。また、コントローラ32は、左脚に対する脚装具の相対的な初期固定位置を記憶している。カメラ42は脚装具12に固定されているので別言すると、コントローラ32は、脚装具12を装着する左脚に対するカメラ42の相対的な初期固定位置を記憶している。より厳密には、コントローラ32は、左脚に取り付けたマーカM4に対するカメラ42の相対的な初期固定位置を記憶している。
【0027】
コントローラ32は、エンコーダ21から、脚装具12の各ジョイントの角度を取得する(S2)。コントローラ32は、取得したジョイント角度を用いて、カメラ/左足ベクトルVcqを算出する(S4)。ここで、脚装具12の足底リンク18(先端リンク)が左足に固定されており、また、カメラ42が固定された大腿リンク14から足底リンク18に至るまでのジョイント角度が取得されているので、コントローラ32は、ロボット工学におけるいわゆる順運動学計算によって、ジョイント角からカメラ/左足ベクトルVcqを算出することができる。この演算が第1演算に相当する。
【0028】
また、コントローラ32は、カメラ42の画像を取得する(S6)。画像にはマーカM1〜M4が写っている。別言すれば、コントローラ32は、右脚のマーカと左脚のマーカを撮影した画像を取得する。次いでコントローラ32は、カメラ固定の座標系における夫々のマーカの位置を特定する(S8)。ここで、「マーカの位置」という表現は、マーカの傾きも含む。画像から既知形状のマーカの位置及び傾きを特定する手法は、画像処理の技術分野でよく知られているので詳しい説明は省略する。コントローラ32は、右脚に取り付けられたマーカM1〜M3の位置から、股関節角Ah、右膝関節角An、及び、右足首関節角Aaを算出する(S10)。ここで、マーカM1は右脚の大腿部に取り付けられており、また、左脚に対するカメラ42の位置が既知である。これらの関係から、コントローラ32は、カメラ位置に対する右脚大腿部の相対位置と傾きを算出することができ、その相対位置と傾きから股関節角Ahを求めることができる。また、マーカM2は右脚の下腿部に取り付けられているので、画像から右脚の下腿部の位置と傾きが求められる。画像から右脚の大腿部と下腿部の位置と傾きが求まるので、コントローラ32はそれらの値から右膝関節角Anを算出することができる。同様に、マーカM3は右足に取り付けられていることから、コントローラ32は右足首関節角Aaを算出することができる。こうして、コントローラ32は、右脚の関節角を算出する。右脚の幾何学的構造が既知であるのでコントローラ32は、右脚の幾何学的構造と関節角に基づいて、順運動学計算によって、カメラ座標系における右足の位置、すなわち、カメラ/右足ベクトルVcrを算出する(S12)。ステップS8、S10、及びS12の処理によって、コントローラ32は、右脚を撮影した画像からカメラ/右足ベクトルVcrを算出する。この演算が第2演算に相当する。
【0029】
コントローラ32は、カメラ/左足ベクトルVcqと、カメラ/右足ベクトルVcrを用いて、左足/右足ベクトルVqr、即ち、左脚の足位置に対する右脚の足の相対位置を算出する(S14)。この演算が第3演算に相当する。第3演算は、カメラ/左足ベクトルVcqからカメラ/右足ベクトルVcrを差し引くベクトル演算でよい。以上の通りコントローラ32は、第1演算、第2演算、及び第3演算によって、左脚の足位置に対する右脚の足の相対位置を求める。
【0030】
次にコントローラ32は、左脚に取り付けられたマーカM4の画像から、左脚に対するカメラ42の相対位置を算出する。この演算が第4演算に相当する。コントローラ32は、第4演算によって算出された相対位置と、記憶している初期固定位置の差ΔVを算出する(S16)。ΔVは、カメラ42の初期固定位置からのずれ量を表す。ステップS16の演算がずれ量演算に相当する。次いでコントローラ32は、ずれ量ΔVが予め定められている閾値を超えているか否かを判断する(S18)。閾値は予めコントローラ32に記憶されている。ずれ量ΔVが閾値を超えていない場合は、コントローラ32は、ずれ量ΔVで左足/右足ベクトルVqrを補正する(S18:NO、S20)。具体的にはコントローラ32は、ステップS14で算出されたベクトルVqrにずれ量ベクトルΔVをベクトル加算する。補正されたベクトルVqrは、脚装具12のずれ量ΔVが相殺された正確な足位置を表す。コントローラ32は、補正されたベクトルVqrを使って、脚装具12のモータを制御する。前述したように、ベクトルVqrを用いた脚装具12の制御については説明を省略する。
