説明

装身用保冷具

【課題】高吸水性樹脂粒子を布地の袋部に充填してなる従来の装身用保冷具は、吸水後の膨潤ゲルが袋部より漏れるため、ヌメリが発生し、使用時にべとつき感を与えていた。これは、吸水後の保冷具の布地を絞る際に、膨潤ゲルの一部が崩れて生じた小片や、高吸水性樹脂粒子の微細粒子成分由来の膨潤ゲルの小片が、布地繊維の隙間や袋部形成に係る縫い目の隙間より漏れ出てくるためであった。
【解決手段】高吸水性樹脂粒子として、その形状が球状であり、かつその粒子径の範囲が0.1mm以上1mm以下であるものを使用し、かつ袋部を内布と外布の特定の二重構造とすることにより、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体の所要部を冷却するための装身用保冷具に関する。さらに詳しくは、所定形状かつ所定粒子径範囲の高吸水性樹脂粒子を含有してなる装身用保冷具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイキング・スポーツ観戦・釣りなどの炎天下でのレジャーや、農作業・土木作業などの炎天下での労働に際して、頭・首などの身体の所要部を部分的に冷却することを目的とする保冷具が知られている。
【0003】
これらの保冷具として、ポリエチレングリコールやセルロース系の水溶性ポリマーを主成分とするゲル状物質を水不透性のプラスチック製フィルムよりなる包装袋に封入したもの(ゲル封入包装袋)を冷凍庫にて冷却し、上記冷凍後のゲル封入包装袋を布地に形成された袋部に収納して使用する装身用保冷具が知られている。
【0004】
しかし、上記の構成になる装身用保冷具は、冷凍したゲル状物質を構成する水の融解熱もしくはゲル状物質の顕熱のみしか身体の冷却に使われないため、冷却効果が十分でないかまたは冷却効果が持続しないという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、所定の布地に袋部を形成し、該袋部内に保水性ポリマーの粒子を収納してなる装身用保冷具が開示されている(特許文献1)。
【0006】
このほか、透水性のシートを長手方向に二つ折りしてなる帯状の本体と、その帯状の本体の中程を仕切りで仕切ってなる袋部と、この袋部内に収納された高吸水性ポリマーの粒子とからなる冷却用ネックバンドも開示されている(特許文献2)。
【0007】
特許文献1および2の装身用保冷具は、上記袋部を水に浸して高吸水性樹脂に水を吸収させ、高吸水性樹脂をゲル状とした後、袋部を身体の所定部に固定することにより、高吸水性樹脂に含まれた水分が布地を浸透して気化する際の気化熱を利用して身体の所定部位を冷却しようとするものである。(前記高吸水性樹脂は、特許文献等では保水性ポリマー、高吸水性ポリマーと称せられることもある。以後、「高吸水性樹脂」の用語を統一して使用する。)
【0008】
上記高吸水性樹脂としては多種の樹脂が知られているが、吸水性能の観点からポリアクリル酸塩系のものが主流とされている。
ポリアクリル酸塩系高吸水性樹脂は、アクリル酸やメタクリル酸などの水溶性単量体をアルカリ金属にて部分中和した単量体を少量の架橋剤の存在下にて重合して得られ、
一般に粉状の形態をとる。
上記のアルカリ金属としては工業的にはナトリウム、カリウムが用いられている。
前記架橋剤としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等を挙げることが出来る。
【0009】
上記ポリアクリル酸塩系の高吸水性樹脂の重合方法としては、1)前記の水溶性単量体の水溶液をそのまま溶液重合して得られるゲル状重合物を細分化し、次いで乾燥する水溶液重合方法と、2)前記の水溶性単量体の水溶液を、界面活性剤および/または高分子保護コロイドの存在下に疎水性溶媒中に懸濁させながら重合させる逆相懸濁重合方法が挙げられるが、工業的には水溶液重合方法が主流であるとされている。
【0010】
上記の重合方法により得られる高吸水性樹脂はいずれも粒状の形態をとる。前記水溶液重合方法によって得られる高吸水性樹脂の粒子形状が不定形であるのに対し、逆相懸濁重合方法によって得られる高吸水性樹脂の粒子形状は球状であるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−247593
