装置収容体および生体用シート
【課題】体内埋め込み型の人工装置を体内に定着させつつ生体組織との癒着を防止する。
【解決手段】装置収容体8の収容空間に面した内面側の部材が第1収容体1であり、外面側の部材が第2収容体2である。装置収容体8によって人工装置3が収容されることにより埋め込み構造体9が形成される。第1収容体1の材質は、生体組織に接着しないか、又は接着性の乏しい癒着防止材である。第2収容体2の材質は、第1収容体1よりも生体組織への接着性が高い癒着材である。埋め込み構造体9を体内に埋め込むと、第2収容体2の外表面は、接触した生体組織との間で癒着を生じるため、埋め込み構造体9は体内に定着し易くなる。一方、装置収容体8の内面側の部材である第1収容体1は癒着防止材を材料としているため、人工装置3は生体組織との間で癒着し難くなる。電極ユニット4は装置収容体8の貫通孔81を貫通しており、人工装置3からの作用を生体へ及ぼす。
【解決手段】装置収容体8の収容空間に面した内面側の部材が第1収容体1であり、外面側の部材が第2収容体2である。装置収容体8によって人工装置3が収容されることにより埋め込み構造体9が形成される。第1収容体1の材質は、生体組織に接着しないか、又は接着性の乏しい癒着防止材である。第2収容体2の材質は、第1収容体1よりも生体組織への接着性が高い癒着材である。埋め込み構造体9を体内に埋め込むと、第2収容体2の外表面は、接触した生体組織との間で癒着を生じるため、埋め込み構造体9は体内に定着し易くなる。一方、装置収容体8の内面側の部材である第1収容体1は癒着防止材を材料としているため、人工装置3は生体組織との間で癒着し難くなる。電極ユニット4は装置収容体8の貫通孔81を貫通しており、人工装置3からの作用を生体へ及ぼす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内埋め込み型の人工装置を収容する装置収容体および生体用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとする生体の内部に埋め込む人工装置が開発されている。体内に埋め込む人工装置には、疾患が生じている生体の機能を補うための機能補助装置や、生体の異常を検出するためのモニタリング装置などがある。例えば、埋め込み型の機能補助装置の一例として、全身に血液を送り出す機能を補助する心臓ペースメーカーがある。一般に心臓ペースメーカーは、リチウム電池等の電池と、設定された周期で電気刺激を発生させる装置と、発生した電気刺激を心臓へ伝える電線から構成される。このうち電池の耐用期間は比較的短く、5〜10年である。したがって、一般的な心臓ペースメーカーは、手術後5〜10年の期間を経た後に交換しなければならない。また、心臓ペースメーカーの他の部品についても、何らかの故障が認められた場合には交換する必要が生じる。心臓ペースメーカー等の体内埋め込み型の人工装置を交換するには、これを埋め込んだ部位を切開する外科手術が必要となる。ところが、体内埋め込み型の人工装置は、手術後、期間が経過するに伴って、周囲の生体組織と癒着してしまう場合がある。その結果、人工装置を体外に摘出する手術で癒着した組織を切除する必要があり、この手術を行う医師やこの手術を受ける患者の負担となっている。
【0003】
ところで、生体組織が損傷を受けた場合に、損傷を受けた組織同士や損傷を受けた組織と他の生体組織との間で癒着が生じ、種々の機能不全を起こすことがある。この癒着を防止するために様々な癒着防止膜が開発されている。例えば、特許文献1には、ヒト由来の天然コラーゲン膜からなる癒着防止材が記載されている。また、特許文献2には、ヒアルロン酸とホスファジチルエタノールアミンの反応生成物であるヒアルロン酸化合物からなる癒着防止材が記載されている。また、特許文献3には、ポリアニオン性物質とポリカチオン性物質から形成されるポリイオンコンプレックスの乾燥フィルムからなる癒着防止用材料が記載されている。
【特許文献1】特開平9−225018号公報
【特許文献2】特開2006−296916号公報
【特許文献3】特開2000−116765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工装置が体内に埋め込まれると、その人工装置を速やかに体内に定着させてその位置を安定させる必要がある一方、交換の可能性を考慮すると、人工装置と生体組織との過度な癒着をも防止しなければならない。また、人工装置の種類によっては、生体に対して何らかの有益な機能を果たすために、その生体と電極等を介して通じている状態を保たなければならないことがある。
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、体内埋め込み型の人工装置を、その機能を実現し得る状態で体内に定着させつつ、生体組織との癒着の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明に係る装置収容体は、生体との癒着を防止する作用を有する癒着防止膜で形成され、人工装置を収容する第1の収容空間と、当該第1の収容空間の内外を貫通する第1の孔とを有する第1の収容体と、生体と癒着する作用を有する癒着膜で形成され、前記第1の収容体を収容する第2の収容空間と、当該第2の収容空間の内外を貫通する第2の孔とを有する第2の収容体とを具備することを特徴とする。
これにより、体内埋め込み型の人工装置を、その機能を実現し得る状態で体内に定着させつつ、生体組織との癒着の低減を図ることができる。
【0006】
好ましくは、前記第2の孔に挿入される中空の筒状部材であって、外周面が前記第2の孔の内縁と癒着する作用を有する筒状部材を具備するとよい。
これにより、装置収容体の内外を貫通させる電極等の部材の太さに関わらず装置収容体を設計することができる。
【0007】
また、好ましくは、前記筒状部材は、前記第2の孔に挿入された状態において、前記第2の孔の内縁からの圧力を受けて圧縮され、前記第2の孔と密着するとよい。
これにより、このような構成を用いない場合に比較して、孔の隙間から生体組織が入り込む可能性を低減させることができる。
【0008】
また、好ましくは、前記筒状部材には、軸方向に徐々に太くなってテーパ形状となっている部分が設けられ、前記テーパ形状の一部は前記第2の孔を通過し得ない太さとなっているとよい。
これにより、このような構成を用いない場合に比較して、孔の隙間から生体組織が入り込む可能性を低減させることができる。
【0009】
また、好ましくは、前記第2の収容体を形成する癒着膜は、前記第2の孔の周辺部分の厚さが、当該周辺部分以外の部分の厚さよりも厚いとよい。
これにより、このような構成を用いない場合に比較して、孔の隙間から生体組織が入り込む可能性を低減させるとともに、孔の周囲の強度を増大させて収容体が破損する可能性を低減することができる。
【0010】
また、本発明に係る生体用シートは、生体との癒着を防止する作用を有し、自シートの表裏を貫通する孔が設けられた癒着防止シートと、生体と癒着する作用を有し、前記癒着防止シートの一方の面に接着され、かつ、前記癒着防止シートに設けられた孔と重なる位置に、自シートの表裏を貫通する孔が設けられた癒着シートとを具備することを特徴とする。
これにより、体内埋め込み型の人工装置を、その機能を実現し得る状態で体内に定着させつつ、生体組織との癒着の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態について説明する。
[実施形態]
(1.人工装置と電極ユニットの構造)