【0031】
他方、ΔVが閾値を超えている場合は、コントローラ32はモータの制御を停止する(S18:YES、S22)。ΔVが閾値を超えている場合とは、左脚に対するカメラ42の固定位置が、初期固定位置から大きくずれている場合であり、即ち、左脚に対する脚装具12の位置が初期固定位置から大きくずれている場合を意味する。左脚と脚装具12が大きくずれている場合には、脚装具12の駆動によって左脚を適切に補助できない虞があるため、モータを停止して不適切な補助が行われることを回避する。別言すれば、歩行補助装置10は、アクチュエータ付き脚装具12の取り付け位置が予め定められた閾値以上ずれたときにアクチュエータを停止する。
【0032】
図3を用いた説明では、脚の動きをサジタル面内の動きに限定したが、上記の説明は容易に3次元に拡張できる。夫々のマーカが6個の既知の特徴点を有しており、画像処理によって6個の特徴点の位置を特定することによって、マーカの3次元位置と姿勢を特定することができることは良く知られている。ここで、「姿勢」とは、直交3軸各軸回りの回転角、いわゆるロール、ピッチ、ヨーを意味する。あるいは、夫々のマーカが3個の特徴点を有していても、脚装具に2台のカメラを備えることにより、マーカの3次元位置と姿勢を求めることができる。その場合は、脚装具12に固定された2台のカメラで立体視の原理で各マーカの各特徴点の3次元位置を求め、3個の特徴点の3次元位置からマーカの姿勢を特定すればよい。
【0033】
実施例では、ユーザの一方の脚に取り付けられ、その一方の脚の動作を補助する歩行補助装置10を説明した。図4のフローチャートにおいてモータの制御処理であるステップS22を除く他の処理を実行する歩行補助装置10が、装着型計測装置の一例に相当する。
【0034】
歩行補助装置10(装着型計測装置)の技術的特徴の一つは次の通り表現することができる。歩行補助装置10は、第1脚と第2脚に取り付けるための既知形状のマーカM1、M2、M3、及びM4を含む。マーカM1、M2、M3は第2脚に取り付けられ、マーカM4は第1脚に取り付けられる。コントローラ32は、第1脚のマーカM4に対するカメラ42の相対的な初期固定位置を記憶している。カメラ42は、第2脚のマーカM1〜M3とともに第1脚のマーカM4を撮影可能な配置で固定されている。コントローラ32は、次の第4演算、ずれ量演算、及び補正演算を実行する。第4演算は、カメラ42が撮影した画像から第1脚のマーカM4に対するカメラ42の相対位置を算出する。ずれ量演算は、第4演算によって算出された相対位置と、記憶している初期固定位置との位置ずれ量ΔVを算出する。補正演算は、第3演算によって算出された第2脚の足の相対位置を位置ずれ量ΔVで補正する。
【0035】
実施例の留意点について説明する。脚の幾何学的構造が既知である場合は、脚の関節角度と、股関節の位置に対する足の相対位置との間には一意の関係があり、脚の関節角度が検知できれば順運動学計算によって足の相対位置を求めることができる。上記の実施例では、マーカの画像から右脚の関節角を求め、関節角から順運動学計算によって足の相対位置を求めた。逆に、足の相対位置が検知できればいわゆる逆運動学計算によって脚の関節角を求めることができる。実施例の変形例として、右足に付したマーカM3の画像に基づいてまずカメラ位置に対する右足の相対位置Vcrを求め、右足の相対位置Vcrから逆運動学計算によって右脚の関節角を求めてもよい。
【0036】
また、実施例の歩行補助装置10は、脚の位置や姿勢を求める画像処理を容易にするためにマーカを採用している。マーカを用いることなく、画像中の脚の形状から画像処理によって脚の関節角や足位置を求めてもよい。マーカを用いる場合よりも画像処理が複雑になる反面、マーカを不要とすることができる。
【0037】