【特許文献2】登録実用新案公報第3019831号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1、2の装身用保冷具は、高吸水性樹脂の粒子に含まれる水分の気化熱を利用するため、長期にわたり保冷効果を有する利点はあるものの、当該保冷具を水に浸した後、保冷具をタオル等に包んで絞り、布地より水分を十分に搾り出すという操作が必要である。
【0013】
しかしながら、特許文献2段落[0013]にて「表面に生じているヌメリを完全に洗い落とし、」と記載されているように、特許文献2の発明になる装身用保冷具は、前記袋部を水に浸して高吸水性樹脂に水を吸収させると、高吸水性樹脂のゲル状膨潤物質(以下、「膨潤ゲル」の用語を用いる。)の一部が袋部より外部に漏れてしまい、袋部にヌメリを付着させ、使用時にべとつき感を生じさせるという問題があった。更に一度このようなヌメリを生じさせるとヌメリが糊状となって袋部を充満するため吸水面積が減少し、その結果保冷具を乾燥した後再び水を浸透させるのに長時間を要するという問題を抱えていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記のヌメリの発生する原因について鋭意検討した結果、本発明者は、1)高吸水性樹脂粒子の形状が不定形である場合には、吸水後の膨潤ゲルの角部が崩れて膨潤ゲルの小片となって布地の繊維の隙間や縫製部分の縫い目から漏れてしまうこと、2)高吸水性樹脂粒子の形状が球状であっても、微粒子成分を含有している場合には、当該微粒子成分由来の膨潤ゲルが、布地の繊維の隙間や縫製部分の縫い目から漏れてしまうことを突き止めた。
上記の知見に基づき、本発明者は、布製の袋部に高吸水性樹脂粒子を充填した本体と、本体に接続された止め具よりなる装身用保冷具の形成に際し、上記高吸水性樹脂粒子として特定形状かつ特定粒子径範囲のものを採用し、さらに前記袋部を特定構造の布地袋とすることにより、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の第一の態様は、布製の袋部に高吸水性樹脂粒子を充填した本体と、本体に接続された止め具よりなる装身用保冷具であって、
1.前記高吸水性樹脂粒子が、
イ)その形状が球状であり、かつ
ロ)その粒子径の範囲が0.1mm以上1mm以下であり、
2.前記袋部が、
a)透水性の、内布と外布の二重構造となっており、
b)前記内布は吸水前の前記高吸水性樹脂粒子を通過させない繊り密度を有して
おり、
c)その形成に際し、前記内布が吸水前の前記高吸水性粒子を通過させない縫い目
密度にて縫合されている
ことを特徴とする装身用保冷具である。
【0016】
本発明の第二の態様は、前記高吸水性樹脂粒子が、重量平均粒子径/数平均粒子径の比にて定義される粒子径分布として1.5以下の値を有する前記第一の態様の装身用保冷具である。
【0017】
本発明の第三の態様は、袋部が縫い目により複数の袋部に仕分けられている前記第一または第二のいずれかの態様の装身用保冷具である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の装身用保冷具は、その本体に充填される高吸水性樹脂粒子の形状が球状であるため、吸水後の膨潤ゲルは外部圧力を加えられても、崩壊して小片を形成することがない。
また前記高吸水性樹脂粒子が所定の粒子径範囲にあるため、小粒子膨潤ゲルの生成がない。このため、本発明の保冷具は、水に浸透させた後においても、布地繊維の隙間や布地製袋部の縫製部分から膨潤ゲルが漏れ出ることがないため、ヌメリを生じたり、べとつき感を与えたりすることがない。
【0019】
本発明の装身用保冷具の上記特長により、吸水後の当該保冷具を乾燥タオルなどで包んで絞ることにより、本体の布地の水分を十分に絞り取ることが出来る。本発明の保冷具は、その使用期間中は高吸水性樹脂粒子が布地の水分や湿度を吸収するため、蒸れ感がなく使用者に心地よい感触を与える。
また、吸水後の保冷具を冷凍して用いる場合には、上記効果に加え、布地が結露を防止するため、使用者は長期間にわたり心地よく冷涼感を味わうことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の装身用保冷具の概観図である。内布および袋部に充填される高吸水性樹脂粒子は図示していない。
【図2】図1に示す装身用保冷具において、高吸水性樹脂粒子が吸水し、膨潤ゲルとなった状態におけるA-A断面の概略図である。