図1は、本発明に係る人工装置3と電極ユニット4の構造を示す概念図である。人工装置3は体内埋め込み型の人工装置であり、ここでは心臓ペースメーカーである。この人工装置3は、図示しない電池と、設定された周期で電気刺激を発生させるICチップを備えており、人工装置3の表面には、発生した電気刺激を電極ユニット4に伝えるための挿入口31が設けられている。電極ユニット4は、人工装置3により周期的に発生する電気刺激を心筋に伝えるためのユニットであり、コネクタ41と、電線42および電極端43を備えている。電極ユニット4のコネクタ41は、人工装置3の挿入口31に挿入される。これにより、人工装置3から発生する電気刺激は、挿入口31、コネクタ41および電線42を伝わり、心筋に貼り付けられた電極端43から放出される。装置収容体8は、袋状の膜材であり人工装置3を内面側に収納する。図1においては、装置収容体8の一部のみを表す。同図に示すように、電極ユニット4の電線42は、装置収容体8を貫通する貫通孔81を通っている。この貫通孔81は、電線42の断面と略同じ大きさの孔であり、電線42を周囲から圧迫して固定している。したがって、貫通孔81とこれを貫通する電線42の間隙はほとんどなく、貫通孔81を通して装置収容体8の外面側から内面側に、生体組織が進入することはない。なお、貫通孔81の周辺部分の厚さは、当該周辺部分以外の部分の厚さよりも厚いことが望ましい。貫通孔81の周囲は電線42によって力がかかり易く破損し易いため、より強度が必要であり、また、生体組織の浸入を防ぐ必要もあるからである。
【0012】
(2.埋め込み構造体の構造)
図2は、本発明に係る埋め込み構造体9の構造を示す概念図である。図2(a)に示すように、装置収容体8には、一端に開口部L1が設けられており、この開口部L1の反対側の一端には、貫通孔81が設けられている。電極ユニット4の電線42は、この貫通孔81を貫通している。装置収容体8は、その外面側に電極端43を配し、内面側にコネクタ41を配した状態で、電極ユニット4と一体になっている。人工装置3は、開口部L1から図中矢線の方向に移動させられて、装置収容体8の内部に入れられる。そして、人工装置3の挿入口31に電極ユニット4のコネクタ41が挿入される。人工装置3が入れられた装置収容体8の状態を、図2(b)に示す。この装置収容体8の開口部L1を接合することにより、装置収容体8は人工装置3を収容して、埋め込み構造体9を形成する。開口部L1が接合されて形成された埋め込み構造体9を図2(c)に示す。
【0013】
図3は、埋め込み構造体9の内部構造を説明するための図である。なお、同図において、電極ユニットおよび貫通孔81は省略する。図3(a)に示すIIIb−IIIbを通る断面を、矢線方向に観察した断面図が図3(b)である。同図に示すように、装置収容体8は、2つの袋状の部材が内外に重ねられた構成を有する。装置収容体8の人工装置3を収容する収容空間に面した内面側の部材が第1収容体1であり、外面側の部材が第2収容体2である。そして、装置収容体8、すなわち第1収容体1及び第2収容体2によって、人工装置3が収容されることにより埋め込み構造体9が形成される。
【0014】
(3.第1収容体および第2収容体の材質)
ここで第1収容体1および第2収容体2の材質について説明する。第1収容体1の材質は、生体との癒着を防止する作用を有する膜状の癒着防止材である。ここで「生体との癒着を防止する作用」とは、生体組織に接着しないか、又は接着性が乏しいことを意味する。この癒着防止材としては、例えば、ゲル化が完了した後のポリイオンコンプレックスや、ビスエポキシド架橋ヒアルロン酸、ジビニルスルフォン架橋ヒアルロン酸、ホルムアルデヒド架橋ヒアルロン酸等の非生体吸収性物質で架橋されたヒアルロン酸や、脂質を結合させたギリコサミノグリカン等が挙げられる。第1収容体1の材質は生体組織に接着しないか接着性が乏しいため、人工装置3と生体組織との癒着を防止する。なお、この癒着防止材は、生体組織に全く接着しない材質であることが望ましい。
【0015】
第2収容体2の材質は、生体と癒着する作用を有する膜状の癒着材である。ここでいう「生体と癒着する作用」とは、第1収容体1の材質である癒着防止材よりも生体組織への接着性が高く、生体組織との間で癒着しやすいことを意味する。したがって、この癒着材としては、例えば、ポリアニオン性物質とポリカチオン性物質から形成されるゲル化が完了する前のポリイオンコンプレックスの乾燥フィルムや、可溶化コラーゲン材や、ヒト由来の天然コラーゲン材等が挙げられる。なお、癒着材は、生体親和性が高く、手術完了時点において、埋め込み構造体9を埋め込んだ体内の部位に定着させる程度に癒着性を有することが望ましい。また、体内において5〜10年に亘り滞留する滞留性を有することが望ましい。したがって、癒着材は、生体内吸収性や生体内分解性が低いことが望ましい。
【0016】
(4.埋め込み構造体の体内における作用)
以上の構成を有する埋め込み構造体9をヒト等の体内に埋め込むと、この埋め込み構造体9を構成する第2収容体2の外表面が生体組織に接する。第2収容体2の外表面は、接触した生体組織との間で癒着を生じるため、その結果埋め込み構造体9は、体内に定着し易くなる。したがって、装置収容体8に収容された人工装置3も体内に定着し易くなる。すなわち、埋め込み構造体9の外面側の部材である第2収容体2が癒着材からなるため、この構成を用いない場合に比較して、埋め込み構造体9の全体は埋め込まれた位置に定着し易くなる。
【0017】
一方、埋め込み構造体9の内部において、人工装置3と生体組織との間は、装置収容体8によって遮られている。そして、装置収容体8の内面側の部材である第1収容体1は、生体組織との接着性が全くないか、接着性に乏しい癒着防止材を材料としているため、人工装置3は生体組織との間で癒着し難くなる。
【0018】
(5.人工装置の摘出および交換)
次に、人工装置3の摘出手術について説明する。手術から5〜10年を経ると機能が低下した人工装置3を体外へ摘出し、修理又は交換しなければならない。この際に、第2収容体2の外表面は、周囲の生体組織と癒着しているので、人工装置3を埋め込み構造体9ごと体外に摘出するのは困難である。一方、人工装置3は、生体組織と癒着せずに第1収容体1に収容されている。したがって、埋め込み構造体9の人工装置3を体外へ摘出する手術においては、装置収容体8の接合された開口部L1を再び切開して、この開口部L1から人工装置3を取り出す。
【0019】
そして、人工装置3は摘出された後、修理又は交換され、埋め込み手術において、再び体内に埋め込まれる。この場合には、開口部L1を通して、癒着したまま生体内に取り残されている装置収容体8に、摘出された人工装置3と同じ大きさの人工装置3が収容される。そして、上述と同様に、開口部L1が接合されて、装置収容体8が人工装置3を収容することにより、再び埋め込み構造体9が形成される。
【0020】
以上の構成により、人工装置3の摘出手術および埋め込み手術は、装置収容体8に人工装置3を出し入れできる大きさの開口部L1を設けるだけでよい。すなわち、この構成により人工装置3の摘出手術および埋め込み手術は、この構成を用いない場合に比較して容易になる。また、この手術を行う医師やこの手術を受ける患者の負担は軽減する。
【0021】
[変形例]
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を適宜組み合わせてもよい。
(変形例1)
上述の実施形態において、人工装置3をその内面側に収容すること以外、装置収容体8の大きさについては特に言及しなかったが、装置収容体8は、人工装置3を内面側に収容することが可能な最小の大きさよりも大きくてもよい。また、人工装置3は、摘出手術において体外に摘出されるときも、埋め込み手術において体内に埋め込まれるときも、開口部L1から出し入れされていたが、開口部L1とは異なる部位に設けられた別の開口部から出し入れされてもよい。
【0022】
図4は、この変形例1に係る人工装置3の摘出手術を説明するための図である。図4(a)に示すIVb−IVbを通る断面を、矢線方向に観察した断面図が図4(b)である。また、図5は、この変形例1に係る装置収容体8の概略を示す図である。同図において、実線で描かれた枠は装置収容体8の最初の大きさを表している。ここで装置収容体8の端部には、開口部L1が設けられており、ここから装置収容体8の内面側に、人工装置3が出し入れされる。そして、開口部L1が接合され閉じられることによって、装置収容体8には人工装置3を収容する収容空間が形成され、装置収容体8は、人工装置3を収容する。ここで、人工装置3を収容するのに最低限必要な装置収容体8の大きさとは、図5に示す二点鎖線L4から同図において左側に記載された部分である。つまり、装置収容体8には、人工装置3を収容するために必要な大きさに加えて、二点鎖線L1〜L4の余分な大きさを有している。以下、この二点鎖線L1〜L4を接合範囲部という。