実施例では最終的にカメラ座標系における左足位置に対する右足の相対位置Vqrを求めた。脚装具の幾何学的形状が既知であり、ジョイント角が検出できるので、ベクトルVqrをカメラ座標系から脚装具のいずれかのリンクに固定された座標系に変換することは容易である。コントローラは、カメラ座標系で表現されたベクトルVqrを脚装具のいずれかのリンクに固定の座標系表現に変換した後に脚装具12の制御に用いることができる。
【0038】
実施例の装置の好適な変形例を説明する。マーカとして、既知図形が描かれたズボンを採用してもよい。既知図形がマーカの機能を果す。この場合、ズボンの全体に既知図形が描かれているとよい。ズボンの全体に既知図形が描かれていると、マーカがカメラの死角に隠れてしまうことを防止できる。
【0039】
蛍光塗料が塗布されているマーカを採用することも好適である。暗い環境でもマーカを識別する画像処理が容易となるからである。
【0040】
右脚のマーカを撮影するカメラとは別に、脚装具が装着されている左脚のマーカを撮影するための2台目のカメラを備えてもよい。
【0041】
カメラは、CCD素子或いはCMOS素子を用いたものでよい。さらにカメラは、赤外領域まで撮影可能なカメラであるとよい。暗い環境でもマーカを識別する画像処理が容易となるからである。
【0042】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0043】
10:歩行補助装置
12:脚装具
14:大腿リンク
16:下腿リンク
18:足底リンク
20a、20b、20c:ジョイント
21:エンコーダ(角度センサ)
30:支持リンク
32:コントローラ
40:梁
42:カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの第1脚に装着され、第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を計測する装着型計測装置であり、
先端リンクが第1脚の足に固定されるとともに他のリンク群が第1脚に沿って装着され、回転ジョイントによって連結された各リンクが第1脚の動きに合わせて揺動する多リンク機構の脚装具と、
脚装具の各ジョイントの角度を検出する角度センサと、
他のリンク群のうちの一つに固定されており、第2脚を撮影するカメラと、
脚装具の各ジョイントの角度と第2脚を撮影した画像に基づいて、第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を算出するコントローラと、を備えており、
コントローラが、
角度センサが検出したジョイント角に基づいて、カメラ位置に対する第1脚の足の相対位置を算出する第1演算と、
第2脚を撮影した画像に基づいて、カメラ位置に対する第2脚の足の相対位置を算出する第2演算と、
第1演算と第2演算の結果に基づいて、第1脚の足位置に対する第2脚の足の相対位置を算出する第3演算と、
を実行することを特徴とする装着型計測装置。
【請求項2】
前記カメラが、第2脚とともに第1脚を撮影可能な配置で固定されており、
コントローラは、第1脚に対するカメラの相対的な初期固定位置を記憶しているとともに、カメラが撮影した第1脚の画像から第1脚に対するカメラの相対位置を算出する第4演算と、
第4演算によって算出された相対位置と記憶している初期固定位置との位置ずれ量を算出するずれ量演算と、
第3演算によって算出された第2脚の足の相対位置を位置ずれ量で補正する補正演算と、
を実行することを特徴とする請求項1に記載の装着型計測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装着型計測装置を含む歩行補助装置であり、
脚装具が第1脚の関節にトルクを加えるアクチュエータを備えており、
コントローラは、ずれ量演算によって算出された位置ずれ量が閾値を超えたときにアクチュエータを停止することを特徴とする歩行補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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