【図3】高吸水性樹脂粒子の吸水、蒸発に伴う本発明装身用保冷具の本体部分の形態の変化を示す図である。
【図4】本発明の装身用保冷具を構成する高吸水性樹脂粒子の吸水前および吸水後の顕微鏡写真の一例である。図中の最小目盛は1mmである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の装身用保冷具は、布製の袋部に特定の高吸水性樹脂粒子を充填した本体と、本体に接続された止め具よりなる。
以下、図を用いて本発明の実施形態(実施例)を説明する。
【0022】
本発明の装身用保冷具本体の袋部は、布地を縫製加工することにより、後述する高吸水性樹脂粒子を収納し得るものである。当該袋部は高吸水性樹脂粒子が水を吸水してなる膨潤ゲルを収納するに足る空間を有する。これにより、保冷具が十分な量の水を膨潤ゲル内部に保持することができ、保冷時間を長くすることが可能となる。
【0023】
前記袋部は、透水性の内布/透水性の外布よりなる二重構造となっている。ここで透水性の内布/透水性の外布とは、撥水処理や防水処理を施されておらず、布地本来の吸湿性や吸水性を保持している布地を言う。二重構造とすることにより、内布として後述する高吸水性樹脂粒子を通過させない織り密度の高い布地を、外布として肌ざわりの良い布地とに 使い分けることが出来る。
【0024】
内布は、後述する高吸水性樹脂粒子が漏れない程度の織り密度を有することが必要である。高吸水性樹脂の吸水前の粒子径に応じ、縦糸密度(本数/インチ)×横糸密度(本数/インチ)の表示にて、108(本数/インチ)×58(本数/インチ)〜140(本数/インチ)×120(本数/インチ)の範囲にあるものを好適に用いることが出来る。
【0025】
袋部の形成に際し、前記内布が吸水前の高吸水性樹脂粒子を通過させない縫い目密度にて縫合されていることが必要である。縫い目密度としては、インチ当たりのステッチ数(縫い目の数)の表示にて、7〜20の範囲が好ましい。
【0026】
本発明においては、前記袋部に縫い目を加えることにより、複数の袋部に分けることが出来る。袋部を分けることにより、袋部が膨潤ゲルにて充填された状態においても、当該縫い目部分にて容易に屈曲させることができるので、首・頭部・腕・足首・大腿部・腰部などの形状に合わせて、保冷具を適切に密着させることができる(図1,2)。
【0027】
本発明においては、透水性布地の繊維素材として抗菌性繊維を採用することも出来る。これにより、汗の吸収に伴う菌の発生を抑制できるため、衛生的にも優れる。
【0028】
次に、本発明を構成する高吸水性樹脂について説明する。
本発明に用いられる高吸水性樹脂とは水溶性樹脂を軽度に架橋したものであり、多種のものが知られている。中でも、吸水性が高いことや吸水後の粒子強度が高いことから、ポリアクリル酸塩系のものが特に好ましい。
【0029】
前述のように、市販の高吸水性樹脂は粒子の形態にて得られ、その製造法に依拠して、その樹脂粒子の形状が不定形状のものと球状のものに大別されるが、本発明にて用いられる高吸水性樹脂はその粒子の形状が球状であることが必要である。
粒子の形状が不定形である場合には、外部から圧力が加わった時に吸水した膨潤ゲルの角が崩れ易く、崩れた膨潤粒子の小片が前記袋部より外部に漏れてしまうからである。
【0030】
また粒子の形状が球状であっても、微粒子成分を多く含む場合には、その微粒子成分由来の膨潤ゲルが前記袋部より外部に漏れてしまい、この場合にも本発明の目的を達し得ない。
【0031】
さらに高吸水性樹脂には、一次粒子(重合初期に形成される樹脂粒子)が球状であっても、重合中に互いに凝集して顆粒状(ブドウの房状)の形態を成すものもあるが、このような顆粒状の粒子形態をとる高吸水性樹脂の場合にも、顆粒状粒子由来の膨潤ゲルが互いに分離して小片となって前記袋部より漏れることがあり、好ましくない。
【0032】
次に、本発明においては、高吸水性樹脂粒子の粒子径の範囲が0.1mm以上1mm以下であることが必要である。粒子径が0.1mmに満たない粒子は、前記袋部、特にその縫製加工部より漏れてしまい好ましくない。他方、粒子径が1mmを超える粒子は吸水速度が遅く、また吸水後の膨潤ゲルの強度が十分でなく、強い圧力が加わった場合に崩れやすくなり好ましくない。
【0033】
高吸水性樹脂粒子は、その重量平均粒子径/数平均粒子径の比で定義される粒子径分布の値が小さいことが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