【0023】
人工装置3を収容した後、装置収容体8の開口部L1はオートスーチャを用いた機械縫合等により接合され閉じられる。次に、人工装置3を体外へ取り出す摘出手術を行うとき、手術を行う医師は、図4および図5に示す二点鎖線L2に沿って埋め込み構造体9の装置収容体8を切断する。これにより、二点鎖線L2は開口部L2となり、この開口部L2から人工装置3が取り出される。そして、装置収容体8のうち、開口部L2から接合された開口部L1にかけての部位は体外に取り出されて廃棄され、残りの装置収容体8は、体内に取り残されたままとなる。次に、人工装置3に対して修理又は交換が行われ、開口部L2を通して、取り出した人工装置3と同じ大きさの人工装置3が装置収容体8の内部に入れられる。こうして、新たに人工装置3を入れた後、装置収容体8の開口部L2は接合されて閉ざされる。以下、人工装置3に対しての修理又は交換を行うための外科手術を行う度に、図に示す二点鎖線L2,L3,L4がこの順に切断され、それぞれの切断部位が開口部となり、人工装置3を収容した第1収容体1の出し入れが行われた後、閉ざされる。すなわち、第2収容体2は、第1収容体1の出し入れが可能な開口部と、この開口部の周囲に連なる所定範囲の接合範囲部とを有し、この接合範囲部を接合して閉じることにより第1収容体1を収容する収容空間が形成され、かつ、この接合範囲部は上記の接合部分が切除された後の再度の接合が1回以上できる大きさに設定されている。また、第1収容体1は、人工装置3の出し入れが可能な開口部と、この開口部の周囲に連なる所定範囲の接合範囲部とを有し、この接合範囲部を接合して閉じることにより人工装置3を収容する収容空間が形成され、かつ、この接合範囲部は上記の接合部分が切除された後の再度の接合が1回以上できる大きさに設定されている。
【0024】
したがって、第2収容体2の接合された開口部の周辺が切除されるだけで、人工装置3の出し入れが可能となるから、手術の手間が省け、手術を行う医師や手術を受ける患者の負担が軽減される。また、装置収容体8の同じ部位に対し、切開と接合を繰り返すとその部位における接合が困難になる場合がある。この変形例1においては、接合した部位とは別の部位を切開して新たな開口部を設けるので、装置収容体8の接合が容易である。
【0025】
なお、図5に示した第2収容体2において、二点鎖線L2〜L4は、実際に二点鎖線や実線として第2収容体2の外表面に描き込まれていてもよい。すなわち、接合範囲部には、接合部分の切除すべき位置を示す表示、または、接合して閉じるべき位置を示す表示が施されていてもよい。これは例えば、第2収容体2の材質である癒着膜と親和性のある色素などを織り込むことにより、描き込まれてもよいし、生体内分解性の低い縫合糸などを予め縫い込むことにより、描き込まれていてもよい。このような二点鎖線や実線の表示により、手術を行う医師は、装置収容体8において次に切除または接合する位置を明確に知り、この表示に従って手術を行うことができる。また、この表示により医師は、装置収容体8の切断可能な回数を明確に知り、これに従って手術計画を立てることができる。さらに、このような二点鎖線や実線がX線写真等により撮影可能な材料を用いて描きこまれていてもよい。この場合には、医師は、装置収容体8の切断可能な回数を、外科手術を行うことなくX線写真等によって知ることができる。また、上記の二点鎖線L2〜L4は3本であったが、二点鎖線は3本より多くても少なくてもよい。そして、二点鎖線L2〜L4は、開口部L1と平行であることが望ましい。各二点鎖線によって切り取られる断面は、直近の開口部による影響を受けなければよいので、これらの間に最低限の間隔があれば足りるからである。そして、接合範囲部は、貫通孔81から遠いほど望ましい。貫通孔81の近傍には、電線42が存在するため、切断箇所に適しておらず、接合範囲部が貫通孔81から遠いほど、装置収容体8の切断可能な箇所がより多く取れるからである。
【0026】
(変形例2)
第2収容体2は癒着材であり、癒着材の中には体内で分解しやすいものもある。上述の実施形態において、第2収容体2が周囲の生体組織との接触によって分解した程度を、手術を行う医師が知るための手段について言及しなかったが、この分解した程度を知るための手段を設けてもよい。例えば、第2収容体2は、第1収容体1を収容した状態において、内面側から外面側に亘り複数の層を有しており、この複数の層の各々には、層が第2収容体2の内面側から外面側に亘るいずれの層であるかを示す外観を有するようにしてもよい。すなわち、この変形例2において、第2収容体2を形成する前記癒着膜は、前記第2の収容空間に面していない外面が侵食されたときに、侵食された後の外面と侵食される前の外面とが異なる外観を有するように構成されている。この外観としては、各層の表面に含ませた色素により描く文字、記号や、色素そのものの色などであってもよい。例えば、第2収容体2を構成する複数の層を外面側は青色に、内面側は赤色にして、各層ごとに赤と青の中間色をその層の位置に応じて着色してもよい。図6は、この変形例2を説明するための概念図である。同図に示す例では、第2収容体2は、3つの層からなっており、外面側(すなわち生体側)から内面側(すなわち第1収容体1側)に向けて層2−1,層2−2,層2−3の順に重ねられている。この3つの層は、それぞれ異なる色の色素により着色されているため、層2−1が剥がれ落ちた場合と、層2−2まで剥がれ落ちた場合とでは異なる色が目視される。なお、この層は2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0027】
また、第2収容体2の最も内面側の層には「1」を示す文字をその外表面に記述し、この層の外面側に隣接した層には「2」を示す文字をその外表面に記述することにより、この層が第2収容体2の内面側から外面側に亘るいずれの層であるかを示してもよい。例えば、医師が第2収容体の外表面を目視し「2」という文字を認識した場合、この医師は第2収容体2が生体による分解により内面側から数えて3層目以降の層は分解され、現時点で第2収容体2は2層で構成されていることを把握するというようにしておけばよい。すなわち、この表示により、手術を行う医師は、第2収容体2が周囲の生体組織との接触により分解した程度を知ることができるので、第2収容体2を交換すべき時期を判断することができる。
【0028】
なお、この変形例2において、第2収容体2は複数の層を有しており、各層が離散的に自身を識別する外観を有していたが、第2収容体2は複数の層を有さずに、残存している厚みを連続的に識別する外観を有するようにしてもよい。例えば、第2収容体2は、内面側に近づくほど、色素濃度が濃くなるように、色素を分散混合して形成されてもよい。これにより、医師は第2収容体2の色を目視で確認し、その色が濃くなるほど、第2収容体2が薄くなっていることを認識する。
また、上述した第2収容体2と同様に、第1収容体1にも周囲の生体組織との接触によって分解した程度を、医師が知るための手段を設けてもよい。
【0029】
(変形例3)
上述の実施形態において、人工装置3を装置収容体8に収容する際に、開口部を接合していたが、開口部以外の部分を接合してもよい。図7は、この変形例3における接合の態様を説明する図である。図7(a)に示すVIIb−VIIbを通る断面を、矢線方向に観察した断面図が図7(b)である。図7(a)に示すように、この変形例3においては、装置収容体8に人工装置3を入れた後、開口部L1ではなく、開口部L1よりも人工装置3に近い側の二点鎖線L2を接合する。開口部は膜の端であるため、例えば、縫合糸がほぐれやすく接合が困難な場合がある。このようにすると、接合する部位の両側に膜があるため、縫合糸が固定されやすいので、接合が容易になる。
【0030】
(変形例4)
上述の実施形態において、第1収容体1と第2収容体2とは予め接着されていてもよい。要するに、装置収容体8の内面側に、生体との癒着を防止する癒着防止材で形成される第1収容体1があり、この第1収容体1の外面側に生体と癒着する癒着材で形成される第2収容体2があればよい。また、上述の実施形態において、第1収容体1と第2収容体2とは袋状であったが、シート状であってもよい。例えば、シート状の第1収容体1の一方の面にシート状の第2収容体2を接着して装置収容体8を形成してもよい。この場合、シート状の装置収容体8の第1収容体1がある側を内面側にして人工装置3を包むことにより、埋め込み構造体9を形成すればよい。なお、この場合、貫通孔81は、シート状の装置収容体8の略中央部に設けることが望ましい。そして、内面側となる第1収容体1がある側にコネクタ41が、外面側となる第2収容体2がある側に電極端43が配置されるように、電極ユニット4の電線42が貫通孔81を貫通していればよい。
【0031】
(変形例5)
上述の実施形態において、人工装置3を出し入れするために切断するのは装置収容体8、すなわち、第1収容体1および第2収容体2の両方であったが、第1収容体1と第2収容体2とが予め接着されていないのであれば、人工装置3を出し入れするために切断するのは第2収容体2だけでもよい。図8は、この変形例5に係る人工装置3と電極ユニット4の構造を示す概念図である。人工装置3の表面からは、発生した電気刺激を電極ユニット4に伝えるための電線32が突出しており、この電線32の先端には挿入口31を有するコネクタ33が設けられている。電極ユニット4のコネクタ41は、コネクタ33の挿入口31に挿入される。これにより、人工装置3から発生する電気刺激は、電線32、コネクタ33、挿入口31、コネクタ41および電線42を伝わり、心筋に貼り付けられた電極端43から放出される。同図に示すように、人工装置3の電線32は、第1収容体1に設けられた貫通孔11を貫通しており、電極ユニット4の電線42は、第2収容体2に設けられた貫通孔21を貫通している。そして、上述した貫通孔81と同様の構成であるため、貫通孔11および貫通孔22を通して各収容体の外面側から内面側に、生体組織が進入することはない。
【0032】
図9は、この変形例5において、図8で示した人工装置3および電極ユニット4を第1収容体1および第2収容体2に収容してなる埋め込み構造体9を示す図である。図9(a)に示すように、第1収容体1の開口部K1を通して第1収容体1の内面側に人工装置3が入り、この開口部K1が接合されることで、第1収容体1に人工装置3が収容される。このとき、第1収容体1の開口部K1の反対側からは、電線32と挿入口31を備えたコネクタ33が突出している。そして、このコネクタ33の挿入口31に、第2収容体2の内側にあるコネクタ41を挿入する。さらに、第2収容体2の開口部L1を通して第2収容体2の内面側に、人工装置3を収容した第1収容体1が入り、この開口部L1が接合されることで第2収容体2にこの第1収容体1が収容される。図9(b)は、図9(a)に示すように形成された埋め込み構造体9の断面を示す図である。なお、同図において、電極ユニット4および電線32と挿入口31を備えたコネクタ33は省略する。同図に示すように、第1収容体1の接合された開口部K1は、第2収容体2の接合された開口部L1よりも内面側にある。したがって、開口部K1と開口部L1の間にある部位L2で第2収容体2のみを切開することで、第2収容体2から第1収容体1を取り出すことができる。
【0033】
(変形例6)
上述の実施形態において、電極ユニット4の電線42は、装置収容体8に設けられた貫通孔81に直接、貫通させられていたが、電線42と貫通孔81との間に部材が挿入されていてもよい。図10は、この変形例6を説明するための図である。図10(a)に示すように、電線42は、筒状部材82に設けられた貫通孔821を貫通しており、この筒状部材82が貫通孔81を貫通している。図10(b)には、電線42の延びる方向を含んだ面で、この筒状部材82を切り取った断面図が示されている。このように筒状部材82が、貫通孔81と電線42との間に介在するので、複数の太さの筒状部材82から1つを選択することで、多様な太さの電線42を貫通孔81に適用させることができる。
この筒状部材82は、第1収容体1と癒着する作用を有する材料で作られていることが望ましい。これにより、筒状部材82の外周面と貫通孔81の内縁、特に第1収容体1側における貫通孔81の内縁とが癒着するので、筒状部材82と貫通孔81の隙間から生体組織が入り込むこと可能性を低減させるからである。また、この筒状部材82は、外力を受けると圧縮する材料で形成されることが望ましい。その外周が貫通孔81の内周よりも大きくなるようにこの筒状部材82を製作したとしても、貫通孔81を通すことにより、貫通孔81の内縁からの圧力を受けて筒状部材82は圧縮され、筒状部材82の外周が貫通孔81と密着するからである。また、図10(c)に示すように、筒状部材82には、軸方向に徐々に太くなってテーパ形状となっている部分が設けられ、このテーパ形状の一部は貫通孔81を通過し得ない太さとなっていることが望ましい。テーパ形状において外周が減少する方向(同図においては生体側)にこの筒状部材82を貫通孔81に押し込むことにより、筒状部材82と貫通孔81の隙間を密着させることができ、この隙間から生体組織が入り込む可能性を低減させるからである。また、筒状部材82の側面に螺旋状の溝やネジを設けてもよい。この場合、筒状部材82を螺旋状に回転させながら、貫通孔81に貫通させることにより、筒状部材82の側面に設けた螺旋状の溝やネジが貫通孔81の内面側に噛み合って密着するため、隙間から生体組織が入り込む可能性が低減する。
【0034】
(変形例7)
上述の実施形態において、人工装置3として心臓ペースメーカーを挙げたが、人工装置3は、他の装置であってもよい。例えば、人工腎臓(体内埋め込み型透析装置)や、薬剤投与装置であってもよい。この場合、装置収容体8の内面側と外面側とを連絡する連絡装置は電極ユニット4に限られず、例えば、血液を人工装置3へ引き込む管や、薬剤を投与する管などを用いてもよく、生体を調査するための電線等を用いてもよい。また、このような連絡装置は、人工装置3ごとに1つだけ設けるのではなく、1つの人工装置3が2つ以上の連絡装置を用いてもよい。この場合、装置収容体8には連絡装置の数に応じた貫通孔を設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】発明に係る人工装置と電極ユニットの構造を示す概念図である。
【図2】本発明に係る埋め込み構造体の構造を示す概念図である。
【図3】埋め込み構造体の内部構造を説明するための図である。
【図4】変形例1に係る人工装置の摘出手術を説明するための図である。
【図5】変形例1に係る装置収容体の概略を示す図である。
【図6】変形例2を説明するための概念図である。
【図7】変形例3における接合の態様を説明する図である。
【図8】変形例5に係る人工装置と電極ユニットの構造を示す概念図である。
【図9】変形例5を説明するための図である。
【図10】変形例6を説明するための図である。
【符号の説明】
【0036】
1…第1収容体、2…第2収容体、2−1,2−2,2−3…層、3…人工装置、8…装置収容体、9…構造体、K1…開口部、L1〜L4…開口部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内埋め込み型の人工装置を収容する装置収容体および生体用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとする生体の内部に埋め込む人工装置が開発されている。体内に埋め込む人工装置には、疾患が生じている生体の機能を補うための機能補助装置や、生体の異常を検出するためのモニタリング装置などがある。例えば、埋め込み型の機能補助装置の一例として、全身に血液を送り出す機能を補助する心臓ペースメーカーがある。一般に心臓ペースメーカーは、リチウム電池等の電池と、設定された周期で電気刺激を発生させる装置と、発生した電気刺激を心臓へ伝える電線から構成される。このうち電池の耐用期間は比較的短く、5〜10年である。したがって、一般的な心臓ペースメーカーは、手術後5〜10年の期間を経た後に交換しなければならない。また、心臓ペースメーカーの他の部品についても、何らかの故障が認められた場合には交換する必要が生じる。心臓ペースメーカー等の体内埋め込み型の人工装置を交換するには、これを埋め込んだ部位を切開する外科手術が必要となる。ところが、体内埋め込み型の人工装置は、手術後、期間が経過するに伴って、周囲の生体組織と癒着してしまう場合がある。その結果、人工装置を体外に摘出する手術で癒着した組織を切除する必要があり、この手術を行う医師やこの手術を受ける患者の負担となっている。