ここで重量平均粒子径および数平均粒子径は下式にて定義されるものである。
[数1]
重量平均粒子径=ΣND/ΣND
[数2]
数平均粒子径=ΣND/ΣN
なお、Nは直径がDである粒子の個数である。
上記粒子径分布の値は、粒子が均一粒子径の場合は1となり、その分布幅が広いほど大きな値となる。
本発明において、上記粒子径分布の値が1.5以下である場合には、高吸水性樹脂粒子の吸水速度と膨潤ゲルの強度とのバランスが優れる。実施例にて使用した高吸水性樹脂粒子の吸水前および吸水後の顕微鏡写真を図4に示す。粒子径分布は1.1である。
【0034】
高吸水性樹脂粒子の形状および直径は、定法に従い、例えば顕微鏡写真により判定することができる。
【0035】
高吸水性樹脂の粒子の形状および粒子径に関する上記の要件を満たす高吸水性樹脂粒子は、逆相懸濁重合方法において、懸濁粒子の一次粒子を大きくするべく、水溶性単量体と水を含む水相の粘度を調整し、かつ重合途中での一次粒子の凝集を抑制するため、凝集抑制剤を加える等の特別の工夫を加えた方法にて得られる。このような高吸水性樹脂粒子の製造法としては例えば韓国特許公開第10−2005−0022813号公報を挙げることが出来る。
【0036】
以上に述べた構成とすることにより、本発明の装身用保冷具を水に浸せば、本体に充填された高吸水性樹脂が速やかに吸水してその体積を増やして膨潤ゲルを形成する(図3)。そして、既に述べたとおり、本発明の構成成分である高吸水性樹脂が特定形状、特定粒子径範囲にあり、かつ袋部が内布と外布からなる特定の二重構造となっているため、
いったん吸水させた保冷具を乾燥タオルなどにて絞れば、膨潤ゲルが漏れ出ることなく、
布地から水分を十分に除去させることが出来、前記の本発明の効果を奏することが出来る。
【0037】
本発明の装身用保冷具は、常法に従い、その両端部に止め具を備える。止め具としては、ボタン、スナップ式ボタン、ホック、面(状)ファスナー、ベルト式止め具、磁石式止め具等を用いることが出来るが、実用的見地からは面(状)ファスナーが好ましい。上記の止め具を備えるほか、変法として、袋部を有する布地の長手方向の両端部を弾性体によって連結させた構成とすることにもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の装身用保冷具は、所望の温度に調整した水に浸すことにより、直ちに所望温度の水を吸水し、かつヌメリを生じないため、目的に応じて身体の部分を冷やすことができる。このため、夏季を快適に過ごすための用具として需要が見込まれ、産業上の利用価値は大である。
【符号の説明】
【0039】
1.本体
2.外布
3.内布
4.袋部
5.縫い目
6.縫い目
7.高吸水性樹脂
8.膨潤ゲル
9.止め具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布製の袋部に高吸水性樹脂粒子を充填した本体と、本体に接続された止め具よりなる装身用保冷具であって、
1.前記高吸水性樹脂粒子が、
イ)その形状が球状であり、かつ
ロ)その粒子径の範囲が0.1mm以上1mm以下であり、
2.前記袋部が、
a)透水性の、内布と外布の二重構造となっており、
b)前記内布は吸水前の前記高吸水性樹脂粒子を通過させない繊り密度を有しており、
c)その形成に際し、前記内布が吸水前の前記高吸水性粒子を通過させない縫い目
密度にて縫合されている
ことを特徴とする装身用保冷具
【請求項2】
重量平均粒子径/数平均粒子径の比にて定義される前記高吸水性樹脂粒子の粒子径分布の値が1.5以下である請求項1の装身用保冷具
【請求項3】
袋部が縫い目により複数の袋部に分けられている請求項1または2に記載の装身用保冷具

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−161391(P2012−161391A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22408(P2011−22408)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(511031700)プロテックティオジャパン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】