【0003】
ところで、生体組織が損傷を受けた場合に、損傷を受けた組織同士や損傷を受けた組織と他の生体組織との間で癒着が生じ、種々の機能不全を起こすことがある。この癒着を防止するために様々な癒着防止膜が開発されている。例えば、特許文献1には、ヒト由来の天然コラーゲン膜からなる癒着防止材が記載されている。また、特許文献2には、ヒアルロン酸とホスファジチルエタノールアミンの反応生成物であるヒアルロン酸化合物からなる癒着防止材が記載されている。また、特許文献3には、ポリアニオン性物質とポリカチオン性物質から形成されるポリイオンコンプレックスの乾燥フィルムからなる癒着防止用材料が記載されている。
【特許文献1】特開平9−225018号公報
【特許文献2】特開2006−296916号公報
【特許文献3】特開2000−116765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工装置が体内に埋め込まれると、その人工装置を速やかに体内に定着させてその位置を安定させる必要がある一方、交換の可能性を考慮すると、人工装置と生体組織との過度な癒着をも防止しなければならない。また、人工装置の種類によっては、生体に対して何らかの有益な機能を果たすために、その生体と電極等を介して通じている状態を保たなければならないことがある。
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、体内埋め込み型の人工装置を、その機能を実現し得る状態で体内に定着させつつ、生体組織との癒着の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明に係る装置収容体は、生体との癒着を防止する作用を有する癒着防止膜で形成され、人工装置を収容する第1の収容空間と、当該第1の収容空間の内外を貫通する第1の孔とを有する第1の収容体と、生体と癒着する作用を有する癒着膜で形成され、前記第1の収容体を収容する第2の収容空間と、当該第2の収容空間の内外を貫通する第2の孔とを有する第2の収容体とを具備することを特徴とする。
これにより、体内埋め込み型の人工装置を、その機能を実現し得る状態で体内に定着させつつ、生体組織との癒着の低減を図ることができる。
【0006】
好ましくは、前記第2の孔に挿入される中空の筒状部材であって、外周面が前記第2の孔の内縁と癒着する作用を有する筒状部材を具備するとよい。
これにより、装置収容体の内外を貫通させる電極等の部材の太さに関わらず装置収容体を設計することができる。
【0007】
また、好ましくは、前記筒状部材は、前記第2の孔に挿入された状態において、前記第2の孔の内縁からの圧力を受けて圧縮され、前記第2の孔と密着するとよい。
これにより、このような構成を用いない場合に比較して、孔の隙間から生体組織が入り込む可能性を低減させることができる。
【0008】
また、好ましくは、前記筒状部材には、軸方向に徐々に太くなってテーパ形状となっている部分が設けられ、前記テーパ形状の一部は前記第2の孔を通過し得ない太さとなっているとよい。
これにより、このような構成を用いない場合に比較して、孔の隙間から生体組織が入り込む可能性を低減させることができる。
【0009】
また、好ましくは、前記第2の収容体を形成する癒着膜は、前記第2の孔の周辺部分の厚さが、当該周辺部分以外の部分の厚さよりも厚いとよい。
これにより、このような構成を用いない場合に比較して、孔の隙間から生体組織が入り込む可能性を低減させるとともに、孔の周囲の強度を増大させて収容体が破損する可能性を低減することができる。
【0010】
また、本発明に係る生体用シートは、生体との癒着を防止する作用を有し、自シートの表裏を貫通する孔が設けられた癒着防止シートと、生体と癒着する作用を有し、前記癒着防止シートの一方の面に接着され、かつ、前記癒着防止シートに設けられた孔と重なる位置に、自シートの表裏を貫通する孔が設けられた癒着シートとを具備することを特徴とする。
これにより、体内埋め込み型の人工装置を、その機能を実現し得る状態で体内に定着させつつ、生体組織との癒着の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態について説明する。
[実施形態]
(1.人工装置と電極ユニットの構造)
図1は、本発明に係る人工装置3と電極ユニット4の構造を示す概念図である。人工装置3は体内埋め込み型の人工装置であり、ここでは心臓ペースメーカーである。この人工装置3は、図示しない電池と、設定された周期で電気刺激を発生させるICチップを備えており、人工装置3の表面には、発生した電気刺激を電極ユニット4に伝えるための挿入口31が設けられている。電極ユニット4は、人工装置3により周期的に発生する電気刺激を心筋に伝えるためのユニットであり、コネクタ41と、電線42および電極端43を備えている。電極ユニット4のコネクタ41は、人工装置3の挿入口31に挿入される。これにより、人工装置3から発生する電気刺激は、挿入口31、コネクタ41および電線42を伝わり、心筋に貼り付けられた電極端43から放出される。装置収容体8は、袋状の膜材であり人工装置3を内面側に収納する。図1においては、装置収容体8の一部のみを表す。同図に示すように、電極ユニット4の電線42は、装置収容体8を貫通する貫通孔81を通っている。この貫通孔81は、電線42の断面と略同じ大きさの孔であり、電線42を周囲から圧迫して固定している。したがって、貫通孔81とこれを貫通する電線42の間隙はほとんどなく、貫通孔81を通して装置収容体8の外面側から内面側に、生体組織が進入することはない。なお、貫通孔81の周辺部分の厚さは、当該周辺部分以外の部分の厚さよりも厚いことが望ましい。貫通孔81の周囲は電線42によって力がかかり易く破損し易いため、より強度が必要であり、また、生体組織の浸入を防ぐ必要もあるからである。
【0012】
(2.埋め込み構造体の構造)
図2は、本発明に係る埋め込み構造体9の構造を示す概念図である。図2(a)に示すように、装置収容体8には、一端に開口部L1が設けられており、この開口部L1の反対側の一端には、貫通孔81が設けられている。電極ユニット4の電線42は、この貫通孔81を貫通している。装置収容体8は、その外面側に電極端43を配し、内面側にコネクタ41を配した状態で、電極ユニット4と一体になっている。人工装置3は、開口部L1から図中矢線の方向に移動させられて、装置収容体8の内部に入れられる。そして、人工装置3の挿入口31に電極ユニット4のコネクタ41が挿入される。人工装置3が入れられた装置収容体8の状態を、図2(b)に示す。この装置収容体8の開口部L1を接合することにより、装置収容体8は人工装置3を収容して、埋め込み構造体9を形成する。開口部L1が接合されて形成された埋め込み構造体9を図2(c)に示す。
【0013】
図3は、埋め込み構造体9の内部構造を説明するための図である。なお、同図において、電極ユニットおよび貫通孔81は省略する。図3(a)に示すIIIb−IIIbを通る断面を、矢線方向に観察した断面図が図3(b)である。同図に示すように、装置収容体8は、2つの袋状の部材が内外に重ねられた構成を有する。装置収容体8の人工装置3を収容する収容空間に面した内面側の部材が第1収容体1であり、外面側の部材が第2収容体2である。そして、装置収容体8、すなわち第1収容体1及び第2収容体2によって、人工装置3が収容されることにより埋め込み構造体9が形成される。
【0014】
(3.第1収容体および第2収容体の材質)
ここで第1収容体1および第2収容体2の材質について説明する。第1収容体1の材質は、生体との癒着を防止する作用を有する膜状の癒着防止材である。ここで「生体との癒着を防止する作用」とは、生体組織に接着しないか、又は接着性が乏しいことを意味する。この癒着防止材としては、例えば、ゲル化が完了した後のポリイオンコンプレックスや、ビスエポキシド架橋ヒアルロン酸、ジビニルスルフォン架橋ヒアルロン酸、ホルムアルデヒド架橋ヒアルロン酸等の非生体吸収性物質で架橋されたヒアルロン酸や、脂質を結合させたギリコサミノグリカン等が挙げられる。第1収容体1の材質は生体組織に接着しないか接着性が乏しいため、人工装置3と生体組織との癒着を防止する。なお、この癒着防止材は、生体組織に全く接着しない材質であることが望ましい。
【0015】
第2収容体2の材質は、生体と癒着する作用を有する膜状の癒着材である。ここでいう「生体と癒着する作用」とは、第1収容体1の材質である癒着防止材よりも生体組織への接着性が高く、生体組織との間で癒着しやすいことを意味する。したがって、この癒着材としては、例えば、ポリアニオン性物質とポリカチオン性物質から形成されるゲル化が完了する前のポリイオンコンプレックスの乾燥フィルムや、可溶化コラーゲン材や、ヒト由来の天然コラーゲン材等が挙げられる。なお、癒着材は、生体親和性が高く、手術完了時点において、埋め込み構造体9を埋め込んだ体内の部位に定着させる程度に癒着性を有することが望ましい。また、体内において5〜10年に亘り滞留する滞留性を有することが望ましい。したがって、癒着材は、生体内吸収性や生体内分解性が低いことが望ましい。
【0016】
(4.埋め込み構造体の体内における作用)
以上の構成を有する埋め込み構造体9をヒト等の体内に埋め込むと、この埋め込み構造体9を構成する第2収容体2の外表面が生体組織に接する。第2収容体2の外表面は、接触した生体組織との間で癒着を生じるため、その結果埋め込み構造体9は、体内に定着し易くなる。したがって、装置収容体8に収容された人工装置3も体内に定着し易くなる。すなわち、埋め込み構造体9の外面側の部材である第2収容体2が癒着材からなるため、この構成を用いない場合に比較して、埋め込み構造体9の全体は埋め込まれた位置に定着し易くなる。
【0017】
一方、埋め込み構造体9の内部において、人工装置3と生体組織との間は、装置収容体8によって遮られている。そして、装置収容体8の内面側の部材である第1収容体1は、生体組織との接着性が全くないか、接着性に乏しい癒着防止材を材料としているため、人工装置3は生体組織との間で癒着し難くなる。
【0018】
(5.人工装置の摘出および交換)
次に、人工装置3の摘出手術について説明する。手術から5〜10年を経ると機能が低下した人工装置3を体外へ摘出し、修理又は交換しなければならない。この際に、第2収容体2の外表面は、周囲の生体組織と癒着しているので、人工装置3を埋め込み構造体9ごと体外に摘出するのは困難である。一方、人工装置3は、生体組織と癒着せずに第1収容体1に収容されている。したがって、埋め込み構造体9の人工装置3を体外へ摘出する手術においては、装置収容体8の接合された開口部L1を再び切開して、この開口部L1から人工装置3を取り出す。
【0019】
そして、人工装置3は摘出された後、修理又は交換され、埋め込み手術において、再び体内に埋め込まれる。この場合には、開口部L1を通して、癒着したまま生体内に取り残されている装置収容体8に、摘出された人工装置3と同じ大きさの人工装置3が収容される。そして、上述と同様に、開口部L1が接合されて、装置収容体8が人工装置3を収容することにより、再び埋め込み構造体9が形成される。
【0020】
以上の構成により、人工装置3の摘出手術および埋め込み手術は、装置収容体8に人工装置3を出し入れできる大きさの開口部L1を設けるだけでよい。すなわち、この構成により人工装置3の摘出手術および埋め込み手術は、この構成を用いない場合に比較して容易になる。また、この手術を行う医師やこの手術を受ける患者の負担は軽減する。
【0021】
[変形例]
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を適宜組み合わせてもよい。
(変形例1)
上述の実施形態において、人工装置3をその内面側に収容すること以外、装置収容体8の大きさについては特に言及しなかったが、装置収容体8は、人工装置3を内面側に収容することが可能な最小の大きさよりも大きくてもよい。また、人工装置3は、摘出手術において体外に摘出されるときも、埋め込み手術において体内に埋め込まれるときも、開口部L1から出し入れされていたが、開口部L1とは異なる部位に設けられた別の開口部から出し入れされてもよい。
【0022】
図4は、この変形例1に係る人工装置3の摘出手術を説明するための図である。図4(a)に示すIVb−IVbを通る断面を、矢線方向に観察した断面図が図4(b)である。また、図5は、この変形例1に係る装置収容体8の概略を示す図である。同図において、実線で描かれた枠は装置収容体8の最初の大きさを表している。ここで装置収容体8の端部には、開口部L1が設けられており、ここから装置収容体8の内面側に、人工装置3が出し入れされる。そして、開口部L1が接合され閉じられることによって、装置収容体8には人工装置3を収容する収容空間が形成され、装置収容体8は、人工装置3を収容する。ここで、人工装置3を収容するのに最低限必要な装置収容体8の大きさとは、図5に示す二点鎖線L4から同図において左側に記載された部分である。つまり、装置収容体8には、人工装置3を収容するために必要な大きさに加えて、二点鎖線L1〜L4の余分な大きさを有している。以下、この二点鎖線L1〜L4を接合範囲部という。
【0023】
人工装置3を収容した後、装置収容体8の開口部L1はオートスーチャを用いた機械縫合等により接合され閉じられる。次に、人工装置3を体外へ取り出す摘出手術を行うとき、手術を行う医師は、図4および図5に示す二点鎖線L2に沿って埋め込み構造体9の装置収容体8を切断する。これにより、二点鎖線L2は開口部L2となり、この開口部L2から人工装置3が取り出される。そして、装置収容体8のうち、開口部L2から接合された開口部L1にかけての部位は体外に取り出されて廃棄され、残りの装置収容体8は、体内に取り残されたままとなる。次に、人工装置3に対して修理又は交換が行われ、開口部L2を通して、取り出した人工装置3と同じ大きさの人工装置3が装置収容体8の内部に入れられる。こうして、新たに人工装置3を入れた後、装置収容体8の開口部L2は接合されて閉ざされる。以下、人工装置3に対しての修理又は交換を行うための外科手術を行う度に、図に示す二点鎖線L2,L3,L4がこの順に切断され、それぞれの切断部位が開口部となり、人工装置3を収容した第1収容体1の出し入れが行われた後、閉ざされる。すなわち、第2収容体2は、第1収容体1の出し入れが可能な開口部と、この開口部の周囲に連なる所定範囲の接合範囲部とを有し、この接合範囲部を接合して閉じることにより第1収容体1を収容する収容空間が形成され、かつ、この接合範囲部は上記の接合部分が切除された後の再度の接合が1回以上できる大きさに設定されている。また、第1収容体1は、人工装置3の出し入れが可能な開口部と、この開口部の周囲に連なる所定範囲の接合範囲部とを有し、この接合範囲部を接合して閉じることにより人工装置3を収容する収容空間が形成され、かつ、この接合範囲部は上記の接合部分が切除された後の再度の接合が1回以上できる大きさに設定されている。
【0024】
したがって、第2収容体2の接合された開口部の周辺が切除されるだけで、人工装置3の出し入れが可能となるから、手術の手間が省け、手術を行う医師や手術を受ける患者の負担が軽減される。また、装置収容体8の同じ部位に対し、切開と接合を繰り返すとその部位における接合が困難になる場合がある。この変形例1においては、接合した部位とは別の部位を切開して新たな開口部を設けるので、装置収容体8の接合が容易である。
【0025】
なお、図5に示した第2収容体2において、二点鎖線L2〜L4は、実際に二点鎖線や実線として第2収容体2の外表面に描き込まれていてもよい。すなわち、接合範囲部には、接合部分の切除すべき位置を示す表示、または、接合して閉じるべき位置を示す表示が施されていてもよい。これは例えば、第2収容体2の材質である癒着膜と親和性のある色素などを織り込むことにより、描き込まれてもよいし、生体内分解性の低い縫合糸などを予め縫い込むことにより、描き込まれていてもよい。このような二点鎖線や実線の表示により、手術を行う医師は、装置収容体8において次に切除または接合する位置を明確に知り、この表示に従って手術を行うことができる。また、この表示により医師は、装置収容体8の切断可能な回数を明確に知り、これに従って手術計画を立てることができる。さらに、このような二点鎖線や実線がX線写真等により撮影可能な材料を用いて描きこまれていてもよい。この場合には、医師は、装置収容体8の切断可能な回数を、外科手術を行うことなくX線写真等によって知ることができる。また、上記の二点鎖線L2〜L4は3本であったが、二点鎖線は3本より多くても少なくてもよい。そして、二点鎖線L2〜L4は、開口部L1と平行であることが望ましい。各二点鎖線によって切り取られる断面は、直近の開口部による影響を受けなければよいので、これらの間に最低限の間隔があれば足りるからである。そして、接合範囲部は、貫通孔81から遠いほど望ましい。貫通孔81の近傍には、電線42が存在するため、切断箇所に適しておらず、接合範囲部が貫通孔81から遠いほど、装置収容体8の切断可能な箇所がより多く取れるからである。
【0026】
(変形例2)
第2収容体2は癒着材であり、癒着材の中には体内で分解しやすいものもある。上述の実施形態において、第2収容体2が周囲の生体組織との接触によって分解した程度を、手術を行う医師が知るための手段について言及しなかったが、この分解した程度を知るための手段を設けてもよい。例えば、第2収容体2は、第1収容体1を収容した状態において、内面側から外面側に亘り複数の層を有しており、この複数の層の各々には、層が第2収容体2の内面側から外面側に亘るいずれの層であるかを示す外観を有するようにしてもよい。すなわち、この変形例2において、第2収容体2を形成する前記癒着膜は、前記第2の収容空間に面していない外面が侵食されたときに、侵食された後の外面と侵食される前の外面とが異なる外観を有するように構成されている。この外観としては、各層の表面に含ませた色素により描く文字、記号や、色素そのものの色などであってもよい。例えば、第2収容体2を構成する複数の層を外面側は青色に、内面側は赤色にして、各層ごとに赤と青の中間色をその層の位置に応じて着色してもよい。図6は、この変形例2を説明するための概念図である。同図に示す例では、第2収容体2は、3つの層からなっており、外面側(すなわち生体側)から内面側(すなわち第1収容体1側)に向けて層2−1,層2−2,層2−3の順に重ねられている。この3つの層は、それぞれ異なる色の色素により着色されているため、層2−1が剥がれ落ちた場合と、層2−2まで剥がれ落ちた場合とでは異なる色が目視される。なお、この層は2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0027】
また、第2収容体2の最も内面側の層には「1」を示す文字をその外表面に記述し、この層の外面側に隣接した層には「2」を示す文字をその外表面に記述することにより、この層が第2収容体2の内面側から外面側に亘るいずれの層であるかを示してもよい。例えば、医師が第2収容体の外表面を目視し「2」という文字を認識した場合、この医師は第2収容体2が生体による分解により内面側から数えて3層目以降の層は分解され、現時点で第2収容体2は2層で構成されていることを把握するというようにしておけばよい。すなわち、この表示により、手術を行う医師は、第2収容体2が周囲の生体組織との接触により分解した程度を知ることができるので、第2収容体2を交換すべき時期を判断することができる。
【0028】
なお、この変形例2において、第2収容体2は複数の層を有しており、各層が離散的に自身を識別する外観を有していたが、第2収容体2は複数の層を有さずに、残存している厚みを連続的に識別する外観を有するようにしてもよい。例えば、第2収容体2は、内面側に近づくほど、色素濃度が濃くなるように、色素を分散混合して形成されてもよい。これにより、医師は第2収容体2の色を目視で確認し、その色が濃くなるほど、第2収容体2が薄くなっていることを認識する。
また、上述した第2収容体2と同様に、第1収容体1にも周囲の生体組織との接触によって分解した程度を、医師が知るための手段を設けてもよい。
【0029】
(変形例3)
上述の実施形態において、人工装置3を装置収容体8に収容する際に、開口部を接合していたが、開口部以外の部分を接合してもよい。図7は、この変形例3における接合の態様を説明する図である。図7(a)に示すVIIb−VIIbを通る断面を、矢線方向に観察した断面図が図7(b)である。図7(a)に示すように、この変形例3においては、装置収容体8に人工装置3を入れた後、開口部L1ではなく、開口部L1よりも人工装置3に近い側の二点鎖線L2を接合する。開口部は膜の端であるため、例えば、縫合糸がほぐれやすく接合が困難な場合がある。このようにすると、接合する部位の両側に膜があるため、縫合糸が固定されやすいので、接合が容易になる。
【0030】
(変形例4)
上述の実施形態において、第1収容体1と第2収容体2とは予め接着されていてもよい。要するに、装置収容体8の内面側に、生体との癒着を防止する癒着防止材で形成される第1収容体1があり、この第1収容体1の外面側に生体と癒着する癒着材で形成される第2収容体2があればよい。また、上述の実施形態において、第1収容体1と第2収容体2とは袋状であったが、シート状であってもよい。例えば、シート状の第1収容体1の一方の面にシート状の第2収容体2を接着して装置収容体8を形成してもよい。この場合、シート状の装置収容体8の第1収容体1がある側を内面側にして人工装置3を包むことにより、埋め込み構造体9を形成すればよい。なお、この場合、貫通孔81は、シート状の装置収容体8の略中央部に設けることが望ましい。そして、内面側となる第1収容体1がある側にコネクタ41が、外面側となる第2収容体2がある側に電極端43が配置されるように、電極ユニット4の電線42が貫通孔81を貫通していればよい。
【0031】
(変形例5)
上述の実施形態において、人工装置3を出し入れするために切断するのは装置収容体8、すなわち、第1収容体1および第2収容体2の両方であったが、第1収容体1と第2収容体2とが予め接着されていないのであれば、人工装置3を出し入れするために切断するのは第2収容体2だけでもよい。図8は、この変形例5に係る人工装置3と電極ユニット4の構造を示す概念図である。人工装置3の表面からは、発生した電気刺激を電極ユニット4に伝えるための電線32が突出しており、この電線32の先端には挿入口31を有するコネクタ33が設けられている。電極ユニット4のコネクタ41は、コネクタ33の挿入口31に挿入される。これにより、人工装置3から発生する電気刺激は、電線32、コネクタ33、挿入口31、コネクタ41および電線42を伝わり、心筋に貼り付けられた電極端43から放出される。同図に示すように、人工装置3の電線32は、第1収容体1に設けられた貫通孔11を貫通しており、電極ユニット4の電線42は、第2収容体2に設けられた貫通孔21を貫通している。そして、上述した貫通孔81と同様の構成であるため、貫通孔11および貫通孔22を通して各収容体の外面側から内面側に、生体組織が進入することはない。
【0032】
図9は、この変形例5において、図8で示した人工装置3および電極ユニット4を第1収容体1および第2収容体2に収容してなる埋め込み構造体9を示す図である。図9(a)に示すように、第1収容体1の開口部K1を通して第1収容体1の内面側に人工装置3が入り、この開口部K1が接合されることで、第1収容体1に人工装置3が収容される。このとき、第1収容体1の開口部K1の反対側からは、電線32と挿入口31を備えたコネクタ33が突出している。そして、このコネクタ33の挿入口31に、第2収容体2の内側にあるコネクタ41を挿入する。さらに、第2収容体2の開口部L1を通して第2収容体2の内面側に、人工装置3を収容した第1収容体1が入り、この開口部L1が接合されることで第2収容体2にこの第1収容体1が収容される。図9(b)は、図9(a)に示すように形成された埋め込み構造体9の断面を示す図である。なお、同図において、電極ユニット4および電線32と挿入口31を備えたコネクタ33は省略する。同図に示すように、第1収容体1の接合された開口部K1は、第2収容体2の接合された開口部L1よりも内面側にある。したがって、開口部K1と開口部L1の間にある部位L2で第2収容体2のみを切開することで、第2収容体2から第1収容体1を取り出すことができる。
【0033】
(変形例6)
上述の実施形態において、電極ユニット4の電線42は、装置収容体8に設けられた貫通孔81に直接、貫通させられていたが、電線42と貫通孔81との間に部材が挿入されていてもよい。図10は、この変形例6を説明するための図である。図10(a)に示すように、電線42は、筒状部材82に設けられた貫通孔821を貫通しており、この筒状部材82が貫通孔81を貫通している。図10(b)には、電線42の延びる方向を含んだ面で、この筒状部材82を切り取った断面図が示されている。このように筒状部材82が、貫通孔81と電線42との間に介在するので、複数の太さの筒状部材82から1つを選択することで、多様な太さの電線42を貫通孔81に適用させることができる。
この筒状部材82は、第1収容体1と癒着する作用を有する材料で作られていることが望ましい。これにより、筒状部材82の外周面と貫通孔81の内縁、特に第1収容体1側における貫通孔81の内縁とが癒着するので、筒状部材82と貫通孔81の隙間から生体組織が入り込むこと可能性を低減させるからである。また、この筒状部材82は、外力を受けると圧縮する材料で形成されることが望ましい。その外周が貫通孔81の内周よりも大きくなるようにこの筒状部材82を製作したとしても、貫通孔81を通すことにより、貫通孔81の内縁からの圧力を受けて筒状部材82は圧縮され、筒状部材82の外周が貫通孔81と密着するからである。また、図10(c)に示すように、筒状部材82には、軸方向に徐々に太くなってテーパ形状となっている部分が設けられ、このテーパ形状の一部は貫通孔81を通過し得ない太さとなっていることが望ましい。テーパ形状において外周が減少する方向(同図においては生体側)にこの筒状部材82を貫通孔81に押し込むことにより、筒状部材82と貫通孔81の隙間を密着させることができ、この隙間から生体組織が入り込む可能性を低減させるからである。また、筒状部材82の側面に螺旋状の溝やネジを設けてもよい。この場合、筒状部材82を螺旋状に回転させながら、貫通孔81に貫通させることにより、筒状部材82の側面に設けた螺旋状の溝やネジが貫通孔81の内面側に噛み合って密着するため、隙間から生体組織が入り込む可能性が低減する。
【0034】
(変形例7)
上述の実施形態において、人工装置3として心臓ペースメーカーを挙げたが、人工装置3は、他の装置であってもよい。例えば、人工腎臓(体内埋め込み型透析装置)や、薬剤投与装置であってもよい。この場合、装置収容体8の内面側と外面側とを連絡する連絡装置は電極ユニット4に限られず、例えば、血液を人工装置3へ引き込む管や、薬剤を投与する管などを用いてもよく、生体を調査するための電線等を用いてもよい。また、このような連絡装置は、人工装置3ごとに1つだけ設けるのではなく、1つの人工装置3が2つ以上の連絡装置を用いてもよい。この場合、装置収容体8には連絡装置の数に応じた貫通孔を設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】発明に係る人工装置と電極ユニットの構造を示す概念図である。
【図2】本発明に係る埋め込み構造体の構造を示す概念図である。
【図3】埋め込み構造体の内部構造を説明するための図である。
【図4】変形例1に係る人工装置の摘出手術を説明するための図である。
【図5】変形例1に係る装置収容体の概略を示す図である。
【図6】変形例2を説明するための概念図である。
【図7】変形例3における接合の態様を説明する図である。
【図8】変形例5に係る人工装置と電極ユニットの構造を示す概念図である。
【図9】変形例5を説明するための図である。
【図10】変形例6を説明するための図である。
【符号の説明】
【0036】
1…第1収容体、2…第2収容体、2−1,2−2,2−3…層、3…人工装置、8…装置収容体、9…構造体、K1…開口部、L1〜L4…開口部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体との癒着を防止する作用を有する癒着防止膜で形成され、人工装置を収容する第1の収容空間と、当該第1の収容空間の内外を貫通する第1の孔とを有する第1の収容体と、
生体と癒着する作用を有する癒着膜で形成され、前記第1の収容体を収容する第2の収容空間と、当該第2の収容空間の内外を貫通する第2の孔とを有する第2の収容体と
を具備することを特徴とする装置収容体。
【請求項2】
前記第2の孔に挿入される中空の筒状部材であって、外周面が前記第2の孔の内縁と癒着する作用を有する筒状部材を具備する
ことを特徴とする請求項1に記載の装置収容体。
【請求項3】
前記筒状部材は、前記第2の孔に挿入された状態において、前記第2の孔の内縁からの圧力を受けて圧縮され、前記第2の孔と密着する
ことを特徴とする請求項2に記載の装置収容体。
【請求項4】
前記筒状部材には、軸方向に徐々に太くなってテーパ形状となっている部分が設けられ、前記テーパ形状の一部は前記第2の孔を通過し得ない太さとなっている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の装置収容体。
【請求項5】
前記第2の収容体を形成する癒着膜は、前記第2の孔の周辺部分の厚さが、当該周辺部分以外の部分の厚さよりも厚い
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の装置収容体。
【請求項6】
生体との癒着を防止する作用を有し、自シートの表裏を貫通する孔が設けられた癒着防止シートと、
生体と癒着する作用を有し、前記癒着防止シートの一方の面に接着され、かつ、前記癒着防止シートに設けられた孔と重なる位置に、自シートの表裏を貫通する孔が設けられた癒着シートと
を具備することを特徴とする生体用シート。
【請求項1】
生体との癒着を防止する作用を有する癒着防止膜で形成され、人工装置を収容する第1の収容空間と、当該第1の収容空間の内外を貫通する第1の孔とを有する第1の収容体と、
生体と癒着する作用を有する癒着膜で形成され、前記第1の収容体を収容する第2の収容空間と、当該第2の収容空間の内外を貫通する第2の孔とを有する第2の収容体と
を具備することを特徴とする装置収容体。
【請求項2】
前記第2の孔に挿入される中空の筒状部材であって、外周面が前記第2の孔の内縁と癒着する作用を有する筒状部材を具備する
ことを特徴とする請求項1に記載の装置収容体。
【請求項3】
前記筒状部材は、前記第2の孔に挿入された状態において、前記第2の孔の内縁からの圧力を受けて圧縮され、前記第2の孔と密着する
ことを特徴とする請求項2に記載の装置収容体。
【請求項4】
前記筒状部材には、軸方向に徐々に太くなってテーパ形状となっている部分が設けられ、前記テーパ形状の一部は前記第2の孔を通過し得ない太さとなっている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の装置収容体。
【請求項5】
前記第2の収容体を形成する癒着膜は、前記第2の孔の周辺部分の厚さが、当該周辺部分以外の部分の厚さよりも厚い
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の装置収容体。
【請求項6】
生体との癒着を防止する作用を有し、自シートの表裏を貫通する孔が設けられた癒着防止シートと、
生体と癒着する作用を有し、前記癒着防止シートの一方の面に接着され、かつ、前記癒着防止シートに設けられた孔と重なる位置に、自シートの表裏を貫通する孔が設けられた癒着シートと
を具備することを特徴とする生体用シート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−57827(P2010−57827A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228771(P2008−228771)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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